JP3238878B2 - 動圧軸受における動圧溝の電解加工方法及び電解加工装置 - Google Patents

動圧軸受における動圧溝の電解加工方法及び電解加工装置

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JP3238878B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動圧軸受の動圧面
に形成される動圧溝を、電解加工によって部位に応じて
溝深さが異なる所定の溝形状に加工するようにした電解
加工方法及び電解加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、ポリゴンミラースキャナーモータ
ーやハードディスク駆動装置(HDD)スピンドルモー
ター等に用いられる軸受装置として、高速回転軸受特性
に優れた動圧軸受が注目されている。この動圧軸受は、
相対的に回転可能に配置された軸受と軸との間に所定の
軸受流体が注入されていると共に、これら軸受及び軸の
少なくとも一方側に設けられた動圧溝のポンピング作用
によって軸受流体に動圧を発生させ、その動圧力によっ
て上記軸受と軸とを相対回転可能となるように支承する
構成になされている。
【0003】このような動圧軸受に設けられる動圧溝
は、軸受または軸の動圧面に対してヘリングボーン状、
スパイラル状等の所定の溝形状に加工されるが、その加
工手段としては、切削加工、転造、コイニング(圧
印)、エッチング、電解加工等の各種成形方法が従来か
ら用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ここで、最近にあって
は、溝深さを部位に応じて異ならせて、動圧軸受性能を
向上させるといった提案がなされている。しかしなが
ら、上記エッチング工法、電解加工法では、溝深さが均
一に形成されてしまうことから、溝深さを部位に応じて
異ならせることはできない。
【0005】また、上記切削工法では、工具を多軸(3
次元)制御する必要があり、しかもポリゴンミラースキ
ャナーモーターやHDDスピンドルモーター等の小型モ
ータにあっては、μm単位の位置決め精度が必要となる
ことから、設備が高価になって高コスト化すると共に、
溝を1本づつ形成しなければならないことから、生産性
が低下するといった問題がある。
【0006】また、コイニングや転造工法では、溝形状
を転写するための工具の摩耗が激しく工具寿命が短くな
ることから、高コスト化するといった問題がある。特
に、上記のような小型モータの動圧溝にあっては、複雑
・微細な形状が要求されることから、工具の摩耗が顕著
となる。また、転造時に発生するバリを除去したり、ス
ラスト軸受の場合には平面度、ラジアル軸受の場合には
円筒度を向上させるための追い工程が必要になることか
ら、溝深さや溝形状にバラツキが生じるといった問題が
ある。
【0007】そこで本発明は、複雑・微細な形状の動圧
溝であっても、低コスト化及び生産性の向上を図りつ
つ、溝位置に応じて任意の溝深さに高精度に加工できる
ようにした動圧軸受における動圧溝の電解加工方法及び
電解加工装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明にかかる電解加工方法は、軸受流体に軸支用
の動圧を発生させる動圧溝を動圧軸受の動圧面に対して
電解加工で所定の溝形状に加工するものであって、上記
動圧溝が電解加工される被加工物と、当該被加工物に加
工される動圧溝に対応した溝形状の電極露出部を有する
電極工具と、を互いに近接して対向配置すると共に、こ
れら被加工物及び電極工具を電解加工用電源の正極及び
負極にそれぞれ接続し、電極工具と被加工物との間に所
定の電解液を流動させながら通電することによって上記
被加工物を前記溝形状に対応して溶出させ動圧溝を電解
加工するようにした動圧軸受における動圧溝の電解加工
方法において、上記電極露出部の幅を、加工される動圧
溝の溝深さに対応させて溝深さが深く形成される部分を
広くして、溝深さが異なる動圧溝の電解加工を行うよう
にした構成になされている。
【0009】また、本発明にかかる電解加工装置は、軸
受流体に軸支用の動圧を発生させる動圧溝を動圧軸受の
動圧面に対して電解加工で所定の溝形状に加工するもの
であって、電解加工用電源と、上記動圧溝が電解加工さ
れる被加工物と、当該被加工物に近接対向配置され上記
動圧溝に対応した溝形状の電極露出部を有する電極工具
と、これら電極工具及び被加工物の間に所定の電解液を
流動させる電解液供給手段と、を備え、上記被加工物及
び電極工具を前記電解加工用電源の正極及び負極にそれ
ぞれ接続し、これら電極工具と被加工物との間に電解液
を流動させながら通電することによって上記被加工物を
前記溝形状に対応して溶出させ動圧溝を電解加工するよ
うに構成した電解加工装置において、加工される動圧溝
の溝深さに対応させて溝深さが深く形成される部分の幅
が広くなるように構成されていることにより、溝深さが
異なる動圧溝を形成する電極露出部を有する構成になさ
れている。
【0010】このような構成を有する動圧軸受における
動圧溝の電解加工方法及び電解加工装置においては、電
極露出部の幅が所定値以下になると、電解加工される動
圧溝の溝深さが、電極露出部の幅に対応して電極露出部
の幅が広くなると深くなり、電極露出部の幅が狭くなる
と浅くなるという特性に基づいて、溝位置に応じて任意
の溝深さの電解加工がなされるようになる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図面を用いて詳細
に説明する。先ず、本発明により成形される動圧軸受を
備えた機器として、例えば図11に示されているような
軸回転型のHDDスピンドルモータの構造を説明する。
なおこの図11は、モータの片側半分を断面で示したも
のであって、軸の途中を破断して表している。本図にか
かるモータは、フレーム1側に組み付けられたステータ
組と、このステータ組に対して軸方向に組み付けられた
ロータ組とから構成されており、上記フレーム1には、
円筒状の軸受ホルダー2が垂直に立設するように設けら
れている。またこの円筒状の軸受ホルダー2の外周部に
は、巻線3が巻回されたステータコア4が装着されてい
る。さらに上記軸受ホルダー2の内部側には、円筒状の
ラジアル軸受5が装着されており、このラジアル軸受5
を介して回転軸6が回転自在に支承されている。
【0012】すなわち、上記回転軸6とラジアル軸受5
との対向部位には軸受部が形成されており、この軸受部
内に磁性流体等からなる潤滑流体Qが充填されている。
また当該軸受部におけるラジアル軸受5の内周面には、
動圧発生用のラジアルグルーブ5aが軸方向に一対形成
されており、このラジアルグルーブ5a,5aのポンピ
ング作用によって発生される潤滑流体Qの動圧により回
転軸6が回転自在に支承されるようになっている。
【0013】さらに上記回転軸6の図示上端部分は、ハ
ブ8の中心部に一体に回転するように固着されている。
ハブ8は、磁気ディスク等のメディアを外周部に装着す
る胴部8aを有していると共に、この胴部8aの図示下
縁側に半径方向外周側に張り出すように設けられた取付
部8bに、バックヨーク9を介して駆動マグネット10
が環状に装着されている。上記駆動マグネット10は、
前記ステータコア4の外周面に環状に対向するように配
置されている。
【0014】また上記軸受ホルダー2の図示上端開口部
には、磁性流体シール11が設けられている。この磁性
流体シール11は、上記潤滑流体Qの外部への漏出を防
止するために配置されているものであって、磁石11a
の軸方向両側が一対のポールピース11b,11bによ
り軸方向に挟み込まれていると共に、上記ポールピース
11b,11bの内周端縁部と回転軸6の外周面との対
向部位に形成されたシール部内に、外部側と遮断するよ
うに磁性流体11c,11cが保持されている。そし
て、この磁性流体シール11の外部遮断作用によって上
記軸受ホルダー2の内部空間内に画成される筒状の空間
内に、上述した軸受部内の潤滑流体Qが封止され、これ
により潤滑流体Qの外部漏出が防止されると共に、外部
側からの塵埃等の流入が防止されるようになっている。
【0015】次に、前述したラジアル軸受5に内面加工
を行い、動圧発生用のラジアルグルーブ5aを形成する
ための本発明の一実施形態にかかる電解加工装置を説明
する。図1に示されているように、非導電性材料で形成
された中空状のハウジング21には電解加工用のキャビ
ティーが設けられており、そのキャビティー内の軸方向
(図示上下方向)略中央部分には、金属材料からなる中
空円筒状被加工物としての軸受素材22が固定されてい
る。
【0016】本実施形態における被加工物としての軸受
素材22は、上述したようにポリゴンミラースキャナー
モーターやハードディスク駆動用(HDD)スビンドル
モーター等に用いられる小型動圧軸受装置のラジアル軸
受5を加工する前の軸受素材であって、この軸受素材2
2の材質としては、ステンレス鋼(SUS)304また
は銅が用いられている。
【0017】また上記軸受素材22を軸方向に貫通する
ようにして円柱状の電極工具23がハウジング21に固
定されている。上記電極工具23の軸方向(図示上下方
向)両端部分は、上記ハウジング21の軸方向両端にお
ける閉塞壁21a,21bにそれぞれ固定されており、
当該電極工具23の軸方向略中央部分に形成された一対
の電極露出部23a,23aが、上記軸受素材22の内
周壁面22aに対向するように配置されている。上記各
電極露出部23aは、ヘリングボーン状の溝を周方向に
多数並列配置したものであって、各溝が所定の深さを備
えるように構成されている。
【0018】すなわち、上記電極工具23の外表面は、
上述した所定の溝形状の電極露出部23aを除いて非導
電性材料23bで全体が覆われており、当該電極工具2
3の電極露出部23aを構成する溝形状の底壁面が、軸
受素材22の内周壁面22aに対して全周にわたって均
一な加工隙間を備えるように上記電極工具23と軸受素
材22との同軸度が調整されている。そしてこのように
電極工具23の電極露出部23aと軸受素材22の内周
壁面22aとが所定の加工隙間を介して対向されること
によって電解加工部Aが形成されている。この電解加工
部Aにおける加工隙間は、本実施形態においては0.1
mmに設定されている。
【0019】さらに上記軸受素材22には、電解加工用
パルス電源24の正極(+極)から延出する接片24a
が接続されており、その延出途中部位に、前記電極工具
23と軸受素材22との間の通電電流値を検出する電流
計25が設けられている。一方、前記電極工具23に対
しては、上記電解加工用パルス電源24の負極(−)か
ら延出する接片24bが接続されており、その延出途中
部位に、電解加工用パルス電源24のオン・オフを行う
通電スイッチ26が設けられている。本実施形態におけ
る上記電解加工用パルス電源24の出力電圧は、電極工
具23と軸受素材22との間の通電電流密度が20A/
cm2 となる電圧に設定されている。
【0020】そして上記電流計25で検出された電極工
具23と軸受素材22との間の通電電流値は、加工制御
手段を構成する電気量演算手段27に入力されている。
この電気量演算手段27は、上記電流計25で検出され
た電極工具23と軸受素材22との間の通電電流値、及
び電極工具23における電極面の対向面積から電流密度
を算出し、さらにこの電流密度から、目標電解加工量を
得るための総電気量すなわち総通電時間を演算する機能
を有している。この電気量計測手段27における演算手
法については後述する。
【0021】上記電気量演算手段27からは、目標電解
加工量を得るための総電気量すなわち総通電時間の設定
指令信号が出力されることとなるが、この設定時間指令
信号は、同じく加工制御手段を構成する通電制御手段2
8に受けられている。加工制御手段28には、タイマー
28aが設けられており、このタイマー28aからの指
令によって前述した通電スイッチ26のオン・オフ動作
が行われるようになっている。具体的には、上記タイマ
ー28aによる通電スイッチ26のオフ動作が、上記電
気量演算手段27により設定された総通電時間の経過時
行われる。
【0022】一方、電解液貯蔵タンク30内には、Na
NO3 (硝酸ナトリウム)を30重量%含有する電解液
31が所定量蓄えられていると共に、この電解液貯蔵タ
ンク30とハウジング21との間に、電解液供給手段と
しての液供給管32及び液排出管33が接続されてい
る。このうち液供給管32は、電解液貯蔵タンク30か
らポンプ34を介して前記ハウジング21の図示上側す
なわち前記軸受素材22の上部側のキャビティー内に開
口するように接続されていると共に、液排出管33は、
ハウジング21の図示下側すなわち前記軸受素材22の
下部側のキャビティー内から電解液貯蔵タンク30に向
かって延出しており、上記液供給管32からハウジング
21内に供給された電解液31が、軸受素材22の上部
側から当該軸受素材22と電極工具23の電極露出部2
3aとの間の電解加工部Aを通って、軸受素材22の下
部側に抜け、そこから液排出管33を通して電解液貯蔵
タンク30内に回収されるように構成されている。
【0023】また本実施形態における電解液供給手段に
おいては、図2に示されているように、上記電解加工部
Aの入口部側及び出口部側に圧力調整用のリリーフ弁3
5,36がそれぞれ設けられていると共に、これらの各
圧力調整用リリーフ弁35,36に対して圧力計37,
38が付設されている。そして、これらの圧力計37,
38をモニターしつつ圧力調整用リリーフ弁35,36
が適宜操作され、それにより電解加工部Aにおける電解
液31の流速が所定の値に設定されている。本実施形態
においては、電解加工部Aにおける電解液31の流速が
10m/secとなるように設定されている。
【0024】またこのような電解液供給手段には、電解
液31の流動方向を逆転させる流動切換手段(図示省
略)が設けられている。この流動切換手段としては、上
記ポンプ34を逆転可能としたものや、液供給管32と
液排出管33との流れ方向を切り換える配管切換手段等
が採用されることとなるが、当該流動切換手段によっ
て、電解加工部Aを通る電解液が逆流され、電解加工部
Aを通る電解液が任意の時間間隔で交互に逆転されるよ
うに構成されている。
【0025】このとき上述した電気量演算手段27にお
ける演算は、例えば図3及び図4に示されているような
予め求めておいた電流密度と溝加工量との関係データに
基づいて実行されるようになっている。すなわち各図に
は、上述した装置条件下で電流計25で検出された電極
工具23と軸受素材22との間の通電電流値から求めら
れた電流密度(横軸;A/cm2 )と、その電流密度に
対応する単位時間当たりの加工量(縦軸;μm/se
c)との関係が表されている。縦軸の単位時間当たりの
加工量は、加工材料ごとに10μm電解加工したときの
平均値として求めたものであって、図3はSUS304
の場合を示し、図4は銅の場合を示している。すなわち
電解加工の進行に伴い加工隙間が次第に拡大してくる
と、それに従って加工速度が変化することとなるが、上
述した各図では、当初の加工隙間(0.1mm)に対し
て微小量(10μm)だけ加工したときの加工速度を平
均して求めたものである。
【0026】これらの各図からも明らかなように、ある
範囲の電流密度に対して電解加工量は略直線的に変化し
ており、従ってその直線的な関係を有する範囲で、加工
時間を固定して電流密度を変化させ、或は本実施形態の
ように電流密度を固定して加工時間を変化させれば、電
流密度に比例して加工量すなわち加工深さが変化するこ
ととなる。つまり電流密度を上記データに基づいて管理
すれば目的の形状精度が得られることとなり、最終の加
工量(溝加工深さ)は、溝加工に要した総電気量を厳密
に制御することによってμmまたはサブμmオーダーに
制御可能となることから高精度電解加工が容易に実現さ
れる。
【0027】次に、上述した電解加工装置を用いた本発
明にかかる電解加工方法の形態を説明する。先ず、上述
した電解加工装置のハウジング21内に、電極工具23
と軸受素材22とを同軸的に固定し、所定の加工隙間
(0.1mm)を有する電解加工部Aを形成する。そし
て通電スイッチ26のオン動作を行い電解加工用パルス
電源24から上記電解加工部Aに対して所定のパルス電
圧を与える。このようなパルス電圧を用いれば、電解加
工で生成するジュール熱や水素ガスの蓄積をなくすこと
ができ、加工精度を向上させることができる。
【0028】この時、前記電解加工用パルス電源24か
らの通電電流値は、電流計25で常時検出されており、
この電流計25で検出された電極工具23と軸受素材2
2との間の通電電流値が、加工制御手段を構成する電気
量演算手段27に入力される。この電気量演算手段27
では、電流計25で検出された電極工具23と軸受素材
22との間の通電電流値から電流密度が算出され、さら
にこの電流密度から、予め求めておいた電流密度と溝加
工量との関係データ(図3及び図4参照)に基づいて溝
加工に必要な総電気量すなわち総通電時間が演算され
る。
【0029】そしてこの電気量演算手段27から出力さ
れる総通電時間の設定信号により、通電制御手段28に
設けられたタイマー28aに総通電時間が設定され、通
電スイッチ26は、オン動作後、上記総通電時間経過時
にタイマー28aから発せられる切替信号によってオフ
される。
【0030】このような構成を有する電解加工方法及び
電解加工装置においては、電極工具23を動かすことな
く固定したまま加工が行われることから、電極工具23
の送り込み誤差による溝加工精度の低下が防止されると
共に、動圧溝形状の電解加工量と、その電解加工に要す
る総電気量との関係が略直線的な比例関係にあることか
ら、被加工物23への溝加工量が総電気量の制御によっ
て正確に操作され、高精度な溝形状の電解加工が容易に
行われる。
【0031】実際に、上記軸受素材22の材質としてス
テンレス鋼(SUS)304を採用し、当該軸受素材2
2の軸受長さを10mm、軸径を3.5mmとするとと
もに、電解加工用パルス電源24による加工電圧を6V
として電流密度60A/cm2 とした場合に、10μm
の溝深さを1.4秒という短時間で得ることができた。
【0032】なおこの場合、前述したように加工隙間を
0.1mmに設定しているが、加工隙間を狭めると電極
露出部23aの形状転写精度は向上し、さらに電流密度
も上がって加工速度も速くなり加工効率が向上する傾向
がある。しかしその反面、電解液31の流速が隙間抵抗
により遅くなってしまい、その結果、電解液の温度が上
昇したり、電極面から発生する水素気泡の除去を良好に
行い得なくなる等の問題が発生する。すなわち上述した
加工隙間は、ポンプの性能や、要求されている加工表面
の粗さや、形状転写精度、さらには加工速度等を考慮し
て決定すればよい。
【0033】また軸受長さが長くなった場合には、電解
液の流れの上流側の軸受加工部と下流側の軸受加工部と
の各加工量すなわち溝深さに差が発生することがある。
これは、電解液の温度が下流へ行くほど上昇し電導度が
増すからであり、また水素気泡が混在する層の厚さが下
流側ほど大きくなり、さらに気泡の容積が液温とともに
増大し、それによって電導度が減少するからである。従
って電解液の上流側と下流側とで均一な溝深さを得るた
めには、これら二つの電導度の変化を互いに相殺させる
条件で加工しなければならない。
【0034】上記二つの電導度の変化を互いに相殺させ
るためには、流動切換手段によって電解加工部Aを通る
電解液の流れを交互にすることで溝深さを均一化するこ
とが可能である。例えば1.4秒の加工時間であれば、
最初の0.7秒について電解液を一方側から流し、残り
の0.7秒については反対側に流せば、電解液の流れ方
向において加工条件が均一化されることとなって良好な
加工状態が得られる。
【0035】なお、本実施形態においては、通電スイッ
チ26のオン・オフ動作をタイマー手段によって行って
いるが、電解加工用パルス電源からの出力パルスをカウ
ントし、その総パルス数に基づいて通電スイッチ26の
オン・オフ動作を行わせるように構成することもでき
る。また、上述したステンレス鋼(SUS)材や銅以外
の金属材料に対する電解加工についても同様に適用する
ことができる。
【0036】ところで、上述の電解加工装置を用い上述
の電解加工方法による電解加工を所定時間行うと、上記
電極露出部23aの幅に関係なく所定の溝深さの動圧溝
が一様に得られることになるわけであるが、実際には、
電極露出部23aの幅が所定値以上になると電解加工さ
れる動圧溝の溝深さは一定となるが、上記所定値以下に
なると電解加工される動圧溝の溝深さは、電極露出部2
3aの幅に対応して電極露出部23aの幅が広くなると
深くなり、電極露出部23aの幅が狭くなると浅くなる
という特性を、本発明者は実験により発見した。
【0037】この実験データを表したのが図5であり、
電極露出部23aの幅と加工される溝深さとの関係が加
工電圧をパラメータとして表されている。加工条件は、
軸受素材22としてSUS304を用いて、30°Cの
NaNO3 (硝酸ナトリウム)を30重量%含有する電
解液を10m/s以上の流速で0.1mmの加工間隙に
流したもので、6V、7V〜10Vの5通りの加工電圧
により一定時間電解加工を行った結果である。
【0038】図より明らかなように、電極露出部23a
の幅を略0.3mm以上にすると、何れの加工電圧であ
っても加工される動圧溝の溝深さは一定となるが、略
0.3mmより小さくすると、何れの加工電圧であって
も電極露出部23aの幅に対応して加工される動圧溝の
溝深さは変化する。すなわち、電極露出部23aの幅を
略0.3mmより小さくした場合にあっては、電極露出
部23aの幅が広くなると加工される動圧溝の溝深さが
深くなり、電極露出部23aの幅が狭くなると加工され
る動圧溝の溝深さが浅くなる。
【0039】従って、上述したような電極露出部23a
の幅に関係なく所定の溝深さの動圧溝を一様に得るに
は、電極露出部23aの幅を略0.3mm以上にするこ
とが必要となる。なお、この臨界値(略0.3mmとい
う値)は加工間隙を0.1mmとした場合のものであ
り、加工間隙が変わるとこの臨界値もそれに応じて変わ
ることになる。
【0040】次に、上記発見した特性を応用して、動圧
発生用のラジアルグルーブの溝深さを溝位置に応じて異
ならせる場合について、図6を参照しながら説明する。
このような場合にあっては、加工されるラジアルグルー
ブの溝深さに対応して、電極露出部123aの幅が異な
る電極工具123が用いられる。この電極工具123の
非導電性材料123bで覆われない電極露出部123a
は、図5に示されるように、軸線方向に沿う直線状部分
123aaと、この直線状部分123aaの上下端部に
鈍角にて連設される傾斜部分123abと、からなる。
そして、これら両部分123aa,123abは共に、
その幅(最短距離の部分)t1,t2が上記臨界値(略
0.3mm)より小さくなっており、さらにt1(例え
ば0.05mm)>t2(例えば0.25mm)の関係
となっている。なお、加工間隙は上記の0.1mmであ
る。
【0041】従って、上記電極工具123を図1に示し
た装置に適用して上述した電解加工を行うと、軸受素材
122の内周面に形成されるラジアルグルーブは、直線
状部分123aaに対応するラジアルグルーブの溝深さ
が、傾斜部分123abに対応するラジアルグルーブの
溝深さに比して深くなる形状となる(詳細な溝形状に関
しては後述)。すなわち、動圧発生用のラジアルグルー
ブの溝深さを溝位置に応じて異ならせることができる。
因に、直線状部分123aaの幅を上記臨界値(略0.
3mm)と同値またはそれより大にしても傾斜部分12
3abに対応するラジアルグルーブに対してその溝深さ
を異ならせることができるというのはいうまでもない。
【0042】因に、本実施形態にあっては、図8に示さ
れるように、電極露出部123aの電極幅W1(t1ま
たはt2)が、加工すべき動圧溝(ラジアルグルーブ)
122aの幅W2よりもやや小さく形成されている(W
1<W2)。このような差を設けているのは、理想的な
電解加工では加工すべき被加工面の外側で電流密度が直
ちに0になるものであるが、実際には外方に向かって徐
々に減少して0に近づいていくからである。従って、加
工間隙を狭くすれば上述した差は小さくなる。なお、図
8はスラスト軸受を表したものであるから、電極工具1
23及び軸受素材122は平坦に描かれているが、本実
施形態のようなラジアル軸受にあっては、実際には電極
工具123及び軸受素材122は曲面となっている。
【0043】次に、図7に示されている実施形態の電解
加工装置においては、被加工物42として平板状のスラ
スト軸受素材が用いられている。すなわち図7に示され
ているように、非導電性材料で形成された中空状のハウ
ジング41に設けられたキャビティー内には、略水平状
態にて平板状被加工物としてのスラスト軸受素材42が
固定されていると共に、このスラスト軸受素材42の上
側に対向するようにして平板状電極工具43が略水平に
固定されており、両者間に電解加工部Bが略水平方向に
延在するように形成されている。また上記電解加工部B
の図示右側上部に開口する液供給管52から供給された
電解液が、電解加工部Bを通って液排出管53から外部
に排出されるように構成されている。
【0044】上記平板状電極工具43の対向部分は、図
8に示されているように所定の溝形状を有する電極露出
部43aを除いて非導電性材料43bで覆われており、
上記電極露出部43aの溝形状の底壁面とスラスト軸受
素材42とが全面にわたって均一な加工間隔を備えるよ
うに、上記電極工具43とスラスト軸受素材42との平
行度が調整されている。非導電性材料43bは、所定の
樹脂材を印刷等によってコーティングしたものである。
【0045】電極露出部43aは、ヘリングボーン型、
スパイラル型の動圧溝の各形状に対応した形状に成形さ
れており、ラジアル軸受で説明したと同様に、その電極
幅W1が加工すべき動圧溝(スラストグルーブ)42a
の幅W2よりもやや小さくなるように形成されている
(W1<W2)。その他の構成は、図1乃至図4で説明
した実施形態と同様であるので、対応する構成物に対し
て同一の符号を付して説明を省略するが、このような実
施形態装置においても図1乃至図4で説明した実施形態
と同様な電解加工方法を実施することができ、同様な作
用・効果を得ることができる。そして、加工間隙を0.
1mmとし、電極露出部43aの幅を略0.3mm以上
としていることから、上述したと同様に、電極露出部4
3aの幅に関係なく所定の溝深さの動圧溝が一様に得ら
れることになる。
【0046】次に、このように構成されたスラスト軸受
溝加工用の電解加工装置を用い、動圧発生用のスラスト
グルーブの溝深さを溝位置に応じて異ならせる場合につ
いて、図9及び図10を参照しながら説明する。このよ
うな場合にあっては、加工されるスラストグルーブ14
2aの溝深さに対応して、電極露出部143aの幅が異
なる電極工具143が用いられる。この電極工具143
の非導電性材料143bで覆われない電極露出部143
aは、図9に示されるように、スパイラル状に形成さ
れ、当該電極露出部143aの幅(最短距離部分)t3
は、電極工具143の中心から円周方向に向かうに従っ
て徐々に広くなる構成になされている。そして、上記電
極露出部143aの幅t3は、上述した図5の線図に基
づいて決定されており、最大幅の部分(最外周の部分)
でも略0.3mmより小さくなっている。なお、加工間
隙は上記と同様に0.1mmである。
【0047】なお、この実施形態にあっては、図7に示
したように電解液を直径方向の一方向に流動させるので
はなく、電極工具143の中心から電解加工部Bに流し
込んで当該電解液を放射状に流動させる構成になされて
いる(図10参照)。
【0048】従って、このように構成されたスラスト軸
受溝加工用の電解加工装置を用い、電解加工を行うと、
図10に示されるように、軸受素材142に形成される
スラストグルーブ142aは、その溝深さが軸受素材1
42の中心から円周方向に向かうに従って徐々に深くな
る形状となり、スラスト軸受性能に優れたスラスト軸受
が得られることになる。因に、スラストグルーブ142
aの幅を外周側で上記臨界値(略0.3mm)と同値ま
たはそれより大にすると、臨界値までの部分に対応する
スラストグルーブの溝深さは、軸受素材142の中心か
ら円周方向に向かうに従って徐々に深くなるが、臨界値
またはそれより大の部分に対応するスラストグルーブの
溝深さは所定値に保たれることになる。
【0049】そして、このようにして形成されるスラス
トグルーブ142a(上述したラジアルグルーブも同
様)の溝深さ方向の断面形状は、図10に示されるよう
に、略一定の溝深さの幅広の中央部分142aaと、こ
の幅広の中央部分142aaの両端に連設され幅が徐々
に狭くなりつつ溝深さが浅くなって終結する終端部14
2abと、からなり、溝深さが浅いもの(軸受素材14
2の中心側)では中央部分142aaの幅が狭くなり、
溝深さが深いもの(軸受素材142の外周側)では中央
部分142aaの幅が広くなる。
【0050】なお、上述したラジアルグルーブと同様
に、臨界値(略0.3mm)は加工間隙を0.1mmと
した場合のものであり、加工間隙が変わるとこの臨界値
もそれに応じて変わることになる。
【0051】以上本発明者によってなされた発明の実施
形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限
定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種
々変形可能であるというのはいうまでもない。例えば、
上述した実施形態では、動圧溝の溝深さを溝位置に応じ
て異ならせるにあたって、パルス電源を用いるようにし
ているが、直流電源を用いても良い。
【0052】また、上記実施形態においては、動圧溝の
溝深さを溝位置に応じて異ならせるにあたって、電極工
具と被加工物とを共に固定する電解加工方式を採用して
いるが、例えば特開平5−8111号公報に記載のよう
に両方を移動する電解加工方式や例えば特開平2−14
5800号公報に記載のように一方を固定して他方を移
動する電解加工方式(電解加工時には両者固定)であっ
ても、図6、図9及び図10に示した電極工具を用いれ
ば、動圧溝の溝深さを溝位置に応じて異ならせることが
できる。
【0053】また、例えば特公昭56−53661号公
報に記載のような略半球状のものまたはこれに対向する
ものに対しても、幅が異なる(変化する)電極工具を用
いることによって溝深さの異なる動圧溝(ラジアル及び
スラストの機能を有する)を形成することが可能であ
り、あらゆる種類の形状加工に対しても同様に適用する
ことが可能である。
【0054】
【発明の効果】以上述べたように、本発明にかかる電解
加工方法及び電解加工装置は、電極露出部の幅が所定値
以下になると、電解加工される動圧溝の溝深さが、電極
露出部の幅に対応して電極露出部の幅が広くなると深く
なり、電極露出部の幅が狭くなると浅くなるという特性
に基づいて、溝位置に応じて任意の溝深さの電解加工を
行い得るように構成したものであるから、3次元制御が
必要となる切削工法に比して設備を高価にする必要がな
く低コスト化を図れると共に溝を多数本同時に形成でき
生産性の向上を図れ、またコイニングや転造工法に比し
て動圧溝の形状が複雑・微細であっても工具の摩耗がな
く工具寿命を半永久的にできて低コスト化を図れると共
にバリ除去や追い工程が必要ないことから溝深さや溝形
状にバラツキを生じるといったことがなく溝位置に応じ
て任意の溝深さの動圧溝を高精度に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電解加工装置を表
した原理的説明図である。
【図2】図1の装置に用いられている電解液の循環系を
表した系統説明図である。
【図3】予め求めておいた電流密度と加工量との関係デ
ータのSUS304の場合を表した線図である。
【図4】予め求めておいた電流密度と加工量との関係デ
ータの銅の場合を表した線図である。
【図5】電極露出部の幅と加工される溝深さとの関係を
加工電圧をパラメータとして表した線図である。
【図6】ラジアル軸受の動圧溝を溝位置に応じて任意の
溝深さに形成するにあたって用いられる電極工具を図1
の装置に適用した場合の電極工具及び被加工物の拡大側
面説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態にかかる電解加工装置を
表した原理的説明図である。
【図8】電極露出部の幅と動圧溝の幅との関係を表した
側面説明図である。
【図9】スラスト軸受の動圧溝を溝位置に応じて任意の
溝深さに形成するにあたって図7の装置に用いられる電
極工具の一実施形態を表した拡大平面説明図である。
【図10】図9の電極工具を図7の装置に適用した場合
の電極工具及び被加工物を拡大して表した横断面説明図
である。
【図11】本発明によって形成された軸受を備えたHD
Dモーターの一例を表した半断面説明図である。
【符号の説明】
122a,142a 動圧溝 123,143 電極工具 123a(123aa,123ab),143a 電極
露出部 142aa 動圧溝の中央部分 142ab 動圧溝の終端部 t1,t2,t3 電極露出部の幅
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23H 3/04 F16C 17/00

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 軸受流体に軸支用の動圧を発生させる動
    圧溝を動圧軸受の動圧面に対して電解加工で所定の溝形
    状に加工するものであって、 上記動圧溝が電解加工される被加工物と、当該被加工物
    に加工される動圧溝に対応した溝形状の電極露出部を有
    する電極工具と、を互いに近接して対向配置すると共
    に、 これら被加工物及び電極工具を電解加工用電源の正極及
    び負極にそれぞれ接続し、電極工具と被加工物との間に
    所定の電解液を流動させながら通電することによって上
    記被加工物を前記溝形状に対応して溶出させ動圧溝を電
    解加工するようにした動圧軸受における動圧溝の電解加
    工方法において、 上記電極露出部の幅を、加工される動圧溝の溝深さに対
    応させて溝深さが深く形成される部分を広くして、溝深
    さが異なる動圧溝の電解加工を行うようにしたことを特
    徴とする動圧軸受における動圧溝の電解加工方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の動圧溝の溝深さ方向の断
    面形状が、略一定の溝深さの幅広の中央部分と、この幅
    広の中央部分に連設され幅が徐々に狭くなりつつ溝深さ
    が浅くなって終結する終端部と、から形成されることを
    特徴とする動圧軸受における動圧溝の電解加工方法。
  3. 【請求項3】 軸受流体に軸支用の動圧を発生させる動
    圧溝を動圧軸受の動圧面に対して電解加工で所定の溝形
    状に加工するものであって、 電解加工用電源と、上記動圧溝が電解加工される被加工
    物と、当該被加工物に近接対向配置され上記動圧溝に対
    応した溝形状の電極露出部を有する電極工具と、これら
    電極工具及び被加工物の間に所定の電解液を流動させる
    電解液供給手段と、を備え、 上記被加工物及び電極工具を前記電解加工用電源の正極
    及び負極にそれぞれ接続し、これら電極工具と被加工物
    との間に電解液を流動させながら通電することによって
    上記被加工物を前記溝形状に対応して溶出させ動圧溝を
    電解加工するように構成した電解加工装置において、 加工される動圧溝の溝深さに対応させて溝深さが深く形
    成される部分の幅が広くなるように構成されていること
    により、溝深さが異なる動圧溝を形成する電極露出部を
    有する動圧軸受における動圧溝の電解加工装置。
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