JP3241874B2 - インクジェットヘッドおよびその製造方法 - Google Patents

インクジェットヘッドおよびその製造方法

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JP3241874B2
JP3241874B2 JP17342193A JP17342193A JP3241874B2 JP 3241874 B2 JP3241874 B2 JP 3241874B2 JP 17342193 A JP17342193 A JP 17342193A JP 17342193 A JP17342193 A JP 17342193A JP 3241874 B2 JP3241874 B2 JP 3241874B2
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    • B41PRINTING; LINING MACHINES; TYPEWRITERS; STAMPS
    • B41JTYPEWRITERS; SELECTIVE PRINTING MECHANISMS, i.e. MECHANISMS PRINTING OTHERWISE THAN FROM A FORME; CORRECTION OF TYPOGRAPHICAL ERRORS
    • B41J2/00Typewriters or selective printing mechanisms characterised by the printing or marking process for which they are designed
    • B41J2/005Typewriters or selective printing mechanisms characterised by the printing or marking process for which they are designed characterised by bringing liquid or particles selectively into contact with a printing material
    • B41J2/01Ink jet
    • B41J2/135Nozzles
    • B41J2/14Structure thereof only for on-demand ink jet heads
    • B41J2002/14346Ejection by pressure produced by thermal deformation of ink chamber, e.g. buckling

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  • Particle Formation And Scattering Control In Inkjet Printers (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェットヘッド
およびその製造方法に関し、より特定的には容器の内部
を満たすインク液に圧力を加えることにより、容器内部
から外部へインク滴を吐出させるインクジェットヘッド
およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、記録液を吐出、飛翔させて記
録を行なうインクジェット法が知られている。この方法
は、低騒音で比較的高速印字が可能であること、装置の
小型化やカラー記録が容易であることなど、数々の利点
を有している。このようなインクジェット記録方法で
は、種々の液滴吐出原理に基づくインクジェット記録ヘ
ッドを用いて記録を行なっている。たとえば液滴吐出手
段として、圧電素子の変位による圧力を利用したインク
ジェットヘッドや、バブル方式のインクジェットヘッド
などがある。
【0003】また液滴吐出手段として圧電素子を用いた
ものには、たとえば積層型やバイモルフ型のインクジェ
ットヘッドがある。以下、この積層型とバイモルフ型の
インクジェットヘッドを従来の第1と第2のインクジェ
ットヘッドとして図を用いて説明する。
【0004】図32は、従来の第1のインクジェットヘ
ッドの構成を概略的に示す断面図である。図32を参照
して、従来の第1のインクジェットヘッド310は、液
滴吐出手段として積層型の圧電素子を用いたものであ
る。このインクジェットヘッド310は、容器305
と、積層型の圧電素子304とを有している。
【0005】この容器305は、空間305aと、ノズ
ルオリフィス305bと、インク供給口305cとを有
している。空間305aは容器305の内部に設けら
れ、インク80を満たすことができる。またこの空間3
05aには、インク供給口305cよりインク80が供
給可能である。また容器305の壁部にはノズルオリフ
ィス305bが設けられている。このノズルオリフィス
305bにより空間305aは容器305の外部と通じ
ている。この空間305aの内部に積層型の圧電素子3
04が設けられている。
【0006】積層型の圧電素子304は、複数個の圧電
素子301と、1対の電極303とを有している。複数
個の圧電素子301が積層されており、各圧電素子30
1間に挟まれるように1対の電極303が交互に配置さ
れている。これにより、各圧電素子301に効果的に電
圧が印加されるように構成されている。また1対の電極
303には、電源307が接続されており、スイッチの
ON・OFFの切換えにより電圧印加の切換が行なわれ
る。
【0007】このインクジェットヘッド310の動作に
おいては、まずスイッチがONされることにより1対の
電極303に電圧が印加される。この電圧の印加により
圧電素子301の各々に電圧が印加される。これによ
り、各圧電素子301が長手方向(矢印A1 方向)に延
びる。この各圧電素子301の長手方向への延びにより
インクジェットヘッド310は図33に示す状態とな
る。
【0008】図33を参照して、各圧電素子301が長
手方向(矢印A1 方向)に延びることにより、空間30
5a内に満たされたインク80に圧力が加えられる。こ
の圧力により、インク80にはたとえば矢印A2 方向、
矢印A3 方向に圧力がかかる。特にこの矢印A2 方向へ
の圧力によりインク80がノズルオリフィス305bよ
り外部へ吐出し、インク滴80aを形成する。この吐出
もしくは噴出されたインク滴80aにより、プリント面
への印字が行なわれる。
【0009】図34は、従来の第2のインクジェットヘ
ッドの構成を概略的に示す断面図である。図34を参照
して、従来の第2のインクジェットヘッド330は、容
器325と、バイモルフ324とを有している。
【0010】容器325は、空間325aと、ノズルオ
リフィス325bと、インク供給口325cとを有して
いる。容器325の内部にはインク80で満たすことの
できる空間325aが設けられている。またこの空間3
25aには、インク供給口325cよりインク80が供
給可能である。容器325の壁部にはノズルオリフィス
325bが設けられている。このノズルオリフィス32
5bにより空間325aは容器325の外部と通じてい
る。この空間325aの内部にバイモルフ324が配置
されている。
【0011】ここでバイモルフとは、圧電素子よりなる
プレートの両面に電極を2枚貼合わせた構造をいう。そ
れゆえバイモルフ324は、圧電素子321と、1対の
電極323とを有している。このバイモルフ324は、
その一方端部が容器325の内壁に取付けられて固定さ
れている。またバイモルフ324の自由端と対向する位
置にノズルオリフィス325bが位置付けられている。
この1対の電極323には、電源327が接続されてお
り、スイッチのON・OFFにより電圧印加の切換えが
行なわれる。
【0012】従来の第2のインクジェットヘッド330
の動作においては、まず空間325a内にインク80が
満たされる。また1対の電極323には電圧が印加され
た状態となっている。すなわち、印加電圧により圧電素
子321は変位し、それによりバイモルフ324はその
自由端が矢印B1 方向に変位した状態、いわゆる反りの
生じた状態となっている。この状態からスイッチがOF
F状態とされる。これにより、1対の電極323への電
圧の印加が解除され、バイモルフ324の自由端が矢印
2 方向へ変位し、図35に示す状態となる。
【0013】図35を参照して、このバイモルフ324
の変位によりインク80にはたとえば矢印B3 方向に圧
力が加えられる。この矢印B3 方向への圧力により、イ
ンク80はノズルオリフィス325bより吐出しインク
滴80aを形成する。この吐出もしくは噴出したインク
滴80aによりインク面への印字が行なわれる。
【0014】次に、バブル方式のインクジェットヘッド
を従来の第3のインクジェットヘッドとして説明する。
【0015】図36は、従来の第3のインクジェットヘ
ッドの構成を概略的に示す分解斜視図である。図36を
参照して、従来の第3のインクジェットヘッド410
は、ヒータ部404と、ノズル部405とを有してい
る。
【0016】ヒータ部404は、ヒータ401と、電極
403と、基板411とを有している。すなわち、基板
411の表面上には電極403とこの電極403に接続
されたヒータ401とが形成されている。
【0017】ノズル部405は、ノズル405aと、ノ
ズルオリフィス405bと、インク供給口405cとを
有している。ノズル405aは、ヒータ401に対応し
て複数個設けられている。また、各ノズル405aに対
応してノズルオリフィス405bが設けられている。ま
た各ノズル405aにインクを供給するためのインク供
給口405cが設けられている。
【0018】次に、バブル方式のインクジェットヘッド
の動作原理について説明する。図37(a)〜(e)
は、バブル方式のインクジェットヘッドの液滴形成過程
を工程順に示すノズルの概略断面図である。
【0019】まず図37(a)を参照して、電極(図示
せず)に通電されることによりヒータ401に電流が流
される。これによりヒータ401が急激に加熱され、ヒ
ータ401面上に核気泡81aが発生する。
【0020】図37(b)を参照して、ヒータ401が
急激に加熱されるため、予め存在する発泡核が活性化す
る前に、インク80が加熱限界に達する。これにより、
ヒータ401面上の核気泡81aが合体して膜気泡(バ
ブル)81bが得られる。
【0021】図37(c)を参照して、さらにヒータ4
01を加熱することにより、膜気泡81bが断熱膨張
し、成長する。この膜気泡81bの成長した体積分だけ
インク80は圧力を受ける。この圧力により、インク8
0はオリフィス405b外へ押出される。膜気泡81b
が最大になる時点ではヒータ401の加熱は停止されて
いる。
【0022】図37(d)を参照して、ヒータ401の
加熱が停止されることにより、膜気泡81bは周囲のイ
ンク80に熱を吸収される。これにより、膜気泡81b
の体積が収縮する。この体積の収縮により、インク80
はノズル405a内に吸引される。このインク80の吸
引より、オリフィス405b外に押出されたインク80
aはインク滴を形成しようとする。
【0023】図37(e)を参照して、さらに膜気泡8
1bの体積が収縮もしくは膜気泡81bが消滅すること
により、インク滴80aが形成される。
【0024】従来の第3のインクジェットヘッド410
の動作においては、上記の過程により形成されたインク
滴80aの吐出もしくは噴出により、プリント面に印字
が行なわれる。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】上記のように従来の第
1、第2、第3のインクジェットヘッド310、33
0、410は構成されている。しかしながら、従来の第
1、第2、第3のインクジェットヘッド310、33
0、410においては、その各々に以下に述べる問題点
がある。
【0026】まず、圧電素子を用いる従来の第1、第2
のインクジェットヘッド310、330では、インクジ
ェットヘッド310、330を小さな寸法に維持したま
ま、大きい吐出力を得ることができないという問題点が
あった。そのことについて詳細に説明する。
【0027】圧電素子を用いる場合、電圧を印加するこ
とにより圧電素子を変形させて、その変形力によりイン
ク滴を吐出させる。この圧電素子の変形量を大きくする
ためには、大きな電圧を圧電素子に印加しなければなら
ない。しかしながら、インクジェットヘッドの耐圧を考
慮すると、大きな電圧を圧電素子に印加することはでき
ない。このように印加電圧値が制約された条件下におい
ては、圧電素子の変形量を大きく確保することはできな
い。
【0028】図32、図33に示す従来の第1のインク
ジェットヘッド310では、大きな変位量を得るため、
圧電素子301をその長手方向に積層している。すなわ
ち、このインクジェットヘッド310では、積層された
各圧電素子301単位で電圧が印加されて各圧電素子3
01から効果的に変位量が得られるため、その長手方向
に比較的大きな変位量が得られる。しかし、このように
圧電素子301を積層しても制約された印加電圧では十
分な変位量が得られない。
【0029】具体的には、従来の第1のインクジェット
ヘッド301において、現在もっとも効率よく電圧を変
位量に変換できるPZTを圧電素子に用いて積層し、そ
の断面形状を2mm×3mm、長さを9mmとした場
合、積層された圧電素子は、100Vの印加電圧でも矢
印A1 方向に6.7μmしか変位しない。
【0030】また、このインクジェットヘッド310で
はさらに大きな変位量を得るためには、圧電素子301
の積層回数を多くする構造が考えられる。しかし、圧電
素子301の積層回数を多くすると、必然的に積層され
た圧電素子304全体としての長手方向の寸法が大きく
なる。このように積層された圧電素子全体としての寸法
が大きくなるため、それを配置する圧力室305aの寸
法も大きくせねばならず、インクジェットヘッド310
自体の寸法が大きくなる。
【0031】図34、図35に示す従来の第2のインク
ジェットヘッド330においても、圧電素子自体の変位
量を大きく確保できないため、バイモルフ324の厚み
方向(矢印B1 方向)の変位を大きくすることができな
い。
【0032】具体的には、従来の第2のインクジェット
ヘッド330において、圧電素子としてPZTを用い、
バイモルフの長さを6mm、厚みを0.15mm、幅を
3mmとした場合、バイモルフ324は、50Vの印加
電圧で矢印B1 方向に12μmしか変位しない。
【0033】この厚み方向の変位量を大きくするには、
バイモルフ324の全長を長くすることが考えられる。
すなわち、図38を参照して、バイモルフ324の全長
が短い場合、厚み方向の変位量(C1 )は比較的小さい
が、全長が長い場合、変位量(C2 )は比較的大きくな
る。なお、図38はバイモルフの厚み方向の変位量につ
いて説明するためのバイモルフの側面図である。
【0034】しかし、大きな変位量を得るべくバイモル
フ324の全長を長くすると、容器325の空間325
aの寸法も大きく確保せねばならず、インクジェットヘ
ッド330自体の寸法が大きくなる。
【0035】このように、従来の第1、第2のインクジ
ェットヘッド310、330の寸法が大きくなると、ノ
ズルを集積化したマルチノズルヘッドの作成が困難にな
るという問題点があった。
【0036】また、従来の第1、第2のインクジェット
ヘッド310、330では、圧電素子としてPZTを用
いている。このPZTは、薄膜形成法(たとえばスパッ
タ法など)により形成可能である。しかし、従来の第
1、第2のインクジェットヘッド310、330に用い
た場合、圧電素子自体の膜厚が大きくなるため、通常の
薄膜形成法ではこの膜厚を一度に形成することは困難で
ある。それゆえ、薄膜形成法により圧電素子の膜厚を厚
く形成するためには、何回かの工程に分けて圧電素子を
積層する必要があり、その製造方法は極めて煩雑となり
コスト面において好ましくない。
【0037】また、バブル方式を用いる従来の第3のイ
ンクジェットヘッド410では、インクジェットヘッド
の寿命が短くなるという問題点があった。そのことにつ
いて詳細に説明する。
【0038】図36に示すバブル方式のインクジェット
ヘッド410では、図37(a)〜(c)に示すプロセ
スで、綺麗な気泡81bを得るため膜沸騰現象を生じさ
せる必要がある。このためには、ヒータ401を急激に
加熱する必要がある。具体的には、インク80を約30
0℃にまで加熱しなければならないため、ヒータ401
は1000℃前後にまで加熱される。また、高速印字を
実現させるため、ヒータ401には短時間で加熱と冷却
が繰返されねばならない。このように高温への加熱と冷
却とが繰返された場合、たとえ耐熱性に優れたH4 4
等の材料をヒータ401に用いてもヒータ401に熱疲
労が生じてしまう。このように、バブル方式のインクジ
ェットヘッド410では、ヒータ401が劣化しやす
く、インクジェットヘッドの寿命が短くなる。
【0039】本発明は、上記のような問題点を解決する
ためになされたもので、小さな寸法を維持したまま大き
な吐出力を得ることができる寿命の長いインクジェット
ヘッドを提供することを目的とする。
【0040】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載のインク
ジェットヘッドは、容器の内部を満たすインク液に圧力
を加えることにより、容器内部から外部へインク滴を吐
出させるインクジェットヘッドであって、容器と、プレ
ート状の座屈構造体とを備えている。容器は、インク液
で満たすことのできる空間を内部に有し、空間の内部か
ら外部へ通じる貫通孔を有している。座屈構造体は、容
器内部に配置され、かつ両端部が容器に支持されてい
る。この座屈構造体は、通電により生じる熱膨張によっ
て座屈して貫通孔側へ変位するよう構成され、所定の温
度で座屈を生じるように予め内部応力を与えられた構成
を有し、かつ非通電時に圧縮内部応力を有した状態でプ
レート状に支持されている。
【0041】請求項に記載のインクジェットヘッド
は、容器の内部を満たすインク液に圧力を加えることに
より、容器内部から外部へインク滴を吐出させるインク
ジェットヘッドであって、容器と、プレート状の座屈構
造体と、圧縮手段とを備えている。容器は、インク液で
満たすことのできる空間を内部に有し、空間の内部から
外部へ通じる貫通孔を有している。座屈構造体は、容器
内部に配置され、かつ両端部が容器に支持されている。
圧縮手段は、座屈構造体の両端部に圧縮力を加えるため
のものである。この座屈構造体はプレート状の第1の層
と第2の層とを含み、かつ第1の層と第2の層とは互い
に異なる材料よりなり、かつ互いに異なる圧縮内部応力
を有し、かつ第1および第2の層のうち吐出側に位置す
る一方の層の圧縮内部応力が他方の層の圧縮内部応力よ
り大きく設定されている。座屈構造体は、圧縮手段によ
り圧縮力を与えられて座屈し、貫通孔側へ変位するよう
構成されている。請求項3に記載のインクジェットヘッ
ドでは、第1および第2の層は、電気めっきにより形成
された層である。 請求項4に記載のインクジェットヘッ
ドでは、第1および第2の層の圧縮内部応力の設定は、
電気めっきの電流制御により行なわれる。 請求項5に記
載のインクジェットヘッドでは、座屈構造体は、吐出方
向と反対側の面で容器に固定されている。 請求項6に記
載のインクジェットヘッドの製造方法は、加熱による座
屈変形によってインクを吐出するインクジェットヘッド
の製造方法であって、以下の工程を備えている。 まず基
板の表面に第1のめっき層が形成される。第1のめっき
層上に、第1のめっき層よりも大きな圧縮内部応力を有
する第2のめっき層が形成される。第1のめっき層およ
び第2のめっき層がエッチングされることにより座屈構
造体の形状にパターニングされる。基板の裏面から表面
に貫通する凹部を形成するように基板が除去される。
【0042】
【作用】請求項1に記載のインクジェットヘッドでは、
座屈構造体は、通電により生じる熱膨張によって圧縮力
を与えられて座屈する。この座屈により、座屈構造体
平面方向の変位量が厚み方向の変位量に変換される。ま
た、座屈による変形では、その平面方向の変位量が小さ
くとも、その小さな変位量を厚み方向に大きな変位量に
変換することができる。このため、座屈構造体の寸法を
大きくすることなく、大きな変位量を得ることが可能と
なり、それにより大きな吐出力が得られる。また、座屈
構造体を座屈させるためには、座屈構造体をその平面方
向の両端部で固定すればよく、その構造は非常に簡単で
ある。この点からも寸法を小さくすることは容易であ
る。したがって、寸法を小さく維持したまま大きな吐出
力を得ることができるインクジェットヘッドが得られ
る。
【0043】また、通電により生じる熱膨張によって座
屈させるため、座屈構造体を加熱する必要がある。しか
しこの場合、インク自体を気化させる温度にまで座屈構
造体を加熱する必要はない。すなわち、材料の線膨張係
数に応じた温度にまで加熱すれば足りる。このため、座
屈構造体をバブル方式のインクジェットヘッドのヒータ
のように高温にまで加熱する必要はない。ゆえに、その
ような高温での加熱と冷却とを繰返すことによる熱疲労
は生じがたくなる。したがって、座屈構造体の劣化は少
なく、比較的その寿命は長くなる。また、必要な熱量も
小さくてよいため、消費電力が少なくて済む。また、非
通電時(室温)にて予め圧縮内部応力を与えておくこと
により、より大きな座屈変形量を得ることができる。こ
れにより、インクジェットヘッドにおいてインクを吐出
させるための吐出力を増加させることも可能となる。
【0044】請求項に記載のインクジェットヘッドで
は、座屈構造体は、互いに異なる材料よりなる第1の層
と第2の層とを含んでいるため、第1の層と第2の層と
の線膨張係数を異ならせることができる。この第1の層
と第2の層との線膨張係数の差を利用することにより、
座屈構造体が加熱により座屈して変形する場合、座屈構
造体を常に貫通孔側へ変位するよう制御することが可能
となる。このため、インクジェットヘッドの動作におけ
る誤動作が防止される。さらに、第1の層と第2の層と
は互いに異なる圧縮内部応力を有し、かつ第1および第
2の層のうち吐出側に位置する一方の層の圧縮内部応力
が他方の層の圧縮内部応力より大きく設定されているた
め、座屈構造体が加熱により座屈して変形する場合、確
実に座屈構造体を貫通孔側へ変位するよう制御すること
ができる。このため、インクジェットヘッドの動作にお
ける誤動作が確実に防止される。
【0045】
【実施例】以下、本発明の実施例について図を用いて説
明する。
【0046】図1は、本発明のインクジェットヘッドに
おける記録原理を説明するためのインクジェットヘッド
の主要断面図である。図1を参照して、本発明のインク
ジェットヘッドは、座屈構造体1と、圧縮力発生手段3
と、筺体5と、ノズルプレート7とを備えている。
【0047】筺体5とノズルプレート7とにより内部に
中空空間を有する容器が構成されている。ノズルプレー
ト7には、円錐形またはロート状に形成された複数のノ
ズルオリフィス7aが設けられている。また、ノズルプ
レート7の壁面には、中空空間内部へインク80を供給
するためのインク供給口5bが設けられている。また筺
体5の内壁には、中空空間内部に延びる一対の取付フレ
ーム5aが設けられている。この一対の取付フレーム5
aのノズルオリフィス7a側の表面には、圧縮力発生手
段3を介在して座屈構造体1が取付固定されている。
【0048】この座屈構造体1は平面方向(長手方向)
に延びるプレート状の構造体であり、その長手方向の両
端部に圧縮力発生手段3が取付固定されている。
【0049】この座屈構造体1は加熱などの外因により
少なくともその長手方向(矢印D方向)に伸縮するよう
な材質よりなっている。また座屈構造体1に対向するノ
ズルプレート7の位置にノズルオリフィス7aが位置づ
けられている。
【0050】このインクジェットヘッド10の動作にお
いては、まずインク供給口5bよりインク80が供給さ
れ、その中空空間内部にインク80が満たされる。これ
により、座屈構造体1はインク80中に浸された状態と
なる。この後、座屈構造体1がたとえば加熱される。こ
れにより座屈構造体1は長手方向(矢印D1 方向)に延
びようとする。しかしながら、座屈構造体1の長手方向
の両端部は圧縮力発生手段3によって取付フレーム5a
に固定されている。このため、座屈構造体1はその長手
方向に延びることができず、逆に座屈構造体1には、そ
の反力として矢印F1 方向に圧縮力P1 が与えられ、蓄
積される。この圧縮力P1 が座屈構造体1の座屈加重P
c を超えると、座屈構造体1は、図2に示すように座屈
変形を起こす。
【0051】図2を参照して、この座屈構造体1の座屈
変形によって、座屈構造体1とノズルプレート7との間
の空間を満たすインク80に圧力が加えられる。このイ
ンク80に加えられた圧力がインク80中を伝搬し、イ
ンク80がノズルオリフィス7aを通じて外部へ押出さ
れる。これにより、インクジェットヘッド10の外部に
インク滴80aが形成されて、外側へ噴出する。このイ
ンク滴80aの噴出により、プリント面への印字(記
録)が行なわれる。
【0052】次に、この記録原理を用いた本発明の実施
例の具体的構成について以下に説明する。
【0053】図3は、本発明の第1の実施例におけるイ
ンクジェットヘッドの構成を概略的に示す主要断面図で
ある。図3を参照して、本発明の第1の実施例における
インクジェットヘッド30は、座屈構造体21と、絶縁
性部材23と、筺体25と、ノズルプレート27と、電
源29とを備えている。
【0054】図1で説明したと同様、筺体25とノズル
プレート27とにより内部に中空空間が形成されてい
る。この筺体25には、この中空空間にインクを供給す
るためのインク供給口25bが設けられている。また筺
体25の内壁には、中空空間に延びるように取付フレー
ム25aが設けられている。この取付フレーム25aの
ノズルプレート27側の表面上に、絶縁性部材23を介
在して座屈構造体21が取付固定されている。この座屈
構造体21と対向するノズルプレート27の位置には、
中空空間から外部へ通じる円錐型またはロート状の複数
のノズルオリフィス27aが形成されている。
【0055】座屈構造体21は、導電性を有し、かつ弾
性変形を生じる、たとえば金属などの材料より形成され
ている。また座屈構造体21は矩形状を有している。座
屈構造体21の両端部には、電流を通電するための1対
の電極21a、21bが設けられている。一方の電極2
1aはスイッチにより電源29と接続可能である。すな
わち、スイッチのON・OFF動作により一方の電極2
1aと電源29との接続・非接続を選択することができ
る。また他方の電極21bは接地状態とされている。
【0056】本実施例のインクジェットヘッド30の動
作においては、まずインク供給口25bよりインク80
が供給され、それにより中空空間内部がインク80によ
り満たされる。すなわち、座屈構造体21はインク80
中に浸された状態となる。
【0057】この状態でスイッチがON状態とされるこ
とにより、一方の電極21aに電圧が印加される。これ
により、座屈構造体21に電流が流れ、座屈構造体21
は抵抗発熱により加熱され、熱膨張を起こそうとする。
すなわち、座屈構造体21は少なくともその長手方向
(矢印D2 方向)に熱膨張によって延びようとする。
【0058】しかしながら、座屈構造体21の長手方向
の両端部は絶縁性部材23により取付フレーム5aに固
定されているため、膨張変形をすることができない。こ
のため、座屈構造体21には長手方向の両端部から矢印
2 方向に圧縮力P2 が与えられ、蓄積される。この圧
縮力P2 が座屈構造体21の座屈加重Pc を超えると、
座屈構造体21は図4に示すように座屈変形を起こす。
【0059】図4を参照して、この座屈変形により、座
屈構造体21は、その長手方向の略中間位置がノズルプ
レート27側へ変位するように座屈する。この座屈構造
体21の座屈により、座屈構造体21とノズルプレート
27との間の空間を満たすインク80に圧力が加えられ
る。インク80に加えられた圧力はインク80を伝搬
し、インク80はノズルオリフィス27aを通じてイン
クジェットヘッド30の外部へ押出される。これによ
り、インクジェットヘッド30の外部にインク滴80a
が形成されて、噴出する。この噴出するインク滴80a
によりプリント面に印字がなされる。
【0060】さらに詳細にこの座屈変形について説明す
る。図5は、座屈構造体の座屈の様子を説明するための
座屈構造体と絶縁性部材との概略斜視図である。
【0061】図5を参照して、座屈構造体21のヤング
率をE(N/m2 )、線膨張係数をα、長さ、幅、厚み
をそれぞれl(m)、b(m)、h(m)とし、座屈構
造体の温度上昇をT(℃)とした場合、圧縮力P2 は、
EαTbh(N)で示される。この圧縮力P2 が座屈構
造体21の座屈加重Pc 以下では座屈構造体21には変
位は発生せず、圧縮力P2 は内部応力として座屈構造体
21に蓄積される。しかしながら、圧縮力P2 が座屈加
重Pc を超えると座屈構造体21は座屈を起こし、座屈
変形をする。この変形により、座屈構造体21の長手方
向の略中間位置が矢印G2 方向に変位する。
【0062】なお、矢印G2 方向に座屈構造体21が変
位するのは、図2に示すように圧縮力P2 が主に座屈構
造体21を固定している絶縁性部材23との境界で発生
しており、かつ座屈構造体21の中心より下の部分に作
用しているためである。
【0063】ここで、座屈加重Pc は、材料力学の技術
書(たとえば、「材料力学」 大橋義夫著(培風館))
によれば、両端支持の長柱の場合、Pc =π2 Ebh3
/3l2 で与えられる。したがって、P>Pc の場合、
つまり座屈構造体の温度上昇Tが、π2 2 /3αl2
より大きい場合に座屈が生じる。
【0064】具体的には、座屈構造体をアルミニウム
(Al)で形成し、長さlを300μm、幅bを60μ
m、厚みhを6μmとした場合、温度上昇45℃以上で
座屈が生じる。また、同一寸法で座屈構造体21にニッ
ケルを用いた場合には、温度上昇73℃以上で座屈が生
じる。
【0065】図6は、座屈構造体を加熱した場合の温度
上昇と最大座屈変形量との関係をシミュレーション計算
に基づいて示す図である。この図5に示すシミュレーシ
ョン計算に基づくと、座屈構造体21に上記の寸法でア
ルミニウムを用いた場合には、温度上昇300℃で最大
座屈変形量が16.3μmとなる。またこれと同一条件
で、座屈構造体21にニッケルを用いた場合には、最大
座屈変形量は12.2μmとなる。
【0066】なお、座屈構造体21の両端が固定されて
いない場合の温度上昇300℃における長手方向の熱膨
張量(室温20℃を基準とする)は、アルミニウムで
2.4μm、ニッケルで1.5μmである。このよう
に、同一加熱温度においては、座屈変形量は、熱膨張量
より格段に大きくなることがわかる。すなわち、座屈現
象を利用することによって、座屈構造体21の長手方向
の微少な変位量を厚み方向の大きな変形量に変換するこ
とができる。
【0067】本実施例のインクジェットヘッド30で
は、この座屈現象を利用しているため、座屈構造体21
の長手方向(矢印D2 方向)の微少変位を厚み方向(矢
印G2)の大きな変位量に変換することができる。この
ため、座屈構造体21の寸法を大きくすることなく、厚
み方向に大きな変位量を得ることが可能となり、それに
より大きな吐出力を得ることができる。
【0068】また、座屈構造体21を座屈させるために
は、座屈構造体21の長手方向の両端部を筺体25に固
定すればよく、その構造は非常に簡単である。この構造
上の点からも本実施例のインクジェットヘッド30の寸
法を小さくすることは容易である。したがって、寸法を
小さく維持したまま、大きな吐出力を得ることができる
インクジェットヘッド30を実現することが可能とな
る。
【0069】また、本実施例のインクジェットヘッド3
0では、座屈構造体21を加熱により熱膨張させ、その
熱膨張量により生じる圧縮力P2 によって座屈構造体2
1を座屈させている。このため、座屈構造体21を座屈
させるためには、所定の温度まで座屈構造体21を加熱
する必要がある。
【0070】しかし、本実施例のインクジェットヘッド
30では、バブル方式のインクジェットヘッドのよう
に、インク自体を気化させる温度にまで加熱する必要は
ない。すなわち、座屈構造体21の材料の熱膨張係数に
応じた温度にだけ加熱すれば足りる。このため、本実施
例のインクジェットヘッド30では、バブル方式のイン
クジェットヘッドのようにたとえば1000℃といった
高温にまで加熱する必要はない。よって、高温での加熱
と冷却とを繰返すことによる座屈構造体21の熱疲労は
抑制される。したがって、座屈構造体21の熱疲労によ
る劣化は少なく、その寿命は比較的長くなる。
【0071】第1の実施例においては、座屈構造体21
が加熱により熱膨張することを利用して座屈構造体21
を座屈させていた。しかしながら、本発明のインクジェ
ットヘッドでは、加熱により座屈を起こさせる方式に限
られず、座屈を起こさせる方式であればどのような方式
も採用することができる。すなわち、座屈構造体21に
何らかの外因を与え、それにより座屈構造体21に座屈
を生じさせるものであればよい。具体的には、圧電素子
を用いて座屈を生じさせてもよい。
【0072】以下、圧電素子を用いて座屈を行なわしめ
る方式を本発明の第2の実施例として説明する。
【0073】図7は、本発明の第2の実施例におけるイ
ンクジェットヘッドの構成を概略的に示す主要断面図で
ある。図7を参照して、本発明の第2の実施例における
インクジェットヘッド50は、座屈構造体41と、筺体
45と、ノズルプレート47と、圧電素子51と、1対
の電極53a、53bとを有している。
【0074】筺体45とノズルプレート47とによりそ
の内部に中空空間が形成されている。筺体45には、そ
の中空空間にインクを供給するためのインク供給口45
bが設けられている。また筺体45の内壁には中空空間
に延びるように1対の取付フレーム45aが設けられて
いる。この1対の取付フレーム45aのノズルプレート
47側の表面上には、圧電素子51を介在して座屈構造
体41が取付け固定されている。
【0075】すなわち、座屈構造体41の長手方向の両
端部のうち一方端部は取付フレーム45aに直接取付け
固定されており、その他方端部が圧電素子51を介在し
て取付フレーム45aに取付け固定されている。
【0076】この圧電素子51には、圧電素子51が少
なくとも矢印J方向に変位するように1対の電極53a
と53bが対向するように配置されている。また、一方
の電極53aは、スイッチを介在して電源49に接続可
能である。すなわち、スイッチのON・OFF動作によ
り一方の電極53aと電源49との接続・非接続状態を
選択できるように設定されている。また、他方電極53
bは接地状態とされている。
【0077】本発明の第2の実施例におけるインクジェ
ットヘッド50の動作においては、まず一方電極53a
に電圧が印加されていない状態、いわゆるOFF状態と
される。この状態で、インク供給口45bよりインク8
0が供給され、中空空間にインク80が満たされる。
【0078】この後、スイッチがON状態とされ、一方
電極53aに電源49によって電圧が印加される。この
電圧の印加により、圧電素子51は矢印J方向に延び
る。この圧電素子51の変位により、座屈構造体41に
は、矢印F3 方向に圧縮力P3が加えられる。この圧縮
力P3 が座屈構造体41の座屈加重を超えると図8に示
すように座屈構造体41が座屈する。
【0079】図8を参照して、座屈構造体41が座屈す
ることにより、座屈構造体41の長手方向の略中間位置
が矢印G3 方向(厚み方向)に変位する。この座屈構造
体41の変位により、座屈構造体41とノズルプレート
47との間の空間を満たすインク80に圧力が加えられ
る。この加えられた圧力がインク80を伝搬し、インク
80はノズルオリフィス47aを通じて外部へ押出され
る。これにより、インクジェットヘッド50の外部にイ
ンク滴80aが形成され、噴出する。この噴出したイン
ク滴80aによりプリント面に印字が行なわれる。
【0080】上述したように印加電圧の制約をうけた条
件下においては、大きな圧電素子51の変位量を得るこ
とはできない。しかし、本実施例においては、第1の実
施例と同様、座屈変形を利用している。この座屈変形に
おいては微少な長手方向の変位量を大きな厚み方向の変
位量に変換することができる。これにより、圧電素子の
長手方向の小さな変位量は座屈構造体41の厚み方向
(矢印G3 方向)の大きな変位量に変換される。このた
め、積層型やバイモルフ型の圧電素子ように寸法を大き
くせずとも本実施例のインクジェットヘッド50では大
きな変位量を得ることができる。したがって、本実施例
のインクジェットヘッド50においても、小さな寸法を
維持したまま、大きなインク滴の吐出力を得ることが可
能となる。
【0081】上記の第1と第2の実施例においては、座
屈構造体41の一方表面側のみを筺体45に固定するこ
とにより、座屈変形が一定方向(矢印G2 、G3 方向)
にのみ生じるよう構成されていた。しかしながら、座屈
構造体21、41が座屈により所望の方向(矢印G2
3 方向)とは逆の方向に変位することも考えられる。
以下、この座屈構造体41の座屈による逆方向への変位
を防止する構成を本発明の第3の実施例として説明す
る。
【0082】図9は、本発明の第3の実施例におけるイ
ンクジェットヘッドの構成を概略的に示す分解斜視図で
ある。また図10は、本発明の第3の実施例におけるイ
ンクジェットヘッドの構成を概略的に示す平面図であ
る。さらに図11と図12は、図10のX−X線に沿う
概略断面図とXI−XI線に沿う概略断面図である。
【0083】主に図9を参照して、本発明の第3の実施
例におけるインクジェットヘッド150は、インクカバ
ー106と、ノズルプレート107と、スペーサ109
と、筺体110とを有している。
【0084】主に図9と図10を参照して、このノズル
プレート107は、たとえば0.1mm程度の厚みを有
し、かつガラス材で構成されている。ノズルプレート1
07には、ノズルプレート107を貫通し、かつ一定方
向に配列された複数個のノズルオリフィス107aが設
けられている。また、ノズルオリフィス107aは、沸
酸によるエッチングによって円錐形またはロート状にノ
ズルプレート107に形成される。
【0085】スペーサ109は、たとえば20〜50μ
mの厚みを有するステンレス鋼板よりなっている。ま
た、スペーサ109には、このスペーサ109を貫通
し、かつ圧力室を構成する複数個の開口109aが設け
られている。この複数個の開口109aはノズルオリフ
ィス107aに対応して設けられている。また開口10
9aは、打抜き加工により、形成される。
【0086】筺体110は、基板105と、座屈構造体
101と、絶縁性部材111とを有している。基板10
5には、基板105を貫通するテーパー形状の凹部10
5aが設けられている。また基板105の一方表面上に
は、絶縁性部材111を介在して座屈構造体101が設
けられている。この座屈構造体101は、各ノズルオリ
フィス107aに対応するように設けられ、かつ位置づ
けられている。この各座屈構造体101からは、外部電
気手段との接続のために操作電極123と共通電極12
5とが引出されている。この操作電極123と共通電極
125とは絶縁性部材111によって基板105に固設
されている。各操作電極123には、スイッチを介在し
て電源113によって電流が流される構成となってい
る。
【0087】各座屈構造体101は厚膜層101aと薄
膜層101bとからなる2層構造を有している。この厚
膜層101aは、薄膜層101bより基板105側に位
置し、かつ薄膜層101bより線膨張係数の小さい材料
よりなっている。また厚膜層101aは、たとえば厚み
4.5μmの多結晶シリコン(線膨張係数:2.83×
10-6)により構成されている。また薄膜層101b
は、たとえば厚み0.5μmのアルミニウム(線膨張係
数:29×10-6)により構成されている。
【0088】なお、基板105は、たとえば面方位(1
00)の単結晶シリコン基板により構成されている。
【0089】インクカバー106の表面には、所定深さ
を有する凹部106aが設けられており、その凹部がイ
ンクカバー106の一方側部に通じてインク供給口とな
るべき部分106bを構成している。主に図11と図1
2を参照して、上述したノズルプレート107は、スペ
ーサ109を介在して、たとえば非電導性のエポキシ系
接着剤117によって筺体110に接合されている。こ
の際、各ノズルオリフィス107aの直下に各開口10
9aを介在して座屈構造体101a、101bが位置す
るようにノズルプレート107とスペーサ109と筺体
110とが配置される。これにより、各開口109a
は、座屈構造体101a、101bがインクに圧力を加
える空間、いわゆる圧力室を構成する。
【0090】筺体110には、たとえばエポキシ系接着
剤(図示せず)によってインクカバー106が固設され
ている。この際、筺体110に設けられたテーパー形状
の凹部105aとインクカバー106に設けられた凹部
106aとによりインク室121が構成される。またこ
のインク室121に連通して外部に通ずるようにインク
供給口106bが構成される。このインク供給口106
bを通じて、外部のインク貯蔵層(図示せず)よりイン
ク室121へインク80が供給される。
【0091】このように、各部材が位置決めされて配置
されることにより、インク室121と圧力室109aと
により一続きの空間が構成される。このインク室121
には、インク供給口106bを通じて外部からインクを
供給可能であり、圧力室109aからは、ノズルオリフ
ィス107aを通じて外部へインクを吐出、噴出可能で
ある。
【0092】なお、本実施例においては、説明の簡略化
のため、4個のノズルオリフィス107aを有するマル
チノズルヘッドについて示すが、本発明のインクジェッ
トヘッドにおいては、ノズルオリフィス107aの個数
はこれに限定されるものではなく、任意に設計できるも
のである。
【0093】次に、本実施例のインクジェットヘッド1
50において、特に筺体110の製造方法について説明
する。
【0094】図13〜図18は、本発明の第3の実施例
におけるインクジェットヘッドの筺体の製造方法を工程
順に示す概略断面図である。まず図13を参照して、面
方位(100)の単結晶シリコンによりなる基板105
が準備される。この基板105の表裏両面に6〜8%の
リン(P)を含んだ酸化シリコン(SiO2 )111
(以下、PSG(Phospho−Silicate
Glass)とする)がLPCVD装置にて、たとえば
2μmの厚みで成膜される。続いて、表裏両面のPSG
層111上に、不純物を含まない多結晶シリコン層10
1aがLPCVD装置により約4.5μmの厚みで成膜
される。この後、約1000℃の電気炉で窒素雰囲気中
において約1時間のアニール処理が施される。このアニ
ール処理の際に、PSG層111からリンが多結晶シリ
コン層101a中に拡散し、多結晶シリコン層101a
が電導性を持つようになる。
【0095】なお、説明の便宜上、基板105の図中上
側を表面とし、下側を裏面とする。図14を参照して、
基板105の裏面の多結晶シリコン層101aがエッチ
ングにより除去される。その後、基板105の表面上で
あって多結晶シリコン層101a上にアルミニウム層1
01bがスパッタ装置により0.5μmの厚みで成膜さ
れる。この後、ドライエッチング装置でアルミニウム層
101bと多結晶シリコン層101aにエッチングが施
される。
【0096】図15を参照して、このエッチングによ
り、アルミニウム層101bと多結晶シリコン層101
aとが所望の形状にパターニングされる。これにより、
アルミニウム層101bと多結晶シリコン層101aと
からなる座屈構造体101が形成される。
【0097】図16を参照して、上記のように形成され
た基板105表面上のパターン101a、101bを保
護するため、ポリイミド113がスピンコータにより表
面上に塗布される。また基板105の裏面のPSG層1
11がパターニングされる。このパターニングされたP
SG層111をマスクとしてシリコン基板105に異方
性エッチング液であるEDP液(エチレンジアミンとピ
ロカテコールと純水とからなる)でエッチングが施され
る。このエッチングにより、シリコン基板105を貫通
するテーパー形状の凹部105aが形成される。そし
て、シリコン基板105の裏面上のPSG層111がエ
ッチング除去される。
【0098】図17を参照して、このシリコン基板10
5の裏面上のPSG層111のエッチング除去ととも
に、シリコン基板105の表面上のPSG層111も一
部除去される。最後に、ポリイミド113がエッチング
除去されることにより、図18に示す所望の構成を有す
る筺体110が得られる。
【0099】次に、本発明の第3の実施例におけるイン
クジェットヘッド150の動作について説明する。
【0100】図11と図12を参照して、インク供給口
106bを通じて外部のインク貯蔵槽よりインク80が
供給され、インク室121と圧力室109aにインク8
0が満たされる。この後、図10に示すスイッチにより
操作電極123と共通電極125とに電流が通電され
る。これにより、座屈構造体101a、101bは抵抗
発熱により加熱され、少なくともその長手方向に熱膨張
を起こそうとする。しかしながら、座屈構造体101は
その長手方向の両端部が絶縁性部材111を介在して基
板105に固定されている。このため、座屈構造体10
1はその長手方向(矢印D4 方向)に膨張変形すること
ができず、逆にその反力として矢印F4 方向に圧縮力P
4 が発生し、蓄積される。さらに座屈構造体101の温
度が上昇し、この圧縮力P4 が座屈加重を超えると、座
屈構造体101は図19に示すように座屈変形を起こ
す。
【0101】図19を参照して、座屈構造体101は、
座屈変形によりその長手方向の略中間位置が常に矢印G
4 方向へ変位する。この座屈構造体の座屈変形によって
圧力室109a内を満たすインク80に圧力が加えられ
る。この圧力はインク80を伝搬し、これによりインク
80はノズルオリフィス107aを通じて外部へ押出さ
れる。外部へ押出されたインク80は、インクジェット
ヘッド150の外部においてインク滴80aを形成し、
かつ噴出する。この噴出されたインク滴80aによりプ
リント面への印字が行なわれる。
【0102】本実施例のインクジェットヘッド150に
おける座屈構造体101では、その長手方向の略中間位
置が座屈変形により常に一定方向(矢印G4 方向)に変
位する。以下、その理由について詳細に説明する。
【0103】仮に、座屈構造体が1種類の材料、すなわ
ち単層より構成されている場合、座屈変形は必ずしもノ
ズルプレート107側だけに起こるとは限らない。図3
と図6の第1および第2の実施例に示すように、座屈構
造体が、その一方表面でのみ筺体に固定されている場合
には、その構造上、座屈構造体21、41はノズルプレ
ート27、47側へ変位しやすい。しかし、高速で変位
が繰返される場合などには、座屈構造体21、41が逆
方向へ変位するという誤動作を生じることも考えられ
る。
【0104】本実施例のインクジェットヘッド150に
おいては、座屈構造体101は厚膜層101aと薄膜層
101bとの2層構造を有し、厚膜層101aは薄膜層
101bより線膨張係数の小さい材料より構成されてい
る。すなわち、座屈構造体101全体が所定の温度に上
昇した場合に、厚膜層101aの熱膨張量より薄膜層1
01bの熱膨張量の方が大きくなる。この2層の熱膨張
量の差により、座屈構造体101は、より抵抗の少ない
ノズルプレート107側へ変形する。
【0105】なぜなら、上述したように薄膜層101b
は、厚膜層101aより熱膨張量が大きく、その長手方
向へ延びようとする力は薄膜層101bの方が大きい。
座屈構造体101が矢印G4 方向に変位する場合、薄膜
層101bは厚膜層101aに比較して大きい曲率で変
形することとなる。このため、たとえ薄膜層101bの
延びようとする力が厚膜層101aに比較して大きいと
しても、その反力である内部圧縮応力は大きい曲率で変
形することによって緩和される。
【0106】これに対して、座屈構造体101が矢印G
4 方向と逆方向に変位する場合には、薄膜層101b
は、厚膜層101aより小さい曲率で変形することとな
る。この場合には、矢印G4 方向に変位する場合より
も、薄膜層101b内の内部圧縮応力の緩和量は少な
い。このため、座屈構造体101における抵抗が大きく
なる。よって、座屈構造体101は、ノズルプレート1
07側へ変位する。このように座屈構造体101の座屈
による変形方向が常に一方向へ変位するよう制御するこ
とが可能となる。これによって、インクジェットヘッド
の動作において、その誤動作が防止される。
【0107】本実施例のインクジェットヘッド150に
おいては、座屈構造体を構成する厚膜層101aの方が
薄膜層101bに比較してかなり厚い。このため、厚膜
層101aを構成する多結晶シリコンの機械的特性で座
屈構造体の座屈特性を計算すると、たとえば座屈構造体
の長さlを400μm、幅bを60μm、厚みhを4.
5μmとすると、温度147℃以上で座屈構造体に座屈
が生じる。さらに詳しいシミュレーションにより座屈構
造体の温度が上昇したときの最大座屈変形量を計算する
と、温度300℃で5.4μmの変形量が生じる。
【0108】なお、座屈構造体の両端が固定されていな
い場合の温度300℃における長さ方向の熱膨張量(室
温20℃を基準とする)は多結晶シリコンで0.17μ
mである。このことからも明らかなように、単に熱膨張
により長さ方向に変位させた場合に比較して、この長手
方向の変位量を厚み方向の変位量に変換する座屈変形の
方がはるかに変位量が大きいことがわかる。したがっ
て、この座屈現象を利用することにより、大きな厚み方
向の変形量を得ることができる。
【0109】なお、本実施例のインクジェットヘッド1
50では、座屈構造体101は厚膜層101aと薄膜層
101bとの2層構造を有しているが、2層以上の構造
でもよい。
【0110】また座屈構造体101の厚膜層101aと
薄膜層101bとは線膨張係数の異なる材料より構成さ
れ、これにより座屈構造体101の座屈方向が制御され
ている。しかしながら、本発明のインクジェットヘッド
150においては、座屈方向を制御する構成はこれに限
られるものではなく、たとえば2層構造をなす厚膜層1
01aに内部圧縮応力のほとんどない材料を用い、かつ
薄膜層101bに内部圧縮応力の大きな材料、たとえば
スパッタ装置で成膜された酸化シリコン層で構成しても
同様の結果を得ることができる。
【0111】さらに、図3に示す座屈構造体21に予め
内部応力を与え、その内部応力を制御することにより座
屈構造体が座屈を起こす温度を制御することができる。
以下、そのことについて詳細に説明する。
【0112】図5(a)を参照して、座屈構造体21の
ヤング率をE(N/m2 )、線膨張係数をα、長さ、
幅、厚みをそれぞれl(m)、b(m)、h(m)と
し、また座屈構造体21に設定されている内部応力をσ
(Pa)とする。なお、内部応力σは室温20℃におけ
る値であり、内部応力が圧縮応力である場合、σの符号
は+とし、また内部応力が引張応力である場合、σの符
号は−とする。室温20℃からの温度上昇をT℃とした
場合、圧縮力P2 は、(EαT+σ)bh(N)で示さ
れる。この圧縮力P2 は座屈加重Pc を超えると座屈構
造体21は座屈を起こし、座屈構造体21の長手方向の
略中間位置が矢印G2 方向に変位する。
【0113】ここで、座屈加重Pc は、上述したように
両端支持の長柱の場合、Pc =π2Ebh3 /3l2
与えられる。したがって、P>Pc となり座屈が生じ始
める温度(以下、座屈温度とする)TC は、(π2 2
/3αl2 )−(σ/Eα)となる。
【0114】このように室温(20℃)において座屈構
造体21に予め内部応力を加えた場合、内部応力を加え
ない場合に比較してσ/Eαだけ座屈温度が低くなる。
すなわち、室温における座屈構造体21に与える内部応
力σが大きければ大きいほど座屈温度TC を低く制御す
ることができる。
【0115】たとえば、座屈構造体21をニッケル(N
i)で形成し、長さlを300μm、幅bを60μm、
厚みhを6μmとすると、室温における内部応力σが0
(Pa)の場合、座屈構造体の温度上昇が73℃になる
と座屈が生じる。これに対して、上記と同じ材質、同じ
寸法において室温での内部応力σを50MPa(圧縮応
力)とする場合、座屈構造体21の温度上昇が49℃に
なると座屈構造体21に座屈が生じる。
【0116】図20は、座屈構造体にニッケルを用いた
場合の座屈構造体の温度上昇とその最大座屈変形量との
関係をシミュレーション計算によって示す図である。図
20を参照して、横軸が座屈構造体の温度上昇を示し、
縦軸が最大座屈変形量を示している。σ=0Paは、室
温(20℃)において座屈構造体に内部応力が0の場合
を示し、σ=50MPaは、室温において座屈構造体に
50MPaの圧縮応力を加えた場合を示している。室温
において内部応力σを加えない場合、座屈構造体の温度
上昇を200℃とすると9.2μmの変形量を生じる。
これに対して、室温において圧縮応力50MPaを加え
た場合、座屈構造体の温度上昇を200℃とすると1
0.1μmの変形量が得られる。
【0117】このように、室温において予め内部応力を
加えることにより、より大きな座屈変形量を得ることが
できる。これにより、インクジェットヘッドにおいてイ
ンクを吐出させるための吐出力を増加させることも可能
となる。
【0118】次に、上記の原理を実現できるインクジェ
ットヘッドの具体的構成を本発明の第4の実施例として
説明する。
【0119】図21は、本発明の第4の実施例における
インクジェットヘッドの構成を図10のX−X線に対応
する断面で示す概略断面図である。また図22は、本発
明の第4の実施例におけるインクジェットヘッドの構成
をXI−XI線に対応する断面で示す概略断面図であ
る。
【0120】図21と図22を参照して、本実施例のイ
ンクジェットヘッド250においては、第3の実施例に
おけるインクジェットヘッド150と比較して筺体11
0の構成において異なる。特に、筺体210の座屈構造
体201の構成において第3の実施例と異なる。
【0121】すなわち、本実施例のインクジェットヘッ
ド250においては、座屈構造体201は、厚膜層20
1aと薄膜層201bとの二層構造を有し、その厚膜層
201aと薄膜層201bとは室温において互いに異な
る圧縮応力を有するように設定されている。具体的に
は、厚膜層201aの圧縮応力は、薄膜層201bの圧
縮応力より小さくなるように設定されている。また、厚
膜層201aと薄膜層201bとは、たとえばニッケル
により形成されている。
【0122】本実施例のインクジェットヘッド250の
これ以外の構成については、第3の実施例におけインク
ジェットヘッド150の構成とほぼ同様であるためその
説明は省略する。
【0123】次に、本発明の第4の実施例におけるイン
クジェットヘッドにおいて、特に筺体210の製造方法
について説明する。
【0124】図23〜図29は、本発明の第4の実施例
におけるインクジェットヘッドの製造方法を工程順に示
す概略断面図である。
【0125】まず図23を参照して、面方位(100)
の単結晶シリコンよりなる基板105が準備される。こ
の基板105の表裏両面に6〜8%のリン(P)を含ん
だ酸化シリコン(SiO2 )111(以下、PSGとす
る)がLPCVD装置にて、たとえば2μmの厚みで成
膜される。続いて、一方のPSG層111上にのみニッ
ケルよりなるめっき下地膜(図示せず)が、スパッタ装
置によりたとえば0.09μmの厚みで成膜される。こ
のめっき下地膜の表面上に、電気めっき技術を用いて所
定の内部圧縮応力を有する厚膜ニッケル層201aが、
たとえば5.5μmの厚みで成膜される。
【0126】なお説明の便宜上、基板105の図中上側
を表面とし、下側を裏面とする。図25を参照して、厚
膜ニッケル層201aの表面上に電気めっき技術を用い
て厚膜ニッケル層201aよりも大きな内部圧縮応力
有する薄膜ニッケル層201bが、たとえば0.5μm
の厚みで成膜される。
【0127】この厚膜ニッケル層201aと薄膜ニッケ
ル層201bの形成のための一連の電気めっき技術につ
いて詳細に説明する。
【0128】ニッケルめっきの電解浴として、スルファ
ミン酸ニッケル:600g/l、塩化ニッケル:5g/
l、ほう酸:30g/lを用い、浴温度を60℃に設定
した場合、電気めっきされるめっき塗装の内部応力と電
流密度との間の関係は図30に示すものとなる。
【0129】図30を参照して、横軸は電流密度を示
し、縦軸はニッケル層の内部応力を示している。上述の
ごとく厚膜ニッケル層201aの圧縮応力を50MPa
に、かつ薄膜ニッケル層201bの圧縮応力を70MP
aに設定して形成する場合には、まず電流密度を9A/
dm2 で電気めっきを開始して厚膜ニッケル層201a
を所定の膜厚にめっきする。次に電流密度を7.8A/
dm2 に切換て薄膜ニッケル層201bを所定膜圧でめ
っきする。
【0130】図26を参照して、上記の条件で形成され
た厚膜めっき層201aと薄膜めっき層201bとがエ
ッチングにより所望の形状にパターニングされる。
【0131】図27を参照して、パターン201aと2
01bとを保護するため、基板105の表面上にポリイ
ミド113がスピンコータによって塗布される。また基
板105の裏面のPSG層111がパターニングされ
る。このパターニングされたPSG層111をマスクと
してシリコン基板105に異方性エッチング液であるE
DP液でエッチングが施される。このエッチングによ
り、シリコン基板105を貫通するテーパー形状の凹部
105aが形成される。そして、シリコン基板105の
裏面上のPSG層111がエッチング除去される。
【0132】図28を参照して、このシリコン基板10
5の裏面上のPSG層111のエッチング除去ととも
に、シリコン基板105の表面上のPSG層111も一
部除去される。最後にポリイミド113がエッチング除
去されることにより、図29に示す所望の構成を有する
筺体210が得られる。
【0133】本発明の第4の実施例におけるインクジェ
ットヘッド250の動作においては、実施例3で説明し
た動作とほぼ同様である。ただ、座屈構造体201を構
成する厚膜ニッケル層201aと薄膜ニッケル層201
bとに予め所定の内部圧縮応力が与えられている。この
ため、座屈構造体201を加熱により座屈を生じさせる
場合には、その座屈温度は第3の実施例よりも低い温度
となる。また、所望のインク吐出力を得るのに必要な消
費電力は、第3の実施例に比較して12%削減できるこ
とが実験により確認された。
【0134】また、座屈構造体201は厚膜ニッケル層
201aと薄膜ニッケル層201bとの二層構造になっ
ている。この薄膜ニッケル層201bは、厚膜ニッケル
層201aよりも大きな内部圧縮応力を有している。こ
のため、座屈構造体201を加熱する場合、薄膜ニッケ
ル層201bの方が厚膜ニッケル層201aよりも先に
座屈しようとする。このため、図31において、座屈構
造体201の略中間位置が矢印G方向に変位する方が、
矢印G5 方向と逆方向に変位する場合に比較して座屈構
造体201に生じる抵抗力が小さくなる。よって、本実
施例における座屈構造体201が加熱によって常に同じ
方向(矢印G方向)に変位することとなる。これによ
り、インクジェットヘッド250の誤動作を防止するこ
とが可能となる。
【0135】なお、本実施例におけるインクジェットヘ
ッド250では、座屈構造体201は二層構造である
が、単層もしくは二層以上の構造のものであってもよ
い。
【0136】また、座屈構造体201の厚膜層201a
と薄膜層201bとの両層にニッケルを用いているが、
材料はこれに限られず異なる材料を積層させてもよい。
【0137】また、座屈構造体201に内部応力を加え
る手段として、電気めっき法を用いたが、これに限られ
ず、内部応力を与えられる方法であればいかなる方法も
採用することができる。
【0138】
【発明の効果】請求項1に記載のインクジェットヘッド
では、座屈構造体は、通電により生じる熱膨張によって
圧縮力を与えられて座屈する。この座屈変形において
は、その平面方向の微な変位量が座屈構造体の厚み方
向の大きな変位量に変換される。このため、座屈構造体
の寸法を大きくすることなく、大きな変位量を得ること
が可能となる。したがって、インクジェットヘッドの寸
法を小さく維持したまま大きな吐出力を得ることが可能
となる。
【0139】また、通電により生じる熱膨張によって座
屈構造体を座屈させるため座屈構造体を所定温度にま
で加熱する必要がある。しかし、この加熱温度は、座屈
構造体を構成する材料の膨張係数に応じた温度にまで
加熱すれば足りる。このため、従来のバブル方式のイン
クジェットヘッドのようにインクを気化させるほどの高
温にまで加熱する必要はない。よって、座屈構造体が熱
疲労により劣化することは抑制され、寿命が比較的長く
なる。
【0140】また、加熱温度が低くて済むため、座屈構
造体に与えられる熱量も少なくて済む。よって、ヘッド
を駆動させるための消費電力が少なくて済む。また、非
通電時(室温)にて予め圧縮内部応力を与えられている
ことにより、より大きな座屈変形量を得ることができ
る。これにより、インクジェットヘッドにおいてインク
を吐出させるための吐出力を増加させることも可能とな
る。
【0141】請求項に記載のインクジェットヘッドで
は、座屈構造体は、互いに異なる材料よりなる第1の層
と第2の層とを含んでいる。この第1の層と第2の層と
の線膨張係数の差を利用することにより、座屈構造体が
加熱により座屈して変形する場合、座屈構造体を常に貫
通孔側へ変位するよう制御することが可能となる。この
ため、インクジェットヘッドの動作における誤動作が防
止され得る。また、第1の層と第2の層とは互いに異な
る圧縮内部応力を有し、かつ第1および第2の層のうち
吐出側に位置する一方の層の圧縮内部応力が他方の層の
圧縮内部応力より大きく設定されているため、座屈構造
体が加熱により座屈して変形する場合、座屈構造体を確
実に貫通孔側へ変位するよう制御することが可能とな
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェットヘッドの記録原理を説
明するためのインクジェットヘッドの主要断面図であ
る。
【図2】本発明のインクジェットヘッドの記録原理を説
明するためのインクジェットヘッドの主要断面図であ
る。
【図3】本発明の第1の実施例におけるインクジェット
ヘッドの構成を概略的に示す主要断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例におけるインクジェット
ヘッドの構成を概略図に示す主要断面図である。
【図5】本発明の一実施例におけるインクジェットヘッ
ドの座屈構造体の変位の様子を示す概略斜視図である。
【図6】座屈構造体に所定の金属を採用した場合の座屈
構造体の温度上昇と最大座屈変形量との関係を示す図で
ある。
【図7】本発明の第2の実施例におけるインクジェット
ヘッドの構成を概略的に示す主要断面図である。
【図8】本発明の第2の実施例におけるインクジェット
ヘッドの構成を概略的に示す主要断面図である。
【図9】本発明の第3の実施例におけるインクジェット
ヘッドの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの構成を概略的に示す平面図である。
【図11】図10のX−X線に沿う概略断面図である。
【図12】図10のXI−XI線に沿う概略断面図であ
る。
【図13】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第1工程を示す概略断面図
である。
【図14】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第2工程を示す概略断面図
である。
【図15】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第3工程を示す概略断面図
である。
【図16】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第4工程を示す概略断面図
である。
【図17】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第5工程を示す概略断面図
である。
【図18】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの筺体の製造方法の第6工程を示す概略断面図
である。
【図19】本発明の第3の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの動作の様子を示す図11に対応する断面図で
ある。
【図20】座屈構造体の内部応力を変えた場合の座屈構
造体の温度上昇と最大座屈変形量との関係を示す図であ
る。
【図21】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの構成を図10のX−X線に沿う断面に対応す
る概略断面図である。
【図22】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの構成を図10のXI−XI線に沿う断面に対
応する概略断面図である。
【図23】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第1工程を示す概略断面図であ
る。
【図24】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第2工程を示す概略断面図であ
る。
【図25】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第3工程を示す概略断面図であ
る。
【図26】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第4工程を示す概略断面図であ
る。
【図27】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第5工程を示す概略断面図であ
る。
【図28】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第6工程を示す概略断面図であ
る。
【図29】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの製造方法の第7工程を示す概略断面図であ
る。
【図30】電気めっきにより形成されるニッケルの内部
応力と電流密度との関係を示す図である。
【図31】本発明の第4の実施例におけるインクジェッ
トヘッドの動作を説明するための主要断面図である。
【図32】従来の第1のインクジェットヘッドの構成を
概略的に示す主要断面図である。
【図33】従来の第1のインクジェットヘッドの動作を
概略的に示す主要断面図である。
【図34】従来の第2のインクジェットヘッドの構成を
概略的に示す主要断面図である。
【図35】従来の第2のインクジェットヘッドの動作を
概略的に示す主要断面図である。
【図36】従来の第3のインクジェットヘッドの構成を
概略的に示す分解斜視図である。
【図37】バブルジェット方式における記録原理を説明
するための動作工程図(a)〜(e)である。
【図38】従来の第2のインクジェットヘッドに生ずる
弊害を説明するための図である。
【符号の説明】
1、21、41 座屈構造体 3、23 圧縮力発生手段(絶縁性部材) 5、25、45 筺体 7、27、47 ノズルプレート 7a、27a、47a ノズルオリフィス 10、30、50、150、250 インクジェットヘ
ッド 29、49 電源 51 圧電素子 53a、53b 電極 101 座屈構造体 101a 厚膜層 101b 薄膜層 105 基板 107 ノズルプレート 107a ノズルオリフィス 109 スペーサ 111 絶縁性部材 113 電源 201 座屈構造体 201a 厚膜ニッケル層 201b 薄膜ニッケル層
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石井 ▲頼▼成 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (72)発明者 山下 善二郎 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (72)発明者 太田 賢司 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (56)参考文献 特開 平2−30543(JP,A) 特開 昭63−297052(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B41J 2/045

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 容器の内部を満たすインク液に圧力を加
    えることにより、前記容器内部から外部へインク滴を吐
    出させるインクジェットヘッドであって、 インク液で満たすことのできる空間を内部に有し、前記
    空間の内部から外部へ通じる貫通孔を有する容器と、 前記容器内部に配置され、かつ両端部が前記容器に支持
    されたプレート状の座屈構造体とを備え、 前記座屈構造体は、通電により生じる熱膨張によって座
    屈して前記貫通孔側へ変位するよう構成され、所定の温
    度で座屈を生じるように予め内部応力を与えられた構成
    を有し、かつ非通電時に圧縮内部応力を有した状態でプ
    レート状に支持されている、インクジェットヘッド。
  2. 【請求項2】 容器の内部を満たすインク液に圧力を加
    えることにより、前記容器内部から外部へインク滴を吐
    出させるインクジェットヘッドであって、 インク液で満たすことのできる空間を内部に有し、前記
    空間の内部から外部へ通じる貫通孔を有する容器と、 前記容器内部に配置され、かつ両端部が前記容器に支持
    されたプレート状の座屈構造体と、 前記座屈構造体の両端部に圧縮力を加えるための圧縮手
    段とを備え、 前記座屈構造体はプレート状の第1の層と第2の層とを
    含み、かつ前記第1の層と前記第2の層とは互いに異な
    る材料よりなり、かつ互いに異なる圧縮内部応力を有
    し、かつ前記第1および第2の層のうち吐出側に位置す
    る一方の層の圧縮内部応力が他方の層の圧縮内部応力よ
    り大きく設定されており、さらに、 前記座屈構造体は前記圧縮手段により圧縮力を与えられ
    て座屈し、前記貫通孔側へ変位するよう構成されてい
    る、インクジェットヘッド。
  3. 【請求項3】 前記第1および第2の層は、電気めっき
    により形成された層であることを特徴とする、請求項2
    に記載のインクジェットヘッド。
  4. 【請求項4】 前記第1および第2の層の圧縮内部応力
    の設定は、電気めっきの電流制御により行なうことを特
    徴とする、請求項3に記載のインクジェットヘッド。
  5. 【請求項5】 前記座屈構造体は、吐出方向と反対側の
    面で前記容器に固定されていることを特徴とする、請求
    項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
  6. 【請求項6】 加熱による座屈変形によってインクを吐
    出するインクジェットヘッドの製造方法であって、 基板の表面に第1のめっき層を形成する工程と、 前記第1のめっき層上に、前記第1のめっき層よりも大
    きな圧縮内部応力を有する第2のめっき層を形成する工
    程と、 前記第1のめっき層および前記第2のめっき層をエッチ
    ングすることにより座屈構造体の形状にパターニングす
    る工程と、 前記基板の裏面から表面に貫通する凹部を形成するよう
    に前記基板を除去する工程とを備えた、インクジェット
    ヘッドの製造方法。
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