JP3176849B2 - 有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法 - Google Patents

有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、有機塩素化合物汚染土
壌、例えばテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン
等を含む土壌の微生物処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】テトラクロロエチレン、トリクロロエチ
レン等の有機塩素系化合物は溶剤としての優れた性質か
ら半導体や機械部品の洗浄、ドライクリーニングなどに
広く用いられてきたが、過去および現在の不適切な処理
により土壌を介した広範囲な地下水汚染を各地で引き起
こしていることがわかり、適切な処理技術の確立が求め
られている。これらの有機塩素化合物を含む工場排水や
汚染地下水などは、現在一般的に充填塔などによる曝気
法、活性炭などによる吸着法などにより処理されてお
り、分解法としては光触媒・酸化剤などを用いた方法が
開発されつつある。また、近年では穏和な条件下で処理
ができ、地下などの汚染原位置処理にも適用が可能と考
えられる微生物分解法が注目されており、有機塩素化合
物を分解する様々な微生物およびそれらを利用したバイ
オリアクターによる分解などが報告されている(浦野紘
平、宮本健一(1993)用水と廃水 35,5-19など)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、曝気法などは
有機塩素化合物そのものを無害化する技術ではなく、光
分解・化学分解法なども副反応の可能性や、二次処理の
必要性などから、まだ実用化に難点を残している。一
方、微生物分解では後述するような分解菌の特性のた
め、高濃度のテトラクロロエチレンやトリクロロエチレ
ンを含む土壌、特にテトラクロロエチレンの処理は困難
であった。従って本発明の目的は、土壌中に存在する高
濃度塩素化エチレン類、特にテトラクロロエチレンを高
い効率で分解する微生物処理方法を提供することにあ
る。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を
達成すべく鋭意研究の結果、塩素化エチレン類分解菌の
スクリーニングにより、テトラクロロエチレンをシス−
1,2−ジクロロエチレンに脱塩素する嫌気性培養菌、
およびトリクロロエチレンやシス−1,2−ジクロロエ
チレンを分解する好気性培養菌を用いて、有機塩素化合
物汚染土壌が導入された密閉容器内で上記2種類の分解
菌を共存させた系を還元状態、酸化状態にすれば、これ
ら嫌気性、好気性培養菌によりテトラクロロエチレンを
土壌環境基準未満に分解することが可能であることを見
いだし、本発明に到達した。現行の土壌環境基準は以下
の通りである。溶出検液中の濃度がテトラクロロエチレ
ンで0.01mg/l以下、トリクロロエチレンで0.
03mg/l以下、シス−1,2−ジクロロエチレンで
0.04mg/l以下。
【0005】すなわち、本発明は第1に、塩素数3〜4
の塩素化エチレン類で汚染された土壌からなる1つの反
応系を形成し、該反応系内に嫌気性微生物と好気性微生
物とを同時に生息させた後、まず嫌気性微生物のみが活
発に活動できるが好気性微生物はその活動が一時的に抑
制される状態となるように環境条件を調節して嫌気性微
生物による嫌気的脱塩素処理を施すことにより該有機塩
素化合物の塩素化度を低減せしめ、次いで反応系を好気
性微生物のみが活発に活動できる状態に環境条件を調節
して好気性微生物により低塩素化有機化合物を二酸化炭
素と水および塩化物イオンに分解することを特徴とする
該有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法を提供する
ものである。
【0006】第2に本発明は、塩素数3〜4の塩素化エ
チレン類で汚染された土壌を嫌気性微生物および好気性
微生物を充填した密閉容器内に導入して、該密閉容器内
に嫌気性微生物と好気性微生物とを同時に生息させた
後、まず嫌気性微生物のみが活発に活動できるが好気性
微生物はその活動が一時的に抑制される状態となるよう
に環境条件を調節して嫌気性微生物による嫌気的脱塩素
処理を施すことにより該有機塩素化合物の塩素化度を低
減せしめ、次いで反応系を好気性微生物のみが活発に活
動できる状態に環境条件を調節して好気性微生物により
低塩素化有機化合物を二酸化炭素と水および塩化物イオ
ンに分解することを特徴とする該有機塩素化合物汚染土
壌の微生物処理方法を提供する。
【0007】第3に本発明は、前記嫌気性微生物が塩素
数3〜4の塩素化エチレン類を脱塩素する培養菌であ
り、一方、前記好気性微生物が塩素数1〜3の塩素化エ
チレン類を酸化分解する培養菌である上記第1または第
2に記載の有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法を
提供する。
【0008】
【作用】テトラクロロエチレン(CCl2 :CCl
2 )、トリクロロエチレン(CCl2 :CHCl)等の
塩素化エチレン類を分解する微生物には好気性のものと
嫌気性のものがありそれぞれ特性が異なっている。一般
に、好気性菌(メタン資化性菌、トルエン資化性菌な
ど)は塩素数1から3の塩素化エチレンの炭素骨格まで
も分解するが、塩素数が多くなるほど反応速度は低下し
トリクロロエチレンになると50ppm 以上といった高濃
度ではほとんど分解が起こらなくなる。一方、嫌気性菌
(メタン生成菌など)は、塩素化エチレン分子中の塩素
を一つずつ水素に置換する反応により比較的高濃度の塩
素数1から4の塩素化エチレンを分解できるが、塩素数
が少ないほど反応速度が低下し塩素数が1,2のより毒
性の強い反応中間体が蓄積しやすいといった特徴を持
つ。
【0009】一般に塩素化エチレン類の嫌気性菌による
脱塩素反応は化1および化2式で、好気性菌による分解
反応は化3および化4式で示されるが、テトラクロロエ
チレンは特に生分解が困難であった。
【0010】 CCl2 :CCl2+2[H]→CCl2:CHCl+HCl (化1) CCl2 :CHCl+2[H]→CHCl:CHCl+HCl (化2) CC12 :CHCl+3/2O2+H2O→2CO2+3HCl (化3) CHCl:CHCl+2O2→2CO2+2HCl (化4) また、本発明者等は通常有機塩素系溶剤に汚染された土
壌を浄化する際に行われる曝気などの処理は、粘土質な
ど通気性の不良な土壌には適用しがたいが、微生物分解
処理の適用性は土壌の通気性には依存せず、上記の嫌気
/好気処理方法が土壌にも適用可能であることを明らか
にした。
【0011】具体的には、本発明は、汚染土壌に嫌気性
・好気性菌を添加し、系の物理・化学的条件をそれぞれ
の微生物に適したものに変化させることにより、土壌を
汚染している塩素化エチレン類を分解処理するものであ
る。
【0012】本発明では、嫌気性菌として塩素化エチレ
ン類の脱塩素活性を持つメタン生成菌、硫酸還元菌その
他の種類の混合菌、単離株が使用でき、好気性菌として
は、塩素化エチレン類の分解活性を持つフェノール資化
性菌などの芳香族化合物資化性菌やメタン・プロパン資
化性菌などの混合菌、単離株が使用できる。上記処理に
おいては塩素化エチレン類は適当な有機物の存在下、ま
ず嫌気性菌により低塩素数の化合物に脱塩素される。そ
の後酸素または過酸化水素などの酸化剤と、フェノー
ル、トルエンなどの塩素化エチレンの分解酵素の誘導物
質を系に加えることで塩素化エチレン類は土壌環境基準
未満に分解されることとなる。以下実施例により本発明
をさらに詳細に説明する。しかし本発明の範囲は以下の
実施例により制限されるものではない。
【0013】
【実施例1】図1は本実施例のテトラクロロエチレン分
解反応における反応容器中の塩素化エチレン類(PC
E:テトラクロロエチレン、cDCE:シス−1,2−
ジクロロエチレン)の経時変化を示すグラフであって、
この図を参照して以下テトラクロロエチレンの処理例を
説明する。
【0014】(1)分解菌の培養 嫌気性菌としては酵母抽出物を基質として生育するテト
ラクロロエチレン脱塩素混合菌を用い、培養は以下の組
成の培地で行った。 リン酸一カリウム 0.1g リン酸二カリウム 0.1g 硫酸アンモニウム 0.12g (以上、水に溶解し水酸化カリウムでpHを7に調節し
た後100mlとする) 0.1g/l酵母抽出物(Yeast Extract )溶液 1ml 0.25g/l硫酸マグネシウム・7水塩溶液 0.1ml 微量金属混合液* 0.1ml 以上の4溶液を別々に121℃、15分間蒸気加圧滅菌
後、混合して培地とする。 *微量金属混合液とは以下の塩類を100mlの水に溶解
し水酸化ナトリウムでpHを7に調整したものである。
【0015】 EDTA二ナトリウム塩 5 g 硫酸亜鉛・7水塩 1.1g 硝酸カルシウム・4水塩 0.6g 硫酸マンガン・4−6水塩 0.6g 硝酸コバルト・6水塩 0.06g モリブデン酸アンモニウム・4水塩 0.05g 硫酸第一鉄・7水塩 0.5g 硫酸銅・5水塩 0.02g 培養は気相を窒素ガスで置換し、テトラクロロエチレン
を培地10mlあたり1.6mg添加して30℃で静置
して行った。好気性菌としてはフェノールを資化して生
育するジクロロエチレン分解菌を用い培養は以下の組成
の培地で行った。
【0016】 リン酸一カリウム 0.1 g リン酸二カリウム 0.1 g 硫酸アンモニウム 0.12g (以上、水に溶解し水酸化カリウムでpHを7に調節し
た後100mlとする) 0.25g/ml硫酸マグネシウム・7水塩溶液 0.1ml 微量金属混合液* 0.1ml 以上の3溶液を別々に121℃、15分間蒸気加圧滅菌
後、混合して培地とする。 *微量金属混合液とは以下の塩類を100mlの水に溶
解し水酸化ナトリウムでpHを7に調整したものであ
る。
【0017】 EDTA二ナトリウム塩 5 g 硫酸亜鉛・7水塩 1.1g 硝酸カルシウム・4水塩 0.6g 硫酸マンガン・4−6水塩 0.6g 硝酸コバルト・6水塩 0.06g モリブデン酸アンモニウム・4水塩 0.05g 硫酸第一鉄・7水塩 0.5g 硫酸銅・5水塩 0.02g 培養は、フェノールを培地10mlあたり5mg添加し
て、30℃で振とうして行った。
【0018】(2)テトラクロロエチレン汚染土壌の処
理 テトラクロロエチレン分解のための反応容器として、密
閉可能なバイアルビン(内容量130ml)を用い検討
を行った。PCE汚染土壌(砂質土)を湿重量で8g
(PCE濃度200ppm)反応容器に入れ、上記の液
体培地32ml(微量金属混合液を除く)と酵母抽出物
40mg、上記嫌気性菌培養液0.4mlを入れテフロ
ンライナー付きのセプタムを介してアルミシールで密閉
し、25℃で撹拌しつつ分解反応を行なった。その際気
相部分を窒素等の不活性ガスで置換してもよいが、通常
は液相に対する気相の比があまり大きくなければ気相中
の酸素は微生物により消費され、系は嫌気状態となるた
め置換は不要である。気相部分のガスクロマトグラフィ
ー(PID検出器)による分析から求めた、反応容器内
の塩素化エチレン類の量を図1に示す。まず、テトラク
ロロエチレンはほぼ化学量論的にシス−1,2−ジクロ
ロエチレンに脱塩素化され、引き続きフェノール7.5
mgと酸素(10mlずつ注入、計80ml)、上記好
気性菌培養液0.8mlをセプタムを通してシリンジに
より反応容器に添加することで、シス−1,2−ジクロ
ロエチレンは酸化分解された。なお、好気性菌は反応初
期から加えてもよいが、好気状態とする際に添加しても
よい。
【0019】
【実施例2】図2は本実施例のテトラクロロエチレン分
解反応における反応容器中の塩素化エチレン類の経時変
化を示すグラフであって、この図を参照して以下説明す
る。実施例1と同様な装置で、電子受容体として酸素の
かわりに過酸化水素を用いた場合のテトラクロロエチレ
ン処理の結果を示す。実施例1と同じ条件で反応を開始
し、テトラクロロエチレンがシス−1,2,ジクロロエ
チレンに脱塩素化された時点で、フェノール7.5mg
と過酸化水素(30%溶液を0.092mlずつ注入、
22 として計0.28g)を反応容器に添加するこ
とでシス−1,2−ジクロロエチレンは酸化分解され
た。その際の気相部分のガスクロマトグラフィーによる
分析から求めた反応容器内の塩素化エチレン類の量を図
2に示す。
【0020】
【実施例3】図3に示すように地面をビニールシートま
たは舗装により覆って過剰な誘導物質(フェノール
等)、栄養塩などの漏出を防ぐための遮水層1を形成
し、該遮水層の上に多量のテトラクロロエチレンを含む
汚染土壌、菌、誘導物質、栄養塩などの混合物2を積み
上げた。積み上げた土壌底部に空気吸引用のスロット多
数を有する塩化ビニルパイプ3を挿入し、パイプの一端
をブロワー4に連結してブロワーを回転させればパイプ
内に空気5が吸引されるようにした。最初はブロワーを
止めて積み上げた土壌表面をビニールシートで覆い15
0時間自然状態で放置した。しかる後、表面を覆ったビ
ニールシートを取り除き、150時間ブロワーを運転し
た。ブロワー停止後、土壌のサンプリングを行い分析を
行ったところシス−1,2−ジクロロエチレンおよびテ
トラクロロエチレン濃度は土壌環境基準未満になってい
た。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の方法によ
れば、有機塩素化合物汚染土壌を反応容器内で、まず嫌
気性培養菌で例えばテトラクロロエチレンがシス−1,
2−ジクロロエチレンに脱塩素化され、続いて容器内が
酸化状態に調整されるとともに、好気性培養菌でシス−
1,2−ジクロロエチレンが土壌環境基準未満に酸化分
解されるので、従来困難であった高濃度の塩素化エチレ
ン類、特にテトラクロロエチレンを分解処理する際、穏
和な条件下でかつ微生物処理としては高い効率で処理す
ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1のテトラクロロエチレン分解
反応における反応容器中の塩素化エチレン類(テトラク
ロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン)の経
時変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例2のテトラクロロエチレン分解
反応における反応容器中の塩化エチレン類の経時反応を
示すグラフである。
【図3】本発明による汚染土壌の微生物処理の現地適用
法を例示する図である。
【符号の説明】
1 ビニールシートまたは舗装などの遮水層 2 土壌、菌、誘導物質、栄養塩などの混合物 3 スロット多数を有する塩化ビニルパイプ 4 ブロワー 5 空気
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平7−171548(JP,A) 特開 平6−226230(JP,A) 特開 平5−23693(JP,A) 特開 昭64−34380(JP,A) 特開 平7−136632(JP,A) 特開 平9−224657(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B09C 1/00 - 1/10 A62D 3/00

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 塩素数3〜4の塩素化エチレン類で汚染
    された土壌からなる1つの反応系を形成し、該反応系内
    に嫌気性微生物と好気性微生物とを同時に生息させた
    後、まず嫌気性微生物のみが活発に活動できるが好気性
    微生物はその活動が一時的に抑制される状態となるよう
    に環境条件を調節して嫌気性微生物による嫌気的脱塩素
    処理を施すことにより該有機塩素化合物の塩素化度を低
    減せしめ、次いで反応系を好気性微生物のみが活発に活
    動できる状態に環境条件を調節して好気性微生物により
    低塩素化有機化合物を二酸化炭素と水および塩化物イオ
    ンに分解することを特徴とする該有機塩素化合物汚染土
    壌の微生物処理方法。
  2. 【請求項2】 塩素数3〜4の塩素化エチレン類で汚染
    された土壌を嫌気性微生物および好気性微生物を充填し
    た密閉容器内に導入して、該密閉容器内に嫌気性微生物
    と好気性微生物とを同時に生息させた後、まず嫌気性微
    生物のみが活発に活動できるが好気性微生物はその活動
    が一時的に抑制される状態となるように環境条件を調節
    して嫌気性微生物による嫌気的脱塩素処理を施すことに
    より該有機塩素化合物の塩素化度を低減せしめ、次いで
    反応系を好気性微生物のみが活発に活動できる状態に環
    境条件を調節して好気性微生物により低塩素化有機化合
    物を二酸化炭素と水および塩化物イオンに分解すること
    を特徴とする該有機塩素化合物汚染土壌の微生物処理方
    法。
  3. 【請求項3】 前記嫌気性微生物が塩素数3〜4の塩素
    化エチレン類を脱塩素する培養菌であり、一方、前記好
    気性微生物が塩素数1〜3の塩素化エチレン類を酸化分
    解する培養菌である請求項1または請求項2記載の有機
    塩素化合物汚染土壌の微生物処理方法。
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