JP3257831B2 - 二酸化鉛電極及びその製造方法 - Google Patents

二酸化鉛電極及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、二酸化鉛電極とその製
造方法、より詳細には電極活性物質である二酸化鉛中に
フッ素化合物を含有させて耐久性、撥水性及び反応選択
性を向上させた二酸化鉛電極及びその製造方法に関す
る。この種の電極は電解製造、電気化学分析、電気化学
センサーなど各種の分野で広く利用される。
【0002】
【従来技術とその問題点】電解反応用の不溶性電極とし
て、耐食性と安定性に優れた炭素電極、金属あるいは金
属酸化物電極が使用されてきた。その中でも二酸化鉛電
極を陽極として使用すると、副反応としての水電解によ
る酸素発生能が低いため、目的とする主反応の酸化効率
が高く、又他の陽極材料と比較して耐食性が優れ、安価
であり更に高電流密度を印加できるため、従来から工業
用電極として用いられている。例えば工業めっきの対
極、有機電解、排水処理、オゾン発生、過硫酸塩、過塩
素酸塩の製造等である。しかしながら該二酸化鉛電極に
は若干改良の余地がある。例えば該電極では主反応物質
移動が律速となる場合はもとより、そうでない場合でも
二酸化鉛電極と水との強い親和力によって、副反応とし
ての水の電解による酸素発生が促進されてしまうことに
なる。
【0003】特に有機電解、排水処理等でのCOD低減
においては、目的物である有機物質が親水性である二酸
化鉛表面に接触しにくく、水の電気分解や溶存するマン
ガンや鉄イオンの吸着、酸化が優先的に進行し、これが
反応効率の阻害要因となっていた。この欠点を解消する
ためには低表面張力の成分を電極表面に担持させること
により該電極に疎水性を付与し、前記有機物質と電極と
の接触を促進させて反応効率を向上させる方法が最近に
なって報告されている(Y.Kunugi, T.Fuchigami and T.
Nonaka, Chem.Lett. 1467 (1989); Y.Kunugi, T.Fuch
igami, S.Matsumuraand T.Nonaka, J. Electroanal. C
hem. 287 , 385 (1990)) 。
【0004】この方法のために用いられる電極は、フッ
化黒鉛等の疎水性フッ素化合物粒子を分散させた無電解
又は電解めっき浴中でニッケルなどの金属を複合めっき
して製造されるが、その基本技術は公知である(例え
ば、米国特許第4098654 号、西独出願公開第3333121
号)。しかしながらこれらはニッケル等の金属の複合め
っきであり、酸性溶液中で貴な電位における酸化反応の
ための陽極材料としての耐食性に乏しかった。一方特開
平2−145788号公報には、フッ素化合物を表面に付着さ
せることにより撥水性を付与し基体の耐食性を向上させ
た貴金属及び貴金属酸化物電極が開示されている(二酸
化鉛電極についての開示はない)。しかしこの電極の撥
水性樹脂成分に機械的強度がなく、高電流密度下、長期
間に亘って工業用電極として使用するためには不適切で
あった。
【0005】
【発明の目的】本発明は、従来の触媒的性能を維持した
まま、工業用電極としての十分な耐久性及び撥水性を付
与した二酸化鉛電極及びその製造方法を提供することを
目的とする。
【問題点を解決するための手段】本発明の二酸化鉛電極
は、電極基体及び、該電極基体上に形成されたフッ素化
合物を二酸化鉛中に含有させて成る電極活性物質層とを
含んで成ることを特徴とする二酸化鉛電極であり、前記
電極基体と電極活性物質層間に中間層を形成することも
できる。又本発明方法は、鉛イオンを含む電着浴中にフ
ッ素化合物粒子を分散させ、電極基体を陽極として前記
電着浴中で電解を行い、前記電極基体上にフッ素化合物
を含有させた二酸化鉛層を形成することを特徴とする二
酸化鉛電極の製造方法であり、前記電着浴中に界面活性
剤を添加し及び/又は超音波を照射して、フッ素化合物
を均一に二酸化鉛中に分散含有するようにしてもよい。
なお本発明は、陽極析出する金属酸化物(二酸化鉛)中
にフッ素化合物を分散含有させるものであり、一方前述
の既往技術である複合めっき法では、陰極めっきする金
属単体(ニッケル等)中にフッ素化合物を分散含有させ
るものであって、両者は基礎とする学術上の原理を全く
異にする。
【0006】以下本発明を詳細に説明する。本発明に係
わる二酸化鉛電極の電極基体は導電性及び耐食性を有す
るものであれば種々の物質が用いられ特に限定されな
い。通常給電体を兼ねるいわゆる弁金属や白金又はこれ
らを主とする合金を使用する。これらの中で特に望まし
いのは取扱いの容易性、耐食性等の点からチタンや白金
又はこれらの合金であり、用途に応じてニオブ、タンタ
ル等の他の弁金属やその合金を使用することができる。
これらの電極基体には電着前に十分な下地処理を施すこ
とが望ましい。該下地処理としてはブラスト処理による
表面積増大、酸洗による表面活性化、及び硫酸水溶液等
の電解液中で陰分極を行い基体表面から水素ガスを発生
させて表面洗浄を行いかつ該水素ガスにより一部生成す
る水素化物による活性化を行う方法等がある。
【0007】前記電極基体上に形成する電極活性物質層
の二酸化鉛にはα型及びβ型があり、いずれの二酸化鉛
も電極表面を撥水化させて電極活性物質の機械的強度を
向上させることができる。この二酸化鉛の原料として硝
酸鉛や塩基性炭酸鉛、酸化鉛を好ましく使用することが
できる。この二酸化鉛中に分散して電極活性物質層を構
成し該電極活性物質に撥水性を与えるフッ素化合物は常
温で固体であれば特に限定されないが、フッ化カーボン
(フッ化グラファイト)、フッ化ピッチ、ポリテトラフ
ルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロ
ピレン樹脂(FEP)等のフッ素を含む微粒子を使用す
ることがが好ましい。該フッ素化合物の分子量及び微粒
子の粒径は特に限定されず、電極としての用途により適
宜選択される。この電極活性物質層の厚さは特に限定さ
れないが、工業電解用として使用する際の耐久性を考慮
すると前記電極基体上に5μm以上の厚さに形成するこ
とが望ましい。前記電極基体上の被覆層は、全厚をフッ
素化合物と電極活性物質との分散体である電極活性物質
層として形成する必要はなく、特に厚く被覆層を形成す
る場合には、まず電極基体をフッ素化合吻を含まない従
来と同様の電着浴で二酸化鉛の中間層を被覆し、その上
に上述のようにフッ素化合物と二酸化鉛の分散混合物の
電極活性物質層を被覆するようにしてもよい。この場
合、従来の二酸化鉛層を電極基体とし、前記した金属等
の電極基体を省略することができる。更に電極基体上に
電極活性物質層を形成後、該層を基体から剥離して電極
として使用することもできる。
【0008】前記二酸化鉛中の前記フッ素化合物の含有
量は、電着浴中のフッ素化合物濃度、電流密度、攪拌状
態等の電着条件の選択により、体積分率で1〜80%の範
囲で任意に調整され、体積分率の増加に伴って、撥水性
の指標である水の接触角が増大し、フッ素化合物の固有
値に近づく。電極の撥水性は用途によって適宜選択され
る。前記フッ素化合物及び二酸化鉛の電着に際しては電
着浴中に界面活性剤を添加し及び/又は超音波を照射し
て分散性が向上した懸濁液とすることができる。該界面
活性剤としては、ノニオン系界面活性剤あるいはアニオ
ン系界面活性剤を使用することが好ましく、これはこれ
らの界面活性剤により前記フッ素化合物が酸化分解を受
けず化学的に安定だからである。該界面活性剤は濡れ性
を高め親水性の二酸化鉛と撥水性のフッ素化合物の親和
力を向上させる機能を有するが、電解液に溶解したり電
解反応に悪影響を及ぼす恐れがあるため、製造された電
極を電解に使用する前に、アセトン等の有機溶剤に溶解
させて除去するか、加熱分解して除去する必要がある。
【0009】このような二酸化鉛電極は次のような条件
で製造することができる。硝酸鉛等を10〜400 g/リッ
トル好ましくは100 〜400 g/リットル程度に水に溶解
し、かつpHを0〜4に調整する。この水溶液に好まし
くは界面活性剤を添加したフッ素化合物を懸濁させた懸
濁液を加えてホモジナイザ等の攪拌器で攪拌しあるいは
超音波を照射して電着液とする。液温は10〜80℃に維持
することが望ましい。フッ素化合物の添加量は、良好な
懸濁状態が得られかつ所望の体積分率で分散含有される
量に調整され、通常1〜30g/リットル好ましくは10〜
20g/リットルの範囲が良い。この電着浴中に電極基体
となるチタンや白金等の金属板を浸漬し、対極もチタン
や白金の金属板を使用することが好ましく、これを前記
電極基体となる金属板と向かい合わせて電着浴中に浸漬
する。電着電流密度を1〜50A/dm2 の範囲に維持し
ながら通電を行い、電流量及び通電時間を調整して所定
の電着量の二酸化鉛電極を製造することができる。
【0010】
【実施例】次に本発明の二酸化鉛電極を製造する実施例
を記載するが、該実施例は本発明を限定するものではな
い。
【実施例1】平均粒径0.4 μmのPTFE粉末5%と、
ポリオキシエチレンフクチルフェノールエーテルのノニ
オン界面活性剤0.05%と硝酸鉛30%から成る組成の二酸
化鉛電着液100 ミリリットルを調製した。又該電着液に
硝酸を加えpHを1とした。別に熱シュウ酸で洗浄した
チタン基体(10×10mm)の片面をテフロンテープでシ
ールし、該チタン基体を陽極として上記電着液に浸漬さ
せ、対極であるチタン板と対向させ、ウォーターバスで
液温60℃に保持し、更にマグネチックスターラーで液攪
拌を十分に行いながら、陽極電流密度5A/dm2 の定
電流で二酸化鉛を電着した。次に本実施例電極の撥水性
評価を行った。評価方法はアセトン洗浄を行い乾燥後、
二酸化鉛の表面に水滴を置き、株式会社ERMA製の接
触角画像解析装置(G40)を使用して水に対する接触角
を測定した。接触角は133 °であった。
【0011】次に本実施例の二酸化鉛電極を使用し、
2,3,6−トリメチルフェノール(TMP)の陽極酸
化による2,3,6−トリメチルベンゾキノン(TMB
Q)の電解による合成を行った。陽極として本実施例電
極を、陰極として白金メッキチタン電極を、陽極液とし
てアセトン:水=1:1の溶液を、陰極液として1規定
硫酸を、隔膜として中性膜である湯浅電池株式会社製ユ
ミクロン(Y−7843)をそれぞれ使用して、H型電解槽
を組み立て、陽極液中にTMPを0.01モルの濃度になる
ように溶解し、液温を20〜25℃に維持し、陽極電流密度
が5A/dm2 、通電量が0.04Fとなるような電解条件
で上記電解合成を行った。電解後の電解液中のTMP及
びTMBQの濃度を各々株式会社日立製作所製の655 型
液体クロマトグラフィ及び株式会社島津製作所製のCL
−750 型吸光光度計により測定し、TMBQが78%の収
率で得られたことを確認した。
【0012】
【実施例2】PTFE粉末を15%とし、ポリオキシエチ
レンフクチルフェノールエーテルのノニオン界面活性剤
を0.2 %としたこと以外は実施例1と同様の方法で電極
を作製した。撥水性を示す接触角は145 °であった。該
電極を用いて実施例1と同様の電解合成を行ったとこ
ろ、87%の収率でTMBQを得ることができた。
【0013】
【実施例3】PTFE粉末を25%とし、ポリオキシエチ
レンフクチルフェノールエーテルのノニオン界面活性剤
を0.25%としたこと以外は実施例1と同様の方法で電極
を作製した。接触角は150 °であった。該電極を用いて
実施例1と同様の電解合成を行ったところ、92%の収率
でTMBQを得ることができた。
【0014】
【実施例4】電着液の電流密度を10A/dm2 としたこ
と以外は実施例2と同様の方法で電極を作製した。接触
角は155 °と撥水性を有しており、実施例1と同様の電
解合成を行ったところ、TMBQの収率は94%と良好で
あった。
【0015】
【実施例5】液攪拌を行わなかったこと以外は実施例2
と同様の方法で電極を作製した。電極の一部に不均一な
析出物が生じたが、接触角は152 °と撥水性を有してお
り、実施例1と同様の電解合成を行ったところ、TMB
Qの収率は90%であった。
【0016】
【比較例1】PTFE及び界面活性剤を含まないほかは
実施例2と同様な方法で二酸化鉛電極を作製し、これを
比較例1の電極とした。該電極の撥水性を示す接触角は
53°であった。該電極を使用して実施例1と同様の電解
合成を行ったところ、TMBQの収率は58%であった。
以上から、本実施例電極は優れた撥水性を有しているこ
とにより、疎水性反応物質で選択的に反応させる能力が
高いことが示唆されている。
【0017】次に実施例4と比較例1の両電極を陽極と
し、電流−電位特性を測定した。150 g/dm3 の硫酸
溶液中で参照電極に硫酸第一水銀、対極を白金板とし、
陽極電流密度を1〜50A/dm2 としたときの該電流密
度と陽極電位との関係を図1に示した。図1中、実施例
4の電極の値を「●」で示し、比較例1の電極の値を
「〇」で示した。図から判るように、10〜100 A/dm
2 の高電流密度域で、実施例2の電極特性は比較例1よ
り顕著な電位低下を示し、良好であった。実施例4の電
極表面は発生する酸素気泡に覆われ、撥水化処理の効果
が認められる。それにもかかわらず水電解反応が速やか
に進行するのは、電極構造が三次元的であり、又気泡脱
離が容易になるからであると推測される。
【0018】
【発明の効果】本発明は、電極基体とその上に被覆され
た電極活性物質層を含んで成り、電極活性物質層の二酸
化鉛中にフッ素化合物を含有する二酸化鉛電極である。
この二酸化鉛電極は、フッ素化合物を含有しない電極と
比較して同等程度のセル電圧及び陽極電位を有し、しか
も前記フッ素化合物の存在により表面が撥水化されてい
るため、有機電解等の撥水性物質の電解に使用する際に
撥水性物質が十分に電極に接触して、高い収率で目的と
する電解生成物を得ることができる。この二酸化鉛電極
の電極基体と電極活性物質層間にフッ素化合物を含まな
い二酸化鉛の中間層を形成することもでき、該中間層は
電極基体上に被覆される二酸化鉛の厚さを厚くする際に
有用であり、場合により電極基体を兼ねることができ
る。
【0019】この二酸化鉛電極の製造は、フッ素化合物
粒子を分散させた二酸化鉛電着浴中で、電極基体を陽極
として電解し、該電解基体上にフッ素化合物を含有させ
た二酸化鉛層を形成することにより製造することができ
る。又電着条件を適宜選択することにより所望の撥水性
を有する二酸化鉛電極を製造することができる。この製
造に当たっては電着浴中に界面活性剤を存在させ及び/
又は超音波を照射することにより、フッ素化合物と鉛イ
オンとの親和性を向上させて生成する電極活性物質層中
に均一にフッ素化合物が分散し良好な撥水性が得られる
ようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例及び比較例における二酸化鉛電極の電流
密度と陽極電位との関係を示すグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−17689(JP,A) 特開 昭63−243291(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C25B 1/00 - 15/08

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 電極基体及び、該電極基体上に形成され
    た、超音波照射によりスルホン酸基を有しないフッ素化
    合物及び界面活性剤を二酸化鉛中に含有させて成る電極
    活性物質層とを含んで成ることを特徴とする二酸化鉛電
    極。
  2. 【請求項2】 電極基体、該電極基体上に形成された二
    酸化鉛から成る中間層、及び該中間層上に形成された、
    超音波を照射によりスルホン酸基を有しないフッ素化合
    物及び界面活性剤を二酸化鉛中に含有させて成る電極活
    性物質層とを含んで成ることを特徴とする二酸化鉛電
    極。
  3. 【請求項3】 鉛イオン及び界面活性剤を含む電着浴中
    スルホン酸基を有しないフッ素化合物粒子を分散さ
    せ、電極基体を陽極として前記電着浴中で超音波を照射
    しながら電解を行い、前記電極基体上にフッ素化合物を
    含有させた二酸化鉛層を形成することを特徴とする二酸
    化鉛電極の製造方法。
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