JP3243510B2 - 電界効果テラヘルツ電磁波発生素子 - Google Patents

電界効果テラヘルツ電磁波発生素子

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JP3243510B2
JP3243510B2 JP33085999A JP33085999A JP3243510B2 JP 3243510 B2 JP3243510 B2 JP 3243510B2 JP 33085999 A JP33085999 A JP 33085999A JP 33085999 A JP33085999 A JP 33085999A JP 3243510 B2 JP3243510 B2 JP 3243510B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光・電子デバイスの分
野において、周波数軸上で光と電波の境界であるテラヘ
ルツ領域(周波数100GHz〜30THz)での電磁
波の発生可能な新しい光・電子素子である電界効果テラ
ヘルツ電磁波発生素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】光と電波の境界であるテラヘルツ領域で
の光源は、まだ研究段階で、いくつかの発光素子が研究
されている。固体(半導体)を用いた発光素子として
は、光励起型の素子が主に研究されていて、それは2つ
の種類に分類される。一つはパラメトリック光変換を用
いるテラヘルツ連続光源と、もう一つは、超短光パルス
励起によるテラヘルツ短パルス光源である。特に後者
は、単一テラヘルツサイクル程度の短いパルス幅と高い
ピークパワーを有していて、テラヘルツ帯の分光や環境
計測に有望な光源である。
【0003】超短光パルス励起によるテラヘルツ光源は
主に次の3種類の構造が研究されている。 1)図16の構造で、バイアスした光導電スイッチのギ
ャップ部を超短光パルス励起した際に、ギャップ間にキ
ャリアが発生し、これによってアンテナ間に電流が流れ
る。これは光によってスイッチされたことになり、アン
テナ間に超短電圧パルスが発生する。この電圧変化(ま
たは電流変化)によって発生するテラヘルツ電磁波を利
用するもの。 2)図17の構造で、半導体表面または量子井戸を光励
起した際の実励起キャリア(電子−ホール対)発生と加
速によって発生するテラヘルツ電磁波を利用するもの。 3)半導体量子井戸を超短光パルス励起した際に発生す
るコヒーレントキャリアの空間的な振動(電荷振動)に
よって発生するテラヘルツ電磁波を利用するもの。(こ
こでコヒーレントキャリアとは励起されてから位相緩和
されるまでの間のキャリアのことである。)構造として
は、図18に示したものと同じものである。
【0004】この中で、1)は素子上のアンテナの帯域
によって発生できるテラヘルツ電磁波の発生できる周波
数が制限されるが、2)と3)は半導体中での電子-ホ
ールによって形成されるダイポールを利用しているため
に、非常に広帯域なテラヘルツ電磁波を発生できる特長
がある。
【0005】本発明は、2)の半導体中での実励起の電
子-ホールによって形成されるダイポール(または分
極)を利用する素子に関するものである。まず、図17
の半導体バルク表面からのテラヘルツ電磁波発生素子の
場合、材料によってきまった半導体表面でのバンド構造
の曲がり(表面電界)を利用して、超短光パルス励起し
た際のキャリアを電界で加速した際のテラヘルツ電磁波
発生(電流の時間微分または分極の時間に関する2階微
分に比例)を用いている。図18の原理図にこの様子を
示してある。テラヘルツ電磁波の発生機構としては、最
初に光励起直後に電子−ホール対が発生し、この電子と
ホールの空間分布が電界によって逆方向変位することに
よるダイポール発生によってテラヘルツ電磁波(瞬時的
分極によるテラヘルツ電磁波発生)が発生する。発生す
る電磁波の電界E(t)は、この瞬時的分極P(t)の時間
に関する2階微分∂P(t)/∂t に比例する。次
に電界によって電子とホールがそれぞれ逆方向に加速さ
れることによるテラヘルツ電磁波(キャリア加速または
サージ電流によるテラヘルツ電磁波)が発生する。これ
によって発生する電磁波の電界E(t)は、このキャリア加
速による分極P(t)の時間に関する2階微分∂
(t)/∂tまたは、キャリアのトランスポート(移
動)による電流J(t)の時間に関する1階微分∂J
(t)/∂tに比例する。発生したテラヘルツ電磁波
は、主に、励起光パルスに対して反射する方向または、
透過する方向に放出される。問題点としては、表面電界
は材料によって固有で、増強することができないので、
発生できるテラヘルツ電磁波の出力が材料によって限定
されてしまうことである。
【0006】また、図19には、電界印加した量子井戸
構造を用いたテラヘルツ電磁波発生素子の概念図を示
す。図20にはその原理図を示す。半導体量子構造に電
界を印加した状態(無バイアス構造の表面電界の利用も
可能。)で超短光パルス励起することより発生する電子
ホール対は、図20のように、電界によって空間的に逆
方向に変位して分布している。この変位に伴って瞬時的
な分極Pが発生する。このPの時間に関する2階微分成
分に比例してテラヘルツ電磁波を発生できる。すなわ
ち、発生する電磁波の電界E(t)は、この瞬時的分極P
(t)の時間に関する2階微分∂P(t)/∂t
比例する。しかし、バルクとは異なって、量子井戸に電
子が閉じ込められているために量子井戸に対して垂直な
電界では、電子を加速することができないので、電子加
速に伴うテラヘルツ電磁波は発生しない。発生したテラ
ヘルツ電磁波は、主に、励起光パルスに対して反射する
方向または、透過する方向に放出される。問題として
は、瞬時分極によるテラヘルツ電磁波よりも電界加速に
よるテラヘルツ電磁波の方が大きいので、電界加速によ
るテラヘルツ電磁波を利用できないので、発生できるテ
ラヘルツ電磁波の出力に限界がある。
【0007】図21〜図23には従来型のテラヘルツ電
磁波発生素子をバイアスの方向の点から分類して示す。
図21は、無バイアスのバルクまたは、量子井戸からな
るテラヘルツ電磁波発生素子で、問題点としては表面電
界を大きくできず、高出力化には限界がある。図22
は、この問題を改善するために、同じ構造に磁場を印加
した構造で、励起したキャリアが磁場によるサイクロト
ロン運動する際の磁場加速によって大きなテラヘルツ電
磁波出力が選られるのが特長である。しかし、高出力化
の為には数テスラ程度の非常に大きな磁場が必要であ
り、装置が大型化するという問題があった。図23は、
図21の構造の表面に光を透過する半透明電極を形成し
て、基板に垂直方向に電界を印加して印加電界によって
励起キャリアを加速することによってテラヘルツ電磁波
を発生する構造である。この場合は、電界印加によって
テラヘルツ電磁波の高出力化が可能であるが、次の2つ
の課題(問題点)があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
1)バルク構造の場合は、電界加速によるテラヘルツ電
磁波の増強が期待されるが、電界印加の方向の基板面と
垂直であることから、ダイポールの方向が基板垂直方向
に発生する為に、励起する光パルスの電界(光の進行方
向に垂直に電界成分がある。)とダイポールの整合およ
び発生するテラヘルツ電磁波の電界とダイポールの整合
が悪いという問題があった。ダイポールとテラヘルツ電
磁波の電界成分(テラヘルツ電磁波の放射方向に垂直)
が同じ方向の場合がもっとも整合が良く、効率よくテラ
ヘルツ電磁波を発生できるが、その為には、基板表面に
対して浅い角度で励起光を入射させ、浅い角度でテラヘ
ルツ電磁波を放射させる必要あり、素子の利用上問題に
なった。理想的には、基板面に垂直にテラヘルツ電磁波
を発生させたほうが、レンズや集光ミラー等の光学系及
びテラヘルツ光学系との結合が容易になるが、従来型
は、垂直に電磁波を発生できない。
【0009】2)量子井戸構造の場合は、電界が量子井
戸に垂直の場合、電界加速によるテラヘルツ電磁波の増
強効果を利用できない。(量子井戸に垂直方向にはキャ
リアを加速することができない。)
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、基板面に平行
方向(横方向)に電界印加が可能なバルク構造を用いた
テラヘルツ電磁波発生素子において、基板表面に横方向
に電界を印加することにより、ダイポールは基板表面と
平行方向に発生が可能になる。これによって、効率良い
テラヘルツ電磁波を発生できるだけでなく、垂直にテラ
ヘルツ電磁波を発生できるので光学系及びテラヘルツ光
学系等との結合も容易になる、また高効率結合が可能に
なる。
【0011】また、本発明は、基板面に平行方向(横方
向)に電界印加が可能な量子井戸構造を用いたテラヘル
ツ電磁波発生素子において、基板表面に横方向に電界を
印加することにより、バルク構造と同様に、ダイポール
は基板表面と平行方向に発生が可能になる。これによっ
て、効率良いテラヘルツ電磁波を発生できるだけでな
く、垂直にテラヘルツ電磁波を発生できるので光学系及
びテラヘルツ光学系等との結合も容易になる、また高効
率結合が可能になる。
【0012】また、量子井戸構造に平行方向に電界を印
加することで、電子を量子井戸に平行方向に加速するこ
とが可能になり、従来では、不可能であった量子井戸に
おけるキャリアの電界加速によるテラヘルツ電磁波の発
生が可能になる。これによってテラヘルツ電磁波の大幅
な出力向上が期待される。また、キャリアの電界加速に
よるダイポールは基板表面と平行方向に発生でき、これ
により基板面に垂直方向にテラヘルツ電磁波を放射する
ことが可能になり、光学系及びテラヘルツ光学系との結
合が容易になり、また高効率結合が可能になる。
【0013】
【発明の実施の形態】電界を半導体基板表面に平行方向
(横方向)、または、量子井戸構造に平行方向(横方
向)に印加することにより以上の問題点を解決すること
が可能になる。図1は、半導体バルク構造での応用例の
概念図を示す(断面図を示してある。構造図について
は、図10に実施例を示す)。図3には、入射光が基板
に垂直に入射した場合の例を示してある。半導体基板上
にバルク半導体を結晶成長法または、張り付け法によっ
て形成した構造でバルクの両端の電極領域から電圧を加
え、基板と平行方向(横方向)に電界を印加する。この
電極領域の形成例については後の実施例のところで述べ
る。基板表面に垂直からθの角度で超短光パルス(パル
ス幅:数10フェムト秒〜数100フェムト秒)を照射
して、バルク中に電子ーホール対を励起する。この発生
した電子ーホール対は、印加電界によって励起された瞬
間から空間的に重心が変位しているので、電子ホールに
よる分極(ダイポール)が発生する(瞬時的分極)。電
子とホールは電界に平行にそれぞれ逆方向に変位するの
で、この分極は電界と同じ方向(平行方向)に発生され
ることができる。従来の半導体表面からのテラヘルツ電
磁波発生(図17)では、半導体表面でのバンドの曲が
りは材料によって決まっているので、大きな電界印加が
不可能であった。一方、本提案では、外部電界で絶縁破
壊が生じない範囲では、任意の大きな電界を印加するこ
とができるので、それにより、短光パルス励起後の発生
した電子−ホール間の空間変位を大きくでき、大きな分
極形成が可能になる。これに伴いテラヘルツ電磁波の出
力の大幅な増加が可能になる。
【0014】図8にバルク構造でのテラヘルツ電磁波発
生の原理を示す。図には、半導体横方向(x−x’)方
向での半導体のバンド構造の電界による変化の概念図を
示す。半導体表面の場合とは異なり、電界によって半導
体の伝導帯と価電子帯のバンド構造が直線的に傾き、均
一な電界が半導体中に形成される。図中の左側に負電
位、右側に正電位を印加すると、超短光パルスによって
励起したキャリアは、励起した直後、電子はx方向、ホ
ールは−x方向に変位する。その後、電界によって加速
され、電子は正極側にホールは負極側に移動していく。
【0015】発生するテラヘルツ電磁波は2つに分類さ
れる。まず、図8の1)に示す様に、光励起によって発
生した電子ホール対の空間的な変位による分極によって
テラヘルツ電磁波(瞬時的分極によるテラヘルツ電磁波
発生)が発生する。発生する電磁波の電界E(t)は、この
瞬時的分極P(t)の時間に関する2階微分∂
(t)/∂tに比例する。次に2)電界によって電子
とホールがそれぞれ逆方向に加速されることによるテラ
ヘルツ電磁波(キャリア加速またはサージ電流によるテ
ラヘルツ電磁波)が発生する。これによって発生する電
磁波の電界E(t)は、このキャリア加速による分極P
(t)の時間に関する2階微分∂P(t)/∂t
たは、キャリアのトランスポート(移動)による電流J
(t)の時間に関する1階微分∂J(t)/∂t比例す
る。発生したテラヘルツ電磁波は、主に、励起光パルス
に対して反射する方向または、透過する方向に放出され
る。
【0016】励起光の基板表面に垂直方向に対する入射
角をθiとすると、発生するテラヘルツ電磁波は、反射
方向θr=θiおよび透過方向θt=θiにピークをもっ
て発生させられる。ここでθiは0度から360度の角
度で入射することができる。(180度から360度は
基板裏面から入射することを意味している。)
【0017】図3に示すように、基板表面に垂直(θi
=0)に励起光を入射することによって、発生テラヘル
ツ電磁波は基板に対して垂直の反射方向と(θr=θi
=0)、同じく基板の垂直方向(θt=θi=0)に放射
させることができる。発生テラヘルツ電磁波の電界と励
起キャリアによって形成されるダイポールの方向が一致
し、効率良いテラヘルツ電磁波を発生できるだけでな
く、垂直にテラヘルツ電磁波を発生できるので光学系及
びテラヘルツ光学系等との結合も容易になる。
【0018】また、図5に示すように、超短光パルスの
代わりに、多波長同時発振レーザを用いて励起すること
によってもテラヘルツ電磁波を発生させることができ
る。その原理は、図8の1)に相当する、光励起によっ
て発生した電子ホール対の空間的な変位による分極によ
って、2次非線形性が生じ、これを利用して多波長モー
ド間の差周波を発生することが可能になる。発生するテ
ラヘルツ電磁波の周波数は、レーザ間の差周波数によっ
て決まる。たとえば800nmと802nmの2波長同
時発振レーザからは差周波数として1テラヘルツ(波長
300μm)のテラヘルツ電磁波を発生することが可能
になる。
【0019】ここで多波長同時発振レーザのスペクトル
の例を図7の(a)に示す。同時発振とは、特定の時刻に
おいて同時にいくつかの波長が発振しているものであ
る。この同時発振レーザとしては、(b)に示すように、
一つのレーザ共振器中から同時発振しているレーザ出力
ビームを得る方法と、(c)に示すように、単一波長で発
振している波長の異なるn個のレーザをミラーとビーム
スプリッター等によって同軸方向に結合して一つの出力
ビームを得る方法がある。後者の方法では、ミラーとビ
ームスプリッタの代わりに、ファイバとファイバーカプ
ラによって多波長の一つの出力ビームを得ることも可能
である。
【0020】図2には量子井戸構造での提案例の概念図
を示す(断面図を示してある。構造図については、図1
1に実施例を示す)。図4には、入射光が基板に垂直に
入射した場合の例を示してある。電界印加の方法は半導
体バルクの構造と同じであり、また、励起光の入射方向
と発生テラヘルツ電磁波の方向もバルクの構造と同じで
ある。
【0021】半導体基板上に量子井戸構造を結晶成長法
または、張り付け法によって形成した構造で量子井戸構
造の両端の電極領域から電圧を加え、基板と平行方向
(横方向)に電界を印加する。この電極領域の形成例に
ついては後の実施例のところで述べる。基板表面に垂直
からθの角度で超短光パルス(パルス幅:数10フェム
ト秒〜数ピコ秒)を照射して、バルク中に電子ーホール
対を励起する。この発生した電子ーホール対は、印加電
界によって励起された瞬間から空間的に重心が変位して
いるので、電子ホールによる分極(ダイポール)が発生
する(瞬時的分極)。電子とホールは電界に平行にそれ
ぞれ逆方向に変位するので、この分極は電界と同じ方向
(平行方向)に発生されることができる。従来の量子井
戸構造に垂直に電界を印加する構造では、電子−ホール
は量子井戸によって閉じ込められているので、電界印加
に対して量子井戸に垂直方向に電子−ホールはそれぞれ
逆方向に空間変位を生じるがそれは非常に小さく、その
変位は量子井戸の幅と障壁層の組成によって決まった値
に制限されていた。一方、本提案では、量子井戸に平行
方向には、電子−ホールは量子井戸の障壁がないので電
界印加によって大きく変位することができる。そのた
め、短光パルス励起後の発生した電子−ホール間の空間
変位を大きくでき、大きな分極形成が可能になる。これ
に伴いテラヘルツ電磁波の出力の大幅な増加が可能にな
る。
【0022】図9に量子井戸構造でのテラヘルツ電磁波
発生の原理を示す。図には、半導体横方向(x−x’方
向)での半導体量子井戸構造のバンド構造の電界による
変化の概念図を示す。半導体表面の場合とは異なり、電
界によって半導体の伝導帯と価電子帯のバンド構造が直
線的に傾き、均一な電界が半導体量子井戸中に形成され
る。図中の左側に負電位、右側に正電位を印加すると、
超短光パルスによって励起したキャリアは、量子井戸中
に発生し、励起した直後、電子は量子井戸内をx方向、
ホールは量子井戸内を−x方向に変位する。その後、電
界によって加速され、電子は正極側にホールは負極側に
移動していく。
【0023】発生するテラヘルツ電磁波は2つに分類さ
れる。まず、図8の1)に示す様に、光励起のよって量
子井戸内に発生した電子-ホール対の空間的な変位によ
る分極によってテラヘルツ電磁波(瞬時的分極によるテ
ラヘルツ電磁波発生)が発生する。発生する電磁波の電
界E(t)は、この瞬時的分極P(t)の時間に関する2階
微分∂P(t)/∂tに比例する。平行方向に電界
印加した場合は、電子は量子井戸に平行方向に自由に移
動できるので、次に2)電界によって電子とホールがそ
れぞれ逆方向に加速されることによるテラヘルツ電磁波
(キャリア加速またはサージ電流によるテラヘルツ電磁
波)が発生する。これによって発生する電磁波の電界E
(t)は、このキャリア加速による分極P(t)の時間に
関する2階微分∂P(t)/∂tまたは、キャリア
のトランスポート(移動)による電流J(t)の時間に
関する1階微分∂J(t)/∂t比例する。発生したテ
ラヘルツ電磁波は、主に、励起光パルスに対して反射す
る方向または、透過する方向に放出される。後者のキャ
リアの空間移動による電磁波発生は、電界を量子井戸に
平行方向に印加した場合にのみ発生でき、従来の垂直方
向に印加した場合には発生できない。
【0024】半導体バルクの場合と同様に、図4に示す
ように、基板表面に垂直(θi=0)に励起光を入射す
ることによって、発生テラヘルツ電磁波は基板に対して
垂直の反射方向と(θr=θi=0)、同じく基板の垂
直方向(θt=θi=0)に放射させることができる。発
生テラヘルツ電磁波の電界と励起キャリアによって形成
されるダイポールの方向が一致し、効率良いテラヘルツ
電磁波を発生できるだけでなく、垂直にテラヘルツ電磁
波を発生できるので光学系及びテラヘルツ光学系等との
結合も容易になる。さらに、量子井戸構造に平行方向に
電界を印加することで、電子を量子井戸に平行方向に加
速することが可能になり、従来では、不可能であった量
子井戸におけるキャリア電界加速によるテラヘルツ電磁
波の発生が可能になる。これによってテラヘルツ電磁波
の大幅な出力向上が期待される。
【0025】また、図6に示すように、超短光パルスの
代わりに、多波長同時発振レーザを用いて励起すること
によってもテラヘルツ電磁波を発生させることができ
る。その原理は、図9の1)に相当する、光励起のよっ
て量子井戸中に発生した電子ホール対の空間的な変位に
よる分極によって、2次非線形性が生じ、これを利用し
て多波長モード間の差周波を発生することが可能にな
る。発生するテラヘルツ電磁波の周波数は、レーザ間の
差周波数によって決まる。たとえば800nmと802
nmの2波長同時発振レーザからは差周波数として1テ
ラヘルツ(波長300μm)のテラヘルツ電磁波を発生
することが可能になる。
【0026】
【実施例】図10には、バルク構造での横方向電界印加
によるテラヘルツ電磁波発生素子を示す。バルク構造は
半導体基板上(たとえば半絶縁性GaAsまたはInAs)また
は、絶縁体基板上に半導体エピ層(無ドープGaAsまたは
InAs等)を成長または張り付けたものである。電極の取
り方の詳細については後述する。図に示したものは、半
導体にドープ領域を形成してそこから電極を取る場合の
一例である。半導体バルク成長層は光を吸収できるよう
な直接遷移型の半導体(GaAs,InAs等)が望ましい.半導
体バルク構造中に電極領域を形成して、その上にnおよ
びpの電極を形成し、そこから電圧を与えることによっ
て電界を印加する。たとえば電極間の長さL=1mm程
度の構造に1KV〜10KV程度の電圧を与えることで
10〜100KV/cm程度の電界を印加することが可
能になる。また、基板は、半導体バルク層に比べて抵抗
率が高く、絶縁耐圧の高い、半絶縁性または絶縁性の基
板が望ましい。これによって半導体バルク部に電界を集
中的にかけることが可能になる。
【0027】表面からビーム径300μmφから2mm
φの超短光パルスで励起する為に、光を照射できる表面
の部分の大きさW×Lは300μm×300μm〜2m
m×2mmを一例として考えているが、それより大き
い、又は小さい面積の構造も可能である。
【0028】表面に垂直な方向からθi(0度〜360
度)の角度で励起光(超短光パルス)を入射する。ま
ず、光励起のよって発生した電子ホール対の空間的な変
位による分極によってテラヘルツ電磁波(瞬時的分極に
よるテラヘルツ電磁波発生)が発生する。発生する電磁
波の電界E(t)は、この瞬時的分極P(t)の時間に関す
る2階微分∂P(t)/∂tに比例する。次に2)
電界によって電子とホールがそれぞれ逆方向に加速され
ることによるテラヘルツ電磁波(キャリア加速またはサ
ージ電流によるテラヘルツ電磁波)が発生する。これに
よって発生する電磁波の電界E(t)は、このキャリア加速
による分極P(t)の時間に関する2階微分∂
(t)/∂tまたは、キャリアのトランスポート(移
動)による電流J(t)の時間に関する1階微分∂J
(t)/∂t比例する。以上の2つの機構によって、励
起光パルスに対して励起光が反射する方向(θr)方
向)または、励起光が透過する方向(θt)方向にテラ
ヘルツ電磁波を発生することができる。
【0029】図11には、量子井戸構造での横方向電界
印加によるテラヘルツ電磁波発生素子を示す。量子井戸
構造の例として数周期の無ドープGaAs/AlGaAs量子井戸
構造をバルクの保護層(AlGaAs層:厚さ0.1〜0.5μm)
で上下から挟んだ構造を半絶縁性GaAs基板上に成長また
は張り付けた構造を利用する例を示してある。これ以外
にバルクの保護層がない構造も可能である。量子井戸の
周期数は光を吸収できる層厚であれば多い方が多くのテ
ラヘルツ電磁波発生できるので、多い方が望ましいが、
最大総数は結晶成長上の限界によって決定される。たと
えば1〜100周期程度の構造は結晶成長上、問題なく
形成することが可能である。アルミ組成xは、電子の移
動度が最大になるような組成を選ぶことが望ましいが、
0〜1の間を任意に選ぶことができる。 GaAs/AlGaAsを
用いた実施例としては移動度が大きいアルミ組成x=
0.2〜0.35を考えているがそれ以外の組成でも可
能である。量子井戸の層厚は励起波長に対して共鳴する
ように選ぶ。たとえばモード同期チタンサファイアレー
ザ(波長700nm〜900nm)の超短光パルスで励
起する場合、アルミ組成0.2の場合、GaAs量子井戸の厚
さが10nm程度で共鳴波長は低温(10K)で800n
m、室温で840nm程度になり、レーザの波長と量子
井戸の基底励起子準位(共鳴波長)を合わせることが可
能になる。GaAs量子井戸の外側のAlGaAs障壁層の厚さ
は、隣のGaAs量子井戸に対して電子がトンネルしない程
度の厚さにすることが望ましい。アルミ組成x=0.2
〜0.35の場合この厚さは15nm〜20nm以上必要で
ある。
【0030】量子井戸としては、キャリアの移動度が大
きいことが望ましいが、GaAs以外のヘテロ構造を形成可
能な構造であれば、どのようなものでも利用可能であ
る。電極はバルク構造と同じ構造を形成して、電界印加
によって励起されたキャリアの瞬時分極およびキャリア
の加速を利用してテラヘルツ電磁波を発生させる。半導
体中に電極領域を形成して、その上にnおよびpの電極
を形成し、そこから電圧を与えることによって電界を印
加する。たとえば電極間の長さL=1mm程度の構造に
1KV〜10KV程度の電圧を与えることで10〜10
0KV/cm程度の電界を印加することが可能になる。
また、基板と量子井戸の上下のバルク層は、半導体量子
井戸およびそれらを囲む障壁層に比べて抵抗率が高く、
絶縁耐圧の高い、半絶縁性または絶縁性の基板が望まし
い。これによって量子井戸部に電界を集中的にかけるこ
とが可能になる。
【0031】表面からビーム径300μmφから2mm
φの超短光パルスで励起する為に、光を照射できる表面
の部分の大きさW×Lは300μm×300μm〜2m
m×2mmを一例として考えているが、それより大き
い、又は小さい面積の構造も可能である。
【0032】この構造に表面に垂直な方向からθi(0
度〜360度)の角度で励起光(超短光パルス)を入射
する。まず、光励起のよって発生した電子ホール対の空
間的な変位による分極によってテラヘルツ電磁波(瞬時
的分極によるテラヘルツ電磁波発生)が発生する。発生
する電磁波の電界E(t)は、この瞬時的分極P(t)の時
間に関する2階微分∂P(t)/∂tに比例する。
次に2)電界によって電子とホールがそれぞれ逆方向に
加速されることによるテラヘルツ電磁波(キャリア加速
またはサージ電流によるテラヘルツ電磁波)が発生す
る。これによって発生する電磁波の電界E(t)は、このキ
ャリア加速による分極P(t)の時間に関する2階微分
P(t)/∂tまたは、キャリアのトランスポー
ト(移動)による電流J(t)の時間に関する1階微分
∂J(t)/∂t比例する。以上の2つの機構によっ
て、励起光パルスに対して励起光が反射する方向(θ
r)方向)または、励起光が透過する方向(θt)方向
にテラヘルツ電磁波を発生することができる。
【0033】以上の図10、図11の実施例では、超短
光パルスの代わりに、多波長同時発振レーザを用いて励
起することによってもテラヘルツ電磁波を発生させるこ
とができる。光励起によって発生した電子ホール対の空
間的な変位による分極によって、2次非線形性が生じ、
これを利用して多波長モード間の差周波を発生すること
が可能になる。ただし、電子の加速による分極は、光励
起に関してインコヒーレントな分極であるので、差周波
数を発生することができない。発生するテラヘルツ電磁
波の周波数は、レーザ間の差周波数によって決まる。た
とえば800nmと802nmの2波長同時発振レーザ
からは差周波数として1テラヘルツ(波長300μm)
のテラヘルツ電磁波を発生することが可能になる。
【0034】図12〜図15には、電界印加の為の電極
形成例について示す。(x-x’方向の断面図を示して
ある。) 図12は、半絶縁半導体基板または、絶縁体基板上に、
電界印加対象構造(バルクまたは量子井戸構造)を形成
した構造の上に電極を形成する例を示す。たとえばAu/C
r等の導電性金属を蒸着することによって特定の領域
(図10、図11の実施例に示す部分)の部分に電極を
形成することが可能になる。
【0035】図13は、半絶縁半導体基板または、絶縁
体基板上に、電界印加対象構造(バルクまたは量子井戸
構造)を形成した構造の上にの特定の部分にイオン注入
法や拡散法によってn及びpの領域を形成し、レジスト
等を用いて特定の領域だけレジストの無い窓を開け、そ
こにAu/Cr等の導電性金属を蒸着することによってp電
極およぶn電極を形成することが可能になる。
【0036】図14は、半絶縁半導体基板または、絶縁
体基板上に、電界印加対象構造(バルクまたは量子井戸
構造)を形成した構造上の特定の部分をレジスト等のマ
スクで窓を開け、そこをエッチング液または、反応性の
エッチングガスでエッチングして溝を形成する。その溝
上にAu/Cr等の導電性金属を蒸着することによってp電
極およぶn電極を形成することが可能になる。
【0037】図15は、半絶縁半導体基板または、絶縁
体基板上に、電界印加対象構造(バルクまたは量子井戸
構造)を形成した構造の端面部だけをレジスト等のマス
クを用いて窓開けして、端面部だけにAu/Cr等の導電性
金属を蒸着することによってp電極およぶn電極を形成
することが可能になる。
【0038】
【発明の効果】上述した様に、本発明によれば、これま
で問題であった、ダイポールと励起光およびテラヘルツ
電磁波の整合性が改善され、また、量子井戸構造での電
子加速も可能になり、高効率で高出力なテラヘルツ電磁
波を発生させること可能になる。また、テラヘルツ電磁
波を基板表面に対して垂直方向から取り出すことができ
るので、外部光学系及び外部テラヘルツ光学系との容易
で高効率な結合が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素
子(バルク構造)を示す図である。
【図2】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素
子(量子井戸構造)を示す図である。
【図3】基板に垂直方向から励起光入射した場合の、横
方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素子(バルク
構造)を示す図である。
【図4】基板に垂直方向から励起光入射した場合の、横
方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素子(量子井
戸構造)を示す図である。
【図5】超短光パルス励起の代わりに、多波長同時発振
レーザ励起を利用した横方向電界印加によるテラヘルツ
電磁波発生素子(バルク構造)を示す図である。
【図6】超短光パルス励起の代わりに、多波長同時発振
レーザ励起を利用した横方向電界印加によるテラヘルツ
電磁波発生素子(量子井戸構造)を示す図である。
【図7】(a)は多波長同時発振レーザの発振スペクト
ルの概念図、(b)は1つのレーザ内から発生する多波
長同時発振モードを利用した例を示す図、(c)は単一
波長で発振している波長の異なるn個のレーザをミラー
とビームスプリッター等によって同軸方向に結合して一
つの出力ビームを得る方法の一例を示す図である。
【図8】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素
子(バルク構造)の動作原理を示す図である。
【図9】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生素
子(量子井戸構造)の動作原理を示す図である。
【図10】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生
素子(バルク構造)の実施例を示す図である。
【図11】横方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生
素子(量子井戸構造)の実施例を示す図である。
【図12】基板上部から電極を取る方法を示す図であ
る。
【図13】素子表面のドーピング領域から電極を取る方
法を示す図である。
【図14】エッチング端面から電極を取る方法を示す図
である。
【図15】基板端面から電極を取る方法を示す図であ
る。
【図16】光導電スイッチを用いたテラヘルツ電磁波発
生素子を示す図である。
【図17】超短光パルス励起による半導体バルクまたは
量子井戸からのテラヘルツ電磁波発生を示す図である。
【図18】半導体バルクからテラヘルツ電磁波発生の原
理を示す図である。
【図19】超短光パルス励起による半導体量子構造から
のテラヘルツ電磁波発生を示す図である。
【図20】半導体量子構造での超短光パルス励起による
テラヘルツ電磁波発生の原理を示す図である。
【図21】半導体表面の表面電界によるテラヘルツ電磁
波発生を示す図である。
【図22】磁場印加によるテラヘルツ電磁波発生を示す
図である。
【図23】縦方向電界印加によるテラヘルツ電磁波発生
を示す図である。

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 半導体バルク基板面に平行な横方向電界
    を半導体バルクに印加した構造に、超短光パルスレーザ
    の光を素子表面垂直方向に対して角度θ(θ=0度〜3
    60度)の方向から照射して半導体バルク中にキャリア
    を発生させ、基板に対して横方向に電界を印加すること
    によってキャリアを加速することを利用してテラヘルツ
    電磁波を発生することを特徴とする電界効果テラヘルツ
    電磁波発生素子
  2. 【請求項2】 半導体量子井戸を形成した基板面に平行
    な横方向電界を半導体量子井戸に印加した構造に、超短
    光パルスレーザの光を素子表面垂直方向に対して角度θ
    (θ=0度〜360度)の方向から照射して半導体量子
    井戸中にキャリアを発生させ、量子井戸に対して横方向
    に電界を印加することによってキャリアを加速すること
    を利用してテラヘルツ電磁波を発生することを特徴とす
    る電界効果テラヘルツ電磁波発生素子
  3. 【請求項3】 半導体バルク基板面に平行な横方向電界
    を半導体バルクに印加した構造に、超短光パルスレーザ
    の光を素子表面垂直方向に対して角度θ(θ=0度〜3
    60度)の方向から照射して電子−ホール対を発生さ
    せ、基板に対して横方向に電界を印加することによって
    電子−ホール対の分極を大きく形成してテラヘルツ電磁
    波を発生することを特徴とする電界効果テラヘルツ電磁
    波発生素子
  4. 【請求項4】 半導体量子井戸を形成した基板面に平行
    な横方向電界を半導体量子井戸に印加した構造に、超短
    光パルスレーザの光を素子表面垂直方向に対して角度θ
    (θ=0度〜360度)の方向から照射して半導体量子
    井戸中に電子−ホール対を発生させ、量子井戸に対して
    横方向に電界を印加することによって電子−ホール対の
    分極を大きく形成してテラヘルツ電磁波を発生すること
    を特徴とする電界効果テラヘルツ電磁波発生素子
  5. 【請求項5】 半導体バルク基板面に平行な横方向電界
    を半導体バルクに印加した構造に、多波長同時発振レー
    ザのレーザ光を素子表面垂直方向に対して角度θ(θ=
    0度〜360度)の方向から照射して半導体バルク中に
    電子−ホール対を励起し、基板に横方向の印加電界中で
    の電子−ホール対生成によって光非線形性を大きくし、
    この非線形性を利用して多波長同時発振レーザの発振モ
    ード間の差周波数発生に相当するテラヘルツ電磁波を発
    生することを特徴とする電界効果テラヘルツ電磁波発生
    素子。
  6. 【請求項6】 前記多波長同時発振レーザは、1つのレ
    ーザ共振器から同時に発振する2つ以上のレーザモード
    を利用したもの、または、2つ以上のレーザ光を同軸方
    向に結合して1つの空間ビームとしたものから成る請求
    項5に記載の電界効果テラヘルツ電磁波発生素子。
  7. 【請求項7】 半導体量子井戸を形成した基板面に平行
    な横方向電界を半導体量子井戸に印加した構造に、多波
    長同時発振レーザのレーザ光を素子表面垂直方向に対し
    て角度θ(θ=0度〜360度)の方向から照射して量
    子井戸中に電子−ホール対を励起し、量子井戸に横方向
    の印加電界中での電子−ホール対生成によって光非線形
    性を大きくし、この非線形性を利用して多波長同時発振
    レーザの発振モード間の差周波数発生に相当するテラヘ
    ルツ電磁波を発生することを特徴とする電界効果テラヘ
    ルツ電磁波発生素子。
  8. 【請求項8】 前記多波長同時発振レーザは、1つのレ
    ーザ共振器から同時に発振する2つ以上のレーザモード
    を利用したもの、または、2つ以上のレーザ光を同軸方
    向に結合して1つの空間ビームとしたものから成る請求
    項7に記載の電界効果テラヘルツ電磁波発生素子。
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