JP3146886B2 - 耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法 - Google Patents

耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法

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JP3146886B2
JP3146886B2 JP26009194A JP26009194A JP3146886B2 JP 3146886 B2 JP3146886 B2 JP 3146886B2 JP 26009194 A JP26009194 A JP 26009194A JP 26009194 A JP26009194 A JP 26009194A JP 3146886 B2 JP3146886 B2 JP 3146886B2
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    • B23MACHINE TOOLS; METAL-WORKING NOT OTHERWISE PROVIDED FOR
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、硫化水素を含んだ原油
や天然ガスを輸送するラインパイプ用鋼管、より詳しく
はAPI規格(アメリカ石油協会規格)に規定されるX
42級以上の高強度ラインパイプ用に使用して好適な溶
接部の強度、耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ
性に優れたラインパイプ用溶接鋼管の製造方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】溶接鋼管の利用分野において大きなウェ
ートを占めるラインパイプの製法をその溶接方法で分類
すると、通常、外径が508mm以上、肉厚が6.35
mm以上の中大径の厚肉管はサブマージアーク溶接法
(以下、SAW法という)が適用され、この大径厚肉管
はUOEプレス法で鋼板を管状に成形するのであるが薄
肉材の成形が困難なため、外径が610mm以下、肉厚
が19mm以下の中小径の薄肉管は電縫溶接法(以下、
ERW法という)が適用されている。
【0003】ところが、上記中小径の薄肉管の製造に適
用されるERW法は、溶接速度が速いことから高能率で
製品を得ることが可能である反面、次のような問題があ
る。
【0004】すなわち、ERW法は、大気中での溶接あ
るいは不活性ガスシールド中での溶接であってもシール
ドが不完全で酸素分圧が比較的高いため、スケール等の
欠陥誘起物質が衝合溶接面間に混入して溶接欠陥が多発
し易い。また、高周波投入電力が低いと溶融不足による
冷接欠陥が多発し、逆に、高周波投入電力が高いと強い
電磁力による溶鋼の不安定現象が生じてペネトレーター
欠陥が多発するが、これら冷接欠陥およびペネトレータ
欠陥の発生防止を図るための高周波投入電力の微調整は
極めて困難である。
【0005】このようなERW法で製造された溶接鋼管
をラインパイプとして使用した場合、その管内面が湿潤
2 S環境に曝されると、腐食によって発生した水素が
鋼中に侵入して溶接欠陥部に水素ガスとして溜ることに
起因して衝合溶接面に水素誘起割れ(以下、HICとい
う)が発生し、これが衝合溶接時のアプセットによって
形成されたメタルフローに沿って肉厚方向に伝播する場
合があり、耐水素誘起割れ性(以下、耐HIC性とい
う)に劣る。また、ラインパイプでは、内圧によるフー
プストレスが前記メタルフローに対して垂直にかかるの
で、溶接部に硫化物応力割れ(以下、SSCという)が
発生し易く、耐硫化物応力割れ性(以下、耐SSC性と
いう)についても必ずしも満足できるものでない。
【0006】これに対し、SAW法では溶接欠陥が発生
しにくいうえ、たとえ欠陥が発生したとしても非破壊検
査でこれを見つけ出して補修することが可能であり、そ
のため得られる溶接鋼管の信頼性が非常に高く、溶接部
にHICやSSCの発生はほとんど見られない。
【0007】しかし、前述したように、SAW法を適用
することができない外径が508mm以下、肉厚が6.
35mm以下の中小径の薄肉管はERW法によって製造
するしか方法がないため、高速製管が可能であるという
ERW法の長所を生かしつつ、その溶接部にラインパイ
プとして求められる性能を与えことが必要である。
【0008】ところで、HICおよびSSCの原因は大
きく分けて介在物と硬化組織であるが、ERW法におけ
る溶接欠陥は酸化物系介在物が主であり、これがHIC
やSSCの起点となるため、溶接衝合面における欠陥誘
起物質の混入、ペネトレーター欠陥や冷接欠陥の発生を
防ぐ方法が必要である。
【0009】このため、特開平3−810972号公報
には、逆極性消耗電極ワイヤーを用いて母材表面にイオ
ンを衝突させ、両エッジ近傍の表面酸化物を除去クリー
ニングするとともに、アプセット量をオープンパイプ肉
厚の1/5以上にして溶接接合面間から欠陥誘起物質を
押し出し溶接することで、溶接欠陥をほぼゼロに減少さ
せて耐SSC性を改善した溶接鋼管の製造方法が提案さ
れている。しかし、この方法は溶接欠陥を減少させるこ
とはできるが、アプッセトによってメタルフローが形成
され、このメタルフローに沿ってSSCが発生し易いと
いう欠点を有している。
【0010】また、特開平2−70379号公報には、
帯鋼両エッジ部の高周波加熱に引き続いて溶接速度がE
RW法の1/5〜1/10であるレーザービームを溶接
部に照射することで、SAW法等のアーク溶接と同等の
溶接部性能を有する溶接鋼管を得ることを目的とした方
法が提案されている。しかし、この方法では、ERW法
とは本質的に異なる溶融溶接であるレーザー溶接を併用
するため、溶接部欠陥の発生をなくすることはできるも
のの、その溶接速度はレーザー単独溶接製管法の高々2
倍程度でしかないという欠点を有している。
【0011】さらに、特開平5−228660号公報に
は、図1に示すように、帯鋼1の両エッジの溶接直前の
突き合わせ横断面形状をオープンパイプの外面側に所定
寸法の幅a、深さbを有するV溝2を形成したY形状と
し、前記V溝2の底部に焦点を合わせてレーザービーム
を照射することによって、耐HIC性と耐SSC性に優
れるERW法での製造サイズ(外径19〜610mm、
肉厚1〜19mm)のラインパイプ用溶接鋼管を、レー
ザー溶接法単独でERW法にほぼ匹敵する溶接速度で製
造する方法が提案されている。しかし、この方法では、
6〜8mm程度までの薄肉管に適用できるに留まり、よ
り一層の高速化または8〜13mmを超える厚肉管に適
用するには前記のV溝2の深さbを深くする必要がある
が、この場合にはV溝2が溶融金属で埋められるよりも
速く溶接が進行するため、図2に示すように、アンダー
カット6やその表面が母材帯鋼表面よりも窪んだアンダ
ービードなどのビード形状不良の欠陥が多発する。この
ビード形状不良の発生を避けるために溶接速度を遅くす
ると、溶融金属部の溶接後の冷却速度が低下して溶接部
の溶け込み形状が、図3に示すように、ワインカップ状
となる結果、溶接部の結晶粒が粗大化して肉厚方向の柱
状晶となって、耐HIC性および耐SSC性が劣化する
のみならず、溶接熱影響部(HAZ)が広くなってHA
Z軟化が顕著になり、強度が低下するという欠点を有し
ている。
【0012】そして、上記ワインカップ状の溶け込み組
織は、通常、ラインパイプ用の溶接鋼管の製造に際して
経済性の面から溶接後の溶接部に後熱処理を施すのに用
いられる局部加熱可能な高周波誘導加熱手段を用いて熱
処理を施してもこれを解消することが不可能である。す
なわち、局部加熱が可能な誘導加熱手段で溶接部に発生
した上記ワインカップ状の溶け込み組織を解消するため
には、ワインカップ状の溶け込み幅に対応した幅広い加
熱を行う必要があるが、この場合には中心部の温度が上
がり過ぎるため組織が粗粒化して耐SSC性が低下し、
これを防止すべく温度制御を行うとHAZの加熱不足を
招いてHAZ軟化の解消ができず強度が低下するからで
ある。なお、管全体を後熱処理すれば上記の問題は解消
できるが、生産性が著しく低下して経済性を損なうので
採用し難い。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記
の実状に鑑みなされたもので、上記ERW法での製造サ
イズで、且つ6〜8mmを超える肉厚管であってもER
Wにほぼ匹敵する能率で、しかも上記特開平5−228
660号公報に開示のV溝を設ける単独レーザー溶接法
以上の溶接速度での溶接が可能であり、溶接部の強度、
耐HIC性および耐SSC性に優れるレーザー溶接法を
用いたラインパイプ用溶接鋼管の製造方法を提供するこ
とにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、次の
〜に記載の耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ
性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法にある。
【0015】 重量%で、C:0.01〜0.20
%、Si:0.03〜0.80%、Mn:0.40〜
2.00%、P:0.025%以下、S:0.002%
以下、sol−Al:0.01〜0.10%、Cu:0
〜0.50%、Ni:0〜0.50%、Cr:0〜1.
20%、Mo:0〜1.00%、Nb:0〜0.15
%、V:0〜0.15%、Ti:0〜0.15%、Z
r:0〜0.15%、B:0〜0.0050%、Ca:
0〜0.0050%、REM:0〜0.01%を含み、
残部がFeおよび不可避不純物からなる帯鋼を、成形ロ
ール群に通して連続的にオープンパイプ状に成形し、こ
のオープンパイプをスクイズロールで加圧して帯鋼両エ
ッジを突合せ、その突合せ部にレーザービームを照射し
て衝合溶接して溶接鋼管となすに際し、下記の(1)お
よび(2)式を満たす条件でレーザービームを照射して
溶接する耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ性に
優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法。
【0016】V≧2 ・・・・・・(1) P≧0.4Vt/ea(T-T0) ・・・・・・(2) ただし、a=0.0006 P :レーザ出力(kW) V :溶接速度(m/min) t :帯鋼肉厚(mm) T :帯鋼両エッジ部の予熱温度(℃) T0 :室温(℃) 溶接後、少なくとも溶接部をAc3変態点以上に加熱
した後、放冷することを特徴とする請求項1に記載の耐
水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ性に優れるライ
ンパイプ用溶接鋼管の製造方法。
【0017】 溶接後、少なくとも溶接部をAc3変態
点以上に加熱した後、(Ar3変態点−30℃)以上、1
000℃以下の温度域から加速冷却することを特徴とす
る請求項1に記載の耐水素誘起割れ性および耐硫化物応
力割れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法。
【0018】 加速冷却に引き続き、500〜750
℃の温度域で焼き戻すことを特徴とする請求項3に記載
の耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ性に優れる
ラインパイプ用溶接鋼管の製造方法。
【0019】上記〜の本発明方法において、素材帯
鋼のCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Zrお
よびB、並びにCaおよびREMは無添加でもよい。こ
れらを積極的に添加する場合、Cu、Ni、Cr、M
o、Nb、V、Ti、ZrおよびBは、これらのうちか
ら選ばれた1種を単独または2種以上を複合で添加する
ことができ、Cu、Ni、CrおよびMoについては
0.05%以上、Nb、V、TiおよびZrについては
0.01%以上、Bについては0.0005%以上含有
させるのが望ましい。また、CaおよびREMはいずれ
か一方または両方を添加することができ、いずれの元素
0.0005%以上を含有させるのが望ましい。
【0020】本発明者らは、種々実験研究の結果、次の
(a) 〜 (d)の知見を得て本発明をなした。
【0021】(a) レーザー溶接法を用いる場合、溶接速
度を2m/min以上、すなわち上記(1)式を満足さ
せると、前記特開平5−228660号公報に開示され
る方法が採用するV溝の有無、レーザー出力および材料
肉厚等とは無関係に、溶接部の溶け込み形状がワインカ
ップ状になって溶接部の結晶粒が粗大化して肉厚方向の
柱状晶となるのを防止できること。
【0022】(b) 単独レーザー溶接法において、特開平
5−228660号公報に開示の如くにV溝を設けるの
は、低出力レーザービームでも肉厚方向への貫通ビード
を形成し得て高速溶接を可能とするためである。従っ
て、V溝を設けないと低出力のレーザービームでは貫通
ビードを得ることが不可能であり、この場合には高周波
加熱手段等によって帯鋼両エッジ部を予め予熱して後レ
ーザービームを照射して溶接することが有効となるが、
その予熱効果はレーザービームに比べてエネルギー密度
が低いという理由からほぼ上限温度である 1250℃
に予熱したとしても、予熱しない場合に比べてレーザ出
力比換算で高々2倍の効果、すなわち上記(2)式の右
項中の分母の効果しかなく、予熱を併用するとしてもそ
れだけでは効果が不十分であり、大出力のレーザー発振
機、例えば従来5kWが一般的であったものを25kW
というような大出力のレーザー発振機を用いる必要のあ
ること。
【0023】(c) また、単に大出力のレーザーを用いる
のみでは不十分で、レーザー出力をP(Kw)、帯鋼肉
厚をt(mm)、溶接速度をV(m/min)および帯
鋼両エッジ部の予熱温度をT(℃)したとき、帯鋼肉厚
tに応じて上記(2)式の関係を満足させて溶接する
と、酸化物等が存在しない無欠陥溶接部が得られるこ
と。
【0024】(d) 溶接後、局部加熱可能な高周波誘導加
熱手段を用いて溶接部に後熱処理を施す際、溶接部を一
旦Ac3変態点以上に加熱後、放冷するか或いは(Ar3
態点−30℃)〜1000℃の温度域から加速冷却する
と、溶接金属部の組織が粗粒組織にならず、さらに加速
冷却に引き続いて500〜700℃の温度域で焼戻しを
施して硬度を下げると、溶接部の耐HIS性および耐S
SCがより一層向上すること。
【0025】
【作用】以下、本発明の方法を上記のように限定した理
由について詳細に説明する。
【0026】耐HIC性と耐SSC性に優れるラインパ
イプ用溶接鋼管を得るためには、当然のことながら優れ
た耐HIC性と耐SSC性を備えた素材帯鋼(熱延鋼
板)を用いる必要がある。なお、製管後に少なくとも溶
接シーム部、望ましくは管全体に所定の熱処理を施し
て、素材帯鋼製造時の履歴に関係なく耐HIC性と耐S
SC性に優れた母材性能が得られるようにするのが好ま
しい。このため、素材として用いる帯鋼(熱延鋼板)の
成分組成を指定したが、各成分の含有量は次の理由によ
って特定範囲に限定した。
【0027】C:0.01〜0.20% Cは鋼管に所定の強度(X42級以上の強度)を付与す
る作用があるが、その含有量が0.01%未満であると
上記強度の保証が困難となり、一方、その含有量が0.
20%を超えると靭性劣化を招くことから、C含有量は
0.01〜0.20%と定めた。
【0028】ただし、溶接後に溶接シーム部に後熱処理
を施さない場合には、その含有量が0.12%を超える
と溶接部の硬化を招いて耐HIC性と耐SSC性がとも
に低下するので、この場合のC含有量は0.01〜0.
12%とするのが望ましい。
【0029】また、X70〜X80級の高張力鋼管を得
ようとする場合は、溶接シーム部の後熱処理の有無にか
かわらず、その含有量は0.01〜0.07%とするの
が望ましい。
【0030】Si:0.03〜0.80% Siは鋼の脱酸のために0.03%以上の含有量を確保
する必要があり、一方、その含有量が0.80%を超え
ると靭性劣化を招く上、焼き戻し脆化を招くので、Si
含有量は0.03〜0.80%と定めた。好ましくは、
0.05〜0.30%である。
【0031】Mn:0.40〜2.00% Mnは鋼管に所定の強度(X42級以上の強度)を確保
する作用があるが、その含有量が0.40%未満では所
望とする強度の確保ができず、一方、2.00%を超え
て含有させると耐SSC性の低下を招くことから、Mn
含有量は0.40〜2.00%と定めた。
【0032】ただし、X70級未満の高張力鋼管を得よ
うとする場合、その含有量が1.80%を超えると母材
偏析部の合金元素濃度が高くなり、特にC含有量が0.
08%以上の母材では母材の耐HIC性と耐SSC性が
ともに劣化するので、この場合のMn含有量は0.40
〜1.80%とするのが望ましい。また、溶接後に溶接
シーム部に後熱処理を施さない場合には、その含有量が
1.40%を超えると溶接部の硬化を招いて耐HIC性
と耐SSC性がともに低下するので、この場合のMn含
有量は0.40〜1.40%とするのが望ましい。さら
に、X70〜X80級の高張力鋼管を得ようとする場合
には、溶接シーム部の後熱処理の有無にかかわらず、そ
の含有量は0.40〜2.00%とするのが望ましい。
【0033】P:0.025%以下 Pは不可避不純物であり、その含有量は低い方が望まし
い。特に、0.025%を超えてPが含有されると母材
偏析部の合金元素濃度が高くなり、母材の耐SSC性低
下が顕著となる上、焼き戻し脆化の点でも悪影響が現れ
ることから、P含有量は0.025%以下と定めた。好
ましくは、0.015%以下である。
【0034】S:0.002%以下 Sは不可避不純物であり、その含有量は低い方が望まし
い。特に、0.002%を超えてSが含有されるとCa
あるいはREM(希土類元素)によってもその形態制御
が不可能な硫化物系介在物(MnS)が生成し、耐HI
C性および耐SSC性の低下が著しくなることから、S
含有量は0.002%以下と定めた。好ましくは、0.
001%以下である。
【0035】sol−Al:0.01〜0.10% Alは鋼の脱酸のためにsol−Al含有量で0.01
%以上を確保する必要があるが、その含有量が0.10
%を超えると鋼の清浄度確保が困難となることから、s
ol−Al含有量は0.01〜0.10%と定めた。好
ましくは、0.02〜0.05%である。
【0036】本発明の素材帯鋼は、上記成分に加えて、
次のCaおよびREM(希土類元素)の1種または2
種、並びにCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、
ZrおよびBのうちの1種または2種以上を含有する鋼
からなるものであってもよい。
【0037】CaおよびREM(希土類元素):上限
は、それぞれ0.0050%、0.01% これらの成分は、硫化物系介在物の形態制御を通じて耐
SSC性の向上作用を発揮するので、これらの効果を得
たい場合には、必要に応じてCaおよびREMのうちの
1種または2種を含有させることができるが、いずれの
元素もその含有量が0.0005%未満では前記作用に
よる所望の効果が充分に得られず、一方、Caの場合に
は0.005%を超えて含有されるとCa系介在物の増
加により耐HIC性および耐SSC性の劣化を招き、ま
た、REMの場合には0.01%を超えて含有されると
酸化物系介在物の増加により耐HIC性および耐SSC
性の劣化を招くことから、含有させる場合のCa含有量
は0.0005〜0.0050%、REM含有量は0.
0005〜0.01%とそれぞれ定めた。
【0038】Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、T
i、ZrおよびB これらの成分は、いずれも鋼管の強度および靭性を改善
する作用があるので、これらの効果を得たい場合には、
必要に応じてCu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、T
i、ZrおよびBのうちから1種または2種以上を選ん
で含有させることができるが、各成分は次の理由から含
有させる場合の含有量を次のように定めた。
【0039】Cu、Ni:上限は、いずれも0.50% いずれの元素も、その含有量が0.05%未満であると
強度及び靭性の改善効果が不十分であり、一方、0.5
0%を超えて含有させると熱間加工性が低下して素材と
なる熱延コイルの製造が困難となるので、含有させる場
合の含有量は、いずれの元素も0.05〜0.50%と
定めた。
【0040】Cr:上限は、1.20% Cr含有量が0.05%未満であると強度及び靭性の改
善効果が不十分であり、一方、1.20%を超えて含有
させると靭性の低下、耐SSC性の低下を招くので、含
有させる場合の含有量は0.05〜1.20%と定め
た。
【0041】Mo:上限は、1.00% Mo含有量が0.05%未満であると強度及び靭性の改
善効果が不十分であり、一方、1.00%を超えて含有
させると、靭性の低下、耐SSC性の低下を招くので、
含有させる場合の含有量は0.05〜1.00%と定め
た。
【0042】Nb、V、TiおよびZr:上限は、いず
れも0.15% いずれの元素も、その含有量が0.01%未満であると
強度及び靭性の改善効果が不十分であり、一方、0.1
5%を超えて含有させると靭性の低下を招くので、含有
させる場合の含有量は、いずれの元素も0.01〜0.
15%と定めた。
【0043】B:上限は、0.0050%、 B含有量が0.0005%未満であると強度及び靭性の
改善効果が不十分であり、一方、0.0050%を超え
て含有されると靭性の低下を招くので、含有させる場合
の含有量は0.0005〜0.0050%と定めた。
【0044】上記成分組成の素材帯鋼は、以下に述べる
条件で製造するのが望ましいが、これに限定されるもの
ではない。
【0045】[スラブ加熱温度]スラブ加熱温度は、以
下の熱延が可能となる温度範囲とするのが望ましい。
【0046】[熱延仕上温度]耐HIC性および耐SS
C性の改善のためには、熱延をAr3変態点以上で終了し
て次に示す加速冷却開始温度を確保するのがよく、出来
れば熱延仕上温度は(Ar3変態点+30℃)の温度以上
とするのがよい。
【0047】[加速冷却開始温度]熱延後の加速冷却開
始温度が低いと初析フェライトの成長に伴い偏析部にC
が濃縮して加速冷却時に硬化組織が生成し、耐HIC性
および耐SSC性の低下を招くようになる。また、X7
0〜X80級の高強度を得ることが困難となる。そのた
め加速冷却開始温度は(Ar3変態点−30℃)の温度以
上とするのがよく、出来れば初析フェライトのないAr3
変態点以上が望ましい。
【0048】[加速冷却時の平均冷却速度]加速冷却時
の平均冷却速度が遅いとフェライト/パーライトの2相
分離が進んで、中心偏析部で耐HIC性および耐SSC
性に劣るバンド状組織が形成される。また、X70〜X
80級の高強度を得ることが困難となる。そのため平均
冷却速度は5℃/s以上とするのがよい。しかし、その
値が20℃/sを超えると硬化したブロック状ベイナイ
トが生成し易くなって好ましくない。X70〜X80級
の高強度用熱延鋼板の場合は30℃/sである。
【0049】[加速冷却停止温度]600℃を超える温
度域で加速冷却を停止すると、停止時に未変態のオース
テナイトが残るのでその後パーライトが生成すると共
に、中心偏析部がCの濃縮によって硬化して耐HIC性
および耐SSC性が低下する傾向となる。また、X70
〜X80級の高強度を得ることが困難となる。一方、4
00℃を下回る温度域で加速冷却を停止すると、硬化し
たブロック状ベイナイトが生成し易くなってやはり耐H
IC性および耐SSC性が低下する。そのため、加速冷
却停止温度は600〜400℃とするのが望ましい。X
70〜X80級の高強度用熱延鋼板の場合は600〜2
00℃が望ましい。
【0050】[巻取温度]巻取は、加速冷却停止に引き
続いて実施すればよい。
【0051】本発明においては、先ず上記成分組成を有
するとともに上記条件で製造された素材帯鋼を常法通り
に成形ロール群に通して連続的にロール成形してオープ
ンパイプ状となし、成形ロール群の末尾に設けられた左
右一対のスクイズロールの作用によって帯鋼両エッジ相
互が当接する接合点、すなわちオープンパイプの突き合
わせ部にレーザービームを上方から垂直に照射して衝合
溶接を行うが、この際、そのレーザー出力P(kW)、
溶接速度V(m/min)、帯鋼肉厚t(mm)、帯鋼
両エッジ端面の予熱温度T(℃)、室温T0 (℃)とし
た時、下記の(1)および(2)式を満足する条件で衝
合溶接を行う。
【0052】V≧2 ・・・・・・(1) P≧0.4Vt/ea(T-T0) ・・・・・・(2) ただし、a=0.0006 すなわち、上記(1)および(2)式は、本発明者らが
種々実験研究の結果見い出した関係式であり、前述した
ように、(1)式は、オープンパイプの突き合わせ部に
おけるV溝形成の有無、レーザー出力Pおよび帯鋼肉厚
(帯鋼肉厚)t等とは無関係に、溶接速度Vが2m/m
in未満では、溶融金属部の溶接後冷却速度の低下に起
因して溶接部のとけ込み形状がワインカップ状となって
溶接部の結晶粒が粗大化して肉厚方向の柱状晶となり、
溶接部の靭性、耐HIC性および耐SSC性が低下する
のみならず、HAZも広くなるのでHAZ軟化が顕著と
なって管の強度も低下するが、溶接速度Vを2m/mi
n以上に設定して製管溶接すると、溶接部のとけ込み形
状がワインカップ状とならず、溶接部の組織が結晶粒の
粗大化した肉厚方向への柱状晶組織になるのを防止で
き、これによって溶接部の結晶粒の粗大柱状晶組織化に
起因する耐HIC性等が低下するのを防止できる。この
ことは、後述の実施例の結果からもあきらかであ。
【0053】また、上記(2)式は、溶接部に酸化物等
が存在しない無欠陥溶接を行うための条件を示してお
り、帯鋼肉厚tに応じて、溶接速度Vおよび帯鋼両エッ
ジ部の予熱温度Tを調整設定することによってレーザー
出力Pが(2)式で求められる値以上となるように設定
して溶接することによって、溶接部の酸化物等の異物内
在起因による耐HIC性および耐SSC性が低下するの
を防止できる。すなわち、(2)式の右辺で求められる
値未満のレーザー出力Pでは、溶接速度が2m/min
以上であって溶接部の組織が結晶粒の粗大化した肉厚方
向への柱状晶組織でなくても、溶接部に酸化物等の異物
内在の溶接欠陥が生じて耐HIC性および耐SSC性が
低下することを意味している。
【0054】図4は、帯鋼肉厚t、溶接速度V、帯鋼両
エッジ部の予熱温度Tおよびレーザー出力PがSSC発
生に及ぼす影響を示した図であり、横軸に上記(2)式
中の右辺「0.4Vt/ea(T-T0) 」で求められる値と
レーザー出力Pとの差を、縦軸にSSC発生率を採って
示した図である。
【0055】図4から明らかなように、レーザー出力P
が「0.4Vt/ea(T-T0) 」で求められる値未満の場
合にはSSCが発生し、レーザー出力Pが「0.4Vt
/ea(T-T0) 」で求められる値以上の場合にはSSCが
発生しておらず、このことから上記(2)式を満足させ
る必要のあることがわかる。
【0056】なお、上記(1)および(2)式を同時に
満足させるためには、前述したように、従来一般的に用
いられている5kW程度の低出力のレーザー発振機では
不十分で、例えば25kWあるいはこれ以上の高出力の
レーザー発振機を用いる必要がある。
【0057】また、大出力レーザーによる本発明の方法
においては、前記特開平5−228660号公報に記載
されると同様の図1に示すV溝2をオープンパイプの突
き合わせ部に形成させて溶接することもでき、この場合
にはより一層の高速化溶接が可能となる。すなわち、帯
鋼肉厚をt、集光前のレーザービーム径をD、集光光学
系の焦点距離をf、溶接速度をV、レーザー出力をPと
した時、幅aと深さbとが下記(3)〜(6)式を満足
するV溝を形成して溶接するのが望ましい。
【0058】a/b>D/f ・・・・・・・ (3) a×b≦2×(P/V) ・・・・・・・ (4) t−b≦4×(P/V) ・・・・・・・ (5) a≦2×(P/V) ・・・・・・・ (6) なお、上記(3)〜(6)式の意味するところは、以下
の通りである。
【0059】(3)式:溶け込み深さを減少させないよ
うにするための条件。すなわち、集光前のビーム径がD
のレーザービーム3の光軸心を素材帯鋼1の両エッジ端
の突き合わせ部に一致させるとともに、その焦点位置を
V溝2の底部5に合わせた場合、a/b値がD/f未満
の時には、図5(a)に示すように、レーザービーム3
がV溝2の肩部4に当たり、肩部4で金属プラズマが発
生してこの金属プラズマにレーザービーム3が吸収され
てレーザーエネルギーが低下し、溶け込み深さが減少す
るが、a/b値がD/f値を超えると時には、図5
(b)に示すように、レーザビーム3が前記肩部4に当
たることがないので、エネルギー低下のないレーザービ
ーム3をV溝2の底部5に集中照射できて深い溶け込み
深さを効率良く得ることができる。
【0060】(4)式:溶接部の外面側にアンダービー
ドを発生させないようにするための条件。すなわち、図
2に示したようなアンダービード6を発生させないため
にはV溝が溶融金属で十分に埋められることが必要であ
り、これに必要な溶融金属量はV溝の断面積と供給され
る溶融金属量とで決定される。そして、V溝の断面積は
1/2(a×b)で表され、一方、溶融金属量は、レー
ザー出力P、溶接速度Vの時、その入熱量(P/V)に
比例するから、アンダービード6の防止条件は[a×b
≦k×(P/V)]になる。なお、kは比例定数であ
り、多数の実験結果から「2」とするのが適切であるこ
とがわかった。
【0061】(5)式:V溝の底部に連続して存在する
帯鋼両エッジ端が完全に突き合わされた部分の肉厚(t
−b)を貫通溶融させるための条件。すなわち、突き合
わせ部にV溝を形成してレーザーで溶かし込む必要のあ
る肉厚を減少させて溶接速度の高速化を図るためには、
前記V溝の底部に存在する肉厚(t−b)部分を完全に
溶かし込むに足りるレーザーエネルギーを供給する必要
があるが、レーザーの溶け込み深さはその入熱(P/
V)と比例関係にあることから、前記肉厚(t−b)部
分を完全に溶かし込む条件は[(t−b)≦p×(P/
V)]となる。なお、pは比例定数であり、多数の実験
結果から「4」とするのが適切であることがわかった。
【0062】(6)式:溶接部にアンダーカット6を発
生させないための条件。すなわち、図2に示したよう
に、V溝の幅aがビード幅Baより過剰に大きい場合に
はアンダーカット6が発生する。従って、溶接部にアン
ダーカット6を発生させないためには、V溝の幅aをビ
ード幅Baより小さくなるようにする必要がある。今、
溶接速度Vを一定とするとビード幅Baはレーザーによ
る入熱量に比例するから、[a≦q×(P/V)]の関
係が成立する。なお、qは比例定数であり、多数の実験
結果から「2」とするのが適切であることがわかった。
【0063】このようにしてオープンパイプの突合せ部
を溶接した溶接鋼管は、溶接ままで十分な性能を発揮す
るが、より一層の性能向上を図るためには溶接後の溶接
シーム部に次の熱処理を施すことが望ましい。
【0064】[溶接シーム部の加熱温度]溶接シーム部
をAC3変態点以上の温度域へ加熱するのが望ましいの
は、加熱時にオーステナイト単相として溶接部の粗粒組
織を破壊して細粒組織を得るためであるが、加熱温度が
この温度未満であるとその効果が得られない。なお、上
限は特に規定する必要はないが、1100℃を超えると
結晶粒が再び粗粒化し、特にC含有量が0.12%を超
える素材では耐HIC性、耐SSC性および靭性に悪影
響を及ぼすので1100℃以下とするのが望ましい。
【0065】[加熱後の冷却]上記温度域への加熱後、
そのまま放冷(空冷)すると溶接部の硬度が低く抑えら
れて耐HIC性および耐SSC性が向上する。
【0066】ただし、溶接シーム部のみを上記温度域に
加熱して放冷すると母材部に比べて溶接部の強度が低下
する場合があるので、その場合には加熱後速やかに加速
冷却を実施すると溶接部の強度低下を防ぐことができる
から、強度低下を防止したい場合には加速冷却を実施す
るのが望ましい。しかし、加速冷却開始温度が(Ar3
態点−30℃)の温度未満であると初析フェライトの成
長に伴いCが濃縮した残留オーステナイトが加速冷却時
に硬化して、耐HIC性および耐SSC性の低下を招く
ようになる。一方、加速冷却開始温度が1000℃を超
えると硬度の高いマルテンサイト組織やベイナイト組織
が生成し、耐HIC性および耐SSC性にとって望まし
くない。従って、加速冷却を行う場合の冷却開始温度は
(Ar3変態点−30℃)〜1000℃とするのが望まし
い。また、加速冷却を行う場合の冷却速度としては、母
材である素材帯鋼(熱延鋼板)製造時の条件と同じ、5
〜30℃/sとするのが望ましい。
【0067】[加速冷却後の焼戻し]上記加速冷却後に
焼戻し処理を施して溶接部の軟化を図ると、溶接部の耐
HIC性および靭性がより一層改善されることから、耐
HIC性と靭性のより一層の向上を図りたい場合には加
速冷却後に焼戻し処理を施すのが望ましい。しかし、焼
戻し温度が500℃未満であると材料が軟化しないので
焼戻の効果が得られず、一方、750℃を超えると一部
オーステナイト変態が生じて所定の強度が得られないば
かりか、残留オーステナイトや焼戻されないマルテンサ
イト相が生じて耐HIC性および耐SSC性にとって望
ましくないことから、焼戻処理を施す場合の温度は50
0〜750℃とするのが望ましい。
【0068】
【実施例】製管溶母材として、耐SSC性および耐HI
C性に優れるX42〜X80級の表1に示す化学成分を
有する9種類の素材帯鋼(熱延鋼板)を準備した。これ
ら母材のAPI等級、強度、耐HIC性および耐SSC
性を調査した結果も表1に併記した。なお、母材の耐H
IC性は、NACE(米国腐食協会規格)−TM−02
−84に規定の方法に基づき、NACE浴(0.5%酢
酸、5%食塩水、25℃、1気圧H2 S飽和)に96h
浸漬したときの割れ長さ率(CLR)での評価結果、耐
SSC性は、NACE−TM−01−77−METHO
D−Aに規定の単軸引張試験法で評価したときにおける
σth(SSCにより破断を生じる最小の応力)とσys
(降伏応力)の比での評価結果であるが、いずれの母材
も、耐HIC性については1つの目安であるNACE条
件のCLR≦15%を、また耐SSC性については1つ
の目安であるNACE条件のσth/σys≧72%を満足
している。
【0069】
【表1】
【0070】上記素材帯鋼(熱延鋼板)を常法に基づき
成形ロール群に通してオープンパイプに成形し、スクイ
ズロールでその両エッジ部相互を突き合わせ、この突き
合わせ部分に上方よりシールドガスとしてプラズマ除去
効果の高いヘリウムガスを用いてレーザービームを垂直
に照射して衝合溶接を行うに当たり、表2、表3および
表4に示す各条件で溶接を行った。レーザー源として
は、集光前ビーム径Dが51mm、ミラー(放物面鏡)
焦点距離fが381mmの出力25kWの炭酸ガスレー
ザー発振機と、集光前ビーム径Dが30mm、ミラー
(放物面鏡)焦点距離fが150mmの出力5kWの炭
酸ガスレーザー発振機を使用した。なお、焦点位置は、
いずれも突合せ部のオープンパイプ外表面に設定した
が、突き合わせ部にV溝を形成した一部のものについて
はV溝底部に設定した。また、比較のため同様素材帯鋼
を用いた従来のERW法によって溶接した溶接ままの溶
接鋼管も用意した。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】得られた溶接鋼管の溶接ままの溶接部(一
部のものについては、表2、表3および表4に示す条件
で溶接シーム部に後熱処理を施した後の溶接部)の耐H
IC性と耐SSC性を次に述べる方法で評価した。
【0075】溶接シーム部が中央に位置するように管軸
方向に切開して周方向に展開後、図6に示した各位置か
ら、HIC試験片については図7に示す形状、寸法の試
験片を管軸長方向の異なる位置から各3枚を、SSC試
験片については素材帯鋼の肉厚に応じて図8に示す
(X)または(Y)のいずれかの形状、寸法の試験片を
管軸長方向の異なる位置から各3本を切り出し採取し
た。なお、SSC試験片は、いずれも素材肉厚の関係上
ネジ部が欠けたので、試験時にテフロンテープ等をネジ
部に巻き付けシールして試験に供した。また、試験に先
立ち、各試番のSSC試験片各1本を対象に、常温引張
試験を行って降伏応力(YS)と引張強さ(TS)を求
めた結果、母材の規格以下に強度が低下した試番につい
てはHIC試験およびSSC試験ともに省略した。
【0076】HIC試験は、上記の試験片(各試番各3
枚)を、NACE浴(0.5%酢酸、5%食塩水、25
℃、1気圧H2 S飽和)中に96時間浸漬後、各試験片
について図9に示すように超音波探傷法で接合面の割れ
発生面積を検出し、平均割れ面積率(CAR)を求めて
HIC感受性を評価した。なお、CAR値の3倍値が上
記CLR値に相当し、CRA≦5%であれば耐HIC性
に優れることを示している。
【0077】SSC試験は、上記の各試験片(各試番各
2本)を、図10に示すSSC試験装置を用い、NAC
E浴(0.5%酢酸、5%食塩水、25℃、1気圧H2
S飽和)中で、SMYS(規格最小降伏応力)の72%
の引張応力を付加し、720時間の試験期間中での破断
の有無を調査した。
【0078】これらの試験結果を、表2、表3および表
4に併記した。なお、表2、表3および表4中、試番
1、18および35はERW法による従来例、試番2、
3、4、19〜21、43および44はV溝を形成した
レーザー単独溶接の従来例、その他が本発明例と比較例
である。
【0079】試番1、18および35から明らかなよう
に、従来例のERW法では、溶接部の耐HIC性および
耐SSC性がいずれも劣っている。
【0080】また、試番4、8、12、13、21、2
5、30、34および40から明らかなように、溶接速
度が2m/min未満の場合には、素材帯鋼肉厚の大
小、レーザー出力の大小、V溝形成の有無および帯鋼両
エッジ部の予熱の有無に関係なく、いずれの場合も溶接
部の溶け込み形状がワインカップ状となって溶接部の強
度低下が著しいか、強度低下がない場合でも耐SSC性
が劣っており、このことから上記(1)式が溶接部の強
度低下およびSSC発生を防止するための必要条件であ
ることがわかる。
【0081】肉厚が11.1mmのI鋼(X80級)で
は、レーザー出力が5kWの場合には、試番2と試番3
の対比から明らかなように、V溝を形成した従来法での
溶接部の耐HIC性および耐SSC性が良好な製品の得
られる最高溶接速度は高々2.2m/minでしかな
い。また、試番4から明らかなように、V溝を形成して
も溶接速度が1.8m/minと遅い場合は、溶接部の
溶け込み形状がワインカップ状となって溶接部の強度が
母材に比べて著しく劣っている。
【0082】さらに、V溝を形成しない場合は、試番5
から明らかなように、溶接速度が2m/minでも、帯
鋼両エッジ部を予熱しないと溶け込み不足となって溶接
不能となっている。しかし、試番6、7から明らかなよ
うに、帯鋼両エッジ部を高温予熱するとV溝を形成しな
くても2m/min以上の溶接速度で溶接可能である
が、試番6から明らかなように、0.4Vt/e
a(T-T0) 値が本発明で規定する上記(2)式の範囲を外
れているため、溶接欠陥が生じ、耐SSC性が劣ってい
る。
【0083】これに対し、レーザー出力25kWの場合
には、試番9〜13の対比から明らかなように、帯鋼両
エッジ部を予熱せず、かつV溝を形成しない場合にあっ
ても、耐SSC性の良好な製品の得られる最高溶接速度
が5m/minとなり、V溝を形成したレーザー出力5
kWのもの(試番3)に比べて2倍以上という速い溶接
速度での溶接が可能となっている。また、試番14と試
番15との対比から明らかなように、帯鋼両エッジ部を
1250℃の高温に予熱すると、耐SSC性の良好な製
品が得られる最高溶接速度は10m/minにまで上が
っている。さらに、試番16と試番17との対比から明
らかなように、出力25kWの大出力レーザーとV溝形
成とを組み合わせた場合には、帯鋼両エッジ部を予熱し
なくても、同一寸法のV溝を形成したレーザー出力5k
Wのもの(試番3)に比べて約4倍の8m/minとい
う速い溶接速度でも耐SSC性の良好な製品が得られて
いる。
【0084】また、肉厚が7.1mmのE鋼(X65
級)では、上記I鋼に比べて肉厚が薄いため、レーザー
出力が5kWの場合に、耐SSC性等の良好な製品の得
られる最高溶接速度は、帯鋼両エッジ部を予熱せずにV
溝を形成した時で4m/min(試番19〜21参照)
であり、V溝形成せずに帯鋼両エッジ部を1200℃に
予熱した時で3m/min(試番22〜25参照)であ
るが、レーザー出力が25kWの場合の耐SSC性等の
良好な製品の得られる最高溶接速度は、V溝を形成しな
くても、帯鋼両エッジ部を900℃に予熱した時で12
m/min(試番31〜34参照)に、1200℃に予
熱した時で16m/min(試番26〜30参照)まで
速くなっている。
【0085】さらに、肉厚が8.7mmのB鋼(X52
級)では、レーザー出力が5kWの場合には、V溝を形
成せずに帯鋼両エッジ部を1250℃の高温に予熱した
時、溶接速度が3m/minでは耐SSC性が良好な製
品は得られなかったが(試番36参照)、レーザー出力
が25kWの場合には同様条件で溶接速度12m/mi
nでも耐SSC性等が良好な製品が得られている(試番
37〜40参照)。
【0086】またさらに、肉厚が12.7mmと最も厚
いF鋼(X70級)では、レーザー出力が5kWの場合
には、V溝を形成し、かつ帯鋼両エッジ部を1100℃
に予熱した時、溶接速度2m/minで耐SSC性の良
好な製品が得られたに過ぎないが(試番43、44参
照)、レーザー出力が25kWの場合には、帯鋼両エッ
ジ部を同一温度に予熱するだけでV溝を形成しなくても
3倍の溶接速度6m/minで強度、耐HIC性、耐S
SC性のいずれにも優れた製品が得られている(試番4
5参照)。
【0087】以上のことは、A、C、D、GおよびH鋼
を対象にした試番44〜48の本発明例からも明かであ
る。また、溶接部の耐HIC性および耐SSC性は、溶
接シーム部に後熱処理を施さない場合にあっても良好で
あった(試番49〜53参照)。
【0088】なお、ERW法での平均的な溶接速度は、
肉厚7.1mmのE鋼で15m/min、肉厚11.1
mmのA鋼で10m/minであり、本発明例の大出力
レーザーを用いた場合の溶接速度はこのERW法での溶
接速度に相当し、また従来の低出力レーザーを用いてV
溝を形成して溶接する方法の約2倍であることがわか
る。
【0089】
【発明の効果】本発明の方法によれば、湿潤H2 S環境
において溶接部の強度、耐HIC性および耐SSC性の
すべての性能を十分に満足するERW法での製造サイズ
のラインパイプ用溶接鋼管を高能率に安定して製造する
ことが可能で、産業上極めて有用な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接前のV溝形状の一例を示す図である。
【図2】V溝幅が過大時に生じる溶接ビード形状を示す
図である。
【図3】溶接速度が遅い場合に生じるビード形状を示す
図である。
【図4】SSC発生に及ぼす板厚、出力、溶接速度、予
熱温度の相関(式2)の影響を示す図である。
【図5】V溝寸法とレーザービーム経路の関係を示す説
明図である。
【図6】HICとSSC調査用試験片の採取部位を示す
概念図である。
【図7】HIC試験片の形状、寸法を示す図である。
【図8】SSC試験片の形状、寸法を示す図である。
【図9】HICを超音波探傷法にて評価する様子を説明
する概念図である。
【図10】SSC試験装置の概念図である。
【符号の説明】
1 :帯鋼 2 :V溝 3 :レーザービーム 4 :V溝の肩部 5 :V溝の底部 6 :アンダーカット
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22C 38/04 C22C 38/04 (56)参考文献 特開 平5−9579(JP,A) 特開 平6−170569(JP,A) 特開 平4−143015(JP,A) 特開 昭62−134181(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 26/00 B21C 37/08 C21D 8/10 C21D 9/08 C22C 38/00 C22C 38/04

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.01〜0.20%、S
    i:0.03〜0.80%、Mn:0.40〜2.00
    %、P:0.025%以下、S:0.002%以下、s
    ol−Al:0.01〜0.10%、Cu:0〜0.5
    0%、Ni:0〜0.50%、Cr:0〜1.20%、
    Mo:0〜1.00%、Nb:0〜0.15%、V:0
    〜0.15%、Ti:0〜0.15%、Zr:0〜0.
    15%、B:0〜0.0050%、Ca:0〜0.00
    50%、REM:0〜0.01%を含み、残部がFeお
    よび不可避不純物からなる帯鋼を、成形ロール群に通し
    て連続的にオープンパイプ状に成形し、このオープンパ
    イプをスクイズロールで加圧して帯鋼両エッジを突合
    せ、その突合せ部にレーザービームを照射して衝合溶接
    して溶接鋼管となすに際し、下記の(1)および(2)
    式を満たす条件でレーザービームを照射して溶接するこ
    とを特徴とする耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割
    れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法。 V≧2 ・・・・・・(1) P≧0.4Vt/ea(T-T0) ・・・・・・(2) ただし、a=0.0006 P :レーザ出力(kW) V :溶接速度(m/min) t :帯鋼プ肉厚(mm) T :帯鋼両エッジ部の予熱温度(℃) T0 :室温(℃)
  2. 【請求項2】請求項1に記載の方法において、溶接後、
    少なくとも溶接部をAc3変態点以上に加熱した後、放冷
    することを特徴とする耐水素誘起割れ性および耐硫化物
    応力割れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方
    法。
  3. 【請求項3】請求項1に記載の方法において、溶接後、
    少なくとも溶接部をAc3変態点以上に加熱した後、(A
    r3変態点−30℃)以上、1000℃以下の温度域から
    加速冷却することを特徴とする耐水素誘起割れ性および
    耐硫化物応力割れ性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の
    製造方法。
  4. 【請求項4】請求項3に記載の方法において、加速冷却
    に引き続き、500〜750℃の温度域で焼き戻すこと
    を特徴とする耐水素誘起割れ性および耐硫化物応力割れ
    性に優れるラインパイプ用溶接鋼管の製造方法。
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