JP3307242B2 - セラミック被覆耐熱部材とその用途及びガスタービン - Google Patents

セラミック被覆耐熱部材とその用途及びガスタービン

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JP3307242B2
JP3307242B2 JP26403496A JP26403496A JP3307242B2 JP 3307242 B2 JP3307242 B2 JP 3307242B2 JP 26403496 A JP26403496 A JP 26403496A JP 26403496 A JP26403496 A JP 26403496A JP 3307242 B2 JP3307242 B2 JP 3307242B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐熱セラミック被
覆層を設けた耐熱部材に係り、特に高温耐久性に優れた
耐熱セラミック被覆部材とその用途及びガスタービンに
関する。
【0002】
【従来の技術】発電用のガスタービンで代表される耐熱
部品は発電効率の向上を目的として運転温度の高温化、
或いは部品の冷却媒体の減少が必須となり、耐熱部品で
あるタービン静翼,動翼,燃焼器,シュラウド等の高温
耐久性の向上が強く要望されている。また、上記の高温
部品の長寿命化もガスタービンの運用コストの低減から
も必須となってきている。このような背景のもとで、高
温強度が高く信頼性に優れた耐熱材料の開発が進んでい
るが、その耐熱温度に限界がある。そこで、高温条件下
で使用される部品の基材メタル温度を低減する方法とし
て、熱遮蔽コーティング(TBC)が有効となり、部品
の冷却とTBCとの組合せにより基材メタル温度をTB
C無しに比べ50〜200℃低減することが可能にな
る。
【0003】しかし、過酷な熱負荷条件で用いられるT
BCはセラミック層のはく離等の損傷が生じ易く、特に
発電効率の向上を目指した高温ガスタービンでは損傷が
顕著になってくる。
【0004】そこで、耐久性に優れた各種のTBCが提
案されており、例えば熱応力緩和機能を付与した柱状晶
セラミック層を設けた柱状組織TBC(特公平1−18993
号),多孔質セラミック層を設けた多孔組織TBC(例え
ばUS PAT 4,503,130)がある。これらのTBCはセラミ
ック層と基材を構成する耐熱合金との熱膨張の差に起因
する熱応力による損傷を防止する構成であるが、過酷な
熱負荷条件ではセラミック層とその下部層との境界近傍
からのはく離が生じてしまう。
【0005】このように、従来の熱応力緩和機能を付与
しただけのTBCでは、運転温度の高い高効率発電用ガ
スタービンの熱負荷条件下でセラミック層の損傷が生
じ、本来の目的である遮熱効果を十分発揮しなくなって
しまう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の従来のTBCで
は、セラミック層を構成する材料として、熱伝導率が小
さく、熱膨張が大きく、かつ高温での安定性に優れたZ
rO2 系セラミックが用いられている。ZrO2 単独で
は相変態に伴う寸法変化による損傷が生じるため、Y2
3,CaO,MgO,CeO2,Sc23 等を結晶構
造安定化剤として添加し相変態を防止した安定化ZrO
2 或いは部分安定化ZrO2 が用いられる。また、セラ
ミック層の組織としても、柱状組織、或いは多孔質組織
が用いられる。TBCとしてはセラミック層とその下部
層で構成され、下部層として高温耐酸化耐食性に優れた
MCrAlY(MはCo,Ni,Feのいずれか、或い
はそれらの組合せ)、或いはMCrAlY合金の表面部
をAl rich化したものが用いられる。また、下地
層の表面を酸化させAl23の薄膜層を設けたものもあ
る。
【0007】このようなTBCを高温ガスタービン部品
に用いる場合、冷却機能を有した部品に適用され、TB
Cの遮熱効果を得ることになる。高温ガスタービン部品
では燃焼ガス温度が高いため、部品の冷却性能も大きく
なり、部品を貫通する熱量(熱流束)が大きくなる。そ
の結果、部品表面に設けたTBCでは、大きな熱流束に
より遮熱効果も大きくなりTBCの効果が大きくなる。
しかし、熱流束が大きくなるにつれ、TBCを構成する
最外層のセラミック層の温度も高くなってくる。その
為、ZrO2 系セラミック固有の特性である酸素イオン
伝導性も大きくなり、セラミック層を通じての下部層表
面への酸素供給も増加する。すなわち、下部層表面での
酸化反応が促進されることになる。下部層はMCrAl
Y合金層から成っており、MCrAlY合金では酸化反
応による損傷を防止する機能を有している。特に高温で
は、合金成分中のAlが酸化されAl23となり、Al2O
3がバリヤー層となり合金自体の内部酸化を防止する。
【0008】しかし、合金成分中のAlによってAl2
3バリヤー層を形成するため、高温での酸化が促進さ
れる条件下ではAl23層のAl、或いは酸素の拡散に
より、Al23の厚膜化が進行する。Al23の厚膜化
が進行した場合、熱サイクルによる熱応力でAl23
近傍での損傷が生じ、セラミック層のはく離が生じる。
このような下地層とセラミック層との界面に形成された
Al23層近傍での損傷は、セラミック層が柱状組織で
熱応力緩和機能を有したTBCでも生じることが報告さ
れている(ASME meating 資料,1991−GT−
40)。
【0009】本発明者らは、柱状組織セラミックを設け
たTBC、或いは多孔質セラミックを設けたTBCにつ
いて、高温での加熱保持を伴なう熱サイクル試験を実施
した結果、加熱保持温度が高い程、いずれのTBCでも
界面のAl23層近傍でセラミック層がはく離しTBC
の損傷が生じるまでのサイクル繰り返し数が小さいこと
を明らかにした。
【0010】航空機用ガスタービンでは、離陸時の短時
間の最大負荷の繰り返しが主な熱負荷であるが、発電用
ガスタービンでは、起動・長時間の定常保持・停止が繰
り返されることになる。従って、上記の高温加熱保持を
伴う試験では、発電用ガスタービンにTBCを用いた場
合の熱負荷を模擬したものになる。
【0011】このように、発熱用ガスタービン部品にT
BCを用いるに際しては、ZrO2系セラミック層の高
温での酸素イオン伝導性に伴うセラミック層と下地層と
の界面でのAl23層の厚膜化がTBCの高温耐久性を
著しく低下させることになる。
【0012】本発明の目的は、セラミック層と下地層と
の界面でのAl23層の厚膜化を防止し、高温耐久性に
優れたセラミック被覆耐熱部材とその用途及びガスター
ビンを提供するにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明はZrO2 系セラ
ミック(安定化ZrO2 或いは部分安定化ZrO2 )の
高温での酸素イオン伝導性を大幅に低減させ、かつ、Z
rO2 系セラミックの他の特性を損なわない新しいZr
2 系セラミックを見い出した。すなわちこのような特
性を有したセラミックは高温ガスタービン用、特に高温
条件下で長時間運転される発電用ガスタービン用のTB
Cとして用いた場合、部分安定化、或いは安定化ZrO
2 系セラミックの最大の問題であったセラミックの高温
での酸素イオン伝導性に起因するセラミック層と下地メ
タルとの界面での下地メタル層の加速酸化によるAl2
3層の厚膜化を防止でき、Al23層の厚膜化による
界面近傍での損傷に伴うセラミック層のはく離を防止す
ることができ、高温長時間運転条件下で耐久性に優れた
TBCを実現できることを見い出した。
【0014】以上の本発明のTBCでのセラミック層を
構成する材料としてはイオン伝導性の部分安定化、或い
は安定化ZrO2 系セラミックに絶縁特性に優れた化合
物、例えばAl23系酸化物を加えたセラミックが有効
となる。Al23を加えたセラミック層の組織としては
特に限定はないが、プラズマ溶射等の溶融相で形成され
たセラミック層、或いは電子ビーム蒸着等の気相で形成
されたものがあげられる。前者の場合、セラミック層の
組織としては、偏平した粒子が積層した多孔質組織であ
る。この場合では多孔質セラミック層の欠陥を通じての
酸素の浸入、及び、ZrO2 系セラミックの酸素イオン
伝導性により、セラミック層と下地層との界面に酸素が
供給され、界面での酸化反応により下地層を構成するM
CrAlY合金中のAlがAl23となる。本発明のTB
Cにおけるセラミック層ではZrO2 系にAl23を加
えたものであるため、セラミック層の酸素イオン伝導性
が大幅に低減されるので、界面での酸化反応が著しく少
なくなる。その結果、高温条件下で長時間使用した場合
でも、TBCのセラミック層と下地層との界面に形成さ
れるAl23層の厚膜化が防止できる。このような多孔
質組織のセラミック層中でのAl23の存在形態として
は個々の偏平粒子が混合物で構成されたもの、或いは、
ZrO2 系の偏平粒子とAl23の偏平粒子とが混合し
て積層したもののいずれの形態でも良い。個々の偏平粒
子が混合物の場合、個々の粒子の酸素イオン伝導性が低
下する。一方、ZrO2 系粒子とAl23の粒子との混
合組織の場合、積層した粒子を通じての酸素イオン伝導
性が低下する。もちろん、両方の混合状態が複合化され
た組織であっても、酸素イオン伝導性の低減効果が得ら
れる。
【0015】このようなイオン伝導性ZrO2 系セラミ
ックと絶縁性のAl23との混合状態のセラミック層の
形成方法としては、混合状態の粉末粒子を原料として溶
射する方法、ZrO2系とAl23との混合粉末を原料
として溶射する方法、ZrO2系粒子の表面にAl
23、或いはAl23を構成する金属元素成分(Al)
を被覆し、その複合粉末粒子を原料として溶射する方
法、及び、上記の方法での原料を組合せた粉末粒子を原
料として溶射する方法がある。いずれの方法において
も、ZrO2 系セラミックとAl23とが混合した本発
明のセラミック層が得られ、そのセラミック層の酸素イ
オン伝導性が大幅に低下する。
【0016】一方、電子ビーム熱着等で形成したセラミ
ック層はセラミック層の厚さ方向に柱状組織セラミック
が成長した状態のものが得られる。このような組織のセ
ラミック層では偏平粒子が積層した状態のセラミック層
に比べ、酸素イオン伝導に対する抵抗となる粒子境界が
無いため、酸素イオン伝導によるセラミック層と下地層
との界面での酸化反応は非常に大きくなる。本発明のセ
ラミック層では柱状組織セラミック層の酸素イオン伝導
性が大幅に低減されるため、界面の酸化反応の抑制効果
が非常に大きくなる。このような本発明のセラミック層
の形成方法としては、ZrO2 系セラミックとAl23
との同時蒸着、或いは、それぞれを交互に蒸着する方法
がある。いずれの方法においても、本発明のセラミック
層の組織は柱状組織を構成するセラミックがZrO2
セラミックとAl23との混合組織である。ナノオーダ
ーレベルでの観察ではその組織は両者がほぼ均一に混合
したもの、或いは両者が交互に積層した結晶から成って
いるものである。
【0017】以下の本発明のTBCでのセラミック層を
構成する成分として、部分安定化、或いは安定化ZrO
2 (ZrO2 系セラミック)に混合される成分としては
イオン伝導性を防止する主たる機能として絶縁性に富む
材料であれば本発明の目的を達成できる。このような絶
縁物の混合範囲としては、本来ZrO2 系セラミックの
高温での酸素イオン伝導性によって決定されるべきであ
るが、本発明での酸素イオン伝導性の低減の効果は、高
温長時間加熱時のTBCにおけるセラミック層と下地層
との界面でのAl23層の厚さの検討によって明らかに
される。従って、絶縁物の混合量の最適範囲も、TBC
における界面のAl23層の厚さと絶縁物の混合量との
関係から決定することができる。本発明者らは、このよ
うな考え方に基づき、混合物の添加量として3.5〜5
0wt% が界面でのAl23層の厚膜化防止に有効な
範囲であることを明らかにした。また、望ましくは5〜
40wt%の範囲が、その効果が最も大きくなることも
明らかにした。添加量の少ない場合、酸素イオン伝導性
の低減効果が少なく、その結果界面での酸化抑制効果が
少なくなりAl23層の厚膜化の防止が不十分になる。
一方、ZrO2 系セラミックでの酸素イオン伝導性の低
下は絶縁物の添加とともに大きくなるが、50%以上で
は絶縁物の効果がほぼ一定になり、大幅なる低下が認め
られなくなる。むしろ、絶縁物特有の熱物性値(熱伝
導,熱膨張,比熱,輻射等)がセラミック層自体の熱特
性として顕著になり、ZrO2 系セラミック特有の熱物
性を変化させ、TBC用セラミックとして優れた熱特性
を損なうことになる。従って、本発明のTBC用セラミ
ックとして絶縁物の混合添加量として前述の範囲が望ま
しい。また、TBCとしてはセラミック層と下地層とか
ら成る二層構造のTBCの他に、セラミック層と下地層
との間に熱応力緩和、或いは高温耐食耐酸化を目的とし
た中間層を設けたTBC、或いは下地層表面に高温耐食
耐酸化を目的とした付与層を設けたTBCが提案されて
いるが、このようないずれのTBCにおいても、ZrO
2 系セラミック層の酸化イオン伝導に伴うセラミック層
下部層への酸素の供給による酸化は共通の問題であり、
本発明のセラミック層が下部層の酸化の進行を防止する
上で有効となり、TBCの高温耐久性の向上に大きく貢
献する。ZrO2 セラミックの部分安定化又は安定化剤
として、1種での添加では重量で、Y235〜15%,
CaO5〜15%,MgO15〜30%,CeO212
〜22%,Sc235〜15%が好ましく、2種以上で
は5〜20%が好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
〔実施例1〕本発明のTBCとして部分安定化ZrO2
としてZrO2−8wt%Y23 、絶縁物としてAl2
3を用い、プラズマ溶射による多孔質セラミック及び
電子ビーム蒸着による柱状組織セラミックを作製した。
基材はNi基耐熱合金(Rene'−80:重量で、Ni−
14%Cr−4%Mo−4%W−3%Al−5%Ti−
9.5%Co )を用い、その表面にMCrAlY合金
(Co−32%Ni−21%Cr−8%Al−0.5%
Y )粉末を用いて減圧雰囲気中プラズマ溶射で下地層
を形成した。その条件はAr−7%H2 混合ガスを用い
て形成したプラズマジェット(50kW)中に前記の合
金粉末を投入し溶射するもので、溶射中の雰囲気圧力は
約50Torrである。なお、この前処理として基材の脱脂
洗浄さらにAl23製グリッドによるブラスチングを行
っている。形成した下地層の厚さは約150μmであ
る。
【0019】プラズマ溶射による多孔質セラミックを有
したTBCの場合、下地層を設けた基材の上に大気中プ
ラズマ溶射にて250μm厚さのセラミック層を形成し
た。大気中プラズマ溶射の条件は、Ar−7%H2 混合
ガスを用いて形成したプラズマジェット(45kW)中
に本発明のセラミック粉末を投入し溶射した。本発明の
セラミック粉末として、ZrO2−8wt%Y23 セラ
ミックに(5,10,30,40,50)wt%のAl2
3を添加した粉末、及び、ZrO2−8wt%Y23
ラミック粉末とAl23粉末とを混合した粉末(混合割
合として10,30wt%Al23)を用いた。なお、
比較の為、ZrO2−8wt%Y23 粉末、ZrO2
8wt%Y23 セラミックに(2.5 ,60)wt%
Al23を添加した粉末もそれぞれ用いた。これらのプ
ラズマ溶射で溶融相によって形成したセラミック層は、
断面組織の観察結果、いずれも偏平した粒子が積層した
状態で多孔質組織であった。
【0020】一方、電子ビーム蒸着による柱状セラミッ
クを有したTBCの場合、下地層の表面あらさをRmax.
10μmとなるようにピーニング処理したもの、及び、
Rmax.65μmとなるようにブラスチング処理したもの
を用いた。電子ビーム蒸着の条件は到達真空度が10~6
Torrのチエンバーを用い、16kWの電子ビームで蒸着
原料を溶融させ、5×10~5Torrの真空中で下地層を設
けた基材表面に気相によって蒸着させ約200μmの厚
さのセラミック層を形成した。成膜時の基材温度は約8
50℃である。本発明のセラミック層の成膜に際して
は、蒸着原料としてZrO2−8wt%Y23 とAl2
3とを用いた二元蒸着方式を用い、それぞれの蒸着量
を膜厚モニターを用い電子ビーム出力を制御した。下地
層の表面あらさRmax.10μmの試験片を用い、ZrO
2−8wt%Y23 とAl23との混合割合を(5,1
0,25,40,50)wt%の本発明のセラミック層
を成膜した。なお、比較のため、ZrO2−8wt%Y2
3、及び(2.5,60)wt%Al23のセラミック
層の成膜も実施した。また、下地層の表面あらさRmax.
65μmについて(0,10,25)wt%Al23
セラミック層を成膜した。これらのセラミック層は、断
面及び破断面の観察結果、下地層の表面あらさがRmax.
10μmでは数μm幅の柱状組織、Rmax.65μmでは
数μm幅の柱状組織(一次柱状)及び、一次柱状の集合
体から成る数十μm幅の柱状組織(二次柱状)から成る
柱状組織セラミックであった。
【0021】なお、このような柱状組織セラクック層の
場合、ZrO2 系セラミック層の成膜の前に、Al23
のみを蒸着させ約0.5μm のAl23のみを形成し
た。また、一部のセラミック層成膜(ZrO2−8wt
%Y23 及び10,40wt%Al23添加)では、
Al23層の成膜を実施せず下地層の上に直接ZrO2
系セラミックを成膜した。
【0022】一方、蒸着方法として、ZrO2−8wt
%Y23 とAl23との混合状態のセラミックを蒸着
原料とする成膜も実施した。この場合、Al23の混合
割合は(5,10,25)wt%であり、蒸着条件は前
述の二元蒸着と同様で、セラミック層の厚さは約200
μmである。但し、この場合、蒸着源は一ケであり膜厚
もニターによるZrO2−8wt%Y23 とAl23
の蒸着量の制御は不要である。また、本法で作製したT
BCではZrO2 系セラミックの成膜に先立ち、前記と
同様のAl23層を成膜した。
【0023】他の蒸着方法として、前記の電子ビーム蒸
着とイオンビーム照射とを組合せた成膜を実施した。本
法では、電子ビーム蒸着の方法及び条件は前記と同様で
あるが、更に5keV の酸素イオンビームを基材表面に照
射した。すなわち、本法では、電子ビーム蒸着に先立
ち、酸素イオンビームの照射のみを行い下地層の表面を
イオンビームによるスパッタリングによる清浄化を行
い、更に、酸素イオン注入により下地層表面部にAl2
3を形成する。しかる後、イオンビーム照射下で電子
ビーム蒸着を行うことにより気相による約200μmの
厚さのセラミック層を成膜した。セラミックの原料とし
ては、ZrO2−8wt%Y23 とAl23との混合状
態のセラミックを蒸着原料とした。Al23の混合割合
は(5,10,25)wt%である。本法では、下地層
の表面あらさがRmax.10μmを用いたため、形成した
セラミック層の組織は、断面及び破断面観察の結果、い
ずれも数μm幅の柱状組織から成るセラミックであっ
た。
【0024】以上の種々の方法で成膜した本発明のセラ
ミック層を有するTBCについて、その効果を明らかに
するため以下の検討を実施した。先ず、本発明のTBC
におけるセラミック層の酸素イオン伝導性の低減効果を
明らかにするため、高温長時間加熱を実施し、試験後の
セラミック層と下地層との界面のAl23層の厚さを調
べた。表1は大気中加熱(1100℃,100h)後と
試験前との界面のAl23層の厚さの測定値を示す。な
お、一部のセラミック層については成分後のセラミック
の分析を行い、Al23含有率を調べた。その結果を表
1中に示す。表1中でNo.1〜9はZrO2−8wt%
23 にAl23を添加した複合化粉末を用いたプラ
ズマ溶射によるセラミック層を有したTBC,No.1
1,12はZrO2−8wt%Y23 粉末とAl23
末との混合粉末を用いたもの、No.21〜28,31〜
33,41〜43はZrO2−8wt%Y23とAl23
との二元蒸着で柱状組織セラミックを成膜したもので、
No.21〜28では下地層の表面あらさがRmax.10μ
mで、下地層表面に0.5μm のAl23層を設けたも
の、No.31〜33ではAl23層なしのもの、No.4
1〜43では下地層の表面あらさがRmax.65μmでA
23層なしのものである。No.51〜53はZrO2
−8wt%Yl23 とAl23との混合した原料を蒸
着したもの、No.61〜63は蒸着と酸素イオン照射を
同時に行なって成膜したものである。
【0025】
【表1】
【0026】表1から明らかなように、高温加熱試験後
のTBCの断面組織から求めたセラミック層と下地層と
の界面のAl23層の厚さは、Al23添加なしのセラ
ミックの場合、多孔質セラミック(No.1)では7μm、
柱状組織セラミック(No.21)では10μmと厚膜化
している。一方、本発明の酸素イオン伝導性を低減させ
たセラミックを有したTBCでは、多孔質セラミック
(No.3〜7,No.11,12)で5〜3μm、柱状組
織セラミック(No.23〜27,No.32,33,No.
42,43,No.51〜53,No.61〜63)で6〜
2μmとなり、酸素イオン伝導性の低減によるセラミッ
ク層と下地層との界面での酸化抑制効果でAl23の厚
膜化が防止されている。5wt%以下のAl23の場
合、多孔質セラミック(No.2),柱状組織セラミック
(No.22)のいずれともAl23層の厚膜化の抑制効
果が不十分である。また、50wt%以上のAl23
加の場合、多孔質セラミック(No.8),柱状組織セラミ
ック(No.28)ともに、Al23層の厚膜化の防止効
果は50wt%Al23添加と大差がなく、添加の効果
が少ないことが明らかになった。
【0027】更に、本発明のTBCでの真の目的は高温
長時間に曝され、かつ,起動,停止の際の熱応力を受け
るガスタービン高温部品での耐久性の向上である。そこ
で本発明者らは、このようなガスタービン高温部品での
熱負荷を模擬した試験として、高温での保持を伴う熱サ
イクル試験を実施し、本発明のTBCの効果をより明確
化した。試験として、大気中加熱(1050℃,1h)
と200℃までの冷却を繰り返す条件で、加熱時間5mi
n.、冷却時間5min.の繰り返しを行なった。試験片の寸
法はφ9mm、長さ50mmの円柱状で円柱側面にTBCを
設けた。なお、高温での加熱保持無しの加熱冷却熱サイ
クル試験も比較の為に実施した。加熱保持有りの加熱冷
却サイクル試験では、TBCとして本発明のTBCを含
め、表1中の全てのTBCについて実施した。
【0028】
【表2】
【0029】表2は高温加熱保持有りの熱サイクル試験
でのTBCの損傷発生回数を示す。また、一部の試験片
では高温加熱保持無しの熱サイクル試験も実施した結果
を示す。多孔質セラミック層から成る本発明のTBCで
は(No.3〜7,No.11,12)、酸素イオン伝導性
を有したセラミック層から成る従来公知のTBC(No.
1)に比べ、はく離が生じるまでの回数が大幅に大きく
なり、実機ガスタービンの高温部品での熱負荷条件での
耐久性の向上が認められた。Al23添加量が3.5%
以下の場合(No.2)では、酸素イオン伝導性の低減効
果が少ないため、耐久性の向上の効果がほとんど認めら
れない。これらのTBCでは、損傷はいずれともセラミ
ック層と下地層との界面近傍のセラミック層であった。
一方、Al23添加量が50%以上の場合(No.8)で
は、添加したAl23自体の熱サイクル特性に支配さ
れ、セラミック層内でのはく離が生じた。特に、5〜5
0%が好ましい。また、これらの全ての試験片につい
て、試験後のセラミック層が一部残っている部分の断面
組織観察で、本発明のTBC(No.3〜7,No.11,
12)ではセラミック層と下地層との界面のAl23
の厚さが2〜3μmであったのに比べ、従来のTBC
(No.1)、或いはAl23添加量の少ないTBC(No.
2)では、Al23層の厚さが6〜7μmと厚膜化して
いた。一方、Al23添加量の多いTBC(No.8)で
は、Al23層の厚さが2μmであったが、前述のよう
にセラミック層内で破損が生じ、はく離を招いていた。
【0030】なお、比較の為に実施した加熱保持無しの
熱サイクル試験では、1回のサイクルでセラミック層が
高温に曝される時間がほとんどなく、はく離が生じるま
での高温での積算加熱時間は数時間である。従って、本
試験条件では、セラミック層の酸素イオン伝導性に起因
するセラミック層と下地層との界面での酸化による損傷
ではなく、むしろセラミック層と基材との熱膨張差に起
因する熱応力の繰り返しによる損傷によって耐久性が支
配されている。そのため、本発明のTBCの効果は認め
られない。しかし、この条件は実機ガスタービンの高温
部品での熱負荷条下と大きく異なっており、本発明のT
BCの有効性を示す試験として適していない。
【0031】次に、柱状組織セラミック層から成る本発
明のTBCでは(No.23〜27,No.32,33,N
o.42,43,No.51〜53,No.61〜63)、酸
素イオン伝導性を有したセラミック層から成る公知のT
BC(No.21,No.31,No.41)、或いはAl2
3添加量が5%以下のセラミック層から成るTBC
(No.23)に比べて、TBCの損傷が生じるまでの繰
り返し数の大幅な増加が認められる。一方、Al23
加量が50%以上では耐久性の向上の効果は低下してい
た。この理由として、セラミック層を構成する主な材料
がAl23となるため、Al23自体の耐熱サイクル性
の影響が反映されて、耐久性の低下を招いたと考えられ
る。また、本発明のTBCでも、耐久性向上の有効なる
効果を得るためにはAl23の添加量が5〜40%の範
囲が好ましいことも判る。これらの全ての試験片につい
て、試験後のセラミック層が一部残っている部分の断面
組織で、本発明のTBC(No.23〜27,No.32,
33,No.42,43,No.51〜53,No.61〜6
3)では、セラミック層と下地層との界面のAl23
の厚さが3〜5μmであったのに比べ、従来のTBC
(No.21,No.31,No.41)或いはAl23添加
量が5%以下のセラミック層から成るTBC(No.23)
では、Al23層の厚さが9〜10μmと厚膜化してい
た。一方、Al23添加量の多いTBC(No.28)で
は、Al23層の厚さが3μmであったが、前述のよう
にセラミック層自体で破損が生じ、はく離を招いてい
た。
【0032】なお、比較の為に実施した加熱保持無しの
熱サイクル試験では、1回のサイクルでセラミック層が
高温に曝される時間がほとんどなく、はく離が生じるま
での高温での積算加熱時間は数十時間である。従って、
本条件では、セラミック層の酸素イオン伝導性に起因す
るセラミック層と下地層との界面での酸化による損傷で
はなく、むしろ、セラミック層と基材との熱膨張差に起
因する熱応力の繰り返しによる損傷によって耐久性が支
配されている。そのため、本発明TBCの効果は認めら
れない。しかし、この条件は実機ガスタービンの高温部
品での熱負荷条件と大きく異なっており、本発明のTB
Cの有効性を示す試験として適していない。むしろ、多
孔質セラミック層を有したTBCと、柱状組織TBCと
のセラミック層自体の熱応力緩和機能の差を評価する試
験条件となっている。従って、本発明での柱状組織セラ
ミック層を有したTBCでは、セラミック層の酸素イオ
ン伝導性の低減によるセラミック層と下地層との界面で
の酸化反応の抑制に伴うAl23層の厚膜化の防止と、
セラミック層自体の優れた熱応力緩和機能とが有効に働
き、非常に優れた耐久性を示すことが明らかになった。
【0033】このように、ZrO2 系セラミックを用い
たTBCをガスタービンの高温部品に適用し、TBCの
優れた遮熱効果を利用する上で問題となっていたセラミ
ック層のはく離に対して、本発明のTBCを用いること
によって解決することが可能になる。また、ZrO2
セラミック層の酸素イオン伝導性は温度が高くなるに従
ってより大きくなるため、本発明のTBCは、燃焼ガス
温度が高い高効率ガスタービン用のTBCとして優れて
いる。更に、セラミック層として、熱応力緩和作用に優
れた柱状組織セラミックでは、セラミック層の膜厚方向
に粒界及び欠陥が少ないため、酸素イオン伝導性が大き
く、セラミック層と下地層との界面での酸化反応が促進
され、Al23層が厚膜化しTBCの高温耐久性の低下
を招いていた。しかし、本発明のTBCでは、界面のA
23層の厚膜化を防止できるため、セラミック層の熱
応力緩和作用を十分発揮でき、過酷な熱的環境に曝され
る高温ガスタービン部品に適用し、長期間にわたり使用
することができる。
【0034】〔実施例2〕実施例1と同様のNi基耐熱
合金(Rene'−80)を基材とし、減圧雰囲気中プラズマ
溶射にてCoNiCrAlY合金から成る下地層を実施
例1と同様の条件で同様の仕様のものを作製した。しか
る後、本発明のTBCを作製するため、ZrO2−12%
23に10%Al23を添加した粉末、ZrO2−17
%CeO2に10%Al23を添加した粉末、ZrO2
8CaO に10%Al23を添加した粉末、ZrO2
24%MgO に10%Al23を添加した粉末を用い
て、実施例1と同様のプラズマ溶射にてセラミック層を
形成した。なお、比較の為、ZrO2−12%Y23
ZrO2−17%CeO2,ZrO2−8CaO,ZrO2
−24%MgO のそれぞれのセラミック層を設けたT
BCも作製した。
【0035】これらの本発明のTBC及び比較用の公知
のTBCについて、実施例1と同様の高温加熱試験を実
施し、試験後のそれぞれのTBCの断面観察により、セ
ラミック層と下地層との界面に形成したAl23層の厚
さを調べた。その結果、本発明のTBCではAl23
厚さが4〜5μmであり、比較材とした公知のTBC
(Al23の添加無しのセラミック層を設けたTBC)
では7μmであった。また、実施例1と同様の加熱保持
有りの熱サイクル試験でも、TBCの損傷が生じるまで
のサイクル数は、本発明のTBCでは比較材とした公知
のTBCの約3倍となり、本発明のTBCが高温耐久性
に優れていることが明らかになった。
【0036】次に、上記の10%Al23を添加したそ
れぞれのZrO2 系セラミックを原料として、実施例1
と同様の電子ビーム蒸着にてセラミック層を成膜し本発
明のTBCを作製した。この場合、下地層の表面あらさ
がRmax.10μmで、セラミック層の成膜の前に、下地
層の表面に実施例1と同様に0.5μm のAl23層を
形成した。また、比較のため、Al23添加無しのそれ
ぞれのZrO2 系セラミックを原料とし、同様の条件に
てセラミック層を成膜した公知のTBCも作製した。こ
れらの本発明のTBC、及び比較材として作製したTB
Cともに、セラミック層の組織は数μmの柱状組織が膜
厚方向に成長した柱状組織セラミックであった。
【0037】これらのTBCについて、実施例1と同様
の高温加熱試験及び、加熱保持有りの熱サイクル試験を
行った。その結果、高温加熱試験後の断面観察では、セ
ラミック層と下地層との界面のAl23層の厚さが、本
発明のTBCで4〜5μm、公知のTBCで9〜11μ
mであった。また、加熱保持有りの熱サイクル試験の結
果では、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数が、本
発明のTBCが公知のTBCの約3倍であった。これら
の結果から、本発明のTBCが高温耐久性に優れている
ことが明らかになった。
【0038】〔実施例3〕実施例1と同様のNi基耐熱
合金(Rene'−80)を基材とし、実施例1と同様の方法
で下地層となるCoNiCrAlY合金層を形成した。
しかる後、本発明のTBCとして、ZrO2−8%Y2
3 の部分安定化ZrO2 セラミックに絶縁材料であるH
fO2,SiO2,MgOの酸化物、AlN,BN,Si
34の窒化物をそれぞれ15%添加したセラミック原料
を用いて、実施例1と同様の電子ビーム蒸着にて柱状組
織から成るセラミック層を成膜した。なお、下地層の表
面あらさはRmax.10μmで、下地層の表面に約0.5
μm のAl23層を設けた。セラミック層の厚さは約
150μmである。また、断面観察の結果、いずれのセ
ラミック層とも、数μmの柱状組織のセラミックが膜厚
方向に成長した組織であった。
【0039】これらの本発明のTBCについて、実施例
1と同様の評価試験を実施した結果、高温加熱試験後の
断面観察ではセラミック層と下地層との界面のAl23
層の厚さが2〜4μmであり、加熱保持有りの熱サイク
ル試験では、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数が
8000〜9000回の範囲であった。従って、実施例
1での比較材である公知のTBCの結果に比べ、本発明
のTBCが高温耐久性に優れたものであることが明らか
になった。
【0040】〔実施例4〕Ni基耐熱合金(単結晶合
金:CMSX−4,Ni−6.6%Cr−0.6%Mo−
6.4%W−3.0%Re−5.6%Al−1.0%Ti−
6.5%Ta−9.6%Co)を基材として用い、実施例
1と同様に下地層としてNi−23%Co−17%Cr
−12%Al−0.5%Y 合金からなるNiCoCrA
lY層を形成し、ZrO2−8%Y23−10%Al2
3 を原料として実施例1中の電子ビーム蒸着にてセラミ
ック層を形成した。下地層の表面あらさRmax.10μm
で、セラミック層の成膜の前に、下地層の表面に1μm
のAl23層を形成した。形成したセラミック層は数μ
m幅の柱状組織が膜厚方向に成長した組織で、厚さが2
00μmである。このようにして作製した本発明のTB
Cを実施例1と同様の評価試験を実施した。高温加熱試
験後の断面観察ではセラミック層と下地層との界面のA
23層の厚さが3μmであり、加熱保持有りの熱サイ
クル試験では、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数
が8700回であり、実施例1での比較材である公知の
TBCの結果に比べ、本発明のTBCが高温耐久性に優
れたものであることが明らかになった。
【0041】〔実施例5〕Ni基耐熱合金(一方向凝固
材,Mar−M247,Ni−16%Cr−1.8%M
o−2.6%W−3.4%Al−3.4%Ti−1.7%T
a−8.5%Co−0.1%C)を基材として用い、実施
例1と同様に下地層としてni−30%Co−20%C
r−8%Al−0.5%Y 合金から成るNiCoCrA
lY層を形成し、ZrO2−12%Y23−5%Al2
3 を原料として実施例1中の電子ビーム蒸着とイオンビ
ーム照射とを組合せた成膜法にて、約200μmのセラ
ミック層を作製した。下地層の表面あらさはRmax.10
μmで、セラミック成膜の前に、下地層の表面に0.5
μm のAl23層を形成した。形成したセラミック層
は数μm幅の柱状組織が膜厚方向に成長した組織であ
る。このようにして作製した本発明のTBCを実施例1
と同様の評価試験を実施した。高温加熱試験後の断面観
察ではセラミック層と下地層との界面のAl23層の厚
さが4μmであり、加熱保持有りの熱サイクル試験で
は、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数が8500
回であり、実施例1での比較材である公知のTBCの結
果に比べ、本発明のTBCが高温耐久性に優れたもので
あることが明らかになった。
【0042】〔実施例6〕Co基耐熱合金(FSX−4
14,Co−30%Cr−10%Ni−7%W−1%M
n−1%Si−0.2%C )を基材として用い、実施例
1と同様に下地層としてCoNiCrAlY層を形成
し、ZrO2−8%Y23−15%Al23から成る粉
末を用いプラズマ溶射にて、300μm厚さのセラミッ
ク層を形成した。このようにして作製した本発明のTB
Cを実施例1と同様の評価試験を実施した。高温加熱試
験後の断面観察ではセラミック層と下地層との界面のA
23層の厚さが4μmであり、加熱保持有りの熱サイ
クル試験では、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数
が3300回であり、実施例1での比較材である公知の
TBCの結果に比べ、本発明のTBCが高温耐久性に優
れたものであることが明らかになった。
【0043】〔実施例7〕図1に示すCo基耐熱合金製
(FSX−414)ガスタービン静翼の燃焼ガスに曝さ
れる翼部21及び上,下のエンドウォール部22に、実
施例6と同様に本発明のセラミック被覆層を設けた本発
明のセラミック被覆ガスタービン静翼を作製した。この
場合、下地層として減圧雰囲気中プラズマ溶射にてCoNi
CrAlY 合金層を設け、しかる後、ZrO2−8%Y23
−15%Al23 から成る粉末を用いプラズマ溶射に
て本発明のセラミック層を形成した。下地層の厚さは1
50μm、セラミック層の厚さは300μmである。
【0044】この場合、減圧雰囲気中溶射ではプラズマ
形成ガスがAr−7%H2 でプラズマ出力50kWで約
50Torrの減圧雰囲気中で前記のCoNiCrAlY合
金粉末を溶射し、下地層を作製した。その後、大気中で
プラズマ溶射をプラズマ形成ガスがAr−7%H2、プ
ラズマ出力45kWで実施し、前記のZrO2−Y23
−Al23の成分から成るセラミック被覆層を作製し
た。セラミック被覆層は偏平した粒子が積層した多孔質
な組織であった。
【0045】このようにして作製した本発明のセラミッ
ク被覆静翼を用いて加熱保持有りの熱サイクル試験を実
施した。この場合、電気炉中での加熱(1130℃,1
h)と電気炉外での冷却で、冷却時には静翼の冷却用の
通路に空気を流し200℃まで冷却した。このような試
験の結果、TBCの損傷が生じるまでのサイクル数(T
BCのはく離面積が20%になるまでのサイクル数)は
870回であった。なお、比較の為に作製した従来公知
のセラミック層(ZrO2−8%Y23 )を設けたTB
C静翼では150回でTBCが損傷した。従って、本発
明のセラミック被覆静翼では、約6倍の耐久性があるこ
とが明らかになった。
【0046】〔実施例8〕図1と同様の形状のNi基耐
熱合金製(IN−939,Ni−23%Cr−2%W−
2%Al−3.7%Ti−1.4%Ta−19%Co−
0.15%C )ガスタービン静翼の燃焼ガスに曝される
翼部21及び上,下のエンドウォール部22に、実施例
4と同様に本発明のセラミック被覆層を設けた本発明の
セラミック被覆ガスタービン静翼を作製した。この場
合、下地層として減圧雰囲気中プラズマ溶射にてNiC
oCrAlY合金層を設け、しかる後、ZrO2−8%Y
23−10%Al23を原料として電子ビーム蒸着にて
本発明のセラミックを形成した。下地層の厚さは150
μmで、表面あらさがRmax.10μm、セラミック層の
厚さは200μmである。
【0047】この場合、減圧雰囲気中溶射ではプラズマ
で形成ガスがAr−7%H2 でプラズマ出力50kWで
約50Torrの減圧雰囲気中で前記のNiCoCrAlY
合金粉末を溶射し、しかる後、溶射膜の表面をショット
ピーニング処理することにより、下地層の表面あらさを
Rmax.10μmとした。その後、実施例1中の電子ビー
ム蒸着にて、到達真空度が10~6Torrチェンバーを用
い、16kWの電子ビームで前記蒸着原料を溶融させ、
5×10~6Torrの真空中で、静翼を構成するメタル温度
850℃で本発明のセラミック層を作製した。セラミッ
ク被覆層は数μm幅の柱状組織が膜厚方向に成長した組
織であった。
【0048】このようにして作製した本発明のセラミッ
ク被覆静翼を用いて、実施例7と同様の加熱保持有りの
熱サイクル試験(加熱条件、1130℃,1h)を実施
した。試験の結果、TBCの損傷が生じるまでの回数は
2300回であった。なお、比較の為に作製したZrO
2−8%Y23 を蒸着原料とした従来公知のセラミック
層を設けたTBC静翼では、320回でTBCが損傷し
た。従って、本発明のセラミック被覆静翼では、約7倍
の耐久性があることが明らかになった。
【0049】〔実施例9〕図2に示すNi基耐熱合金製
(ハイテロイ−X,Ni−22%Cr−1.5%Co−
9%Mo−20%Fe−0.1%C)ガスタービン燃焼器
の燃焼ガスに曝される燃焼器内面に、実施例6と同様に
本発明のセラミック被覆層を設けた本発明のセラミック
被覆燃焼器を作製した。この場合、下地層として減圧雰
囲気中プラズマ溶射にてCoNiCrAlY合金層を設
け、しかる後、ZrO2−8%Y23−15%Al23
ら成る粉末を用いプラズマ溶射にて本発明のセラミック
層を形成した。下地層の厚さは100μm、セラミック
層の厚さは250μmである。
【0050】この場合、減圧雰囲気中溶射ではプラズマ
形成ガスがAr−7%H2 でプラズマ出力50kWで約
50Torrの減圧雰囲気中で前記のCoNiCrAlY合
金粉末を溶射し、下地層を作製した。その後、大気中で
プラズマ溶射をプラズマ形成ガスがAr−7%H2、プ
ラズマ出力45kWで実施し、前記のZrO2−Y23
−Al23の成分から成るセラミック被覆層を作製し
た。セラミック被覆層は偏平した粒子が積層した多孔質
は組織であった。
【0051】このようにして作製した本発明のセラミッ
ク被覆燃焼器を用いて実施例7と同様の加熱保持有りの
熱サイクル試験を実施した。この場合、電気炉中での加
熱(1130,1h)と電気炉外での冷却を繰り返す試験
で、TBCの損傷が生じるまでの回数が750回であっ
た。なお、比較の為に作製したZrO2−8%Y23をプ
ラズマ溶射で被覆した従来公知のTBCを設けた燃焼器
では、130回でTBCの損傷が生じた。従って、本発
明のセラミック被覆燃焼器では、約5.7倍の耐久性が
あることが明らかになった。
【0052】〔実施例10〕図3に示すNi基耐熱合金
製(IN−738LC,Ni−16%Cr−8%Co−2
%Mo−2.5%W−3%Ti−1.7%Ta−3.5%
Al )ガスタービンシュラウドの燃焼ガスに曝される
面に、実施例4と同様に本発明のセラミック被覆層を設
けたセラミック被覆ガスタービンシュラウドを作製し
た。この場合、下地層として減圧雰囲気中プラズマ溶射
にてNiCoCrAlY合金層を設け、しかる後、Zr
2−8%Y23−10Al23 を原料として電子ビー
ム蒸着にて本発明のセラミックを形成した。下地層の厚
さは150μmで、表面あらさがRmax.10μm、セラ
ミック層の厚さは300μmである。
【0053】この場合、減圧雰囲気中溶射ではプラズマ
形成ガスがAr−7%H2 でプラズマ出力50kWで、
約50Torrの減圧雰囲気中で前記のNiCoCrAlY
合金粉末を溶射し、しかる後、溶射膜の表面をショット
ピーニング処理することにより、下地層の表面あらさを
Rmax.10μmとした。その後、実施例1中の電子ビー
ム蒸着にて、到達真空度が10~6Torrのチェンバーを用
い、16kWの電子ビームで前記蒸着原料を溶融させ、
5×10~5Torrの真空中で、シュラウドを構成するメタ
ル温度950℃で本発明のセラミック層を作製した。セ
ラミック被覆層は数μm幅の柱状組織が膜厚方向に成長
した組織であった。
【0054】このようにして作製した本発明のセラミッ
ク被覆シュラウドを用いて、実施例7と同様の加熱保持
有りの熱サイクル試験(加熱条件,1130℃,1h)
を実施した。試験の結果、TBCの損傷が生じるまでの
回数は2700回であった。なお、比較の為に作製した
ZrO2−8%Y23 を蒸着原料とした従来公知のセラ
ミック被覆層を設けたTBCシュラウドでは、350回
でTBCが損傷した。従って、本発明のセラミック被覆
シュラウドでは、約7.7 倍の耐久性があることが明ら
かになった。
【0055】〔実施例11〕図4は実施例7,9,10
の方法によって作製した本発明のセラミック被覆静翼,
セラミック被覆燃焼器,セラミック被覆シュラウドを有
するガスタービンの断面図である。初段の静翼は図1に
示した構造で翼部21,エンドウォール部22を有した
ものである。本実施例による静翼は内部から冷却できる
ように冷却媒体、特に空気又は水蒸気が通るように冷却
孔がエンドウォール部から翼部を通して設けられてい
る。本実施例のセラミック被覆静翼は初段に最も優れて
いるが2段以降の後段静翼にも設けることができる。初
段のシュラウドは図3に示した構造で、燃焼ガスに曝さ
れる部分31と冷却媒体で冷却される部分32から成
る。本実施例のセラミック被覆シュラウドは初段に最も
優れているが、2段以降の後段シュラウドにも設けるこ
とができる。燃焼器は図2に示した構造で、燃焼器本体
41にスリット冷却孔42,スプリングシール43を有
したものである。本実施例では、初段静翼に本発明のセ
ラミック被覆静翼,初段シュラウドに本発明のセラミッ
ク被覆シュラウド,燃焼器に本発明のセラミック被覆燃
焼器を用い、圧縮機の圧縮圧を14.7 、温度400
℃、燃焼器による燃焼ガス温度を1450℃級とした。
【0056】
【発明の効果】本発明のセラミック被覆層においては、
高温で酸素イオン伝導性となるZrO2系の安定化、或い
は部分安定化ZrO2 セラミックに絶縁物である化合物
を添加することにより、高温でのZrO2 セラミックの
酸素イオン伝導性が大幅に低減することができ、ZrO
2 系セラミック層と下地層を構成するMCrAlY合金
層との界面での酸化反応を大幅に低減できる。発電用の
ガスタービンでは、航空機用のエンジンに比べ高温での
連続運転時間が長いため、界面での酸化反応に伴うMC
rAlY合金からのAl23層の成長・厚膜化がセラミ
ック層のはく離の主原因となり、TBCの耐久性の低下
を招くか、本発明のセラミック被覆層においては、酸化
反応の低減により、界面でのAl23層の成長・厚膜化
を大幅に抑制でき、TBCの耐久性の改善が達成でき
る。すなわち、セラミック被覆層が高温に長時間曝され
る発電用高温ガスタービン部品に用いた結果、その優れ
た耐久性によってセラミック被覆層のはく離等の損傷が
生じ難く、セラミック被覆層の本来の目的である遮熱効
果を十分維持でき、部品を構成する基材メタル温度の低
減により部品の信頼性が向上し、その寿命を長くするこ
とが可能になる。また、遮熱効果が安定して得られるた
め、ガスタービン部品の冷却用の空気等の冷却媒体を少
なくすることができ、タービンの発電効率を高くするこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】セラミック被覆タービン静翼の斜視図。
【図2】セラミック被覆タービン燃焼器の斜視図。
【図3】セラミック被覆タービンシュラウドの斜視図。
【図4】本実施例に係るガスタービンの全体構成図。
【符号の説明】
1…タービンブレード、2…タービンノズル、4…ター
ビンディスク、6…コンプレッサディスク、8…コンプ
レッサスタッキングボルト、9…コンプレッサスタブシ
ャフト、10…タービンタブシャフト、13…タービン
スタッキングボルト、17…コンプレッサブレード、1
8…スペーサ、19…ディスタントピース、21…翼
部、22…エンドウォール部、31…燃焼ガスに曝され
るシュラウド面、32…冷却空気で冷却されるシュラウ
ド面、41…燃焼器本体、42…スリット冷却孔、43
…スプリングシール。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 和田 克夫 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式 会社 日立製作所 日立工場内 (72)発明者 渡辺 竜太 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社 日立製作所 日立研究所内 (56)参考文献 特開 平10−88368(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 28/00 C23C 14/08 F02C 7/00

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Ni又はCoを主成分とする耐熱合金と、 前記耐熱合金上に設けられる合金被覆層と、 該合金被覆層上に設けられた耐熱セラミック層と、を有
    するセラミック層被覆ガスタービン用静翼であって、 該耐熱セラミック層は、部分安定化又は安定化ZrO2
    系セラミックを有するイオン伝導性セラミックと、Al
    23,SiO2 ,AlN、及びSi34のうち少なくと
    も何れかを有する絶縁性セラミックと、を有することを
    特徴とするセラミック被覆ガスタービン用静翼。
  2. 【請求項2】 前記合金被覆層と前記耐熱セラミック層と
    の間に設けられたAl23層を有することを特徴とする
    請求項1記載のセラミック被覆ガスタービン用静翼。
  3. 【請求項3】 前記絶縁性セラミックの含有割合が5〜5
    0重量%である請求項1又は2記載のセラミック被覆ガ
    スタービン用静翼。
  4. 【請求項4】 前記イオン伝導性セラミックと絶縁性セラ
    ミックとの混合体が、偏平粒子の積層した多孔質組織の
    セラミックである請求項1又は2記載のセラミック被覆
    ガスタービン用静翼。
  5. 【請求項5】 前記イオン伝導性セラミックと絶縁性セラ
    ミックとの混合体が、膜厚方向に成長した柱状結晶組織
    を有するセラミックであることを特徴とする請求項1又
    は2記載のセラミック被覆ガスタービン用静翼。
  6. 【請求項6】 前記イオン伝導性セラミックは前記部分安
    定化又は安定化ZrO2 を主成分とし、Y23,Ca
    O,CeO2 ,Sc23及びMgOの少なくとも一種を
    合計量で5〜20重量%有する請求項1又は2記載のセ
    ラミック被覆ガスタービン用静翼。
  7. 【請求項7】 Ni又はCoを主成分とする耐熱合金と、 前記耐熱合金上に設けられる合金被覆層と、 該合金被覆層上に設けられた耐熱セラミック層と、を有
    するセラミック層被覆ガスタービン用燃焼器であって、 該耐熱セラミック層は、部分安定化又は安定化ZrO2
    系セラミックを有するイオン伝導性セラミックと、Al
    23,SiO2 ,AlN、及びSi34のうち少なくと
    も何れかを有する絶縁性セラミックと、を有することを
    特徴とするセラミック被覆ガスタービン用燃焼器。
  8. 【請求項8】 Ni又はCoを主成分とする耐熱合金と、 前記耐熱合金上に設けられる合金被覆層と、 該合金被覆層上に設けられた耐熱セラミック層と、を有
    するセラミック層被覆ガスタービン用シュラウドであっ
    て、 該耐熱セラミック層は、部分安定化又は安定化ZrO2
    系セラミックを有するイオン伝導性セラミックと、Al
    23,SiO2 ,AlN、及びSi34のうち少なくと
    も何れかを有する絶縁性セラミックと、を有することを
    特徴とするセラミック被覆ガスタービン用シュラウド。
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