JP3273476B2 - 非線形光学装置および非線形光学導波路 - Google Patents

非線形光学装置および非線形光学導波路

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JP3273476B2
JP3273476B2 JP08468393A JP8468393A JP3273476B2 JP 3273476 B2 JP3273476 B2 JP 3273476B2 JP 08468393 A JP08468393 A JP 08468393A JP 8468393 A JP8468393 A JP 8468393A JP 3273476 B2 JP3273476 B2 JP 3273476B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は非線形光学装置および非
線形光学導波路に関し、詳細には光データ・情報処理や
光通信システムにおいて将来的に用いられる光スイッチ
や光メモリ、あるいは光信号演算処理装置などの非線形
光学装置およびこれに用いて好適な非線形光学導波路に
関する。
【0002】
【従来の技術】非線形光学効果とは、物質中の電気分極
Pが、下記式(1)に示すように、光の電界Eに比例す
る項以外に、E2 ,E3 の高次項を持つために起こる効
果である。
【0003】
【数1】 P =χ(1)E+χ(2)E2 +χ(3)E3 +・・ (1) 高次項のうち特に第3項は、三次の非線形効果としてよ
く知られている第三高調波発生(周波数ωの入射光に対
して3ωの光を放出する現象)を示すとともに、下記式
(2)に示すように光の強度に依存した屈折率変化をも
たらす。
【0004】
【数2】 n =n0+n2I (2) ここで、n2 は式(1)の三次非線形感受率χ(3) に対
して、下記式(3)の関係がある。
【0005】
【数3】
【0006】ただし、n0 は線形の屈折率、cは光速で
ある。単位は、n2 をcm2 /W、χ(3) をcgs−e
suとした。
【0007】かかる三次の非線形光学効果を有する光学
媒質と、光共振器、偏光子、あるいは反射鏡などの他の
光学素子とを組み合わせると光双安定素子、光制御光ス
イッチ、光変調器、あるいは位相共役波発生装置など、
光情報処理や光通信システムにおいて将来的に用いられ
る重要なデバイスを構築し得る。
【0008】以下、三次非線形光学効果(非線形屈折率
変化)を応用した非線形光学装置の中から、光制御光ス
イッチである光カーシャッタスイッチについて説明す
る。
【0009】光カーシャッタスイッチとは、入力光をゲ
ートパルス光でゲーティングし、ゲートパルスの時間波
形に対応した出力光を得ようとするものであり、図13
に示すような構成を有する。図13に示すように、光カ
ーシャッタスイッチは、非線形屈折率部材101の両側
に、互いに偏光軸が直交するよう配置された2枚の偏光
子102Aおよび102Bを配置したものであり、2枚
の偏光子102Aおよび102Bは直交偏光子系を構成
している。ここで、非線形屈折率部材101は長さ1m
mのガラスセル内に非線形屈折率媒質であるCS2 (二
硫化炭素)液体を封入したものである。そして、非線形
屈折率部材101には、ゲートパルスPg を斜め方向か
ら入射できるようになっている。
【0010】この構成の光カーシャッタスイッチにおい
ては、ゲートパルスPg が入射している間だけ部材10
1内の非線形屈折率媒質に屈折率変化が生じる。したが
って、ゲートパルスPg を非線形屈折率部材101に入
射しながら偏光子に102Aに入力光Pi を入射する
と、偏光子102Aを通過した入力光Pi の直線偏波
が、非線形屈折率部材101の屈折率変化によって楕円
偏波に変わり、そのために光の一部が直交偏光子102
Bを通過して出力光Pt となる。しかし、ゲートパルス
g を非線形屈折率部材101に入射しない状態で偏光
子に102Aに入力光Pi を入射すると、偏光子102
Aを通過した入力光Pi の直線偏波は、偏光子101B
を通過することができない。このように、この光カーシ
ャッタスイッチでは、入力光Pi はゲート光のパルスに
よって光スイッチされる。
【0011】ここで、入力光の瞬間透過率Tおよび位相
変化量Δφはゲート光の偏光方向と入力光の偏光方向が
45°傾いた時に最大となる。この場合、瞬間透過率T
および位相変化量Δφはそれぞれ下記式(4)および
(5)で表される。また、このときの非線形屈折率媒質
の屈折率n2,eff は、下記式(6)で表される。
【0012】
【数4】 T =sin2(Δφ/2) (4)
【0013】
【数5】
【0014】
【数6】 n2,eff=n2//−n2+ (6) ただし、上記式において、Lは媒質長、λは入力光波
長、Ig はゲート光パワー密度、n2//およびn2+ はそれ
ぞれゲート光の偏光方向と平行および垂直方向での媒質
の非線形屈折率である。
【0015】なお、式(4)から、Δφが十分小さいと
きには、下記式(7)に示す関係があることがわかる。
【0016】
【数7】 T ∝ {χ(3)}2 ・ L2・{Ig}2 (7) 本発明者等がかかる従来型のCS2 光カーシャッタスイ
ッチを追試した結果では、λ=0.83μm、L=1m
m、Ig =10kWとしたときに、瞬間プローブ光透過
率T=0.3%が得られた。
【0017】このCS2 光カーシャッタスイッチの応答
速度はピコ秒程度の高速応答を示すことが確認されてお
り、従って瞬間写真撮影や高速分光などの測定系に盛ん
に用いられている。しかしながら、従来のカー媒質は、
非線形効率は必ずしも大きくなく、従って極めて大きな
ゲート光強度が必要とされるという欠点があった。そこ
で、三次の非線形光学効果が大きく、加工性に富み、し
かも使用可能な波長範囲が広い材料の開発が熱望されて
おり、現在活発な材料開発研究が行われている。
【0018】三次の非線形光学効果を有する材料のうち
では、芳香環や2重,3重結合などのπ電子共役系をも
つ有機材料が、最近特に注目されている。例えば、ポリ
(2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール ビス(p
−トルエンスルホネート)(略称PTS)は、三次非線
形感受率χ(3) の値として、χ(3) =1×10-10 es
uという大きな値(前記CS2 より2桁大きな値)を持
つ。さらに、この非線形光学効果のメカニズムが、吸収
や分子,結晶との相互作用によるものではなく、純粋な
分子内π電子分極に由来するものであるため、光信号の
強度変化に追随可能な応答速度は10-14 sec程度以
下と極めて高速であり、しかも使用可能な波長範囲が広
いという長所を有する(文献 Phys.Rev.Le
t.Vol.36,p.956,(1976))。
【0019】したがって、π電子共役系をもつ有機材料
が、光非線形光学装置の実現のための多くの候補材料の
なかで最も有望な材料系と考えられている。しかしなが
ら、三次非線形光学材料のデバイス化にあたっては、薄
膜作製技術の確立が重要である。一般に、三次非線形光
学材料の薄膜作製は、ラングミュア−ブロジェット(L
B)膜法、キャスト法、スピンキャスト法、蒸着法等で
行われる。
【0020】このうち、蒸着法は、化合物をそのまま蒸
発または昇華させて成膜するため、非線形光学材料の特
性を最大限に活用できるという長所を有し、ポリジアセ
チレン膜等の作製に広く利用されている。しかしなが
ら、ポリジアセチレン系化合物の薄膜を蒸着法で作製す
るためには、ジアセチレンモノマーを蒸着法で成膜後、
光または熱で重合させる必要があった(T.Kanet
ake et al.Appl.Phys.Let
t.,Vol.51,1957(1987))。この場
合、モノマー蒸着中の分解を防止するため、蒸着作業を
低温で行う必要があり、蒸着速度が0.02μm/時間
程度と非常に小さいという欠点があった。また、蒸着後
に重合するため、膜質が変化し易いこと、膜厚が0.5
μm以上になると重合に伴う多結晶化のため膜質が急激
に低下するという欠点もあった。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、三次
非線形光学材料のデバイス適用にあたっては、膜厚が1
μm程度以上の薄膜を作製する必要があるため、蒸着法
で薄膜が作製可能で、かつ蒸着後の重合反応等を行わず
に高いχ(3) を有する薄膜が得られる有機非線形光学薄
膜作製方法の開発が望まれている。
【0022】最近、上記目的を達成するため、石英ガラ
ス基板上に蒸着したC60フラーレンの蒸着膜の非線形光
学特性が検討され、波長1.064μmのNd:YAG
レーザー光を利用して、χ(3) =2×10-10 esuも
の大きな値が得られている(H.Hoshi et a
l.Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.3
0,1397(1991))。ただし、これは、第三高
調波波長が355nmであることから、C60の吸収極大
波長領域(共鳴領域)での測定値である。一般に、共鳴
条件下では非共鳴条件下に比べて一桁程度大きなχ(3)
値が得られることが知られており、前記測定値も非共鳴
条件下に比べて大きくなっていることが予想される。し
かしながら、このC60膜は、薄膜中の分子が蒸発し、レ
ーザ耐性に劣るという欠点があった。このため、C60
優れた高χ(3) を最大限に活用できるように、レーザ耐
性に優れるC60薄膜の作製方法の提案が望まれていた。
【0023】本発明の目的は、このような事情に鑑み、
レーザ耐性に優れるフラーレン化合物薄膜を作製し、こ
れを光学媒質として用い、これと偏光子や光共振器、あ
るいは反射鏡などの光学素子とで構成される高速・高効
率の非線形光学装置を提供することをにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明者は、フラーレン化合物を薄膜材料として非
線形光学特性と耐レーザ特性に優れる素子用材料が実現
できる薄膜作製方法の検討を行い、その結果、高真空条
件下での蒸着法により耐レーザ特性を高めたχ(3) の大
きなフラーレン化合物の薄膜を作製することができるこ
とを知見し、本発明を達した。
【0025】本発明は、非線形屈折率効果を有する媒質
を含む非線形光学部材と、偏光子、光共振器、あるいは
反射鏡などの光学素子とを具備する非線形光学装置にお
いて、前記非線形光学部材が、フラーレン化合物と他の
化合物とを混合して高真空条件下で蒸着させた非線形蒸
着薄膜であり、前記他の化合物がチタニルフタロシアニ
ン、バナジルフタロシアニン、銅フタロシアニン等のフ
タロシアニン化合物や、ペリレンとテトラシアノキノジ
メタンとのCT錯体であることを特徴とする非線形光学
装置にある。
【0026】また、本発明は、溝が形成してある基板と
該溝内に設けられたコア層とを具備する非線形光学導波
路において、前記コア層が、フラーレン化合物と他の化
合物とを混合して高真空条件下で蒸着させた非線形蒸着
膜であり、前記他の化合物がチタニルフタロシアニン、
バナジルフタロシアニン、銅フタロシアニン等のフタロ
シアニン化合物や、ペリレンとテトラシアノキノジメタ
ンとのCT錯体であることを特徴とする非線形光学導波
路にある。
【0027】本発明では、高真空条件下における蒸着法
により作製したフラーレン化合物の薄膜を用いている。
かかる薄膜は、耐レーザ特性が高く、χ(3) 値が10
-11 esu以上の大きな三次非線形光学定数を有する。
すなわち、本発明は、フラーレン薄膜の耐レーザ特性と
三次非線形光学特性を向上させるためには、蒸着時の真
空装置内圧力を低くすることが有効であるという知見に
基づくものである。ここで、高真空条件とは、10-8
orr程度以下の真空条件、好ましくは10-9Torr
程度以下の真空条件をいう。これは、10-6Torr程
度の真空条件下では、形成された薄膜がレーザ照射によ
り瞬間的に蒸発し、10-7Torr程度の真空条件下で
も、形成した薄膜がレーザ照射によりかなり劣化するか
らである。
【0028】また、これらの特性を向上させるために
は、蒸着基板に結晶性でかつ熱伝導率の高いサファイア
等を使用すること、蒸着時の基板温度を高くすること、
および作製したフラーレン薄膜上に保護膜を設けること
等も有効である。
【0029】
【作用】本発明で用いるフラーレン化合物の薄膜は、容
易に導波路構造とすることができ、これにより特性の優
れた非線形光学導波路が実現できる。この非線形光学導
波路は、特に非線形光学装置に用いて好適であり、これ
を非線形光学部材として用いた光双安定素子、光スイッ
チ、位相共役波発生器などの非線形光学装置は、高効率
で動作し、実用に十分供し得る。
【0030】さらに、本発明では、フラーレン化合物薄
膜として、フラーレン化合物に他の化合物を混合して形
成した薄膜を用いると、非線形光学特性をさらに向上す
ることができる。ここで、他の化合物としては、チタニ
ルフタロシアニン,バナジル(VO)フタロシアニン,
銅(Cu)フタロシアニン等のフタロシアニン化合物、
やペリレンとTCNQ(テトラシアノキノジメタン)と
のCT錯体等を挙げることができる。
【0031】なお、以下本発明をC60フラーレンを用い
た場合を中心として説明するが、、本発明は、下記実施
例に限定されるものではなく、C70を用いた場合等、
その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であ
ることは言うまでもない。
【0032】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細
に説明する。
【0033】(フラーレン薄膜の製造例1)図11に示
した真空蒸着装置を用いてC60フラーレン薄膜を作製し
た例を説明する。図11に示すように真空蒸着装置は図
示しない排気装置により高真空条件下に保持することが
できる真空室1を備え、真空室1内上部には、例えば、
単結晶サファイアからなる基板2を保持し、蒸着時の基
板2の温度を制御するためのヒータブロック3が設けら
れている。また、真空室1の下部には、2台のK−セル
4Aおよび4Bが設けられている。これらK−セル4A
および4Bは、それぞれフラーレン等の蒸着物質を保持
する石英るつぼ5Aおよび5Bを備え、これら石英るつ
ぼ5Aおよび5B内の蒸着物質を加熱して気化させるた
めのものである。
【0034】かかる真空蒸着装置を用いてC60フラーレ
ン薄膜を作製した例を示す。まず、K−セル4Aの石英
るつぼ5AにC60フラーレンを0.5g入れる一方、ヒ
ータブロック3に単結晶サファイアからなる基板2を密
着させて固定する。次に、真空室1内の圧力を2×10
-9Torr以下の超高真空条件に保つ。そして、K−セ
ル4A内のフラーレンを徐々に加熱して325℃に調整
して、蒸着を開始し、これにより基板2上に3μm厚の
60フラーレン薄膜を得た。加熱により装置内圧力は上
昇したが、蒸着作業中は常に約8×10-9Torrの圧
力を保っていた。
【0035】得られた膜の光学特性を調べたところ、後
に述べる非線形光学装置構成に不可欠な光学的均一・平
坦性を備えており、レーザ光の直線偏波の薄膜通過時の
偏光保持率は、50dB以上と極めて良好であった。高
パワーのレーザを照射した場合も、膜の耐性は以下の実
施例に示す実験を行うのに十分であった。サファイア基
板自身の熱伝導率が大きいことも、レーザ耐性を向上さ
せるのに役立った。
【0036】また、非線形薄膜の表面上に、K−セル4
Bの石英るつぼ5Bを利用して、厚み2μmのCaF2
からなる 保護膜を適宜真空蒸着した。この場合のレー
ザ耐性を評価したところ、保護膜がないときと比較して
耐性が向上することが確認された。これは、特にフラー
レンのような蒸着しやすい薄膜に有効である。すなわ
ち、高パワーレーザを照射すると、光学装置のシグナル
強度が経時的減少を示す場合があるが、この場合におい
ても、保護膜を備えると、その減少の程度が大幅に減少
することが確認された。保護膜には、CaF2 のほか、
SiO2 ,SiO,TiO2 ,MgO,MgF2 の蒸着
膜や、ポリイミド,ポリアミド,ナイロンのスピンコー
ト膜、およびシリコン樹脂,エポキシ樹脂,ウレタン樹
脂のキャスト膜、光学接着剤等が挙げられる。
【0037】なお、C60フラーレンを蒸着させる基板と
しては、サファイアの他、SiやSiO2 等も好適であ
る。
【0038】図12にC60フラーレン膜の透過率スペク
トルを示すが、波長が0.7μm以上になると、吸収が
大幅に減少し、媒質長が10mm程度までは、素子構成
に何の障害にならないことがわかった。
【0039】なお、図12には、C70フラーレン膜の
透過スペクトルも併せて示したが、C60フラーレン膜と
同様に波長0.7μm以上では、吸収の問題が無視で
き、C60フラーレン膜と同程度のχ(3) 値を有している
ことから、C60フラーレン膜の場合も同じような素子が
作製できることがわかる。。
【0040】(フラーレン薄膜の製造例2)本製造例で
は、C60を他の化合物と混合して薄膜を作製した結果を
示す。本製造例でも図12に示す真空蒸着装置を用い
た。C60フラーレン0.5gをK−セル4Aの石英るつ
ぼ5Aに入れ、さらにチタニルフタロシアニン0.5g
をもう一つのK−セル4Bの石英るつぼ5Bに入れて薄
膜を作製した。C60フラーレンとチタニルフタロシアニ
ンとの昇華温度の違いを考慮して、K−セル4Aおよび
4Bの石英るつぼ5Aおよび5Bの温度を、それぞれ3
25℃および350℃とした。作製された薄膜は、C60
とチタニルフタロシアニンとが混合したものとなり、厚
みが3μmであった。
【0041】得られた膜の光学特性を調べたところ、後
に述べる非線形光学装置構成に不可欠な光学的均一・平
坦性を備えており、レーザ光の直線偏波の薄膜通過時の
偏光保持率は、50dB以上と極めて良好であった。す
なわち、C60を他の化合物と混合することは、膜の平滑
性向上に寄与することがわかった。
【0042】しかし、本製造例で最も注目すべきこと
は、高パワーのレーザを照射した場合の膜の耐性が、製
造例1よりも良好であったことである。これは、(1)
60フラーレンのみでは、その分子の形状上分子間相互
作用が極めて小さく、蒸発し易いという問題があった
が、チタニルフタロシアニンを混合させたことにより、
平面形のチタニルフタロシアニンがC60フラーレン分子
間に入り、そのため分子間の相互作用が増して薄膜が堅
固になること、および、(2)チタニルフタロシアニン
の熱伝導率が大きく蒸発防止に役立つこと、等の理由に
よるものである。
【0043】なお、C60フラーレンに混合させる化合物
には、チタニルフタロシアニン以外のフタロシアニン化
合物や、ペリレンとTCNQとのCT錯体を用いること
ができる。
【0044】(参考例1) 本参考例 は、C60フラーレン薄膜導波路を作製した例を
示す。この非線形光学導波路は、図1(A)に示すよう
な溝11aが形成された基板11を用いて作製されるも
のであり、図1(B)に示すように、基板11に形成さ
れた溝11a内にC60フラーレン薄膜からなるコア部1
2と、このコア部12を覆うクラッド部13を有するも
のである。なお、溝11a以外の基板11とクラッド部
13との間には、コア部12とほぼ同じ厚さを有するC
60フラーレン薄膜14を備えている。また、コア部12
の断面は3×3μmある。かかる非線形光学導波路
は、製造例1で用いたサファイア基板の代わりに、図1
(A)に示したような溝11aが形成してあるサファイ
ア製の基板11を用い、その他の条件は全て製造例1と
同じにしてC60フラーレン薄膜を形成する。このように
蒸着を進めていくと、サファイア基板11上には、溝1
1a内と溝11a以外の基板11上に同じ速度で薄膜が
作製されるのが観察された。そこで、膜厚が3μmに達
したところで蒸着を止めたところ、3×3μmのコア
サイズのコア部12を有する導波路を得ることができ
た。ここで、コア部12以外の部分に蒸着されたC60
ラーレン薄膜14も形成されるが、この部分には光は一
切導波しないので、この部分は無視できる。ただし、表
面研磨により、コア部12以外に蒸着されたC60フラー
レン薄膜14を除去しても良い。
【0045】本製造例では、コア部12およびC60フラ
ーレン薄膜14上に、コア部12の蒸発を防止するこ
と、および空気と比べてコア部12により近い屈折率を
有する保護膜をクラッド部とすることにより光の導波特
性を向上させることを目的として、CaF2 からなる厚
み2μm保護膜をクラッド部13として真空蒸着した
(図1(A))。しかし、このクラッド部13は必ずし
も必要ではない。
【0046】かかる非線形光学導波路の光学特性を調べ
たところ、後に述べる非線形光学装置構成に不可欠な光
学的均一・平坦性を備えていた。また、レーザ光の直線
偏波の薄膜通過時の偏光保持率は、シングルモードでは
なかったが、30dB以上と良好であった。結合損失お
よび導波損失は、両者あわせて10dB以下(10mm
長)であった。高パワーのレーザを照射した場合も、膜
の耐性は以下の実施例に示す実験を行うのに十分であっ
た。
【0047】(実施例1) 本実施例では、参考例1と同様な基板11を用い、製造
例2と同様にして、非線形光学導波路を作製した。すな
わち、参考例1と同様に3×3μmのコア部となる溝
11aを有するサファイア基板11を用い、製造例2と
同様に、C60フラーレンとチタニルフタロシアニンとを
混合して蒸着させた。その後、参考例1と同様にクラッ
ド部を形成した。作製された導波路は、コアサイズが3
×3μmであった。
【0048】光学特性を調べたところ、後に述べる非線
形光学装置構成に不可欠な光学的均一・平坦性を備えて
いた。また、レーザ光の直線偏波の薄膜通過時の偏光保
持率は、この場合もシングルモードではなかったが、3
0dB以上と良好であった。結合損失および導波損失
は、両者あわせて10dB以下(10mm長)であっ
た。耐レーザ特性も、製造例2と同様にチタニルフタロ
シアニンが混合されたことにより、実施例1と比べて向
上した。
【0049】(実施例2) 本実施例では、製造例1もしくは2で作製したC60フラ
ーレン膜または参考例1もしくは実施例1の非線形光学
導波路を非線形光学部材として用い、図2に示す光カー
シャッタスイッチを構成した。図2に示すように、光カ
ーシャッタスイッチ20は、非線形光学部材21の一方
側に光学レンズ22Aおよびダイクロイックミラー23
を介して偏光子24Aを配置する一方、他方側に光学レ
ンズ22Bおよびフィルタ25を介して偏光子24Aを
配置して構成される。ここで、偏光子24Aおよび24
Bは互いに偏光軸が直交するように配置されている。ま
た、ダイクロイックミラー23は、入射光の波長の光は
透過するが、ゲート光の波長の光は反射する性質を有
し、フィルタ25は、入射光の波長の光は透過するが、
ゲート光の波長の光は透過しない性質を有する。
【0050】この光カーシャッタスイッチ20の動作を
評価するために、その入射側に1/2波長板(λ/2
板)26を介してプローブ光源27を設ける一方、出射
側に検出器28を設けた。これにより、各光カーシャッ
タスイッチ装置20の特性を観測した結果を以下に示
す。なお、以下の実験例では、このC60フラーレン膜を
用いた例を代表として説明するが、これ以外、C60フラ
ーレン/チタニルフタロシアニン膜、あるいは導波路構
造としたもの等を用いても、ほぼ同様の結果が得られ
た。
【0051】プローブ光源27からの入力光Pi として
は、波長0.98μmの半導体レーザ光を、ゲート光P
t としては、波長1.064μmのNd3+−YAGレー
ザ光(6nsec、10Hz)をそれぞれ用いた。検出
器28としては、応答速度2nsecの光電子増倍管を
用いた。
【0052】製造例1,2および参考例1並びに実施例
で作製したC60フラーレン膜等を非線形光学部材21
として用いた光カーシャッタスイッチ20を評価したと
ころ、スイッチングが確認された。図3は、製造例1で
作製したC60フラーレン膜(3μm厚)を用いた場合の
結果を示すものである。プローブ光透過率T値は式
(7)に従い、ゲート光パワーの2乗(すなわち、I
の2乗)に比例して増大しており、光カーシャッタ動作
していることがわかる。波長1μm帯には大きな吸収は
なかった。
【0053】さて、式(7)によれば、より小さいゲー
トパワーでスイッチングさせるには、光学媒質の長さを
長くすればよいが、実施例1で作製したC60導波路(1
0mm長)を用いたところ、必要なゲート光パワーが3
桁低減され、位相変化量πが実現できた。この時のゲー
ト光パワーは、2Wであった。この結果から、C60のχ
(3) の値として5×10-11 esuであることが見積ら
れた。
【0054】なお、本発明の非線形光学装置は、通信波
長帯でも同様に動作すること、および、半導体レーザを
用いてもスイッチングすることが確かめられ、装置の大
幅なコンパクト化が可能であった。
【0055】応答速度に関しては、ゲート光Pg をピコ
秒(10Hz)色素(Dye)レーザ光とし、検出器2
8としてストリークカメラ(検出限界2psec)を用
いて調べたが、C60フラーレン膜およびC60フラーレン
/チタニルフタロシアニン膜は、ともに検出限界以下で
応答していることがわかった。有機固体材料の応答速度
は、一般に、10-14 sec程度と極めて高速であるこ
とが知られているが、本実施例で用いたC60フラーレン
膜等の応答速度も同様であると考えられる。
【0056】なお、この光カーシャッタスイッチは、ピ
コ秒以下のスイッチングスピードを有するため、信号光
に100GHz以上の変調をかける変調機能、100G
Hz以上の繰り返し周波数をもつ信号光パルス列から任
意の信号パルスを取り出し、低繰り返しのパルス列に変
換するデマルチプレクシング機能、いくつかの低繰り返
し光パルス列を100GHz以上の光パルス列に多重化
するマルチプレクシング機能等を実現することができ
る。
【0057】(参考例2) 図4は本発明の非線形光学装置の他の参考例を説明する
図であって、参考例1で用いたC60フラーレン導波路を
非線形光学部材31として用いたものである。
【0058】図4に示すように、光カーシャッタスイッ
チ30の非線形光学部材31の一方側には、入射側アー
ム32aおよび32bならびに出射側アーム32cおよ
び32dを有する光ファイバ結合器32の出射側アーム
32dが接続されており、光ファイバ結合器32の入射
側アーム32aにはファイバ型偏光子33Aが接続され
ている。一方、非線形光学部材31の他方側には、ファ
イバ型偏光子33Bが接続されている。ここで、ファイ
バ型偏光子33Aおよび33Bは、偏波面保持ファイバ
をループ状に巻いて構成されたものであり、互いに偏光
軸が直交するように配置されている。なお、各接続は、
光学接着剤等により容易に行うことができる。また、フ
ァイバ型偏光子33Aの入射側には、光学レンズ34A
を介して入力光Pi が、光ファイバ結合器32の入射ア
ーム32bには、光学レンズ34Bを介してゲート光P
g が、それぞれ結合されるようになってる。さらに、フ
ァイバ型偏光子33Bの出射側からは、フィルタ35お
よび光学レンズ34Cを介して出力光Pt のみを取り出
せるようになっている。すなわち、フィルタ35は、光
ファイバ型偏光子33Bから出射されるゲート光Pg
遮断し、出力光Ptのみを透過する作用を有するもので
ある。なお、図4に示した構成の装置においては、光学
レンズ34A,34B,34C、および光フィルタ35
を除くすべての光学部品が、端面結合を用いて一体構成
されており、装置は小型,軽量で安定性に優れていると
いう特長がある。
【0059】このような光カースイッチシャッタ30に
おいて、入力光Pi およびゲート光Pg を、それぞれ光
学レンズ34Aおよび34Bを介して、光ファイバ型偏
光子33Aおよび光ファイバ結合器32の入射側アーム
32bから入射する。ここで、光ファイバ結合器32
は、入力光Pi の波長に対しては入射側アーム32aか
らの光を0.1:99.9の分岐比で出射側アーム32
cおよび32dに分岐し、ゲート光Pg の波長に対して
は入射側アーム32bからの光を約0.1:99.9の
分岐比で出射側アーム32cおよび32dに分岐する機
能を持っている。したがって、入力光Pi およびゲート
光Pg は、非線形光学部材31に入射され、入力光Pi
のうちファイバ型偏光子33Bを透過できる成分だけが
出力光Ptとなる。ここで、非線形光学部材31である
60フラーレン導波路のサイズを、コアサイズ3×3μ
2 、長さ10mmとし、入力光Pi として波長1.0
64μmのパルスレーザ光を用いた場合、入力光強度
は、20MW/cm2 の低パワーで十分であった。ゲー
ト光としては色素パルスレーザの代わりに半導体レーザ
(波長0.81μm、1.3μm等)を用いることも可
能であった。
【0060】(参考例3) 図5は本発明の非線形光学装置の他の参考例を説明する
図であり、本参考例では非線形光学部材41としてC60
フラーレン導波路を用いてマッハ・ツェンダー干渉計の
形態の光ゲート光スイッチ40を構成したものである。
【0061】図5に示すように、入射側アーム42aお
よび42bならびに出射側アーム42cおよび42dを
有する第1の光ファイバ結合器42の一方の出射側アー
ム42cと、同様に入射側アーム43aおよび43bな
らびに出射側アーム43cおよび43dを有する第2の
光ファイバ結合器43の一方の入力側アーム43aとの
間に非線形光学部材41が接続配置され、第1の光ファ
イバ結合器42の他方の出射側アーム42dと、第2の
光ファイバ結合器43の他方の入力側アーム43bとの
間には石英光ファイバ44が接続配置されている。そし
て、第1の光ファイバ結合器42の一方の入射側アーム
42aには、光学レンズ45Aを介して入力光Pi が、
第1の光ファイバ結合器42の他方の入射側アーム42
bには、光学レンズ45Bを介してゲート光Pg が、そ
れぞれ結合されるようになってる。さらに、第2の光フ
ァイバ結合器43の一方の出射側アーム43dからは、
光学レンズ45Cを介して出力光Pt を取り出せるよう
になっている。
【0062】かかる光ゲート光スイッチ40において、
入力光Pi を光学レンズ45Aを通して入射側アーム4
2aから光ファイバ結合器42に入射する一方、ゲート
光Pg を光学レンズ45Bを通して入射側アーム42b
より第1の光ファイバ結合器42に入射し、スイッチィ
ング特性を評価した。
【0063】本参考例では、ゲート光源として、波長
1.3μmの半導体レーザを直接変調した周波数10G
Hz、ピーク尖頭値1Wの光を用いた。また、入力光と
して波長1.52μmの半導体レーザからの10mW連
続光を用いた。
【0064】第1の光ファイバ結合器42は、入射側ア
ーム42aから入射した波長1.52μmの入力光Pi
を50:50の分岐比で出射側アーム42cおよび42
dに分岐し、入射アーム42bから入射した波長1.3
μmのゲート光を99.9:0.1の分岐比で出射側ア
ーム42cおよび42dに分岐する機能を持っている。
一方、第2の光ファイバ結合器43は、入射側アーム4
3aおよび43bから入射された波長1.52μmの光
をいずれも50:50の分岐比で出射側アーム43cお
よび43dに分岐し、また入射側アーム43aから入射
された波長1.3μmの光を、0.1:99.9の分岐
比で出射側アーム43cおよび43dに分岐する機能を
持っている。
【0065】このような構成になっているので、波長
1.52μmの入力光Pi は、第1の光ファイバ結合器
42により50:50に分岐された後、C60フラーレン
導波路である非線形光学部材41および石英ファイバ4
4をそれぞれ透過し、第2の光ファイバ結合器43によ
り合流される。
【0066】この構成はマッハ・ツェンダ干渉計と呼ば
れ、第2の光ファイバ結合器43の出射側アーム43c
および43dからそれぞれ出射される出力光Pt の光強
度Ic およびId は、下記式(8)および(9)で表す
ことができる。
【0067】
【数8】
【0068】
【数9】
【0069】ここで、Ii は入力光Pi のパワー、Δφ
は非線形光学部材41と石英ファイバ44とを透過して
きた光の位相差であり、式(5)で与えられる。ただ
し、石英光ファイバ44の非線形屈折率は無視した。
【0070】この参考例において、励起光を入射しない
状態では、出力光Pの光強度IおよびIは下記式
(10)で表される。
【0071】
【数10】
【0072】一方、励起光のピーク尖頭値が1Wのとき
には、出力光Pt の光強度Ic およびId は下記式(1
1)で表される。
【0073】
【数11】
【0074】図6に本参考例におけるゲート光Pと出
射側アーム43cからの出力光Pの時間波形を示す。
これにより、連続光として入射された入射光Pが、1
0GHzのゲート光Pにより高速スイッチされて出力
光Pが取り出されている様子がわかる。
【0075】(参考例4) 図7は本発明の非線形光学装置のさらに他の参考例を説
明する図であり、参考例1のC60フラーレン導波路を非
線形光学部材51として用い、これをファイバループの
一部として用いて、ループミラー干渉計の形態の光ゲー
ト光スイッチ50を構成したものである。
【0076】図7に示すように、入射側アーム52aお
よび52bならびに出射側アーム52cおよび52dを
有する第1の光ファイバ結合器52の一方の出射側アー
ム52dと、同様に入射側アーム53aおよび53bな
らびに出射側アーム53cおよび53dを有する第2の
光ファイバ結合器53の一方の入力側アーム53aとが
接続されており、第2の光ファイバ結合器53の出射側
アーム53cおよび53dは、間に長さ10mmの非線
形光学部材51を介してループ状に結合されている。そ
して、第1の光ファイバ結合器52の一方の入射側アー
ム52aには、光学レンズ54Aを介して入力光Pi
が、第1の光ファイバ結合器52の他方の入射側アーム
52bには、光学レンズ54Bを介してゲート光Pg
が、それぞれ結合されるようになってる。さらに、第2
の光ファイバ結合器53の一方の入射側アーム43bか
らは、光学レンズ54Cを介して出力光Pt を取り出せ
るようになっている。
【0077】かかる光ゲート光スイッチ50において、
入力光Pi を光学レンズ54Aを通して入射側アーム5
2aから第1の光ファイバ結合器52に入射する一方、
ゲート光Pg を光学レンズ54Bを通して入射側アーム
52bより第1の光ファイバ結合器52に入射し、スイ
ッチィング特性を評価した。
【0078】本参考例では、ゲート光Pとして、波長
1.3μmの半導体レーザ光を直接変調した周波数10
GHz、ピーク尖頭値1Wの光を用いた。また、入力光
として、波長1.52μmの半導体レーザ光を直接
変調した周波数100GHz、ピーク尖頭値10mWの
光を用いた。
【0079】第1の光ファイバ結合器52は、入射側ア
ーム52aから入射した波長1.52μmの入力光Pi
を0.1:99.9の分岐光で出射側アーム52cおよ
び52に分岐し、入射アーム52bから入射した波長
1.3μmのゲート光Pg も0.1:99.9の分岐比
で出射側アーム52cおよび52dに分岐する機能を持
っている。一方、第2の光ファイバ結合器53は、入射
側アーム53aから入射した波長1.52μmの光を5
0:50の分岐比で出射側アーム53cおよび53dに
分岐し、また入射側アーム53aから入射された波長
1.3μmの光を0.1:99.9の分岐比で出射側ア
ーム53cおよび53dに分岐する機能を持っている。
このような構成になっているので、波長1.52μmの
入力光Pi は、第2の光ファイバ結合器53により5
0:50に分岐され、それぞれ右回りおよび左回りに非
線形光学部材51を透過する。それぞれの光は第2の光
ファイバ結合器53に再度入射し、それぞれ50:50
の比率に分岐されて、入射側アーム53aおよび53b
に戻る。
【0080】このとき、入射側アーム53bに戻る2つ
の光は、もしゲート光Pg が入射していないとすると、
光ファイバ結合器の本来の性質により、Δφ=πだけの
位相差を生じている。すなわち、Pg =0のとき、最終
的に入射側アーム53aおよび53bに戻る光の分岐比
は1:0であり、第2の光ファイバ結合器53の入射側
アーム53bから出射される出力光Pt の強度I0 は0
である。
【0081】一方、ゲート光Pg が入射しているとき、
ゲート光Pg のパルスはすべてアーム53dから入射し
て左回りに非線形光学部材51を通過する。すなわち、
ゲート光Pg のゲートパルスは第2の光ファイバ結合器
53で分岐された入力光の右回りおよび左回りのパルス
のうちで、左回りのパルスにのみ屈折率変化を与える。
このときの出力光Pt の光強度I0 は、下記式(12)
で表すことができる。
【0082】
【数12】
【0083】ただし、Iiは入力光Pi のパワーであり、
Δφは式(5)で与えられる。
【0084】この参考例において、励起光を入射しない
状態では、出力光Pの光強度IおよびIは下記式
(13)で表される。
【0085】
【数13】
【0086】一方、励起光のピーク尖頭値が1Wの時に
は、出力光Pt の光強度Ic およびId は下記式(1
4)で表される。これにより、100GHzの入力光P
i が、10GHzのゲート光Pg により高速スイッチさ
れたことがわかる。
【0087】
【数14】
【0088】(参考例5) 図8は、本発明の非線形光学装置の他の参考例を説明す
る図である。本参考例の非線形光学装置60は、非線形
光学部材61の両側に入力光を約90%反射して残りを
透過させる誘電体多層蒸着膜ミラー62Aおよび62B
を対向させて配置した外部光共振器であり、非線形光学
部材61として、参考例1で作製したC60フラーレン導
波路を用いている。この非線形光学部材61の導波路
は、3μm×3μm×1mmとした。なお、この導波路
への光の入出力は図示しない光学レンズ等の光学系を用
いる。
【0089】図8に示した非線形光学装置60を動作さ
せるには、入力光波長を僅か変化させるか、あるいは共
振器長(ミラー間隔)を僅か変化させて共振条件を調整
すれば良い。本実施例の場合には、波長1.064μm
のYAGレーザ光を使用したので、調整は共振器長を変
化させる方法によった。一方側から入力光Pi を入力
し、他方側から出力光Pt を出力させた場合、入力光P
i の強度 と出力光Pt強度との関係は、図9(A)お
よび(B)で表され、リミッタ動作および双安定動作が
得られることがわかる。なお、図中の矢印はIiの増加
時、および減少時のIt の特性を現す経路を示す。
【0090】動作に必要な最小入力光強度(Ii min)は
解析的に、下記式(15)で与えられる。
【0091】 Ii min =(Kλ)/(n2l) (15) (ただし、λは光の波長、lは光学媒質長、Kは鏡の反
射率と共振器長調整とで決まる係数あり、ほぼ0.0
01である)本参考例では、λ=1.064μm、l=
1mm、n=2×10−12cm/Wであるから、
下記式(16)で求められる。
【0092】
【数16】
【0093】この値は、本参考例の装置が、半導体レー
ザを用いても十分動作可能であることを示しているが、
実際、波長1.3μmの半導体レーザを用いての動作が
確認された。
【0094】なお、装置の反応速度は、光学媒質の応答
時間τ(<10-14 sec)と共振器光子寿命tp との
大きい方で決まり、下記式(16)から計算される。
【0095】 tp=−lop/(C・lnR) (17) (ただし、lopは共振器の光学長、Cは光速、Rはミ
ラーの反射率)ここで、共振器寿命t が、6×10
−11secであり、t>τであるから、この値が装
置の応答速度となる。しかしながら、製造例1で作製し
たC60 フラーレン膜(厚さ3μm)を用いた場合は、t
が2×10−13secと低減し、装置の高速化に有
利である。そこで、装置の高速化の目的には、参考例1
で作製したC60膜等を用いることとした。装置の応答速
度を調べたところ、10−12sec以下であることが
確かめられた。
【0096】(参考例6) 図10は、位相共役波発生装置の参考例を説明する図で
ある。この位相共役波発生装置70は、製造例1で作製
したC60フラーレン膜を非線形光学部材71として用い
たものであり、この非線形光学部材71の一方側に半透
過鏡72Aおよび72Bを配置し、他方側に全反射鏡7
3を配置することにより構成されている。
【0097】この構成は縮退4光波混合と呼ばれる光学
装置であって、非線形屈折率効果を有する非線形光学部
材71に、A1 ,A2 (A1 と反対方向),Ap (傾入
射)の3つの光波が入射すると、Ap に対して空間位相
項のみが共役である第4の光波(Ac )が発生するもの
である。
【0098】本参考例においても、装置の高速安定性、
および低パワー動作が確認され、画像情報処理技術にお
ける像修正や、実時間ホログラフィなどへの有効な手段
となり得ることが示された。
【0099】
【発明の効果】以上説明したように、本発明で用いる高
真空条件下で蒸着されたC60フラーレン膜等は、耐レー
ザ特性が優れるとともに三次非線形感受率が極めて大き
く、しかも良好な光透過特性と加工性を示すので、光ス
イッチ、光双安定素子、あるいは位相共役波発生装置な
ど将来の光情報処理あるいは光通信分野で重要な位置を
占める非線形光学装置を実現できる。しかも、非線形屈
折率効果のメカニズムが吸収過程を用いていない三次分
極効果であるために、通信波長帯を含む広い波長範囲
で、10-14 secの超高速動作を実現することができ
る。
【0100】また、本発明の非線形光導波路は、あらか
じめ溝を設けたサファイア基板等を用意し、その上に蒸
着するだけで容易に作製でき、しかも、耐レーザ特性が
優れるとともに三次非線形感受率が極めて大きいものな
ので、非線形光学装置に用いて特に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一参考例に係る非線形光学導波路を示
す模式的斜視図である。
【図2】本発明の実施例2の光カーシャッタスイッチ装
置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施例2におけるC60膜を用いた光カ
ーシャッタのプローブ光透過率のゲート光パワー依存性
を示すグラフである。
【図4】本発明の参考例2の光カーシャッタスイッチ装
置を示す概略構成図である。
【図5】本発明の参考例3のマッハ・ツェンダ干渉計形
の光制御光スイッチを示す概略構成図である。
【図6】本発明の参考例3における入力光、ゲート光お
よび出力光の時間波形を示す波形図である。
【図7】本発明の参考例4のループミラー干渉計形の光
制御光スイッチを示す概略構成図である。
【図8】本発明の参考例5の光双安定装置を示す概略構
成図である。
【図9】本発明の参考例5の光双安定装置の動作特性図
であり、(A)はリミッタ動作、(B)は双安定動作を
示す。
【図10】本発明の参考例6の位相共役波発生装置の概
略構成図である。
【図11】本発明で用いた真空蒸着装置の概略図であ
る。
【図12】フラーレン膜の透過スペクトル図である。
【図13】従来の光カーシャッタスイッチの構成図であ
る。
【符号の説明】
11 基板 11a 溝 12 コア部 13 クラッド部 14 フラーレン薄膜 20,30,40,50,60,70 非線形光学装置 21,31,41,51,61,71 非線形光学部材 22A,22B,34A〜34C,45A〜45C,5
4A〜54C 光学レンズ 23 ダイクロイックミラー 24A,24B 偏光子 25 フィルタ 26 1/2波長板 27 プローブ光源 28 検出器 32,42,43,52,53 光ファイバ結合器 33A,33B 光ファイバ偏光子 11 非線形屈折率媒質 P 入力光 P 出力光 P ゲート光
フロントページの続き (72)発明者 山下 明 東京都千代田区内幸町1丁目1番6号 日本電信電話株式会社内 (56)参考文献 特開 平4−42216(JP,A) 松岡純 他 ,C60蒸着膜の光学非線 形性,第32回ガラスおよびフォトニクス 材料討論会講演要旨集,1991年11月25 日,第59−60頁

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 非線形屈折率効果を有する媒質を含む非
    線形光学部材と、偏光子、光共振器、あるいは反射鏡な
    どの光学素子とを具備する非線形光学装置において、
    記非線形光学部材が、フラーレン化合物と他の化合物と
    を混合して高真空条件下で蒸着させた非線形蒸着薄膜
    あり、前記他の化合物がチタニルフタロシアニン、バナ
    ジルフタロシアニン、銅フタロシアニン等のフタロシア
    ニン化合物や、ペリレンとテトラシアノキノジメタンと
    のCT錯体であることを特徴とする非線形光学装置。
  2. 【請求項2】 溝が形成してある基板と該溝内に設けら
    れたコア層とを具備する非線形光学導波路において、前
    記コア層が、フラーレン化合物と他の化合物とを混合し
    て高真空条件下で蒸着させた非線形蒸着膜であり、前記
    他の化合物がチタニルフタロシアニン、バナジルフタロ
    シアニン、銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物
    や、ペリレンとテトラシアノキノジメタンとのCT錯体
    であることを特徴とする非線形光学導波路。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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松岡純 他 ,C60蒸着膜の光学非線形性,第32回ガラスおよびフォトニクス材料討論会講演要旨集,1991年11月25日,第59−60頁

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