JP3307122B2 - 誘導モータ制御装置 - Google Patents

誘導モータ制御装置

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JP3307122B2
JP3307122B2 JP28469694A JP28469694A JP3307122B2 JP 3307122 B2 JP3307122 B2 JP 3307122B2 JP 28469694 A JP28469694 A JP 28469694A JP 28469694 A JP28469694 A JP 28469694A JP 3307122 B2 JP3307122 B2 JP 3307122B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電気自動車等に用い
られる誘導モータの制御装置に関し、特に、その高効率
駆動制御技術に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の誘導モータの制御方法としては、
例えば、特開平2−23085号公報に記載されている
ものがある。この制御方法は、従来のd−q軸座標によ
る誘導モータモデルのd軸成分にのみRMという鉄損抵
抗を新たに設けて、誘導モータの損失(銅損、鉄損)を
記述し、これらの損失が定常時に最小となるように誘導
モータを駆動するものである。具体的には、誘導モータ
のトルク制御方法として一般的に用いられているベクト
ル制御を用い、定常損失最小の条件から導出されたすべ
り周波数で制御するものである。鉄損抵抗RMはモータ
回転速度に応じて変化するので、モータ回転速度から鉄
損抵抗RMのテーブルマップを読み取り、損失最小条件
式を解けば、損失最小すべり周波数が得られる。ベクト
ル制御を用いた場合に、誘導モータの損失として銅損を
考えると、銅損Lcは下記(数1)式のようになる。
【0003】
【数1】
【0004】ただし、Te:トルク、ωse:すべり周波
数、φr:回転子磁束、P:極対数、M:相互インダク
タンス、Lr:回転子自己インダクタンス、Rr:回転子
抵抗、Rs:固定子抵抗、K1、K2:モータによって決
まる定数であり、また、各電流成分iγs、iδs、i
γr、iδrにおいて、添字γ、δは各軸成分、rは回転
子、sは固定子を表わす。よって、定常時を考えればd/
dt φr=0となるので、銅損Lcを最小とするすべり周
波数ωoptは下記(数2)式のようになる。
【0005】
【数2】
【0006】このすべり周波数(定常損失最小すべり周
波数ωopt)を保つようにすれば、高効率運転が可能と
なる。ところが、ベクトル制御では、すべり周波数ωse
とトルク電流iTおよび回転子磁束φrとの間に下記(数
3)式が成立していなければならない。
【0007】
【数3】
【0008】(数3)式から判るように、すべり周波数
ωseを(数2)式のωoptに保つということは、トルク
電流iTと回転子磁束φrとの比を一定にすることを意味
している。また、ベクトル制御では、トルクTeは下記
(数4)式で示される。
【0009】
【数4】
【0010】また、回転子磁束φrと励磁電流iφとの
関係は、下記(数5)式で与えられる。
【0011】
【数5】
【0012】したがって、(数3)式と(数4)式から
トルク電流iTを消去すると、トルク指令値Te'に対し
て、定常損失を最小とする回転子磁束φr'は、下記(数
6)式で与えられる。
【0013】
【数6】
【0014】上記のφr'を前記(数4)式に代入する
と、この時のトルク電流iTは、下記(数7)式で示さ
れる。
【0015】
【数7】
【0016】一方、励磁電流iφは前記(数5)式でφ
r=φr'として計算できるが、(数5)式にはd/dt φr
が含まれているため、トルク指令値Te'が急激に変化し
た場合にはiφの過渡電流が増加してしまう。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】上記のように従来の誘
導モータ制御方法においては、損失最小条件をモータの
定常特性から導出し、過渡特性を考慮していないため、
モータトルクの過渡応答時の損失は最小とはならない。
そして、従来方法のように、すべり周波数をモータ回転
速度のみの関数にしてしまうと、トルク指令値がステッ
プ的に変化した場合には、回転子磁束をステップ的に変
化させる必要があり、そのためには過渡的に大電流を流
す必要がある。したがって、従来技術のように過渡特性
を考慮しないで損失最小条件を設定した場合には、モー
タの過渡損失の増加やモータ駆動装置の電流容量増加を
招くという問題がある。逆に、電流容量を増加させない
ように設定すれば、トルクレスポンスを遅くしなければ
ならない、という問題が生じる。
【0018】上記のごとき従来例の問題を解決するた
め、本出願人は定常損失ばかりでなく過渡損失も低減す
ることのできる誘導モータ制御装置を既に出願(特願平
5−207418号:未公開)している。上記本出願人
の先出願においては、一般的なベクトル制御演算部に、
定常損失最小磁束演算部と目標磁束演算部と目標トルク
演算部と遮断周波数設定部とを付加し、トルク応答性と
磁束応答性とを独立に可変できる制御系構成とし、か
つ、目標トルク伝達関数の遮断周波数ωTと定常損失を
最小にするすべり周波数ωoptとから目標磁束伝達関数
の遮断周波数ωφを演算しているので、モータの動作状
況や目標トルクの変化、あるいは変更があった場合に
も、常に過渡時の損失を最小とするように制御すること
が出来る。したがって、定常時の高効率運転だけでな
く、応答性を保ちながら、過渡損失を軽減することが出
来、モータの諸定数あるいは目標トルクが変化した場合
でも、目標磁束をリアルタイムで修正し、広い動作領域
において過渡損失、定常損失を最小にすることが出来る
ものである。しかし、上記の先行出願においては、目標
トルクのトルク立ち上がり時間とトルク立ち下がり時間
とが同一となっているため、トルクの立上り時にはピー
ク電流を最小にすることが出来るが、トルクの立ち下が
り時には、不必要な電流が流れてしまうという問題があ
った。
【0019】本発明は、前記のごとき従来技術の問題を
解決した本出願人の先行出願をさらに改良し、トルクの
立ち上がり時にはピーク電流を最小値に押さえ、かつト
ルクの立ち下がり時には速やかに電流を減少させること
の出来る誘導モータ制御装置を提供することを目的とす
る。
【0020】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、本発明においては、特許請求の範囲に記載するよう
に構成している。すなわち、請求項1に記載の発明にお
いては、従来と同様のベクトル制御演算部とモータ駆動
部の他に、トルク指令値とそのときの動作状態において
誘導モータの定常損失を最小にするすべり周波数ωopt
とを入力し、与えられたトルク指令値において定常損失
を最小とする回転子磁束を演算する定常損失最小磁束演
算部と、上記トルク指令値を入力し、トルク指令値の変
化に基づいた目標トルクの変化方向を検出する目標トル
ク変化検出部と、目標トルク伝達関数の遮断周波数ωT
と目標磁束伝達関数の遮断周波数ωφとを、上記目標ト
ルクの変化方向に応じた値に設定する遮断周波数設定部
と、上記トルク指令値を入力し、上記遮断周波数設定部
で設定された遮断周波数ωTのローパス特性を有する伝
達関数に基づいて誘導モータの目標トルクを演算する目
標トルク演算部と、上記定常損失最小磁束を入力し、上
記遮断周波数設定部で設定された遮断周波数ωφのロー
パス特性を有する伝達関数に基づいて目標磁束および目
標磁束の一階微分値を演算する目標磁束演算部と、を設
けている。
【0021】上記の目標トルク変化検出部は、例えば請
求項2に記載するごとく、上記目標トルクの絶対値が増
加方向か減少方向かを検出するものであり、上記遮断周
波数設定部は、上記目標トルクの絶対値が増加方向の場
合には、上記目標トルク伝達関数の遮断周波数ωTと上
記定常損失を最小にするすべり周波数ωoptとから、ω
φ=√(ωT・ωopt)の式に基づいて増加時における目
標磁束伝達関数の遮断周波数ωφを演算し、上記目標ト
ルクの絶対値が減少方向の場合には、モータ回転子抵抗
rとモータ回転子自己インダクタンスLrからωφ=R
r/Lrの式に基づいて減少時における目標磁束伝達関数
の遮断周波数ωφを演算し、かつ、上記目標トルクの絶
対値が増加方向の場合における目標トルク伝達関数の遮
断周波数ωTの値ωT-upと減少方向の場合における値ω
T-downとを、ωT-down≫ωT-upに設定するものである。
また、上記トルク指令値は、例えば、請求項3に記載の
ごとく、アクセルペダルの開度を検出するアクセルセン
サの出力を用い、かつ上記目標トルク変化検出部は、上
記アクセルセンサの出力から目標トルクの絶対値が増加
方向か減少方向かを検出するものである。また、上記の
定常損失を最小にするすべり周波数ωoptは、例えば請
求項4に記載のごとく、少なくとも誘導モータの温度を
含む動作変数に基づいて設定される値である。なお、上
記の定常損失最小磁束演算部、目標磁束演算部、目標ト
ルク演算部、目標トルク変化検出部および遮断周波数設
定部は、例えば、後記図1の実施例における定常損失最
小磁束演算部11、目標磁束演算部12、目標トルク演
算部14、目標トルク変化検出部18および遮断周波数
設定部19にそれぞれ相当する。また、電流指令値は、
例えば後記図1または図2の実施例における励磁電流指
令値iφ'、トルク電流指令値iT'および電流の位相角
θに相当する。
【0022】
【作用】上記のごとく、本発明においては、定常損失最
小磁束演算部と目標磁束演算部と目標トルク演算部と目
標トルク変化検出部と遮断周波数設定部とを一般的なベ
クトル制御演算部に付加し、トルク応答性と磁束応答性
とを独立に可変できる制御系構成とし、かつ、目標トル
ク伝達関数の遮断周波数ωTと目標磁束伝達関数の遮断
周波数ωφとを、上記目標トルクの変化方向に応じた最
適値に設定するように構成しているので、モータの動作
状況や目標トルクの変化、あるいは変更があった場合に
も、常に過渡時の損失を最小とするように制御すること
が出来ると共に、トルクの立ち上がり時にはピーク電流
を最小値に押さえ、かつトルクの立ち下がり時には速や
かにトルク電流や励磁電流を減少させることが出来る。
したがって、定常時の高効率運転だけでなく、応答性を
保ちながら、過渡損失を軽減することが出来、モータの
諸定数や目標トルクが変化した場合でも、目標磁束応答
をリアルタイムで修正し、広い動作領域において過渡損
失、定常損失を最小にすることが出来る。
【0023】
【実施例】以下、この発明を図面に基づいて説明する。
図1および図2は、本発明の一実施例図であり、図1は
図2における高効率駆動制御演算部1の詳細を示すブロ
ック図、図2はシステム全体の構成を示すブロック図で
ある。まず、図2において、1は高効率駆動制御演算部
(詳細後述)であり、例えば、アクセルペダル等の操作
量に対応したトルク指令値Te'と回転速度センサ5で検
出したモータ回転速度ωre(電気角)とを入力し、励磁
電流指令値iφ'、トルク電流指令値iT'および電流の
位相角θを演算して出力する。なお、高効率駆動制御演
算部1には、定常損失最小すべり周波数ωoptも入力す
る(詳細後述)。また、2は座標変換部であり、モータ
の電源周波数で回転する座標系で演算された上記の励磁
電流指令値iφ'、トルク電流指令値iT'および電流の
位相角θを三相交流電流指令値iu'、iv'、iw'に変換
する。3は電流制御PWM(パルス幅変調)インバータ
であり、誘導モータ4に流れる三相交流電流iu、iv
wをそれぞれの指令値に追従させる。5は誘導モータ
4の回転速度を検出する回転速度センサ、6は電流制御
PWMインバータ3に電力を供給する直流電源(誘導モ
ータ駆動用電源)である。
【0024】次に、図1において、11は定常損失最小
磁束演算部、12は目標磁束演算部、13は励磁電流演
算部、14は目標トルク演算部、15はトルク電流演算
部、16はすべり周波数演算部、17は積分演算部、1
8は目標トルク変化検出部、19は遮断周波数設定部で
ある。なお、励磁電流演算部13、トルク電流演算部1
5、すべり周波数演算部16、積分演算部17は、一般
的なベクトル制御演算を行なう部分である。
【0025】次に作用を説明するが、最初に各演算部の
概略の動作を説明し、続いて本実施例の特徴とする部分
について詳細に説明する。図1において、目標トルク変
化検出部18は、トルク指令値Te'を入力し、トルク指
令値Te'の変化に基づいた目標トルクTmの変化方向を
検出する。具体的には目標トルクTmの絶対値が増加方
向か減少方向かを検出する。なお、絶対値で判断するの
は、正方向でも負方向でも、目標トルクの値が増加する
場合はトルク増加(正方向に増加と負方向に増加)、減
少する場合にはトルク減少(正方向に減少と負方向に減
少)となるためである。また、目標トルクの変化方向の
検出は、目標トルク演算部14の演算結果(目標トルク
m)から求めることも原理的には可能である。しか
し、デジタル演算を行なうことを考慮すると、全ての初
期値が0の状態からステップ信号を入力した場合(例え
ば駆動開始時)に、最初のサンプルタイム分だけ目標ト
ルクTmの出力が遅れるので、ωTの演算が遅れてしまう
という問題があるため、トルク指令値Te'から判断する
方が望ましい。ただし、目標トルク演算部14で目標ト
ルクTmを演算する途中で、目標トルクTmの微分値が求
められるので、それを用いて目標トルクの変化方向を判
断し、その結果として遮断周波数設定部19から出力さ
れるωTを用いて目標トルクTmを再び演算し直すように
構成することもできる。
【0026】また、遮断周波数設定部19は、目標トル
ク変化検出部18から与えられる目標トルクTmの変化
方向と、定常損失を最小にするすべり周波数ωoptとを
入力し、目標トルク伝達関数の遮断周波数ωTと目標磁
束伝達関数の遮断周波数ωφとを演算する。上記の遮断
周波数ωTと遮断周波数ωφの値は、目標トルクTmの変
化方向に応じて増加方向と減少方向とで異なった値に設
定する。また、上記の定常損失最小すべり周波数ωopt
は、例えば誘導モータの温度に応じて予め設定されたマ
ップから読み出された値である。
【0027】また、定常損失最小磁束演算部11は、ト
ルク指令値Te'と定常損失最小すべり周波数ωoptとを
入力し、そのトルク指令値Te'において定常状態での損
失(銅損)を最小とする磁束φr'を演算して出力する。
なお、トルク指令値Te'は、例えば運転者の操作するア
クセルペダルの操作量に対応した値(図示しないアクセ
ルセンサ出力)である。また、目標磁束演算部12は、
上記の定常損失最小磁束φr'を入力し、定常時において
は上記の定常損失最小磁束φr'に対応し、過渡時におい
ては磁束応答をトルク応答に応じた最適な値とする目標
磁束φrと、その一階微分値d/dt φrとを演算して出力
する。また、その演算の際の伝達関数の遮断周波数ωφ
は、上記遮断周波数設定部19で設定した値を用いる。
また、目標トルク演算部14は、トルク指令値Te'と目
標トルク伝達関数の遮断周波数ωTとを入力し、目標ト
ルクTmを演算する。
【0028】次に、励磁電流演算部13、トルク電流演
算部15、すべり周波数演算部16の部分は、一般的な
ベクトル制御演算を行なう部分である。まず、励磁電流
演算部13は、上記目標磁束演算部12から与えられる
目標磁束φrと一階微分値d/dt φrとに基づいて、励磁
電流指令値iφ'を演算して出力する。また、トルク電
流演算部15は、目標トルク演算部14の目標トルクT
mと目標磁束演算部12の目標磁束φrとを入力し、トル
ク電流指令値iT'を演算して出力する。また、すべり周
波数演算部16は、目標磁束演算部12の目標磁束φr
とトルク電流演算部15のトルク電流指令値iT'とを入
力し、すべり周波数ωseを演算して出力する。また、モ
ータ回転数ωreと上記のすべり周波数ωseとを加算した
ものが電源周波数ωとなる。すなわち、ω=ωse+ωre
である。そして、積分演算部17は、上記の電源周波数
ωを積分した値を電流の位相角θとして出力する。上記
の励磁電流指令値iφ'、トルク電流指令値iT'および
電流の位相角θが電流指令値として図2の座標変換部2
に送られる。
【0029】次に、各演算部の詳細について説明する。
まず、励磁電流演算部13、トルク電流演算部15、す
べり周波数演算部16の部分は、一般的なベクトル制御
演算を行なう部分なので、詳細な説明は省略するが、例
えば、ベクトル制御は、すべり周波数ωseを下記(数
8)式で与えることによって、誘導モータの出力トルク
eを下記(数9)式の形に導くものである。
【0030】
【数8】
【0031】ただし、ω:電源周波数、ωre:モータ回
転数(電気角)、M:相互インダクタンス、Lr:回転
子自己インダクタンス、Rr:回転子抵抗、iT:トルク
電流、φr:回転子磁束
【0032】
【数9】
【0033】ただし、P:極対数 また、このとき回転子磁束φrと励磁電流iφとの関係
は下記(数10)式に示すようになる。
【0034】
【数10】
【0035】ただし、S:ラプラス演算子 したがって、励磁電流演算部13で行なわれる励磁電流
指令値iφ'の演算式は、上記(数10)式から下記
(数11)式に示すようになる。
【0036】
【数11】
【0037】また、トルク電流演算部15で行なわれる
トルク電流指令値iT'の演算式は上記(数9)式から下
記(数12)式に示すようになる。
【0038】
【数12】
【0039】ただし、Te':トルク指令値 なお、すべり周波数演算部16におけるすべり周波数ω
seの演算式は、前記(数8)式で示したとおりである。
また、積分演算部17における演算は、前記のとおりで
ある。
【0040】次に、本実施例の特徴とする定常損失最小
磁束演算部11、目標磁束演算部12、目標トルク演算
部14、目標トルク変化検出部18、遮断周波数設定部
19の部分について説明する。まず最初に、過渡損失を
最小とする目標磁束応答の演算式を導く。過渡トルク応
答では、ピーク電流を押さえる必要がある。従って、少
ない電流で大きなトルクを出力する制御を行なう必要が
あるが、ベクトル制御では、固定子電流はトルク電流i
Tと励磁電流iφとのベクトル和となるため、iφ=iT
のときにトルク効率が最大となる。すなわち、ベクトル
制御では下記(数13)式が成立する。
【0041】
【数13】
【0042】ただし、kは定数 すなわち、(iφ・iT)が一定であれば出力トルクTe
は一定である。したがって、図3に示すようなトルク一
定ラインが存在する。なお、図3のベクトルI1および
2が固定子電流の大きさを示す。トルク一定ラインを
トレースする固定子電流の中で、それが最小となるの
は、iφ=iTのときである。従って本制御系の構成に
おいて、過渡時のピーク電流が最も大きくなるような、
ゼロ発進時(起動時、例えば車両が停車状態から発進す
る場合)のステップトルク応答を想定し、この時の過渡
時のiφとiTが等しくなるような目標磁束応答を選ん
でやることでピーク電流を最小化する。なお、図3にお
いては、iφ2=iT2であり、このときの固定子電流I2
が同じトルクとした場合の最小値となる。上記のごとき
制御を行なうため、定常損失最小磁束演算部11におけ
る定常損失を最小とする回転子磁束φr'の演算式を前記
(数6)式で与え、目標磁束演算部12における目標磁
束φrの演算式を下記(数14)式で与える。
【0043】
【数14】
【0044】ただし、Sはラプラス演算子 また、目標トルク演算部14における目標トルクTm
演算式を下記(数15)式で与える。
【0045】
【数15】
【0046】本実施例においては、上記の(数14)式
における目標磁束伝達特性の遮断周波数ωφと、(数1
5)式における目標トルク伝達関数の遮断周波数ωT
を、目標トルクTmの絶対値の変化方向に応じて異なっ
た値に設定する。そのため、まず、目標トルク変化検出
部18で変化方向の検出を行なう。目標トルク変化検出
部18においては、トルク指令値Te'を入力し、上記
(数15)式と同じ次数とカットオフ周波数をもつロー
パスフィルタを用いて、下記(数16)式の演算を行な
う。
【0047】
【数16】
【0048】上記(数16)式を、例えばオイラー積分
法を用いて解くと下記(数17)式のようになる。
【0049】
【数17】
【0050】ただし、Δはサンプル周期 このようなローパスフィルタに、図4のY(k)に示す
ような信号が入力された場合、目標トルクの絶対値が増
加方向にあるのか減少方向にあるのかを判断するには、
Y(k)・d/dtY(k)の符号が判ればよい。すなわち、上
記符号が“+”のときは増加方向、“−”のときは減少
方向である。ただし、Y(k)あるいはd/dtY(k)の少
なくとも一方が“0”の場合は、定常状態あるいはトル
クが0の場合である。目標トルク変化検出部18は、上
記の判定を行ない、上記符号が“+”または“0”、す
なわち目標トルクの絶対値が増加方向もしくは定常状態
(またはトルクが0)の場合と、上記符号が“−”、す
なわち減少方向にある場合との検出結果を遮断周波数設
定部19に送る。
【0051】遮断周波数設定部19では、目標トルクの
絶対値が増加方向もしくは定常状態にある場合と減少方
向にある場合とで、目標磁束伝達特性の遮断周波数ωφ
および目標トルク伝達関数の遮断周波数ωTを異なった
値に設定する。まず、目標トルクの絶対値が増加方向も
しくは定常状態にある場合について説明する。なお、こ
こではディジタルコンピュータで演算することを想定し
ている。まず、この場合における目標トルク伝達関数の
遮断周波数ωTは、予め定められた一定値あるいは駆動
電源(例えば車載用バッテリ)の残存容量等に応じて定
められた値であり、メモリ等に記憶した値を読み出して
用いる。
【0052】次に、目標磁束伝達特性の遮断周波数ωφ
は、次のようにして求める。サンプル周期をΔとおく
と、オイラー積分により、変数x(K)の積分は下記
(数18)式のようになる。
【0053】
【数18】
【0054】ただし、K=0、1、2、3…… 上記の関係を応用して、過渡時(K=1)におけるiφ
(1)とiT(1)とを等しくさせるωφを求める。トル
ク指令値Te'に対する励磁電流iφの伝達関数は、下記
(数19)式で与えられる。
【0055】
【数19】
【0056】したがって、K=1におけるiφ(1)
は、下記(数20)式で求められる。
【0057】
【数20】
【0058】この場合には、ステップ入力を仮定してい
るので、φr'(0)=φr'(1)であるから、(数20)
式は下記(数21)式となる。
【0059】
【数21】
【0060】一方、トルク指令値Te'に対する目標磁束
φrは、下記(数22)式で示される。
【0061】
【数22】
【0062】同様に、トルク指令値Te'に対する目標ト
ルクTmは、上記と同様の計算により、(数23)式で
与えられる。
【0063】
【数23】
【0064】したがって、K=1におけるトルク電流i
T(1)は、下記(数24)式で示される。
【0065】
【数24】
【0066】(数24)式が(数21)式と等しいとお
いて、整理すると下記(数25)式の関係が得られる。
【0067】
【数25】
【0068】厳密には(数25)式を解いてωφ
ωT、およびωoptとの関係を求めればよいが、通常Δは
非常に小さいため、Δ≒0とおくと、(数25)式は下
記(数26)式となる。
【0069】
【数26】
【0070】したがって与えられたωTとωoptとから、
(数26)式に基づいて目標磁束の伝達関数の遮断周波
数ωφを計算すればよい。なお、一般に、ベクトル制御
は回転子時定数τr=Lr/Rr(ただし、Lrは回転子自
己インダクタンス、Rrは回転子抵抗)の変動がトルク
制御性能に影響を与えるため、回転子抵抗Rrの温度補
正が行なわれる(参考文献“ニュードライブエレクトロ
ニクス”pp206〜209,発行所 株式会社 電気書
院)。そして回転子抵抗Rrが変われば、前記(数2)
式に従って定常損失最小すべり周波数ωoptも変動する
ため、モータ温度に応じたωoptの値をマップ化してお
き、温度の変化に応じたωoptを読み出して遮断周波数
設定部19に与え、それによって(数26)式に基づい
た遮断周波数ωφを計算し、その値で目標磁束演算部1
2の遮断周波数を設定すれば、モータの動作状況によら
ない高効率制御が可能となる。また、目標トルク伝達関
数の遮断周波数ωTと定常損失最小すべり周波数ωo pt
に応じた目標磁束伝達特性の遮断周波数ωφを予め演算
しておき、ωφの値をマップ化しておいて読み出すよう
に構成してもよい。
【0071】次に、目標トルクの絶対値が減少方向にあ
る場合について説明する。まず、目標磁束伝達特性の遮
断周波数ωφは、次のようにして求める。本制御系の構
成では、定常損失最小磁束φr'から励磁電流iφまでの
伝達特性G(s)は、下記(数27)式で示すようにな
る。
【0072】
【数27】
【0073】上記(数27)式で、ωφ=Rr/Lrとす
れば、極ゼロ相殺により、下記(数28)式が得られ
る。
【0074】
【数28】
【0075】(数28)式のG(s)は定常損失最小磁
束φr'から励磁電流iφまでの伝達特性であるから、下
記(数29)式のようになる。
【0076】
【数29】
【0077】(数29)式から分かるように、励磁電流
φは定常損失最小磁束φr'に比例して減少し、このと
きモータの回転子磁束φrは、時定数1/ωφで減衰す
る。
【0078】図5は、ωφを変化させた場合における回
転子磁束φrと励磁電流iφの立ち上がり特性を示す図
である。まず、図5(a)に示すように、ωφ<Rr
rの場合には、励磁電流iφの変化が遅く、また、図
5(c)に示すように、ωφ>Rr/Lrの場合には、負
の方向にオーバーシュートが生じ、何れの場合も余分の
励磁電流が流れることになる。それに対して、図5
(b)に示すωφ=Rr/Lrの場合には、励磁電流が速
やかに0になるので、損失が最小になることが分かる。
したがってωφ=Rr/Lrに設定すればよい。
【0079】次に、目標トルク伝達関数の遮断周波数ω
Tは、次にようにして求める。本制御系の構成では、ト
ルク電流指令値iT'は前記(数12)式で求められる。
したがってトルクが減少する場合には、トルク指令値T
e'を出来るだけ速く減少させることが望ましい。そのた
め、目標トルク変化検出部18から目標トルク減少の信
号が与えられた場合には、このときの目標トルク伝達関
数の遮断周波数ωT-downを、目標トルク増加(定常と0
を含む)のときの遮断周波数ωT-up(前記のωTに等し
い)に対して大幅に大きな値、すなわちωT-down≫ω
T-upとなる値に設定してやれば、トルク電流iTを速や
かに減少させることが出来る。具体的には、この場合の
遮断周波数ωT-downは、ωT-down≫ωT-upなる範囲で、
目標トルク演算部14が最も速い応答速度特性のフィル
タとなるように予め設定したおいた値を読み出して用い
ればよい。上記のように、目標トルクの絶対値が減少方
向にある場合の目標磁束伝達特性の遮断周波数ωφは、
ωφ=Rr/Lrとなるように設定し、目標トルク伝達関
数の遮断周波数ωTは、ωT-down≫ωT-upとなる値に設
定すればよい。
【0080】図6は、上記の処理順序を示すフローチャ
ートであり、ステップS2〜S6は目標トルク変化検出
部18における演算処理、ステップS7〜S9は遮断周
波数設定部19における演算処理を示す。図6におい
て、まず、ステップS1では、ωφとωTの初期値をそ
れぞれ目標トルクの変化方向が増加方向である場合の値
ωφ-upとωT-upに設定する。次に、ステップS2で
は、前記の(数17)式の演算を行なう。次に、ステッ
プS3では、定常状態あるいはトルクが0であるか否か
の判断を行ない、ステップS4では、目標トルクの変化
方向が増加方向か否かの判断を行なう。上記のステップ
S3またはS4でYESの場合には、ステップS5で、
フラグFLGTを0にする。また、ステップS3または
S4の両方でNOの場合、すなわち目標トルクの変化方
向が減少方向であった場合には、ステップS6でフラグ
FLGTを1にする。次に、ステップS7では、フラグ
FLGTが0か否かを判断し、YESの場合、すなわ
ち、目標トルクの変化方向が増加方向か、もしくは定常
状態であった場合には、ステップS8でωφとωTをそ
れぞれ目標トルクの変化方向が増加方向である場合の値
ωφ-upとωT-upに設定する。一方、ステップS7でN
Oの場合には、ステップS9でωφとωTをそれぞれ目
標トルクの変化方向が減少方向である場合の値Rr/Lr
とωT-MAXに設定する。なお、ωT-MAXは前記した目標ト
ルク演算部14が最も速い応答速度特性のフィルタとな
るように予め設定したおいた値である。
【0081】次に、図7は、本実施例と前記した本出願
人の先行出願との過渡状態時における特性比較図であ
り、(a)は本実施例の特性、(b)は先行出願の特性
である。なお、この特性はシミュレーション値を示す。
図7から分かるように、目標トルクが増加する場合には
同等の特性を示すが、目標トルクが減少する場合には、
本実施例の方が電流の減少が急激であり、しかもオーバ
ーシュートもなくなるので、損失を大幅に減少させるこ
とが出来る。
【0082】
【発明の効果】以上説明したごとく、本発明において
は、トルク応答性と磁束応答性とを独立に可変できる制
御系構成とし、かつ、目標トルク伝達関数の遮断周波数
ωTと目標磁束伝達関数の遮断周波数ωφとを、上記目
標トルクの変化方向に応じた最適値に設定するように構
成しているので、モータの動作状況や目標トルクの変
化、あるいは変更があった場合にも、常に過渡時の損失
を最小とするように制御することが出来ると共に、トル
クの立ち上がり時にはピーク電流を最小値に押さえ、か
つトルクの立ち下がり時には速やかにトルク電流や励磁
電流を減少させることが出来る。したがって、定常時の
高効率運転だけでなく、応答性を保ちながら、過渡損失
を軽減することが出来、モータの諸定数や目標トルクが
変化した場合でも、目標磁束応答をリアルタイムで修正
し、広い動作領域において過渡損失、定常損失を最小に
することが出来る、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図2における高効率駆動制御演算部1の詳細を
示すブロック図。
【図2】本発明の一実施例のシステム全体の構成を示す
ブロック図。
【図3】誘導モータにおける励磁電流とトルク電流との
関係を示す特性図。
【図4】トルク指令値変化検出部18に入力する信号波
形の一例図。
【図5】ωφとRr/Lrの大小関係による目標磁束φr
と励磁電流iφの変化を示す特性図。
【図6】トルク指令値変化検出部18と遮断周波数設定
部19における演算処理順序を示すフローチャート。
【図7】本発明と先行技術との特性比較図。
【符号の説明】
1:高効率駆動制御演算部 4:誘導モータ 2:座標変換部 5:回転速度セン
サ 3:電流制御PWMインバータ 6:直流電源 11:定常損失最小磁束演算部 15:トルク電流
演算部 12:目標磁束演算部 16:すべり周波
数演算部 13:励磁電流演算部 17:積分演算部 14:目標トルク演算部 18:トルク指令
値変化検出部 19:遮断周波数設定部 Te':トルク指令値 Tm :目標トルク φr':定常損失最小磁束 φr :目標磁束 ωre:モータ回転数(電気角) ω :電源周波数 ωse:すべり周波数 iφ':励磁電流指令値 iT':トルク電
流指令値 ωopt:定常損失最小すべり周波数 θ :電流の位
相角 ωT :目標トルク伝達特性の遮断周波数 ωφ :目標磁束伝達特性の遮断周波数 ωφ-up :トルク指令値絶対値の増加時におけるωφ
の値 ωφ-down:トルク指令値絶対値の減少時におけるωφ
の値 ωT-up :トルク指令値絶対値の増加時におけるωT
値 ωT-down:トルク指令値絶対値の減少時におけるωT
値 iu'、iv'、iw':三相交流電流指令値 iu、iv、iw :三相交流電流
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 北島 康彦 神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日 産自動車株式会社内 (56)参考文献 特開 平2−23085(JP,A) 特開 昭60−84903(JP,A) 特開 平7−67398(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H02P 5/408 - 5/412 H02P 7/628 - 7/632 H02P 21/00 B60L 1/00 - 3/12 B60L 7/00 - 13/00 B60L 15/00 - 15/42

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】トルク指令値と誘導モータの回転速度とに
    応じて電流指令値を算出し、その電流指令値に対応した
    多相交流電流で誘導モータを駆動する誘導モータ制御装
    置において、 トルク指令値と、そのときの動作状態において誘導モー
    タの定常損失を最小にするすべり周波数ωoptとを入力
    し、与えられたトルク指令値において定常損失を最小と
    する回転子磁束を演算する定常損失最小磁束演算部と、 上記トルク指令値を入力し、トルク指令値の変化に基づ
    いた目標トルクの変化方向を検出する目標トルク変化検
    出部と、 目標トルク伝達関数の遮断周波数ωTと目標磁束伝達関
    数の遮断周波数ωφとを、上記目標トルクの変化方向に
    応じた値に設定する遮断周波数設定部と、 上記トルク指令値を入力し、上記遮断周波数設定部で設
    定された遮断周波数ωTのローパス特性を有する伝達関
    数に基づいて誘導モータの目標トルクを演算する目標ト
    ルク演算部と、 上記定常損失最小磁束を入力し、上記遮断周波数設定部
    で設定された遮断周波数ωφのローパス特性を有する伝
    達関数に基づいて目標磁束および目標磁束の一階微分値
    を演算する目標磁束演算部と、 上記誘導モータの回路定数に基づき、上記目標磁束と上
    記目標磁束の一階微分値と上記目標トルクと上記誘導モ
    ータの回転速度とに応じて上記電流指令値を演算するベ
    クトル制御演算部と、 上記誘導モータに流れる電流を上記電流指令値に追従さ
    せるモータ駆動部と、 を備え、上記誘導モータの出力トルクを上記目標トルク
    に対応した値とするように制御する誘導モータ制御装
    置。
  2. 【請求項2】上記目標トルク変化検出部は、上記目標ト
    ルクの絶対値が増加方向か減少方向かを検出するもので
    あり、 上記遮断周波数設定部は、上記目標トルクの絶対値が増
    加方向の場合には、上記目標トルク伝達関数の遮断周波
    数ωTと上記定常損失を最小にするすべり周波数ωopt
    から、ωφ=√(ωT・ωopt)の式に基づいて増加時に
    おける目標磁束伝達関数の遮断周波数ωφを演算し、上
    記目標トルクの絶対値が減少方向の場合には、モータ回
    転子抵抗Rrとモータ回転子自己インダクタンスLrから
    ωφ=Rr/Lrの式に基づいて減少時における目標磁束
    伝達関数の遮断周波数ωφを演算し、かつ、上記目標ト
    ルクの絶対値が増加方向の場合における目標トルク伝達
    関数の遮断周波数ωTの値ωT-upと減少方向の場合にお
    ける値ωT-downとを、ωT-down≫ωT-upに設定するもの
    である、ことを特徴とする請求項1に記載の誘導モータ
    制御装置。
  3. 【請求項3】アクセルペダルの開度を検出するアクセル
    センサの出力を上記トルク指令値とし、かつ上記目標ト
    ルク変化検出部は、上記アクセルセンサの出力から目標
    トルクの絶対値が増加方向か減少方向かを検出するもの
    である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記
    載の誘導モータ制御装置。
  4. 【請求項4】上記定常損失を最小にするすべり周波数ω
    optは、少なくとも誘導モータの温度を含む動作変数に
    基づいて設定される値である、ことを特徴とする請求項
    1乃至請求項3のいずれかに記載の誘導モータ制御装
    置。
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