JP3093053B2 - 醗酵乳の調製方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は高圧処理を施したスター
ターを用いて醗酵乳を調製する技術に関する。この明細
書で示す％は、すべて重量％である。

【０００２】

【従来の技術】従来、乳酸菌特にビフィズス菌スタータ
ーを用いて、醗酵乳を製造する場合、ビフィズス菌が産
生する酢酸が、風味によくないことは知られていた。事
実、醗酵乳では乳酸菌が生きているため、製造後の保存
中にも酸を生成し（この現象をアフターアシディフィケ
ーションという）酸味による風味の欠陥を来す。醗酵乳
のアフターアシディフィケーションを防止する方法とし
てさまざまな試みがなされている。

【０００３】例えば、生菌の栄養成分となる乳中の乳糖
を予めラクターゼ処理によって必要最少量に迄低下させ
ておき不用な醗酵を抑制したり、醗酵終了後に加熱して
乳酸菌や酵母を殺菌してしまうなどである。

【０００４】更に出願人はすでに、特開平４−７５５５
５において、醗酵乳製造後に高圧処理をおこなって、保
存や流通過程でのアフターアシディフィケーションを防
止し、醗酵乳の風味を損なわないようにする技術を開示
している。

【０００５】しかしラクターゼを用いる方法は、残存さ
せる乳糖の量の調節が意外にむつかしく、少なすぎると
醗酵時間が長くなり生産性が劣るし、多すぎると所望の
醗酵が終了してもなを生菌は活性を維持して酸度が上昇
してしまうと云うことになる。

【０００６】また加熱による方法はカゼイン粒子の収
縮、ホエー分離など醗酵乳としての製品それ自体の組織
に影響を及ぼし易くこれも適用に問題があった。

【０００７】そして、前記の高圧処理方法も、醗酵終了
後の製品の全量を処理するものであり、かつ有効に適用
するには圧力を２０００ｋｇ／ｃｍ²（２００ＭＰａ）
以上にすることが好ましいなど、実用技術としては問題
がない訳ではなかった。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】本発明では、高圧処理
技術を応用して醗酵乳の酢酸生成を抑制するスターター
ならびにこれを乳成分含有物に接種して、酢酸の生成を
抑え、優れた風味の醗酵乳の製造方法を提供することを
課題とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】本出願人は、更に高圧処
理技術の応用を研究し、そのなかで、醗酵乳製品そのも
のに対してではなく乳酸菌スターターを高圧処理した
後、この乳酸菌スターターを醗酵乳原料に接種し、醗酵
させることが本発明の目的に極めて好適であることを見
出した。すなわち、本発明の醗酵乳調製用の加圧処理ス
ターターは、乳成分を含む培地にビフィドバクテリウム
属に属する微生物を接種して培養を行って得られた醗酵
乳調製用のスターターに、１００から１７５ＭＰａの圧
力で、該スターターを用いた醗酵乳中での酢酸の生成が
抑制される時間での加圧処理を行うことによって得られ
た加圧処理スターターであって、 該加圧処理スターター
を用いた醗酵乳中での酢酸の生成が、加圧処理しないス
ターターを用いた場合に対して抑制されていることを特
徴とするものである。 また、本発明にかかる醗酵乳調製
用の加圧処理スターターの製造方法は、醗酵乳調製用の
加圧処理スターターの製造方法であって、 乳成分を含む
培地にビフィドバクテリウム属に属する微生物を接種し
て培養を行い醗酵乳調製用のスターターを得る培養工程
と、該スターターに、１００から１７５ＭＰａの圧力
で、該スターターを用いた醗酵乳中での酢酸の生成が抑
制される時間での加圧処理を行い加圧処理スターターを
得る工程と、を有し、 該加圧処理スターターを用いた醗
酵乳中での酢酸の生成が、該加圧処理によって、加圧処
理しないスターターを用いた場合に対して抑制されてい
ることを特徴とする。また、本発明にかかる醗酵乳の調
製方法は、上記の製造方法で得られた加圧処理スタータ
ーを、乳成分含有物に接種して醗酵を行わせることを特
徴とする酢酸の生成が抑制されている醗酵乳の調製方法
である。 本発明において、高圧処理が有効である為には
一定以上の圧力を要するが、それ程強いものでなくてよ
い。本発明において用いられる圧力は、上述のとおり１
００〜１７５ＭＰａであり、より好適な範囲は、１２０
〜１６０ＭＰａである。圧力が１００ＭＰａより低い
と、酢酸の生成が抑えられないし、また１７５ＭＰａよ
り高いと高圧処理後の乳酸菌生菌数が少なくなり醗酵時
間が遅延して通常の時間内に醗酵が行なわれず、正常な
生産に支障をきたす。

【００１０】本発明の方法が適用可能な微生物はビフィ
ドバクテリウム（Ｂｉｆｉｄｏｂａｃｔｅｒｉｕｍ）属
に属する微生物で、このような微生物としてはＢ．ｌｏ
ｎｇｕｍ，Ｂ．ｂｒｅｖｅ、Ｂ，ｂｉｆｉｄｕｍなどを
あげることができる。

【００１１】加圧処理したスターターを接種する乳とし
ては、従来原料として用いられていたものをすべて用い
ることが出来、牛乳、山羊乳あるいは水牛乳等が挙げら
れる。すなわち本発明はヨーグルト、ケフィアーあるい
はドリンクヨーグルトなど液状醗酵乳はもちろんハード
タイプでもソフトタイプでも醗酵乳の製造方法に適用で
きる。

【００１２】一層具体的に説明すると、一例として、約
１１％濃度の脱脂乳又は脱脂粉乳を調製し、これに酵母
エキスを０．５％量及びアスコルビン酸ソーダを０．１
％量加え、約９５℃で２０分間程度殺菌し３２〜３７℃
程度に冷却してスターター用培地を調製する。次いでこ
れにビフィズス菌を含む乳酸菌培養物を、培地に対し約
５％量接種しよく混和する。次いでこれを高圧処理用軟
包材に分注しヘッドスペースを窒素ガスで置換しヒート
シールで密封する。そして３２℃の温度で、１６時間培
養する。この培養物を高圧処理する。加圧圧力は１００
から１７５ＭＰａの間で行なう。乳酸菌スターターを二
種以上用いるならば高圧処理したビフィズス菌スタータ
ーと他のスターターを併用して添加してもよい。この高
圧処理を行なったビフィズス菌を含む乳酸菌スターター
等を殺菌した醗酵乳原料に３〜１０％量加えて、３２〜
３７℃の温度で、１６時間前後培養して醗酵乳を製造す
る。こうすると酢酸生成量がきわめて抑制された醗酵乳
が得られるので風味の優れた醗酵乳となる。

【００１３】以下、実施例を示して詳しく説明する。

【００１４】

【実施例】１１．５３％濃度の脱脂乳を殺菌後、高圧処
理用軟包材袋に無菌的に充填し、常法により脱脂乳で培
養を行なったＢ．ｌｏｎｇｕｍを５％添加する。ヘッド
スペースを窒素ガスで置換し、ヒートシール後３２℃で
１６時間培養した物を高圧処理用試料とした。これを、
加圧圧力０（コントロール），１００，１２５，１５
０，１７５，２００ＭＰａのそれぞれで処理したもの
を、Ｂ．ｌｏｎｇｕｍスターターとした。この高圧処理
Ｂ．ｌｏｎｇｕｍスターターとする本発明の実施品と、
対照品とするためのＬａｃｔｏｂａｃｉｌｌｕｓ ａｃ
ｉｄｏｐｈｉｌｕｓ，Ｓｔｒｅｐｔｏｃｏｃｃｕｓ ｔ
ｈｅｒｍｏｐｈｉｌｕｓ菌を含む普通に用いられている
二種混合乳酸菌培養物をそのまま加圧することなくスタ
ーターとしてそれぞれ用い８時間まで醗酵を行ない醗酵
乳を製造した。尚、醗酵乳を製造するための醗酵時間は
通常は５〜５．５時間であるが本発明では、効果の確認
のため８時間まで延長して行なったものである。その醗
酵中の酢酸濃度の経過を図１に示す。いずれの加圧処理
も温度は１０℃以下を維持しながら、また加圧時間は、
所定圧力到達後１０分とした。１５０ＭＰａ以上の加圧
を行なったＢ．ｌｏｎｇｕｍを用いた場合、酢酸はほと
んど生成していない。コントロール（対照）と比較して
１００ＭＰａから酢酸の生成量が減少し、１５０ＭＰａ
では殆ど酢酸生成の増加がみられない。

【００１５】また、得られた醗酵乳の官能検査を行ない
本発明の醗酵乳（１２０ＭＰａ処理スターター使用）の
風味を、従来の製造法による（加圧処理しない）醗酵乳
（二種混合）を対照として評価した。結果を表１に示し
た。その結果、統計的に評価したところ全ての評価項目
で、有意に好まれていることがわかった。数字は、−３
点から３点までの１点きざみで７段階評価を行なった際
の平均値を示す。

【００１６】

【表１】 表 １ ─────────────────────────────────── 評価項目 有意水準（５％） 本発明製品 従来法製品 （★） （酢酸６０mg/kg） （酢酸１２０mg/kg） ─────────────────────────────────── 香りの好ましさ （★） ０．４７ −０．１９ 酸味の強さ （★） −０．５３ １．４４ 酸味の好ましさ （★） ０．６６ −０．８１ 後味の好ましさ （★） ０．５６ −１．０６ 総合的なおいしさ （★） ０．７２ −０．５６ ─────────────────────────────────── （★）は有意水準５％で、対照製品と比較して有意に差
が認められたことを示す。 （パネル：一般嗜好型パ
ネル３２名（男１５，女１７））

【００１７】

【発明の効果】本発明によれば、ビフィドバクテリウム
属に属する微生物を含むスターターを高圧処理して製造
に用いることにより、醗酵乳製品中の酢酸の生成を抑制
し、風味の優れた醗酵乳が得られる効果がある。

【００１８】また本発明は製品全量を高圧処理するもの
でなく、醗酵乳調製用スターターだけを短時間高圧処理
すればよいから、生産能率も非常に高いという利点があ
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】製造中の醗酵乳の酢酸濃度変化を示す図。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 望月 英輔 埼玉県大宮市大字東新井710−50 (56)参考文献 特開 平４−75555（ＪＰ，Ａ) 特開 平４−88946（ＪＰ，Ａ) 特開 平６−98760（ＪＰ，Ａ) 特開 昭60−227635（ＪＰ，Ａ) 特開 平２−154638（ＪＰ，Ａ) 特公 昭45−35221（ＪＰ，Ｂ１) (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) A23C 9/123

Claims (5)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 乳成分を含む培地にビフィドバクテリウ
   ム属に属する微生物を接種して培養を行って得られた醗
   酵乳調製用のスターターに、１００から１７５ＭＰａの
   圧力で、該スターターを用いた醗酵乳中での酢酸の生成
   が抑制される時間での加圧処理を行うことによって得ら
   れた加圧処理スターターであって、 該加圧処理スターターを用いた醗酵乳中での酢酸の生成
   が、加圧処理しないスターターを用いた場合に対して抑
   制されている ことを特徴とする醗酵乳調製用の加圧処理
   スターター。
2. 【請求項２】 前記圧力が、１２０から１６０ＭＰａで
   ある請求項１に記載の加圧処理スターター。
3. 【請求項３】 醗酵乳調製用の加圧処理スターターの製
   造方法であって、 乳成分を含む培地にビフィドバクテリウム属に属する微
   生物を接種して培養を行い醗酵乳調製用のスターターを
   得る培養工程と、該スターターに、１００から１７５Ｍ
   Ｐａの圧力で、該スターターを用いた醗酵乳中での酢酸
   の生成が抑制される時間での加圧処理を行い加圧処理ス
   ターターを得る工程と、を有し、 該加圧処理スターターを用いた醗酵乳中での酢酸の生成
   が、該加圧処理によって、加圧処理しないスターターを
   用いた場合に対して抑制されていることを特徴とする醗
   酵乳調製用の加圧処理スターターの製造方法。
4. 【請求項４】 前記圧力が、１２０から１６０ＭＰａで
   ある請求項３に記載の加圧処理スターターの製造方法。
5. 【請求項５】 請求項３または４に記載の製造方法で得
   られた加圧処理スターターを、乳成分含有物に接種して
   醗酵を行わせることを特徴とする酢酸の生成が抑制され
   ている醗酵乳の調製方法。