JP2940086B2 - レジスト塗布方法 - Google Patents

レジスト塗布方法

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Description

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕 本発明はレジスト塗布方法に関し、特にレジスト膜厚
の変動を抑制する方法に関する。 〔発明の概要〕 本発明は、レジスト膜厚hの相対湿度Hへの依存性を
古典的統計力学もしくは経験的統計力学にもとづいて定
量的に解釈する式を導出し、n hとn(100−H)、
もしくはn hとn{(100−H)/H}とが直線関係に
あることを利用して、高精度なレジスト膜厚の制御を可
能とするものである。 〔従来の技術〕 半導体ウェハ等の基板上にレジスト溶液を塗布する方
法としては、従来より回転塗布法が広く適用されてい
る。このようにして得られる塗膜の膜厚(以下、レジス
ト膜厚と称する。)は温度や湿度に依存して変動するこ
とが現象的に知られている。温度依存性に関しては、本
発明者が先に特願平2−67276号明細書において、その
定量的な解釈を行い、この解釈にもとづいて温度の影響
を最小限に抑制できるレジスト塗布方法を開示したとお
りである。一方、湿度に関しては、1%の変化によりレ
ジスト膜厚が10〜20Åほど変動することが経験的に知ら
れている。レジスト膜(特にフォトレジスト)の膜厚が
ウェハ面内において不均一であると、露光光に対する感
度ムラが生じて線幅制御性が劣化するため、一般にレジ
スト塗布は、レジスト溶液,基板,雰囲気,回転手段等
の各温度、および雰囲気中の湿度が制御可能な、いわゆ
る温調コーターと呼ばれるレジスト塗布装置内で行われ
ている。 〔発明が解決しようとする課題〕 ところで、半導体装置のデザイン・ルールは年々微細
化されてきており、サブミクロン・レベルから近年では
クォーターミクロン・レベルの加工までが議論されるよ
うになっている。デザイン・ルールの微細化に伴ってレ
ジスト膜に対する露光波長が短波長化されると、レジス
ト膜厚の変動が線幅に与える影響はますます大きくな
る。このため、従来にも増して高精度にレジスト膜厚を
制御する方法が要望されている。たとえば、0.35μmル
ールにおけるレジスト膜厚の変動許容範囲はわずかに±
25Åである。しかしながら、従来の温調コーターによる
湿度制御の精度は±2%程度であり、かかる精度ではレ
ジスト膜厚を上述の変動許容範囲内に収めることは困難
である。したがって、今後のデザイン・ルールの微細化
に対応するためには、まずレジスト膜厚に対する湿度の
影響を定量的に解釈し、いかなる制御方法によればレジ
スト膜厚の変動が最小限に抑制されるかを理解すること
が必要となる。 そこで本発明は、レジスト膜厚の湿度依存性を定量的
に解釈し、この解釈にもとづいて高精度にレジスト膜厚
の制御が可能なレジスト塗布方法を提供することを目的
とする。 〔課題を解決するための手段〕 本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を
行ったところ、ある仮定にもとづいて塗布雰囲気中の水
分子とレジスト溶液中に含まれる溶剤分子とを同一分子
として取扱い、水分子と溶剤分子との相互作用が比較的
弱い場合には溶剤の蒸発に伴うエントロピー変化を古典
的統計力学にしたがって解析し、上記相互作用が比較的
強い場合には経験的統計力学にしたがって解析すると、
事実を良く説明できる理論式が導出されることを見出し
た。 本発明は上述の知見にもとづいて完成されたものであ
る。 すなわち、本発明の第1の発明にかかるレジスト塗布
方法は、回転塗布におけるレジスト膜厚の湿度依存性が
次式[1] n h=κ19+κ15(−1/T)+κ18n(100−H) …[1] 〔ただし、式中hはレジスト膜厚、Tは温度(K)、H
は相対湿度(%)、κ151819は定数である。〕で
表されるとき、相対湿度Hを35%未満もしくは60%より
高く設定してレジスト溶液の回転塗布を行うことを特徴
とするものである。 さらに、本発明の第2の発明にかかるレジスト塗布方
法は、回転塗布におけるレジスト膜厚の湿度依存性が次
式[2] n h=κ20+κ15(−1/T)+κ18n{(100−H)/
H} …[2] 〔ただし、式中hはレジスト膜厚、Tは温度(K)、H
は相対湿度(%)、κ151820は定数である。 で表されるとき、相対湿度Hを35〜60%の範囲に設定し
てレジスト溶液の回転塗布を行うことを特徴とするもの
である。〕 〔作用〕 レジスト膜厚hの相対湿度Hへの依存性を表す式
[1]は、塗布雰囲気中の水分子とレジスト溶液中の溶
剤分子との相互作用が比較的小さい系について、溶剤分
子の蒸発によるエントロピー変化を古典的統計力学にし
たがって解析した結果導出されたものである。かかる系
は、相対湿度Hが35%未満もしくは60%より高い場合に
実現される。この式[1]から明らかなように、左辺の
n hと右辺第3項のn(100−H)とは直線関係にあ
る。しかも、温度Tが右辺第2項に含まれていることか
らもわかるように、相対湿度Hと温度Tとを独立変数と
して取り扱うことができる。 また、式[2]は、塗布雰囲気中の水分子とレジスト
溶液中の溶剤分子との相互作用が比較的大きい系につい
て、溶剤分子の蒸発によるエントロピー変化を経験的統
計力学にしたがって解析した結果導出されたものであ
る。かかる系は、相対湿度Hが35〜60%である場合に実
現される。この式[2]から明らかなように、左辺の
n hと右辺第3項のn{(100−H)/H}とは直線関係
にある。また式[1]の場合と同様、相対湿度Hと温度
Tとが独立変数となっている。 いずれの式においても、レジスト膜厚hと相対湿度H
とは比較的単純な関係により定量的に表されている。し
たがって、塗布雰囲気中の相対湿度Hに応じて式[1]
もしくは式[2]にもとづく制御を行えば、レジスト膜
厚hの制御を精密に、しかも容易に行うことができる。 〔実施例〕 レジスト膜厚hの湿度依存性を表す式[1]および式
[2]は、本発明者が先に明らかにしたレジスト膜厚h
の温度依存性を表す次の式[20] 〔ただし、式中hはレジスト膜厚、Δehはレジスト溶液
の潜熱、Rは気体定数、 は親和力を表す状態関数、τは時点数、tは塗布時間、
Evは流動活性化エネルギー、Tは温度、κ1112,
κ1314は定数である。〕 にさらなる検討を加えることにより導出されたものであ
る。 そこで、本明細書ではまず上式[20]の導出について
述べ、さらにこれにもとづく[1]の導出、および式
[2]の導出について順次説明する。 A.式[20]の導出 この誘導は、以下の手順にしたがって行う。 (A−1)レジスト膜厚と粘度の関係式の導出 (A−2)温度と粘度の関係式の導出 (A−3)レジスト膜厚と温度の関係式の導出 なお、式[20]の導出の過程では、数式を簡略化する
ために考察に直接関係しない定数項を随時κ01
…κ14の記号を用いて整理した。 (A−1)レジスト膜厚と粘度の関係式の導出 レジスト溶液は高分子溶液であり、ニュートンの粘性
法則に従わない非ニュートン流体である。非ニュートン
流体には、剪断応力τが増大すると粘度ηが低下する
擬塑性と呼ばれる性質があり、剪断応力τとズレ速度
(後述の∂v/∂z)とが直線関係とはならない。さら
に、レジスト溶液には応力下において粘度が時間と共に
変化するチキソトロピーと呼ばれる性質もある。このよ
うに、レジスト溶液の挙動は極めて複雑である。 しかし、剪断応力τが非常に大きいかあるいは非常
に小さい場合には、非ニュートン流体はニュートン流体
に近い挙動を示すようになる。特に、回転塗布によりレ
ジスト溶液を塗布する場合には4000rpm程度の高速回転
を行うので、剪断応力τは非常に大きいと考えられ
る。また、レジスト溶液の粘度はもともと数十cps程度
であり、さらに回転塗布時間も通常は20秒程度と長いの
で見掛け上の粘度も十分に低いと考えられる。したがっ
て、レジスト溶液を近似的にニュートン流体として取り
扱っても大きな誤差は生じない。 ニュートン流体とはニュートンの粘性法則に従う液体
であり、剪断応力τと速度勾配またはズレ速度が比例
する。いま基板上にレジスト溶液が膜厚hに塗布されて
おり、z軸を中心とする回転によりレジスト溶液が速度
vで外側へ引っ張られる状態を考えると、上述の関係は
次式で表される。 τ=η(∂v/∂z)=η(∂γ/∂t) …[3] ここで、γはズレ量,tは時間を表し、したがって∂v/
∂zが膜厚方向の速度勾配、∂γ/∂tがズレ速度であ
る。比例定数ηは粘度と呼ばれる。 また、中心(z軸)からの距離がr,基板からの高さが
hである地点の微小体積を考える。基板がz軸を中心と
して角速度ωにて回転された場合、回転に伴って微小体
積に加わる剪断応力τの膜厚方向の勾配は次式で表さ
れる。 ∂τs/∂z=−ρω2r …[4] 式[3]と式[4]より、 ∂τs/∂z=η(∂2v/∂z2)=−ρω2r と書ける。この微分方程式を解くと、 v=−(ρω2rz2/2η)+Az+B となる。上記AおよびBは積分定数である。 ここで、 であるから、上記の積分定数はそれぞれ A=ρω2rh/η,B=0 となる。よって v={(−ρω2rz2/2)+ρω2rhz}/η …[5] レジスト溶液の定量qは式[5]の積分により求めるこ
とができる。 一方、円柱座標における連続の式として、次のような
式が知られている。 Dσ/Dt+σ[(1/r)∂(rUr)/∂r+(1/r)∂Uψ/∂ψ +∂Uz/∂z]=0 …[7] ただし、σはレジスト溶液の比重,ψは回転角を表
し、Urは半径方向の速度成分,Uψは回転方向の速度成
分,Uzは膜厚方向の速度成分をそれぞれ表す。またD/Dt
は実質導関数と呼ばれ、次のように表される。 D/Dt=Ur(∂/∂r)+Uψ(∂/∂ψ) +Uz(∂/∂z)+(∂/∂t) ここで、レジスト材料である高分子化合物と溶剤の比
重とはほぼ等しいので、時間と共に溶剤が蒸発してもレ
ジスト溶液全体としての比重σはほとんど変化しないも
のと考えられる。また、レジスト溶液は回転塗布開始後
0.1秒でほぼ剛体回転体となると考えられるので、回転
方向ψにおける速度勾配も無視できる。つまり、 Dσ/Dt=0 DUψ/Dψ=0 と置ける。さらに、Uz=∂h/∂t,Ur=∂q/∂zであるか
ら、連続の式[7]は次のように順次変形される。 (1/r)∂(rUr)/∂r+∂Uz/∂z=0 (∂/∂r)(r・∂q/∂z)+r(∂/∂z)(∂
h/∂t)=0 (∂/∂z)(∂rq/∂r)+r(∂/∂z)(∂h/
∂t)=0 よって、 ∂rq/∂r+r・∂h/∂t=0 となる。これに式[6]を代入する。 (∂/∂r)(ρω2rh3/3η)+r・∂h/∂t=0 ここでκ=ρω2/3ηとおくと、 ∂h/∂t=−κ(1/r)(∂/∂r)(r2h3) =−2κ0h3 となる。この微分方程式を解くと、 ∂t=−∂h/2κ0h3 t=1/4κ0h2+C ただし、Cは積分定数である。ここで、t=0のときh
=h0(初期膜厚)とすると、 C=−1/4κ0h0 2 となるから、 t=1/4κ0h2−1/4κ0h0 2 したがって、 h=h0/(1+4κ0h0 2t)1/2 ここで、実際の回転塗布系においてh0は数mm,hは数μm
であり、h0≫hと置けるから、 h0/h=(1+4κ0h0 2t)1/2≒(4κ0h0 2t)1/2 よって、 h≒h0/(4κ0h0 2t)1/2 =h0/(4ρω2h0 2t/3η)1/2 =(1/2ω)(3η/ρt)1/2 …[8] つまり、式[8]よりレジスト膜厚hは粘度ηの1/2乗
に比例することがわかる。 (A−2)温度と粘度の関係式の導出 式[8]のパラメータ中、温度によって変化し得るも
のは粘度ηである。そこで、以下、温度と粘度の関係に
ついて考察する。 温度による粘度ηの変化としては、 液体分子の振動で運動量が輸送されるものと仮定して
導かれる本質的な粘度変化 溶剤の蒸発による粘度変化 の2種類が考えられる。 上記はアンドレードの粘度式として有名な次式 η=κ1exp(Ev/RT) …[9] で表されるものであり、一般に液体の温度が上昇すると
粘度が低下することを示している。ただし上記κは定
数,Evは流動活性化エネルギー,Rは気体定数,Tは絶対温
度である。 本発明では、上記に関する考察を行う。 溶剤の蒸発による粘度変化を定量化するために、まず
温度変化による蒸発量変化を求めた。 実際のレジスト溶液の塗布は密閉系で行われるわけで
はないので、レジスト溶液と周辺の空気とは溶剤濃度に
関して非平衡である。しかし、ウェハの表面のごく近傍
の空気中では溶剤濃度が高く、近似的に平衡状態が成り
立っているものと考えられる。 親和力を表す状態関数 は、次の式で定義される。 ただし、上記Sはエントロピー、Qは系の内部で発生
する熱、ξは変化の進行度,Tは絶対温度をそれぞれ表
す。状態関数 のとき平衡となる。 いま、状態関数 を(T,p,ξ)の関数と考えると、 の全微分は次のように表すことができる。 ただし、上記pは圧力,Hはエンタルピー,Vは体積をそ
れぞれ表す。ここでは溶剤の蒸発を考えているので、∂
H/∂ξは潜熱Δehに等しい。さらに、 とおくと、上式は次のように書き換えることができる。 次に、式[11]の時間変化を調べる。 ここで、dξ/dtは変化の速度であるから と置ける。また、レジスト溶液の塗布系を近似的に平衡
状態を考えるときには、 dT/dt=0、dp/dt=0と置ける。よって、 この微分方程式を解くと、 ここで、t=0のときの と定義すると、 であるから、 さらに、時定数τ=−1/aT,pkであるから、 と書ける。よって式[11]は次のように変形できる。 次に、式[12]における温度変化を調べる。 ここで、 は式[13]の左辺の第2項に比べて無視できるほど小さ
いので0と置く。さらに、レジスト溶液の温度Tは、コ
ーティング中に以下の式にしたがって変化することが実
験的に確かめられた。 T=κ+κ3 exp{−(t+κ)κ} ここで、 dt/dT=−1/κ5T であるから、式[13]は次のように書ける。 ここで、蒸気の体積をvv,液体の体液をvL(ただし、v
v≫vL)とすると、 vT,p=vv−vL≒vv である。また、近似的な平衡状態を考える場合には、 vv=RT/p (Rは気体定数) であるから、式[14]は次のように書ける。 この微分方程式を解くと、 となる。よって、温度Tと溶剤の蒸発量ΔVの関係は、
蒸発速度をvとすると次のように表される。 以上のようにして温度Tと溶剤の蒸発量ΔVの関係式
[15]で求められたので、次にこれを濃度,粘度と関連
づけて表わすことを考える。 まず、粘度ηはレジスト溶液の濃度cに比例するの
で、次式が成り立つ。 η=κ7c (κは比例定数) また、単位体積あたりN個のレジスト分子を含む初期
体積V0のレジスト溶液からΔVだけ溶剤が蒸発したとき
の濃度cは次のように表される。 c=N/(V0−ΔV) これらの関係と式[15]から、次式が導出される。 これが、溶剤の蒸発による粘度変化を表す式である。 (A−3)レジスト膜厚と温度の関係式の導出 レジストの塗布を行う過程では、アンドレードの粘度
式(式[9])で表される本質的な粘度変化と、式[1
6]で表されるような溶剤の蒸発による粘度変化が同時
に進行していると考えられる。 まず、式[16]の両辺の自然対数をとる。 ここで、右辺第2項において自然対数の真数部、すな
わち[ ]内をみると、該真数部は(−1/T)と直線関
係にあることがわかるので、次のような変形を行うこと
ができる。 また、前述の式[9]の両辺の自然対数をとると、 n η=κ1Ev/RT …[18] となる。式[17]と式[18]の両辺をそれぞれ加える
と、 一方、レジスト膜厚hと粘度ηの関係式(式[8])に
おいて、両辺の自然対数をとると n h=(1/2)n η+κ10 と書くことができる。この式に式[19]を代入すると、 が得られる。これが、レジスト膜厚hと温度Tの関係式
である。この式から、レジスト膜厚hの自然対数と温度
Tの逆数とが比例関係にあることが明らかである。な
お、上式[20]において、時間の項(−1/T)の係数部
は時間の関数である。また、上記定数κ11は初期濃度V0
を含む定数である。 B.式[1]の導出 次に、本発明の本題であるレジスト膜厚hと相対湿度
Hとの関係について検討を行う。そのためには、まず式
[20]において湿度の状態関数となる項を特定しなけれ
ばならない。 相対湿度の変化により影響を受けるのは、レジスト溶
液中の溶剤の蒸発量、水分子もしくは溶剤分子の位相空
間内における存在パターンの数に相当する状態の数、お
よびこれらによって決まるエントロピーである。 エントロピー変化は、前述の式[10]で表されるごと
く、 である。ξは変化の進行度であるが、ここでは溶剤分子
の蒸発に伴う溶剤分子の数の変化と考えることができ
る。 一方、エントロピーSはボルツマンの関係式により、 S=kBn W …[21] とも表される。ただし、kBはボルツマン定数、Wは状態
数である。 状態数Wは、相対湿度が高いほど、すなわち系内に存
在する水分子の数が多いほど大きくなる。しかし、状態
数Wが大きくなるほどエントロピーSは増大しにくくな
る。このことは、エントロピーSが状態数Wの自然対数
に比例していることを表す式[21]から明らかである。
一方、エントロピー変化は式[10]から に比例している。したがって、 が湿度に関する状態関数であることがわかる。 あるいは、 が非平衡状態を記述する関数であることを考えても、 が湿度に関する状態関数であることは直観的に予想でき
る。つまり、相対湿度が100%以外の時は、すべて非平
衡状態であるからである。 この は、式[20]を次のように変形すれば容易に独立の項と
して分離することができる。 ここで、相対湿度を統計力学的に表現する方法を考え
る。 三次元空間内を運動する1個の分子の運動状態は、与
えられた時刻における位置(x,y,z)と運動量(px,py,p
z)によって決まり、この運動を記述するためには6次
元の位相空間が必要である。同様に考えると、N個の分
子を含む気体は6N次元の位相空間を持っていることにな
る。 いま、一定の体積を有する空間が飽和状態、すなわち
相対湿度100%の状態にあるとき、ある瞬間に位相空間
内に存在し得る水分子の個数をNとする。この個数N
は、水分子が存在可能な座席の最大数と考えられ、この
うち水分子に占有されている座席数の割合を表す数値が
相対湿度Hである。ここで、古典的統計力学の考え方を
適用すれば、実際に存在する水分子の個数がnであると
き、ある瞬間における状態数wはN個の座席からn個の
分子の占める座席を選びだす順列で表される。すなわ
ち、 w=NPn=N!/(N−n)! である。 さらに、一定の時間が経過した場合のN個の座席の配
置がu通りに変化すると、状態の数Wは次式[22]のよ
うに表される。 W=uw=uN!/(N−n)! …[22] 次に溶剤の蒸発によるエントロピー変化を考えるわけ
であるが、ここでひとつの重要な仮定を行う。すなわ
ち、「水分子と溶剤分子とを同一分子として取り扱う」
という仮定である。これは、水もレジスト溶液の溶剤も
共に室温において液体であり蒸気圧が低いこと、極性が
強いこと、したがって互いに良く混合すること等の事実
を根拠としている。 かかる仮定にもとづき、n個の水分子が存在する空間
内に蒸発によりξ個の溶剤分子が加わった場合を考える
と、状態数Wξは式[22]におけるnを(n+ξ)に置
き換えて、次のように表される。 Wξ=uw=uN!/{N−(n+ξ)}! よって、エントロピーSξは次式[23]で表される。 Sξ=kBn Wξ =kBn[uN!/{N−(n+ξ)}!]…[23] 式[23]をξで微分すれば、式[10]の定義より が求められる。 ここで、Nは十分に大きい数であるため、微分に先立
ち式[23]の右辺をスターリング近似〔N!=(N/
e)〕を適用して次のように変形する。 式[24]をξで微分すると、 が求められる。 この関係を前述の式[21]に代入し、定数項を適当に
整理すると、 n h=κ11+κ15(−1/T) +κ16[kB(e−1)+kBn{N−(n+
ξ)}] =κ17+κ15(−1/T)+κ18n{N−(n−
ξ)} …[26] となる。 ここで、レジスト溶液を塗布する際には一般に排気が
行われて溶剤分子は常に除去されるため、近似的にξ≒
0と考えることができる。また、相対湿度H(%)はH
=100n/Nと定義されることから、n=NH/100である。こ
れらの関係を式[26]に代入すると、レジスト膜厚hと
相対湿度Hとの関係を表す式[1]が得られる。 n h=κ17+κ15(−1/T)+κ18n{N−(NH/10
0)} =κ19+κ15(−1/T)+κ18n(100−H) …[1] 以上の検討から、n hとn(100−H)とは直線関係
にあることが予想される。また、この直線関係を表すグ
ラフの傾きは、温度の影響を受けないものと予想され
る。 C.式[2]の導出 前項B.では、古典的統計力学を適用した場合のレジス
ト膜厚hと相対湿度Hとの関係について検討した。それ
は、相対湿度Hを考える際に、ある瞬間における状態数
wを位相空間内に水分子が存在し得るN個の場所からn
個の分子の占める場所を選びだす順列として表現するも
のであった。つまり、たとえば2個の同等な分子を交換
して得られる状態を、異なる2種類の状態として考える
ものである。 しかし、ある程度の分子間相互作用が見込まれる系で
は、これらを同じ状態と解釈する方が実験結果によく合
致することが経験的に知られている。すなわち、位相空
間内で2個の同等な分子を交換しても、巨視的には何ら
状態変化が起きていないと見なすのである。このような
考え方を、ここでは経験的統計力学と称することにす
る。 経験的統計力学の取り扱いによれば、相対湿度Hは、
飽和状態における分子のN個の座席から実際に存在する
n個の分子の占有する座席を選び出す組合せで表され
る。すなわち、 w=NCn=N!/n!(N−n)! である。 さらに、一定の時間が経過した場合のN個の座席の配
置がu通りに変化すると、状態の数Wは次式[27]のよ
うに表される。 W=uw=uN!/n!(N−n)! …[27] ここで、溶剤の蒸発によりn個の水分子が存在する空
間内に蒸発によりξ個の溶剤分子が加わった場合を考え
ると、状態数Wξは式[27]におけるnを(n+ξ)に
置き換えて、次のように表される。 Wξ=uw=uN!/[(n+ξ)!{N−(n+ξ)}
!] よって、エントロピーSは次式[28]で表される。 Sξ=kBn Wξ =kB
【uN!/[(n+ξ)!{N−(n+
ξ)}!】 …[28] ここで、前述と同様に、式[28]の右辺にスターリン
グ近似を適用する。 式[29]をξで微分すると、 が求められる。 この関係を前述の式[21]に代入し、定数項を適当に
整理すると、 n h=κ11+κ15(−1/T) +κ16
【kn[{N−(n+ξ)}/(n
+ξ)】 =κ20+κ15(−1/T) +κ18
【n[{N−(n+ξ)}/(n+
ξ)】 …[31] となる。 ここで、ξ≒0およびn=NH/100の関係を式[31]に
代入すると、レジスト膜厚hと相対湿度Hとの関係を表
す式[2]が得られる。 n h=κ20+κ15(−1/T) +κ18n[{N−(NH/100)}/(NH/10
0)] =κ20+κ15(−1/T)+κ18n{(100−H)/
H} …[2] 以上の検討から、n hとn{(100−H)/H}とは
直線関係にあることが予想される。また、この直線関数
を表すグラフの傾きは、温度の影響を受けないものと予
想される。 以上のようにしてレジスト膜厚hの湿度依存性を記述
する式[1]および式[2]が理論的に導出されたの
で、次にこれらの式が実験事実をどの程度うまく説明す
るか否かについて検討した。 すなわち、種々の相対湿度下で実際にレジスト溶液を
温調コーターを使用して一定の条件で回転塗布し、得ら
れたレジスト膜の膜厚を測定する実験を行い、このレジ
スト膜厚hの測定値をln hに、また相対湿度Hをn
(100−H)またはn{(100−H)/H}にそれぞれ変
換してグラフにプロットした。 本実験では、温調コーターとして東京エレクトロン社
製,クリーントラックMark II−V型を、基板としては
5インチ・ウェハを、またレジストとしては、ノボラッ
ク系ポジ型フォトレジスト(東京応化工業社製:商品名
TSMR−V3,粘度20cps)、溶剤としてはエチルセロソルブ
アセテート(ECA)をそれぞれ使用した。 ここで、定速回転時の回転速度を4000rpm、定速回転
時間を20秒として、相対湿度を変化させた場合のレジス
ト膜厚hの変化を調べた。 第1図には式[1]にもとづいてn hとn(100−
H)の関係をプロットしたグラフを、第2図には式
[2]にもとづいてn hとn{(100−H)/H}の関
係をプロットしたグラフをそれぞれ示す。なお、各図の
横軸はn(100−H)およびn{(100−H)/H}と
したが、説明の便宜を図るために相対湿度(%)の目盛
りも併記した。 まず第1図をみると、概ね良い直線関係が得られてい
るが、相対湿度50%付近を境としてグラフが若干屈曲し
ている。このことは、式[1]において、係数κ18が相
対湿度50%付近を境として変化することを意味してい
る。相対湿度が50%より高い領域および低い領域では、
それぞれ極めて良好な直線関係が示された。 また第2図をみると、概ね良い直線関係が得られてい
るが、相対湿度が35%未満の領域、および60%より高い
領域ではいずれもグラフが若干曲線化した。相対湿度35
〜60%の領域では極めて良い直線関係が示された。 以上の2種類のプロットの結果を総合して考えると、
相対湿度が35%未満の領域、および60%より高い領域で
は古典的統計力学にもとづいて導出された式[1]が、
また相対湿度35〜60%の領域では経験的統計力学にもと
づいて導出された式[2]が実験事実を良く説明してい
ることがわかる。 このように、式の適用範囲が異なる理由は次のように
考えられる。 古典的統計力学は、本来、分子間相互作用の少ない系
に適用されるものである。相対湿度が高い場合には、溶
剤の蒸発速度が低く塗布雰囲気中に存在する溶剤分子の
数も少ないため、水分子と溶剤分子との相互作用が少な
くなっているものと考えられる。一方、相対湿度が低い
場合には、溶剤の蒸発速度が高く塗布雰囲気中に存在す
る溶剤分子の数が増え、逆に水分子の数は減少するの
で、やはり水分子と溶剤分子との相互作用は少ないと考
えられる。上述の実験結果によれば、相対湿度が高い場
合とは60%より高い場合を、また相対湿度が低い場合と
は35%未満の場合に実質的に相当すると言える。したが
って、これらの領域では式[1]が実験事実を良く説明
するものと考えられる。 これに対し、相対湿度が中間的な値である場合、すな
わち35〜60%である場合には、水分子と溶剤分子の比較
的強い分子間相互作用が考えられる。一般に相互作用の
存在する系では経験的統計力学の有効性が知られてお
り、この領域では式[2]が実験事実を良く説明するも
のと考えられる。 以上の考察により、式[1]および式[2]の有効性
が実証された。 これらの式により表される関係にもとづいて実際にレ
ジスト膜厚の制御を高精度に行うには、次のような装置
を使用すれば良い。 すなわち、レジスト塗布チャンバー内に湿度センサを
設置し、該湿度センサによる測定結果を式[1]もしく
は式[2]の関係にもとづいてレジスト膜厚hに変換す
る演算手段を設け、さらにこの演算手段の演算結果にも
とづいてウェハの回転数もしくは回転時間を制御する手
段を設ければ良いのである。 かかる装置の一構成例を第3図に示す。この装置は、
レジスト塗布環境を外部環境から遮断するための囲繞手
段、該囲繞手段内に収容される回転塗布手段、吸排気手
段、温湿度制御手段、レジスト溶液供給手段等の通常の
温調コーターの構成要素の他に、湿度の計測結果にもと
づいてレジスト膜厚を算出する演算手段、および算出さ
れたレジスト膜厚にもとづいて回転塗布手段の回転制御
を行う回転制御手段が設けられてなるものである。 上記囲繞手段は、上方から下方に向けて温湿度制御さ
れた空気が流るようになされたダウンフロー型のチャン
バ(1)から構成され、その上部には外部の温湿度コン
トローラ(2)から供給される空気を該チャンバ(1)
内へ導入するための給気ダクト(3)が開口されてい
る。上記給気ダクト(3)から送られる温湿度制御され
た空気は、エアフィルタ(4)によりさらに脱塵されて
チャンバ(1)内へ供給される。上記回転塗布手段は、
モーター等に回転手段(図示せず。)の回転軸(7)に
同軸的に取り付けられ、半導体ウェハ等の基板(5)を
固定することによりこれを回転可能に保持するチャツク
(8)と、該チャック(8)の外周部を包囲するように
配設され、基板(5)の回転に伴うレジスト溶液(11)
の飛散を防止するためのカップ(6)等から構成され
る。上記カップ(6)の底部には、レジスト溶液(11)
の飛沫や溶剤蒸気等をチャンバ(1)内の空気と共に吸
引除去するための排気ダクト(9)が設けられている。
基板(5)の中央部上方には、温度調節されたレジスト
溶液(11)を吐出するためのレジスト溶液供給管(10)
が開口している。 さらにチャンバ(1)内には、塗布雰囲気中の湿度を
計測するための湿度センサ(13)が、また外部には湿度
/膜厚変換回路(14)と回転制御回路(15)が設けられ
ている。上記湿度/膜厚変換回路(14)は、上記湿度セ
ンサ(13)により計測された湿度を湿度情報信号して取
り込み、式[1]もしくは式[2]が理論的に予想する
関係にもとづいて該湿度情報信号から膜厚情報信号を生
成し、さらにこれを予め設定された目的の膜厚と比較し
て両者の差を示す膜厚差信号を生成する。ここで、式
[1]と式[2]のいずれを選択するかは、湿度情報信
号の内容に応じて自動的に判断される。上記回転制御回
路(15)は、上記膜厚差信号を取り込み、予め記憶され
ているレジスト膜厚と回転数との関係、もしくはレジス
ト膜厚と回転時間との関係のいずれかにもとづいてモー
ター(12)の回転数もしくは回転時間を増減させる回転
制御信号を生成し、これをモーター(12)に供給する。 かかる構成において、上記湿度センサ(13)によりチ
ャンバ(1)内の相対湿度を連続的にモニターすれば、
回転塗布中に仮に相対湿度が変動したとしても、その変
動に追従した回転制御が可能となる。この場合、モータ
ー(12)の回転の変化はただちにレジスト膜厚の変化に
反映されるので、鋭敏な膜厚制御が可能となる。 本発明によるレジスト膜厚の制御は、温度に影響され
ないという利点を有している。式[1]および式[2]
から理解されるように、相対湿度Hと温度Tとは独立変
数として取り扱われており、直線の傾きが温度Tにより
変化することはない。したがって、ある一定温度におい
て相対湿度Hとレジスト膜厚hとの関係を1回求めてお
けば、温度Tが変化してもこの関係をそのまま適用する
ことができる。また、この関係はレジスト溶液の種類に
よらず成立するものである。 〔発明の効果〕 以上の説明からも明らかなように、本発明を適用すれ
ば、従来定性的にしか捉えられていなかった相対湿度と
レジスト膜厚との関係を定量的に解釈することが可能と
なる。かかる解釈にもとづけば、レジスト膜厚の制御は
極めて精密かつ迅速に行われるようになる。したがっ
て、本発明をたとえば半導体装置の製造に適用すれば、
優れた線幅制御性,歩留り,信頼性,再現性等をもって
高集積度を有する半導体装置が容易に製造される。
【図面の簡単な説明】
第1図は式[1]にもとづきn hとn(100−H)の
関係を示すグラフである。第2図は式[2]にもとづき
n hとn{(100−H)/H}の関係を示すグラフであ
る。第3図は式[1]もしくは式[2]の関係にもとづ
いてレジスト膜厚hが制御されるようになされたレジス
ト塗布装置の一構成例を概略的に示すブロック図であ
る。 1……チャンバ 5……基板 11……レジスト溶液 12……モーター 13……湿度センサ 14……湿度/膜厚変換回路 15……回転制御回路

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】回転塗布におけるレジスト膜厚の湿度依存
    性が次式[1] n h=κ19+κ15(−1/T)+κ18n(100−H) …[1] 〔ただし、式中hはレジスト膜厚、Tは温度(K)、H
    は相対湿度(%)、κ151819は定数である。〕 で表されるとき、相対湿度Hを35%未満もしくは60%よ
    り高く設定してレジスト溶液の回転塗布を行うことを特
    徴とするレジスト塗布方法。
  2. 【請求項2】回転塗布におけるレジスト膜厚の湿度依存
    性が次式[2] n h=κ20+κ15(−1/T)+κ18n{(100−H)/
    H} …[2] 〔ただし、式中hはレジスト膜厚、Tは温度(K)、H
    は相対湿度(%)、κ151820は定数である。〕 で表されるとき、相対湿度Hを35〜60%の範囲に設定し
    てレジスト溶液の回転塗布を行うことを特徴とするレジ
    スト塗布方法。
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