JP3092174B2 - 炭素鋼の溶接方法 - Google Patents

炭素鋼の溶接方法

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JP3092174B2
JP3092174B2 JP03024921A JP2492191A JP3092174B2 JP 3092174 B2 JP3092174 B2 JP 3092174B2 JP 03024921 A JP03024921 A JP 03024921A JP 2492191 A JP2492191 A JP 2492191A JP 3092174 B2 JP3092174 B2 JP 3092174B2
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和夫 吉田
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石川島播磨重工業株式会社
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は炭素鋼の溶接方法に係
り、特に、溶接箇所の靭性向上を図る技術に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】一般に、比較的強度の高い引張り強度5
0kg/mm2級の炭素鋼あるいは低合金鋼を溶接する
と、溶接部の近傍に溶接熱の影響による硬化域が生成さ
れて、該硬化域が亀裂発生等の要因となり易い。
【0003】かかる不具合を防止する従来方法として、
被溶接材料の予熱温度を高める方法や、溶接後の冷却速
度を小さくする方法等が採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、いずれ
の方法であっても、溶接時の加熱とその直後の急冷とに
基づいて金属組織が変態するために、溶接熱影響部に靭
性を低下させる硬化域が発生する。
【0005】図3に基づいて説明すると、パーライト組
織である母材に溶接を施すと、溶接時の加熱によって加
熱された部分が、例えば加熱時にオーステナイト組織γ
に変態し、その後の急冷によって、オーステナイト組織
γが部分的にマルテンサイト変態し、硬度が高くなった
硬化域が形成される。
【0006】そこで、前述したように、溶接後の冷却を
遅らせるようにすると、オーステナイト組織γがフェラ
イト組織α及びパーライト組織Pの混合した金属組織と
なって、硬化域の形成が少なくなると期待されるが、冷
却時間を長く設定すると、結晶粒が大きなものとなっ
て、溶接熱影響部の靭性が回復するものの強度が低下し
てしまう。
【0007】また、溶接によって形成された溶融金属の
直後において、溶接金属の冷却を長い時間にわたって遅
らせることは、技術的に困難なものとなり、溶接作業の
実用性を損うものとなる。
【0008】本発明は上記事情に鑑みて提案されたもの
で、溶接箇所の靭性等の改善効果が確実に得られるとと
もに、容易に実施可能な方法の提供を目的とするもので
ある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を解決するため
の手段として、本発明に係る請求項1記載の炭素鋼の溶
接方法は、溶接トーチからの入熱によって炭素鋼の溶接
を行う工程と、溶接直後の溶接金属を前記溶接トーチの
進行と同期移動する誘導加熱コイルの内側に通し、該誘
導加熱コイルの各素線に接近するごとに前記溶接金属を
加熱することで該溶接金属を間欠的に加熱する工程と、
間欠的に加熱された溶接金属を徐々に冷却状態に導く工
程とを備えており、前記誘導加熱コイルの移動方向の長
さが、前記溶接トーチの移動速度と前記溶接金属にとっ
て必要な加熱時間との積によって設定され、前記誘導加
熱コイルの素線間ピッチが、誘導加熱コイルの移動方向
の長さと前記溶接金属にとって必要な加熱冷却の繰り返
し回数とに基づいて設定されることを特徴としている。
【0010】
【作用】請求項1記載の炭素鋼の溶接方法においては、
誘導加熱コイルの移動方向の長さが、溶接トーチの移動
速度と溶接金属にとって必要な加熱時間との積によって
設定されることで、溶接トーチの進行と同期移動する誘
導加熱コイルによってなされる溶接金属の間欠的な加熱
が、該溶接金属にとって必要な時間だけ行えるようにな
る。さらに、誘導加熱コイルの素線間ピッチが、誘導加
熱コイルの移動方向の長さと溶接金属にとって必要な加
熱冷却の繰り返し回数とに基づいて設定されることで、
溶接金属が加熱時間内に必要な回数だけ加熱冷却を繰り
返されるようになる。これにより、溶接箇所には結晶粒
が多い微細な金属組織が形成される。
【0011】
【実施例】図1は本発明に係る炭素鋼の溶接方法におけ
る実施状態のモデル図であり、図1において、符号1は
被溶接材(例えば引張り強さ50kg/mm2 級の炭素
鋼、STS49、SF50、SFV9等)、2は溶接ト
ーチ(例えばTIGトーチ)、3は溶融金属、4は溶接
金属、5は誘導加熱コイル、6は連結構造物である。
【0012】前記誘導加熱コイル5は、高周波電源等に
接続され、通電時の熱供給量が高周波電流の大きさによ
って設定される。そして、溶接トーチ2と誘導加熱コイ
ル5との離間距離Aは、溶接トーチ2の移動速度と加熱
開始時刻との積によって設定され、誘導加熱コイル5の
長さLは、溶接トーチ2の移動速度と加熱必要時間との
積によって設定され、誘導加熱コイル5における素線の
ピッチ(巻回ピッチ)Pは、誘導加熱コイル5の長さL
と加熱冷却繰り返し回数とを勘案して設定される。
【0013】前記連結構造物6は、溶接トーチ2と誘導
加熱コイル5とを一体に連結して、溶接作業の進行方向
に同期状態で移動させるものとされる。
【0014】以下、炭素鋼の溶接方法の実施状態につい
て説明する。図1において矢印で示す方向に溶接トーチ
2が進行している場合、溶融金属3の温度は、例えば融
点の1534℃となるが、溶接トーチ2の進行方向の後
方に位置する溶接金属4の温度は、熱容量の大きな被溶
接材1への熱伝達や放射等に伴う冷却によって比較的速
やかに降下する。
【0015】誘導加熱コイル5に通電を行なっていない
状態では、被溶接材1への熱伝達によって溶接金属4の
冷却が速やかに行なわれるために、図2に鎖線Fで示す
温度曲線のように、急激に温度が低下するものとなる。
【0016】そこで、溶接トーチ2の作動とともに、誘
導加熱コイル5への通電を行なって、溶接トーチ2の後
方の溶接金属4を誘導加熱し、溶接金属5の温度を72
0℃近傍で例えば10秒間程度保持し、その後自然冷却
する。
【0017】このように、冷却途中の溶接金属5の温度
を保持する場合において、誘導加熱コイル5が通常の巻
線、つまり、前述のピッチPで巻回された一重のもので
あると、漏洩磁束の関係によって誘導加熱コイル5の素
線に近接した部分の磁束密度が高く、素線と素線との間
の磁束密度が低くなるために、供給熱量が間欠的に変化
して局部的な加熱むらが発生する。
【0018】この加熱むらと冷却とに基づいて、溶接金
属5の温度が、図2に実線で示すように、小さな温度範
囲の幅で昇降を繰り返すものとなる。この場合の温度範
囲を720℃を境界として例えば±50℃の範囲で変動
するように設定することによって、以下に説明するよう
に、溶接箇所の近傍の金属組織を改良することができ
る。
【0019】図3は炭素鋼におけるFe−C系二元状態
図を示している。前述した温度720℃は、炭素鋼にお
ける温度による組織の変態点、つまり、フェライト組織
α及びオーステナイト組織γの混合組織と、フェライト
組織α及びパーライト組織Pの混合組織との間の変態点
となる。
【0020】そこで、溶融状態から冷却される途中の溶
接金属4に対して、図3の上下の矢印Xで示すように、
変態点を境界として昇降する温度変化、例えば720℃
を境界として±50℃の範囲で変動する温度変化を付与
すると、溶接金属4が矢印Xの上向きの温度である場合
に、フェライト組織α及びオーステナイト組織γの混合
組織において結晶核が生成され、かつ、溶接金属4が矢
印Xの下向きの温度である場合に、フェライト組織α及
びパーライト組織Pの混合組織において新たに結晶核が
生成する。
【0021】このような温度変化の付与によって、溶接
金属4の温度が720℃を越える度に結晶核が生成さ
れ、溶接金属4の温度が720℃を下回る度に結晶核が
生成する現象が生じることになり、温度の昇降が720
℃を境界として短時間で複数回繰り返されることによっ
て、多数の結晶核が生成されるため、これに基づく結晶
粒数が多くなり、微細な金属組織が形成されるととも
に、オーステナイト組織γの部分がパーライト組織Pに
変換されて、硬化域の発生を抑制する。
【0022】本発明にあっては、次の実施態様を包含す
るものである。 (1) 引張り強度が35kg/mm2以上の級の炭素鋼
あるいは低合金鋼に対して適用し、便宜上、炭素鋼の概
念の中に低合金鋼を含めること。 (2) 図2に示した温度の昇降回数を任意とするこ
と。 (3) 昇降時の温度の範囲の上限を図3のフェライト
組織α及びオーステナイト組織γの混合組織の限界内と
すること。
【0023】
【発明の効果】請求項1記載の炭素鋼の溶接方法によれ
ば、誘導加熱コイルの移動方向の長さが、溶接トーチの
移動速度と溶接金属にとって必要な加熱時間との積によ
って設定されることで、溶接トーチの進行と同期移動す
る誘導加熱コイルによってなされる溶接金属の間欠的な
加熱が、該溶接金属にとって必要な時間だけ行え、さら
誘導加熱コイルの素線間ピッチが、誘導加熱コイルの
移動方向の長さと溶接金属にとって必要な加熱冷却の繰
り返し回数とに基づいて設定されることで、溶接金属が
加熱時間内に必要な回数だけ加熱冷却を繰り返されるよ
うになり、溶接箇所には結晶粒が多い微細な金属組織が
形成されるので、溶接箇所の靭性向上が図れる。しか
も、溶接金属に対して間欠的な加熱を、溶接トーチの進
行と同期移動する誘導コイルによって必要な繰り返し回
数だけ簡単に行うことができ、実施も容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る炭素鋼の溶接方法における実施状
態のモデル図である。
【図2】本発明に係る炭素鋼の溶接方法による溶接実施
時の溶接金属の温度変化の状態を示す温度−時間曲線図
である。
【図3】炭素鋼におけるFe−C系二元状態図である。
【符号の説明】
1 被溶接材 2 溶接トーチ 3 溶融点 4 溶接金属 5 誘導加熱コイル 6 連結構造物
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 31/00,9/32 C21D 9/50

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶接トーチからの入熱によって炭素鋼の
    溶接を行う工程と、溶接直後の溶接金属を前記溶接トー
    チの進行と同期移動する誘導加熱コイルの内側に通し、
    該誘導加熱コイルの各素線に接近するごとに前記溶接金
    属を加熱することで該溶接金属を間欠的に加熱する工程
    と、間欠的に加熱された溶接金属を徐々に冷却状態に導
    く工程とを備える炭素鋼の溶接方法であって、 前記誘導加熱コイルの移動方向の長さが、前記溶接トー
    チの移動速度と前記溶接金属にとって必要な加熱時間と
    の積によって設定され 前記誘導加熱コイルの素線間ピッチが、誘導加熱コイル
    の移動方向の長さと前記溶接金属にとって必要な加熱冷
    却の繰り返し回数とに基づいて設定される ことを特徴と
    する炭素鋼の溶接方法。
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