JP3260057B2 - 耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼材の製造方法 - Google Patents

耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼材の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明方法は、耐サワー性、熱間
加工性に優れた鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】石油化学プラント等の化学反応圧力容器
等に用いられる鋼材(厚鋼板、大径管等)は、常に硫化
水素を含んだ湿潤サワー環境に曝されるので鋼中に侵入
した水素ガス圧によって誘起される水素誘起割れが発生
し易く、また、応力状態での硫化物応力割れも発生し易
い。このようなことから、例えば、連続鋳造後の鋼片を
加熱後、Ar3 点〜Ar3 点+150 ℃で熱間圧延を施し、次
いで、 5〜20℃/sec の冷却速度で400 〜550 ℃まで急
冷し、引き続き焼戻処理を施すことにより、上記のごと
き欠点を解消することが特開昭63ー153217号公報に開示
されている。
【0003】上記のごとき製造方法は、圧延後の急冷に
よるベーナイト組織またはフェライト+ベーナイト組織
化により、更に急冷時の鋼材内部温度の不均一による残
留歪みを小さくすることにより水素誘起割れの伝播を防
止するものである。しかしながら、このような製造方法
においては、確実に水素誘起割れの伝播を防止すること
が困難であり、また、このような方法により得られた鋼
材は800 〜900 ℃の熱間加工により化学反応圧力容器等
に加工すると、強度が低下する等の課題がある。本発明
方法は、このような課題を有利に解決するためなされた
ものであり、耐サワー性耐HIC性(耐水素誘起割れ
性)、耐硫化物応力腐食割れ性に優れ、しかも、熱間
加工性に優れた鋼材の製造方法を提供することを目的と
するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明方法の特徴とする
ところは、C:0.10〜0.30%、Si:0.05 〜0.50%、Mn:0.5
0 〜2.00%、 P:0.02 %以下、S:0.002 %以下、残りFe
及び不回避的不純物からなる鋼片を1000〜1300℃に加熱
し、再結晶温度域で圧延を行い、次いでAr3 点〜Ar3
+150 ℃で未再結晶累積圧下率30% 以上の熱間圧延を施
し、 5〜30℃/sec の冷却速度で50〜600 ℃まで急冷
後、Ac3 点以上の温度で焼準処理することを特徴とする
耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼材の製造方法であ
る。
【0005】
【作用】上記鋼材組成の限定理由としては C :強度を確保することから必要であり、0.30%超の
含有は溶接性に悪影響を及ぼすため、範囲は0.10〜0.30
%に限定する。 Si:脱酸及び強度を確保するため添加するものであ
り、0.50%超の添加は靱性劣化を生ずることがあり、範
囲としては0.05〜0.50%とする。 Mn:強度を確保することから0.50%以上必要である
が、2.00%を超えると靱性劣化を生ずるため、範囲とし
ては、0.50〜2.00%とする。 P :不回避的不純物であるが、溶接部特性を考慮する
と0.02%以下であればよく、従って、上限値は0.02%と
する。 S :不回避的不純物であるが、0.002 %を超えると水
素誘起割れの起点となる硫化物系介在物が増加し、耐サ
ワー特性に悪影響を及ぼすことがあり、上限値は0.002
%とする。
【0006】また、上記組成の鋼に次記のごとき金属元
素を1種または2種以上を含有せしめることにより一層
強度等を向上することができる。以下、このような含有
金属元素の限定理由を述べる。 Cu:強度を確保することから有用であり、0.05%以上
含有すると効果があるが0.50%超の含有は熱間加工性を
阻害する要因となるため含有範囲としては0.05〜0.50%
とする。 Ni:靱性確保のために有効であり、0.05%以上含有す
ると効果を発揮するが、コスト的にみて上限は1.00%が
好ましい。 Cr:炭化物を形成して強度向上に有効であり、0.05%
の含有で効果があるが、0.50%超の含有は、溶接性を阻
害することがあり含有範囲としては0.05〜0.50%とす
る。 Mo:強度を確保することから有用な元素であり、0.01
%以上含有で効果があるが、0.50%超の含有は溶接性を
阻害することがあり、0.01〜0.50%を含有範囲とする。
【0007】更に、次記のごとき金属元素を1種または
2種以上を含有せしめることによって、より一層強度等
を向上することができ、以下、このような金属元素の限
定理由を明らかにする。 Nb:炭化物、窒化物の形成により強度確保に有用で、
且つ結晶粒径の微細化により靱性の向上をはかることが
できる。その効果は0.004 %以上で顕著になるが、0.05
0 %超の含有は溶接部靱性に悪影響があり、範囲として
は0.004 〜0.050 %とする。 V :炭化物の形成により0.010 %以上の含有で強度向
上の効果があるが、0.10%超の含有は靱性に溶接部靱性
に悪影響があり、範囲としては0.010 〜0.10%とする。 Ti:窒化物の形成により結晶粒径を微細化でき、靱性
の向上をはかることができる。含有量としては0.005 %
以上で効果があるが、0.050 %超にると溶接を阻害
することがあり、従って、0.005 〜0.050 %にする。
【0008】更にまた、下記の元素を含有することによ
って、一層耐サワー性等を向上させることができる。 Ca:MnS 系介在物の発生を抑制し、介在物の球状化に
より割れの原因の一つである介在物周囲の水素集積を抑
制することができる。その効果は0.0005%以上で発揮す
るが、0.005 %超の含有は鋼の清浄度を低下させること
になり、上限値は0.005 %とすることが好ましい。
【0009】このような鋼を連続鋳造等により鋼片と
し、この鋼片を1000〜1300℃に加熱する。この加熱温度
は初期オーステナイト結晶粒(組織)の粒径が粗大化し
にくい範囲であり、1300℃を超えるとオーステナイト結
晶粒の(組織)の粒径が粗大化して圧延等による均一微
細化が困難になり、バンド状組織の防止が不可能にな
る。
【0010】次いで、Ar3点以上の温度で熱間圧延を施
とによって、鋼材の組成を均一に微細化するもので
ある。まず、再結晶温度域(Ar3点+150 ℃超〜加熱温
度)で、1パス毎の圧下率を大きくすることによって、
オーステナイト結晶粒内に再結晶の核となる加工歪みを
多く導入し、組織(結晶粒)を均一且つ微細化するもの
であり、この圧延により結晶粒のバンド状組織の生成を
防止して水素誘起割れ等の発生を確実に回避するために
は、1パス当り7〜20%と大きな圧下率で圧延すること
が好ましい。次いで、未再結晶温度域(Ar3点〜Ar3点+
150 ℃)で、1パス当り大きな圧下率で圧延し、未再結
晶温度域での累積圧下率として30%以上の圧延を施す
ものである。
【0011】上記のごとく熱間圧延を施した後、Ar3
点超のオーステナイト単相状態から5〜30℃/secの
急速冷却で50〜600 ℃まで冷却することにより、オース
テナイト単相の均一な状態から微細なフェライトが急速
に析出するとともに、Cを拡散して濃化を抑制すること
ができるので、均一微細な組織が得られバンド状組織の
発生を確実に防止するこができる。5℃/sec未満の
冷却速度では、微細なフェライト結晶粒を均一に析出す
ることが困難になり、また、30℃/sec超の冷却速度
をとらなくとも確実に微細なフェライト結晶粒を均一に
析出することができる。次に、冷却温度を50℃未満にす
ると焼準時間が長くなり、生産性、燃料原単位等の点か
ら不利であり、また、600 ℃超にすると焼準処理の効果
が少なくなり熱間加工性が劣ることになり好ましくな
い。
【0012】前記のごとく熱間圧延を施した後は急速冷
却により50〜600 ℃まで冷却し、次いで、焼準処理す
る。この処理はAc3点以上の温度で5分以上保持する
ことによって、熱間圧延時に得られた微細な組織は、ほ
とんど消滅するが、組織の均一性が維持できるためにバ
ンド状組織の発生を確実に防止して耐サワー性を向上す
ることができるとともに、鋼中の微視的残留応力が除去
でき、鋼材の機械的性質が向上して熱間加工性を著しく
高めることができるので、化学反応容器用等の鋼材とし
ての商品価値を向上するこができる。Ac3点以上の温
度での保持は60分以上になると効果が飽和することが
あるので、経済性等を考慮すると60分未満が好まし
い。
【0013】図1は本発明方法(実施例1)、図2は比
較例1によってそれぞれ製造した鋼材の結晶粒(組織)
を示す光学顕微鏡写真(100 倍)であり、本発明方法
(実施例1)により製造した鋼材は結晶粒(組織)が均
一であるが、比較例1の鋼材は結晶粒(組織)が不均一
で、しかもバンド状組織が発生している。
【0014】
【実施例】次に、本発明方法の実施例を比較例とともに
挙げる。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
【表4】
【0019】
【表5】
【0020】
【表6】
【0021】
【表7】
【0022】
【表8】
【0023】
【表9】
【0024】
【表10】
【0025】注1:鋼片は、厚み245mm、巾150
0mm、長さ2100mmの連続鋳造鋳片。又は上記鋳
片を分塊圧延により鋼片厚60〜180mmとしたもの
を用いた。 注2:冷却は、水冷により冷却した。 注3:耐サワー性(応力無負荷状態下での割れ評価) 1)供試鋼をNACE TM02−84に準じた試験片
に加工する。 2)試験片を浸漬する溶液は、NACE TM02−8
4に準じたPH=5と、NACE TM01−77に準
じたPH=3のものを調整し、試験片をPH=5、PH
=3の溶液にそれぞれ96Hr浸漬後4分割し、断面を
観察して下記式により、各断面のCLRを求め破断状態
を判定した。
【数1】 CLR:割れ長さ率(Crack Length Ratio)、X1:1
つの割れ長さ(mm)、L:試験片長さ(mm)。 注4:耐応力腐食割れ性 1)供試鋼を図3に示すサイズに加工(D:6.4mm
±1.3mm、G:25.4mm、R:6.4mm)し
た。 2)上記耐サワー性の応力無負荷状態下での試験と同様
にPH=5、PH=3の溶液に調整し、上記1)のごと
く加工した供試鋼に下記式に示す荷重を負荷し続ける状
態で、上記PH=5、PH=3の溶液に720Hr浸漬
した。 W(N)=0.9×YS(N/mm2)×D(mm2) W:試験荷重、YS:供試鋼(鋼)の降伏応力、D:試験
片の断面積。 3)浸漬後試験片破断の有無を観察(浸漬中破断した場
合は、破断時間を表示)し、耐硫化応力腐食割れ性を
評価した。 注5:熱間加工性(後)は、供試鋼を900℃、2時間
保持して、その後大気中で常温まで放冷した後、降伏応
力(YS)と引張強度(TS)を調査した。
【0026】
【発明の効果】上記のごとく本発明によれば、耐HIC
性(耐水素誘起割れ性)、耐硫化応力腐食割れ性に優れ
た鋼材が製造でき、石油精製プラント等の化学反応容器
用鋼材としての機能を確実に発揮させることができる。
また熱間加工にも優れており、容器等への加工が容易
に、しかも、正確にできる等の優れた効果が得られ工業
的に大きな効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法による鋼材の結晶粒(組織)を示す
顕微鏡写真(100 倍)である。
【図2】比較例による鋼材の結晶粒(組織)を示す顕微
鏡写真(100 倍)である。
【図3】耐応力腐食割れ性の試験片を示す側面図であ
る。
フロントページの続き (72)発明者 山中 勝義 愛知県東海市東海町5−3 新日本製鐵 株式会社名古屋製鐵所内 (72)発明者 土田 豊 愛知県東海市東海町5−3 新日本製鐵 株式会社名古屋製鐵所内 (72)発明者 田中 洋一 愛知県東海市東海町5−3 新日本製鐵 株式会社名古屋製鐵所内 (56)参考文献 特開 平8−283839(JP,A) 特開 平4−143217(JP,A) 特開 平2−120726(JP,A) 特開 昭58−120726(JP,A) 特開 昭62−112722(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 6/00 C21D 8/00 - 8/10 C22C 38/00 - 38/60

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.10〜0.30%、Si:0.05 〜0.50%、M
    n:0.50 〜2.00%、P:0.02 %以下、S:0.002 %以下、残
    りFe及び不回避的不純物からなる鋼片を1000〜1300℃に
    加熱し、再結晶温度域で圧延を行い、次いでAr 3 点〜Ar
    3 点+150℃で未再結晶累積圧下率30% 以上の熱間圧延
    を施し、 5〜30℃/sec の冷却速度で50〜600 ℃まで急
    冷後、Ac 3 点以上の温度で焼準処理することを特徴とす
    る耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼材の製造方法。
  2. 【請求項2】 C:0.10〜0.30%、Si:0.05 〜0.50%、M
    n:0.50 〜2.00%、P:0.02 %以下、S:0.002 %以下、残
    りFe及び不回避的不純物からなる鋼片を1000〜1300℃に
    加熱し、再結晶温度域で圧延を行い、次いでAr3 点〜Ar
    3 点+150℃で未再結晶累積圧下率30% 以上の熱間圧延
    を施し、 5〜30℃/sec の冷却速度で50〜600 ℃まで急
    冷後、Ac3 点以上の温度で 5〜30分の焼準処理すること
    を特徴とする耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼材の製
    造方法。
  3. 【請求項3】 鋼片にCu:0.05 〜0.50%、Ni:0.05 〜1.
    00%、Cr:0.05 〜0.50%、Mo:0.01 〜0.50%の1種また
    は2種以上を含有せしめたことを特徴とする請求項1ま
    たは請求項2に記載の耐サワー性、熱間加工性に優れた
    鋼材の製造方法。
  4. 【請求項4】 鋼片にNb:0.004〜0.050 %、V:0.01〜0.
    10%、Ti:0.005〜0.050 %の1種または2種以上を含有
    せしめたことを特徴とする請求項1または請求項2また
    は請求項3に記載の耐サワー性、熱間加工性に優れた鋼
    材の製造方法。
  5. 【請求項5】 鋼片にCa:0.0005 〜0.050 %を含有せし
    めたことを特徴とする請求項1または請求項2または請
    求項3または請求項4に記載の耐サワー性、熱間加工性
    に優れた鋼材の製造方法。
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