JP3421758B2 - 酸化物分散強化型合金及び該合金から構成される高温機器 - Google Patents

酸化物分散強化型合金及び該合金から構成される高温機器

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、酸化物分散強化型合金
に係り、特にガスタービン用燃焼器、その他のガスター
ビン用高温機器用の材料として好適なニッケル基の酸化
物分散強化型合金に関する。
【0002】
【従来の技術】発電などの目的に用いられる産業用ガス
タービンは熱効率を向上させるため、燃焼ガス温度を上
昇させる気運にある。そのため燃焼器やタービン動翼、
静翼等の部位は従来よりもより高い温度にさらされるこ
とになる。一方、燃焼ガスが高温になるにつれて、燃焼
時に発生する窒素酸化物(以下NOxと略す)量も増大
するため、排出NOx量を低減させる必要がある。この
排出NOx量を低減するにはコンプレッサで圧縮された
空気の内、材料の冷却に使用されていた空気を燃焼用に
回し、燃焼前の圧縮空気と燃料との混合気の燃料濃度を
希薄化することが最も有効である。従って燃焼ガス温度
を高温化したガスタービンに使用される材料に関して
は、燃焼ガス自体の高温化と冷却空気の減少の2つの要
因から、耐用温度の飛躍的な向上が要求されている。ガ
スタービンの構成機器の中でも鋳造により製造される動
翼、静翼については、Ni基合金を中心として、合金組
成の改良及び製造プロセスの向上により、高温強度を高
めた多くの合金が過去に開発、提案されている。しかし
ながらNi基合金の強化相であるγ’相は、900℃以
上の高温域で分解、消失するため、現用Ni基合金以上
の耐用温度の飛躍的な向上は困難と考えられる。また、
燃焼器のライナ及びトランジションピースの材料は高温
強度以外の特性として、板にするための熱間加工性が要
求されるため、既存材料であるNi基合金のハステロイ
X、Co基合金のHA188などの鍛造合金に比べて強
度を飛躍的に高めた合金は実用化されていない。
【0003】一方、従来の鍛造及び鋳造合金よりも耐用
温度の高い合金として、マトリクス中に酸化物粒子を機
械的合金化法により微細分散させた、酸化物分散強化型
合金が開発されている。これらの合金は合金の融点近傍
の高温域まで安定な酸化物粒子により、マトリクス中に
発生した転位の移動を阻止し、強化するという思想で開
発された。酸化物分散強化型合金の製造方法としては特
開昭47−42507号公報等に示されており、原料で
ある純金属、合金粉末及びY23などの酸化物の微細な
粉末を、高エネルギーボールミル中で機械的に混合した
後に焼結して固形化し、更に高温で加工及び熱処理を施
し結晶粒を粗大化させて使用される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この種の酸化物分散強
化型合金は、γ’相と酸化物の複合強化を図ったNi基
合金と、酸化物相単独で強化した合金とに大別される。
前者のγ’相と複合強化された合金は900℃以下の強
度が高いため、ガスタービンの動翼材としての使用が検
討されている。しかし、熱間での鍛造、圧延等の加工が
非常に困難なため、燃焼器ライナ等の熱間加工性が要求
される部位への適用は難しく、また、γ’相は900℃
以上の高温で分解してしまうため、第一段静翼等の使用
温度が900℃を越える場合が予想される部位への適用
も難しい。一方、酸化物相単独で強化された後者の合金
は、熱間加工性及び900℃以上での高温組織安定性に
優れていることから、航空機用静翼材としてNi基のM
A754等の合金が、燃焼器材としてFe基のMA95
6と呼ばれる合金がそれぞれ米国Inco社から提案さ
れている。
【0005】しかし将来の産業用ガスタービンの燃焼温
度の上昇とそれに伴う排出NOx量の増加を考慮する
と、第一段静翼及び燃焼器などの高温機器への冷却空気
量を現状以下に減少させる必要性が予想される。特に燃
焼器のライナ及びトランジションピースは、極端な場合
は内壁側のフィルム冷却を行なわず、外壁側の対流冷却
のみで使用することも想定される。その際の材料の使用
温度は材料表面に熱遮蔽コーティングを施したとしても
900度以上、場合によっては1000度を越える高温
に達する可能性がある。このような高温下に於いては、
既存のNi基の酸化物分散強化型合金は、構造材料とし
て必要なクリープ破断強度及び耐熱疲労特性が充分では
ない。これら既存Ni基酸化物分散強化型合金中には全
て、高温耐酸化性の向上あるいは原料粉末中に混入して
いる酸素を吸収する目的から、合金組成中にアルミニウ
ムが含まれている。酸化物分散強化型合金は原料に微細
な金属粉末を用いるため、鋳造合金などに比べて過剰な
酸素の混入が避けられない。従来の酸化物分散強化型合
金では、主にアルミニウムを添加しAl23を形成する
ことで酸素を吸着させていた。近年の研究によると製造
工程の段階でAl23と強化因子のY23が反応し、Y
−Al複合酸化物が生じていることが明かになった。こ
のようなAl23とY23の複合化が生じると、酸化物
粒子を粗大化させることで転位の移動に対する抵抗力を
低下させ、引いては合金の高温クリープ破断強度及び耐
疲労特性を低下させる。Ni基酸化物分散強化型合金中
のアルミニウムはY23に対して非常に活性であり、M
A754相当のアルミニウム含有量が僅か0.3%の合
金でも、合金中に含まれる0.6%のY23のほとんど
がアルミニウムと複合化する。
【0006】以上の課題を踏まえて本発明においては、
熱間加工性および高温組織安定性を有したままで、高温
クリープ特性及び耐熱疲労特性を向上させたNi基酸化
物分散強化型合金、及び該合金を構成部材とすること
で、NOx排出量を増加させること無くガスタービンの
効率を向上させることを可能にする、産業用ガスタービ
ン静翼、燃焼器等の高温機器を提供することを目的とす
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は従来のアルミニ
ウムを含むニッケル基酸化物分散強化型合金合金に於い
て、酸化物粒子を粗大化させ高温強度低下の要因となっ
ていたアルミニウムを合金組成から取り除きチタンに置
き換え、イットリウムを含む酸化物粒子を機械的合金化
法によって微細に粉砕し強度を向上させると同時に、優
れた熱間加工性及び高温組織安定性を合わせ持たせた酸
化物分散強化型合金である。
【0008】本発明の酸化物分散強化型合金は、重量で
2%以下のチタン、ジルコニウムおよびハフニウムより
なる群から選ばれた1種以上の元素、15〜35%のク
ロム、0.01〜0.4%の炭素、0.1〜2.0%の
イットリウムを含む酸化物、残部が実質上ニッケルから
成り、これらチタン、ジルコニウムおよびハフニウムよ
りなる群から選ばれた1種以上の元素、クロムおよび炭
素を含有するニッケル基合金の母相中に、機械的合金化
法によって分散形成されたチタン、ジルコニウム、ハフ
ニウムからなる群から選ばれた1種以上の元素とイット
リウムの複合酸化物の粒子を有してなる高温クリープ特
性を向上させたものである。
【0009】また本発明の別の酸化物分散強化型合金
は、重量で2%以下のチタン、ジルコニウムおよびハフ
ニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元素、15〜
35%のクロム、0.01〜0.4%の炭素、0.3〜
2.0%のモリブデン、0.5〜10%のタングステ
ン、0.1〜2.0%のイットリウムを含む酸化物、残
部が実質上ニッケルから成り、これらチタン、ジルコニ
ウムおよびハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上
の元素、クロム、炭素、モリブデン、タングステンを含
むニッケル基合金の母相中に、機械的合金化法によって
分散形成されたチタン、ジルコニウム、ハフニウムより
なる群から選ばれた1種以上の元素とイットリウムの複
合酸化物の粒子を有してなる高温クリープ特性を向上さ
せたものである。
【0010】さらに本発明のさらに別の酸化物分散強化
型合金は、重量で2%以下のチタン、ジルコニウムおよ
びハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元素
と、15〜35%のクロムと、0.01〜0.4%の炭
素と、0.5〜10%のタングステン、0.3〜2.0
%のモリブデンおよび0.5〜3%のレニウムよりなる
群から選ばれる1種以上の元素と、0.1〜2.0%の
イットリウムを含む酸化物と、残部が実質上ニッケルか
ら成り、これらチタン、ジルコニウムおよびハフニウム
よりなる群から選ばれた1種以上の元素と、クロムと、
炭素と、タングステン、モリブデンおよびレニウムより
なる群から選ばれる1種以上の元素とを含むニッケル基
合金の母相中に、機械的合金化法によって分散形成され
たチタン、ジルコニウム、ハフニウムよりなる群から選
ばれた1種以上の元素とイットリウムの複合酸化物の粒
子を有してなる高温クリープ特性を向上させたものであ
る。
【0011】そして発電用ガスタービンの構成要素であ
るタービン静翼、燃焼器ライナ、トランジションピース
等の高温機器は上記各発明の酸化物分散強化型合金を用
いることが好ましい。
【0012】
【作用】本発明の酸化物分散強化型合金に含有される各
元素の役割を次に示す。クロムは耐高温腐食性の向上に
有効である。十分な耐高温腐食性を得るには、少なくと
も15%以上が必要であるが、35%を超えて添加する
と炭化物の粗大化などが生じ脆化を引き起こす。20〜
30%の範囲内の添加がより好ましい。
【0013】チタン、ジルコニウム、ハフニウムは合金
中に含まれる過剰な酸素を吸着する目的で添加される。
従来の酸化物分散強化型合金では、アルミニウムを添加
してAl23を形成することで酸素を吸着させていた。
しかしAl23は製造工程の途中で強化因子のY23
吸収し、粗大なAl23とY23の複合酸化物を形成し
高温強度を低下させる。そこで本発明においては、アル
ミニウムの代わりにチタン、ジルコニウム、ハフニウム
を選び、TiO2、Zr2O、HfO2の形で酸素を吸着
させることにする。合金中においてTiO2、Zr2O、
HfO2はいずれもY23と複合酸化物を形成するが、
Al23の場合のような複合酸化物の粗大化は起こら
ず、高温強度は低下しない。チタン、ジルコニウム、ハ
フニウムのうちの1種以上を合計2%を超えて添加する
と、η相等の有害相が析出し脆化が生じる可能性がある
ため、適正な添加量は、チタンを選択した場合は2.0
%以下、ジルコニウムの場合は1.0%以下、ハフニウ
ムの場合は1.5%以下とする。合計で0.5%〜1.
5%の範囲内の添加がより好ましい。
【0014】タングステンは母相中に固溶して母相を強
化する。特にクリープの長時間強度の改善に効果が大き
い。含有量が0.5%未満では強度を向上させる効果が
十分でない。一方、10%を超えて添加すると、σ相に
代表される有害相析出を助長し、脆化を招くため好まし
くない。より適正な添加量としては、1.0%〜7.0
%が好ましい。
【0015】モリブデンはタングステン同様に母相中に
固溶して母相を強化する。特にクリープの長時間強度の
改善に効果が大きい。含有量が0.3%未満の場合強度
を向上させる効果が十分でない。一方、2.0%を超え
て添加すると、σ相に代表される有害相析出を助長し、
脆化を招くため好ましくない。
【0016】炭素は主に炭化物として析出し粒界を強化
する作用を有するため、少なくとも0.01%以上添加
するのがよい。一方、0.4%を超えて添加すると炭化
物の粗大化を助長して、高温長時間のクリープ破断強度
及び靭性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0017】イットリウムを含む酸化物YはTi
との複合酸化物の形で母相に分散し高温強度を向上
させる。十分な強度を得るには0.1%以上の添加が必
要であるが、2%を超える添加は延性を低下させ、熱間
加工性を悪化させる。適切な添加量としては0.3〜
1.2%の範囲がより好ましい。Y 原料粉でき
るだけ微細なものを用いることが望ましい。特に粒径と
して0.5μm以下とし、そして0.001〜0.1μ
mの粒径がより好ましい。Yの分散は、微細な粒
子を用いることによって極く微量の含有量で十分な強化
が得られかつ延性を損なわないものとすることができ
る。従って前述の粒径のものを1重量%当たり、1μm
当たり100個以上とし、特に500個以上分散させ
ることが好ましい。
【0018】レニウムは主に母相中に固溶して強化し、
更に高温耐酸化性を改善する効果も合わせて有する。そ
の含有量が0.5%未満では上記効果が十分でなく、3
%を超えて添加すると製造コストが上昇し不利になる。
【0019】次に合金の製造工程について説明する。機
械的合金化は、高エネルギーボールミル内で運動する鋼
球間あるいは鋼球と容器間の衝撃エネルギー、すなわち
機械的エネルギーが、圧縮粉砕、剪断摩砕過程を通して
それらの間に存在する粉体中に蓄積することにより可能
となる。この場合、粉末同志の鍛接、折りたたみの繰返
しにより室温付近の低温でも拡散により原子オーダーの
合金化が起こる。好適な合金化のためには高い衝撃エネ
ルギーが必要であり、また合金化の効率の向上を図る必
要もあるが、そのために原料粉末と鋼球との重量比はア
トライターでは1/10から1/20、遊星型ボールミ
ルでは1/5から1/10で、ボールミルの回転数は1
50から400rpmが望ましい。合金化処理時間は2
0時間以上で粉末が扁平な層状組織となるまで処理を行
う。なお、アトライターはボールミルの1種で容器に入
れた原料粉末と鋼球を回転する撹拌棒でかき混ぜる装置
であり、遊星型ボールミルは原料粉末と鋼球を入れた容
器を回転ステージに搭載して公転させ、容器自身も自転
して原料粉末と鋼球をかき混ぜる装置である。
【0020】上記混合粉末の固形化は、粉末冶金法に従
い軟鋼あるいはステンレス容器に粉末を充填して熱間押
出しあるいはHIP法によって行われる。焼結温度は粉
末間の拡散融合、緻密化及び合金原子のより一層の固溶
化を考えて、950℃から1200℃の温度域が望まし
い。
【0021】その後、酸化物分散による強化を十分に発
揮させるため、鍛造、熱間圧延などの熱間加工と熱処理
を実施して、二次再結晶による結晶粒の粗大化を行う。
熱間加工は固形化後の組織の均質化と、二次再結晶時の
結晶粒成長の駆動力となる歪エネルギーを付与する目的
で行う。加工温度は900℃〜1200℃の範囲で実施
することが好ましい。結晶粒の成長は加工方向に添って
生じるため、熱間圧延の方向及び加工の回数は、製品の
寸法や形状と共に、再結晶後の結晶粒の形状及び大きさ
を考慮して決定する必要がある。熱処理は二次再結晶を
効率良く生じさせるため、可能な限り高温で行うことが
望ましく、その温度は熱間加工温度の50℃以上を下限
とし、合金の融点の50℃以下を上限とする範囲で行う
ことが好ましい。熱処理後に熱間あるいは冷間で過度の
加工を行うと、二次再結晶で生じた粗大な結晶粒が破壊
され強度の低下につながるため、熱処理後の加工は寸法
を整える程度の軽度の加工に留めるべきである。
【0022】静翼を製造する場合は、最終熱処理後のイ
ンゴットから機械加工により翼形状に成型することが好
ましい。燃焼器ライナ及びトランジションピースを製造
する際には、熱間圧延を繰り返すことで薄板にした後、
熱間で円筒状に加工してから熱処理を行うのが好まし
い。更に板材を円筒に成型するために、1ヵ所以上の部
分で接合を行う必要がある。接合方法としては、溶接、
ろう付け、拡散接合、ねじ又はリベット止めの内1種あ
るいは2種以上を組み合わせた物を用いることが出来
る。また接合部を有しない構造の円筒を用いても良い。
このような継ぎ目無しの円筒は、円柱状のインゴットに
加工した後に、円柱の中央部をくり抜くことで厚肉の円
筒とし、更に熱間でリング圧延を行うことで製造するこ
とが出来る。
【0023】
【実施例】以下本発明の実施例を説明する。本発明の効
果を具体的に確認するため、表1に示す各種成分を持つ
酸化物分散強化型合金を供試材として強度、成分分析等
の各種試験を行った。表1中、合金No.1〜8は本発
明材であり、合金No.9は比較材で既存合金のMA7
54と同じ組成とした。
【0024】
【表1】
【0025】以下に各種試験の結果を記す。合金No.
1〜9それぞれの組成に応じて、平均粉末粒径が100
μm以下の金属元素粉末および炭素粉末と平均粒径20
0ÅのY23微粉末を調合し、遊星型ボールミル中に装
填し、Ar雰囲気中で機械的合金化を行った。ボールミ
ルの回転数は165rpm、ミリング時間は30時間で
あった。得られた混合粉末を軟鋼製のカプセルに装填
し、10~2〜10~4Torrで真空引きを行いながら、1
00℃、200℃、400℃の各温度で30分ずつ加熱
して、カプセル内壁及び粉末の脱気を済ませた後に真空
封入を行った。粉末の固形化にはHIP処理を使用し1
050℃、2000kgf/cm2、保持時間1時間の
条件で行った。更に950〜1050℃の高温で鍛造及
び熱間圧延を行い、厚さ2mmの薄板材に加工した後
に、1300℃で1時間の真空熱処理を施して供試材を
作成した。
【0026】図1に本発明材の合金No.1〜4及び比
較材の合金No.9に対して900℃でクリープ破断試
験を行った結果を示す。合金No.1〜3においては、
23添加量をいずれも約0.6%とし、チタン量のみ
を変化させた。0.3%アルミニウムを含む合金No.
9に比べて合金No.1〜4の方が、Y23含有量が等
しいにも拘らずクリープ破断強度が高い。また合金N
o.1〜3においてはチタン添加量が増すにつれて、ク
リープ破断強度が増大する傾向がある。1%のチタン、
0.93%のY23を含む合金No.4の強度は合金N
o.3と同程度であるが、長時間側の強度の劣化が小さ
くなっている。
【0027】図2に合金No.1及びNo.5〜8の9
00℃クリープ破断試験の結果を示す。各合金のチタン
添加量は約0.5%、Y23添加量は約0.6%とほぼ
等しい。約0.5%のモリブデン及び2%のタングステ
ンを添加した合金No.5は、0.5%チタンのみを添
加した合金No.1よりも高いクリープ破断強度を示
す。モリブデンを1.22%、タングステンを4.53
%まで増やした合金No.6はさらに強度が向上する。
約1.5%のレニウムを添加した合金No.7も破断時
間が長い領域では、合金No.2よりもクリープ強度が
向上する。0.05%ジルコニウムと0.3%ハフニウ
ムを含む合金No.8は、破断時間の短時間側で若干合
金No.1よりも強度が低いものの、500時間以上で
は合金No.1と同等以上の強度を示すようになる。
【0028】図3に比較材No.9の透過型電子顕微鏡
(TEM)による金属組織の写真を、図4に本発明材N
o.2のそれを示す。試験片は直径3mm、厚さ0.2
mmのディスクを切り出し電解研摩により薄膜化した物
を用いた。両合金共にY23を含む酸化物と推定され
る、直径1000Å以下の微細な粒子の分散が観察され
た。この写真から分散粒子の平均粒径を調べた結果、本
発明材No.2の平均粒径は169Å、比較材No.9
は236Åと、本発明材No.2の方が粒径が微細であ
ることを確認した。また平均粒子間距離の比を調べた結
果、比較材No.9の平均粒子間距離は本発明材No.
2の約1.4倍であった。一般に酸化物分散強化型合金
が微細粒子の分散により強化されている場合、その強度
は分散粒子の平均粒子間距離に反比例し、粒子間距離が
狭まるほど強度は高くなる。本発明材のNo.1〜8
は、製造行程の段階で酸化物粒子がより微細に粉砕さ
れ、粒子間隔が狭まったために比較材No.9に較べて
クリープ破断強度が向上したと考えられる。本発明材N
o.2は1μm2当たり約660個の酸化物が確認され
た。この分散は1重量%当たり約1000個以上であ
る。
【0029】次に上記薄膜試験片において、エネルギー
分散型X線(以下EDXと略す)分析により分散粒子の
組成分析を行った。電子ビームのプローブ径は200Å
とした。図5に比較材No.9の分散粒子のEDXスペ
クトルを、図6に比較材No.9の母相のEDXスペク
トルをそれぞれ示す。分散粒子のスペクトルからは、イ
ットリウム(Y)とアルムニウム(Al)の高いピーク
及びチタンの僅かなピークが表れているが、母相のスペ
クトルからはニッケル(Ni)、クロム(Cr)以外の
元素の明瞭なピークは見られない。図7には本発明材N
o.2における分散粒子のEDXスペクトル、図8には
母相のEDXスペクトルを示す。本発明材No.2の母
相のスペクトルは、比較材No.9の母相とほとんど同
じである。その一方で、分散粒子のスペクトルには、ア
ルミニウムのピークが存在せず、チタンの非常に高いピ
ークが観察される。本発明材No.1、3、4のEDX
分析からもほぼ同じスペクトルが得られた。以上の分析
結果から、添加したY23は比較材No.9においては
アルミニウムを、本発明材No.1〜4においてはチタ
ンをそれぞれ吸収して、組成の異なる複合酸化物を形成
していることが推測された。抽出レプリカ法により合金
の酸化物相を採取し、電子線回折により組成の同定を行
った結果、比較材No.9の酸化物相は2Y23・Al
23であること、本発明材No.1〜4の酸化物相はY
23・2TiO2であることを確認した。本発明材にお
いて、Y23はTiO2と複合化することで酸化物粒径
が微細化した考えられる。また、0.3%のアルミニウ
ムを含む比較材No.9の場合は、Y23がAl23
優先的に反応し、結果としてTiO2との複合化が妨げ
られたため複合酸化物が粗大化したと考えられる。
【0030】図9に本発明に係るガスタービンの実施例
を示す。燃焼器のライナ1、トランジションピース2及
び第一段静翼が、本発明のNi基の分散強化合金で構成
されている。これらの部材は十分な高温強度が得られ
た。
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、長時間優れた高温強度
並びに良好な熱間加工性、高温組織安定性を有するNi
基の酸化物分散強化合金が得られることから、産業用ガ
スタービンの高温機器、特に静翼及び燃焼器などの構造
部材の長寿命化、更には耐用温度を向上させることで、
ガスタービン運転の際に排出されるNOx量の低減が達
成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明材No.1〜4及び比較材No.9の90
0℃におけるクリープ破断強度特性を示す図である。
【図2】本発明材No.1、No.5〜No.8の900℃に
おけるクリープ破断強度特性を示す図である。
【図3】比較材No.9の金属組織を示すTEM写真であ
る。
【図4】本発明材No.2の金属組織を示すTEM写真で
ある。
【図5】比較材No.9の分散粒子のEDX分析結果を示
す図である。
【図6】比較材No.9の母相のEDX分析結果を示す図
である。
【図7】本発明材No.2の分散粒子のEDX分析結果を
示す図である。
【図8】本発明材No.2の母相のEDX分析結果を示す
図である。
【図9】本発明に係るガスタービンの断面図である。
【符号の説明】
1 燃焼器ライナ 2 燃焼器トランジションピース 3 第一段静翼 4 第一段動翼 5 ディスク
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 樫村 哲夫 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社 日立製作所 日立研究所内 (72)発明者 中村 重義 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社 日立製作所 日立研究所内 (72)発明者 福井 寛 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社 日立製作所 日立研究所内 (56)参考文献 特公 昭59−9610(JP,B2) 特公 昭45−17043(JP,B1)

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量で2%以下のチタン、ジルコニウム
    およびハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元
    素、15〜35%のクロム、0.01〜0.4%の炭
    素、0.1〜2.0%のイットリウムを含む酸化物、残
    部が実質上ニッケルから成り、チタン、ジルコニウムお
    よびハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元
    素、クロムおよび炭素を含有するニッケル基合金の母相
    中に、機械的合金化法によって分散形成された前記チタ
    ン、ジルコニウム、ハフニウムよりなる群から選ばれた
    1種以上の元素とイットリウムの複合酸化物の粒子を
    してなる高温クリープ特性を向上させた酸化物分散強化
    型合金。
  2. 【請求項2】 重量で2%以下のチタン、ジルコニウム
    およびハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元
    素、15〜35%のクロム、0.01〜0.4%の炭
    素、0.3〜2.0%のモリブデン、0.5〜10%の
    タングステン、0.1〜2.0%のイットリウムを含む
    酸化物、残部が実質上ニッケルから成り、チタン、ジル
    コニウムおよびハフニウムよりなる群から選ばれた1種
    以上の元素、クロム、炭素、モリブデン、タングステン
    を含むニッケル基合金の母相中に、機械的合金化法によ
    って分散形成された前記チタン、ジルコニウム、ハフニ
    ウムよりなる群から選ばれた1種以上の元素とイットリ
    ウムの複合酸化物の粒子を有してなる高温クリープ特性
    を向上させた酸化物分散強化型合金。
  3. 【請求項3】 重量で2%以下のチタン、ジルコニウム
    およびハフニウムよりなる群から選ばれた1種以上の元
    素と、15〜35%のクロムと、0.01〜0.4%の
    炭素と、0.5〜10%のタングステン、0.3〜2.
    0%のモリブデンおよび0.5〜3%のレニウムよりな
    る群から選ばれた1種以上の元素と、0.1〜2.0%
    のイットリウムを含む酸化物と、残部が実質上ニッケル
    から成り、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムより
    なる群から選ばれた1種以上の元素と、クロムと、炭素
    と、タングステン、モリブデンおよびレニウムよりなる
    群から選ばれる1種以上の元素とを含むニッケル基合金
    の母相中に、機械的合金化法によって分散形成された前
    記チタン、ジルコニウム、ハフニウムよりなる群から選
    ばれた1種以上の元素とイットリウムの複合酸化物の粒
    子を有してなる高温クリープ特性を向上させた酸化物分
    散強化型合金。
  4. 【請求項4】 請求項1ないし3いずれかに記載の酸化
    物分散強化型合金から構成したことを特徴とする発電用
    ガスタービン静翼。
  5. 【請求項5】 噴射された燃料を燃焼させ、該燃焼ガス
    をタービン静翼に案内する筒状の燃焼器において、該燃
    焼器の前記燃焼ガスにさらされるライナを、請求項1な
    いし3いずれかに記載の酸化物分散強化型合金から構成
    したことを特徴とする燃焼器。
  6. 【請求項6】 噴射された燃料を燃焼させ、該燃焼ガス
    をタービンノズルに案内する発電用ガスタービン燃焼器
    用トランジションピースにおいて、請求項1ないし3い
    ずれかに記載の酸化物分散強化型合金から構成したこと
    を特徴とする発電用ガスタービン燃焼器用トランジショ
    ンピース。
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