JP3312639B2 - (メタ)アクリル酸エステルの重合防止剤組成物および該組成物を用いた(メタ)アクリル酸エステルの重合防止方法 - Google Patents

(メタ)アクリル酸エステルの重合防止剤組成物および該組成物を用いた(メタ)アクリル酸エステルの重合防止方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアクリル酸エステルおよ
びメタクリル酸エステル((メタ)アクリル酸エステル
と総称する)の重合防止剤組成物およびこの組成物を用
いた(メタ)アクリル酸エステルの重合防止方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】(メタ)アクリル酸エステルは光や熱に
よって重合し易いことから、その製造、輸送あるいは保
存中の重合を防止するために種々の重合防止剤が単独あ
るいは数種組み合わせて添加されている。
【0003】例えば、特公昭50−33042号公報に
は、ビニル化合物の重合防止剤として(a)ジフェニル
アミン、p−フェニレンジアミン類およびニトロソ化合
物から選ばれる少なくとも1種と(b)硫黄、チオ尿
素、ジアルキル尿素、ヨウ素およびヨウ化カリから選ば
れる少なくとも1種とを併用することにより、ハイドロ
キノン、メチレンブルー、フェニル−β−ナフチルアミ
ン、レゾルシノールなどの従来公知のものよりも優れた
重合防止効果が得られることが記載されている。そし
て、成分(a)としてp−フェニレンジアミン類を用い
た場合の、具体例としては、N,N’−ジフェニル−p
−フェニレンジアミンと硫黄および/またはヨウ素との
組合せが挙げられている。
【0004】特公昭54−14903号公報には、ビニ
ル系モノマーの重合防止剤として、N,N’−ジアリー
ル−p−フェニレンジアミンを単独または混合して使用
することによりハイドロキノン、p−フェニレンジアミ
ン、フェノチアジンなどの従来公知のものよりも優れた
重合防止効果が得られることが記載されている。
【0005】特開平5−194614号公報には、
(a)N,N’−ジニトロソフェニレンジアミン類に
(b)フェノチアジン類を、所望により(c)ハイドロ
キノンまたはハイドロキノンモノメチルエーテル、さら
に所望により(d)フェニレンジアミン類を組み合わせ
てなる重合抑制剤組成物が記載されている。
【0006】特開平1−230543号公報には、特定
の構造を有するp−フェニレンジアミン類を用いて不飽
和カルボン酸またはそのエステルを安定化する方法が開
示され、このp−フェニレンジアミン類は公知の重合防
止剤と併用してもよいとされているが、併用による相乗
効果については何ら記載されていない。
【0007】また、特開平2−248402号公報に
は、特定の構造を有するp−フェニレンジアミン類を用
いたアクリル酸エステル類の重合禁止剤およびその重合
防止方法が開示され、このp−フェニレンジアミン類は
公知の重合防止剤と併用してもよいとされているが、具
体的にはp−フェニレンジアミンとフェノチアジンとの
組合せが開示されているにすぎない。
【0008】ところで、(メタ)アクリル酸とアルコー
ルとをエステル化反応させて(メタ)アクリル酸エステ
ルを製造する際には、(メタ)アクリル酸エステルの分
離、濃縮、精製などに蒸留操作が用いられている。そし
て、(メタ)アクリル酸エステルは非常に重合し易い性
質を有し、特に脱水工程、高沸分離工程およびその他の
高温状態での処理工程においては、(メタ)アクリル酸
エステルの重合がきわめて起こり易くなっている。
【0009】このため、上記のような従来公知の重合防
止剤を通常の添加量で使用しても十分な重合防止効果が
得られず、運転中にポップコーンポリマーや粘性ポリマ
ーが発生して、蒸留塔を含む製造装置の長期連続運転が
不可能になるという問題が起こっている。また、十分な
重合防止効果を発現させようとすると、多量の重合防止
剤が必要となり、実装置での使用は困難となる。そのほ
か、ニトロソ化合物の場合、(メタ)アクリル酸エステ
ルの製造化工程で用いると微量のニトロソ化合物の混入
によって、製品(メタ)アクリル酸エステルの着色、更
には経時により色調が悪化するという問題が生じるた
め、工業的に使用し得るものではなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記事情に
着目してなされたものであって、(メタ)アクリル酸エ
ステルが重合し易い工程であっても少量で十分な重合防
止効果を発揮し、しかも製品(メタ)アクリル酸エステ
ル中に少量残留した場合でも製品の色調への影響が少な
い重合防止剤組成物、およびこの組成物を用いた(メ
タ)アクリル酸エステルの重合防止方法を提供すること
を目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らの研究によれ
ば、p−フェニレンジアミン化合物、フェノール化合物
およびフェノチアジンを組合せ用いることにより上記目
的が達成できることを知り、この知見に基づいて本発明
を完成するに到った。
【0012】すなわち、本発明は、(A)一般式:
【0013】
【化2】
【0014】(式中、R1およびR2は同一でも、あるい
は異なっていてもよく、各々、炭素数1〜8の直鎖また
は分岐状アルキル基、フェニル基または炭素数1〜4の
直鎖または分岐状アルキル基置換フェニル基である)で
表されるp−フェニレンジアミン化合物、(B)フェノ
ール化合物、および(C)フェノチアジンからなること
を特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの重合防止剤
組成物、およびこの組成物を用いた(メタ)アクリル酸
エステルの重合防止方法に関する。
【0015】以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】本発明の成分(A)としては、前記一般式
で表されるp−フェニレンジアミン化合物が用いられ
る。これらのうち、好適な化合物としてはN,N’−ジ
フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−o
−トリル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル
−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンおよびN−
(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フ
ェニレンジアミンを挙げることができる。これら化合物
は単独でも、あるいは2種組み合わせて使用することも
できる。
【0017】本発明の成分(B)としては、ハイドロキ
ノン、メトキノン、クレゾールおよびt−ブチルカテコ
ールから選ばれる少なくとも1種のフェノール化合物が
用いられる。これらのうち、好適な化合物としてはハイ
ドロキノンおよびメトキノンを挙げることができる。こ
れら化合物は単独でも、あるいは混合して使用すること
もできる。
【0018】本発明の成分(C)としては、フェノチア
ジンが用いられる。
【0019】本発明の重合防止剤組成物における各成分
の重量比については、成分(A):成分(B):成分
(C)=1:(0.3〜3):(0.3〜3)の範囲内
で選択するのが好ましい。特に、成分(A):成分
(B):成分(C)=1:(0.5〜2):(0.5〜
2)の範囲内とするのが好ましい。成分(A)に対する
成分(B)の割合が0.3より少ないか、あるいは3を
超えると重合防止効果が不十分となり、また成分(A)
に対する成分(C)の割合が0.3より少ないか、ある
いは3を超えると重合防止効果が不十分となって好まし
くない。
【0020】本発明の重合防止剤組成物の使用量は、
(メタ)アクリル酸エステルに対し、通常、5〜100
0ppm(重量、以下同じ)であるが、本発明の重合防
止剤組成物は、蒸留工程で使用する場合でも、(メタ)
アクリル酸エステルに対し5〜50ppm、特に5〜3
0ppmという少量でも優れた重合防止効果を発揮す
る。
【0021】本発明の重合防止剤組成物は従来公知の重
合防止剤、例えばジフェニルアミン、ジアルキルジチオ
カルバミン酸銅塩(アルキル基:メチル、エチル、プロ
ピル、ブチルまたはフェニル)、テトラアルキルチウラ
ムジスルフィド(アルキル基:メチル、エチル、プロピ
ル、ブチルまたはフェニル)、メチレンブルーなどと組
み合わせて使用することもできる。しかし、ニトロソ化
合物を使用すると、製品(メタ)アクリル酸エステルの
色調の経時変化が大きくなるので、本発明の重合防止剤
組成物はニトロソ化合物と組み合わせて使用するのは好
ましくない。
【0022】本発明の重合防止剤組成物の使用方法には
特に制限はなく、従来公知の重合防止剤と同様にして添
加すればよい。すなわち、固体または粉体などの形で直
接添加してもよいし、あるいは他の有機溶媒の溶液とし
て添加してもよい。また、添加時期についても特に制限
はなく、3成分を個別に、あるいは同時に、例えば一つ
の溶液の形で添加してもよい。例えば、前記の蒸留工程
においては、供給液や還流液に溶かして導入すればよ
い。
【0023】また、本発明の重合防止剤組成物は分子状
酸素と併用するので、重合防止効果が更に向上し、製造
装置の長期運転が可能となる。分子状酸素の供給方法に
ついては、エアーバプリングなどにより(メタ)アクリ
ル酸エステルに直接混入させてもよいし、あるいは他の
溶媒に溶解した状態で間接的に供給してもよい。蒸留塔
やストリッパーの塔底、あるいはリボイラーからガス状
で供給するとエアーバブリングを簡単に製造工程に組み
込むことができる。分子状酸素は、(メタ)アクリル酸
の蒸発蒸気量に対して0.1〜1容量%程度供給するの
が望ましい。
【0024】
【発明の効果】本発明の成分(A)、(B)および
(C)からなる重合防止剤組成物によれば、次のような
効果が得られる。
【0025】(1)成分(A)、(B)および(C)の
単独、または2成分を組み合わせたものに比べて、(メ
タ)アクリル酸エステルの重合防止効果が著しく高い。
【0026】(2)その優れた重合防止効果により、
(メタ)アクリル酸エステルがきわめて重合しやすい条
件下でも、その重合を防止することができる。また、少
ない添加量によっても十分な重合防止効果が得られる。
【0027】(3)したがって、(メタ)アクリル酸エ
ステルの製造における(メタ)アクリル酸製造装置の長
期にわたる連続運転が可能となる。
【0028】(4)(メタ)アクリル酸エステルの輸送
および貯蔵時にも、優れた重合防止効果を発揮する。
【0029】(5)製品(メタ)アクリル酸エステルに
微量残留してもその色調への影響はきわめて少ない。
【0030】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に
説明する。なお、単位ppmは重量基準であり、使用し
た化合物は次のように略記した。
【0031】PDA−1:N,N’−ジ−o−トリル−
p−フェニレンジアミン、 PDA−2:N−イソプロピル−N’−フェニル−p−
フェニレンジアミン、 PDA−3:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−
フェニル−p−フェニレンジアミン、 PDA−4:N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジ
アミン、 MQ:メトキノン、 PTZ:フェノチアジン NNDPA:N−ニトロソジフェニルアミン 実施例1 予め蒸留により重合防止剤を除去した4種のアクリル酸
エステル、すなわちアクリル酸メチル(AM)、アクリ
ル酸エチル(AE)、アクリル酸ブチル(AB)および
アクリル酸オクチル(AO)を試験ブランク液とした。
このブランク液30mlを試験管にとり、これに表1に
示す組成および濃度(アクリル酸エステル基準)の重合
防止剤を添加して調整液とした。次いで、試験管内を減
圧にした後、それぞれ所定の温度、すなわちAMのとき
は70℃、AEのときは90℃、ABおよびAOのとき
は120℃に保持したオイルバス中に浸漬し、試料の液
温を測定し、重合による発熱を開始した時間を重合開始
時間として表1に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】表1の結果から、成分(A)、(B)およ
び(C)の単独または2種からなる重合防止剤を添加し
たNo.1〜6(比較例)においては、本発明の成分
(A)、(B)および(C)からなる重合防止剤を添加
したNo.7〜11(本発明の実施例)に比べて、重合
開始時間が短く、重合防止効果が劣っていることが分か
る。特に、No.8では、重合防止剤の総量が少なくな
っているにもかかわらず、No.1〜6に比べて、重合
開始時間が長くなっている。
【0035】また、表2の結果から、各成分の重量比
が、成分(A):成分(B):成分(C)=1:0.3
〜3:0.3〜3の範囲内になければ十分な重合防止効
果が得られないことが分かる。表2において、No.1
6、19、20、23および24は比較例である。
【0036】実施例2 予め蒸留により重合防止剤を除去した2種のメタクリル
酸エステル、すなわちメタクリル酸メチル(MMA)お
よびメタクリル酸ブチル(BMA)を試験ブランク液と
した。このブランク液30mlを試験管に入れ、表3に
示した組成および濃度(メタクリル酸エステル基準)の
重合防止剤を添加して調整液とした。以下、実施例1と
同様にして重合開始時間を測定し、結果を表3に示し
た。なお、オイルバス温度はMMAのときは90℃に、
またBMAのときは120℃に保持した。
【0037】
【表3】
【0038】表3におけるNo.25〜30(比較例)
とNo.31(本発明の実施例)との比較により、本発
明の重合防止剤組成物は、重合開始時間が長く、優れた
重合防止効果を発揮していることが分かる。
【0039】実施例3 予め蒸留により重合防止剤を除去した4種の(メタ)ア
クリル酸エステル、すなわちアクリル酸2−ヒドロキシ
エチエル(HEA)、アクリル酸2−ヒドロキシプロピ
ル(HPA)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(H
EMA)およびメタクリル酸2−ヒドロキシプロピル
(HPMA)を試験ブランク液とした。このブランク液
30mlを試験管に入れ、表4に示した組成および濃度
((メタ)アクリル酸エステル基準)の重合防止剤を添
加して調整液とした。次いで、試験管内を減圧にした
後、100℃に保持したオイルバスに浸漬した。以下、
実施例1と同様にして重合開始時間を測定し、結果を表
4に示した。
【0040】
【表4】
【0041】表4におけるNo.32〜37(比較例)
とNo.38(本発明の実施例)との比較により、本発
明の重合防止剤組成物は、重合開始時間が長く、優れた
重合防止効果を発揮していることが分かる。
【0042】実施例4 予め蒸留により重合防止剤を除去したアクリル酸ブチル
を試験ブランク液とした。このブランク液30mlを試
験管に入れ、表5に示した組成および濃度(アクリル酸
エステル基準)の重合防止剤を添加して調整液とした。
次いで、試験管内を減圧にした後、60℃に保持したオ
イルバスに浸漬しながら、試料の色調の経時による変化
を観察した。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】本発明の重合防止剤組成物を用いたNo.
40では色調の悪化が小さいのに対して、ニトロソ化合
物を用いたNo.39(比較例)では色調の悪化が大き
く、本発明の重合防止剤組成物は製品の色調の点におい
てもニトロソ化合物に比べて有利であることが分かる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き 審査官 藤森 知郎 (56)参考文献 特開 平5−194614(JP,A) 特開 平6−234700(JP,A) 特開 平2−248402(JP,A) 特開 平1−230543(JP,A) 特開 平2−193944(JP,A) 特開 平2−17151(JP,A) 特公 昭50−33042(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07C 67/62 C07C 69/54

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】(A)一般式: 【化1】 (式中、RおよびRは同一でも、あるいは異なって
    いてもよく、各々、炭素数1〜8の直鎖または分岐状ア
    ルキル基、フェニル基または炭素数1〜4の直鎖または
    分岐状アルキル基置換フェニル基である)で表されるp
    −フェニレンジアミン化合物、(B)フェノール化合
    物、および(C)フェノチアジンを含む(ただし、ニト
    ロソ化合物との併用を除く。)ことを特徴とする(メ
    タ)アクリル酸エステルの重合防止剤組成物。
  2. 【請求項2】 p−フェニレンジアミン化合物がN,
    N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’
    −ジ−o−トリル−p−フェニレンジアミン、N−イソ
    プロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンお
    よびN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル
    −p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも1種
    である請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの重
    合防止組成物。
  3. 【請求項3】 フェノール化合物がハイドロキノン、メ
    トキノン、クレゾールおよびt−ブチルカテコールから
    選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の(メタ)
    アクリル酸エステルの重合防止剤組成物。
  4. 【請求項4】 成分(A)と成分(B)と成分(C)と
    の割合(重量比)が1:(0.3〜3):(0.3〜
    3)である請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステル
    の重合防止剤組成物。
  5. 【請求項5】(メタ)アクリル酸エステルを蒸留する際
    に、該蒸留を請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステ
    ルの重合防止剤組成物、または該重合防止剤組成物およ
    び酸素の存在下に行うことを特徴とする(メタ)アクリ
    ル酸エステルの重合防止方法。
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