JP3439780B2 - 抗体の活性増強法 - Google Patents

抗体の活性増強法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、モノクローナル抗体か
ら糖鎖を切断除去することに基づく抗原結合活性(抗体
活性)の増強法及び可変領域に糖鎖を有していないモノ
クローナル抗体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】これまでの知見によれば、哺乳類の抗体
は一般に、H鎖の不変領域は糖鎖による修飾を受けてい
るが、L鎖の不変領域はκ鎖、λ鎖いずれも糖鎖による
修飾を受けていないとされている。H鎖の不変領域に結
合した糖鎖は、抗体産生細胞からの抗体の分泌および抗
体分子のコンフォーメーションの安定化や制御あるいは
補体との結合に重要な役割を演ずるとされている(A.D.
Elbein, TIBTECH 1991;9:346-352 / A.Shimizu et al.
Nature New Biology 1971; 231:73-76 )。
【0003】一方、H鎖およびL鎖上の可変領域には、
抗体分子の抗原に対する特異的な結合活性を決定する、
それぞれ3つの相補性決定領域(complementarity dete
rmining region; 以下「CDR 」という。)と呼ばれる領
域のアミノ酸配列が存在し、この領域中に-Asn-X-Ser/T
hr- というアミノ酸配列が存在する場合がある。この配
列は、N- グリコシル化のためのコンセンサス配列とし
て知られており、その中の Asn残基はそのアミド基を介
してしばしばグリコシル化されることがある。抗体中の
可変領域が糖鎖による修飾を受けた抗体分子種は、血液
中のポリクローナル抗体では、ミエローマ患者の血液な
ど特殊な場合を除き、通常見つからず、重要視されな
い。しかし、モノクローナル抗体においては、抗体の可
変領域が糖鎖によって修飾された場合、本来の抗体が持
つ特異性や活性に大きな影響を及ぼすことが考えられ
る。
【0004】しかしながら、H鎖およびL鎖上の可変領
域に結合した糖鎖の役割については、糖鎖が抗体の抗原
結合活性の発現に積極的な役割を担っているか否か、実
際には不明であった[H.C.Sox, Jr. and L.Hood, Proc.
Natl. Acad. Sci. USA,1970; 66:975-982]。
【0005】このように、従来より、可変領域が糖鎖に
よって修飾された抗体が存在する事実は知られていたも
のの、実際にこのような抗体から糖鎖を除去することに
よって抗体の活性がどのような影響を受けるかについて
は、何等の具体的な研究も成果も得られていなかった。
【0006】従って、一見微弱な抗原結合活性の抗体し
か産生されないように見える場合でも、その原因は可変
領域に糖鎖が結合しているためであって、実は高い活性
を潜在的に有する本質的にはよい抗体が産生されていた
可能性もあったのである。
【0007】このような場合、従来は、微弱な抗原結合
活性を持った抗体を改変して該活性を増強するよりも、
むしろ初めから強い抗原結合活性を備えた抗体を選択し
なおす方が実際的であるとする考え方が一般に支配的で
あった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、例えば、抗原
の微妙な差異を認識する抗体を得ようとするような場合
には、抗体の可変領域のアミノ酸配列の一部に-Asn-X-S
er/Thr- という構造をどうしても採らなければならない
ような抗体もあるはずである。このような抗体は必然的
に可変領域が糖鎖によって修飾されている可能性が極め
て高く、かかる場合においては、可変領域が糖鎖により
修飾されていない抗体をいくら選択しようとしても、そ
のような抗体は得られないであろう。
【0009】特に、モノクローナル抗体あるいは該抗体
産生クローンは、近年、研究、診断及び治療などの目的
に有効に利用されて来ており非常に貴重である。ことに
モノクローナル抗体が出来にくい場合や、ヒト型のモノ
クローナル抗体を作成する場合に然りである。
【0010】そこで、モノクローナル抗体の可変領域が
糖鎖による修飾を受け、見かけ上微弱な抗原結合活性し
か持たない状態になっているとすれば、抗原との結合を
妨げていると考えられる糖鎖部分を除去することによ
り、抗体が潜在的に有している本来の活性を発揮せしめ
ることが出来るであろう。また、従来は実用化に資する
ことが出来ず、廃棄されてきたこのような多くの貴重な
モノクローナル抗体が研究・診断・治療などの分野にお
いて有効に利用可能となることが考えられる。
【0011】本発明者らはこの点に着目して研究を行
い、本発明を完成した。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係るモノクロー
ナル抗体の抗原結合活性増強法は、該モノクローナル抗
体が、例えばそのL鎖に有する糖鎖を切断除去すること
を特徴とする。
【0013】切断除去手段としては、可変領域が糖鎖に
よって修飾されたモノクローナル抗体にグリコペプチダ
ーゼA(Glycopeptidase A, EC 3.5.1.52 )やグリコペ
プチダーゼF(Glycopeptidase F, EC 3.2.2.18 )に代
表されるN−グリコシダーゼを作用させることが好まし
い。
【0014】本発明は更に、可変領域に糖鎖を有してい
ないモノクローナル抗体及び該抗体を含む組成物の製造
方法に係わる。
【0015】本発明に於いて、可変領域はL鎖の可変領
域であることが好ましい。また、モノクローナル抗体は
ヒト型又はマウス型であることが好ましい。
【0016】糖タンパク質から糖鎖を切断除去する酵素
類はグリコシダーゼと総称され、それらのうちの多くの
ものがモノクローナル抗体を修飾している糖鎖の切断除
去に有効と考えられるが、好ましくは可変領域に結合さ
れている糖鎖構造の全体を切断除去できるグリコシダー
ゼを用いて行うのがよい。この目的に適したグリコシダ
ーゼの例として、糖鎖が結合しているアスパラギン残基
と糖鎖の一番根元の残基である N,N′- ジアセチルキト
ビオース(N,N′-diacetylchitobiose)残基の間を切断す
るN-グリコシダーゼ、即ち、グリコペプチダーゼAある
いはグリコペプチダーゼFを挙げることができる。これ
らのグリコシダーゼを用いることのもう一つの利点は、
これらのグリコシダーゼは糖鎖に対する基質特異性が幅
広く、ハイマンノース型、ハイブリッド型、コンプレッ
クス型のいずれの糖鎖をも切断除去できることである。
【0017】尚、グリコシダーゼは、抗体のタンパク質
部分が切断されないようにするために、タンパク質分解
酵素を含まないものであることが重要である。
【0018】モノクローナル抗体の可変領域を修飾して
いる糖鎖をグリコシダーゼによって切断除去する反応
は、界面活性剤の存在下において行うと効率よく進行す
る。例えば、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS )の存
在下においてグリコシダーゼの反応を行うと、モノクロ
ーナル抗体の可変領域に存在する糖鎖の除去が速やかに
完結する。しかし、SDS のような強力なイオン性界面活
性剤を用いた場合には、抗体のタンパク質部分が不可逆
的な変性を受けて失活するので実用上は利用が困難であ
る。一方、ツヴィッターイオン性の界面活性剤である C
HAPS(3-[(3-cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-pro
panesulfonate )又は非イオン性のn-オクチルグルコシ
ド(1-O-n-octyl- β-D-glucopyranoside)は、グリコ
シダーゼによる糖鎖の切断を促進するが、タンパク質部
分を不可逆的に変性させることはなく、反応終了後に透
析やゲル濾過などの方法によって容易に取り除くことが
可能である。もちろん、このような界面活性剤の非存在
下で充分な糖鎖の切除効果が得られる場合には、界面活
性剤を使用する必要はない。
【0019】糖鎖の切断は、例えば以下のように行なう
ことができる。
【0020】10 mM のエチレンジアミン四酢酸を含む25
0mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5 )に2.5mg のモノ
クローナル抗体を溶かし、20ユニットのグリコペプチダ
ーゼFを加えて全量を500 μl としたあと、18時間37℃
で保温する。このとき、反応溶液中に5mg/mlのCHAPS あ
るいはn-オクチルグルコシドを加えると糖鎖の切断がよ
り効果的に進行する。グリコペプチダーゼFのかわりに
グリコペプチダーゼAを用いる場合には、2 ミリユニッ
トの酵素量を加える。但し、1 ユニットのグリコペプチ
ダーゼFとは、pH8.6 、37℃において1 分間に1nmoleの
フェツイングリコペプチドの糖鎖を加水分解する酵素量
と定義される。また、1 ミリユニットのグリコペプチダ
ーゼAとは、pH5.0 、37℃において 1分間に1nmoleの卵
白アルブミンの糖ペプチド、 Glu-Glu/Gln-Lys-Tyr-Asn
(Man5,GlcNAc3)-Leu-Thr-Ser-Valの糖鎖を加水分解して
遊離させる酵素量と定義される。
【0021】保温終了後の反応液中に存在する切断され
た糖鎖部分やグリコシダーゼおよびCHAPS あるいはn-オ
クチルグルコシドなどの挟雑物は、例えばSuperose 12
カラムによる高速液体クロマトグラフィーなどの適当な
方法により分離除去することができる。
【0022】可変領域に糖鎖がない本発明のモノクロー
ナル抗体は、上で述べた方法により糖鎖を切断除去する
ことによって得られる他、例えば抗体分子のアミノ酸配
列をコードするDNAを用いた組換え技術によって大腸
菌等の原核細胞から抗体を産生させた場合のように、元
々、抗体分子種が糖鎖を有していないようなものも含ま
れる。
【0023】
【実施例】以下、実施例により、本発明を非限定的に説
明する。
【0024】実施例1 SDS 存在下に於けるヒト型モノクローナル抗体HB4C
5からのグリコシダーゼによる糖鎖の切断除去 ヒト- ヒトハイブリドーマHB4C5株(微工研条寄第
1879号)が産生する肺癌を認識するIgM タイプのヒ
ト型モノクローナル抗体(以下、HB4C5抗体とい
う)は、抗体を構成するL鎖(λ)中、その抗原認識部
位である可変領域のうちのCDR1にN−グリコシル化のた
めのコンセンサス配列に該当する-Asn-Ser-Ser- という
アミノ酸配列を1つ有することが、HB4C5抗体L鎖
のアミノ酸配列をコードする遺伝子の解析結果から明ら
かになった。一方、HB4C5抗体をSDS-ポリアクリル
アミドゲル電気泳動法により分析した結果、本抗体はそ
の構成成分であるL鎖として、通常のヒト血清中IgM の
L鎖(分子量25kDa )よりも大きな、分子量30kDa およ
び32kDa の2種類の分子種を含むことが判明した。これ
らの事実を考え合わせると、ヒト型モノクローナル抗体
HB4C5は抗原認識部位が糖鎖によって修飾されてい
る可能性が極めて高いと考えられた。そこで先ず、この
ことを証明するために、SDS の存在下においてHB4C
5抗体から糖鎖の切断除去を行った。
【0025】以下に用いたヒト型モノクローナル抗体H
B4C5はすべて、SDS−ポリアクリルアミド電気泳
動のあと銀染色したとき、抗体の構成成分であるH鎖と
L鎖以外が検出されない純度にまで精製して実験に供し
た。
【0026】1% SDSと100mM 2-メルカプトエタノールを
含む250 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5 )中に25μ
g のHB4C5抗体を溶解し全量を50μl とした後、溶
液を100 ℃で5分間加熱した。この溶液を室温まで冷却
し、最終濃度が 0.1% SDS 、10mM 2-メルカプトエタノ
ール、0.6% Nonidet P-40 、 10mM エチレンジアミン四
酢酸、 250mMリン酸ナトリウム(pH7.5 )になるように
希釈した。この希釈した溶液に6ユニットのグリコペプ
チダーゼFを加えて全量を500 μl としたあと、37℃に
18時間保温して糖鎖の切断反応を行った。
【0027】このようにしてグリコシダーゼ処理をして
糖鎖部分を切断除去したあとのHB4C5抗体とグリコ
シダーゼ処理をしなかったHB4C5抗体のそれぞれに
含まれるH鎖およびL鎖の分子量をLaemmli の方法(U.
K.Laemmli, Nature 1970; 227:680-685 )に従って、0.
1%のSDS を含む12% ポリアクリルアミドゲル上で電気泳
動し、銀染色法でタンパク質を検出して比較した。その
結果を図1に示す。
【0028】図1の結果は、HB4C5抗体を構成する
H鎖およびL鎖はそれぞれ、グリコペプチダーゼFによ
り糖鎖を切除され、低分子量化されていることを示して
いる。殊にL鎖に関しては、始め30kDa と32kDa の2種
類あったL鎖が、グリコシダーゼ処理により25kDa の分
子量を持つ1種類の分子種に完全に変換されていること
が分かる。
【0029】このことは、先に述べた遺伝子配列の解析
結果からHB4C5抗体のL鎖中には糖鎖修飾を受ける
可能性がある場所はCDR1領域中の1ヶ所にしかないとい
う事実と考え合わせると、元来血清中のIgM のL鎖と同
様の25kDa であったHB4C5抗体のL鎖タンパク質部
分はその可変領域に2種類の異なった糖鎖のうちのいず
れかによる修飾を受けて30kDa および32kDa の分子量の
L鎖として抗体分子中に組み込まれているが、それらの
糖鎖が2種類ともグリコシダーゼ処理により切断除去さ
れて通常の25kDa の分子量を持った1種類のL鎖に変換
されたことを示している。換言すれば、HB4C5抗体
のL鎖はタンパク質の部分に関して元来単一であるとい
える。このことは、グリコシダーゼ処理前後のHB4C
5抗体を等電点電気泳動法によって分析したとき、処理
前に2種類あったL鎖成分が処理のあとでは1種類に減
少する事実によっても支持される。
【0030】尚、H鎖もグリコシダーゼ処理によって低
分子量化されるが、HB4C5抗体がH鎖の可変領域に
糖鎖による修飾を受けていることを示すデータは得られ
ておらず、H鎖の不変領域に結合した糖鎖が除去されて
低分子量化されたものと考えられる。
【0031】ここに示したSDS の存在下でのグリコシダ
ーゼによるHB4C5抗体からの糖鎖除去の結果は、L
鎖の可変領域が確かに糖鎖によって修飾されており、グ
リコシダーゼによって糖鎖が有効に切断除去されること
を明確に示している。しかし、SDS によって抗体は変性
されその活性を失うので、糖鎖除去による抗体活性の増
強は見られない。
【0032】そこで次に、界面活性剤を全く含まない条
件下でグリコシダーゼによりHB4C5抗体から糖鎖除
去を行った場合について実施例2によって示す。
【0033】実施例2 界面活性剤非存在下に於けるヒト型モノクローナル抗体
HB4C5からのグリコシダーゼによる糖鎖の切断除去 界面活性剤の非存在下に於けるヒト型モノクローナル抗
体HB4C5からのグリコシダーゼによる糖鎖の切断除
去は、10mMエチレンジアミン四酢酸を含む250mM リン
酸ナトリウム緩衝液(pH7.5 )中に25μg のHB4C5
抗体を溶解し、6ユニットのグリコペプチダーゼFを加
えて全量を500 μl としたあと、37℃に18時間保温して
行った。
【0034】グリコシダーゼ処理をしたあとのHB4C
5抗体とグリコシダーゼ処理をしなかったHB4C5抗
体のそれぞれに含まれるH鎖およびL鎖の分子量を実施
例1と同様にして、Laemmli の方法に従って、0.1%のSD
S を含む12% ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、
銀染色法でタンパク質を検出して比較した。その結果を
図2に示す。
【0035】L鎖に着目すれば、界面活性剤が全く存在
しない条件下においてHB4C5抗体にグリコシダーゼ
を作用させた場合には、SDS 存在下で見られた完全な糖
鎖の切断除去は達成されず、抗体全体の約1/2 につき、
そのL鎖上の糖鎖が切断除去されるにとどまった。
【0036】このようにして糖鎖を部分的に除去したH
B4C5抗体を用いて抗体活性の増強を調べた。即ち、
界面活性剤の非存在下でグリコシダーゼによる処理をし
たHB4C5抗体と処理しなかったHB4C5抗体の活
性を次の3種類の方法によって比較した。
【0037】a.HB4C5抗体の認識する抗原である
ヒストンH2Bを用いた免疫酵素測定法による反応性の
比較。
【0038】b.肺癌組織切片を用いた免疫組織染色法
による比較。
【0039】c.ヌードマウスに移植した肺癌細胞株へ
の放射性ヨード標識したそれぞれのHB4C5抗体の集
積による比較。
【0040】a.グリコシダーゼ処理の前後におけるヒ
ト型モノクローナル抗体HB4C5活性の免疫酵素測定
法による比較 HB4C5抗体はヒストンH2Bを抗原として認識する
ことがこれまでの研究によって明かとなっている(K. M
ochizuki et al., Hum. Antibod. Hybridomas1991; 2:1
16-123 / M. Kato et al., Hum. Antibod. Hybridomas
1991; 2:94-101 / M. Kamei et al., Biotherapy 1992;
4:17-22 )。
【0041】仔牛胸腺から精製したヒストンH2Bを43
mM 重炭酸ナトリウム緩衝液中に10μg/mlの濃度に溶解
し、96穴のプラスチック製イミュノプレートに加えた後
37℃に1 時間保温して穴の表面にコートした。穴をリン
酸緩衝化生理食塩水(phosphate-bufferedsaline; PBS
)により3回洗浄後、 2%のウシ血清アルブミンを含
むPBS を加えて37℃1 時間保温し、プラスチックの穴表
面に残存するタンパク質吸着部位をブロックした。穴中
の溶液を捨て去った後、1 M 食塩と 0.1% Tween20を含
む0.1 M ホウ酸-0.025 Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.
3 )(以下「BBS」という。)中にウシ血清アルブミ
ンを1 mg/ml になるように溶かした液でいろいろな濃度
に希釈したグリコシダーゼ処理前後のHB4C5抗体を
添加して、2 時間37℃で保温した。穴をBBSで3回洗
浄した後、1 mg/ml のウシ血清アルブミンを含むBBS
に溶かした抗ヒトIgM 抗体のペルオキシダーゼ複合体を
加えて37℃に1 時間保温した。穴をBBSで3回洗浄し
た後、以下に述べるA液とB液を使用直前に 19:1 の割
合に混ぜたペルオキシダーゼの基質溶液を一つの穴当り
100 μl 加えて酵素反応を開始した。A液の組成は1 リ
ットル中に 12.9gのクエン酸・1水塩、27.6g のリン酸
二ナトリウム・12水塩および0.1ml の30%過酸化水素水
を含む。B液は、6mg/mlの 2,2′- アジノ- ビス-(3-エ
チルベンゾチアゾリン-6- スルホン酸) 二アンモニウム
塩の水溶液である。酵素反応を室温で15分間行ったあ
と、100 μl の1.5%シュウ酸を加えることによって反応
を停止し、415nm における吸光度を測定した。
【0042】このようにしてペルオキシダーゼの活性量
を測定することにより、ヒストンH2Bを介して固相に
結合したHB4C5抗体活性を測定することが出来る。
【0043】上記の酵素免疫測定法によりグリコシダー
ゼ処理をした抗体と処理をしなかった抗体の活性を比較
した結果は、図3に示したように、グリコシダーゼ処理
することにより約3倍に抗体活性が増強されることを示
した。
【0044】b.グリコシダーゼ処理の前後におけるヒ
ト型モノクローナル抗体HB4C5活性の免疫組織染色
法による比較 免疫組織染色は、ホルマリン固定した肺癌組織の薄切に
結合したHB4C5抗体を、ヤギ抗ヒト IgM−ペルオキ
シダーゼ複合体を2次抗体として用いる二抗体法により
検出した。糖鎖除去による抗体活性の増強の度合は、未
処理の抗体2.5μg/mlを用いて免疫組織染色を行ったと
きに得られる染色濃度と同等の染色濃度を得るのに必要
な糖鎖除去抗体の濃度から、それぞれの抗体濃度の逆数
を計算して比較した。
【0045】この結果、界面活性剤の非存在下でグリコ
シダーゼ処理することによって約4倍のHB4C5活性
増強が達成されることを示した。
【0046】c.ヌードマウスに移植した肺癌細胞株へ
の放射性ヨード標識したグリコシダーゼ処理の前後にお
けるヒト型モノクローナル抗体HB4C5抗体の集積に
よる比較 (1) 癌組織への抗体の集積 ヌードマウスに肺癌細胞株を移植し、着生後直径約1cm
まで増殖させたあと、1群が各4匹からなる3群の担癌
ヌードマウスに放射性ヨードにより標識したヒト型抗体
HB4C5のグリコシダーゼ処理をしたものを投与し
て、放射活性の癌組織への集積を時間経過を追って調べ
た。投与に際して、抗体の癌組織への集積がHB4C5
抗体に特異的であることを確かめるために、グリコシダ
ーゼ処理したHB4C5抗体をI-125で標識したものと
ヒト血清IgM をI-131で標識したものを各20μCiずつ混
合した後、マウスの尾静脈より同時に投与した。投与
後、それぞれ24時間、72時間、120 時間経過した時点で
順次1群ずつのマウスから癌組織を摘出して重量を測定
した後、癌組織に集積した放射活性をI-125とI-131の
それぞれについて測定し、癌組織重量1g当りの放射活性
を計算した。このとき同時に、それぞれのマウスから採
取した血液についても血液重量1g当りのI-125とI-131
の放射活性を測定した。
【0047】一方、グリコシダーゼ処理しないHB4C
5抗体についても、1群4匹の担癌ヌードマウス3群を
用いて同様の実験を行い、測定結果から癌組織と血液に
ついて各々1g当りのI-125およびI-131の放射活性を計
算した。
【0048】データの解析法は、まず、各時点における
血液および癌組織の1g当りに含まれている放射活性の投
与総放射活性に対する割合(% injected dose/g tissu
e;以下、「% ID/g 」という。)を求め、血液の% ID
/g に対する癌組織の% ID/gの比(以下、「血液比」と
呼ぶ。)を計算する。投与後の時間経過にともない、血
液中から放射標識した抗体が排摂され、血液の% ID/g
は低下する。一方、抗原と結合した抗体は結合した場所
に留まり、排摂されにくいので% ID/g は一定期間ある
レベルに維持される。従って、抗体が結合した癌組織の
血液比は時間経過とともに高くなる。投与した放射標識
抗体は、投与後72時間から120 時間ほどでその大部分が
血液中から排摂されるため、この時間帯で抗体の癌への
集積が顕著に観測されるようになる。癌組織に集積した
I-125標識HB4C5抗体の血液比が同じ癌組織に集積
したI-131標識血清IgM の血液比に比べて有意に高けれ
ば、HB4C5抗体が癌に特異的に集積していることが
裏付けられる。
【0049】測定の結果は、グリコシダーゼで処理する
前のI-125標識HB4C5抗体の癌への集積は、投与12
0 時間後の血液比が3.26であるのに対し、同時投与した
I-131標識血清IgM の血液比は1.08であった。他方、グ
リコシダーゼで処理した後のI-125標識HB4C5抗体
の癌への集積は、投与120 時間後で7.11であるのに対
し、同時に投与したI-131標識血清IgM の血液比は0.97
であった。即ち、抗体の癌組織への集積は、HB4C5
に特異的であり、投与120 時間後で比較した癌への抗体
集積は、(7.11/0.97)/(3.26/1.08)=2.42の計算により、
グリコシダーゼ処理することによって約2.4 倍に増大す
ることが示された。
【0050】(2) 癌組織のラジオイムノイメージング 癌組織への抗体の集積を画像診断に応用するためのモデ
ル実験として、担癌ヌードマウスの癌組織を検出するイ
メージングを行った。前述したように、ヌードマウスに
肺癌細胞株を移植し、着生後直径約1cm まで増殖させた
あと、1群4匹からなる担癌ヌードマウス群にグリコシ
ダーゼ処理後または処理前のI-131で放射標識したHB
4C5抗体を静脈注射して、各投与群の放射活性の癌へ
の集積をシンチカメラにより画像としてとらえることに
より比較した。投与後、I-131の癌組織への集積を時間
経過を追って調べた。
【0051】前述の実験と同様の原理によって、投与後
の時間経過にともない、血液中から放射標識した抗体が
排摂されて濃度が低下する。一方、抗原と結合した抗体
は結合した場所に留まり、排摂されにくいので一定期間
あるレベルに維持される。従って、抗体が結合した癌の
部位が血液によるバックグラウンドに比べて時間経過と
ともに相対的に高くなり、画像として検出が可能とな
る。血液中の放射標識抗体は、投与後72時間から120 時
間ほどで大部分が排摂されるため、この時間帯で抗体の
癌などへの集積が顕著に観測されるようになる。
【0052】グリコシダーゼ処理をした抗体と処理しな
かった抗体を用いて得られたラジオイムノイメージを比
較すると、グリコシダーゼ処理しなかった抗体に比べて
グリコシダーゼ処理した抗体は、明らかにより鮮明な画
像を与えた。即ち、グリコシダーゼ処理により有意の活
性増加が確認された。
【0053】本実施例のグリコシダーゼ処理したHB4
C5抗体の安定性を調べた結果、0.01%チメロサールの
存在下で 4℃に 2カ月間保存したとき、増強された活性
の低下は全く見られなかった。
【0054】以上の通り、可変領域が糖鎖により修飾さ
れた抗体からグリコシダーゼを用いて糖鎖の切断除去処
理をすることによって、免疫酵素測定法、免疫組織染色
法、およびヌードマウス中の移植肺癌細胞株へのin viv
o での抗体集積のいずれの方法によっても、抗体活性が
増強されることが確証された。
【0055】N-グリコシル残基の除去による抗体活性の
増強を示すこれらの結果は、HB4C5抗体に結合され
た糖鎖が抗体の抗原への結合を妨害しており、糖鎖の除
去によって抗体の活性が著しく増強されたことを示して
いる。
【0056】実施例3 CHAPS またはn-オクチルグルコシドの存在下におけるH
B4C5抗体のグリコペプチダーゼFによる糖鎖の切断
除去 ツヴィッターイオン性の界面活性剤であるCHAPS あるい
は非イオン性の界面活性剤であるn-オクチルグルコシド
の存在下におけるHB4C5抗体からのグリコシダーゼ
による糖鎖の除去反応は、5 mg/ml のCHAPS またはn-オ
クチルグルコシドと 10mM エチレンジアミン四酢酸を含
む 250 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5 )中に25μ
g のHB4C5抗体を溶解し、6ユニットのグリコペプ
チダーゼFを加えて全量を500 μl としたあと、37℃で
18時間保温することにより行った。
【0057】これらの界面活性剤のうちではCHAPS がよ
り有効であった。CHAPS の存在下においてグリコシダー
ゼ処理したHB4C5抗体とグリコシダーゼ処理をしな
かったHB4C5抗体のそれぞれに含まれるH鎖および
L鎖の分子量を実施例1および2と同様にして、Laemml
i の方法に従って、0.1%のSDS を含む12% ポリアクリル
アミドゲル上で電気泳動法し、銀染色法でタンパク質を
検出して比較した。図4は、CHAPS の存在下および界面
活性剤の非存在下において、グリコシダーゼ処理をした
場合としなかった場合の結果を対比して示す。
【0058】L鎖に着目すると、CHAPS の存在下でHB
4C5抗体にグリコシダーゼを作用させた場合には、界
面活性剤が全く存在しない場合と比べてより有効な糖鎖
の切断が達成され、大部分の糖鎖が除去されることが示
された。
【0059】このようにしてCHAPS の存在下にグリコシ
ダーゼを作用させて糖鎖を切断除去したHB4C5抗体
を用いて免疫組織染色法により抗体活性の増強を調べた
結果、糖鎖除去によって約8倍の活性増強が見られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】HB4C5抗体を1% SDSと 100 mM 2-メルカプ
トエタノールの存在下において変性後、グリコペプチダ
ーゼFによって糖鎖を切断除去したときのH鎖およびL
鎖の分子量変化を示すポリアクリルアミドゲル上でLaem
mli の方法による電気泳動のパターンの写真である。 1:グリコペプチダーゼF 2:未処理のHB4C5抗体 3:グリコペプチダーゼF処理したHB4C5抗体 4:分子量マーカー(右側に分子量を記載)
【図2】界面活性剤の非存在下においてHB4C5抗体
をグリコペプチダーゼFにより処理したときのH鎖およ
びL鎖の変化を示すポリアクリルアミドゲル上でLaemml
i の方法による電気泳動のパターンの写真である。 1:グリコペプチダーゼF処理したHB4C5抗体 2:未処理のHB4C5抗体 3:分子量マーカー(右側に分子量を記載)
【図3】界面活性剤の非存在下においてグリコシダーゼ
F処理したHB4C5抗体と処理しなかったHB4C5
抗体の酵素免疫測定法による抗体活性の比較。 黒三角:未処理のHB4C5抗体 黒 丸:グリコペプチダーゼF処理したHB4C5抗体
【図4】CHAPS の存在下および非存在下においてHB4
C5抗体をグリコペプチダーゼFにより処理したときの
H鎖およびL鎖の変化を示すポリアクリルアミドゲル上
でLaemmli の方法による電気泳動のパターンの写真であ
る。 1:界面活性剤の非存在下においてグリコペプチダーゼ
F処理しなかったHB4C5抗体 2:界面活性剤の非存在下においてグリコペプチダーゼ
F処理したHB4C5抗体 3:CHAPS の存在下においてグリコペプチダーゼF処理
しなかったHB4C5抗体 4:CHAPS の存在下においてグリコペプチダーゼF処理
したHB4C5抗体
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 J Exp Med,1988,168,p. 1099−1109 Animal Cell Techn ology:Basic & Appl ied Aspects,1992,p. 547−551 Cytotechnology. 1991,7,p.1−6 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07K 16/00 - 16/46 C12P 21/08 BIOSIS/MEDLINE/WPID S(STN) JICSTファイル(JOIS)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒト−ヒトハイブリドーマHB4C5株
    (微工研条寄第1879号)が産生するヒト型モノクロ
    ーナル抗体上のL鎖可変領域に位置する糖鎖全体をグリ
    コシダーゼで切断除去したヒト型モノクローナル抗体。
  2. 【請求項2】 ヒト−ヒトハイブリドーマHB4C5株
    が産生するヒト型モノクローナル抗体をグリコシダーゼ
    で処理し、該抗体のL鎖可変領域に位置する糖鎖全体を
    切断除去することを特徴とする、抗原に対する結合活性
    が増強されたヒト型モノクローナル抗体の製造方法。
  3. 【請求項3】 グリコシダーゼによる処理をCHAPS
    またはn−オクチルグルコシドの存在下において行うこ
    とを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記グリコシダーゼが、N−グリコシダ
    ーゼである請求項2または3に記載の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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Animal Cell Technology:Basic & Applied Aspects,1992,p.547−551
Cytotechnology.1991,7,p.1−6
J Exp Med,1988,168,p.1099−1109

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WO2023032886A1 (ja) 2021-08-30 2023-03-09 栄研化学株式会社 抗体、これを用いた固相化抗体、抗体組成物、免疫学的測定用試薬及び免疫学的測定方法、並びに、抗体の抗原反応性向上方法

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