JP3150790U - 示差走査熱量測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】異なる熱膨張率を持つ炉体、温度検出器、固定ネジ相互の界面で発生する応力に起因する、昇・降温中のベースラインのドリフトやノイズを改善した示差走査熱量測定装置を提供する。【解決手段】内壁側面に上方から鉛直方向にネジ切り加工された炉体1と、外側面に炉体1のネジに螺合するネジ切り加工を施した円筒形状の固定板11を備えるとともに、固定板11と炉体1の螺合により固定板11を下降させ固定板11下面と炉体1床面の間に円板形状の温度検出器4を挟持固定させる。【選択図】図1

Description

本考案は基準物質および試料を加熱し、両者の温度差から試料のエンタルピ変化の温度依存性を測定する示差走査熱量測定装置に関する。
示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、以下、DSCと称す)装置は、加熱炉炉体(以下、炉体と称す)中に試料(以下、サンプルと称す)と基準物質(以下、リファレンスと称す)を置き、所定のプログラムに従って炉体の温度を上昇・下降させ、上昇・下降途上のサンプルとリファレンスの時々刻々の温度および温度差を検出しサンプルのエンタルピ変化を測定する装置である(特許文献1参照)。
リファレンスとしては、昇・降温範囲内で相転移などが無い熱的に安定な物質が選ばれる。サンプルに相転移などの熱的な変化が無い場合には、リファレンスおよびサンプルの温度は共に加熱炉温度に追随してなめらかに変化する。またサンプルに融解などの相転移があり、吸熱・発熱などが生じている場合は、サンプルとリファレンスとの間の温度差は相転移中に急激に変化する。
リファレンスおよびサンプルの温度差からサンプルのエンタルピ変化が測定される。リファレンスおよびサンプルは加熱炉内に設けられたそれぞれの載置台(以下、温度検出器と称す)上に載置されている。リファレンスおよびサンプルの温度はそれぞれ、温度検出器下面に溶接された2対の熱電対により測定される。熱電対の素材にはたとえばクロメル線およびアルメル線などが使用されている。
図3はDSC本体の炉体1の断面構造の一例である。リファレンスおよびサンプルを内蔵したリファレンス容器2とサンプル容器3は温度検出器4上に載置され、温度検出器4はワッシャ5および押え板6を介設して固定ネジ7にて炉体1内方に固定される。炉体1はヒータ8への通電によって所定のプログラムにより昇・降温される。炉体1の上部は炉蓋9により閉止される。
炉蓋9、炉体1および押え板6の材質は通常、熱伝導率の大きい銀などが使用され、温度検出器4にはコンスタンタンなどが使用されている。炉体1には炉体1の温度を計測する炉体熱電対(図示せず)が埋設される。また温度検出器4の下面にはリファレンス容器2の温度Trを計測するリファレンス側熱電対(図示せず)および、サンプル容器3の温度Tsを計測するサンプル側熱電対(図示せず)が固設され、試料と基準物質との温度差△T=Ts−Trが測定される。Tsおよび△Tの関係を解析することにより、試料のエンタルピ変化が測定される。
特開平11−201924号公報
従来のDSCの構造は以上のとおりであるが、リファレンス容器2およびサンプル容器3が空の状態で昇温させると、理論上リファレンス容器2およびサンプル容器3間に温度差は発生せず、測定チャート上で温度差に依存するベースラインは水平方向の直線になるはずである。しかし、現実にはDSCの分析最高温度はたとえば800℃に達し、温度変化範囲もマイナス150℃〜プラス700℃と非常に広く、炉体1内部の各部品の線膨張率差によって相互に熱歪が生じる。熱歪によって炉体1と温度検出器4の表面状態や接触状態が変化すると炉体1からリファレンス容器2またはサンプル容器3への単位時間あたりの熱量の移動が不均衡になり、昇・降温中のベースラインのドリフトやノイズが発生する。
線膨張率には温度依存性があるため、その値は各温度で異なる。図4は0℃から800℃の範囲で炉体1およびその内方で使用される主要な材料である銀、コンスタンタン、ステンレス鋼(以下、SUSと称す)の線膨張率を示している。図から判明するようにコンスタンタンとSUSの線膨張率は銀の線膨張率より小さい。
図5は以下に記載する熱膨張差の試算に使用したDSCのモデルで、炉体1の材料を銀、温度検出器4の材料をコンスタンタン、固定ネジ7の材料をSUSとし、円周方向の固定ネジ7間の距離を20mm、軸線方向の固定ネジ7の長さを6mmとしている。
図6は図5のモデルについて、炉体1と温度検出器4の円周方向の熱膨張差を示している。温度の基点は常温(25℃)とし、図4と同じく0℃から800℃の範囲を示した。図から、試算に使用した20mmの長さでは700℃において約0.1mmの熱膨張差が発生することが判る。
図7は炉体1と固定ネジ7間の軸線方向の熱膨張差を示している。700℃で約0.05mmの熱膨張差が発生している。温度検出器4が直径2mmの固定ネジ7(M2ネジ)4本で固定されているとして、上記の軸線方向の熱膨張差0.05mmに相当する力は約6,000N(ニュートン)になる。M2ネジ4本を通常の締め付けトルクでねじ込んだ場合の初期締め付け力は約600Nであるから、上記の熱膨張差の力は締め付け力の約10倍に相当する。但し、上記は銀の膨張の力でSUSの固定ネジ7が伸ばされる例であるが、実際は銀の強度不足でワッシャ5が押え板6に沈みこむ現象があるため、10倍の増加までにはならないものの、かなりの締め付けトルク増加があることが理解される。なお、軸線方向の熱膨張差には温度検出器4も関与するが、温度検出器4は薄い円板で大きな関与は無く無視できる。
一方、温度検出器4は図6のように昇・降温時に円周方向に伸張、または圧縮の力を受け、炉体1と温度検出器4の界面は昇・降温持に相互に滑動する必要があるが、上記の締め付け力の増加で滑動が阻害されると、温度検出器4は一時的に、または恒久的に変形する。この締め付け力の増加は高温域での原子相互拡散による炉体1と温度検出器4と押え板6の相互固着を助長し、固着すると温度検出器4の変形は激しくなる。
固着の発生は昇・降温の繰り返しで、温度検出器4の表面の酸化皮膜を不規則に剥離させ、表面に荒れを生じさせる。このことは実際にコンスタンタン製の温度検出器4で認められている。この表面荒れは炉体1とリファレンス容器2またはサンプル容器3との熱の安定な移動を不規則に阻害し、昇・降温の繰り返しにより固着箇所をより拡大させる。このため前記のように昇・降温中のベースラインのドリフトやノイズが発生する。
図3の構造における軸線方向の熱膨張差の発生原因は銀製炉体1とSUS製固定ネジ7の線膨張係数差によるので、固定ネジ7の材質を銀にすることが可能であれば問題は解決するが、銀は強度が弱く、時効軟化の性質もあり、また適切な締付力を得ようとするとネジ頭も変形する。さらに温度検出器4は交換可能に組み立てることが必要であるが、銀製のネジは銀製の炉体1と高温による原子拡散で固着する恐れがあるので、この方法は採用できない。
これらはすべてベースラインのドリフトの要因となるので、従来の構造は昇・降温中のベースラインのドリフトやノイズが発生しやすく、DSCの長期安定動作を損なう。
本考案が提供する示差走査熱量測定装置は上記課題を解決するために、内壁側面に上方から鉛直方向にネジ加工された前記炉体と、外側面に炉体のネジに螺合するネジ加工を施した円筒形状の固定板を備えるとともに、前記固定板と前記炉体の螺合により固定板を下降させ、円板形状の温度検出器を載置する炉体載置面と固定板下面の中間位置に前記温度検出器を挟持固定させる構造を備える。さらに前記固定板と前記温度検出器の中間に円筒形状の押え板を挿入する構造としたものである。したがって炉体の軸線方向の熱膨張差の影響が大きく軽減される。本考案の特徴はこの点にあり、この構造によって従来の問題を解決するものである。
また前記温度検出器の上下面をセラミックコーティングする。また前記押え板の下面をセラミックコーティングする。また前記固定板の下面をセラミックコーティングする。
本考案によれば、前記のように炉体の軸線方向の熱膨張差の影響が大きく軽減される。たとえば固定板の材料にNi合金板を採用し、銀の炉体と固定板の間に熱膨張差が発生しても、Ni合金板の線膨張率は銀より小さいため、押え板を押える力は昇温により減少し、温度検出器の円周方向への熱膨張を円滑にする方向に作用する。(もし仮に炉体、固定板および押え板に同一材料を採用することが可能であれば、軸線方向の熱膨張差は無くなり、昇温過程で押圧は変化しない。)
また固定板・押え板・温度検出器の一部または全部にセラミック溶射することで、セラミック溶射面を含む隣接界面の固着を防止できるので、昇温過程で発生する円周方向の滑動はより円滑になり、炉体と温度検出器の接触状態がより安定に保たれる。
一例としてたとえば温度検出器にジルコニア系溶射コーティングを行った後、約100回の室温から725℃までの熱履歴を科したが、固着ないしコーティングの剥離は発生しなかった。したがって本考案により昇・降温中の炉体と温度検出器の接触状態は初期組立時から大きく変化することはなく、簡単な構造で安定したベースラインが得られる。
本考案の実施例を示す断面図である。 本考案の実施例に使用する治具例を示す断面図である。 従来の示差走査熱量測定装置の構造を示す断面図である。 示差走査熱量測定装置に使用する主要材料の線膨張率を示す図である。 示差走査熱量測定装置の炉体内部の主要寸法を示す図である。 示差走査熱量測定装置の炉体と温度検出器の熱膨張差を示す図である。 従来の示差走査熱量測定装置の炉体と固定ネジの熱膨張差を示す図である。
以下図示例に従って説明する。図1は炉体1部分の断面図である。炉体1の内壁側面は上方からねじ切り加工されており、外側面にねじ切り加工された固定板11が螺設される。炉体1の材料は通常、銀が採用される。炉体1は図3で説明したごとく、所定のプログラムにより昇・降温される。
リファレンスおよびサンプルを内蔵したリファレンス容器2とサンプル容器3は温度検出器4上に載置される。温度検出器4は、固定板11に接する押え板6の下面と炉体1の温度検出器4載置面の中間に配設される。押え板6の材料は炉体1と同じ材料、ここでは銀が採用される。
炉体1には炉体1の温度を計測する炉体熱電対(図示せず)が埋設される。また温度検出器4の下面にはリファレンス容器2の温度Trを計測するリファレンス側熱電対(図示せず)および、サンプル容器3の温度Tsを計測するサンプル側熱電対(図示せず)が固設され、試料と基準物質との温度差△T=Ts−Trが測定される。Tsおよび△Tの関係を解析することにより、試料のエンタルピ変化が測定される。
温度検出器4を交換するため、固定板11と炉体1の固着は避けなければならない。固着を防止するため固定板11の材料はたとえばNi合金が採用される。固定板11には適切な剛性と耐酸化性が必要でこの点でもNi合金は銀よりも優れている。Ni合金の線膨張率は銀より小さいため、本実施例の構造によると、前記のように押え板6を押える力は昇温により減少する方向に作用し、温度検出器4の円周方向への熱膨張が容易になり、温度検出器4と炉体1または押え板6の固着が防止される。
前記の炉体1の温度検出器4載置面にはピン12が挿入され、押え板6および温度検出器4の位置決めを行っている。押え板6および温度検出器4にはあらかじめ、ピン12に適合する孔あけが行われる。なお、必要に応じて温度検出器4の上下面、押え板6の下面、固定板11の下面をセラミックコーティングすることにより、相互に隣接する界面で発生する恐れのある前記固着をさらに防止することができる。
固定板11を炉体1にねじ込むためには、たとえば図2に示す円板形状の締付け治具Jを使用することができる。図のように締付け治具Jには円板周辺部分にピン13を圧入しておき、また固定板11の上面には締付け治具Jのピン13が入る穴を数個設けておく。円板中央部上面には六角棒を溶接等の方法で固着し、組立時には六角棒にレンチをかけ、固定板11を炉体内方にねじ込むことができる。
本考案は上記の実施例に限定されず、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば図1では固定板11の材料をNi合金と説明したが、固定板11の外周は30mm程度あるので、ねじ込み強度に関しては銀も充分使用できる。この場合は炉体1と固定板11の螺合面に固体潤滑剤の塗布やセラミックコーティングなどを行い、炉体1との固着を防止することが望ましいが、銀製の固定板11を使用することによって、温度検出器4の締め付け部分の材料はすべて同一になり、昇・降温による締め付け力の変化が基本的に生じないという長所がある。
このように、本考案の各部品の材料は必要に応じて最適な物を選定することができ、本考案は使用材料には限定されない。また図1、図5に示した炉体1の構造・寸法は一例であり、本考案は種々の構造・寸法の炉体に適用することができる。本考案はこれらをすべて包含する。
本考案は基準物質および試料を加熱し、両者の温度差から試料のエンタルピ変化の温度依存性を測定する示差走査熱量測定装置に適用することができる。
1 炉体
2 リファレンス容器
3 サンプル容器
4 温度検出器
5 ワッシャ
6 押え板
7 固定ネジ
8 ヒータ
9 炉蓋
11 固定板
12 ピン
13 ピン
J 締付け治具

Claims (5)

  1. 底面下方または側方にヒータを備え、鉛直方向に軸を有する円筒形の炉体中に試料と基準物質を置き、所定のプログラムに従って炉体の温度を上昇・下降させ、上昇・下降途上の試料と基準物質の時々刻々の温度および両者の温度差を炉体内方の温度検出器で検出し試料のエンタルピ変化を測定する示差走査熱量測定装置において、内壁側面に上方から鉛直方向にネジ加工された前記炉体と、外側面に炉体のネジに螺合するネジ加工を施した円筒形状の固定板を備えるとともに、前記固定板と前記炉体の螺合により固定板を下降させ、円板形状の温度検出器を載置する炉体載置面と固定板下面の中間位置に前記温度検出器を挟持固定させる構造を備えたことを特徴とする示差走査熱量測定装置。
  2. 前記固定板と前記温度検出器の中間に円筒形状の押え板を挿入したことを特徴とする請求項1記載の示差走査熱量測定装置。
  3. 前記温度検出器の上下面がセラミックコーティングされていることを特徴とする請求項1および請求項2記載の示差走査熱量測定装置。
  4. 前記押え板の下面がセラミックコーティングされていることを特徴とする請求項1から3記載の示差走査熱量測定装置。
  5. 前記固定板の下面がセラミックコーティングされていることを特徴とする請求項1から4記載の示差走査熱量測定装置。
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