JP2908358B2 - 津波計 - Google Patents

津波計

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は波高計から得られた
水面高の時間経過に対する変動データから津波成分を分
離抽出する技術の分野に属する。
【0002】
【従来の技術】海面の上下変動をその変動周期によって
分類すると、風波(波浪)、津波、高潮(気象潮)、天
文潮(潮汐)に分類される。これを図示すると図5のよ
うになる。高潮は気圧の影響で生じる海面上昇である。
天文潮は、太陽と月等の天文的影響による海面変動であ
り、その主な周期は12時間と24時間である。そして
現実の潮位は津波と高潮と天文潮とが重なり合った状態
の潮位(これを絶対潮位と呼ぶことにする)であり、こ
れが災害や避難にとって重要な判断対象となるものであ
り、津波計の最も重要な計測対象となっている。
【0003】この他、従来はこのような絶対潮位の他
に、絶対潮位から天文潮位を差し引いた潮位即ち、津波
と高潮が合成された形の潮位を求めて津波時の状況を知
るよすがとしていた。天文潮位の分離は、理論的には簡
単である。適当な期間の実測潮位データを調和解析する
ことにより天文潮の予測が可能だからである。実際問題
としては、設置予定場所で適当な期間事前の潮位計測が
必要である。こうして得られた天文潮位を絶対潮位から
引き算して津波と高潮の合成成分が得られることにな
る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、津波の周期
は数十分程度で、避難する時間に余裕がない。他方、高
潮の周期は1時間以上広い範囲にある。天文潮の主な周
期は12時間と24時間である。従って、避難の時間の
余裕という点からみると高潮と天文潮は津波より余裕が
あり同じ範囲に属するといえる。一方、被害を避ける為
の潮位情報としては絶対潮位表示が最も有用である。従
って、従来のように絶対潮位から天文潮位のみを差し引
いたデータを求めてみてもさほど有用のデータとならな
いうえ高潮成分が含まれているため津波そのもののデー
タが得られないという問題がある。
【0005】そこで、絶対潮位から天文潮位のほか高潮
をも差し引き津波のみのデータが得られないかというこ
とになるのであるが、高潮は気圧の影響で生じる海面変
動であり気圧は気象状況によって変化するものであるか
ら、太陽の動きや月の動きによって生ずる天文潮のよう
な規則性がなく天文潮のように予測することができず差
し引くべきデータが得られないという問題がある。
【0006】本発明の目的は、上記従来技術の問題点を
解消するためになされたものであり、海面の上下運動が
図5に示すように周期によって分類されることに着目
し、ディジタルフィルターを用いることによって津波の
周期と考えられる範囲の周期の変動信号を取り出すこと
によって津波のみのデータを得ることのできる津波計を
提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに本発明の津波計は次の各手段を具備する。 (イ)水面高の時間経過に対する変動を計測しその水面
高データをアナログ信号で出力する波高計 (ロ)波高計からの水面高データをディジタル信号に変
換するA/D変換器 (ハ)A/D変換器からのディジタル水面高データを受
けてそれに含まれているデータのうち津波周期のデータ
を選択的に、且つリアルタイム送出を可能として出力す
るディジタルフィルター (ニ)ディジタルフィルターの出力データを受けて時間
の経過に対応する水面高データを画面上に波形的に表示
する表示器
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の津波計における波高計と
しては、従来から用いられている超音波式波高計、圧力
式波高計およびフース型潮位計が考えられる。このうち
フース型潮位計は井戸と海を連結している細い管がロー
パスフィルターとして作用し津波の周期に対して時間遅
れを生ずるので補正が必要である。A/D変換器は既存
の技術のものでよい。
【0009】ディジタルフィルターは一般に最もよく用
いられている、いわゆるFIR(Finite Impulese Respo
nse)型とIIR(Infinite Inpulese Response)型のいず
れでもよいが、津波が来襲しそれが鎮静化してからその
データを取り出して解析を行うオフライン型ではFIR
型が適しており、津波の来襲中にリアルタイムで津波の
情報を収集する(リアルタイム型)にはIIR型もしく
はFIR型カルマンフィルターが適している。また、波
高計からの入力時刻から、フィルターの出力までの時間
遅れが或る程度許される場合(疑似リアルタイム型)に
は対称FIR型が適している。
【0010】
【実施例】以下、本発明の津波計の実施例を図面を参照
して説明する。図1は、本発明の津波計の実施例の構成
を示すブロック図である。津波計1で得られた水面高の
時間経過に対する変動データはA/D変換器2へ送られ
ディジタル信号に変換された後ディジタルフィルター3
に入力される。このディジタルフィルター3は図5に示
した周期分類の津波の周期を有する水面高変動データの
みを出力するように動作する。ディジタルフィルターは
前述のようにFIR型のものであってもIIR型のもの
であってもよい。
【0011】FIR型は、Finite Impulese Responseの
略で、文字通り、有限長のインパルス応答を持っている
ものである。ディジタル処理でのインパルスは、ある時
刻で値が1で、その前後の時系列の値がゼロである時系
列を言う。フィルターの特性は、インパルスを入力した
時の応答(インパルス応答)で区別することができる。
このインパルス応答をフーリエ変換すると、周波数応答
が得られる。また、逆に周波数応答を与えて、逆フーリ
エ変換すると、インパルス応答が得られる。
【0012】もし、フィルターのインパルス応答が得ら
れると、次のように出力が計算される。即ち、入力の時
系列をサンプル値の大きさを持つインパルス列と見なす
ことができ、サンプル時間間隔をΔtとすると、Δt時
間ずらして、このインパルス列を入力することになる。
従って、このインパルス列の各インパルス応答(インパ
ルスの時系列をサンプル値倍した時系列)を時間をずら
して加えれば、フィルター出力が得られる。この操作を
畳こみと呼ぶ。
【0013】このインパルス応答を求める手法に3通り
の方法がある。第1は、インパルス応答を直接与える方
法である。例えば、矩形の重みの移動平均、三角の重み
の移動平均に使われるこの重みを与える方法がある。こ
の重みの左右反転したものが実はインパルス応答であ
る。従って、矩形、三角のインパルス応答を与える手法
がこれにあたる。この方法は、簡便であるが、希望の周
波数応答特性のフィルターが作れない。
【0014】第2は、周波数応答を与えて、インパルス
応答を求める手法である。従来から、周波数応答を与え
て、単純にフーリエ変換して、インパルス応答を求める
と、良い結果が得られないことが知られていた。周波数
応答を与えて、インパルス応答を単純に計算すると、イ
ンパルス応答が無限の長さとなるからである。このた
め、周波数応答からインパルス応答を計算する時、窓関
数を乗じる手法「窓関数法」が用いられている。これ
は、無限長になるインパルス応答を窓関数を用いて、イ
ンパルス応答の両端を滑らかにゼロに収束させる手法で
ある。このようにすると、正しくフィルターリングされ
る。しかし、フィルター長を有限長にしたため、希望の
周波数応答とは、完全に一致しない場合がある。一般
に、このフィルターの長さを長くすればするほど、希望
の周波数応答に近づく。しかし、長くすると、計算量が
多くなるため、試行錯誤しながら、最適なこの長さを決
定する。
【0015】第3の、インパルス応答を求める手法は、
原理的にこうあるべきであるという式を作り、その誤差
が最小になるように、現在値を予測する。即ち、予測型
である。このフィルターのインパルス応答は、連立方程
式を作り解くことで求められる。こうして得られたフィ
ルターは、カルマンフィルターになる。結論的に、「F
IR型のディジタルフィルターを作ることは、インパル
ス応答を作ること」と言うことができる。
【0016】周波数応答を与え、インパルス応答を求め
る場合、位相ずれが生じない周波数特性を与えると、イ
ンパルス応答は、過去と未来に応答を示す。しかもゼロ
時刻に対して対称の応答を示す。このインパルス応答を
用いると、位相ずれのない、理想的なフィルターが得ら
れる。しかし、過去に応答することは、逆に考えると、
現在点の出力は、未来データからの影響を受けるので、
現在点で定まらないことを意味する。即ち、過去に向か
うインパルス応答の長さの分、時間が遅れて出力される
ことになる。このディジタルフィルターは、対称FIR
型と呼ばれる。このように過去に応答するフィルターは
因果律を満たさないFIR型フィルターと呼ばれること
もある。
【0017】他方、非対称FIR型が存在する。これ
は、計測器の位相を補正したりするために用いられる。
この場合、補正したい周波数応答特性を与え、同様に求
めることができる。また、遅れの生じないリアルタイム
型のフィルターにしたい場合は、未来にのみインパルス
応答のあるフィルターを作成すればよく、上述の連立方
程式を作り、インパルス応答を求める方法で、作成する
ことができる(カルマンフィルター)。このようにして
作成すると、過去のデータのみで、現在の出力値が決定
される。これは、因果律を満たすFIR型フィルターと
呼ばれることもある。また、リアルタイム型のフィルタ
ーとして、電気回路で作られているフィルターのインパ
ルス応答を用いる方法が考えられるが、この方法でFI
R型フィルターが作られることは、ほとんどない。なぜ
ならば、次に述べるIIR型のディジタルフィルターで
作成する方が簡単で、計算量が比較できないほど少ない
からである。
【0018】IIR型フィルターは、Infinite Impules
e Pesponseの略で、無限長のインパルス応答を有するも
のも扱える。ここでは、一般的に用いられるIIR型に
ついて述べる。電気回路でできているフィルターについ
て考えて見ると次のようである。現在の出力は、電源を
入れた時から、ずーと入力されたものを処理してきたも
のである。また、記憶装置にあたるものは、コンデン
サ、コイルであり、その数もごくわずかである。もしこ
れと同じ回路に相当するディジタルフィルターを作れ
ば、少ない記憶で作成できるはずである。
【0019】電気回路で作られる一般的なローパス、ハ
イパスフィルターにバターワース型、チェビシェフ型が
ある。これらは、共にカットオフ特性に応じて1次、2
次、……と呼ばれるものがある。これらは、出力の一部
を入力側に加算するフィードバック回路をもっているの
が特徴である。これらは、ラプラス変換で表されている
(変数sで表されている)。他方、ディジタルフィルタ
ーは、z変換で表される。このsをzにする変換式が提
案されており、この変換式を代入して、ディジタルフィ
ルターが作成される。これは簡単な計算である。
【0020】このフィルターの特徴は、インパルス応答
が未来にのみ作用する。因果律を満たすフィルターであ
る。また、インパルス応答が無限であるものが作成可能
である。フィルターリングの計算もごくわずかで、非常
に高速に処理できる。しかし、電気フィルターと同様に
位相の歪みが必ず存在する。
【0021】これらのフィルターを用途から考えると、
オフライン型とリアルタイム型、疑似リアルタイム型に
分けることができる。オフライン型は、データを事後処
理するものである。従って、理想的フィルターが作れる
(ゲインも位相も指定できる)FIR型が使用される。
リアルタイム型は、入力と同時に処理するもので、電気
回路のアナログフィルターと同じように、入力とほぼ同
時に出力する。時間遅れは処理時間だけである。従っ
て、IIR型、もしくは因果律を満たすFIR型(FI
R型カルマンフィルター)が用いられる。これらは特性
の差はあるものの、完全にゲインと位相を共に満足させ
ることは困難である。疑似リアルタイム型は、位相をず
らさないで入力時刻から、出力の時間がある程度の遅れ
が許される場合に使われるフィルターである。この場
合、フィルター長の短い対称FIR型が利用される。
【0022】以上のことから、本実施例では、津波襲来
中のリアルタイム表示の場合にはカルマンフィルターを
採用した。位相歪みが少なくリアルタイムフィルターで
あるからである。もう1つ、津波が来襲し鎮静化してか
ら分析を行う場合については対称型のFIR型フィルタ
ーを用いた。事後処理であるため、時間遅れを問題とし
ないことと、フィルターとして理想的な特徴を持つから
である。以上は、津波データを抽出する場合を述べて来
たが、これに限られず、ディジタルフィルターの応答特
性を高潮の周期の範囲に設定すれば高潮の水面変動のデ
ータが取り出せるし、波浪の周期の範囲に設定すれば波
浪データを抽出することができる。
【0023】図2は、カルマンフィルターを用いたリア
ルタイム津波抽出を行った波形データである。横軸が時
間、縦軸が水面高である。上側の鋸歯状に変動している
データが波高計から得られたデータであり、津波と高潮
と天文潮が合成されているデータである。重ねて描かれ
ているなだらかな曲線は天文潮と高潮の重なり合った水
面変動を表している。下の波形が取り出された津波だけ
の波形である。
【0024】図3は、対称型のFIR型フィルターを用
いた津波の抽出を示す。上側の波形が波高計からの波形
であり高潮および天文潮と200秒以下の周期の波を含
んでいる。下側の波形は上の波形からディジタルフィル
ターによって津波のみを抽出した波形である。
【0025】図4は、同じく対称型のFIR型フィルタ
ーを用いているが、天文潮+高潮のデータを抽出したも
のである。上側のデータが波高計のデータであり、下側
の曲線が上のデータから抽出した天文潮と高潮の合成さ
れた水面変動のデータである。以上、図3,4,5の波
形は表示器4の画面上に表示されたものである。またデ
ィジタルフィルターはパソコンで行わせたものである。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように本発明の津波計は、
波高計で得られたデータを、津波周期の信号のみを通過
させるように動作設定されたディジタルフィルターを通
過させて表示器へ送るようにしたので、津波のみの波形
データを抽出して表示させることができるという利点が
ある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の津波計の実施例の構成を示すブロック
図である。
【図2】本発明の実施例においてカルマンフィルターを
用いたリアルタイム津波抽出を行った波形データ図であ
る。
【図3】本発明の実施例において対称型のFIR型フィ
ルターを用いた津波の抽出波形データ図である。
【図4】本発明の実施例において対称型のFIR型フィ
ルターを用いて天文潮と高潮の重なった変動を抽出した
波形図である。
【図5】海面の上下変動をその変動周期によって分類し
そのエネルギーの相対的大きさを示した図である。
【符号の説明】
1 波高計 2 A/D変換器 3 ディジタルフィルター 4 表示器

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の各構成を具備することを特徴とする
    津波計。 (イ)水面高の時間経過に対する変動を計測しその水面
    高データをアナログ信号で出力する波高計 (ロ)波高計からの水面高データをディジタル信号に変
    換するA/D変換器 (ハ)A/D変換器からのディジタル水面高データを受
    けてそれに含まれているデータのうち津波周期のデータ
    を選択的に、且つリアルタイム送出を可能として出力す
    るディジタルフィルター (ニ)ディジタルフィルターの出力データを受けて時間
    の経過に対応する水面高データを画面上に波形的に表示
    する表示器
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