JP3421493B2 - 既存建物の耐震補強方法 - Google Patents

既存建物の耐震補強方法

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JP3421493B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は壁が接続している
柱・梁のフレームの変形能力を高める、あるいは制震装
置を用いることにより建物を耐震補強する既存建物の耐
震補強方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】耐力壁
を持つ既存建物に水平力が作用し、耐力壁に設計で想定
した大きさ以上の水平力が集中したときには下記の通
り、建物が崩壊に至る可能性があるため、その可能性が
ある建物に対しては耐震補強が必要になる。
【0003】例えば耐力壁と柱が負担する水平力の割合
が設計上、それぞれ30%,70%である場合、設計用水平
力をQとすれば耐力壁と柱は0.3Q,0.7Qを負担する予定
であるが、実際の挙動では設計時の想定分担と異なり、
負担割合が変動,あるいは逆転することがある。耐力壁
と柱の終局耐力がそれぞれ1.2Q,1.4Qであるとすれば、
設計時の負担割合が逆転しても作用水平力が設計用水平
力Q以下である限り、共に終局耐力以下であるから破壊
に至ることはない。
【0004】作用水平力が設計用水平力Qを上回り、Q
の1.2/0.7(≒1.7)倍(=1.7Q)のときには、耐力壁と柱
の各分担比を0.7 ,0.3 として負担水平力はそれぞれ1.
2Q,0.5Qとなり、耐力壁の負担水平力が終局耐力に一致
するため水平力の作用後、耐力壁の耐力は低下するが、
この段階では応力の再分配により破壊は防げる。
【0005】作用水平力が設計用水平力Qの2倍(=2
Q)になったときには、耐力壁と柱の応力がそれぞれ1.
4Q,0.6Qとなり、耐力壁は破壊する。応力が再分配され
るとすれば、柱のみで2Qを負担することになるが、柱
の終局耐力は1.4Qであるから、柱は2Qを負担すると同
時に破壊するため、結局、応力の再分配は行われず、建
物は耐力壁の破壊と同時に、崩壊することになる。
【0006】図16は耐力壁の耐力がQW、柱の耐力がQC
の建物が崩壊に至るまでの変形と耐力の関係を示す。耐
力壁がQWを負担した後、破壊したときの変形をδ1とす
れば、建物がδ1以上の変形を生じたときに応力の再分
配が行われ、建物全体の変形−耐力の関係は柱のみの変
形−耐力曲線上に移行する。
【0007】その後、耐力壁の耐力低下を考慮した場合
の建物に作用する水平力Q0が柱の終局耐力QPを超えた
ときに、瞬時に変形がδ1からδ2へ移行し、建物の崩壊
が生じる。
【0008】既存建物が靱性と耐力の小さい柱・梁のフ
レームと耐力壁で構成されている場合に、耐力壁に水平
力が集中する結果、耐力壁には想定した大きさ以上の水
平力によりひび割れが発生し、更にはひび割れが成長し
て柱を貫通するひび割れに発展することもある。
【0009】これは耐力壁を取り囲む柱・梁による耐力
壁の拘束効果が小さいために起こると考えられ、貫通す
るひび割れが発生した柱はせん断破壊に至り、もはや水
平力と鉛直荷重に耐えられない。せん断破壊した耐力壁
と柱が負担していた水平力は応力の再分配により他の柱
等が一時的に負担するが、前記の通り、応力が大きけれ
ば再分配は行われず、建物が崩壊に至ることになる。
【0010】既存建物の耐力壁への水平力の集中を回避
するための耐震補強方法には、既存建物内に鉄骨ブレ
ースや耐力壁等の耐震要素を付加する方法、耐力壁の
壁厚を増す方法、柱・梁の断面を増す方法、あるいは
これらを組み合わせる方法が考えられる。
【0011】上記,の補強工事によれば、補強箇所
に過度の応力が集中するため、その周辺の既存の柱・梁
架構が応力集中に耐えられなくなることから、この周辺
架構にの補強を施す必要が生じ、補強対象が拡張する
結果になる。このため既存建物の全階において補強対象
が広範囲に及び、既存建物の内部への影響が大きい。
【0012】特にの工事では開口を塞ぐ形になるため
補強後に建物内での利用計画に制約を加える。
【0013】この発明は上記補強方法の問題を発生させ
ずに、既存建物の崩壊を未然に防止する耐震補強方法を
提案するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明では既存建物内の
柱とそれに接続する壁の境界部分を斫り、柱と壁間に縦
方向にスリットを形成し、柱と壁を実質的に分離させる
ことにより壁に発生したひび割れが柱まで貫通すること
を防止し、柱の耐力低下を回避すると共に、柱・梁のフ
レームの変形能力を高め、既存建物を耐震補強する。
【0015】スリットによって柱が実質的に壁から分離
することにより壁に発生したひび割れの柱への貫通がな
くなり、柱がせん断破壊することはなく、フレームの破
壊が防止される。またフレームの剛性に壁の剛性が付加
されないため、フレームの変形能力が上がり、壁が破壊
した後はフレームの変形能力によりフレームが負担する
水平力の上昇が抑えられる。この結果、フレームが破壊
に至ることが防止され、建物の崩壊も未然に防止され
る。
【0016】また実質的に柱から分離した壁の鉛直方向
の中間部を水平方向に斫って壁に横方向にスリットを形
成し、上下の壁間に、両者間の相対水平変位時に減衰性
能を発揮する制震装置をスリットを跨いで設置すること
により、フレームの変形能力を利用して水平力を制震装
置に負担させ、フレームの負担を軽減しながら揺れの増
大を抑制する。
【0017】あるいは請求項2、請求項3に記載の通
壁が接続しない柱・梁のフレームの面内に、上階,
もしくは下階の梁に接続しないブレースを架設し、ブレ
ースと、それが接続しない梁間に、両者間の相対水平変
位時に減衰性能を発揮する制震装置を設置することによ
り水平力を制震装置に負担させ、フレームの負担を軽減
しながら揺れの増大を抑制する。
【0018】制震装置は上下に分離した壁間、もしくは
フレームとブレース間に跨ることにより相対変位時に変
位量に応じた減衰力をフレームに付与し、フレームの応
答を低減する。
【0019】フレームは壁から実質的に絶縁されること
により変形し易くなるが、その変形能力により変形の小
さい段階から、すなわち地震動入力の小さいレベルから
制震装置の減衰効果を発揮させるため、フレームの地震
時の応答が低減される結果、フレームは設計時に想定し
た地震動入力より大きい地震動にも耐えることが可能と
なり、地震に対する安全度が増す。
【0020】
【発明の実施の形態】請求項1記載の発明は図1,図2
に示すように既存建物内の柱1とそれに接続する壁2の
境界部分を斫り、柱1と壁2間に縦方向にスリット3を
形成し、柱1と壁2を実質的に分離させることにより柱
1と梁4からなるフレームの変形能力を上げる方法であ
る。
【0021】図1,図2は壁2に開口6がない場合のス
リット3の形成状況を示すが、図2は特にフレームの変
形能力を上げるために壁2の隅角部の、梁4とスラブ5
との接続部分にもスリット3を入れた場合である。
【0022】図3〜図5は壁2に開口6がある場合のス
リット3の形成状況を示す。図6は開口6によって壁2
が垂れ壁と腰壁に分離している場合のスリット3の形成
状況を示す。開口6がある場合もスリット3は図1に示
すように単純に壁2と柱1が分離するような形にも形成
される。
【0023】図7〜図12はスリット3の断面形状の例を
示すが、スリット3は水平力の作用時に柱1と壁2を実
質的に分離させ、柱1と壁2が独立して挙動するように
形成されればよい。
【0024】図7,図8は壁2を全厚に亘って斫り、柱
1と壁2を完全に分離させた場合、図9,図10は壁2を
片側から斫り、厚さ方向の一部を残した場合である。い
ずれの場合もスリット3部分では鉄筋も斫り取られる。
図11,図12は参考例として鉄筋(横筋)を残してコンク
リートのみを斫った場合である。
【0025】スリット3には必要により、壁2の平面上
の位置に応じて雨仕舞いのためのシール材や、耐火・防
火区画のための耐火材等の充填材が充填される。充填材
にはフレームの変形能力を阻害しないよう、力を負担,
あるいは伝達しない材料が使用される。
【0026】図13柱1から分離した壁2の鉛直方向の
中間部を水平方向に斫って壁2に横方向にスリット3を
形成し、上下に分離した壁21,21間に、両者間の相対水
平変位時に減衰性能を発揮する制震装置7をスリット3
を跨いで設置し、水平力を制震装置7に負担させること
によりフレームの負担を軽減する場合である。
【0027】制震装置7には図示するような、壁21,21
間の面内の相対水平変位時に弾塑性変形することで水平
力を負担しながら振動を減衰させる弾塑性ダンパや、変
位量に応じた粘性減衰力を発生する粘性ダンパ等のエネ
ルギ吸収装置を始め、油圧シリンダ内を往復するピスト
ンの移動時の抵抗力を減衰力として発生する受動型の減
衰装置が使用される。
【0028】図13は制震装置7が板状の弾塑性ダンパの
場合を示すが、この場合は分離した各壁21,21にプレー
ト8,8を固定し、プレート8,8に上端と下端を接合
することにより制震装置7が壁21,21間に設置される。
【0029】請求項3記載の発明は請求項1の方法に加
え、図14に示すように壁2が接続しないフレームの面内
に、新たに上階,もしくは下階の梁4に接続しないブレ
ース9を架設し、ブレース9と、それが接続しない梁4
間に、両者間の相対水平変位時に減衰性能を発揮する制
震装置7を設置し、制震装置7によってフレームの負担
を軽減する方法である。
【0030】図14では制震装置7を図13の場合と同様に
梁4とブレース9に固定されるプレート8,8に接合し
ている。ブレース9とフレームの接続部分は鋼材10によ
って既存の柱1と梁4が補強される。
【0031】図15は平面上、請求項3記載の発明実施
した配置を示す。図15中、Aが柱1と壁2間に縦方向に
スリット3(図9と図10に記載のもの)を形成し、柱1
と壁2を実質的に分離させた箇所を、Bが図13に示す例
を実施した箇所を、Cが図14に示す例を実施した箇所を
示す。
【0032】
【発明の効果】請求項1記載の発明では既存建物内の柱
とそれに接続する壁の境界部分を斫ることにより柱と壁
を実質的に分離させるため、壁に発生したひび割れが柱
まで貫通することによる柱のせん断破壊を防止でき、柱
とそれを含めたフレームの耐力低下を回避できる。
【0033】またフレームの剛性に壁の剛性が付加され
ないことによって、フレームの変形能力が上がり、壁が
破壊した後はフレームの変形能力によりフレームが負担
する水平力の上昇が抑えられるため、フレームが破壊に
至ることが防止され、建物の崩壊も未然に防止される。
【0034】更に柱から実質的に分離した壁を上下に分
離させ、上下の壁間に制震装置を設置することによりフ
レームの変形能力を利用して水平力を制震装置に負担さ
せるため、フレームの負担が軽減され、フレームの破壊
を防止できる他、揺れの増大も抑制される。
【0035】請求項2、請求項3記載の発明ではフレー
ムの面内に上下いずれかの梁に接続しないブレースを架
設し、ブレースと梁間に制震装置を設置することにより
水平力を制震装置に負担させるため、請求項記載発明
と同じくフレームの破壊を防止できる他、揺れの増大も
抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】スリットの形成状況を示した立面図である。
【図2】スリットの他の形成状況を示した立面図であ
る。
【図3】壁に開口がある場合の例を示した立面図であ
る。
【図4】壁に開口がある場合の例を示した立面図であ
る。
【図5】壁に開口がある場合の例を示した立面図であ
る。
【図6】壁に開口がある場合の例を示した立面図であ
る。
【図7】スリットの断面の例を示した水平断面図であ
る。
【図8】スリットの断面の例を示した水平断面図であ
る。
【図9】スリットの断面の例を示した水平断面図であ
る。
【図10】スリットの断面の例を示した水平断面図であ
る。
【図11】スリットの断面の例を示した参考水平断面図
である。
【図12】スリットの断面の例を示した参考水平断面図
である。
【図13】柱から分離した壁に横方向にスリットを形成
し、上下に分離した壁間に制震装置を設置した状況を示
した立面図である。
【図14】壁が接続しないフレームの面内に、梁に接続
しないブレースを架設し、ブレースと、それが接続しな
い梁間に制震装置を設置した状況を示した立面図であ
る。
【図15】請求項3記載発明実施した状況を示した平
面図である。
【図16】柱とそれに接続する壁を持つ既存建物の耐力
−変形の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
1……柱、2,21……壁、3……スリット、4……梁、
5……スラブ、6……開口、7……制震装置、8……プ
レート、9……ブレース、10……鋼材。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 山田 俊一 東京都港区元赤坂1丁目2番7号 鹿島 建設株式会社内 (72)発明者 小鹿 紀英 東京都港区元赤坂1丁目2番7号 鹿島 建設株式会社内 (72)発明者 鈴木 紀雄 東京都港区元赤坂1丁目2番7号 鹿島 建設株式会社内 (72)発明者 黒川 泰嗣 東京都港区元赤坂1丁目2番7号 鹿島 建設株式会社内 (56)参考文献 特開 平7−62927(JP,A) 特開 昭61−142265(JP,A) 特開 昭61−78945(JP,A) 特開 平5−12511(JP,A) 特公 昭63−63708(JP,B2) 特公 平7−49723(JP,B2) 特公 平5−12511(JP,B2) 特公 平3−72784(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) E04G 23/02 E04H 9/02 321

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 既存建物内において、壁が接続するいず
    れかの柱と梁からなるフレームに対し、柱とそれに接続
    する壁の境界部分を、厚さ方向の一部を残し、鉄筋を含
    めて斫り取り、柱と壁間に縦方向にスリットを形成して
    柱と壁を実質的に分離させ、壁が接続する他のいずれか
    の柱と梁からなるフレームに対し、柱とそれに接続する
    壁の境界部分を、柱と壁間に縦方向にスリットを形成し
    て柱と壁を分離させると共に、柱から分離した壁の鉛直
    方向の中間部を水平方向に斫って壁に横方向にスリット
    を形成し、上下に分離した壁間に、両者間の相対水平変
    位時に減衰性能を発揮する制震装置をスリットを跨いで
    設置する既存建物の耐震補強方法。
  2. 【請求項2】 既存建物内において、壁が接続するいず
    れかの柱と梁からなるフレームに対し、柱とそれに接続
    する壁の境界部分を、厚さ方向の一部を残し、鉄筋を含
    めて斫り取り、柱と壁間に縦方向にスリットを形成して
    柱と壁を実質的に分離させ、壁が接続しないいずれかの
    柱と梁からなるフレームの面内に、上階,もしくは下階
    の梁に接続しないブレースを架設し、ブレースと、それ
    が接続しない梁間に、両者間の相対水平変位時に減衰性
    能を発揮する制震装置を設置する既存建物の耐震補強方
    法。
  3. 【請求項3】 既存建物内において、壁が接続するいず
    れかの柱と梁からなるフレームに対し、柱とそれに接続
    する壁の境界部分を、厚さ方向の一部を残し、鉄筋を含
    めて斫り取り、柱と壁間に縦方向にスリットを形成して
    柱と壁を実質的に分離させ、壁が接続する他のいずれか
    の柱と梁からなるフレームに対し、柱とそれに接続する
    壁の境界部分を、柱と壁間に縦方向にスリットを形成し
    て柱と壁を分離させると共に、柱から分離した壁の鉛直
    方向の中間部を水平方向に斫って壁に横方向にスリット
    を形成し、上下に分離した壁間に、両者間の相対水平変
    位時に減衰性能を発揮する制震装置をスリットを跨いで
    設置し、壁が接続しないいずれかの柱と梁からなるフレ
    ームの面内に、上階,もしくは下階の梁に接続しないブ
    レースを架設し、ブレースと、それが接続しない梁間
    に、両者間の相対水平変位時に減衰性能を発揮する制震
    装置を設置する既存建物の耐震補強方法。
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