以下に図面を用いて、本考案に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、超磁歪素子として、TDK社製の、型式PMT−1、組成がTbXDy1-XFeY(X=0.34、Y=1.9)、比透磁率6、「軸方向伸び率−磁界の強さ」特性は、ヒステリシスを有する非線形であるが、磁界の強さが80,000A/m(1000エルステッド)において1000ppmの伸び率であるものを用いる。TDK社製のその他の型式PMS−1、PMH−1は、使用温度範囲がPMT−1と異なるが、比透磁率6から10、ほぼ同様の「軸方向伸び率−磁界の強さ」特性を有するので、これらを用いることもできる。また、同様の「軸方向伸び率−磁界の強さ」特性を有するものであれば、TDK社製以外のものでもよい。なお、以下では、このような特性を有する素子を、単に磁歪素子と呼ぶことにする。
最初に、磁歪素子の軸方向長さを定める根拠となった実験内容を説明し、その後に、その長さの磁歪素子を用いる磁歪素子アクチュエータの構成等について説明する。図1は、実験内容を説明する図である。ここでは、固定部に下部が固定された円柱状の磁歪可動素子10の外周に、円筒状の駆動コイル12が配置される。磁歪可動素子10には適当なバイアス磁界用バイアス磁石が設けられている。駆動コイル12には交流電源14から50Hzの振幅が5Vppの交流信号が印加され、その駆動電流を可変できる。駆動コイル12の総巻数は600ターン、その軸方向長さは13.77mmである。磁歪可動素子10の自由端側には容量型変位計16が設置され、交流電源14によって駆動コイル12が発生する交流磁界によって磁歪可動素子10が軸方向に伸縮する量を検出する。容量型変位計16の出力は交流電圧であるが、変位量に換算されてディスプレイにその交流変位波形が表示される。
図2は、実験に用いた磁歪可動素子10の3種類の構成を示す図である。(a)は直径3mm長さ16mmの磁歪素子の両端にバイアス磁界用磁石としてやはり直径3mm厚み1mmのネオジ磁石を配置して磁歪可動素子10としたものである。両端のネオジ磁石は、対向面が相互に逆極性となるようにし、長さ16mmの磁歪素子を挟んで相互に磁気吸引される。(b)は、両端に同様のネオジ磁石を配置した直径3mm長さ8mmの磁歪素子を2つ用い、ネオジ磁石−磁歪素子−ネオジ磁石−磁歪素子−ネオジ磁石の構成として1つの両端にバイアス磁界用磁石として磁歪可動素子10としたものである。(c)は、両端に同様のネオジ磁石を配置した直径3mm長さ5mmの磁歪素子を3つ用い、ネオジ磁石−磁歪素子−ネオジ磁石−磁歪素子−ネオジ磁石−磁歪素子−ネオジ磁石の構成として1つの磁歪可動素子10としたものである。
図3は、この3種類の磁歪可動素子10を用いて図1の実験を行い、入力交流磁界の強さ、すなわち駆動電流の振幅を変えて、そのときの出力交流変位が線形性を保つ最大の伸び率を求め、その結果をグラフ化したものである。図3の横軸は磁歪可動素子10を構成する磁歪素子の素子長さ、すなわちバイアス磁界用磁石に挟まれている間隔を取ってある。縦軸は、線形性を維持できる最大の伸び率で、伸び率=磁歪可動素子10の全体の軸方向伸び量/(磁歪可動素子10を構成する全磁歪素子の長さの和)で計算した。例えば、図2(c)の磁歪可動素子10が伸び量15μmであれば、伸び率=15μm/15mmである。
図3から分かるように、磁歪素子の素子長さが長くなるほど線形性を維持する範囲の伸び率は小さくなるが、特に16mmのものは大幅に落ちる。この図において各素子長さにおける平均伸び率を求めると、素子長さ5mmのものは1.04μm/mm、8mmのものは0.97μm/mmと殆ど差がないが、素子長さ16mmのものは0.38μm/mmである。
図4は、線形性が崩れるときにおける出力交流変位の波形の例を示すものである。この図は、容量型変位計16の出力である交流変位波形をディスプレイ上で表示させたもので、横軸は時間、縦軸は出力電圧である。入力信号である駆動電流波形は50Hzの正弦波である。例えば素子長さ16mmの試料について、駆動電流の振幅を増加させると、このように波形の下側がクリップされたように歪む。
図5は、出力交流変位が線形性を維持できる入力駆動電流の最大振幅、すなわち線形性維持の電流限界の様子を示す図である。横軸は図3と同様に磁歪可動素子10を構成する磁歪素子の素子長さを取ってある。この図から分かるように、線形性を維持できる入力電流限界は、素子長さが長くなると減少し、素子長さ5mmと8mmでは相違が少ないものの、素子長さ16mmでは大幅に制限される。換言すれば、磁歪アクチュエータにおいて、出力変位量を大きくして大出力化しようとして駆動コイルに流す電流を増加させても、線形性が崩れてしまい、線形性を維持しようとすると、大出力が得られないということになる。
図6は、図4、図5の結果から原因を推測し、可能性のある1つの考えを説明する図である。この図は、横軸に磁歪素子にかかる磁界の強さを取り、縦軸に磁歪素子の伸びを取って、磁歪素子の「軸方向伸び−磁界の強さ」の特性曲線2を示す図である。この図を用いて、設計者は、駆動コイル12による入力交流磁界4の全振幅が特性曲線2の線形領域に含まれるように、図6の第1象限に入るように、動作点Aを定める。そして動作点Aのために、この磁界の強さを公称値とするバイアス磁石を選定する。したがって、この設計通りならば、図4のように下限がクリップされた出力交流変位は現われないはずである。図4のような波形は、設計された動作点Aが実際の駆動においては、磁界の強さがよりゼロに近い動作点Bにずれたのではないかと推測される。推測される動作点Bにおいて入力交流磁界5が与えられれば、これに対応する出力交流変位6は下限側がクリップされて歪むからである。この歪を避けるには、入力交流磁界5の振幅を減らすことになるが、これは駆動コイル12への電流振幅を少なくすることになり、これにより線形性を確保するための電流限界が生じる。
このように、バイアス磁石の公称磁界の強さに基づいて設計された動作点Aが、実際の駆動において動作点Bに移動する仮定を前提とすれば、図2に示すように、両端をバイアス磁石で挟まれる磁歪素子における実効的なバイアス磁界の強さが、両端のバイアス磁石の間隔、つまり磁歪素子の軸方向長さで決まり、その長さが長ければ弱くなるだろうということは予想される。両端のバイアス磁石による公称磁界の軸方向の低下率が、その間に挟まれる所定の透磁率を有する磁歪素子の長さとどのような関係があるかの理論的解析はまだ行われていない。
そこで、図3、図5からいえることは、各磁歪素子の軸方向長さは、その磁歪素子の軸方向の両端に配置されるバイアス磁界用磁石による公称バイアス磁界がその磁歪素子の軸方向の長さに依存して低下する低下率が、駆動コイルによって供給される交流磁界信号の振幅によって定められる所定低下率となる軸方向長さより短く設定されることがよい、ということである。
ここで、図5における素子長さ5mm及び8mmの場合において、その電流限界の平均値である3.7Appから3.0Appに相当する磁界の強さは、上記駆動コイルの巻数、及びその軸方向長さを用い、磁界の強さは片側電流振幅で決まるとして、およそ65,000A/mから80,000A/mに対応する。素子のばらつき範囲を考慮すると、50,000から100,000A/mの範囲であれば、素子長さによって電流限界は余り変化せず、実用的に線形性を維持できる。また、図6から理解されるように、線形性が維持できるときのバイアス磁界の強さは、この電流限界による磁界の強さとほぼ同じであることになる。
したがって、より具体的には、交流磁界信号の最大値及びバイアス磁石の公称バイアス磁界を、それぞれ50,000A/m以上100,000A/m以下の磁界の強さとして、各磁歪素子は、6以上8以下の比透磁率を有し、4mm以上9mm以下の軸方向長さを有することがよいことになる。
次に、上記の実験結果を反映した磁歪素子アクチュエータにつき、その構成を説明する。ここでは、図2(c)の構成の磁歪可動素子、すなわち、軸方向の両端にそれぞれバイアス磁界用磁石が配置される3つの磁歪素子を軸方向に沿って配列する構成の磁歪可動素子を用いる。図7は、磁歪素子アクチュエータ20の断面図で、図8及び図9は、磁歪素子アクチュエータ20の組立工程を説明する図である。
磁歪素子アクチュエータ20は、直径が約30mm程度、高さが約45mm程度の大きさを有する円筒状の筐体と、筐体の上面から突き出る可動ロッドの上に、頂部が平坦な傘状の出力伝達用ヘッドが取り付けられる構成を備える。
磁歪素子アクチュエータ20の筐体は、円筒状外形のケース30と、ケース30の底部を覆って取り付けられる底板32と、ケース30の上部を覆って取り付けられる蓋34を含んで構成される。蓋34の上面には開口穴が設けられ、適当な軸受を介し、可動ロッド74が突き出し、その上に出力伝達用のヘッド36が取り付けられる。筐体の内部には、駆動コイル40、磁歪可動素子50、素子カバー60が配置される。磁歪可動素子50の下部は底板32によって支持され、その上面は、可動ロッド74の下部に接続される振動受板72に接し、振動受板72はコイルバネ76によって底板方向に付勢される。
また、磁歪素子アクチュエータ20において、駆動コイル40のボビンの底面側と底板32との隙間、ボビンの上面側と振動受板72との間の隙間は、それぞれダンパー樹脂90,92で充填される。また、コイルバネ76の可動部分、つまりコイル線の間の隙間が可撓性樹脂94で充填される。また、駆動コイル40とケース30との間の隙間は熱伝導性樹脂96で封入される。
磁歪素子アクチュエータ20を構成する各要素の内容、及びそれらの相互関係を、図8、図9を用いて説明する。図8は、磁歪素子アクチュエータ20を組み立てる際の前半部分で、主に、磁歪可動素子50を組み込むまでの各工程を示す図で、図9はそれ以降の後半部分で、主に磁歪可動素子50と出力伝達用のヘッド等を組み立てる各工程を示す図である。
図8(a)に示すように、初めにケース30を用意する。ケース30は、アルミニウムあるいはステンレス鋼等の金属材料からなる円筒状部材で、外形が約30mm、筒部の肉厚が約1mmで、その底面は全面に開口し、上面は中央部に振動受板72の下部軸部が通るための開口穴31を有する。この開口穴31の内径は、次の工程である駆動コイル40を組み付けの際に、その位置決めにも用いられるように、振動受板72の外形よりは大きく、駆動コイル40のボビン42の上部における位置決め部47の寸法に合わせて設定される。また、筒部には後述する熱伝導性樹脂96の封入のための樹脂注入穴95が適当な数設けられる。
また、駆動コイル40を用意する。駆動コイル40は、適当な耐熱性樹脂から作られるボビン42に、コイル巻線44を巻回したものである。ボビン42は、中央部に軸方向に貫通する軸穴46を有する。この軸穴46には、磁歪可動素子50とその周りに配置される素子カバー60が挿入されるためのもので、したがってその内径は、その挿入が可能な大きさに設定される。ボビン42の上部においてその軸穴46の周辺に段差が設けられ、これが上記の位置決め部47となる。駆動コイル40の全巻数は600ターンで、その軸方向の高さは14mm程度で、上記のように、図1の実験に用いるために実測した値は13.77mmである。駆動電流は3App程度流すため、コイル巻線は、耐熱性絶縁樹脂でコーティングされている銅線等を用いることが好ましい。
次に、ケース30の底部側から駆動コイル40を挿入し配置する。その位置決めは、駆動コイル40の位置決め部47をケース30の開口穴31の内周に合わせることで行われる。その様子を図8(b)に示す。そして別途用意される底板32をケース30の底部を覆うように取り付ける。取り付けは、図示されていない取り付けネジ等で行うことができる。あるいは接着材を用いてケース30と底板32とを接合してもよい。駆動コイル40を収納して底板32がケース30の底部を覆う様子を図8(c)に示す。
底板32は、円板状の部材で、その材質は磁性体であることが好ましい。ケース30の材質が磁性体のときはケース30と同じものを用いることができるが、別の材質の材料を用いて構成してもよい。底板32の上面の中央部は、後述するように磁歪可動素子50の下部を支持する機能を有する。そして、用いられる磁歪可動素子50の最下部はバイアス磁石であるので、その発生する磁束が外部に漏れるのを少なくするため、底板32の磁石支持部の周りに溝33が設けられる。また、この溝33の内側の肩部は、駆動コイル40のボビン42の底面側における位置決め部48に対応し、底板32をケース30に組付けるときに、駆動コイル40を底面側で位置決めする機能も有する。
なお、この底板32をケース30に取り付ける際、あるいはその前に、駆動コイル40のボビン42の底面側と底板32との間の隙間にダンパー樹脂90が充填される。この隙間は、駆動コイル40のボビン成形の寸法ばらつき等で生じることがある。このダンパー用樹脂90は、この隙間のためにボビン42が底板32との間でがたつき、余分な振動を生じることを抑制する機能を有する。かかるダンパー樹脂92としては、ゴム状の樹脂、ゲル系の樹脂等を用いることができる。
このようにして、ケース30に底板32が取り付けられその内部に駆動コイル40が位置決めして収納されると、次に、磁歪可動素子50と素子カバー60が駆動コイル40の軸穴46の中に挿入される。
磁歪可動素子50は、磁歪素子アクチュエータ20において印加磁界の強さに応じて軸方向に伸縮する可動素子部に相当する。ここで磁歪可動素子50は、上記のように、1つの細長い磁歪素子で構成されるのではなく、両端にバイアス磁界用のバイアス磁石であるネオジ磁石54を配置した直径3mm長さ5mmの磁歪素子52を3つ用い、ネオジ磁石54−磁歪素子52−ネオジ磁石54−磁歪素子52−ネオジ磁石54−磁歪素子52−ネオジ磁石54と軸方向に配置して1つの可動素子としたものである。この3つの磁歪素子52におけるそれぞれの変位量の合計が磁歪可動素子50全体の変位量となる。ネオジ磁石54の公称バイアス磁界の強さは、駆動コイル40に流す駆動電流の最大値に合わせて決めることができる。上記の例で駆動コイル40によって生じる交流磁界信号の最大値が50,000A/m以上100,000A/m以下の磁界の強さであるときは、公称バイアス磁界の強さもこれと同程度であることが望ましい。
ネオジ磁石54によって磁歪素子52が挟まれた構成の磁歪可動素子50は、対向するネオジ磁石54の間の磁気吸引力で保持される。しかし、駆動コイル40の交流磁界信号により磁歪素子52が軸方向に伸縮するとともに径方向にもその寸法を変えるので、場合によっては、その保持が崩れることがある。素子カバー60は、各磁歪素子52や各ネオジ磁石54の軸方向、径方向の動きを不必要に拘束せず、かつ磁歪可動素子50全体として軸方向に伸縮可能として案内する機能を有する。
図10(a)、(b)は、磁歪可動素子50と素子カバー60の関係を示す図で、(a)は断面図、(b)は上面図である。このように、素子カバー60は円筒状の部材で、その中心貫通部に磁歪可動素子50を軸方向に移動可能に案内する細長い筒状ケースである。この案内は接触又は摺動して案内するというより、通常は非接触で、何かのときに磁歪可動素子50を構成する磁歪素子52、ネオジ磁石54が径方向に大きくずれないようにする案内である。したがって、その機能からいえば、図10(c)に示す素子カバー61のように、円筒を軸方向に複数分割した長手方向案内部材であってもよく、シートを筒状に巻いて使用してもよい。素子カバー60は潤滑性のよい材料で構成されることが好ましく、例えばテフロン(登録商標)材料を所定の形状に成形加工したもの、あるいは所定の寸法のテフロンチューブを用いることができる。また、ジェルテック社の商品名「αゲルシート」等のような、シリコン系の柔軟性シートを筒状に巻いて立てて使用してもよい。
再び図8の組み立ての流れに戻り、図8(d)は、磁歪可動素子50と素子カバー60が駆動コイル40の軸穴46の中に挿入される様子を示す図である。上記のように磁歪可動素子50の最下部は、底板32の上面中央部の溝33に囲まれた支持部の所にあてがわれて配置される。このようにして、磁気バイアスがかけられた磁歪可動素子50の外側に駆動コイル40が配置される構造が組み立てられる。
次に、出力可動子70が磁歪可動素子50の上面に配置される。出力可動子70は、磁歪可動素子50の伸縮運動をヘッド36に伝達する伝達軸で、振動受板72と可動ロッド74とから構成される。振動受板72は、ほぼ駆動コイル40の外径に近い直径を有する略円板状の部材で、その下面中央部には磁歪可動素子50の最上部のネオジ磁石54と接触する軸部が突き出して設けられ、上面の周辺部にはコイルバネ76の付勢力を受ける円環状くぼみを有する部材である。材質は、磁歪可動素子50の最上部のネオジ磁石54から発生する磁束が外部に漏れるのを少なくするため、磁性体の方が好ましい。
このように、振動受板72は、幅広い上面部でコイルバネ76の付勢力を受け止め、これを効率よく磁歪可動素子50の最上部に伝える。それによって磁歪可動素子50全体を底板32の方向に押し付けてその初期長さを決め、磁歪可動素子50が駆動コイル40によって駆動されて軸方向に伸縮力を生じるときは、コイルバネ76の付勢力とのバランスで、この伸縮力を軸方向出力として可動ロッド74の先端の動きとして出力する。図9(a)は、出力可動子70を磁歪可動素子50の上面に配置する様子を示す図である。
図9(b)は、出力可動子70の振動受板72の上面周辺部にコイルバネ76をおき、その上から蓋34をかぶせ、ケース30に組付ける様子を示す図である。蓋34は、底面側にくぼみを有し、上面中央部には貫通穴が設けられる蓋本体35と、蓋本体35の貫通穴に固定して取り付けられる軸受37とから構成される。蓋本体35の底面側くぼみは、そのくぼみ空間にコイルバネ76を収容し、蓋34をケース30に組付けたときにコイルバネ76を振動受板72との間で収縮させて挟み込み、コイルバネ76に付勢力を生じさせる機能を有する。蓋本体35は、ケース30と同様の材料を機械加工又は成形加工あるいはそれらの組合せで作りだすことができる。軸受37は、可動ロッド74を摺動支持する部材で、潤滑性のよい金属製のブッシュ軸受等を用いることができる
この蓋34をかぶせる際に、あるいはその前に、振動受板72の底面側と駆動コイル40のボビン42の上面側との隙間に、ダンパー樹脂92が充填される。このダンパー用樹脂92は、磁歪可動素子50が変位するとき、これに伴って振動受板72が振動するが、その余分な振動を抑制する機能を有する。かかるダンパー樹脂92としては、ゴム状の樹脂、ゲル系の樹脂等を用いることができる。なお、図9(b)には、図8(c)で説明した駆動コイル40のボビン42の底面側と底板32との間の隙間に充填されるダンパー樹脂90も合わせてその状態が示されている。
コイルバネ76は、上記のように、振動受板72を介して磁歪可動素子50を底板32側に付勢する付勢手段である。コイルバネ76は蓋34をかぶせる際、あるいはその前に、そのらせん線材の間を埋めるように、可撓性樹脂94が充填される。この可撓性樹脂94は、磁歪可動素子50が駆動されて軸方向に交流変位を行うとき、振動受板72を介して交流振動をするが、その際に共振振動の発生を抑制する機能を有する。コイルバネ76のバネ定数等にも依存するが、上記の筐体寸法等から適当な寸法のコイルバネは例えば10kHz付近で共振することが起る。可撓性樹脂94はこれを抑制するダンパーとして働くので、磁歪可動素子50の振動成分を忠実に出力可動子70に伝えることができる。かかる可撓性樹脂94としては、ゴム状の樹脂、ゲル系の樹脂等を用いることができる。
蓋34をかぶせるには、出力可動子70の可動ロッド74を軸受37に差し込み、コイルバネ76を押し付けながら行い、ケース30との組み付けは、図示されていない取り付けネジ等で行うことができる。あるいは接着材を用いてケース30と底板32とを接合してもよい。
このように、筐体内に所定の各要素が収納されると、図9(c)に示すように、ケース30の筒部に設けられる樹脂注入穴95から熱伝導性樹脂96が注入され、筐体内部における駆動コイル40周りの隙間が充填される。この隙間は、主にケース30内における駆動コイル40のコイル巻線44周りに存在する。したがって、熱伝導性樹脂96は、コイル巻線44の周囲を取り囲むように、またコイル巻線の各巻線の間に隙間があるときはその隙間にも入って、ちょうどコイル巻線44を封入するように充填される。この熱伝導性樹脂96は、駆動電流が大きいときにコイル巻線44に生じる熱をケース30等の筐体によく伝導し、効率的に外気に放熱させる機能を有する。かかる熱伝導性樹脂としては、例えばGE東芝シリコーン(株)社製の商品名「高熱伝導性シリコンゲル」を用いることができる。
その後、筐体から突き出している出力可動子70の可動ロッド74の先端にヘッド36をネジ止め等で取り付けて、磁歪素子アクチュエータ20の組み立てが完了する。ヘッド36は、ネジ部39によって可動ロッド74に交換可能に取り付けられ、頂部が平坦な傘状形状の樹脂カバー38で、樹脂カバー38の広い面積の平坦部を対象物に接触させることで、出力可動子70の交流変位出力を効率よく対象物に伝達する機能を有する。
ヘッド36は、予め樹脂カバー38の材質の異なるものを用意しておくことで、多様な対象物に対応することができる。すなわち、対象物の特性に合わせ、出力伝達特性の好ましい材質の樹脂カバー38のヘッド36を選んで、出力可動子70に取り付けて用いることができる。例えば、音声を出力する場合、相手側が硬質の材料の場合は、ダンピング特性のよい樹脂カバーとし、相手側が適当な柔らかさを有するときは、硬質の樹脂カバーを用いること等が可能となる。
かかる構造の磁歪素子アクチュエータ20の作用を説明する。磁歪素子アクチュエータ20からは、駆動コイル40の入力端子が2本出ているので、これを適当な駆動回路に接続する。駆動回路は、磁歪素子アクチュエータ20の用途にあわせて設計することができる。ここでは、発音体として磁歪素子アクチュエータ20を用いる場合について説明する。その場合には、駆動回路は、音声信号に相当する交流駆動信号を発生する回路となる。駆動回路は音声信号の周波数及びその振幅に応じて、駆動コイル40に供給する駆動電流の周波数とその振幅を定めて駆動信号として2本の入力端子間に供給する。
駆動コイル40は、供給された駆動電流の周波数とその振幅に応じて交流磁界を発生する。この交流磁界は、バイアス磁界が予めかけられた磁歪可動素子50に作用する。磁歪可動素子50は、バイアス磁界発生用のネオジ磁石54が両端に配置された軸方向の長さ5mmの3個の磁歪素子52を軸方向に配置して構成される。したがって、およそ50,000A/mから100,000A/m程度の入力交流磁界の強さであれば、線形性のよい交流変位を出力できる。すなわち、所望の音声信号に忠実な変位振動を出力する。出力された変位振動は出力可動子70に伝達され、ヘッド36の樹脂カバー38が所望の音声信号に忠実な変位振動を出力する。このときに、ダンパー樹脂90,92、可撓性樹脂94の作用により、余分な共振やがたつきによる振動等のノイズは効果的に除去される。
ヘッド36の樹脂カバー38の材質は、発音体としての磁歪素子アクチュエータ20を取り付けて実際に振動させて音波を発生させる対象物によって交換可能に適合させることができる。また、樹脂カバー38は、全体を樹脂材料で構成してもよく、あるいは樹脂以外の金属材料の表面に樹脂コーティングして構成してもよい。例えば、窓ガラスに磁歪素子アクチュエータ20を取り付け、窓ガラスを振動させて実際の音波を発生させる場合には、ガラスはかなり硬質な機械振動特性を有するので、ダンピング特性のよい柔軟な樹脂材料の樹脂カバー38を有するヘッド36を用いる。また木のボードに磁歪素子アクチュエータ20を取り付け、木のボードを振動させて実際の音波を発生させる場合には、木のボードは音波を吸収しやすい機械振動特性を有するので、ダンピング特性の余りない硬質の樹脂材料の樹脂カバー38を有するヘッド36を選択することができる。
大出力の変位振動を利用するときは駆動コイル40に流れる電流の振幅も相当大きくなり、駆動コイル40が発熱する。この発熱は、駆動コイル40を封入する熱伝導性樹脂によって効率よくケース30等の筐体に伝えられ、外気に放熱されるので、磁歪素子アクチュエータ20の温度上昇を抑制できる。駆動コイル40の温度が上昇するとコイル巻線44の抵抗が上昇し、供給できる駆動電流が制限されるが、温度上昇が抑制されることで、供給できる駆動電流をより大きくすることができる。
上記において、3つの磁歪素子に対し、駆動コイルは単一のコイルを用いるものとして説明したが、駆動コイルを複数のコイルを並列接続するものとして用いてもよい。図11は、各磁歪素子に対応してそれぞれコイルを設け、それらを並列接続する場合の説明図である。図11(a)は比較のために図7等で用いる単一のコイル巻線44の駆動コイル40が示されている。この駆動コイル40の2本の入力端子は、駆動回路の増幅器13に接続される。図11(b)は、3つの磁歪素子52に対応して3つのコイル巻線43が並列に接続されて1つの駆動コイル41を構成する例を示す。すなわち3つのコイル巻線43のそれぞれの2本の入力端子は、それぞれ並列接続されて全体として2本の入力端子となり、駆動回路の増幅器13に接続される。各コイル巻線43の巻数/コイルの軸方向長さは、図11(a)の単一のコイル巻線44の巻数/コイルの軸方向長さと同じに設定される。上記の例では、コイル巻線44も、コイル巻線43も、巻数/コイルの軸方向長さ=600ターン/13.77mm=200ターン/4.923mmに設定される。
したがって、増幅器13から入力される駆動電流が同じならば、図11(a)の駆動コイル40が発生する磁界の強さも、図11(b)の駆動コイル41の各コイル巻線43が発生する磁界の強さも同じで、磁歪可動素子50の伸縮は同じとなる。このとき、図11(b)の増幅器13の2本の出力端子間の電圧は、図11(a)の場合の1/3となる。したがって、出力電流は図11(a)も(b)も同じであるので、出力電力を1/3に低減することができる。また、図11(b)の各コイル巻線43のインダクタンスは図11(a)のコイル巻線44のインダクタンスより小さいので、より大電流を流すことが可能となる。
駆動コイルを、並列接続される「複数のコイル巻線」とする場合、その複数の数と、「複数の磁歪素子」の複数の数とを同じにしなくてもよい。例えば図11の例で、3つの磁歪素子に対し、並列接続された2つのコイル巻線としてもよい。
このように、軸方向の両端にそれぞれバイアス磁界用磁石が配置される複数の磁歪素子を軸方向に沿って配列し、各磁歪素子の軸方向伸縮量の合計が全体の軸方向伸縮量となる磁歪可動素子を用いることで、交流磁界入力に対する交流変位出力の線形性の範囲を広くすることが可能となる。したがって、広範囲の交流磁界入力が可能となって、より大きな出力を得ることができる。また、ダンピング樹脂を適当に用いることで、余分の振動を抑制し、入力信号に対する出力信号の線形性を維持することができる。さらに駆動コイルを熱伝導性樹脂で封入することで大きな出力に伴う発熱を抑制することができる。
4,5 入力交流磁界、6 出力交流変位、10,50 磁歪可動素子、12 駆動コイル、13 増幅器、14 交流電源、16 容量型変位計、20 磁歪素子アクチュエータ、30 ケース、31 開口穴、32 底板、33 溝、34 蓋、35 蓋本体、36 ヘッド、37 軸受、38 樹脂カバー、39 ネジ部、40,41 駆動コイル、42 ボビン、43,44 コイル巻線、46 軸穴、47,48 位置決め部、52 磁歪素子、54 ネオジ磁石、60,61 素子カバー、70 出力可動子、72 振動受板、74 可動ロッド、76 コイルバネ、90,92 ダンパー樹脂、94 可撓性樹脂、95 樹脂注入穴、96 熱伝導性樹脂。