JP2938758B2 - 金属材料の耐腐食性評価方法、高耐食合金の設計方法、金属材料の腐食状態診断方法およびプラントの運転方法 - Google Patents

金属材料の耐腐食性評価方法、高耐食合金の設計方法、金属材料の腐食状態診断方法およびプラントの運転方法

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  • Investigating And Analyzing Materials By Characteristic Methods (AREA)
  • Preventing Corrosion Or Incrustation Of Metals (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプラント材料の腐食損傷
機構の理論的なモデル解析結果に基づいた、金属材料の
耐食性評価方法、高耐食合金設計方法、プラントの運転
方法および腐食状態診断方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プラントの材料寿命はプラントの寿命に
直結する。そのため、材料の腐食損傷の中でもとくにリ
スクが大きい応力腐食割れ(SCC)に対する対策が、
材料設計、プラント運転において重要な課題となってい
る。
【0003】現在、このSCC対策としては、以下のよ
うな技術が提示されている。
【0004】特願平3−135188には、中性子の照
射を受けて脆化する材料の機械的特性値変化量からその
材料の余寿命を測定する技術が示されている。
【0005】また、特開平4−223300には、新た
に構成された原子炉の部材又は現存する原子炉の新たに
交換した部材の寿命を延ばす方法が述べられている。
【0006】特開平5−179407には高温水中にお
ける応力腐食割れに対し、耐SCC性が向上した高クロ
ムステンレス鋼合金を提供する方法が示されている。
【0007】特願平5−122394には照射加速応力
腐食割れによる原子力プラント構成部材の劣化を簡便に
正確に測定する寿命監視方法及び装置を提供する技術が
述べられている。
【0008】以上述べた従来技術は、いずれも事象的な
耐SCC対策、損傷対策と考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】SCCは、環境/応力
/材料の3要素の条件が重なったところで発生する現象
である。例えば、プラント構造材については、酸化剤
(例えば、プラント冷却水中に存在する水の放射線分解
生成物である酸素、過酸化水素等)による酸化、材料
に作用する応力の存在、材料中におけるクロムの欠
乏、等の条件が重なった場合に初めて生じるものであ
る。従って、これら3要素のうちのいずれかを取り去れ
ば、SCCは発生しない。環境因子としては、例えば、
冷却水中の酸素等の濃度とが上げられる。
【0010】ある環境の酸化力の強さは、材料の腐食電
位をその指標として議論することができる。環境の酸化
力は、高いほど腐食電位が高くなる。つまり、腐食電位
が高いほど、応力腐食割れが発生しやすい。例えば、粒
界部のクロム濃度が溶接時の熱により炭化物となり低下
した、いわゆる鋭敏化ステンレス鋼のSCCは、腐食電
位にして約−230mV vs,SHE(標準水素電極
電位)近傍で発生し、それ以上の腐食電位環境ではSC
Cが顕著に観察されることが知られている。
【0011】しかし、現在、応力モード等の基礎理論、
鋭敏化プロセス、基礎理論等はかなりのレベルまで解明
されているものの、材料と冷却水環境の境界現象(ここ
では、特に、材料の損傷現象)は、理論的に十分には解
明できていない。上述した−230mV vs.SHEと
いうSCCの発生臨界電位等についても、理論的解釈が
できていない状況にある。
【0012】上述した従来技術ではSCCの発生臨界
(腐食)電位を約−200mV vs.SHE)とし、
腐食電位がこの電位以上となるように冷却水酸化剤濃度
を制御する方法がとられている。しかし、この実験値
(−200mV)は様々な試験条件が含まれており、こ
の値の意味は上述したとおりわからなかった。従って、
本当に破壊の臨界電位を−200mVと設定してプラン
トを運転するようにしても問題ないか否か判断基準は基
盤に大きな疑問が残ったままであった。
【0013】応力腐食割れ発生の環境敷居値(ここで
は、発生臨界腐食電位)に関して、理論的裏付けができ
れば、材料評価、材料設計、試験方法、冷却水環境改善
方法等、有益な方法論が見えてくるはずである。現在ま
でのところ、腐食環境/不働態皮膜/金属母相の3領域
にわたる共通のパラメータを用いたメカニズムに立脚し
た技術は提示されていない。
【0014】不働態皮膜破壊における環境敷居値(特
に、腐食電位を指標としたもの)について、酸化皮膜半
導体電気化学モデルを用いて理論的な解釈を示した例は
ない。また、このような見地から、プラント運転方法、
合金設計、腐食損傷評価技術を示した例は見当らない。
【0015】なお、ジャーナル、エレクトロケミカル、
ソサイアティー、113、1067(1966)(J.
Electrochem.Soc.,113,1067
(1966))には、イオン性酸化物皮膜の溶解理論が
示されている。この理論は本願発明の不働態皮膜破壊モ
デルの重要なポイントである、電気二重層内の電位勾配
が皮膜の溶解速度を支配する理論を提供したものであ
る。但し、この論文においては腐食損傷パラメータとの
関係は一節述べられておらず、材料因子、腐食環境因
子、応力とSCCに関しては触れられていない。
【0016】また、コロージョン、48、229(19
92)(Corrosion,48,229(199
2))には、鉄−クロム合金の半導体皮膜に関する情報
がしめされている。皮膜中のクロム濃度が高くなると半
導体皮膜のフラットバンド電位が下がり、皮膜がよりn
−型の特性を示して行くことが明らかにされている。但
し、この論文においても腐食損傷パラメータとの関係は
一節述べられておらず、材料因子、腐食環境因子、応力
とSCCに関しては触れられていない。
【0017】本発明の目的は、構造材料の耐久性、耐S
CC性を決定づける、金属母相上の不働態皮膜の安定性
を支配する因子について理論的なモデル検討し、皮膜の
半導体特性、材料の不均一特性、環境の酸化力指標とし
ての腐食電位等の関係を一般化し、理論的な背景に基づ
くプラント運転方法、腐食損傷評価方法等を可能にする
ことにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】一般に高耐食金属材料は
金属母相上に生成する不働態皮膜が強固である。これら
の皮膜がなんらかの形で損傷を受けた場合でも、自己修
復能力によって不働態皮膜が修復して下地の金属(一般
に合金母相)が守られる。環境の酸化力の強弱に関わら
ず、この不働態皮膜が常に安定であれば、金属材料がS
CCを生じることはないはずである。環境の酸化力が変
化すると、腐食電位が変化する。従って、腐食電位の変
化が不働態皮膜にいかなる影響を与えるかが示されれ
ば、なぜSCCが電位応じて生じたり、生じなかったり
するのかを解明するための手がかりが得られる可能性が
ある。不働態皮膜は、一般に、酸化物半導体である。プ
ラント構造材として広く使用されているステンレス鋼の
耐食性を支配する酸化クロム等も明らかな酸化物半導体
である。
【0019】本願発明者は、酸化物半導体とプラント冷
却水に代表される酸素,過酸化水素等の酸化剤とが接触
する界面の電気化学電位と、半導体内のバンド構造に起
因する電場構造と、皮膜溶出速度と、材料不均一特性と
に基づいて、皮膜のプラント構造材破壊の臨界条件につ
いて検討した。その結果、応力による皮膜崩壊後の不働
態皮膜修復が困難となる臨界条件が、理論的に存在する
ことがわかった。そして、この臨界条件を超える腐食環
境又は腐食電位においては、皮膜は安定できないと結論
された。言い替えれば、実験的に得られていながらこれ
までなんらの説明もなされていなかったSCCの発生臨
界腐食電位の意味を、初めて理論的に明らかすることが
できた。本願発明は、この成果の応用としてなされたも
のである。
【0020】以下、本発明の基礎となった理論につい
て、BWRプラント構造材を例にとり詳細を示す。
【0021】腐食系が平衡状態にある場合、金属母相、
不働態皮膜、冷却水環境の酸素、過酸化水素等の電子の
フェルミ準位は同一になる。図1はこの様子を示したも
のである。図1における記号の意味は以下のとおりであ
る。なお、電子エネルギー基準は真空中をゼロにしてあ
る。図1においては、縦軸をエネルギーとしているた
め、図中では、これらに、適宜、素電荷(e0)を掛け
あわせている。
【0022】EF:電子のフェルミ準位 Ec:不働態皮膜の伝導帯準位の下端 Ev:不働態皮膜の価電子帯の上端 ΔΨ :不働態皮膜の外部電位 Xsc :不働態皮膜の表面電位 μe0S :不働態皮膜の電気化学ポテンシャル Xw :冷却水中の表面電位 μe00 :冷却水中の酸化体/還元体の電気化学ポ
テンシャル Δφ :冷却水側と不働態皮膜間の電位差 ΔφH :電気二重層内の電位差 Δφsc:不働態皮膜内部と、冷却水/不働態皮膜界面
と、の間に生じる電位差 不働態皮膜の溶解速度は、電気二重層内の電位差(Δφ
H)の指数関数で表現される。そのため、電気二重層内
にかかる電位差が大きくなればなるほど半導体としての
不働態皮膜は不安定になる。
【0023】ところで、半導体のバンド理論によれば、
腐食系のフェルミ準位(Ef)が不働態皮膜内における
電子の伝導体と価電子体の間、即ち禁制帯域(Ev〜E
c)にある間は、バンド端が固定されている(バンド端
固定原理)。フェルミ準位の変動分は、すべて酸化皮膜
表面付近にできる空間電荷層におけるバンドの曲がりと
して吸収されてしまう。そのため、フェルミ準位(E
f)が、禁制帯域(Ev〜Ec)内にある限り、フェル
ミ準位が変動しても電気二重層内の電位差(ΔφH)は
変化しない。
【0024】しかし、フェルミ準位(Ef)が下がり、
不働態皮膜の価電子帯のこれまで固定されていたバンド
端の値に達すると、不働態皮膜内におけるバンドの曲が
りは、それ以上は増えなくなる。そして、フェルミ準位
がさらに下がると、図1の右図のように、今度は、それ
まで固定されていたバンド端の電位が、フェルミ準位と
ともに下がるようになる。この場合、冷却水中の表面電
位(Xw)は、固定されている(定義)。そのため、こ
れまではフェルミ準位が変動しても一定であった電気二
重層内の電位差(ΔφH)が、該フェルミ準位の低下分
だけ増大するようになる。すなわち、このバンド端の電
子の準位(または、電位)が、電気二重層内の電位差
(ΔφH)が、一定に保たれるか否かの境界になる。
【0025】図2は、腐食系のフェルミ準位が不働態皮
膜の価電子帯の上端に重なった後、さらにフェルミ準位
がΔEf低下した場合、電気二重層内の電位差が、Δφ
HからEf2(=ΔφH+ΔEf)に変化することを示
したものである。
【0026】図2中、Ef1は、価電子帯に重なった時
点での腐食系のフェルミ準位である。Ef2は、Ef1
からさらに、ΔEf分だけ電子準位が低下(腐食電位が
上昇)した腐食系のフェルミ準位である。
【0027】既に述べたとおり、不働態皮膜の溶解速度
は、電気二重層内の電位差(ΔφH)の指数関数となっ
ている。従って、電気二重層内の電位差(ΔφH)がわ
ずかでも増大すると、溶解速度が急速に増大する。すな
わち、安定領域が破られることになる。使用期間が極め
て長いプラント材においては、溶解速度のわずかな増大
であっても、長期間経過のうちには、大きな損傷をもた
らすこととなる。そして、この溶解速度の急増が観測さ
れるのが、これまで経験的得られていた敷居値(ステン
レス鋼における−230mv vs,SHE)からであ
ると解釈される。安定領域とは、皮膜の溶解速度と生成
速度とがバランスしている領域である。
【0028】なお、フェルミ準位の低下は、腐食電位の
上昇、腐食環境の酸化力の増大を意味するものである。
【0029】さらに、本発明原理では、構造材の組成不
均一性に起因して、半導体皮膜内の価電子帯の準位が場
所によって異なっていると考える。このように考えた場
合、材料表面には、ある強さの酸化力に対して、破壊さ
れやすい部分と、破壊されにくい部分とが混在した状態
となっていることになる。そして、その結果として、局
部的な破壊、SCCが発生すると考える。
【0030】鉄−クロム合金を例にとって、本発明のモ
デルを適用して考える。粒界部のクロム欠乏部の価電子
帯準位(Ev)は、粒内の組成域の価電子帯準位より
も、電位レベルで低い位置にあることになる(注:電子
のエネルギー準位と、電位とでは符号が逆である。クロ
ム欠乏部の方が、電子エネルギー準位が高い)分子軌道
法を使った理論計算で、鉄とクロムの組成比を変えて皮
膜の価電子帯準位を求めると、クロム濃度の低下に伴
い、価電子帯準位は図3に示すように上昇して行く。こ
の結果(図3)は、上述した本発明の基礎理論を支持す
る内容となっている。つまり、低クロム相の価電子帯準
位は、高クロム相の価電子帯準位よりも電位が低い。そ
のため、環境の酸化力が強化されフェルミ準位が低下
(腐食電位が上昇)してきた場合、フェルミ準位は、高
クロム相における価電子帯準位に到達するよりも先に、
低クロム相における価電子帯準位(臨界条件)に到達す
る。その結果、低クロム相の表面における電気二重層の
電位差(ΔφH)のみが増大し、該部分における皮膜の
みが集中的に溶出することになる。応力によって皮膜が
破壊された後の再不働態化も、高クロム相に比べて困難
になる。その結果、低クロム相は局在的な破壊を受ける
ことになる。フェルミ準位がさらに低下すれば、高クロ
ム層においても電気二重層の電位差(ΔφH)が増大す
る。しかし、低クロム層における該電位差(ΔφH)は
さらに大きくなっているため、やはり、低クロム相にお
ける損傷の方がはるかに大きくなる。
【0031】実際にクロム濃度を変化させて合金を作り
試験を行うと、クロム濃度が低い合金皮膜ほどSCC感
受性が高い。これも上述した本発明の不働態皮膜破壊モ
デルにあてはめて考えれば説明ができる。皮膜下地の金
属母相中のクロム濃度の大小が、そのまま不働態皮膜内
のクロム濃度に影響を与えていると考えると、金属母相
中のクロム濃度の高い方が、皮膜内のクロム濃度も高
い。そして、クロム濃度が高い酸化皮膜半導体の価電子
帯上端は、クロム濃度が低い酸化皮膜半導体のそれより
も、準位が高い(電位が低い)。これが、上述した事実
にむすびついていると結論づけることができる。
【0032】本発明は、以上述べた本願発明者自身によ
る検討結果の応用としてなされたものである。
【0033】材料表面に形成される皮膜の半導体特性を
示す情報(半導体情報)(例えば、価電子帯準位、バン
ドギャップ、半導体タイプ、フラットバンド電位)を用
いれば、ある酸化環境下において、当該金属材料の酸化
皮膜が安定に存在しうる腐食電位領域を明らかにでき
る。皮膜の半導体情報は、光電気化学的な既存の技術を
用いて得ることができる。ここでいう”光電気化学的な
手法”とは、光を皮膜に照射し、その光照射によって生
じる光電流、電位応答を解析する手法である。これにつ
いては既に周知の技術であるため本明細書では説明を省
略する。
【0034】合金設計に応用した場合には、以下の指針
a)〜c)に基づいて合金組成設計を行うという高耐食
合金の設計方法が提供される。
【0035】a)不働態皮膜の価電子帯の電子準位(E
v)が低い合金組成とする 電気二重層内の電位差(ΔφH)が増大しはじめるまで
の、フェルミ準位の変動幅(低下幅)をできるだけ広く
するためである。
【0036】b)不働態皮膜がn型の半導体となる合金
組成とする p型半導体は、フェルミ準位が価電子帯の電子準位(E
v)に近い位置にあり、フェルミ準位がわずかに低下し
ただけで、電気二重層内の電位差(ΔφH)が増大しは
じめるからである。但し、半導体のタイプ(n,p)
は、環境によって変化することがあるため、使用環境を
も考慮する必要がある。
【0037】c)不働態皮膜のバンドギャップが広い合
金組成とする。
【0038】バンドギャップが広ければ、材料の抵抗が
大きくなり、腐食に伴う電流が流れ難い、すなわち、腐
食が進み難いからである。
【0039】また、被検査試料の不働態皮膜の半導体特
性(皮膜の価電子帯準位、禁制帯域幅(バンドギャッ
プ))の測定結果を、基準試料のそれと比較すれば、サ
ンプルの腐食環境における劣化、耐食性の情報を得るこ
とができる。つまり、これを利用した金属材料の腐食状
態診断方法が提供される。
【0040】さらに、プラントの運転方法に適用した場
合には、腐食系のフェルミ準位が、プラント冷却水と接
する材料の不働態皮膜の価電子帯の電子準位よりも高く
なるように(つまり、プラント構造材表面に形成される
皮膜が安定な電位領域に置かれるように)、冷却水の水
質(この場合、酸化力)を制御する、というプラント運
転方法が提供される。なお、水質制御の具体的手法とし
ては、特定のガス、イオン等をプラント冷却水中へ注入
するという既存の方法をそのまま適用できる。
【0041】この他、熱力学で説明できない皮膜の溶解
に関する速度論的取扱いも可能である。また、SCCの
発生に関し不働態皮膜破壊のメカニズムが提供される。
【0042】上述したとおり、合金材料は、その組成の
不均一性に起因して耐腐食性も場所によって異なってい
る。従って、合金設計等においては、最も弱い部分を基
準として設計を行うことが好ましい。なお、このような
不均一性を定量的に示す情報は、表面分析装置を用いて
材料表面における組成の状態を決め細かく評価すること
によって可能である。そして、その組成と価電子帯準位
との関係を、例えば、分子軌道法等を用いて予め求めて
おけば、該表面分析の結果と比較することによって、場
所ごとの価電子帯準位を知ることができる。表面分析装
置(手法)としては、例えば、3次元アトムプローブ装
置等を用いることができる。
【0043】この他にも、以上の議論とは全く別の観点
から腐食を診断することもできる。例えば、ミクロクレ
ビスの内部と上記腐食環境との間の電位差、ミクロクレ
ビスの成長情報(例えば、成長条件、成長の有無および
進展速度)、さらには、成長情報と応力腐食割れ臨界応
力値(K1scc)との関係、等を用いて、金属材料の
定常亀裂成長速度を求めることができる。
【0044】以下において、本発明の構成を各態様ごと
に具体的に述べる。
【0045】本発明の第1の態様としては、目的とする
腐食環境下、その表面に半導体を構成する不働態皮膜が
形成される金属材料の当該腐食環境下における耐腐食性
評価方法において、少なくとも、フラットバンド状態に
おける上記不働態皮膜の価電子帯準位を含む情報に基づ
いて決定される臨界条件と、上記目的とする腐食環境下
において、上記不働態皮膜および該腐食環境を含んで構
成される腐食系のフェルミレベルと、を求め、上記フェ
ルミレベルと上記臨界条件とを比較することによって、
耐腐食性を評価することを特徴とする金属材料の耐腐食
性評価方法が提供される。
【0046】本発明の第2の態様としては、目的とする
腐食環境下、その表面に半導体を構成する不働態皮膜が
形成される金属材料の当該腐食環境下における耐腐食性
評価方法において、フラットバンド状態における上記不
働態皮膜の価電子帯準位と、上記目的とする腐食環境下
において、上記不働態皮膜および該腐食環境を含んで構
成される腐食系のフェルミレベルと、を求め、上記フェ
ルミレベルと上記価電子帯準位とを比較し、上記フェル
ミレベルが上記価電子帯準位を越えている幅が大きいほ
ど耐腐食性が高いものと評価すること、を特徴とする金
属材料の耐腐食性評価方法が提供される。
【0047】この場合、上記不働態皮膜の価電子帯準位
が、該不働態皮膜表面における位置によって異なってい
る場合には、上記比較は、そのエネルギーレベルが最も
高い価電子帯準位と、上記フェルミレベルとの間で行う
ことが好ましい。
【0048】本発明の第3の態様としては、その表面に
半導体を構成する不働態皮膜が形成される高耐食性合金
の設計方法において、下記指針イ),ロ),ハ)のうち
の少なくとも一つに従って、合金の組成を決定するこ
と、 イ)フラットバンド状態における上記不働態皮膜の価電
子帯準位をできるだけ低くすること ロ)上記不働態皮膜は、n型半導体であること ハ)上記不働態皮膜のバンドギャップをできるだけ大き
くすること を特徴とする高耐食性合金の設計方法が提供される。
【0049】本発明の第4の態様としては、プラント内
の環境下において、その表面に半導体を構成する不働態
皮膜が形成される金属材料を含んで構成されたプラント
の運転方法において、上記プラント内の環境下におい
て、上記不働態皮膜および該プラント内の環境を含んで
構成される腐食系のフェルミレベルが、フラットバンド
状態における上記不働態皮膜の価電子帯準位よりも高く
なるように、上記プラント内の環境を制御すること、を
特徴とするプラントの運転方法が提供される。
【0050】本発明の第5の態様としては、その表面に
半導体を構成する不働態皮膜が形成される金属材料の腐
食状態診断方法において、被検査材となる金属材料の不
働態皮膜の価電子帯準位を求め、これを、基準となる金
属材料表面に形成されている不働態皮膜の価電子帯準位
と比較することによって上記被検査材の耐腐食性の変動
を評価すること、を特徴とする金属材料の腐食状態診断
方法が提供される。
【0051】本発明の第6の態様としては、ある腐食環
境下における金属材料の腐食診断方法において、上記金
属材料表面に形成されるミクロクレビスの内部と、上記
腐食環境と、の間の電位差を求め、該電位差が生じてい
る状態での、ミクロクレビスの成長条件、成長の有無お
よび進展速度、のうちの少なくとも一つを求め(成長条
件、成長の有無、進展速度のうち、ここで求める情報
を、以下”成長情報”という)、上記腐食環境について
予め求められた上記成長情報と上記金属材料の応力腐食
割れ臨界応力値(K1scc)との関係と、実際に求め
た成長情報と、に基づいて、上記腐食環境下における上
記金属材料の定常亀裂成長速度を求めること、を特徴と
する金属材料の腐食診断方法が提供される。
【0052】本発明の第7の態様としては、目的とする
腐食環境下、その表面に半導体を構成する不働態皮膜が
形成される金属材料の当該腐食環境下における金属材料
の腐食診断方法において、フラットバンド状態における
上記不働態皮膜の価電子帯準位と、上記目的とする腐食
環境下において、上記不働態皮膜および該腐食環境を含
んで構成される腐食系のフェルミレベルと、を求め、上
記フェルミレベルと上記価電子帯準位とを比較し、上記
フェルミレベルが上記価電子帯準位よりも低い場合、上
記金属材料表面に形成されるミクロクレビスの内部と、
上記腐食環境と、の間の電位差を求め、該電位差が生じ
ている状態での、ミクロクレビスの成長条件、成長の有
無および進展速度、のうちの少なくとも一つを求め(成
長条件、成長の有無、進展速度のうち、ここで求める情
報を、以下”成長情報”という)、上記腐食環境につい
て予め求められた上記成長情報と上記金属材料の応力腐
食割れ臨界応力値(K1scc)との関係と、実際に求
めた成長情報と、に基づいて、上記腐食環境下における
上記金属材料の定常亀裂成長速度を求めること、を特徴
とする金属材料の腐食診断方法が提供される。
【0053】本発明の第8の態様としては、腐食環境に
接して腐食を受ける金属材料の腐食診断方法において、
前記金属材料の化学組成、不働態皮膜情報および前記腐
食環境下における前記金属材料の腐食電位情報、のうち
の少なくとも1つの情報と、前記腐食環境下における前
記金属材料のミクロ割れ情報または不働態皮膜破壊情報
と、の関係から、前記金属材料のミクロ割れ性または不
働態皮膜破壊特性を診断すること、を特徴とする金属材
料の腐食診断方法が提供される。
【0054】本発明の第9の態様としては、腐食環境に
接して腐食を受ける金属材料の高耐食合金設計方法にお
いて、前記金属材料の化学組成、不働態皮膜情報および
前記腐食環境下における前記金属材料の腐食電位情報、
のうちの少なくとも1つの情報と、前記腐食環境下にお
ける前記金属材料のミクロ割れ情報または不働態皮膜破
壊情報と、の関係から、前記金属材料のミクロ割れ性ま
たは不働態皮膜破壊特性を診断し、該ミクロ割れ性また
は不働態皮膜破壊特性に基づいて、前記金属材料の化学
組成を決定すること、を特徴とする高耐食合金設計方法
が提供される。
【0055】本発明の第10の態様としては、腐食環境
に接して腐食を受ける金属材料からなる機器または産業
プラントの運転方法において、前記金属材料の化学組
成、不働態皮膜情報および前記腐食環境下における前記
金属材料の腐食電位情報、のうちの少なくとも1つの情
報と、前記腐食環境下における前記金属材料のミクロ割
れ情報または不働態皮膜破壊情報と、の関係から、前記
金属材料のミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性を診
断し、該診断結果に基づいて、前記環境を制御するこ
と、を特徴とする機器または産業プラントの運転方法が
提供される。
【0056】本発明の第11の態様としては、腐食環境
に接して腐食を受ける金属材料の診断方法において、前
記金属材料の化学組成の不均一性および前記不働態皮膜
の不均一性に関する情報のすくなくとも一方と、前記腐
食環境下における前記金属材料のミクロ割れ情報または
不働態皮膜破壊情報と、の関係から、前記金属材料のミ
クロ割れ性または不働態皮膜破壊特性を診断すること、
を特徴とする金属材料の腐食診断方法が提供される。
【0057】本発明の第12の態様としては、腐食環境
にさらされる金属材料の腐食診断方法において、前記腐
食環境下における、前記金属材料の溶出条件、ミクロク
レビス発生条件、前記ミクロクレビス内のPH変化、前
記ミクロクレビス内不働態皮膜生成不能条件、前記ミク
ロクレビス内と前記腐食環境との電位差、または、前記
ミクロクレビスの成長条件、のうちの少なくとも1つの
情報と、前記環境下での前記金属材料の応力腐食割れ特
性と、の関係から、前記金属材料の前記腐食環境下での
応力腐食割れ性を診断すること、を特徴とする金属材料
の腐食診断方法が提供される。
【0058】本発明の第13の態様としては、腐食環境
にさらされる金属材料の高耐食合金設計方法において、
前記腐食環境下における、前記金属材料の溶出条件、ミ
クロクレビス発生条件、前記ミクロクレビス内のPH変
化、前記ミクロクレビス内不働態皮膜生成不能条件、前
記クレビス内と前記腐食環境との電位差、または、前記
ミクロクレビスの成長条件、のうちの少なくとも一つの
情報と、前記環境下での前記金属材料の応力腐食割れ特
性と、の関係から、前記金属材料の前記腐食環境下での
応力腐食割れ性を診断し、該診断結果に基づいて前記化
学組成を決定すること、を特徴とする高耐食合金設計方
法が提供される。
【0059】本発明の第14の態様としては、腐食環境
に接して腐食を受ける金属材料からなる機器または産業
プラントの運転方法において、前記腐食環境下におけ
る、前記金属材料の溶出条件、ミクロクレビス発生条
件、前記ミクロクレビス内のPH変化、前記ミクロクレ
ビス内不働態皮膜生成不能条件、前記クレビス内と前記
腐食環境との電位差、または、前記ミクロクレビスの成
長条件、のうちの少なくとも一つの情報と、前記環境下
での前記金属材料の応力腐食割れ特性と、の関係から、
前記金属材料の前記腐食環境下での応力腐食割れ性を診
断し、該診断結果に基づいて前記腐食環境をコントロー
ルすること、を特徴とする機器または産業プラントの運
転方法が提供される。
【0060】本発明の第15の態様としては、金属材料
の化学組成、該金属材料の不働態皮膜情報、腐食環境の
情報および該腐食環境下における材料の腐食電位の情報
を求める第1ステップと、前記材料の化学組成の不均一
性、前記不働態皮膜の不均一性および前記材料の粒界と
粒内との組成の不均一性、のうちの少なくとも1つを求
める第2ステップと、前記腐食電位に基づいて腐食系の
電子エネルギーレベルを求める第3ステップと、前記第
2ステップおよび第3ステップの情報に基づいて不働態
皮膜破壊の臨界条件を求める第4ステップと、前記第4
ステップの情報に基づいて前記金属材料の溶出条件また
はミクロクレビス発生条件を求める第5ステップと、前
記第5ステップの情報に基づいて、前記ミクロクレビス
内のPH変化または前記ミクロクレビス内不働態皮膜生
成不能条件を求める第6ステップと、前記第6ステップ
の情報に基づいて、前記ミクロクレビス内と前記腐食環
境との電位差を求める第7ステップと、前記第7ステッ
プの情報に基づいて前記ミクロクレビスの成長条件、成
長の有無、進展速度、のうちの少なくとも1つを求める
第8ステップと、前記第8ステップの情報と、前記環境
下での前記材料の応力腐食割れ臨界応力値と、の関係か
ら定常亀裂成長条件を求める第9ステップと、を含むこ
とを特徴とする金属材料の腐食診断方法が提供される。
【0061】本発明の第16の態様としては、金属材料
の腐食環境情報および該腐食環境下における前記金属材
料の腐食電位の情報を求める第1ステップと、前記金属
材料の化学組成の不均一性、前記不働態皮膜の不均一
性、および、前記材料の粒界と粒内との組成の不均一
性、のうちの少なくとも1つを求める第2ステップと、
前記腐食電位に基づいて腐食系の電子エネルギーレベル
を求める第3ステップと、前記第3ステップの情報に基
づいて得られた腐食系の電子エネルギーレベルを基に、
使用環境条件に予め設定された腐食電位範囲および電子
のフェルミレベル範囲が、前記金属材料の不働態皮膜ま
たは酸化皮膜の半導体電子構造の電子の伝導帯と価電子
帯の間に留まるように、合金組成を決定する第4ステッ
プと、を含むことを特徴とする高耐食合金設計方法が提
供される。
【0062】本発明の第17の態様としては、原子力ま
たは火力発電プラント、ならびに化学プラントの冷却水
中にイオンを注入し、冷却水に接する金属材料の腐食損
傷を防止するプラントの運転方法において、前記金属材
料の腐食環境情報および該腐食環境下における材料の腐
食電位の情報を求める第1ステップと、前記金属材料の
化学組成の不均一性、前記不働態皮膜の不均一性および
前記材料の粒内の組成の不均一性、のうちの少なくとも
1つを求める第2ステップと、前記腐食電位に基づい
て、腐食系の電子エネルギーレベルを求める第3ステッ
プと、前記第3ステップの情報に基づいて得られた腐食
系の電子エネルギーレベルを基に、使用環境条件に基づ
き予め設定された腐食電位範囲および電子のフェルミレ
ベル範囲が、該金属材料の不働態皮膜または酸化皮膜の
半導体電子構造の電子の伝導帯と価電子帯との間に留ま
るように、前記冷却水中へのイオン注入量を決定するス
テップと、を含むことを特徴とするプラントの運転方法
が提供される。
【0063】
【作用】第1乃至第5の態様について説明する。
【0064】金属材料の表面に形成される皮膜の半導体
特性(例えば、価電子帯準位、バンドギャップ、半導体
タイプ、フラットバンド電位等。特に基準電極に対する
価電子帯の準位)に基づいて、該金属が置かれた腐食環
境(酸化環境)下において、安定な腐食電位領域を明ら
かにできる。従って、これらの半導体特性を指針として
合金設計を行うことができる。また、当該金属が安定に
存在しうる水質環境を知ることができる。これを用いて
信頼性が高く、予防保全としてより高精度なプラント運
転管理ができる。さらに、基準となる試料の半導体特性
と比較することによって、被検査材の耐腐食性の変動等
を評価することができる。
【0065】また、鋭敏化特性等が明らかにされていれ
ば、対象部位の腐食損傷に対する健全性を示すことがで
きる。
【0066】第6の態様の作用を説明する。
【0067】金属材料表面に形成されるミクロクレビス
の内部と、上記腐食環境と、の間の電位差を求める。な
お、該電位差の実測が困難な場合には、クレビスを模し
たすきま等について電位を測定し、その測定結果を、該
電位差として扱っても構わない。そして、電位差に応じ
た、ミクロクレビスの成長情報(成長条件、成長の有無
および進展速度、のうちの少なくとも一つ)を求める。
【0068】成長条件とは、クレビスの形状等である。
【0069】成長の有無(つまり、成長するか、否か)
は、極値統計法等を用いて推定することによって得るこ
とができる。
【0070】進展速度は、各種経験式を用いて得ること
ができる。
【0071】このようにして得た成長情報と、成長情報
と上記金属材料の応力腐食割れ臨界応力値(K1sc
c)との関係と、を比較する。これにより金属材料の定
常亀裂成長速度を求めることができる。なお、成長情報
と応力腐食割れ臨界応力値(K1scc)との関係は、
予め実験を行うなどして求め、これをデータベース化し
ておけばよい。
【0072】なお、該第6の態様を実際に適用する場合
には、第7の態様のごとく、第1あるいは第2の態様に
おける診断を行った後、必要に応じて、該第6の態様を
適用して定常亀裂成長速度を求めるようにすることがよ
り好ましい。
【0073】第8乃至第17の態様の作用は、基本的に
は上述の態様と同様である。
【0074】
【実施例】本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【0075】構造材料表面における不働態皮膜の形成お
よび破壊のプロセスは、図4のように示すことができ
る。このプロセスのすべてあるいは一部を検討すること
により構造材の腐食診断が出来る。この中でも特に、破
壊へのプロセスの鍵を握る第4ステップに関して検討を
行い、適切なプラント運転条件を求めた実施例を実施例
1として示す。同様に、ステップ5乃至ステップ9に関
して検討を行った例を実施例2として示す。以下におい
て示すデータは、実機材料のサンプリングおよび光電気
化学実験により実際に得られたものである。
【0076】[実施例1]30年運転後における実際の
原子力プラントの構造材(SUS304ステンレス鋼)
のクロム濃度の変化を調べた結果を図5(b)に示す。
比較のため、図5(a)には未使用材の分析結果を示し
た。なお、本実施例で用いた構造材サンプリングの方法
については図13を用いて、また、分析方法は図14,
15を用いて後ほど説明する。
【0077】未使用材では、原子領域レベルにおいても
クロム濃度がほぼ18%で一定である(図5(a)参
照)。
【0078】一方、実機材では、図5(b)からわかる
ように、ほぼ極微小領域(原子レベル)ごとに、クロム
濃度のバラツキがみられる(すなわち、材料組成の不均
一性)。また、場所により異なるものの、運転開始時の
18%であったものが、平均12%のレベルにまでクロ
ム濃度が低下している。このクロム濃度低下はまさに、
熱強鋭敏化部のクロム濃度に相当する。
【0079】そこで該経年変化後のステンレス鋼の組成
を模して、鉄/ニッケル/クロム合金組成が、Fe−8
Ni−12Crである合金を作成し、290℃の高温高
圧水中で光電気化学実験により、その表面不働態皮膜の
半導体特性を調べた。また、比較のため、クロム濃度が
低下していないFe−8Ni−18Cr鋼についても同
様の実験を行った。以下、該経年変化後のステンレス鋼
の組成を模して作成したFe−8Ni−12Crを、単
に、”12クロム鋼”と呼ぶ。同様に、Fe−8Ni−
18Cr鋼を、”18クロム鋼”と呼ぶ。
【0080】光電気化学実験は以下の通常の方法によっ
た。
【0081】光電気化学実験の詳細 試料電極を290℃の高温高圧水のサファイア窓を有す
るオートクレーブ中に入れ、光を照射しつつ、電流、電
位等を測定した。
【0082】試料電極としては、幾何表面積1cm2
ものを使用した。対極には、1cm2の白金電極を用い
た。参照電極には、飽和溶解度型Ag/AgCl電極を
用いた。塩化銀電極とSHE換算は従来のデータに基づ
いた。
【0083】試料電極に照射する光は、1kWのキセノ
ンランプの白色光あるいは、この白色光を回折格子型の
モノクロメータに通して得た単色光である。単色光の各
波長での照射フォトン束は、照射光量を熱電対型センサ
でモニタし、フィルタ光透過度をフィードバック制御す
ることにより一定にした。光源部から出た光は電磁シャ
ッターで開閉し、サファイア窓を通じて試料に照射し
た。
【0084】光照射によって発生する電流の時間変化は
オッシロスコープとレコーダで記録した。電位制御は通
常の差動アンプ型のポテンショスタットを使用した。電
流信号は、無抵抗電流計の出力信号を増幅した。
【0085】以上の光電気化学実験の結果を図6乃至図
10に示した。図6乃至図8は、12クロム鋼について
の実験結果。図9、10は、18クロム鋼についての実
験結果である。
【0086】図6はキセノンランプの白色光を当てたと
きの試料の光電気化学応答である。ipaは正であるこ
とから、本試料の不働態皮膜はn−型半導体であること
がわかった。
【0087】図7は、試料の保持電位と、電流(ip
a)と、の関係を測定した結果である。実験結果を外挿
して行くと、電流(ipa)がゼロになる電位は、約−
1160(mV vs,SHE(標準水素電極))であ
ると思われる。このことから、本試料材(12クロム
材)のフラットバンド電位は、約−1160(mV v
s,SHE)であると思われる。
【0088】図8は、照射する光の波長と、電流(ip
a)との関係を測定した結果である。ipaが現れなく
なる吸収波長が約310nmであることから、本実機使
用模擬材の不働態皮膜のバンドギャップは約1.0eV
であることがわかった。
【0089】18Cr鋼についても同様の実験を行った
結果、表面にできる不働態皮膜は、n−型半導体であっ
た。また、そのフラットバンド電位及びバンドギャップ
は、図9、図10に示すように、それぞれ約−1000
(mV vs,SHE)、1.1eVであった。
【0090】価電子帯準位は、フラットバンド電位(エ
ネルギ単位はeV)を加えて求めることが出来る(図1
参照)。従って、上記実験データを用いて計算を行え
ば、12クロム鋼の価電子帯準位は、SHE電位基準の
単位で、−160mVであるという結果が得られる。同
様に、18クロム鋼の価電子帯準位は、SHE電位基準
の単位で+100mVであるという結果が得られる。皮
膜の価電子帯準位は、12クロム鋼(経年劣化材)の方
が、電位単位で約260mV低くなっている。つまり、
18クロム鋼(プラント運転前の材料)に比べ、260
mV電位裕度が低下している。これは腐食電位が+80
mV(mv vs.SHE)の状態で運転されているプ
ラントであるため、運転初期においては不働態皮膜の安
定域が保たれていたと考えられる。しかし、80年運転
後では完全に不安定領域になっていることを示してい
る。即ち、腐食電位が劣化材の不働態皮膜の価電子帯の
電位を大きく越えた領域にあり、界面の電気二重層内の
電位勾配がおおきくなり、局部的な破壊が起きる可能性
が極めて高い。
【0091】上述したとおり実際の構造材の表面におけ
るクロム濃度は、バラツキが大きく不均一となっている
(図5(b)参照)。構造材の表面全体が12クロム鋼
に相当する組成になっているわけではなく、極微小領域
で観測されているに過ぎない。しかし、既に説明したと
おり、応力腐食は、これらの局所的に存在する12クロ
ム鋼相当部分を起点として発生するみられる。従って、
これらの不均一性を有する材料表面の不働態皮膜の皮膜
物性の違いに関する情報は、プラント運転を継続してゆ
く上で無視することはできない。
【0092】また、上記実験結果から、Fe−Ni−C
r合金では、クロム濃度低下により不働態皮膜の価電子
帯準位が上昇(電位単位で低下)することが明らかとな
った。従って、クロムを含む合金設計においては、クロ
ム濃度を上げる方向で合金設計をする必要がある。その
他の合金組成を変化させた場合でも本発明のアルゴリズ
ム(設計指針)を、そのまま適用できる。
【0093】以上の検討の対象とした稼働開始後30年
間が経過したプラントでは、冷却水中の酸素、過酸化水
素等の酸化剤濃度を下げて、腐食電位を−160mV以
下に制御すれば、安全性を確保できることになる。そこ
でSCC対策として、プラントの給水系から水素を注入
し、腐食電位を低下させる例を図11、図12を用いて
説明する。
【0094】図11は、沸騰水型(BWR)プラントの
腐食電位システムと水素注入装置系廻りのブロック図で
ある。1は圧力容器、2は燃料、3は再循環系、4は制
御棒、5はタービン、6は水素注入装置、7は腐食電位
測定装置、8は中央制御室、9は信号ケーブル、10は
浄化装置である。
【0095】図12は、原子炉浄化系に設置した腐食電
位センサの電位信号をモニターした結果である。給水系
に約300ppbの水素を注入したところ、圧力容器底
部の劣化模擬材(Fe−8Ni−12Cr)の腐食電位
が−160mV以下になった。このことから、給水系に
注入する水素濃度は給水濃度で300ppbが最低注入
濃度であることが明らかになった。以後、本BWRプラ
ントでは給水系の水素濃度を約350ppbに設定し連
続運転することにした。
【0096】次に、上述した、実際のプラントからの試
料採取方法について図13を用いて説明する。
【0097】本実施例では、特開平2−78747に記
載されている採取方法を用いた。該採取方法は、図13
に示すとおり、ファイバースコープ28を通じて、採取
場所を確認しつつ、駆動装置31によって回転されるド
リル29で構造材壁26を削りとるというものである。
構造材切削粉(試料)39は、水中ポンプ32の作り出
す水流によって集められる。そして、電磁マグネット3
5によって採取用プレート36に吸着して集める。この
場合、構造材切削粉(試料)39は、フィルター34に
よって、大きさごとに選別して採取される。
【0098】上記各部は、試料採集用容器27内に納め
られている。また、フィルター34の存在することによ
って、構造材切削粉(試料)39が、該試料採取装置の
外部に流出することはない。この他、30は研磨用砥
石、33は浮遊選鉱部、37は排水口、図中、38はプ
ラント内冷却水領域である。
【0099】次に、材料の不均一性に関する情報を得る
ための具体的方法について説明する。本実施例では、図
13の装置によって採取した試料を3次元アトムプロー
ブで分析して該情報を得た。以下、該3次元アトムプロ
ーブの概要を図14を用いて説明する。
【0100】プラントから採取した試料12を、3次元
アトムプローブの分析室内(10~10Torrレベルの
真空)に導入し、数キロボルトの正の高電圧13を徐々
に印加してゆく。さらにパルス電圧14を上乗せする
と、針先の表面原子は電界蒸発し、イオン15となって
飛行する。そして、脱離したイオン15を位置検出器1
6に装着されたマイクロチャンネルプレート17で検知
する。タイマ20は、パルス電圧14と同期したスター
ト信号18と、マイクロチャンネルプレート17がイオ
ンを検知したことを示すストップ信号19とを用いて、
イオン15の飛行時間を計測している。イオン15の飛
行時間はイオンの質量に比例するため、この飛行時間の
計測結果から、蒸発したイオンの種類が分かる。
【0101】さらにイオン15の到着によってマイクロ
チャンネルプレート17内で発生した電子雲21が、後
方のウェッジストリップ型アノード21−1に入射す
る。電子雲21は、ウェッジストリップ型アノード内の
3電極に分割され、電荷信号21−2としてコンピュー
タへ送られる。3電極に分割された電荷比から、飛来し
たイオン15の位置を算出することができる。1試料あ
たり数十万個のイオン15の種類と位置のデータを取り
込み、試料に印加した電圧及び結晶構造をもとに分析領
域の深さを推定すれば、試料先端に元あった原子の分布
を画像処理コンピュータを用いて立体再構成することが
できる。
【0102】図15は針状試料先端部の拡大図である。
22は、試料、23は分析領域、25は分析着目領域
(選択領域)である。劣化が著しい実機材をサンプリン
グした場合には、図16に示すように試料22の先端に
おける円柱状の分析領域23内には、3次元網目構造を
有する高クロム相24と低クロム相とが、立体的に観察
される。
【0103】[実施例2]図17は、溶存酸素濃度と、
すきま部およびバルク水中における腐食電位との関係を
示したものである。また、溶存酸素濃度と、すきま部に
おけるpHとの関係を示したものである。図17のデー
タは、ステンレス鋼を用いてミクロクレビスを模したす
きまを作り、これを高温高圧水環境に浸漬させ、この状
態で、該高温高圧水中の酸素濃度を変化させることによ
って得たものである。測定は、すきま内にpHセンサ、
腐食電位センサを挿入して行った。図17において、す
きま部腐食電位と、バルク水中腐食電位との差が、特許
請求の範囲において言う”クレビスと腐食環境との電位
差”に相当するものである。
【0104】ステンレス鋼の腐食電位は、水素注入前に
は、約150mVvs.SHE(図11のシステムによ
る測定値)であった。この値は、光電気化学計測で得ら
れた、熱鋭敏化により粒界部のクロムが低下したステン
レス鋼の不働態皮膜の価電子帯の電位レベル、−160
mV(vs.SHE)にくらべ高い。従って、この酸化
環境においては、応力により一旦破壊された皮膜内のp
Hは、図17より2.5レベルまで下がることが予想さ
れる。また、すきま先端部の腐食電位は、約−300m
V(vs.SHE)である。すきま先端部のpHと腐食
電位が、このような値をとっている状態において、先端
部で安定な鉄・クロム酸化物は、FeCr24とFe3
4である(注:D.Cublcclottl and L.Ljungberg, J.Ele
ctrochem.Soc.,132.987(1985)より)。
【0105】Fe34は金属に近い電気伝導形式を持つ
酸化物であり、不働態皮膜としては十分には機能しえな
い。つまり、Fe34が形成されている状態とは、言い
替えれば、不働態皮膜が欠落した状態に相当する。この
不働態皮膜の欠落(Fe34の形成)により、すきま部
の溶出が加速される可能性は極めて高い。
【0106】応力拡大係数が定義できるレベルまでミク
ロクレビスが成長したとすれば、以下に示すように材料
の破損までの時間を推定することができる。すなわち、
図4に示すK1sccの値以上の一定加重の応力が加わ
った場合、最も過酷な設定条件における材料の亀裂進展
速度をAndresenらの評価式(P.L.Andresen and F.P.For
d, Materials Science and Engineering, A103, pp.167
-184(1988))を基に求め、対象とする材料環境における
材料の応力腐食による亀裂進展速度を評価する。Andres
en,Fordらは、SCCによる一定加重条件におけるステ
ンレス鋼の亀裂進展速度da/dtを数1により評価し
ている。
【0107】
【数1】
【0108】数1において、Kは応力拡大係数(数1に
おける次元は、ksi√ in(kilo pound square inches √
inch)=3.54kg/(mm)1.5=1MPa√m))
である。nは材料のおかれる水質条件における腐食電
位、材料の熱鋭敏化レベル(EPR)、および冷却水の
電気伝導度の関数として与えられる。図11のシステム
において、水素注入なしの通常の水質条件における圧力
容器底部の腐食電位は、−150mV(vs.SHE)前後であ
り、水の伝導度は、0.1uS/cmレベルである。ここで、予
防保全上、材料条件が最悪の条件にあると仮定する。す
なわち、材料の鋭敏化度として、EPR=30Cc
-2、対象部位の応力として、応力拡大係数=31MP
a√mを仮定する。Andresen,Fordらは、上記の環境条
件におけるnの値としてn≒0.6を与えている。これ
により、da/dtを求めると、da/dt≒0.2c
m/年になる。一方、図12に示した水素注入により、
腐食電位を−200mVレベルまで低下させた場合、材
料のSCC進展速度は、0.02cm/年まで低下す
る。以上のことからわかるとおり、水素注入を行えば、
冷却水環境の酸化力を低下させ、腐食電位を強鋭敏化材
の価電子帯電位レベル−160mV(vs.SHE)以
下にすることができる。これによって、ミクロクレビス
成長からSCC進展へのプロセスを阻止することができ
る。さらに、水素注入前に既に発生している材料の亀裂
の進展速度を大幅に低下させることができる。図12の
水素注入による腐食電位の低下は、皮膜破壊後の不働態
皮膜の再不働態皮膜化を確実にし、ミクロクレビス成長
からSCC進展へのプロセスを抑える点からも適切な方
法であることを示している。
【0109】[実施例3]本実施例は、分子軌道法によ
り構造材料表面の酸化皮膜の価電子帯準位Evを理論的
に決定して、所望の使用条件に合致した最適組成の合金
を設計する手法に関するものである。
【0110】本実施例の合金設計方法における手順を図
18に示す。
【0111】先ず、使用条件に対応した材料強度仕様、
使用環境条件、使用寿命を設定する(ステップ301、
302、303)。材料強度仕様としては、例えば、降
伏強度、剛性率、引張強度が上げられる。使用環境条件
としては、例えば、pH、温度、導電率、溶質濃度が上
げられる。
【0112】次に、腐食電位、フェルミ準位、価電子帯
準位の関係を利用して、環境条件に対応するEvの最大
許容値Evoを設定する(ステップ304)。ここで必
要となる、腐食電位、フェルミ準位、荷電子帯準位は、
別途、予め求めておいたデータを使用する。
【0113】さらに、合金組成を調整し(ステップ30
5)、材料強度の評価モデルを使ってその組成が材料強
度仕様を満たすか否かを評価する(ステップ306、3
07)。材料強度仕様を満たしていなければ、再び、ス
テップ305に戻り、合金組成を調整する。設定されて
いる材料強度仕様を満たす組成が得られるまで、合金組
成の調整、評価を繰り返す。材料強度評価には、熱時
効、照射脆化等の経時変化効果も含める。材料強度仕様
を満たす組成が得られ場合には、ステップ308に進
む。
【0114】ステップ308においては、ステップ30
3で入力した環境条件下において、ステップ305〜ス
テップ307で決定した組成の母材表面上に生成する酸
化皮膜構造を求める。この酸化皮膜構造は、母材の拡散
・腐食挙動を、モデル式を用いて評価することによって
得られる。
【0115】さらに、得られた酸化皮膜構造について、
分子軌道法によりバルク構造に対するEvを求める(ス
テップ309)。図19に示すように、計算クラスタ
は、最小の繰り返し構造以上の大きさとする。図19に
は、各種プラントの構造材料として利用されているステ
ンレス鋼を例にとり、その高温水中での酸化皮膜の一例
を示している。この計算クラスタについて、下記数2を
満足する波動関数φを分子軌道法により求める。
【0116】
【数2】Hφ=Eφ H:ハミルトニアン E:エネルギー固有値 φ:波動関数) 分子軌道法には種々の方法があるが、非経験的に高精度
の解が得られる密度汎関数法が好適な手法の一つであ
る。この手法では、図20に示すように、計算クラスタ
を構成する各原子の電子についてエネルギーレベルを求
めることができ、これからEvを決定できる。図21
は、Fe34を主成分としてCr3Niを含むスピネル
構造の酸化皮膜の評価例である。この図21の例では、
皮膜中のCr濃度減少に伴って、Evが上昇し、耐食性
が低下する傾向にあることが示されている。
【0117】このようにして求めたEvと、環境条件か
ら設定したEvoと、の大小を比較する(ステップ31
0)。その結果、Ev>Evoである場合には、先ず、
組成を変更して再度一連の手順を繰り返すべくステップ
305に戻り、同様の処理を繰り返す(ステップ31
1)。材料強度仕様に適合する範囲で組成を調整しただ
けでは、ステップ310の条件を満たすことができない
場合には、使用環境条件を可能な範囲で調整するべくス
テップ304に戻り、同様の処理を繰り返す(ステップ
312)。
【0118】ステップ310において、Ev<Evoが
成り立っていれば、当該組成の合金は、少なくとも使用
開始時(t=0)においては、材料強度仕様および環境
仕様のいずれをも満たしている。そのため、最後に、以
上の評価が、材料使用予定寿命(te)の間常に成立す
るか否かを確認する(ステップ313,314)。該確
認は、τをdτづつ増大させながら、ステップ306な
いしステップ310の評価を改めて確認して行くことに
よって行う。該確認の結果、使用寿命の途中で、各種仕
様を満たさなくなった場合には、組成、仕様環境条件を
調整し、最初から(ステップ305から)処理をやりな
おす。
【0119】ステップ313において、τ=teが成立
していた場合、そのときの組成が、要求されているすべ
ての仕様を満たした合金組成である(ステップ31
5)。
【0120】ステップ312において、環境調整の調整
もできなかった場合には、もはや、当該要求仕様を満た
す合金を作ることはできないことになる。従って、仕様
そのものの見直しを行うこととなる。
【0121】上記説明では、ステップ308における酸
化皮膜構造の生成に関してモデル式を利用しているが、
モデル式に代わって分子軌道法を適用することもでき
る。すなわち、分子軌道法により原子拡散及び反応のポ
テンシャルを決定できるので、分子動力学により、腐食
反応・拡散による酸化皮膜生成を理論的にシミュレート
できる。同様に、ステップ306における材料強度の評
価においても、分子軌道法により求めた原子拡散のポテ
ンシャルエネルギーを使って点欠陥の生成・拡散・成長
挙動を解析することにより、経験式によるモデル式を使
うことなく材料強度の合金組成依存性を評価できる。こ
の手法は、原子炉炉内のように中性子照射環境下での照
射脆化や照射誘起偏析、照射クリープ、照射誘起応力緩
和等の材料への照射効果の解析に有効である。
【0122】以上述べたように、本実施例によれば、分
子軌道法を用いて酸化皮膜の電子エネルギーレベルを求
めることにより、経験式に頼ることなくエネルギーレベ
ルを高精度で理論的に評価して、材料強度・環境の使用
条件仕様に合致した最適な合金組成を決定できる。経験
式を用いないため、原理的に広範な合金組成に対して適
用可能であり、鋼種、プラント環境が異なる場合にも、
新たな実験等により評価式を追加する必要がなく、同一
のレベルの高精度での評価が可能になる。
【0123】ステップ304における、該最大許容値E
voの設定に際しては、酸化皮膜組成の不均一性をも考
慮することが好ましい。この不均一さの度合いについて
は、従来からある各種の表面分析装置を用いて検出する
ことができる。あらかじめ組成と価電子帯準位との関係
は、予め分子軌道法等を用いて得ておく。両者を比較対
照することによって、皮膜表面における価電子帯のバラ
ツキの範囲等を得ることができる。
【0124】[実施例4]本実施例は、分子軌道法によ
るEvの評価結果を用いて、耐食性の向上もしくは耐食
性低下の防止/抑制を狙ったプラント運転制御方法およ
びプラント運転装置に関するものである。
【0125】プラント運転装置の概要を図22に示し
た。
【0126】プラント運転装置は、データ処理装置10
0、環境制御装置200とを含んで構成される。図中、
Pは制御の対象となるプラントである。
【0127】環境制御装置200は、プラントP内の環
境状態を示す情報(以下”プラント環境情報”という)
の検出、およびその制御を行うためのものである。プラ
ント環境情報としては、例えば、温度、PH、導電率な
どが上げられる。そのため、環境制御装置200は、温
度センサ、pHセンサ、導電率センサ等を備えている。
但し、これらのすべてを備えている必要はなく、対象と
なるプラントP内の環境を制御する上で必要となるもの
を備えていれば十分である。プラントP自身がこれらの
センサを有している場合には、それを流用してもよい。
環境制御装置200は、検出したプラント環境情報20
2を、データ処理装置100に出力している。
【0128】さらに環境制御装置200は、プラントP
内の環境を制御するための装置を備えている。本実施例
においては、アルカリを注入することによって、プラン
トP内におけるpHを制御可能に構成されている。該プ
ラントP内の環境制御は、データ処理装置100から入
力されるプラント制御量に従って行われる。
【0129】データ処理装置100は、プラントP内に
おける環境の評価、および、環境制御装置002による
環境制御において目標とする環境の条件を決定するため
のものである。該データ処理装置100は、例えば、環
境制御装置200から入力されるデータ等を用いて、本
発明において最も重要なEvの評価を行う機能を備えて
いる。分子軌道法そのものはデータ処理装置の中では計
算せず、制御対象となるプラント環境に対応した系に対
する計算体系について予め計算した結果を基にモデル式
を求めておく。モデル式には、プラントモニタ出力値の
校正式も含む。
【0130】また、該データ処理装置100は、環境制
御装置200へ出力するプラント制御量と、プラント内
における環境条件との対応関係を示す情報をあらかじめ
有している。例えば、本実施例においては、図23のご
とく、プラントPへのアルカリ注入量と、プラント内冷
却水のpHとの対応関係を備えている。なお、該情報
は、別途もとめておくものである。該データ処理装置1
00は、該情報を参照することによって、求めた環境条
件を実現するためのプラント制御量を決定している。既
に述べたとおり、データ処理装置100は、該プラント
制御量を環境制御装置200へ出力している(信号20
4)。この他、データ処理装置100は、プラント運転
開始時からの経過期間を算出する機能等を有している。
【0131】実際のデータ処理装置100は、プロセッ
サ110、記憶装置111、入力装置112、表示装置
113等を含んで構成する。上記各種機能は、記憶装置
111に格納されているプログラム等をプロセッサ11
0が実行することによって実現されている。上述したプ
ラント制御量とプラント内の環境条件との対応関係を示
す情報(図23)等は、該記憶装置111内に格納され
ている。
【0132】次に、本実施例の運転制御において、デー
タ処理装置100の実行する処理を図24のフローチャ
ートを用いて説明する。
【0133】データ処理装置100には、入力データと
して、プラント構造材の合金組成、その皮膜構造、使用
環境の制御可能な範囲(環境条件)、寿命(te)、使
用開始時からの経過期間(t)が、プラントの管理者に
よって入力される(ステップ101,102)。これら
のデータは、その性質上、変更されるものではない。従
って、プラントの運転開始時に入力された値を保存して
おくようにすれば、それ以後は、該図24の処理を行う
度ごとに入力する必要はない。
【0134】また、データ処理装置100には、プラン
ト内におけるその時の実際の環境を示すプラント環境情
報(環境モニタ値)を示す信号202が、環境制御装置
200から逐次入力されている(ステップ103)。
【0135】続いて、データ処理装置100は、以上の
入力データに基づいて、入力された環境条件に対応した
Evo値を設定する(ステップ104)。また、環境条
件に対応した表面酸化皮膜構造を、前実施例と同様に、
腐食反応・拡散方程式のモデル式により経時変化として
求める(ステップ105)。
【0136】さらに、設定時間(ここでは、使用開始時
からの経過期間)tにおける酸化皮膜構造の電子エネル
ギーレベルを分子軌道法により、前実施例と同様に求め
る(ステップ106)。そして、求めたEvをEvoと
比較する(ステップ107)。Evo<Evであれば、
現在、腐食が進みやすい環境となっていることになる。
そのため、腐食の進行を抑えることのできる環境条件を
得るために、ステップ104などの処理で用いる条件を
適宜変更する(ステップ108)。また、これに際し
て、フラグlcをたてる(1にする)。そして、ステッ
プ104に戻り、ステップ107で設定した新たな環境
条件を用いて、前回と同様の手順で、酸化皮膜の電子エ
ネルギーレベル評価を繰り返し行う。
【0137】Evo>Evの条件が成立するまで、ステ
ップ104ないしステップ108の処理を繰返し行う。
【0138】ステップ107において、Evo>Evで
あった場合には、その時の環境条件が、耐食性を確保で
きる適切なものとなっていることになる。つまり、少な
くとも、その時点での腐食を抑えるために必要な環境条
件を計算上得ることができたことになる。
【0139】この後、更に、その環境条件で、寿命te
が経過するまで十分な耐食性を維持できるか否かを確認
する。この確認は、τを、tからteに至るまで、dτ
づつふやしながら(ステップ109)、ステップ104
ないしステップ107の処理を繰返し行うことによって
なされる。寿命途中で、ステップ107における条件が
成立しなくなった場合(すなわち、寿命teに至るまで
十分な耐食性が維持できないことが明らかになった場
合)には、条件を変更して、最初から(ステップ104
から)処理をやりなおす。
【0140】ステップ108において、τ=teが成立
していた場合は、その環境条件で、寿命teに至るまで
十分な耐食性が得られたことになる。そこで、今度は、
実際のプラント内環境がこの条件どおりのものとなるよ
うに、環境制御装置200を制御する。この場合、フラ
グlcをみれば計算で求めた環境条件(ステップ104
乃至108参照)が、現時点での環境条件と異なってい
るか否かを判断できる(ステップ110)。lc=0で
あった場合、すなわち、環境制御装置200から入力さ
れた実際の環境条件そのままで十分な耐食性を確保でき
ていた場合には、環境制御装置200を改めて作動させ
る必要はない。従って、そのまま処理を終了する。
【0141】一方、lc=0でなかった場合には、デー
タ処理装置100はプラント制御量を決定し(ステップ
111)、求めたプラント制御量分を環境制御装置20
0に出力する(ステップ112)。プラント制御量は、
データ処理装置100内にあらかじめ用意された環境条
件とプラント制御量との関係(図23参照)を使って求
める。環境制御装置200は、該指示に従ってプラント
P内の環境を制御する。本実施例においては、該指示に
従ってアルカリを注入する。
【0142】本実施例でも、前実施例と同様に、酸化皮
膜構造評価に分子軌道法や分子動力学を利用することに
より、さらに高精度化できる。しかし、酸化皮膜の電子
構造解析と同様に、プラント制御の高速性のためには、
予め計算した結果を使ってモデル式を作成しておいて計
算量を軽量化するのが適切である。
【0143】プラント環境の調整可能な範囲ではEvo
>Evの条件を予定寿命の全期間にわたっては達成出来
ない場合もありうる。このような場合であっても、条件
を満足できる期間を評価することにより、材料の余寿命
評価を行なうことができる。
【0144】以上述べたように、本実施例によれば、分
子軌道法により酸化皮膜の電子エネルギーレベルを理論
的に導出してプラント制御量を求めることにより、経験
式に頼ることなく耐食性を確保したプラント制御が可能
になる。さらに、材料余寿命評価に適用することによ
り、適切な予防保全計画立案が可能になる。
【0145】上記実施例は、主として、価電子帯の電子
準位(Ev)のみに注目したものであったが、酸化皮膜
の構成する半導体のタイプ、バンドギャップの大きさ、
さらには、材料組成の不均一性をも考慮すれば、より的
確な合金設計、プラント運転等が可能となる。
【0146】なお、従来からの電気化学的な手法と本発
明による手法とを合わせて用いるようにすればより正確
な腐食状態の評価を行うことができる。
【0147】
【発明の効果】本発明によれば、構造材料が安定な条件
になるように、プラント内の環境(例えば、原子力プラ
ントにおいては冷却水水質)を制御することができる。
また、高耐食合金の設計を理論的な背景に基づいて行う
ことができる。基準材料の半導体特性等と、サンプルの
半導体特性等とを比較することにより、サンプルの健全
性等を評価できる。
【0148】本発明の腐食損傷評価方法と、従来の電気
化学的方法等を用いた腐食損傷評価方法とを組み合わせ
ることにより、従来の腐食損傷検討結果をより高精度に
評価できる効果がある。SCCの発生の皮膜劣化破壊機
構について理論的な取扱いが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半導体/冷却水界面における電場構造モデル図
である。
【図2】フェルミレベルとか価電子帯が重なった後の、
腐食電位上昇に伴う電気二重層内における電場の変化を
示すモデル図である。
【図3】Fe−Ni−Cr酸化皮膜内のクロム濃度と、
その価電子帯準位との関係を分子軌道法を用いて理論的
に求めた結果を示すグラフである。
【図4】不働態皮膜破壊プロセスおよび腐食評価方法の
概要を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例における、(a)実機使
用材と(b)未使用材との極微小領域でのクロム濃度分
布を示す図である。
【図6】Fe−8Ni−12Cr合金の光電流の時間経
過曲線である。
【図7】Fe−8Ni−12Cr合金の光電流(ip
a)の試料電位依存性とフラットバンド電位(Ef)を
示すグラフである。
【図8】Fe−8Ni−12Cr合金の光電流(ip
a)の照射光波長依存性を示すグラフである。
【図9】Fe−8Ni−18Cr合金の光電流(ip
a)の試料電位依存性とフラットバンド電位(Ef)を
示すグラフである。
【図10】Fe−8Ni−18Cr合金の光電流(ip
a)の照射光波長依存性を示すグラフである。
【図11】BWRプラント腐食電位測定システムと水素
注入装置系の概要を示す図である。
【図12】給水系への水素注入による、圧力容器底部の
腐食電位の変化の様子を示すグラフである。
【図13】プラントからの構造材料試料採取方法を示す
図である。
【図14】3次元アトムプローブ装置の概要を示す図で
ある。
【図15】針状試料先端部の様子を示す図である。
【図16】試料先端における分析領域の詳細を示す拡大
図である。
【図17】すきま部及びバルク水中における腐食電位
と、溶存酸素濃度との関係、また、すきま部におけるp
Hと溶存酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図18】本発明の第3の実施例における処理手順を示
すフローチャートである。
【図19】Fe−Ni−Cr酸化物の最小繰返し構造を
示す図である。
【図20】計算クラスタを構成する原子の電子のエネル
ギーレベルを示すグラフである。
【図21】Fe34を主成分とし、Cr,Niを含んだ
スピネル構造の酸化皮膜についての、Cr濃度と、その
電子のエネルギーレベルとの関係を示すグラフである。
【図22】本発明の第2の実施例であるプラント運転装
置の概要を示すブロック図である。
【図23】プラント制御量と、プラント内の環境との対
応関係を示す情報の一例である。
【図24】データ処理装置1内における処理を示すフロ
ーチャートである。
【符号の説明】
1:データ処理装置、2:環境制御装置、P:プラント
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI G01N 27/416 G21D 1/00 W G21D 1/00 G01N 27/46 341M 341B (72)発明者 藤森 治男 茨城県日立市大みか町七丁目2番1号 株式会社 日立製作所 エネルギー研究 所内 (72)発明者 磯辺 裕介 茨城県日立市大みか町七丁目2番1号 株式会社 日立製作所 エネルギー研究 所内 (72)発明者 高橋 卓也 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号 株式会社 日立製作所 日立研究所内 (56)参考文献 特開 平4−223300(JP,A) 特開 昭51−84680(JP,A) 特開 昭63−11844(JP,A) 特開 平4−83153(JP,A) 特開 平5−179407(JP,A) 特開 平3−100451(JP,A) 特開 平6−58903(JP,A) 特開 平1−153950(JP,A) 特開 平6−331762(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G01N 27/26 351 C23F 11/18 C23F 15/00 G01N 17/00 G01N 27/416 G21D 1/00

Claims (18)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】目的とする腐食環境下、その表面に半導体
    を構成する不働態皮膜が形成される金属材料の当該腐食
    環境下における耐腐食性評価方法において、 少なくとも、フラットバンド状態における上記不働態皮
    膜の価電子帯準位を含む情報に基づいて決定される臨界
    条件と、 上記目的とする腐食環境下において、上記不働態皮膜お
    よび該腐食環境を含んで構成される腐食系のフェルミレ
    ベルと、 を求め、 上記フェルミレベルと上記臨界条件とを比較することに
    よって、耐腐食性を評価すること、 を特徴とする金属材料の耐腐食性評価方法。
  2. 【請求項2】目的とする腐食環境下、その表面に半導体
    を構成する不働態皮膜が形成される金属材料の当該腐食
    環境下における耐腐食性評価方法において、 フラットバンド状態における上記不働態皮膜の価電子帯
    準位と、 上記目的とする腐食環境下において、上記不働態皮膜お
    よび該腐食環境を含んで構成される腐食系のフェルミレ
    ベルと、 を求め、 上記フェルミレベルと上記価電子帯準位とを比較し、上
    記フェルミレベルが上記価電子帯準位を越えている幅が
    大きいほど耐腐食性が高いものと評価すること、 を特徴とする金属材料の耐腐食性評価方法。
  3. 【請求項3】上記不働態皮膜の価電子帯準位が、該不働
    態皮膜表面における位置によって異なっている場合に
    は、 上記比較は、そのエネルギーレベルが最も高い価電子帯
    準位と、上記フェルミレベルとの間で行うこと、 を特徴とする請求項2記載の金属材料の腐食性評価方
    法。
  4. 【請求項4】その表面に半導体を構成する不働態皮膜が
    形成される高耐食性合金の設計方法において、 下記指針イ),ロ),ハ)のうちの少なくとも一つに従
    って、合金の組成を決定すること、 イ)フラットバンド状態における上記不働態皮膜の価電
    子帯準位をできるだけ低くすること ロ)上記不働態皮膜は、n型半導体であること ハ)上記不働態皮膜のバンドギャップをできるだけ大き
    くすること を特徴とする高耐食性合金の設計方法。
  5. 【請求項5】プラント内の環境下において、その表面に
    半導体を構成する不働態皮膜が形成される金属材料を含
    んで構成されたプラントの運転方法において、 上記プラント内の環境下において、上記不働態皮膜およ
    び該プラント内の環境を含んで構成される腐食系のフェ
    ルミレベルが、フラットバンド状態における上記不働態
    皮膜の価電子帯準位よりも高くなるように、上記プラン
    ト内の環境を制御すること、 を特徴とするプラントの運転方法。
  6. 【請求項6】その表面に半導体を構成する不働態皮膜が
    形成される金属材料の腐食状態診断方法において、 被検査材となる金属材料の不働態皮膜の価電子帯準位を
    求め、これを、基準となる金属材料表面に形成されてい
    る不働態皮膜の価電子帯準位と比較することによって上
    記被検査材の耐腐食性の変動を評価すること、 を特徴とする金属材料の腐食状態診断方法。
  7. 【請求項7】ある腐食環境下における金属材料の腐食診
    断方法において、 上記金属材料表面に形成されるミクロクレビスの内部
    と、上記腐食環境と、の間の電位差を求め、 該電位差が生じている状態での、ミクロクレビスの成長
    条件、成長の有無および進展速度、のうちの少なくとも
    一つを求め(成長条件、成長の有無、進展速度のうち、
    ここで求める情報を、以下”成長情報”という)、 上記腐食環境について予め求められた上記成長情報と上
    記金属材料の応力腐食割れ臨界応力値(K1scc)と
    の関係と、実際に求めた成長情報と、に基づいて、上記
    腐食環境下における上記金属材料の定常亀裂成長速度を
    求めること、 を特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  8. 【請求項8】目的とする腐食環境下、その表面に半導体
    を構成する不働態皮膜が形成される金属材料の当該腐食
    環境下における金属材料の腐食診断方法において、 フラットバンド状態における上記不働態皮膜の価電子帯
    準位と、 上記目的とする腐食環境下において、上記不働態皮膜お
    よび該腐食環境を含んで構成される腐食系のフェルミレ
    ベルと、 を求め、 上記フェルミレベルと上記価電子帯準位とを比較し、上
    記フェルミレベルが上記価電子帯準位よりも低い場合、 上記金属材料表面に形成されるミクロクレビスの内部
    と、上記腐食環境と、の間の電位差を求め、 該電位差が生じている状態での、ミクロクレビスの成長
    条件、成長の有無および進展速度、のうちの少なくとも
    一つを求め(成長条件、成長の有無、進展速度のうち、
    ここで求める情報を、以下”成長情報”という)、 上記腐食環境について予め求められた上記成長情報と上
    記金属材料の応力腐食割れ臨界応力値(K1scc)と
    の関係と、実際に求めた成長情報と、に基づいて、上記
    腐食環境下における上記金属材料の定常亀裂成長速度を
    求めること、 を特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  9. 【請求項9】腐食環境に接して腐食を受ける金属材料の
    腐食診断方法において、 前記金属材料の化学組成、不働態皮膜情報および前記腐
    食環境下における前記金属材料の腐食電位情報、のうち
    の少なくとも1つの情報と、 前記腐食環境下における前記金属材料のミクロ割れ情報
    または不働態皮膜破壊情報と、 の関係から、 前記金属材料のミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性
    を診断すること、 を特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  10. 【請求項10】腐食環境に接して腐食を受ける金属材料
    の高耐食合金設計方法において、 前記金属材料の化学組成、不働態皮膜情報および前記腐
    食環境下における前記金属材料の腐食電位情報、のうち
    の少なくとも1つの情報と、 前記腐食環境下における前記金属材料のミクロ割れ情報
    または不働態皮膜破壊情報と、 の関係から、 前記金属材料のミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性
    を診断し、該ミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性に
    基づいて、前記金属材料の化学組成を決定すること、 を特徴とする高耐食合金設計方法。
  11. 【請求項11】腐食環境に接して腐食を受ける金属材料
    からなる機器または産業プラントの運転方法において、 前記金属材料の化学組成、不働態皮膜情報および前記腐
    食環境下における前記金属材料の腐食電位情報、のうち
    の少なくとも1つの情報と、 前記腐食環境下における前記金属材料のミクロ割れ情報
    または不働態皮膜破壊情報と、 の関係から、 前記金属材料のミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性
    を診断し、該診断結果に基づいて、前記環境を制御する
    こと、 を特徴とする機器または産業プラントの運転方法。
  12. 【請求項12】腐食環境に接して腐食を受ける金属材料
    の診断方法において、 前記金属材料の化学組成の不均一性および前記不働態皮
    膜の不均一性に関する情報のすくなくとも一方と、 前記腐食環境下における前記金属材料のミクロ割れ情報
    または不働態皮膜破壊情報と、 の関係から、 前記金属材料のミクロ割れ性または不働態皮膜破壊特性
    を診断すること、 を特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  13. 【請求項13】腐食環境にさらされる金属材料の腐食診
    断方法において、 前記腐食環境下における、前記金属材料の溶出条件、ミ
    クロクレビス発生条件、前記ミクロクレビス内のPH変
    化、前記ミクロクレビス内不働態皮膜生成不能条件、前
    記ミクロクレビス内と前記腐食環境との電位差、また
    は、前記ミクロクレビスの成長条件、のうちの少なくと
    も1つの情報と、 前記環境下での前記金属材料の応力腐食割れ特性と、 の関係から、 前記金属材料の前記腐食環境下での応力腐食割れ性を診
    断すること、 を特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  14. 【請求項14】腐食環境にさらされる金属材料の高耐食
    合金設計方法において、 前記腐食環境下における、前記金属材料の溶出条件、ミ
    クロクレビス発生条件、前記ミクロクレビス内のPH変
    化、前記ミクロクレビス内不働態皮膜生成不能条件、前
    記クレビス内と前記腐食環境との電位差、または、前記
    ミクロクレビスの成長条件、のうちの少なくとも一つの
    情報と、 前記環境下での前記金属材料の応力腐食割れ特性と、 の関係から、 前記金属材料の前記腐食環境下での応力腐食割れ性を診
    断し、該診断結果に基づいて前記化学組成を決定するこ
    と、 を特徴とする高耐食合金設計方法。
  15. 【請求項15】腐食環境に接して腐食を受ける金属材料
    からなる機器または産業プラントの運転方法において、 前記腐食環境下における、前記金属材料の溶出条件、ミ
    クロクレビス発生条件、前記ミクロクレビス内のPH変
    化、前記ミクロクレビス内不働態皮膜生成不能条件、前
    記クレビス内と前記腐食環境との電位差、または、前記
    ミクロクレビスの成長条件、のうちの少なくとも一つの
    情報と、 前記環境下での前記金属材料の応力腐食割れ特性と、 の関係から、 前記金属材料の前記腐食環境下での応力腐食割れ性を診
    断し、該診断結果に基づいて前記腐食環境をコントロー
    ルすること、 を特徴とする機器または産業プラントの運転方法。
  16. 【請求項16】金属材料の化学組成、該金属材料の不働
    態皮膜情報、腐食環境の情報および該腐食環境下におけ
    る材料の腐食電位の情報を求める第1ステップと、 前記材料の化学組成の不均一性、前記不働態皮膜の不均
    一性および前記材料の粒界と粒内との組成の不均一性、
    のうちの少なくとも1つを求める第2ステップと、 前記腐食電位に基づいて腐食系の電子エネルギーレベル
    を求める第3ステップと、 前記第2ステップおよび第3ステップの情報に基づいて
    不働態皮膜破壊の臨界条件を求める第4ステップと、 前記第4ステップの情報に基づいて前記金属材料の溶出
    条件またはミクロクレビス発生条件を求める第5ステッ
    プと、 前記第5ステップの情報に基づいて、前記ミクロクレビ
    ス内のPH変化または前記ミクロクレビス内不働態皮膜
    生成不能条件を求める第6ステップと、 前記第6ステップの情報に基づいて、前記ミクロクレビ
    ス内と前記腐食環境との電位差を求める第7ステップ
    と、 前記第7ステップの情報に基づいて前記ミクロクレビス
    の成長条件、成長の有無、進展速度、のうちの少なくと
    も1つを求める第8ステップと、 前記第8ステップの情報と、前記環境下での前記材料の
    応力腐食割れ臨界応力値と、の関係から定常亀裂成長条
    件を求める第9ステップと、 を含むことを特徴とする金属材料の腐食診断方法。
  17. 【請求項17】金属材料の腐食環境情報および該腐食環
    境下における前記金属材料の腐食電位の情報を求める第
    1ステップと、 前記金属材料の化学組成の不均一性、前記不働態皮膜の
    不均一性、および、前記材料の粒界と粒内との組成の不
    均一性、のうちの少なくとも1つを求める第2ステップ
    と、 前記腐食電位に基づいて腐食系の電子エネルギーレベル
    を求める第3ステップと、 前記第3ステップの情報に基づいて得られた腐食系の電
    子エネルギーレベルを基に、使用環境条件に予め設定さ
    れた腐食電位範囲および電子のフェルミレベル範囲が、
    前記金属材料の不働態皮膜または酸化皮膜の半導体電子
    構造の電子の伝導帯と価電子帯の間に留まるように、合
    金組成を決定する第4ステップと、 を含むことを特徴とする高耐食合金設計方法。
  18. 【請求項18】原子力または火力発電プラント、ならび
    に化学プラントの冷却水中にイオンを注入し、冷却水に
    接する金属材料の腐食損傷を防止するプラントの運転方
    法において、 前記金属材料の腐食環境情報および該腐食環境下におけ
    る材料の腐食電位の情報を求める第1ステップと、 前記金属材料の化学組成の不均一性、前記不働態皮膜の
    不均一性および前記材料の粒内の組成の不均一性、のう
    ちの少なくとも1つを求める第2ステップと、 前記腐食電位に基づいて、腐食系の電子エネルギーレベ
    ルを求める第3ステップと、 前記第3ステップの情報に基づいて得られた腐食系の電
    子エネルギーレベルを基に、使用環境条件に基づき予め
    設定された腐食電位範囲および電子のフェルミレベル範
    囲が、該金属材料の不働態皮膜または酸化皮膜の半導体
    電子構造の電子の伝導帯と価電子帯との間に留まるよう
    に、前記冷却水中へのイオン注入量を決定するステップ
    と、 を含むことを特徴とするプラントの運転方法。
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