自動二輪車の排気装置の設計(マフラー設計)は、種々の制約の下で行われていたが、実際のところ、マフラーの容積を大きくしなければ消音効果を上げることができず、その一方で、マフラーの容積の増大が自動二輪車の操縦性の低下をもたらす現象を回避することができなかった。例えば、現状の4サイクルのモトクロス自動二輪車(特に、競技用車)のマフラーにおいては、サイレンサーの容量を大きくし、それによって騒音低減と走行性能とを満足させているため、マフラーは大きく、重いのが実情である。騒音に関しては、レギュレーションがあるため、騒音の要因を無視して、マフラーを小さく軽くすることができない。
このような状況の中、本願考案者は、走行性能(排気特性)と騒音特性を満足させながら、小型で軽量のサイレンサーを持った排気装置(マフラー)を実現することを試み、鋭意検討した結果、本考案に至った。
以下、図面を参照しながら、本考案による実施の形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本考案は以下の実施形態に限定されない。
図1は、本考案の実施形態に係る排気装置100が搭載された自動二輪車1000を示している。本実施形態の排気装置100は、エンジン50に接続されるエキゾーストパイプ20と、エキゾーストパイプ20に接続されるサイレンサー10とから構成されている。
図1に示した構成例では、サイレンサー10の後端(下流側)には、テールパイプ30が配置されている。また、テールパイプ30は、テールキャップ35で覆われている。なお、便宜上、エンジン50側を「上流」と称し、大気側(サイレンサー10の後端側)を「下流」と称する場合がある。
本実施形態の排気装置100を自動二輪車1000から取り外すと、図2に示す通りである。図2に示した排気装置100のエキゾーストパイプ20およびサイレンサー10には、車体への取り付け用部材が形成されている。本実施形態のマフラー100は、4サイクルエンジン用のマフラーであり、図1に示した自動二輪車1000は、オフロード車両である。なお、サイレンサー10は、排気装置100の後部(詳細には、エキゾーストパイプ20の後部)に取り付けられた消音器である。
本実施形態のサイレンサー10は、ヘルムホルツ共鳴器およびサイドブランチからなる群から選択される少なくとも一方の共鳴器を有しており、そして、その共鳴器(ヘルムホルツ共鳴器、または、サイドブランチ)には、吸音材が充填されている。なお、ヘルムホルツ共鳴器は、単に、「レゾネータ」と称する場合もある。
共鳴器には、その形態により、ヘルムホルツ共鳴器と、サイドブランチとがあり、用途によって使い分けされる。ヘルムホルツ共鳴器を図3に示し、そして、サイドブランチを図4に示す。
図3に示したヘルムホルツ共鳴器の共振周波数f
0は式1で求められる。
また、図4に示したサイドブランチの共振周波数fは式2で求められる。
なお、ヘルムホルツ共鳴器は、首部の直径や長さ、空洞部の容積によって共振周波数の調整ができるので、用途が広い。
共振周波数付近の音が共鳴器に入射すると、共鳴によって大きな空気振動が発生する。この激しい空気振動は、媒質(空気)の粘性抵抗によって熱に変わり(摩擦損失)、それに伴って吸音(音の吸収、減衰)される。ここで、「共鳴(又は共振)」とは、ある物体の振動エネルギーが他の物体に吸収されて、その物体が振動することをいう。
共鳴器(ヘルムホルツ共鳴器又はサイドブランチ)を管路(この場合、排気系)に装着した場合、その共振周波数付近で減衰改善効果は得られるものの、その装着によって新たな共振が生じて、その結果、二次的な問題が生じる。
なお、吸音材(グラスウール、ステンレスウール(SUSウール)、多孔質金属など)に音が入射すると、空気振動が直接に材料内部の隙間や気泡部分の空気に伝わり、繊維や気泡の面での空気の粘性摩擦、繊維や気泡の膜自体による振動等によって吸音される。したがって、共鳴器に吸音材を充填した場合には、共鳴器自体の吸音効果は抑制される。
ここで、本実施形態の構成においては、吸音材によって共鳴器自体の吸音効果が抑制されてしまう点を逆に利用して、新たな共振のピークレベルを抑える構造を実現化している。したがって、本実施形態の排気装置100によれば、マフラー重量の増大を抑制するためにサイレンサーの容量を大きくできない場合であっても、消音効果を高めることができる。
さらに説明すると、エンジン性能の向上を図る場合、エンジン性能から要求されるテールパイプ径がある。騒音規制に適応させているマフラーの場合、テールパイプ径は大きくする傾向が多い。テールパイプの径だけを大きくした場合は、排気系減衰特性上の「fo」が高周波へ移行する。しかしながら、騒音およびエンジン性能上、要求されるfo値がある。したがって、その値になるように、排気系全体容量およびテールパイプ長さによってfoの調整を行う。テールパイプ長さの調整のみで行う場合は、パイプ長さは長くなり、それにより、管長共振周波数は低周波へ移行する。通常、低周波数域の減衰特性悪化は騒音増大へとつながり、それゆえ、長さに制限が生じる。
この解決策として、本実施形態では、吸音材が充填された共鳴器を装着する構造とすることにより、テールパイプ管長モードのピークレベルを抑えることができ、その結果、自由度を拡大することが可能となる。共鳴器は、ヘルムホルツ共鳴器又はサイドブランチの構造のものを用いることができ、それらはモデル毎に適宜好適なものを採用することができる。また、使用する吸音材とその見掛け密度によって、要求される減衰特性になるように調整することができる。
<実施形態1>
次に、図5から図10を参照しながら、本考案の実施形態1に係るサイレンサー10の構成およびその効果について更に説明をする。
図5(a)は、本実施形態のサイレンサー10の断面図であり、図5(b)は、図5(a)中のB−B線に沿った断面図である。
図5に示したサイレンサー10では、サイレンサー10の後部にテールパイプ30が配置されており、そのテールパイプ30はテールキャップ35によって覆われている。テールキャップ35内にはヘルムホルツ共鳴器(レゾネータ)40が形成されている。ヘルムホルツ共鳴器40には、吸音材(例えば、グラスウール)72が充填されている。
サイレンサー10は、外筒12と、その外筒12に収容された内筒14とから構成されている。そして、サイレンサー10の内筒14の少なくとも一部(領域P1)には、パンチング孔60が形成されている。
パンチング孔60は、サイレンサー10内部(ここでの内筒14)に形成された小孔であり、エキゾーストパイプ20から導入された排気ガスのエネルギーを小孔を通じて、外筒12にまで通すことができる役割を持っている。図5に示した例では、外筒12の内壁と内筒14の外壁との間に、吸音材70が充填されている。
吸音材は、音波を吸収可能な材料であり、例えば、グラスウール、ステンレスウール(SUSウール)、アルミウール、フェライト、アスベストなどを用いることができる。この例では、吸音材70として、グラスウールを用いている。吸音材は、高周波音は良く吸収するが、低周波音に効果が薄いので、その点を踏まえて、排気装置100またはサイレンサー10を設計することが好ましい。
内筒14の一部の中心には、テールパイプ30が配置されている。本実施形態では、内筒14の長手方向半分よりも下流側に、テールパイプ30の上端30aが位置している。テールパイプ30の後端30bは、内筒14の下流側の端部よりも下流側に位置している。なお、この例では、テールパイプ30と内筒14との間には隙間(空気層)が設けられている。
図示した構成例では、外筒12と内筒14との下流側端面を繋いで塞ぐ仕切板13が設けられており、この仕切板13は、テールキャップ35内に形成されたヘルムホルツ共鳴器40の境界となっている。仕切板13よりも下流側に位置するテールパイプ30の一部には、貫通孔62が形成されている。この貫通孔62を介して、テールパイプ30の内部とテールキャップ35の内部とが繋がっており、これにより、テールキャップ35を容器とするヘルムホルツ共鳴器40が構築されている。なお、この例のテールパイプ30は、貫通孔62よりも少し下流側から、下方に曲がった形状をしている。
図5に示したヘルムホルツ共鳴器40を図3に示した関係および式1に当てはめると、次の通りになる。首部断面積Sは、貫通孔62の開口面積の総和であり、首部長さlは、テールパイプ30の肉厚の寸法となる。容積Vは、テールパイプ30とテールキャップ35と仕切板13とによって囲まれた体積である。
この例のテールパイプ30には、図5(b)に示すように、16個の貫通孔62が形成されている。貫通孔62は円形であり、所定の直径を有する。ヘルムホルツ共鳴器40は所定の容積Vを有する。加えて、ヘルムホルツ共鳴器40の内部にはグラスウール72が充填されている。
テールパイプ30の前端30aには、パンチングコーン32が設けられている。図5に示したパンチングコーン32は、先端が開放したコーン形状で、コーン状の側面にパンチング孔64が形成されている部材であり、これによっても消音効果を得ることができ、特に、排気音の筒抜け音を減少させることができる。図5に示したパンチングコーン32では、領域P2においてパンチング孔64が形成されている。
また、パンチングコーン32の先端に位置する開口孔34は、上流端の開口径を下流端の開口径(換言すると、テールパイプ30の前端30aの開口径)よりも小径としている。これにより、音の筒抜けを防止し、減衰効果を高めることができる。なお、パンチングコーン32は、サイレンサー10(ここでは、内筒14)の内部に1個または複数個配置することができる。また、パンチングコーン32の先端は、開口孔34とする他、塞いだ形式にすることも可能である。
図5に示したサイレンサー10の改変例を図6(a)及び(b)に示す。図6(a)及び(b)に示した改変例は、基本的に、図5に示した構成と同様であり、テールキャップ35内にヘルムホルツ共鳴器40が形成されている。ただし、図6に示した改変例は内筒14の構成が異なる。具体的には、内筒14の上流部位14aの直径よりも、下流部位14bの直径が大きい。なお、上流部位14aと下流部位14bとの間には、中間部位(テーパー部位)14cによって直径が拡大する移行部が存在する。図6に示したサイレンサー10では、内筒14の内径を上流から下流へ向けて可変(ここでは拡大)させることによって、減衰特性の調整を行っている。
次に、図7および図8は、比較例のサイレンサー110(110A、110B)の構成を示す断面図である。図7及び図8に示したサイレンサー110A、110Bには、ヘルムホルツ共鳴器40は形成されていない。さらに述べると、サイレンサー110A、110Bのテールキャップ35の内部は、空洞140になっているだけであり、すなわち、テールキャップ35の内部は、テールパイプ30の内部と連結されていない。
比較例のサイレンサー110A、110Bは、他の部分は基本的に、図5に示した構造と同じである。なお、図8に示したサイレンサー110Bのテールパイプ30は、図7に示したサイレンサー110Aのテールパイプ30よりも径が大きくて長い点が異なる。そして、図8に示したサイレンサー110Bの共振周波数は低周波に生じ、それゆえに、騒音上、不利となる。
なお、図7に示したサイレンサー110Aでは、パンチングコーン32(32A、32B)が二段に設けられている。パンチングコーン32Aは、図5に示したパンチングコーン32と同様である。一方、パンチングコーン32Bは、その先端36は塞がっている。また、パンチングコーン32Aは領域P2においてパンチング孔64が形成されており、パンチングコーン32Bは領域P3においてパンチング孔64が形成されている。
一方、図8に示したサイレンサー110Bは、図5に示した構造と同様に、1個のパンチングコーン32を有している。また、図7に示したテールパイプ30は、図5に示した構造と同様のものである。
次に、図9を参照しながら、本実施形態のサイレンサー10の効果について説明する。図9は、サイレンサー10について本願考案者が検討を行った結果(シミュレーション結果)である。図9は、減衰特性を示すグラフであり、縦軸が減衰レベル(dB)で、横軸が周波数(Hz)である。ここで検討を行ったサイレンサーは、図5に示した構造10(実施例1)、図6に示した構造10(実施例2)、図7に示した構造110A(比較例1)、および、図8に示した構造110B(比較例2)である。なお、実施例1および実施例2におけるヘルムホルツ共鳴器40に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は同じである。
図9に示すように、本実施形態のサイレンサー(実施例1、実施例2)の減衰特性の方が、比較例1、2と比較して良好なことがわかる。すなわち、本実施形態の構成(実施例1、2)によれば、比較例1の周波数f(A)の減衰レベル(dB)よりも低くすることができ、また、比較例2の周波数f(B)の減衰レベル(dB)よりも低くすることができる。また、他の周波数領域でも、総じて、本実施形態の構成(実施例1、2)の減衰特性が良好であることがわかる。
図10は、図5に示した構成におけるヘルムホルツ共鳴器40に充填された吸音材(グラスウール)72の密度(見掛け密度)を変化させた結果である。実施例1、比較例2は上述の通りである。比較例3は、実施例1のグラスウール72が充填されていないもの(すなわち、0kg/m3)である。実施例3および4は、それぞれ、実施例1のグラスウール72の密度と比べて、1/3倍、4/3倍であるものである。ここで、吸音材(グラスウール)72の見掛け密度とは、ヘルムホルツ共鳴器40の容積(m3)に対して導入された吸音材72の質量(kg)で表した密度である。
図10に示すように、ヘルムホルツ共鳴器40の無い比較例2と比べて、ヘルムホルツ共鳴器40のある比較例3(ただし、吸音材は無し)は、周波数f(C)の減衰レベルを大きく下げることができる。しかしながら、比較例3では、周波数f(D)に新たなピークが発生し、バランスを崩してかえって減衰特性を悪くしてしまっている。一方、本実施形態の実施例1、3、4では、そのような新たなピークの発生を防止し、比較例1、比較例3よりも良好な減衰特性を発揮している。
本実施形態の構成によれば、サイレンサー10にヘルムホルツ共鳴器40が設けられており、そのヘルムホルツ共鳴器40に吸音材72が充填されている。したがって、ヘルムホルツ共鳴器40によって減衰特性を向上させるとともに、ヘルムホルツ共鳴器40によって新たに発生した共振周波数ピークのレベルを、ヘルムホルツ共鳴器40に吸音材72を充填することによって抑制することができる。その結果、マフラー重量の増大を抑制するためにサイレンサーの容量を大きくできない場合であっても、消音効果を高めることができる。特に、本実施形態の構成によれば、ヘルムホルツ共鳴器40をテールキャップ35内に形成することによって、サイレンサーの容量が必要以上に大きくならないようにされており、その点でも技術的価値が大きい。
次に、図11から図14を参照しながら、本実施形態の改変例について説明する。図11(a)は、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、図11(b)は、図11(a)中のB−B線に沿った断面図である。
図11に示した改変例10は、基本的に、図5に示した構成と同様であり、テールキャップ35内にヘルムホルツ共鳴器40が形成されている。ただし、図11に示した改変例は、テールパイプ30の下流側に(開口端側に)貫通孔62が形成されている点において図5に示した構成と異なる。図11に示した例では、貫通孔62の数は16個である。
また、図12(a)は、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、図12(b)及び(c)は、それぞれ、図12(a)中のB−B線及びC−C線に沿った断面図である。さらに、図13(a)は、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、図13(b)及び(c)は、それぞれ、図13(a)中のB−B線及びC−C線に沿った断面図である。
図12及び図13に示した改変例10は、テールパイプ30の中央部(図5に示した構成と同様な位置)に貫通孔62bが形成されるとともに、図11と同様にテールパイプ30の下流側に(開口端側に)貫通孔62cが形成されている点において、上記例と異なる。図12に示した例では、貫通孔62bの数は8個で、貫通孔62cの数は8個である。一方、図13に示した例では、貫通孔62bの数は4個で、貫通孔62cの数は4個である。
図14は、本実施形態のサイレンサー(改変例)10の効果を説明するためのグラフであり、図9及び図10と同様のものである。比較対照のサイレンサーは、上述の比較例1、比較例2、実施例1、ならびに、図11に示した構造(実施例5)、図12に示した構造(実施例6)、図13に示した構造(実施例7)である。なお、実施例1および実施例5〜7におけるヘルムホルツ共鳴器40に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、同じである。
図14に示すように、本実施形態のサイレンサー(実施例1、実施例5〜7)の減衰特性の方が、比較例1、2と比較して良好なことがわかる。実施例の中でも、テールパイプ30の下流側だけに(開口端側に)貫通孔62を設けた実施例5よりも、少なくとも中央部に貫通孔62を設けた実施例1、6、7の方が、減衰特性が良好になることがわかる。
さらに説明すると、貫通孔62の適切な位置があり、音圧の高いところに形成するのが好ましい。つまり、テールパイプ管長の1次のピークレベルを下げるためには、当該1次の音圧が高くなる部位となるテールパイプの略中央に、貫通孔62を設けると良い。一方で、開口端付近における貫通孔62の影響は少なくなる。
ただし、製造条件や他の条件にあわせて、任意の位置に貫通孔62を形成することは可能である。例えば、テールパイプ管長の2次のピークレベルを下げるために、1次のピークレベルの低減の効果とあわせて、3/4の位置に追加で貫通孔62を開けることも可能である。なお、図11及び図12に示した例において、貫通孔62bと貫通孔62cとの数は同じでなくても、違うものにしてもよい。
続いて、図15から図18も参照しながら、さらに本実施形態の改変例について説明する。図15(a)〜図17(a)は、それぞれ、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、各図(b)及び(c)は、各図(a)中のB−B線及びC−C線に沿った断面図である。図15〜図17に示した構成では、中央部の貫通孔62bの数と、下流側(開口端側)の貫通孔62cの数とが異なるようにしている。より具体的には、これらの構成では、中央部の貫通孔62bの数が、下流側(開口端側)の貫通孔62cの数よりも多くなるようにしている。
図15〜図17に示した貫通孔62b、62cの直径は同じである。図15に示した貫通孔62bの数は8個で、貫通孔62cの数は4個である。図16に示した貫通孔62bの数は8個で、貫通孔62cの数は2個である。そして、図17に示した貫通孔62bの数は8個で、貫通孔62cの数は1個である。すなわち、図15〜図17においては、貫通孔62bの数は固定して(8個で固定)、貫通孔62cの数を変えている。
図18は、図15〜図17に示した構造の効果を説明するためのグラフである。比較対照のサイレンサーは、上述の比較例3、実施例1、ならびに、図15に示した構造(実施例8)、図16に示した構造(実施例9)、図17に示した構造(実施例10)である。
図18から、中央に位置する貫通孔62bの数を固定(8個で固定)すると、端部に位置する貫通孔62cの数を変えても、減衰特性に大きな影響を与えないことが理解できる。
なお、図18には、実施例8〜10に示した構成に加えて、それらのヘルムホルツ共鳴器40にグラスウール72が充填されていない構成も、それぞれ、比較例8〜10として表記している。また、実施例1および実施例8〜10におけるヘルムホルツ共鳴器40に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、それぞれ同じである。
加えて、図19及び図20も参照しながら、本実施形態の改変例を続けて説明する。図19(a)及び図20(a)は、それぞれ、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、各図(b)及び(c)は、各図(a)中のB−B線及びC−C線に沿った断面図である。
図19及び図20に示した構成では、中央部の貫通孔62bの数と、下流側(開口端側)の貫通孔62cの数とが異なるようにしている。図19及び図20に示した貫通孔62b、62cの直径はそれぞれ同じである。図19に示した貫通孔62bの数は16個で、貫通孔62cの数は8個である。図20に示した貫通孔62bの数は4個で、貫通孔62cの数は8個である。
図19に示した例では、中央部の貫通孔62bの数が、下流側(開口端側)の貫通孔62cの数よりも多い。一方、図20に示した例では、中央部の貫通孔62bの数が、下流側(開口端側)の貫通孔62cの数よりも少ない。なお、貫通孔62cの数は固定して(8個で固定)、貫通孔62bの数を変えている。
図21は、図19及び図20に示した構造の効果を説明するためのグラフである。比較対照のサイレンサーは、上述の比較例3、実施例1、ならびに、図19に示した構造(実施例11)、図20に示した構造(実施例12)である。実施例6および比較例6は上述した通りである。
図21から、中央に位置する貫通孔62bの数を変えることによって、減衰特性を変化させることができるが理解できる。すなわち、中央に位置する貫通孔62bの面積の変化は、端部に位置する貫通孔62cのそれよりも、減衰特性に大きな影響を与えるので、その結果、減衰特性を変化させることができる。
なお、実施例11及び12に示した構成に加えて、それらのヘルムホルツ共鳴器40にグラスウール72が充填されていない構成も、それぞれ、比較例11及び12として表記している。なお、実施例1および実施例11及び12におけるヘルムホルツ共鳴器40に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、それぞれ同じである。
<実施形態2>
次に、図22から図25を参照しながら、本考案の実施形態2に係るサイレンサー10の構成およびその効果について説明をする。上述した実施形態1においては、サイレンサー10にヘルムホルツ共鳴器40を設けた例を説明したが、この実施形態2では、サイレンサー10にサイドブランチ45を設けた例について説明する。
図22(a)は、本実施形態2におけるサイドブランチ45を設けたサイレンサー10の断面図であり、図22(b)は、図22(a)中のB−B線に沿った断面図である。
図22に示したサイレンサー10では、サイレンサー10の後部にテールパイプ30が配置されており、そのテールパイプ30の外周にはサイドブランチ用パイプ31が形成されている。また、サイレンサー10の後部に位置するテールパイプ30及びサイドブランチ用パイプ31は、テールキャップ35によって覆われている。
本実施形態の構成では、テールパイプ30とサイドブランチ用パイプ31とによってサイドブランチ45が形成されている。この例において、サイドブランチ45の断面積は、テールパイプ30内の断面積と略等しい。両者の断面積を略等しくすることによって、テールパイプ30の音のエネルギーをサイドブランチ45へ取り込みやすくすることができる。また、テールパイプ30の領域P5においてスリット(例えば、パンチング孔による開口)64が形成されており、テールパイプ30とサイドブランチ45とがつながっている。この例では、テールパイプ30の中央部にスリット64を開けて、スリット64の面積は、サイドブランチ45の断面積と略同じになるようにしている。なお、サイドブランチ用パイプ31と仕切板13とテールキャップ35とによって囲まれた空洞140は、テールパイプ30につながっていない。
図22に示した例では、サイドブランチ45は、テールパイプ30とサイドブランチ用パイプ31とによって形成されているので、サイドブランチ45の長さに依存して、図4に示したサイドブランチ長さlが導かれる。
また、この例の内筒14は、上流側(14a)から下流側(14b)へ向かうに従って直径が大きくなるように構成されている。加えて、内筒14とテールパイプ30との間には隙間(空気層)65が設けられている。
図23(a)は、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図であり、図23(b)は、図23(a)中のB−B線に沿った断面図である。図23に示した例は、図22に示した例よりも、サイドブランチ45の長さが長くなるように構成されている。この例では、テールパイプ30とサイドブランチ用パイプ31とは、同じ長さとなっている。この例では、サイドブランチ45の断面積は、テールパイプ30内の断面積の略半分にしている。また、テールパイプ30の中央部にスリット64を開けて、サイドブランチ45の長さをテールパイプ30と同じにすることによって、サイドブランチ2本分の効果を意図した構造となっている。
また、図23に示した例の内筒14は、上流側(14a)と下流側(14b)との間にテーパー部14cを設けて、上流側(14a)から下流側へと向かうに従って直径が大きくなるように構成されている。
図24は、本実施形態のサイレンサー10の改変例の断面図である。図24に示した例は、図23に示した例よりも、サイドブランチ45の長さが短くなるように構成されている。この例では、サイドブランチ45の断面積は、テールパイプ30内の断面積の略半分にしている。また、テールパイプ30の中央部にスリット64を開けて、サイドブランチ45の長さをテールパイプ30の略半分とすることによって、サイドブランチ1本分の効果を意図した構造となっている。
図22から図24に示した3つの構造例は、それぞれ、減衰性能が異なる。したがって、種々の制約条件下で、要求される減衰特性を満足する構造を採用することができる。なお、図22及び図24に示したサイドブランチ45は、下流側ではなく、上流側に設ける場合もある。
次に、図25を参照しながら、本実施形態2に係るサイドブランチ45を有するサイレンサー10の効果について説明する。比較対照のサイレンサーは、図22に示した構造(実施例13)、図23に示した構造(実施例14)、図24に示した構造(実施例15)、図8に示した構造(比較例2)である。図8に示したテールパイプ30の直径、厚さ、長さは、図22に示した例と同じである。
また、実施例13〜15に示した構成に加えて、それらのサイドブランチ45にグラスウール72が充填されていない構成も、それぞれ、比較例13〜15として表記している。なお、実施例13〜15におけるサイドブランチ45に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、それぞれ同じである。
上述した実施形態1と同様に、本実施形態2に係るサイドブランチ45を有するサイレンサー(実施例13〜15)の減衰特性の方が、比較例2および比較例13〜15と比較して良好なことがわかる。まず、本実施形態の実施例13〜15と、比較例2とを比べると、本実施形態の構成(実施例13〜15)によれば、比較例2の周波数f(E)の減衰レベル(dB)よりも低くすることができる。また、他の周波数領域でも、比較例2よりも、総じて、本実施形態の構成(実施例13〜15)の減衰特性が良好であることがわかる。
図25に示すように、サイドブランチ45の無い比較例2と比べて、サイドブランチ45のある比較例13〜15(ただし、吸音材は無し)は、周波数帯域f(G)の減衰レベルを大きく下げることができる。しかしながら、比較例13〜15では、周波数f(H)・f(F)に新たなピークが発生して、減衰特性を悪くしてしまっている。一方、本実施形態の実施例13〜15は、そのような新たなピークの発生を防止し、比較例13〜15よりも良好な減衰特性を得ている。
次に、図26は、サイドブランチ45に充填された吸音材(グラスウール)72の密度(見掛け密度)を変化させた結果を示している。比較例2、比較例13は上述の通りである。すなわち、比較例2は、サイドブランチ45が形成されていないもので、比較例13は、実施例13のサイドブランチ45にグラスウール72が充填されていないもの(すなわち、0kg/m3)である。実施例16から19は、それぞれ、実施例13のグラスウール72の密度と比べて、それぞれ、3倍、2倍、1倍、1/2倍であるものである。なお、ここで実施例13と実施例18は同じものである。また、吸音材(グラスウール)72の見掛け密度とは、サイドブランチ45の容積(m3)に対して導入された吸音材72の質量(kg)で表した密度である。
図26に示すように、本実施形態の構成(実施例16〜19)は、サイドブランチ45の無い比較例2と比べて、減衰レベルを下げることができるとともに、サイドブランチ45のある比較例13(ただし、吸音材は無し)と比べて、新たなピークの発生を防止して良好な減衰特性を発揮している。
次に、図27及び図28を参照しながら、更なる例(比較例210)を含めて説明を続ける。図27(a)は、比較例210の断面図であり、図27(b)は、図27(a)中のB−B線に沿った断面図である。
図27に示した比較例210は、テールパイプ30の領域P6にパンチング孔66が形成されており、そのパンチング孔66を介して、テールパイプ30と空間145とがつながっている特徴を有している。そして、パンチング孔66は、全域にわたって配列されている。この例の場合、パイプ31にて覆われる全ての範囲にパンチング孔66が形成されている。ここで、空間145は、上述した共鳴器となるサイドブランチ45ではなく、隙間にすぎない。ただし、空間145には、サイドブランチ45と比較するために吸音材72が充填されている。
なお、図27に示したテールパイプ30の直径、厚さ、長さは、図22に示した例と同じである。
図28は、図27に示したサイレンサー210の効果を示している。比較対照のサイレンサーは、上述した比較例2、比較例13、実施例13と、図27に示した構造(比較例210A)である。また、それらに加えて、図27に示した空間145にグラスウール72が充填されていない構成も比較例210Bとして表記している。なお、実施例13と比較例210Aおける空間145に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、同じである。
図28に示すように、実施例13と比べると、図27に示した比較例210Aは減衰特性が悪いことがわかる。また、比較例13、210Bの減衰特性も悪いことがわかる。
本実施形態の構成によれば、サイレンサー10にサイドブランチ45が設けられており、そのサイドブランチ45に吸音材72が充填されている。したがって、サイドブランチ45によって減衰特性を向上させるとともに、サイドブランチ45によって新たに発生した共振周波数ピークのレベルを、サイドブランチ45に吸音材72を充填することによって抑制することができる。その結果、マフラー重量の増大を抑制するためにサイレンサーの容量を大きくできない場合であっても、消音効果を高めることができる。また、本実施形態の構成によれば、サイドブランチ45の少なくとも一部をテールキャップ35内に形成することによって、サイレンサーの容量が必要以上に大きくならないようにされている。ただし、サイドブランチ45は、テールキャップ35が共鳴器として使用できない場合あるいはテールキャップ35が存在しない場合にも、比較的容易に形成することができるので、その点でも技術的価値がある。
<実施形態3>
次に、本考案の他の実施形態3について説明する。図29(a)は、本考案の実施形態3に係るサイレンサー10の改変例の断面図であり、図29(b)及び(c)は、それぞれ、図29(a)中のB−B線及びC−C線に沿った断面図である。
図29に示したサイレンサー10は、基本的に、図5に示した構成と同様であり、テールキャップ35内にヘルムホルツ共鳴器40が形成されている。ただし、図29に示した構成では、内筒14と外筒12との間に中間筒15が設けられている。内筒14と中間筒15との間には、SUSウールからなる吸音材71が充填されており、中間筒15と外筒12との間は空気層75となっている。中間筒15の領域P10には、パンチング孔61が形成されている。また、この例の内筒14は、上流側14aから下流側14bへ径が小さくなる構造をしている。
ヘルムホルツ共鳴器40の部分は、図5に示した構成とほぼ同様の構成である。ヘルムホルツ共鳴器40内にはグラスウール72が充填されている。テールパイプ30とヘルムホルツ共鳴器40とをつなぐ貫通孔62は、16個の円形である。
図30は、図29に示したサイレンサー10の改変例を示している。図30に示したサイレンサー10は、貫通孔62が長円形状(または略長円形状)をしている点が図29に示した構造(貫通孔62が円形)と異なる。なお、図31(a)は、図30中のC−C線の断面図であり、図31(b)は、貫通孔62の形状を表している。長円形状の場合でも、開口部の面積が変化すれば、減衰特性に影響を与える。また、テールパイプ30のネック形状は、一体のパイプ部材から構成する他、分割したパイプ部材を結合して構成してもよい。なお、貫通孔62の長円形状はその形状・寸法を適宜変更することができる。
図32は、本実施形態3に係るサイレンサー10の効果を示している。比較対照のサイレンサーは、上述した比較例1、比較例2、実施例1と、図29に示した構造(実施例30)、図30に示した構造(実施例31)、実施例32および実施例33は、貫通孔62の長円形状の幅を実施例31と同じにして長さを順次短くしたものである。なお、実施例1と、実施例30〜33おけるヘルムホルツ共鳴器40に充填されたグラスウール72の密度(見掛け密度)は、それぞれ同じである。
図32から、本実施形態3の構成(実施例30〜33)もまた、比較例1、比較例2と比較して良好な減衰特性を発揮することがわかる。
なお、図1では、自動二輪車1000として、オフロードタイプの自動二輪車を例に示したが、自動二輪車1000は、オンロードタイプのものであってもよい。また、本願明細書における「自動二輪車」とは、モーターサイクルの意味であり、原動機付自転車(モーターバイク)、スクータを含み、具体的には、車体を傾動させて旋回可能な車両のことをいう。したがって、前輪および後輪の少なくとも一方を2輪以上にして、タイヤの数のカウントで三輪車・四輪車(またはそれ以上)としても、それは「自動二輪車」に含まれ得る。なお、自動二輪車に限らず、本考案の効果を利用できる他の車両にも適用でき、例えば、自動二輪車以外に、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))や、スノーモービルを含む、いわゆる鞍乗型車両に適用することができる。
以上、本考案を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。