JP3283861B2 - 空気中の有害物質のサンプリング用容器 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、住宅、工場等に配
設された一定の空間内の空気中に存在する有害な物質を
収集するためのサンプリング用容器に関する。

【０００２】

【従来技術】近年、新築住宅などで起きるシックハウス
症候群が問題となっている。これは、住宅などから発生
する化学物質が引き起こす頭痛、吐き気、めまいなどの
健康被害の症状をいい、例えば合板に使用された接着剤
から放出されるホルムアルデヒドや、接着剤の溶剤など
として建材に含まれるトルエン、キシレンなどがその関
連物質として問題になっている。

【０００３】このため、世界保険機構（ＷＨＯ）では、
健康被害をもたらす有害物質について指針値を挙げてい
る。例えば、ホルムアルデヒドについては０．０８ｐｐ
ｍを越えると、健康に被害をもたらすとしている。

【０００４】また、エチレンオキシドは、工場等でプラ
スチックを生産する段階で使用されたり、種々の有機化
合物の誘導体の合成反応に用いられたり、洗剤の原料や
繊維処理剤として用いられたり、病院でプラスチック部
品を消毒したりするために使用されるものであるが、こ
れらは健康によくない。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】ところで、室内環境に
おける有害物質は、そもそも低濃度である。低濃度の物
質を高感度に測定するには高精度のガスクロマトグラフ
ィーがあればよい。

【０００６】しかし、室内の環境は刻々と変化している
ので、ガスクロマトグラフィーを持ち込んで測定して
も、それは瞬間濃度であるから、環境、人体への影響度
を正確に測ったとはいえない。２４時間の間に何度も測
定してそれらの平均値を出さなければ意味がない。この
ような作業はガスクロマトグラフィーでは大変面倒であ
る。

【０００７】また、同時に多くの場所で測定するために
は各測定個所にそれぞれガスクロマトグラフィーを揃え
なければならず、現実的には非常に困難である。

【０００８】本発明は上記問題点を解消し、住宅内空間
や工場内空間などの一定の空間の空気中の有害物質を手
軽に、低コストで、かつ十分な精度で分析することがで
き、しかも同時に多くの場所で分析測定することも可能
な、空気中の有害物質を収集するためのサンプリング用
容器を提供することをその課題とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】前記課題を解決するた
め、本発明に係る空気中の有害物質のサンプリング用容
器は、有底短円筒状の容器本体と、容器本体内に嵌り合
うスクリーンと、直径方向に棒状の押えを有するリング
と、多孔性薄膜を有するフィルター部材とから構成さ
れ、上記容器本体内に空気中の有害物質と反応し又はこ
の有害物質を吸着する化学物質を充填し、この化学物質
の上に上記スクリーンと上記リングとを順次取り付け、
さらに、上記リングの上にフィルター部材を取り付けて
容器本体の開口部を覆ったことを特徴とする。

【００１０】なお、前記容器内の化学物質は、２、４−
ジニトロフェニルヒドラジン、臭化水素酸または炭素モ
レキュラーシーブとするのがよい。

【００１１】また、前記多孔性薄膜の孔の孔径は直径約
１０μｍにするのが好ましい。

【００１２】さらに、前記容器には衣服に着脱するため
のクリップを取り付けるのが望ましい。

【００１３】

【発明の実施の形態】図１、図２及び図３において符号
１は分析用の容器を示す。この容器Ａは空気中の有害物
質を収集するためのもので、直径がバッジ状の大きさと
形状を有し、直径約４２mm、高さが１２mmの有底短円筒
状のプラスチック製の容器本体１と、容器本体１の内側
に嵌り合うように配置されるスクリーン２と、スクリー
ン２の上に配置されるリング３と、容器本体１の開口部
を覆うフィルター部材４とから構成されている。

【００１４】容器本体１の内部には空気中の有害物質を
安定な状態で取り込むための化学物質５が収納されてい
るとともに、底部は外方に張り出し、張り出し部６には
クリップ７が固定されている。このクリップ７は衣服な
どに装着するときに使用するものである。

【００１５】スクリーン２は上記化学物質を閉じ込めて
おくための部材で、化学物質よりも目が細かくなるよう
に形成されている。

【００１６】リング３は容器本体１の開口部やスクリー
ン２が変形するのを防止するための補強手段である。

【００１７】フィルター部材４は、環状の枠体４ａの内
側にテフロン製の多孔性薄膜８を張設したもので、薄膜
の孔は非常に小さく、その孔径は直径約１０μｍ程度で
ある。フィルター部材４は容器本体１に嵌合装着されて
いる。

【００１８】多孔性薄膜８を使用するのは、空気中の水
蒸気が容器本体１の内部に無制限に入り込むのを防止
し、一定量の気体が流れ込むようにコントロールするた
めで、このようにコントロールしないと、容器本体１内
における空気がどの程度の速さで反応しているのかを知
ることができないほか、有害物質の収集量に影響が及ぶ
ためである。多孔性薄膜８を使用することにより、有害
物質の収集量をダイナミックレンジにあるようにコント
ロールできるのである。器によれば、電力等のエネルギ
ーを使わず、可動部分もないから、メンテナンスが不要
で取り扱いが楽である。

【００１９】なお、膜の厚さと微孔の大きさと微孔の数
とにより、空気が容器Ａ内に取り込まれる収集量を調整
することができる。

【００２０】次に、上記容器Ａによって空気中の有害な
化学物質をサンプリングする場合は、上記容器Ａを住
宅、工場等の一定の空間に所定時間暴露し、上記空間内
の空気中に含まれる有害物質を上記容器Ａ内に取り込ん
で、上記化学物質と反応させ、または化学物質に吸着さ
せることによって収集する。具体例について次に説明す
る。

【００２１】住宅などの一定の空間の空気中に含まれる
ホルムアルデヒドを収集するときは、容器Ａ内に２、４
ージニトロフェニルヒドラジン（２、４ーdinitropheny
lhydrazin ）を表面積が大きい顆粒状にした状態で収納
する。図１に符号５で示されているのは、この２、４ー
ジニトロフェニルヒドラジンである。

【００２２】空気中にホルムアルデヒドが含まれている
と、ホルムアルデヒドは多孔性薄膜８から容器Ａ内に入
って２、４ージニトロフェニルヒドラジンと反応して
２、４ージニトロフェニルヒドラゾンとなる。

【００２３】次に、トルエンとキシレンを容器Ａ内に収
集するときは、容器Ａに炭素モレキュラーシーブ（carb
on molecular sieve）を収納しておく。炭素モレキュラ
ーシーブはある種の合成樹脂を熱分解させ、高分子がか
らまった状態で炭化させたもので、分子間の空隙をコン
トロールすることで特定の分子を収集する場合などに使
用される。この場合は、トルエンとキシレンが吸着でき
る程度の孔隙が形成されている。

【００２４】トルエンもキシレンも炭素モレキュラーシ
ーブに吸着されやすい。しかし、トルエンとキシレンで
は分析装置にかけたときのピークが互いに異なるから、
分析には支障がない。

【００２５】なお、トルエンとキシレンをサンプリング
するのに上記のような炭素モレキュラーシーブを使用す
る理由は、１ｇ当りの表面積は非常に大きく、高純度で
あるとともに、水蒸気を吸収しにくいからである。水蒸
気はトルエンやキシレンのような気化物質の吸着剤の許
容量を制限してしまうのである。

【００２６】次に、エチレンオキシド（ethylen oxide)
を収集するときは、容器Ａ内に臭化水素酸（hydro bron
ic acid)を入れておく。空気中のエチレンオキシドが容
器Ａ内に取り込まれて臭化水素酸と反応すると、安定し
た２−ブロモエタノール（2-bromoethanol）が生成され
る。

【００２７】上記容器Ａを使用して空気中の有害物質を
分析するときは、まず上記容器Ａをクリップ７を利用し
て衣服に取り付け、住宅、工場などの調査の対象空間で
所定時間生活する。入浴時や就寝時には外しておくが、
手元の近くに置いておくのが好ましい。暴露時間は８時
間、１６時間、２４時間などでよいが、容器Ａの取り付
け、取り外しは同じ時間に行なうのが便利であるから、
通常は２４時間がよい。容器Ａをバッジのように衣服に
取り付けておいてサンプリングするときは、装着者が自
ら被爆することになるので、信頼性の高い数値を得るこ
とができる。ただし、容器Ａは必ずしも人に装着する必
要はない。空間内の、息をする程度の高さに静置してお
く方式でもよい。上記空間内の空気に含まれる有害物質
は容器Ａ内に取り込まれるので、所定時間が経過した
後、容器Ａを分析装置のあるところまで運び、そこで分
析装置によって分析すればよい。

【００２８】ホルムアルデヒドの誘導体である２、４ー
ジニトロフェニルヒドラゾンという誘導体は非常に安定
で、分析時の感度も優れているので、高感度の液体クロ
マトグラフィー（high performance liquid cromatogra
phy)によって分析することができる。これによれば、
０．０２〜０．２ppm 程度の濃度まで測定することが可
能である。このように、化学反応を利用しないホルムア
ルデヒドの分析に比べ、高精度で分析することができ
る。

【００２９】トルエン、キシレンは０．０２ｐｐｍ程度
のレベルからそれ以上の濃度の分析が可能である。

【００３０】エチレンジブロミドは高感度の電子検出器
を用いるガスクロマトグラフィーによって分析すること
ができる。

【００３１】上述のように、測定すべき空間に存在する
有害物質は低濃度であり、バッジ状容器は高精度とはい
えないが、上記有害物質を上記容器内に蓄積して高感度
の分析測定装置にかけることにより、実用に十分に耐え
られる精度の数値が得られる。また、測定すべき空間に
存在する有害物質の濃度は、瞬間濃度ではなく、長時間
の間の平均濃度を測定する必要があるが、上記容器内の
有害物質の量は一定時間の間に蓄積されたものであるか
ら、これを測定することにより平均濃度を得ることがで
きる。したがって、上記サンプリング用容器によれば、
低濃度を高感度に測定することと長時間の平均濃度を測
定することの両方が可能となる。

【００３２】また、上記サンプリング用容器によれば、
電力等のエネルギーを使わず、可動部分もないから、メ
ンテナンスが不要で取り扱いが楽である。

【００３３】上記容器内に取り込まれた有害物質は安定
しているので、実用に十分に耐えられる精度で測定でき
るほか、収集から分析まで時間が経ってもよい。したが
って、遠隔地でも分析することができる。

【００３４】さらに、容器自体は小さいので、同時に何
部屋の空間でも測定することができるほか、輸送も容易
で、遠隔地に運んで測定することも可能である。

【００３５】さらにまた、多数の容器を多くの場所に設
置して有害物質を収集し、これを１個所の分析測定装置
で集中して測定すればよいので、低コストで測定するこ
とができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】容器の斜視図

【図２】容器の分解斜視図

【図３】容器の断面図

【符号の説明】

Ａ 容器 ８ 多孔性薄膜

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平10−332549（ＪＰ，Ａ) 特開 平11−258122（ＪＰ，Ａ) 特開 平11−51829（ＪＰ，Ａ) 特開2000−35386（ＪＰ，Ａ) 実開 昭63−181859（ＪＰ，Ｕ) 実公 昭58−30220（ＪＰ，Ｙ１) 国際公開98／28620（ＷＯ，Ａ１)

Claims (6)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 有底短円筒状の容器本体と、容器本体内
   に嵌り合うスクリーンと、直径方向に棒状の押えを有す
   るリングと、多孔性薄膜を有するフィルター部材とから
   構成され、上記容器本体内に空気中の有害物質と反応し
   又はこの有害物質を吸着する化学物質を充填し、この化
   学物質の上に上記スクリーンと上記リングとを順次取り
   付け、さらに、上記リングの上にフィルター部材を取り
   付けて容器本体の開口部を覆ったことを特徴とする空気
   中の有害物質のサンプリング容器。
2. 【請求項２】 前記容器内の化学物質が２、４−ジニト
   ロフェニルヒドラジンである、請求項１記載の空気中の
   有害物質のサンプリング用容器。
3. 【請求項３】 前記容器内の化学物質が臭化水素酸であ
   る、請求項１記載の空気中の有害物質のサンプリング用
   容器。
4. 【請求項４】 前記容器内の化学物質が炭素モレキュラ
   ーシーブである、請求項１記載の空気中の有害物質のサ
   ンプリング用容器。
5. 【請求項５】 前記多孔性薄膜の孔が直径約１０μｍで
   ある、請求項１記載の空気中の有害物質のサンプリング
   用容器。
6. 【請求項６】 前記容器には衣服に着脱するためのクリ
   ップが取り付けられている、請求項１記載の空気中の有
   害物質のサンプリング用容器。