JP3294209B2 - 摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射層及び摺動材料 - Google Patents
摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射層及び摺動材料Info
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高Si−Al合金溶射層及び摺動材料に関するものであ
る。
技術を説明する。鋳造もしくは鍛造により製造される共
晶もしくは過共晶Al−Si系アルミニウム合金は耐摩
耗性が良好であるが、Si含有量が15%を超えると製
造が困難になるので、耐摩耗性もこのSi量で制約され
ることになる。近年、急冷凝固アルミニウム合金粉末を
使用した粉末冶金製品が多数提案されており(例えば特
許第2535789号公報)、Si含有量が例えば14
〜30%と非常に高いために耐摩耗性の向上は著しい。
しかしながら、この合金はホットプレスに続いて熱間押
出などの加工を行う必要があるから、大型部品を製造す
るためには非常に大容量のプレスや押出機の設備投資を
しなければならないので、コスト面の競争力が著しく低
いと言わざるをえない。
量%もの高いSi含有量をもつAl合金を溶射する方法
として、初晶Siを晶出しないSi含有量のAl−Si
合金とSi粒子を別々に用意して、同時に溶射すること
により初晶Siが晶出しない高Si−Al合金を製造す
ることが公知である(特許第2792130号公報)。
この公報には溶射の具体的方法と溶射ガンは示されてい
ないので、一般的火炎溶射法であると考えられる。これ
は、一般的溶射法で1種の粉末を使用すると初晶Siの
晶出が避けられないので、上述のように二種の粉末を使
用することが必要になっていると理解される。さらに、
アルミニウム合金に固体潤滑剤として黒鉛を添加するこ
とは公知である(特許第2584488号公報)。ただ
し、この公報の方法では真空又は不活性雰囲気中での焼
結法が採用されており、黒鉛は粉末形態でアルミニウム
合金粉と混合されている。
〜24頁に解説されているように、溶射技術は摺動層形
成技術として広く採用されている。ここで列挙されてい
る溶射材料はZn,Al,自溶性合金、耐熱合金、酸化
物セラミックス、サーメットなどである。なお、黒鉛
(グラファイト)、MoS2 などの周知のトライボマテ
リアルを溶射することには言及されていない。
Si含有アルミニウム合金を溶射することによりSiの
形態を粒状にする方法を提案した。その後の研究による
と溶射Si−Al合金のマトリックスにはSiが固溶し
ているために脆くなっており摺動特性上改良の余地があ
ることが分かった。
溶射材料の開発は、初晶Siの微細化もしくは生成抑
制、Si含有量の増大や添加金属成分種類の工夫などの
方向に向かっている。しかしながらこの方向の開発によ
る摺動特性向上は限界がある。さらに、Al−Si合金
を溶射すると脆化が招かれる。本発明はこれら従来技術
の抱える問題を解決するアルミニウム合金溶射層を提供
することを目的とする。
−Siアトマイズ粉を溶射する通常の溶射法によると、
Al−Si合金のマトリックスはSiの固溶により硬化
することは避けられないので、溶射法を種々工夫して実
験を行い、その結果マトリックスの適切な硬さ範囲を見
出して、本発明を完成した。すなわち、本発明は、Si
を20から45重量%含有するアルミニウム合金マトリ
ックスの平均マイクロビッカース表面硬さ(H)が、5
0≦H≦(5/2)Si(wt%)+75であり、かつ
マトリックス内に分散されたSi粒子は溶射のままの状
態で生成したものであることを特徴とする摺動特性に優
れたアルミニウム合金溶射層を提供するものである。以
下、本発明を詳しく説明する。なお百分率は特に断らな
い限り重量%である。
Siはアルミニウムマトリックス中に微細かつ多量に分
散して合金の硬さを高めて耐摩耗性を向上させる。さら
に、微細かつ多量に分散した粒状Siはアルミニウムマ
トリックスが相手材と凝着することによる焼付を起こり
難くしている。Siの含有量が20%未満ではこの効果
が少なく、一方45%を越えると合金が脆くなり好まし
くない。本発明において、Si粒子は、粒状、即ち圧延
合金のSi粒子で見られるような、材料内の一つの方向
が明らかに長い方向性がある粒子形状ではなく、どの方
向でもほとんど同じ寸法の球状、塊状、多角状、凹凸輪
郭を有する島状、その他これらに分類されない不定型形
状で分散することが好ましい。より限定するならば最大
径と最小径の比が平均で3倍以下である。
マイクロビッカース硬さ(H)の範囲は図1に示すとお
りである。ここで、硬さがHv50未満であると、耐焼
付性が不良であり好ましくない。ちなみにHv50はA
2024合金のT6調質状態にほぼ該当する。次に、H
>(5/2)Si(wt%)+75であるとマトリック
スが硬くかつ脆化しているので、耐摩耗性が不良とな
る。ここで一次式の勾配(5/2)はSi量が増加する
と、許容マトリックス硬さの上限が増加すること意味し
ている。これは、さらに分散Si粒子の量がSi量増大
に対応して多くなると、マトリックスがある程度硬くと
もSi粒子の耐摩耗性作用により焼付を防止できること
を意味する。この勾配が(5/2)より大きいと、高S
i組成のAl合金でアブレーシブ摩耗が激しくなり、摩
耗量が増大しかつ、焼付き易くなり、一方(5/2)よ
り小さくなると、耐焼付性が良好な組成が高Si域で本
発明から除かれてしまう。同様に、一次式の75は上記
の勾配とともに許容マトリックス硬さの上限を定める。
上記一次式は通常の溶射アトマイズ粉よりなる摺動層よ
りも低い表面硬さ(H)を定めておりこのように硬さを
定めることにより、マトリックスのアブレーシブな摩耗
が起こって耐摩耗性が不良になることを防止している。
マイクロビッカース硬度計(荷重=25〜300g)
で、研磨試料の組織をエッチングで表した試料を測定す
ることにより行う。硬さの平均値は相手材と接触する面
積全体の硬度を代表する値が得られるように行う。
の硬さの調整法を説明する。 (イ)熱処理法(a):アトマイズ粉末の全量もしくは
一部を400〜650℃で熱処理することにより、マト
リックス中の固溶Siを析出させる。なお、析出により
合金全体の硬度は上昇してもマトリックスの硬度が低下
すればよい。 (ロ)熱処理法(b):溶射層を400〜650℃の温
度に保って、マトリックス中の固溶Siを析出させる。 (ハ)粉末の粒度調整法:アトマイズ粉末の一部に75
〜200μm程度の粗粒粉末を使用する。粗粒粉末はア
トマイズ粉製造時の冷却速度が遅いために固溶Si量が
少ないことを利用する。
摩耗性と耐焼付性をもつAl−Si−Sn系合金をマト
リックスとして使用することができる。Snは、均一に
アルミニウム中に分散して潤滑性やなじみ性を付与する
成分であり、また、相手材に優先的に付着して、相手材
に凝着したAlと軸受のAlの同種材料どうしの摺動が
起こるのを妨げて、耐焼付性を高める。Sn含有量が
0.1%未満では潤滑性などの向上の効果が少なく、3
0%を超えると合金の強度が低下する。好ましいSn含
有量は5〜25%である。Sn相は層内で片状を呈し、
この形状は潤滑性の面で好ましいと考えられる。
任意元素を含有することができる。しかし、これらの元
素はすべてマトリックスを硬化するので、Siに関して
上述したように、析出処理を行ってマトリックスから駆
逐する必要がある。この程度は上記関係式が満足される
ように行う。 Cu:Cuはアルミニウムマトリックスに固溶してその
強度を高めることによって、アルミニウムの凝着摩耗
や、Si粒子が脱落することによる摩耗を抑える。さら
にCuはSnの一部とSn−Cu金属間化合物を生成し
て耐摩耗性を高める。しかしながら、Cuの含有量が7
%を超えると合金が硬化し過ぎるために摺動部材として
不適当になる。好ましいCu含有量は0.5〜5%であ
る。 Mg:MgはSiの一部と化合してMg−Si金属間化
合物を生成して耐摩耗性を高める。しかしながらMgの
含有量が5.0%を超えると、粗大なMg相が生成して
摺動特性が劣化する。 Mn:Mnはアルミニウムマトリックスに過飽和に固溶
してその強度を高めることによってCuと同様の効果を
もたらす。しかしながらMnの含有量が5%を超えると
合金が硬化し過ぎるために摺動部材として不適当にな
る。好ましいMn含有量は0.1〜3%である。 Fe:Feはアルミニウムマトリックスに過飽和に固溶
してその強度を高めることによってCuと同様の効果を
もたらす。しかしながら、Feの含有量が5%を超える
と合金が硬化し過ぎるために摺動部材として不適当にな
る。好ましFe含有量は0.1〜3%である。 Ni:Niはアルミニウムマトリックスに過飽和に固溶
してその強度を高めることによってCuと同様の効果を
もたらす。しかしながら、Niの含有量が8%を超える
と合金が硬化し過ぎるために摺動部材として不適当にな
る。好ましいNi含有量は0.1〜5%以下である。
域のAl−Si系アルミニウム合金摺動材料を簡単な方
法で斜板の表面に摺動層として成膜し、かつ従来の各種
摺動層よりも優れた特性を発揮させるための研究を行っ
た。従来、グラファイトやMoS2 などのトライボ材
料と溶射技術を結び付ける検討は行われていなかった。
ところで、アルミニウム合金の溶射温度は700℃以上
が必要であり、一方グラファイトと酸素の反応は500
℃以上では活発に起こるので、溶射火炎中に少量でも酸
素が存在しているとグラファイトは溶射層中に取り込ま
れないおそれがある。したがって、本発明者らは、グラ
ファイトは溶射雰囲気中に存在する酸素により燃焼し消
失するのではないか、またMoS2も同様に分解消失す
るのではないかとの懸念を抱いたが、予想外にこれらト
ライボ材料がAl材料中に分散できることを見出した。
即ち、本発明は、Siを20〜45重量%含有し、粒状
Siを分散させたアルミニウム合金と、該アルミニウム
合金からなるマトリックス内に分散されたグラファイト
型もしくは無定形炭素あるいは結晶化の程度が両者の中
間の炭素及びMoS2 からなる群の少なくとも1種の
分散相とを含んでなることを特徴とする摺動特性に優れ
た溶射層を提供するものである。
射法としてトライボロジストVol.41, No.11 の第20
頁、図2に掲載されている各種溶射法を採用することが
できるが、中でも高速ガス火炎溶射法(HVOF, high velo
city oxyfuel) を好ましく採用することができる。この
方法は同誌第20頁右欄第4〜13行に記載された特長
を有しているので、特長があるSi相形態が得られると
考えられる。溶射粉末としてはAl−Si合金、Al−
Si−Sn合金などのアトマイズ粉末を使用することが
できる。これらのアトマイズ粉末は完全に基板上で溶融
しその後凝固してもよく、あるいは一部が未溶融状態で
基板上にて被着され粉末の組織が残るようにしてもよ
い。溶射条件としては、酸素圧力0.9〜1.2MP
a,燃料圧力0.6〜0.9MPa,溶射距離50〜2
50mmが好ましい。溶射層の厚さは10〜500μ
m、特に10〜300μmが好ましい。溶射後のアルミ
ニウム合金の硬度はHv100〜400の範囲にある。
従来の12%Si含有アルミニウム合金では硬度がHv
50〜100であるので、本発明の溶射層は非常に硬質
であると言える。
溶射により分散される相について説明する。この分散相
の材料はアルミニウム合金もしくはその原料粉末ととも
に溶射される。これらのトライボ材料は上記した高速ガ
ス火炎溶射法によると溶射中に燃焼分解などを受けるこ
とが比較的少なく溶射層中に取り込まれる。炭素質物質
としては、無定形炭素、グラファイト、結晶化の程度が
両者の中間にある炭素などを使用する。グラファイトは
天然黒鉛及び人造黒鉛の何れでもよい。黒鉛は強い劈開
性をもつので、この性質を利用して摺動特性を高めるこ
とができる。炭素質物質はグラファイト構造が顕著なも
のは劈開性による効果を発揮し、一方二次元構造が不明
瞭になるにしたがい、耐摩耗性を発揮して、摺動特性を
高める。またこれら炭素質物質は、溶射中に溶融しない
ために溶射層中に原料粉末形状を比較的に保ってそのま
まの状態で分散している。他の分散層であるMoS2 は
周知のトライボマテリアルであるが、過酷な条件下での
溶射層の摺動特性改良の効果は少なく、穏やかの条件下
ではグラファイトほどではないが摺動特性を改良する効
果がある。上記トライボ材料の量は溶射層に対して2〜
40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜
25重量%である。また、トライボ材料の溶射前平均粒
径は10〜50μmであることが好ましく、より好まし
くは20〜40μmである。
び/又はMoS2 以外には、FeB,Fe3 P,Al2
O3 ,SiO2 ,SiC,Si3 N4 などの硬質物を耐
摩耗性向上のために添加することもできる。これらの物
質は溶射中に溶解せず合金中に分散される。これらの硬
質物は溶射層全体に対して20重量%以下とすることが
好ましい。
アルミニウムなどの各種金属基板を使用することができ
る。基板の表面はショットブラストなどにより、好まし
くはRz10〜60μmの表面粗さに粗面化しておく
と、膜の密着強度が高くなる。具体的には剪断破壊試験
法により密着強度を測定したところ、鋼基板(ショット
ブラスト)に対する溶射Ni皮膜の密着強度が30〜5
0MPaであったのに対し、本発明皮膜の密着強度は4
0〜60MPaであった。したがって従来密着性が良い
と言われているNi溶射皮膜と同等の密着強度が得られ
る。溶射層には熱処理を施して硬さを調整することでき
る。
は、溶射層表面をRz3.2μm以下に仕上げることが
好ましい。オーバレイを使用した摺動材料として本発明
を実施する場合はSn系、Pb−Snなどの軟質金属
や,MoS2 ,MoS2 、グラファイト、MoS2 +グ
ラファイトなどの固体潤滑剤やこれらの樹脂を樹脂と混
合したなじみ性にすぐれた各種軟質皮膜を溶射層に固着
して使用することができる。上記の軟質皮膜と溶射層を
組み合わせると耐焼付性が飛躍的に高められ、青銅系摺
動材料を凌駕する性能が得られる。上述のように、溶射
層中に存在するMoS2 は冷凍機油がないような過酷な
条件下での摺動特性の改善効果は少ないが、オーバレイ
としてのMoS2 は抜群の効果を発揮する。
・強化することは、摺動特性に有効であるが、溶射アル
ミニウム合金の場合は硬化が過度になってアブレーシブ
な摩耗を招き逆効果となるので、本発明においては、マ
トリックスから固溶元素を析出させることを提案してい
る。一方、本発明のようにマトリックス中の溶質元素が
ほぼ枯渇するようなAl合金は、通常は相手材との凝着
による摩耗が起こり易くなるが、溶射材料の場合は多量
のSiが、しかも好ましくは粒状形態で含有しているた
めに、弊害を招くことはない。
トマイズ粉末(平均粒径−75μm)を調製し、市販の
純アルミ圧延板にスチールグリッド(寸法0.7mm)
によるショットブラストを施し、表面を粗さRz45μ
mに粗面化したものを基板として溶射を行った。溶射は
HVOF型溶射機(スルザーメテコ社製DJ)を使用
し、下記条件で溶射を行った。 酸素圧力:1.0MPa 燃料圧力:0.7MPa 溶射距離:180mm 溶射層厚さ:200μm
その結果を組成とともに表1に示す。 試験機:3ピン/ディスク摩擦摩耗試験機 荷重:40kgf/cm2 回転数:700rpm 時間:2Hr
マトリックスの硬さを所定値以下にすることにより耐摩
耗性が著しく向上する。実施例3の粉末及び溶射層の金
属顕微鏡組織をそれぞれ図2、3に示す。比較例3の粉
末及び溶射層の金属顕微鏡組織をそれぞれ図4、5に示
す。図2、3を図4、5と比較すると熱処理により粉末
中のSi粒子層は粗大化し、またこれと対応して溶射層
中のSi粒子も粗大化していることが分かる。
い、その結果を組成とともに図6(表2)に示す。 試験機:3ピン/ディスク摩擦摩耗試験機 荷重:40kgf/cm2 より20kgf/cm2 づつ
漸増(最大150kgf/cm2 ) 回転数:7200rpm 時間:15分ずつステップアップ(計150分) 表2より、本発明の溶射層及び軟質皮膜を固着した溶射
摺動材料はマトリックスが硬い比較例よりも耐焼付性が
優れていることが分かる。
来本出願人が提案した溶射Al合金よりも一層良好な耐
摩耗性及び耐焼付性を達成することができる。このため
に、本発明の溶射層は各種摺動材料として好ましく使用
することができる。
硬さとSi量の関係を示すグラフである。
顕微鏡写真である。
真である。
顕微鏡写真である。
真である。
示す図表(表2)である。
Claims (6)
- 【請求項1】 Siを20から45重量%含有するアル
ミニウム合金のマトリックスの平均マイクロビッカース
表面硬さ(H)が50≦H≦(5/2)Si(wt%)
+75であり、かつ前記マトリックス内に分散されたS
i粒子は溶射のままの状態で生成したものであることを
特徴とする摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射層。 - 【請求項2】 前記マトリックス内に分散されたSi粒
子がさらに溶射後の熱処理により析出したものも含む請
求項1記載の摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射
層。 - 【請求項3】 前記アルミニウム合金が7重量%以下の
Cu,5重量%以下のMg,5重量%以下のMn,5重
量%以下のFe及び8重量%以下のNiからなる群の少
なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1
又は2記載の摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射
層。 - 【請求項4】 前記アルミニウム合金と、残部がグラフ
ァイト型もしくは無定形炭素あるいは結晶化した程度が
両者の中間にある炭素及びMoS2からなる群の少なく
とも1種の分散相とからなる請求項1から3までの何れ
か1項記載の摺動特性に優れたアルミニウム合金溶射
層。 - 【請求項5】 高速ガス火炎溶射法により成膜された請
求項3又は4記載の摺動特性に優れた溶射層。 - 【請求項6】 請求項1から5までの何れか1項記載の
溶射層に軟質皮膜層を固着させた摺動材料。
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