JP3349560B2 - 海水冷却器の防食方法及び防食装置 - Google Patents

海水冷却器の防食方法及び防食装置

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、海水冷却器中に鉄イオ
ンを供給して銅合金製チューブの内面に防食被膜を形成
する海水冷却器の防食方法及び防食装置に関する。
【0002】
【背景技術】石油精製装置においては、海水冷却器(海
水クーラとも呼ばれる)が多用されている。この海水冷
却器の銅合金製チューブは、海水によって腐食すること
があり、これにより石油精製装置の停止というトラブル
が発生する。このため、従来、海水中に鉄イオン(Fe
2+)を注入して銅合金製チューブの内面に防食被膜を形
成するという防食対策が採られている。鉄イオンの注入
には、硫酸第一鉄を溶解して注入する方法及び電解鉄イ
オン発生装置で電気的に鉄イオンを発生させる方法があ
る(特開昭55-23857号公報等)。そして、銅合金製チュ
ーブ表面の分極抵抗値を測定してチューブの腐食状況を
モニターし、注入すべき鉄イオンの量を調整している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】海水中に鉄イオンを注
入して銅合金製チューブの内面に防食被膜を形成するこ
とができるが、実際にはチューブの内面に形成されるも
のは、この鉄イオンによる防食被膜だけではない。即
ち、海水中の特にマンガンイオンやイオウイオン等によ
ってもチューブ内面に被膜が形成される。例えばマンガ
ン被膜は、腐食電池のように作用し、この被膜に傷や自
然剥離のような部分的な損傷が生じると、その部分に優
先的な陽極反応が起きて腐食が急速に進むことになる
(マンガンアタックと呼ばれる)。
【0004】しかし、前記分極抵抗値は、腐食率と相関
関係があり、被膜の耐食性を定量的に把握するのには有
効であるが、被膜の種類が鉄によるものか、又はその他
によるものかの判別はできない。従って、鉄による被膜
の代わりにマンガンイオン等又はその他の生物等による
有害な被膜ができていても、判別できないため、得られ
た分極抵抗値自体には問題がなくても、結果的に銅合金
製チューブに腐食が生じていたということも起こってい
た。そこで、本発明は、銅合金製チューブ内面に形成さ
れた被膜が有害な被膜か否かを判別し、これに基づいて
鉄イオンの供給状態を調整することができる海水冷却器
の防食方法及び防食装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明は、海水
冷却器に鉄イオンを供給して銅合金製チューブの内面に
防食被膜を形成する海水冷却器の防食方法において、前
記チューブ表面の電位と分極抵抗値とを測定し、前記電
位の測定結果に基づいて被膜が有害な被膜か否かを判別
すると共に、前記分極抵抗値の測定結果に基づいて被膜
の耐食性を推定し、これらの測定結果に基づいて前記鉄
イオンの供給状態を調整することを特徴とする。
【0006】前記分極抵抗値とは、金属の腐食速度を求
める手法の一つである分極抵抗法により計測される表面
の抵抗値である。この分極抵抗法とは、自然腐食電位付
近の微小分極域(〜20mV)において分極電流ΔIと分
極電位ΔEが直線関係を有し、分極抵抗ΔE/ΔIが腐
食電流密度icorrに逆比例することを利用したものであ
る。鉄イオンの供給は、硫酸第一鉄を溶解して注入する
方法又は電解鉄イオン発生装置で電気的に鉄イオンを発
生させる方法のいずれでもよい。
【0007】この防食方法において、前記電位は−200
mVを超えた場合、一方、前記分極抵抗値は2×104 Ω
・cm2 未満の場合に異常と判断して前記鉄イオンの供給
状態を調整する。即ち、分極抵抗値が2×104 Ω・cm2
以上であって、防食被膜として必要な耐食性が認められ
ても、電位が−200 mVを超えている場合には鉄イオン
だけによる防食被膜ではなく、マンガンイオン等による
有害な被膜も形成されていると判断して鉄イオンの供給
状態を調整する。この鉄イオンの供給状態の調整には、
海水中の鉄イオン濃度を増加させる場合又は鉄イオンが
含まれている海水の供給量を増やす場合がある。
【0008】なお、この鉄イオン供給状態の調整は、自
動又は手動のいずれでもよい。また、本発明に係る海水
冷却器の防食装置は、海水冷却器に鉄イオンを供給して
銅合金製チューブの内面に防食被膜を形成する海水冷却
器の防食装置であって、前記海水冷却器中に鉄イオンを
供給する鉄イオン供給装置と、前記チューブ表面の電位
および分極抵抗値を測定する測定装置と、前記電位の測
定結果に基づいて被膜が有害な被膜か否かを判別すると
共に、前記分極抵抗値の測定結果に基づいて被膜の耐食
性を推定し、これらの測定結果に基づいて前記鉄イオン
の供給状態を調整する制御装置とを備えことを特徴と
する。本防食装置には、前記鉄イオン供給装置、測定装
置以外に例えば表示装置等を適宜設けることができ
る。
【0009】
【実施例】図面を参照して本発明の一実施例に係る海水
冷却器の防食装置及びこれを使用した防食方法を説明す
る。図1に示すように、本発明に係る海水冷却器11の防
食装置は、モニタリング装置12及び鉄イオン供給装置13
を備えて構成される。前記モニタリング装置12は、海水
冷却器11の複数個が並列に配置された銅合金製チューブ
14のうち、最も防食効果の小さい、末端に位置する銅合
金製チューブ14と並列に設置されている。
【0010】図2に示すように、このモニタリング装置
12は、前記チューブ14表面の電位と分極抵抗値を測定す
る測定装置15、制御装置16及び表示装置17を有し、各装
置15〜17が電気的に接続されている。前記測定装置15
は、センサー部18と計測部19よりなる。図3に示すよう
に、前記センサー部18は、前記チューブ14と同材料のチ
ューブ14に、電気化学的計測を行うためのマイナスリー
ド線21、照合電極22及び対極23が取り付けられて構成さ
れたものである。
【0011】前記計測部19は、例えば市販のコロージョ
ンモニターである。前記制御装置16は、パーソナルコン
ピュータである。前記表示装置17は、CRT等によるも
のである。前記鉄イオン供給装置13は、電気的に鉄イオ
ン(Fe2+)を発生させる電解鉄イオン発生装置であ
り、モニタリング装置12と接続されている。発生した鉄
イオン25は、海水冷却器11の海水24入口から供給され
る。
【0012】次に、この防食装置を使用した海水冷却器
の防食方法を説明する。海水24が、海水冷却器11のチュ
ーブ14内及びモニタリング装置12のチューブ14内を流れ
ている。そして、前記制御装置16より一定時間毎に測定
装置15に測定の指示が出て、測定装置15はこの指示に基
づいて電位(飽和カロメル電極 SCE に対する表面の電
位)と分極抵抗値を測定し、その測定結果を制御装置16
に戻す。測定結果のうち、分極抵抗測定値(Rpmes)
は、単位面積当たりの分極抵抗値(Rp )に下記の式に
より変換する。 Rpmes=f(Rp ,L,D)
【0013】この式で、Lはチューブの長さ(cm)、D
はチューブの内径(cm)、fはこれらの関数である。f
は、非線形関数であり、反復法によりその都度計算する
か、又はRpmesとRp の近似式を求めておき、代入して
求めるようにする。制御装置16は、上記の通り求められ
たチューブ14表面の電位と分極抵抗値に基づき、電位が
−200 mVを超えた場合、一方、分極抵抗値が2×104
Ω・cm2 未満の場合に異常と判断して表示装置17に警報
を表示する。そして、制御装置16は、同時に前記鉄イオ
ン供給装置13に信号をフィードバックさせて海水24中の
鉄イオン含有量が増えるように鉄イオン25の供給状態を
調整する。
【0014】実験例 実際に使用されている海水冷却器の銅合金製チューブ
(曲管)14を被膜が形成されている状態のまま取り出
し、このチューブ14を海水に浸漬して8日間上記実施例
と同様の方法によりチューブ14表面の電位と分極抵抗値
を測定した。電位の測定結果を図4に、また分極抵抗値
の測定結果を図5に示す。これらの測定結果より、分極
抵抗値の方は2×104 Ω・cm2 以上であり、被膜の厚さ
については正常であるが、電位の方は−200 mVを超え
ているため、この被膜の種類が鉄イオンに基づくものだ
けはなく、例えばマンガンイオンに基づいて形成された
有害被膜の割合が多いと判断できる。
【0015】この結果、被膜中の本来形成すべき鉄イオ
ンによる防食被膜の割合が少ないことがわかり、海水24
への鉄イオン注入濃度の増加等の的確な対応策を採っ
て、チューブ14の腐食による例えば石油精製装置の停止
というトラブルの発生を防止することができる。また、
本実施例では、制御装置16と表示装置17により、海水冷
却器11の腐食状況を運転中に常時監視でき、即時的な対
応が可能になる。本実施例により、防食被膜の形成に必
要な最適量の鉄イオン量を海水冷却器11に供給すること
ができるようになるため、経済性が高まると共に、環境
への影響の低減も図れる。
【0016】本実施例では、モニタリング装置12は、複
数の銅合金製チューブ14が並列された海水冷却器11の末
端に位置するチューブ14に設置されているため、チュー
ブ14全体の腐食状況の判断ができる。また、本実施例の
構成により、海水冷却器がU字管式チューブよりなる場
合であっても、最も腐食しやすいU字部分の測定が可能
である。更に、モニタリング装置12を海水冷却器11とは
別体として配置しているため、モニタリング装置12が故
障した場合においても対応が容易である。
【0017】
【発明の効果】本発明に係る海水冷却器の防食方法及び
防食装置によれば、銅合金製チューブ内面に形成された
被膜が有害な被膜か否かを判別し、これに基づいて鉄イ
オンの供給状態を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る海水冷却器の防食方法
において使用する防食装置の構成図である。
【図2】本実施例に係る防食装置のモニタリング装置部
分の構成図である。
【図3】本実施例に係る防食装置のセンサー部の断面図
である。
【図4】実験例でチューブの電位を測定したグラフであ
る。
【図5】実験例でチューブの分極抵抗値を測定したグラ
フである。
【符号の説明】
11 海水冷却器 12 モニタリング装置 13 鉄イオン供給装置 14 銅合金製チューブ 15 測定装置16 制御装置 18 センサー部 19 計測部 21 マイナスリード線 22 照合電極 23 対極 24 海水 25 鉄イオン
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大庭 忠彦 東京都足立区足立4−6−12 (56)参考文献 特開 昭63−267894(JP,A) 特開 昭60−253796(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) F28F 19/00 - 19/06

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 海水冷却器に鉄イオンを供給して銅合金
    製チューブの内面に防食被膜を形成する海水冷却器の防
    食方法において、 前記チューブ表面の電位と分極抵抗値とを測定し、前記
    電位の測定結果に基づいて被膜が有害な被膜か否かを判
    別すると共に、前記分極抵抗値の測定結果に基づいて被
    膜の耐食性を推定し、これらの測定結果に基づいて前記
    鉄イオンの供給状態を調整することを特徴とする海水冷
    却器の防食方法。
  2. 【請求項2】 前記電位は−200 mVを超えた場合、一
    方、前記分極抵抗値は2×104 Ω・cm2 未満の場合に異
    常と判断して前記鉄イオンの供給状態を調整することを
    特徴とする請求項1記載の海水冷却器の防食方法。
  3. 【請求項3】 海水冷却器に鉄イオンを供給して銅合金
    製チューブの内面に防食被膜を形成する海水冷却器の防
    食装置であって、 前記 海水冷却器中に鉄イオンを供給する鉄イオン供給装
    置と、 前記チューブ表面の電位および分極抵抗値を測定する測
    定装置と、 前記電位の測定結果に基づいて被膜が有害な被膜か否か
    を判別すると共に、前記分極抵抗値の測定結果に基づい
    て被膜の耐食性を推定し、これらの測定結果に基づいて
    前記鉄イオンの供給状態を調整する制御装置と を備える
    ことを特徴とする海水冷却器の防食装置。
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