JP3084301B2 - 低エネルギー電子分光を用いた炭化水素膜の物性の評価方法 - Google Patents

低エネルギー電子分光を用いた炭化水素膜の物性の評価方法

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JP3084301B2 JP03117884A JP11788491A JP3084301B2 JP 3084301 B2 JP3084301 B2 JP 3084301B2 JP 03117884 A JP03117884 A JP 03117884A JP 11788491 A JP11788491 A JP 11788491A JP 3084301 B2 JP3084301 B2 JP 3084301B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、低エネルギー電子分光
法を用いて炭化水素膜の硬度、屈折率、CH2 及びCH
3 含有量等の物性値を評価する新規な方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、
イオンビーム法、CVD法等を用いて、人工的にダイヤ
モンドや窒化硼素を合成することが盛んに行われてい
る。ダイヤモンド合成に関していえば、このような技術
により、アモルファス状のダイヤモンドや、ダイヤモン
ドと黒鉛状炭素とからなる膜等の種々の形態の合成物が
得られるため、それらの合成技術を検討する上で、得ら
れた膜の硬度、屈折率、水素の含有率等の物性を個別に
調査する必要があった。従来、これらの膜硬度等の物性
値の評価は、微小硬度計、IRスペクトルメータ等を用
いて個別に行われていた。
【0003】しかしながら、比較的多数の試料について
種々の物性値を測定することは長時間と労力を要し、得
られたデータの整理も煩雑であった。このため、炭化水
素膜の物性を調査する合理的且つ系統的な方法が要求さ
れていた。
【0004】そこで本発明の目的は、炭化水素膜の種々
の物性値をより簡単な操作で且つ系統的に評価できる新
規な方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、近年開発さ
れた低エネルギー電子分光装置を用いて種々の炭化水素
膜の光電子放出の励起エネルギーしきい値(eV)を測
定したところ、該しきい値(eV)と炭化水素膜のビッ
カース硬度、屈折率、CH2 及びCH3 含有量等の種々
の物性値との間に一定の相関関係があることを見出し、
かかる関係を用いて種々の膜の物理/化学的特性を簡単
に評価できる方法を発明するに至った。
【0006】 すなわち、本発明は、低エネルギー電子
分光法により種々の炭化水素膜の光電子放出を起こす励
起エネルギーしきい値を測定し、別途測定した該種々の
炭化水素膜の硬度、屈折率、CH2 及びCH3 基含有量
並びにC=C結合含有量から選ばれる少なくとも一種の
物性値と前記しきい値との相関関係を求め、次いで炭化
水素膜未知試料の光電子放出励起エネルギーのしきい値
を測定して、該しきい値と前記相関関係とを照合するこ
とにより、炭化水素膜未知試料の硬度、屈折率、CH2
及びCH3 基含有量並びにC=C結合含有量から選ばれ
る少なくとも一種の物性値を決定する炭化水素膜の物性
値の評価方法にある。
【0007】本発明の方法に従えば、まず、それぞれ異
なる物性値を有する種々の炭化水素膜を用意する。かか
る炭化水素膜の一群の試料は、種々の励起エネルギーし
きい値とそれに対応する硬度、屈折率、CH2 及びCH
3 基含有量等の物性値との相関関係を決定するための標
準試料となる。このような種々の物性値を有する炭化水
素膜を調製するには、中山、上田ら発明の「高周波数プ
ラズマCVD法による炭素膜の形成方法」(特願平2−
14480号)を用いるのが好都合である。すなわち、
この方法によると、プラズマCVD装置中の基板電極に
印加するバイアス直流電圧を種々の値に変化させて膜を
形成することにより、種々のビッカース硬度、屈折率を
有する炭化水素膜を調製することができる。
【0008】本発明によると、こうして用意した標準試
料である種々の炭化水素膜に関して、ビッカース硬度、
屈折率、CH2 及びCH3 基含有量(水素含有量)並び
にC=C結合含有量を測定しておく。本発明者らの実験
によると、これらの物性値は、低エネルギー分光法によ
り測定される光電子放出の励起エネルギーしきい値との
良好な相関関係を示すことが確認されている。ビッカー
ス硬度については、例えば、マイクロ硬度計(NEC社
製、モデルMHA−400)を用いて、屈折率は、楕円
偏光測定器等を使用して容易に観測することができる。
CH2 及びCH3 基含有量及びC=C結合含有量は、例
えば、FT−IRスペクトルを観測してそれらの基に帰
属する特異なピーク(例えば、CH2 /CH3 :290
0cm-1付近、C=C:1620cm-1付近)の面積強度を
求めることにより知ることができる。
【0009】本発明に従えば、上記標準試料である種々
の炭化水素膜について低エネルギー分光法により励起エ
ネルギーしきい値を測定する。本発明に用いる低エネル
ギー電子分光法とは、光電子分光法の一種であり、常温
常圧の大気や任意のガス雰囲気中で、試料物質に紫外線
を照射して、そこから光電効果により放出される光電子
の放出率を測定することにより該物質の仕事関数、膜厚
等を測定する分光法である。この分光法は、高真空中で
のみ行われるXPS、UPS等の固体の表面分析法とは
異なり、大気雰囲気中でもサンプルを測定できるという
大きなメリットがある。また、光電子のエネルギーはX
PSの場合には数百eV、UPSの場合には数中eVで
あるに対して、本装置の場合には数eVであるので最外
核電子のみが観測対象となる。
【0010】この分析方法に必要な分析装置の概要につ
いて図1により説明する。同図に示すように、本装置は
紫外線ランプ1、モノクロメータ2、低エネルギー電子
計数装置3、制御装置4、演算表示装置5及びX−Yス
テージ6より主に構成されている。上記紫外線ランプ1
から出た光をモノクロメータ2により任意の波長に分光
して、試料表面7に照射する。この光を励起エネルギー
の高い方から低い方に向かって走査すると所定のエネル
ギー(eV)で光電効果による電子放出が始まる。この
エネルギーが光電的仕事関数といわれる値である。こう
して放出された光電子を低エネルギー電子計測装置の検
出器3を用いて計数した後、バックグランド補正等の演
算処理をした後に図2に示すような光電子放出率(Coun
t Per Second:CPS) と励起エネルギーとの関係を求
めることができる。
【0011】本発明に従えば、上記の種々の炭化水素膜
について、低エネルギー分光法により測定された光電子
励起エネルギーのしきい値と、マイクロ硬度計等の慣用
の測定装置により測定されたビッカース硬度、屈折率及
びCH2 、CH3 基含有量(水素含有量)等の物性値と
の相関関係を求める。かかる関係はグラフにプロット等
して明確化するのが好都合である。例えば、図3に示す
ように、種々の炭化水素膜についての低エネルギー分光
法より得られたしきい値と屈折率との関係(3図
(a))及び該しきい値とビッカース硬度との関係(3
図(b))をグラフ化することができる。
【0012】次いで、本発明に従い、未知試料の炭化水
素膜に関して、前記標準試料と同一の条件にて光電子放
出の励起エネルギーのしきい値を観測する。そして、前
記標準試料について求めた相関関係から未知試料の光電
子放出のしきい値に対応する屈折率及びビッカース硬度
等の物性値を知ることができる。
【0013】以下に、本発明を実施例により詳細に説明
するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0014】
【実施例】 A)炭化水素膜標準試料の調製及びその物性値の測定 本願出願人の特願平2−14480号に記載された方法
を用いて、プラズマCVD装置中の基板に印加するバイ
アス電圧を変化させたこと以外は同一条件として、種々
の炭化水素膜標準試料を作成した。これらの試料につい
てマイクロ硬度計(NEC社製、モデルMHA−40
0)を用いてビッカース硬度を、楕円偏光測定器を用い
て屈折率を、それぞれ、測定した。更に、CH2 及びC
3 基含有量(水素含有量)は、FT−IRスペクトル
(JEOL:JIR−100)を測定して2900cm-1
のピークの面積強度として求めた。また、C=C含有量
についてはIRスペクトルの1620cm-1近傍のピーク
の面積強度より求めた。
【0015】これらの試料に関して、第1図に示すよう
な低エネルギー電子分光装置を用いて光電子放出励起エ
ネルギーのしきい値を測定した。光源に重水素ランプを
用いて、励起エネルギーをeVで換算して4〜6eVの
範囲で走査した。
【0016】B)ビッカース硬度及び屈折率としきい値
との関係 上記の炭化水素膜についての測定した屈折率と光電子放
出励起エネルギーのしきい値との関係を図3(a)に、
ビッカース硬度と光電子放出励起エネルギーのしきい値
との関係を図3(b)にそれぞれ示す。第3図より、そ
れらの物性値は光電子放出のしきい値と良好な相関関係
を示すことがわかる。
【0017】C)CH2 、CH3 基の含有量としきい値
との関係 図4に、上記のようにして求めたCH2 、CH3 基のピ
ーク(2900cm-1)の面積強度としきい値との関係を
示す。同図よりCH2 及びCH3 の存在量としきい値と
の間には相関関係があることがわかる。
【0018】D)C=C含有量としきい値との関係 さらに、FT−IRスペクトルに現れたC=C結合に特
有のピーク(1620cm-1付近)の面積強度としきい値
との関係についても図4に示した。これよりC=C結合
含有量としきい値との間にも相関関係があることが示唆
される。
【0019】E)未知試料の物性値の評価 次に、前記と同様な方法で、任意のバイアス電圧を用い
て調製した未知試料である炭化水素膜について低エネル
ギー分光法によりしきい値を測定したところ、5.11
eVであった。この値と、図3(a)及び(b)のグラ
フを照合して炭化水素膜のビッカース硬度は約2500kg/m
m2であり、屈折率は約2.25であることがわかる。ま
たこの未知試料は、標準試料に比較してCH2 及びCH
3 基含有量が4×103cm-2 であることがわかる。また
C=C基の含有量についても1×104cm-2 であると予
測できる。
【0020】
【発明の効果】本発明の評価方法を用いると、CVD法
等の気相合成法を用いて製造した炭化水素膜について、
低エネルギー電子分光による光電子放出励起エネルギー
のしきい値を測定するだけで、硬度、屈折率、水素含有
量等の種々の物性値が容易に予測できるため、本発明は
ダイヤモンド合成等の分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いた低エネルギー分光装置の概略図
である。
【図2】低エネルギー分光装置により得られた励起エネ
ルギーと光電子放出率との関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は標準試料から得られた屈折率と光
電子放出励起エネルギーのしきい値との相関関係を示す
グラフであり、同(b)はビッカース硬度と光電子放出
励起エネルギーのしきい値との相関関係を示すグラフで
ある。
【図4】FT−IRスペクトルから得られたCH2 及び
CH3 基並びにC=C結合に帰属するピークの面積強度
と光電子放出励起エネルギーのしきい値との関係を示す
グラフである。
【符号の説明】
1 紫外線ランプ 2 モノクロメータ 3 低エネルギー電子計数装置 4 制御装置 5 演算表示装置 6 X−Yステージ 7 試料表面
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平5−215699(JP,A) 特開 平4−41672(JP,A) 特開 昭60−262042(JP,A) 特開 平1−138450(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 23/227 JICSTファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 低エネルギー電子分光法により種々の炭
    化水素膜の光電子放出を起こす励起エネルギーのしきい
    値を測定し、別途測定した該種々の炭化水素膜の硬度、
    屈折率、CH2 及びCH3 基含有量並びにC=C結合含
    有量から選ばれる少なくとも一種の物性値と前記しきい
    値との相関関係を求め、次いで炭化水素膜未知試料の光
    電子放出励起エネルギーのしきい値を測定して、該しき
    い値と前記相関関係とを照合することにより、炭化水素
    膜未知試料の硬度、屈折率、CH2 及びCH3 基含有量
    並びにC=C結合含有量から選ばれる少なくとも一種の
    物性値を決定する炭化水素膜の物性値の評価方法。
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