JP2967031B2 - 乾式穿孔用ダイヤモンドコアビット - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、石材やコンクリートな
どに代表される硬脆材に対して最大径２０mm以下の比較
的小径の孔あけ作業を行う場合、冷却水その他の加工液
を用いずに、通常のドリルに装着するだけで容易に操作
することができ、かつ高速穿孔を可能とした乾式穿孔用
ダイヤモンドコアビットに関する。

【０００２】

【従来の技術】石材やコンクリート構造物などの硬脆材
に孔を穿設するために用いられる穿孔工具として、従来
からダイヤモンドコアビットが汎用されている。これら
ダイヤモンドコアビットは、中空円筒状のボディの先端
にダイヤモンド砥粒とボンドとで形成されたダイヤモン
ド砥石を取付け、ビットの回転運動を介して硬脆材を切
削する機構により穿孔される。

【０００３】ところが、これら従来型のダイヤモンドコ
アビットのダイヤモンド砥石先端部は、ボディの回転軸
に対して垂直に切った平端面に形成されているため、こ
れを回転させて例えばコンクリートに穿孔する場合、切
削面もボディーの回転軸に対して垂直な平面となる。こ
のため、切削によって生じた切削屑には、回転運動によ
り生じた外周方向への遠心力は働くが、切削面が平面で
ある関係で開口部の方向へ排出すべき直接的な駆動力は
期待できず、また切削面と穿孔壁との角度が直角である
ため、水平作業の場合は切削屑の滞留が生じてダイヤモ
ンド砥石の切削面への食い込みが阻害され、穿孔速度は
著しく低下する。

【０００４】穿孔速度が低下すると、切削現象よりも回
転する砥石の先端部と滞留した切削屑および被削材の切
削面との摺動摩擦現象が支配的となり、これに伴う摩擦
熱が顕著に発生するとともに、切削穿孔することによる
被削材への放熱作用も減退する。したがって、砥石の蓄
熱が増進されて焼き付いたり、刃先ダイヤモンドの変質
劣化や異常脱落が起き、一層穿孔速度が低下するという
悪循環を生じる。

【０００５】このような現象は、小径のダイヤモンドコ
アビットほどビット自体の熱容量と放熱面積が小さくな
って刃先部分の畜熱が増大するところから、現状では孔
径が２０mm以下で、かつ乾式の穿孔用ダイヤモンドコア
ビットは殆ど実用化されていない。また、上記従来型の
ダイヤモンドコアビットは刃先形状が平面であるため、
穿孔方向に荷重をかける際、刃先に求心力が生ぜず、と
くに手持ちの回転工具による穿孔作業では、工具の振れ
回りが生じて孔径が拡大するという課題も残されてい
た。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】上記の問題点を解決す
るため、ボディーの中空孔から刃先に水または適宜な加
工液を供給することにより、刃先の冷却と切削屑の排出
を強制する湿式穿孔用ダイヤモンドコアビットも提案さ
れているが、この方式では水または加工液を供給するた
めの設備や専用の回転工具が必要であることに加え、排
水または排液による作業環境の汚染や感電事故対策な
ど、作業前の段取りや作業後の始末などに煩雑な手間を
要し、作業のスピードを問われる小径の孔あけ作業に対
しては適切なものではなかった。

【０００７】一方、超硬ドリルビットを振動ドリルに装
着し、振動と回転運動を同時に付与しながら穿孔する乾
式の穿孔法も試みられているが、この場合には激しい振
動音による騒音公害が問題となるうえ、刃先磨耗が激し
くなって硬度の高いコンクリート構造物などの孔あけ作
業においては、刃先の寿命が著しく低下し、作業者にか
かる負担も大きくなるという欠点があった。

【０００８】本発明の目的は、従来技術で問題とされて
いた種々の課題を解決し、コンクリートや石材などの硬
脆材に、孔径が２０mm以下の小孔を穿設するに当たり、
水や加工液等を用いずに簡便な汎用工具により孔あけ作
業を行うことができ、かつ高速穿孔を可能とした乾式穿
孔用ダイヤモンドコアビットを提供することにある。

【０００９】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めの本発明による乾式穿孔用ダイヤモンドコアビット
は、軸方向に内孔を有する中空円筒状のボディと、その
先端部に前記ボディの内孔と連通する中空孔を備えたダ
イヤモンド砥石を一体に結合した構造の乾式穿孔用ダイ
ヤモンドコアビットであって、前記ダイヤモンド砥石の
刃先形状を、前記ボディとの結合面から先端部に向かっ
て小径化した円錐台形に設計すると共に、該ダイヤモン
ド砥石の先端傾斜面に少なくとも１条の縦溝を設け、ダ
イヤモンド砥石の中空孔の内径寸法をその最大外径に対
し１０〜６０％の範囲とし、該ボディ側面の適宜な位置
に少なくとも１個の切削屑排出口を設け、かつ該ダイヤ
モンド砥石の最大外径を２０mmとし、ボディの外径がそ
の９８％以下であり、ボディの内孔の内径がダイヤモン
ド砥石の中空孔の内径よりも３％以上大きくすることを
主要な構成上の特徴とするものである。

【００１０】本発明において、より好ましい構成は、ダ
イヤモンド砥石の刃先を構成する円錐台形の傾斜角が回
転軸に対して７０〜３０°であることである。

【００１１】

【作用】本発明に係る乾式穿孔用ダイヤモンドコアビッ
トは、中空円筒状のボディにその内孔と連通する中空孔
を備え、ボディとの結合面から先端部に向かって小径化
した円錐台形の刃先形状を有するダイヤモンド砥石を一
体に設置した構造を有しているから、穿孔時に発生する
切削屑は回転運動による遠心力ならびに傾斜角によって
生ずる駆動力を介してボディと穿孔壁の間を通り、円滑
に後方の開口部から系外に排出され、刃先面に滞留介在
する現象は効果的に阻止される。また、ダイヤモンド砥
石の中空孔の内径寸法をその最大外径に対し１０〜６０
％範囲に設定することにより、相対的に中空孔の孔径が
小さくなって被削材のコアの成長を妨げると共に、コア
が容易に崩壊してボディ側面に設けた切削屑排出口から
効果的に排出する。

【００１２】更に具体的構成として、ダイヤモンド砥石
の最大外径が２０mmであり、ボディの外径がその９８％
以下であり、ボディの内孔の内径がダイヤモンド砥石の
中空孔の内径よりも３％以上大きくし、ダイヤモンド砥
石の刃先を構成する円錐台形の傾斜角が回転軸に対して
７０〜３０°とし、ダイヤモンド砥石の円錐台形先端部
に少なくとも１条の縦溝を設ける構造に設計することに
より、切削効果ならびに放熱効果を十分に高めることが
可能となる。

【００１３】上記の各作用が相乗して、石材やコンクリ
ート等の硬脆材に対し優れた穿孔速度で短時間内に２０
mm以下の孔あけ作業を行うことができる。一方、円錐台
形の刃先形状を有することにより、穿孔中の刃先に求心
力が生ずるため、手持ちの回転工具による穿孔作業であ
っても工具の振り回り運動が抑制され、加工精度が高
く、真円に近い孔加工を施すことができる。

【００１４】

【実施例】以下、図１および図２に基づいて本発明を詳
細に説明する。図１は本発明に係る乾式穿孔用ダイヤモ
ンドコアビットを例示した縦断面図、図２は図１の先端
部平面図で、１は軸方向に内孔２を有する中空円筒状の
ボディ、３は前記ボディ１の先端部に一体に結合された
中空孔４を備えるダイヤモンド砥石である。中空円筒状
のボディ１は例えば電動ドリルのような回転工具（図示
しない）に装着されて回転部材として作動するもので、
切削屑排出口５が設置されている。該切削屑排出口５
は、ボディ側面の適宜な位置に少なくとも１個が設けら
れ、その口径はダイヤモンド砥石３の中空孔４の孔径よ
りも大きく設計することが望ましい。

【００１５】ダイヤモンド砥石３の形状は、ボディ１と
の結合面から先端部に向かって小径化した円錐台状に設
計される。この形状とすることにより、砥石の先端傾斜
面５に回転運動による遠心力により切削屑を後方へ円滑
に移動排出する駆動力が生ずる。ダイヤモンド砥石３の
中空孔４はボディ１の内孔２と連通しており、その内径
寸法(d) はダイヤモンド砥石３の最大外径（Ｄ）に対し
１０〜６０％、好ましくは２０〜５０％の範囲に設定さ
れる。この比率が１０％未満であると、例えば最大穿孔
径を２０mm以下とした際にダイヤモンド砥石の内径寸法
が極端に小孔となるため、内径部分の周速が遅くなって
穿孔能力が極端に低下する。他方、前記比率が６０％を
越えると、砥石とボディの接合面積が減少して十分な結
合力が保持できなくなるうえ、被削材のコアが次第に成
長して切削屑排出口５からの円滑な排出が不可能とな
り、詰まりを生じて穿孔不能に陥る恐れが生ずる。

【００１６】最も好ましい寸法設計は、ダイヤモンド砥
石３の最大外径（Ｄ）が２０mm、ボディ１の外径がその
９８％以下、好ましくは９０％以下であり、かつボディ
１の内孔２の内径がダイヤモンド砥石３の中空孔４の内
径よりも３％以上、好ましくは１０％以上大きいことで
ある。このうち、 ボディ１の外径をダイヤモンド砥石
３の外径の９８％以下とするのは、ボディ１と穿孔壁と
の間に適度の隙間を形成して、砥石の先端傾斜面６で切
削された被削材の切削屑を回転運動に伴って発生した駆
動力で後方へ排出する際の摩擦抵抗を軽減し、同時に刃
先で発生する摩擦熱を効果的に放熱させるためである。
ボディ１の内孔２をダイヤモンド砥石３の中空孔４の内
径よりも３％以上大きくするのは、ダイヤモンド砥石３
の中空孔４を通して後方に送られる被削材のコアをボデ
ィ１の切削屑排出口５に向かって移送するに十分な通路
を確保し、さらに刃先で生ず摩擦熱を放出する放熱路と
して機能させるためである。従って、ボディ内孔２の孔
径と共に、ダイヤモンド砥石３とボディ１の接合面積に
係る結合力およびボディ１自体の強度に影響を及ぼさな
い限り、上記の数値範囲内で適宜な寸法に選択される。

【００１７】ダイヤモンド砥石３の刃先を構成する円錐
台形の傾斜角（θ）は、回転軸に対して７０〜３０°の
範囲に設定することが好ましい。この傾斜角（θ）が７
０°を越えると、ダイヤモンド砥石３の刃先の切り込み
が鈍ると共に切削屑を後方へ移送排出する駆動力が低下
し、３０°未満の鋭角になるとダイヤモンド砥石３の先
端強度が減退すると共に刃先面積が拡がって切削抵抗が
増加し、そのうえ刃先にかかる負荷が増大してダイヤモ
ンド砥石の寿命に悪影響を与える。

【００１８】更に、ダイヤモンド砥石３の円錐台形先端
部に、縦溝７を設けておくことが好ましい実施態様とな
る。該縦溝７は少なくとも１条、好ましくは放射状に複
数条形成され、この設置により刃先の食い込みを良好に
すると共に、刃先に発生する摩擦熱の畜熱を防ぎ、同時
に切削屑を砥石傾斜面の回転に伴って切削屑を後方に移
送する駆動力を増大するために機能する。縦溝７の巾お
よび深さは、ダイヤモンド砥石３の外径に応じて任意に
設定することができる。

【００１９】本発明の乾式穿孔用ダイヤンモンドコアビ
ットを用いると、ダイヤモンド砥石３の先端傾斜面６で
発生する被削材の切削屑は、遠心力と傾斜角によって生
じる駆動力を介してボディ１と穿孔壁との隙間を通って
後方へと排出される。同時に被削材のコアは穿孔作業の
進行と共に、連通するボディ１の内孔２を通って切削屑
排出口５に至り、ボディ１の回転遠心力で円滑に系外に
排出される。この際、被削材のコアは小径のダイヤモン
ド砥石の中空孔およびボディの中空孔を通過する過程で
破砕され、コアとしての形態はとどめない切削屑の状態
で容易に排出される。

【００２０】以下に本発明の具体的な実施例を挙げ、比
較例と対比して説明する。しかし、本発明はこれら実施
例に限られるものではない。

【００２１】実施例１ コバルトブロンズ系ボンドとダイヤモンド砥粒とで形成
した外径１０．５mm、中空孔の内径４．５mm、高さ６．
０mm、傾斜角（θ）６０°の円錐台形を有し、先端傾斜
面６に巾２．０mm、深さ６．０mmの縦溝７を形成したダ
イヤモンド砥石３を、外径９．５mm、内孔径５．５mm、
全長１６０mmの中空円筒状を呈し、下部から６０〜８０
mmのボディ側面位置に幅５．０mmの切削屑排出口５を穿
設した鋼製のボディ１の先端部にろう接合して乾式穿孔
用ダイヤモンドコアビットを作製した。このダイヤモン
ドコアビットを、電動回転ドリルに嵌着し、回転数１６
００rpm でコンクリート板（材令３ケ月、骨材粒径15m
m、板厚60mm) に孔あけしたところ、発生する切削屑は
砥石先端面からボディと穿孔壁との隙間を通って効率よ
く排出され、平均穿孔速度９０mm/minの高速穿孔ができ
た。また、ボディ内孔に溜まる切削屑は、ボディ側面の
切削屑排出口から順次に自然排出されるため、連続して
穿孔作業を続けることができた。

【００２２】比較例１ 外径１０．５mm、中空孔の内径が４．５mmで、先端部が
回転軸に対して垂直に切った平坦面であるダイヤモンド
砥石３を、外径９．５mm、内孔径５．５mm、全長１６０
mmの中空円筒状の鋼製ボディ１の先端部にろう付けした
ダイヤモンドコアビットを作製し、実施例１と同様の条
件で孔あけ作業を行ったところ、砥石先端面からの切削
屑の排出性が悪く、平均穿孔速度は２６mm/minであっ
た。また、ボディ側面に切削屑排出口が設置されていな
いため、穿孔作業の進行に伴ってボディ内孔に切削屑が
圧縮されて詰まってしまい、穿孔作業を中断してコアビ
ットを回転ドリルから取り外し、衝撃を与えながらボデ
ィ後部から切削屑を取り出す必要があった。

【００２３】実施例２ 実施例１と同一の乾式穿孔用ダイヤモンドコアビットを
用いて、コンクリート板（材令１２ケ月、骨材粒径20m
m、板厚60mm）に対して同様の条件で孔あけ作業を試み
たところ、実施例１とほぼ同一の結果が得られた。な
お、平均穿孔速度は３５mm/minであった。また、穿孔作
業中、穿孔部から１ｍ離れた位置での騒音レベルは、８
３dB(A) であった。

【００２４】比較例２ 外径１０．５mmの市販の超硬ドリルビットを装着した振
動ドリルで、実施例２と同じコンクリート板に対して孔
あけ作業を行ったところ、平均穿孔速度は１５mm/minで
あり、５回の穿孔後、ドリル刃先に損傷が認められた。
また、実施例２と同一条件で測定した穿孔作業中の騒音
レベルは、１０４dB(A) であった。

【００２５】

【発明の効果】以上のとおり、本発明の乾式穿孔用ダイ
ヤモンドコアビットを用いれば、石材やコンクリートな
どの硬脆材に対し孔径２０mm以下の比較的小径の孔を、
極めて簡便な作業で優れた穿孔速度により穿設すること
ができる。また、孔あけ作業に際して水や加工液などの
流体の使用を省略し得るから、作業前の段取りや特別の
設備を要せず、そのうえ作業環境を汚すことも無いため
作業終了後の後始末も容易である。更に、振動ドリルな
どを使用することも無いため、騒音公害の心配もなく、
かつ作業者の疲労も軽減できる。また、通常の回転工具
に嵌着するだけで容易に実施し得るため、高所作業や狭
い作業空間でも簡単に穿孔作業を施すことが可能であ
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明に係る乾式穿孔用ダイヤモンドコアビッ
トを例示した縦断面図である。

【図２】図１の先端部平面図である。

【符号の説明】

１ ボディ ２ 内孔 ３ ダイヤモンド砥石 ４ 中空孔 ５ 切削屑排出孔 ６ 先端傾斜面 ７ 縦溝

フロントページの続き (72)発明者 篭橋 亘 神奈川県茅ヶ崎市茅ヶ崎３−３−５ 東 邦チタニウム株式会社内 (56)参考文献 実開 平２−27813（ＪＰ，Ｕ) 実開 昭61−154618（ＪＰ，Ｕ) 実公 平４−13128（ＪＰ，Ｙ２) (58)調査した分野(Int.Cl.⁶，ＤＢ名) B28D 1/14

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 軸方向に内孔を有する中空円筒状のボデ
   ィと、その先端部に前記ボディの内孔と連通する中空孔
   を備えたダイヤモンド砥石を一体に結合した構造の乾式
   穿孔用ダイヤモンドコアビットであって、前記ダイヤモ
   ンド砥石の刃先形状を、前記ボディとの結合面から先端
   部に向かって小径化した円錐台形に設計すると共に、該
   ダイヤモンド砥石の先端傾斜面に少なくとも１条の縦溝
   を設け、ダイヤモンド砥石の中空孔の内径寸法をその最
   大外径に対し１０〜６０％の範囲とし、該ボディ側面の
   適宜な位置に少なくとも１個の切削屑排出口を設け、か
   つ該ダイヤモンド砥石の最大外径を２０mmとし、ボディ
   の外径がその９８％以下であり、ボディの内孔の内径が
   ダイヤモンド砥石の中空孔の内径よりも３％以上大きく
   することを特徴とする乾式穿孔用ダイヤモンドコアビッ
   ト。
2. 【請求項２】 ダイヤモンド砥石の刃先を構成する円錐
   台形の傾斜角が、回転軸に対して７０〜３０°である請
   求項１記載の乾式穿孔用ダイヤモンドコアビット。