JP3127272B2 - 高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents

高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法

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JP3127272B2 JP04188406A JP18840692A JP3127272B2 JP 3127272 B2 JP3127272 B2 JP 3127272B2 JP 04188406 A JP04188406 A JP 04188406A JP 18840692 A JP18840692 A JP 18840692A JP 3127272 B2 JP3127272 B2 JP 3127272B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フェライト系ステンレ
ス鋼熱延板表面に発生することがある、いわゆるスケー
ル疵を効果的に防止する技術に関する。さらに詳しく
は、フェライト系ステンレス鋼の中でも、Ti及び/ま
たはMoを比較的多量に含有する、いわゆる高耐食性フ
ェライト系ステンレス鋼の熱延スケール疵を抑制するこ
とを目的としたスラブ加熱方法を提供しようとするもの
である。
【0002】
【従来の技術】フェライト系ステンレス熱延鋼板の表面
にいわゆるスケール疵が発生すると、その疵が熱延板の
酸洗後も残存し、さらに冷間圧延後の材料表面にも引き
継がれ、この種のステンレス鋼薄板の重要な特性である
表面の美観や耐食性を著しく損なうことから、熱延板表
面にスケール疵が発生すると、これを除去すべく酸洗あ
るいは研削等の表面調整工程を増加させることを余儀な
くされていた。ことに、Ti及び/またはMoを含む、
いわゆる高耐食性フェライト系ステンレス鋼にあって
は、酸に対する溶解速度が遅いことから、こうした製造
工程の作業負荷は著しく大きなものとなり、生産効率を
極端に低下させる主原因となっているのが現状である。
【0003】熱延板表面に生じるスケール疵にはいくつ
かの形態が認められるが、その断面は微小なヘゲ状を呈
しており、金属の「かぶさり」の下に酸化物が食い込む
形で存在しているものが大多数である。しかして、従来
から熱延板表面にこうした疵が生じることを抑制する技
術がいくつか開示されている。
【0004】例えば、特開昭58−29897号公報に
は、スケール疵及び割れ疵が熱間圧延中のロールと材料
間の機械的作用及びそこでの環境に支配される電気化学
的な作用に影響されると言う考え方から、燐酸塩、酢酸
塩、炭酸塩、安息香酸塩、金属石鹸及び燐酸エステルの
1種または2種以上を適度な範囲で含む水溶液を適当
量、粗熱延入り側で材料表面に塗布して、熱延板表面に
微小疵が発生することを抑制する技術が開示されてい
る。また、特開昭58−116903号公報には、Fe
2 3 、Fe3 4 の潤滑作用を利用してマルテンサイ
ト系ステンレス鋼の熱延疵の発生を抑制すべく、仕上圧
延に先立って上記酸化物(スケール)生成過程を採る方
法が開示されている。
【0005】さらに、特開昭60−170503号公
報、特開昭60−174201号公報、特開昭60−1
74202号公報、特開昭60−184405号公報、
特開昭60−187404号公報及び特開昭63−25
4195号公報には、熱延疵の発生は、材料と圧延ロー
ル表面の焼き付きにその原因があるとの観点から、スケ
ールが完全に剥離して金属表面が露出した部分に、圧延
中にスケールを再生させるべく、パス間で材料を加熱す
ること、パス間で材料を加熱するに際して水蒸気、酸素
ガスの1種または2種を吹き付けてスケールの再生を助
長させること、さらに鉄の水酸化物を水または圧延油に
懸濁したものを材料表面に適用してスケールの再生を助
長させること、鉄の水酸化物に代えてカルボン酸を水ま
たは圧延油に懸濁したものを材料表面に適用してスケー
ルの再生を助長させること、また鉄の酸化物の潤滑作用
を利用する熱間圧延潤滑材として酸化鉄粉末を水溶性で
ない高分子化合物と混合させた組成物を材料表面に適用
することが開示されている。
【0006】また、特開昭61−44120号公報に
は、熱延板の表面疵は粒界割れに起因するという立場か
ら、粒界割れを抑えるためにスラブ表面にMo化合物を
適当量付着させてから加熱し、熱間圧延するようにした
プロセスが開示されている。しかしながら、これら先行
技術は、いずれも圧延工程の途中で異物を混入させるか
または特別の加熱装置あるいは懸濁液等の吹き付け、塗
布工程を必要とし、熱間圧延工程における作業負荷の増
大が避けられない。また、スラブに塗布剤を付着させる
場合には、加熱段階、わけてもスラブの下面の塗布剤の
剥離によって効果が消失するという問題がある。さら
に、これら先行技術は、熱延板表面の微小疵が圧延ロー
ルと材料の焼き付きあるいは粒界割れのいずれかに起因
するとしたときの対策であるけれども、熱延板表面の微
小疵は、このような原因によると考えられるものもある
が、本発明者らの詳細な観察によれば、大多数は材料表
面の熱間圧延スケールの存否に関わらず発生しており、
前記原因以外の原因によるものであることが強く示唆さ
れた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特にTi及
び/またはMoをある特定量を超えて含有する、いわゆ
る高耐食性フェライト系ステンレス鋼の熱延板表面にお
けるスケール疵の発生を抑え、熱間圧延に次ぐ酸洗後の
再酸洗や表面研削等の作業負荷の増大の問題を効果的に
解決し、良好な表面性状を有するフェライト系ステンレ
ス鋼板を可及的に低いコストで製造し得る製造方法を提
供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするとこ
ろは、重量%で、少なくとも C+N:0.1%以下 Cr:13%以上からなり、さらに Ti及び/またはMoを5×Ti%+Mo%で1%を超
える量含有するフェライト系ステンレス鋼のスラブを、
残留酸素濃度(O2 %)4.5vol.%以下で、かつ露点
(DP)が DP(℃)<−10・log O2 %+60 を満たす雰囲気中で、下記式を満足する加熱温度、均熱
時間で加熱及び均熱する過程を有することを特徴とする
高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法にあ
る。
【0009】 t≦8Cr%−0.38(T−1100)+10 ここで、T:スラブ加熱温度(℃) t:スラブ均熱時間(分) Cr%:スラブのCr濃度(%) 以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】本発明者等は、フェライト系ステンレス鋼
の熱延板表面のスケール疵発生の原因を解明すべく、加
熱炉出側、熱間圧延工程における粗圧延機出側、仕上圧
延後及び酸洗後の各段階における材料表面を徹底的に調
査し、いくつかの再現実験も試みた結果、以下のような
知見を得た。 1)スラブ加熱炉出側におけるスラブ表面は、疵の出易
い鋼種では、瘤状の形態の酸化スケールが多数認められ
るか、もしくはスケールが極端に厚いところと薄いとこ
ろとが混在した状態であり、瘤状のスケールや極端に厚
いスケールの下は、周りよりも酸化が深く進行している
ため、結果として金属表面はその部分で窪んでいる。こ
れに対し、疵の出難い鋼種では、全面が、素材の酸化抵
抗に応じてその厚さは異なるものの、数百μm 〜数十μ
m 程度の一様な厚さのスケールで覆われ、結果として金
属表面は凹凸が少ない。
【0011】2)前記の瘤状のスケール或いは極端に厚
いスケールは、いずれも二層構造であり、外層はFeに
富む酸化物であって、内層は密着性の良いCrに富む酸
化物である。この外層酸化物と内層酸化物の境界は元の
金属表面位置にほぼ対応している。 3)スラブ加熱炉の出側におけるスラブ表面に存在する
前記酸化物起因の金属表面の窪みは、粗熱間圧延でその
縁が延ばされて「かさぶた」状になってその下の酸化物
を覆う形となり、さらに仕上圧延においてこの形態が広
がるとともに板厚方向においては浅くなり、微小なヘゲ
状でその下には酸化物が食い込んだ形の表面疵となる。
この状況は、実験室的にも再確認された。
【0012】4)酸洗後の材料表面に認められるスケー
ル疵は、大部分が前記3)項に述べた表面疵と酷似して
おり、微小ヘゲ状でその下には酸化物が存在している。 5)前記1)項で説明した材料金属表面に激しい凹凸を
もたらす不均一な酸化形態は、実験室的な耐酸化性が良
好な鋼種において発生し易く、また実際の熱延板の表面
疵もこうした鋼種で発生頻度が高い。
【0013】これらのことから、本発明者らは、熱延板
表面に発生するスケール疵は、スラブ加熱段階での酸化
によって生じる表面の凹凸が圧延によって延ばされて発
生するものとの知見を得、スラブ加熱段階でこうした酸
化形態を制御して一様な厚さの酸化物(スケール)を形
成させると、フェライト系ステンレス鋼においてはスラ
ブ表面の形状がより平滑なものとなり、こうした状態で
熱間圧延を開始した場合、鋼の成分や熱間での変形抵抗
の如何に拘らず、スケール疵の発生を著しく抑制し得る
との結論を得るに至った。
【0014】そこで上述の結論に基づいてさらに、加熱
段階で金属表面が平滑な酸化形態となるようなスラブ加
熱条件を、種々のフェライト系ステンレス鋼について検
討したところ、概略以下のような知見を得た。表面酸
化形態には、加熱温度、加熱時間に加えて加熱雰囲気が
影響するが、特に加熱雰囲気中の残留酸素濃度と水蒸気
分のバランスが最も顕著に酸化形態に影響する。
【0015】実験室的な耐酸化性が良好で、疵の出易
い鋼種では、スラブ加熱炉のような燃焼排ガス中では、
雰囲気中の酸素濃度が高くなると前述したような表面凹
凸の激しい瘤状の酸化形態となる傾向がある。同様
に、水蒸気分(露点)も表面酸化形態に及ぼす影響が大
きいが、鋼材組成によってその影響の方向が異なり、よ
り具体的には、Ti及び/またはMoの含有量が5×T
i%+Mo%で1%以下の場合は低露点側で瘤状酸化形
態となり易いのに対し、5×Ti%+Mo%が1%を超
えるとむしろ高露点側で瘤状酸化物が発生し易くなる。
【0016】5×Ti%+Mo%が1%以下では、雰
囲気を低酸素濃度かつ高露点側とすると、短時間の内に
瘤状の酸化物が多数発生し、これらが拡大成長して互い
に連結してスラブ全面を覆うため、結局スラブ全面には
500μm 程度の厚い二層の酸化スケールが形成し、結
果として金属表面の平滑化が達成される。これに対し、
5×Ti%+Mo%が1%を超えて含まれるフェライト
系ステンレス鋼スラブにおいては、酸素濃度と露点の双
方を同時に低下させた場合に瘤状酸化物の発生自体が抑
えられ、図1に示すような表面が平滑な酸化形態が得ら
れる。この場合のスケールは、数十μm 以下の比較的薄
い一層のものとなる。
【0017】即ち、一般に、燃焼排ガスを雰囲気とする
スラブ加熱炉中におけるステンレス鋼スラブの酸化は、
通常の耐熱用途の使用環境下での酸化に比べその速度が
著しく速く、従ってステンレス鋼の耐熱性を発揮せしめ
る使用環境下で問題となる、いわゆる異常酸化現象、即
ちCr2 3 主体の保護性酸化皮膜が破壊されて、外層
はFe2 3 やFe3 4 を主体とする酸化物層が、ま
た内層は保護性が低下したCrリッチの厚い酸化物が形
成され、酸化に対する抵抗が著しく低下したものとな
る。ステンレス鋼の加熱初期においては、それらが局所
的であるため外観が瘤状に見えることから、異常酸化ノ
ジュールと呼ばれ、図2に示すように、この部分の金属
表面は凹部(1)となる。このような酸化現象がスラブ
加熱炉内においては支配的であり、この異常酸化ノジュ
ールがスラブ表面に点在している状態でスラブを加熱炉
から抽出して熱間圧延すると、スケール疵が多発するこ
ととなる。
【0018】前記異常酸化ノジュールは、通常のフェラ
イト系ステンレス鋼では加熱時間や加熱温度等の環境側
条件とともに拡大成長し、互いに連結してスラブ全面が
厚い二層のスケールで覆われ、図3に示すような状態に
なるのである。ところが、Ti及び/またはMoを特定
量を超えて含んだ、いわゆる高耐食性フェライト系ステ
ンレス鋼にあっては、スラブ加熱炉雰囲気のような炭化
水素系燃料の燃焼ガス中においては、異常酸化ノジュー
ルの発生は認められるものの、これらが互いに連結して
厚い二層のスケールとなることは、実操業程度である1
300℃以下の温度範囲や3時間以下程度の加熱時間範
囲内では起こらないのである。従って、前述したスラブ
加熱炉内でのスラブ表面の酸化形態に起因するスケール
疵を抑制するためには、異常酸化ノジュールを発生させ
ない、即ち図1の如き形態の表面を達成するスラブ加熱
条件とすることが、Ti及び/またはMoを特定量を超
えて含有する高耐食性フェライト系ステンレス鋼にあっ
ては重要なのである。
【0019】本発明者らはこうした観点から、前述した
ように、スラブ表面酸化形態制御方法としてのスラブ加
熱条件を種々検討した結果、加熱温度及び加熱時間とと
もに加熱炉中の酸化雰囲気の実際の酸素濃度と水蒸気分
(露点)とのバランスが重要な役割を持ち、さらに鋼材
成分に基づくスラブの酸化抵抗も密接に関係し、これら
の要因をある範囲内に制御することで、スケール疵の原
因となるノジュール状酸化物の発生を抑止可能であるこ
とを明らかにして本発明に至った。
【0020】しかるに、加熱炉中でスラブが最高温度に
保定される均熱帯における雰囲気中の室温における酸素
濃度の実測値がvol %で4.5を超えると、異常酸化ノ
ジュールの発生を抑えることが困難となり、この場合異
常酸化ノジュールの発生を抑えるには加熱温度や時間に
もよるが、露点は概ね15℃以下と通常の大気程度の水
蒸気分にまで下げる必要があり、炭化水素系燃料を利用
する加熱炉の雰囲気としては、事実上実現不可能であ
る。従って、本発明にあっては、加熱炉雰囲気中の酸素
濃度は4.5vol %以下とする。
【0021】さらに、たとえ酸素濃度が4.5%以下で
あっても、5×Ti%+Mo%が1%を超える鋼にあっ
ては、露点が相対的に高い場合には異常酸化ノジュール
が発生し易くなるため、露点(DP)と酸素濃度(O2
%)との間には、 DP(℃)<−10・ logO2 %+60 なる関係を満足するような雰囲気とすることが必要とな
る。
【0022】さらにこのような関係を満たす雰囲気下で
あってもなお、素材の成分系に基づく酸化抵抗によっ
て、スラブ表面の酸化形態は大きく左右されるため、加
熱温度と均熱時間をこうした酸化抵抗と関連づけたある
範囲内に制御する必要がある。上記雰囲気条件は13%
以上のCrに加え、Ti及び/またはMoを5・Ti%
+Mo%で1%を超えて含有するフェライト系ステンレ
ス鋼についてのものであり、この場合には素材成分に由
来する酸化抵抗は本発明においては、そのCr量で整理
され、加熱温度T(℃)と均熱時間t(分)は、Cr濃
度との関係において t≦8×Cr%−0.38(T−1100)+10 (Cr%:鋼中のCrのwt%) なる関係を満足する必要がある。
【0023】即ち、5×Ti%+Mo%が1%を超え
る、いわゆる高耐食フェライト系ステンレス鋼にあっ
ては、上述したような雰囲気、温度時間範囲内でのスラ
ブ加熱であれば、前述した如きスケール疵の原因となる
ような異常酸化の発生を抑えることが可能であるが、た
とえ加熱雰囲気側条件が満たされた場合でも、加熱時
間、及び均熱温度が鋼材の酸化抵抗と関係付けられる上
式の範囲を超えた場合には、異常酸化が発生するため、
結果としてスケール疵の発生を抑えることが困難とな
る。
【0024】さらに、本発明に言う、スケール疵は前述
したように、スラブ加熱炉内での表面酸化形態にその原
因があり、これを制御してスラブの金属表面をより平滑
な状態のままで熱間圧延工程に供給しようとするもので
あるが、この場合スラブ金属表面の酸化による凹凸防止
対策としては、一つには異常酸化ノジュールを発生させ
ない手段があり、さらにもう一つの対策として、異常酸
化ノジュールを互いに連結させ全面を異常酸化状態とす
る手段がある。この両者とも熱延板のスケール疵防止に
有効であることが本発明者らの検討によって明らかとな
っているが、本発明が対象とするTi及び/またはMo
を5×Ti%+Mo%で1%超含有するフェライト系ス
テンレス鋼では、後者の手段、即ち全面を異常酸化状態
とすることは困難であることが知見された。これは、T
i及びMoの耐酸化性向上効果によるためと解釈され
る。それ故、本発明は前者、即ちスラブ加熱炉内で異常
酸化ノジュールを発生させない手段を、その加熱条件と
して提供するものである。従って、この種のステンレス
鋼のスラブ加熱近似条件において異常酸化ノジュールを
発生させ易くするC及びN量には上限値が存在し、本発
明にあってはC%+N%で0.1%以下となる。
【0025】Ti及びMoに関しては、上述した通り、
異常酸化ノジュールの発生を抑制する作用があるが、そ
の効果は通常のスラブ加熱条件の変動範囲内では完全で
はない。さらに、5×Ti%+Mo%が1%を超える場
合とそれ以下の場合では、前述したように、スラブ加熱
後の金属表面をより平滑なものとするための方向が異な
ってくる。つまり、5×Ti%+Mo%が1%以下の場
合は、異常酸化ノジュールが発生し易いため、スラブ加
熱条件を酸化が促進される方向、即ちより具体的には、
酸素濃度を極力低下させかつ水蒸気分を増加させるよう
な雰囲気条件とすることが対策として有効であるが、5
×Ti%+Mo%が1%を超える場合には、異常酸化は
発生するもののこれらが全面を覆うような形態とするの
は容易ではない。それ故、この場合には本発明に規定す
る雰囲気条件、加熱温度及び均熱時間とする必要があ
る。
【0026】Crについては、その含有量が13%未満
である場合は、Ti及びMoの含有量によらず疵の発生
がそれほど顕著ではなく、また熱延後の酸洗工程での酸
による表面溶解速度が比較的速いため、通常の操業条件
下でスケール疵の発生が問題となることがほとんどな
い。従って、Cr量が13%未満の鋼は本発明の対象外
とする。
【0027】また、他の成分元素については、通常この
種のフェライト系ステンレス鋼に添加される成分範囲或
いは不可避的に混入する範囲内であれば問題なく、ま
た、加熱前のスラブの表面状態も、鋳放しままの鋳肌或
いはグラインダー等によって手入れされた研削表面等、
通常の製造プロセスにおけると同様の表面のスラブを出
発材とすることができる。
【0028】前記以外の加熱炉抽出を含めた熱間圧延工
程は常法に従って行えば良く、熱延中に特別の酸化時間
や酸化促進剤の供給等を必要としない。本発明に従って
フェライト系ステンレス鋼薄板を製造する場合には、熱
間圧延後の表面のスケール疵の低減効果が著しく、従っ
て良好な表面性状の高耐食性フェライト系ステンレス鋼
板をより容易に製造することが可能となる。
【0029】
【実施例】表1に化学組成を示すA、Eの2種のフェラ
イト系ステンレス鋼スラブの表層から、厚さ10mm、幅
30mm、長さ80mmの角材を採取し、スラブ表層のオシ
ュレーションマーク部をグラインダーで研削除去した
後、酸素濃度と水蒸気分(露点)を制御したガソリンの
燃焼排気ガス中で加熱し、表面の酸化形態を観察した。
なお、E鋼は本発明の対象外の組成からなるフェライト
系ステンレス鋼である。
【0030】この結果を表2の「酸化形態」欄に示す。
この場合、加熱温度と均熱時間は全てCr量から決定さ
れる本発明の範囲内の条件とした。同表から本発明の対
象鋼種であるA鋼では、酸素濃度に対して露点が相対的
に高い(言い替えれば、露点に対して酸素濃度が高い)
場合、或いは露点に関わらず酸素濃度が4.5%を超え
た場合、表面の酸化形態はいわゆる瘤状(ノジュール
状)酸化となり、このため金属表面は凹凸の激しいもの
となる。一方Ti及びMoが実質上無添加であるE鋼で
は、酸化抵抗が相対的に低いため、本発明の範囲外の雰
囲気条件(酸素濃度と露点のバランス)であっても、い
わゆる異常酸化状態が全面に及ぶため、結果として金属
表面は平滑なものとなる。但し、この場合は、数百μm
に及ぶ厚い二層のスケールが形成し、外層側は加熱炉抽
出後、容易に剥離する。また、この鋼では、逆に本発明
の範囲内の雰囲気条件としてもノジュール状酸化形態が
残り、金属表面は著しく凹凸の激しいものとなる。本発
明における雰囲気条件の決定根拠の一例はここにある。
【0031】さらに、厚さ50mm、幅100mm、長さ2
00mmの角状試験片を上記と同様に、A及びEについて
採取し、スラブ表層側表面の酸化形態を変化させるため
に、表3中に示す加熱条件で同時に2個づつ加熱後、1
個は表面酸化形態を調査するためにそのまま放冷し、残
りのものを直ちに熱間圧延した後、表面の疵発生状態を
調査した。熱間圧延に際しては、加熱炉抽出後、直ちに
表面の剥離スケールを治具で除去するとともに、研磨し
たワークロールを試験片3個毎に用いた。また、パス回
数11回で圧下率は15〜35%の範囲とし、最終パス
温度は880〜940℃の範囲で、最終板厚3.2mmに
仕上た。こうして得られた熱延板の長手方向の中央の長
さ1.5mについて、ショットブラストで粗デスケール
処理した後、70℃の硝酸と弗酸の混合溶液中で60秒
酸洗デスケール処理したスラブ表層側表面のスケール疵
発生状況を目視調査した。結果を表3中に示す。
【0032】この場合も、A鋼において、雰囲気条件が
本発明の範囲内にあるA−2〜4の場合には、加熱後の
表面にはノジュール状の酸化形態は認められず、金属表
面は平滑な状態を維持したままであるため熱延後・酸洗
後の表面にはスケール疵の発生は認められない。また、
成分が本発明の対象外にあるE鋼では、先と同様雰囲気
条件が本発明の範囲内にあるE−3であっても、ノジュ
ール状酸化形態が発生し、酸洗後の熱延板にはスケール
疵が多数認められる。
【0033】以上の実施例から、熱延前の加熱時にいわ
ゆる異常酸化ノジュールが発生すると、熱延後の板表面
にはスケール疵が発生すること、及び5×Ti%+Mo
%が1%を超えるフェライト系ステンレス鋼にあって
は、本発明に規定する雰囲気条件で加熱することが、こ
うしたスケール疵発生を抑制する効果の大きいことが明
らかである。
【0034】次に表1に化学組成を示した、本発明が対
象とするA、B、C及びD鋼のスラブ表層から、前述し
たと同様の要領で採取した厚さ10mm、幅30mm、長さ
80mmの試験片を採取し、酸素濃度0.9〜1.3vol.
%、露点54℃に制御したガソリン燃焼排気ガス中で、
加熱温度及び時間を変化させて加熱した後の、スラブ表
層側表面の酸化形態を目視観察した。結果を加熱条件と
ともに表4に示す。
【0035】同表からわかるとおり、加熱温度に対して
その温度での保定時間(均熱時間)がある範囲を超える
(言い替えれば、均熱時間を一定にした場合、加熱温度
がある範囲以上になる)と、たとえ雰囲気条件が本発明
範囲内にあっても、異常酸化ノジュールの発生を抑える
ことが困難となる。この均熱時間の限界はCr量によっ
て変化し、Cr量が高いほど均熱時間範囲が広がる。本
発明に規定する加熱温度、均熱時間とCr量との相関関
係の根拠の一例がここにある。
【0036】次に、実機生産ラインにて実施した例につ
いて説明する。表5に化学組成を示すF及びGの2種の
フェライト系ステンレス鋼の250mm厚CCスラブを、
LNG燃焼の加熱炉を用いて表6中に記載した種々の条
件で加熱した後、通常のフェライト系ステンレス鋼と同
様に、熱間圧延にて厚さ4mmの熱延コイルを製造し、デ
スケール処理した後、表裏面についてスケール疵発生の
有無を観察した。結果を表6中に併記する。この場合の
スケール疵発生状況の判定は、熱延コイル全長を長さ1
m毎の区画に分け、スケール疵の発生した区画数を1本
の熱延コイルの全区画数で除した値を「スケール疵発生
率」として%単位で表示し、この値が2%未満のものを
「良好」と判定して○印で表示し、2%以上60%未満
のものを×印で、また60%以上の「重度発生」のもの
を××印で表示した。なお、この場合、1本の熱延コイ
ルにおける全区画数はいずれも表裏合計で700程度で
あった。
【0037】この結果からも、本発明の方法に従って製
造した場合には、フェライト系ステンレス鋼のスケール
疵を防止する効果が大きいことが明らかである。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【発明の効果】以上述べたように、フェライト系ステン
レス鋼板の製造に当たって本発明の方法を採用すること
により、熱延板表面に発生しやすいスケール疵を著しく
低減できる。これにより、フェライト系ステンレス鋼熱
延板の表面品質は向上し、またスケール疵を除去するた
めの工程を省略可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関わるフェライト系ステンレス鋼をス
ラブ加熱炉内で熱延のために加熱した際、その表面に発
生する酸化状況の一例を示す断面の金属顕微鏡写真の模
式図である。
【図2】フェライト系ステンレス鋼をスラブ加熱炉内で
熱延のために加熱した際、その表面に発生する酸化状況
の一例を示す断面の金属顕微鏡写真の模式図である。
【図3】フェライト系ステンレス鋼をスラブ加熱炉内で
熱延のために加熱した際、その表面に発生する酸化状況
の一例を示す断面の金属顕微鏡写真の模式図である。
【符号の説明】
1 スラブ金属表面 2 金属部(スラブ) 3 比較的薄い一層の保護性酸化皮膜 4 異常酸化ノジュール 5 酸化によって形成された金属表面の凹部 6 異常酸化が全面を覆った厚い二層スケール 7 外層側スケール 8 内層側スケール
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 三上 尚史 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1番1号 新日本製鐵株式会社 八幡製鐵所内 (56)参考文献 特開 昭62−13527(JP,A) 特開 平3−277714(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/02,9/46 C21D 6/00,9/00 C22C 38/00 - 38/60

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、少なくとも C+N:0.1%以下 Cr:13%以上からなり、さらに Ti及び/またはMoを5×Ti%+Mo%で1%を超
    える量含有するフェライト系ステンレス鋼のスラブを、
    残留酸素濃度(O2 %)4.5vol.%以下で、かつ露点
    (DP)が DP(℃)<−10・log O2 %+60 を満たす雰囲気中で、下記式を満足する加熱温度、均熱
    時間で加熱及び均熱する過程を有することを特徴とする
    高耐食性フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。 t≦8Cr%−0.38(T−1100)+10 ここで、T:スラブ加熱温度(℃) t:スラブ均熱時間(分) Cr%:スラブのCr濃度(%)
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