JP2898331B2 - 生体活性インプラント材料 - Google Patents

生体活性インプラント材料

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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は、新規な生体活性インプラント材料に関する
ものである。さらに詳しくいえば、本発明は、高い強度
及び良好な耐酸性を有し、かつ優れた生体活性を示し、
人工骨、人工歯根、人工関節などの生体硬組織代替材料
として好適な非リン酸カルシウム系インプラント材料に
関するものである。
従来の技術 これまで、人工骨、人工歯根、人工関節などの生体硬
組織代替材料としては、ステンレス鋼、金属チタン、ニ
ッケル−コバルト合金などの金属類やアルミナ、ジルコ
ニアなどのセラミックスが用いられてきた。しかしなが
ら、これらは生体組織と同化する性質を有しないため、
役割が終了したのちは不用異物として体内に残留し、除
去するためには摘出のための手術を行わなければならな
いという点の不便さがあった。
これに対し、骨や歯の組成と類似したリン酸カルシウ
ム系材料は、生体内において、経時的に同化し漸次生体
組織と直接結合するので、体内に残留させたままでも、
特に摘出手術を行う必要がないため、最近はアパタイ
ト、リン酸三カルシウム、バイオガラスなどを主体とし
たリン酸カルシウム系セラミックスが、生体活性インプ
ラント材料として注目されるようになってきた。しかし
ながら、これらのリン酸カルシウム系セラミックスは、
ステンレス鋼、金属チタンのような金属やアルミナ、ジ
ルコニアのような金属酸化物系セラミックスに比べ、機
械的強度が低いため、適用範囲が著しく制限されるとい
う欠点があった。このような欠点を改善するために、リ
ン酸カルシウム化合物に、アルミナ、シリカ、その他の
金属酸化物を配合した焼結体(特公昭57−40803号公
報)、β−リン酸三カルシウム結晶とアパタイト結晶と
ジオプサイド結晶から成る高強度結晶化ガラス(特開昭
61−197446号公報)、生体適合性及び強度を有する芯材
の表面にヒドロキシアパタイトを融着した材料(特開昭
63−300754号公報)、リン酸カルシウム生成成分にマグ
ネシヤ及びシリカのような強化成分を含有させた結晶化
ガラス(特開昭63−303830号公報)などが提案されてい
る。
しかるに、これらの材料はいずれも生体内で生体組織
と同化させるには、骨や歯と同質のリン酸カルシウム系
化合物を基本とする組成でなければならないとの前提に
立つものであり、その組成の選択範囲が限られるため、
必ずしも十分な物性の改善を行うことができなかった。
また、β−リン酸三カルシウムは生体内で溶解性を有す
るために十分な同化が行われないうちに崩壊するおそれ
があり、また、リン酸カルシウム化合物にアルミナ、シ
リカ、ジオプサイドのような強化成分を配合焼成したも
のも、β−リン酸三カルシウムに変質することがあるの
で、同様な問題を生じる可能性があった。
発明が解決しようとする課題 本発明は、このような従来のインプラント材料がもつ
欠点を克服し、比較的低い焼成温度で製造することがで
き、かつ高い機械的強度を示すと共に、優れた生体親和
性を有する新規なインプラント材料を提供することを目
的としてなされたものである。
課題を解決するための手段 本発明者らは、生体活性インプラント材料について種
々研究を重ねた結果、CaO、SiO2及びMgOを必須成分とす
るセラミックスの中には体液と接触するとその接触部分
にリン酸カルシウム系化合物を生成し、非リン酸カルシ
ウム系セラミックスであるにもかかわらず、良好な生体
親和性、特に生体活性を示すことを見い出し、この知見
に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、CaO、SiO2及びMgOを必須成分と
するジオプサイド組成を有するセラミックスから成る生
体活性インプラント材料を提供するものである。
本発明の生体活性インプラント材料は、CaO、SiO2
びMgOを必須成分とするジオプサイド組成をもつセラミ
ックスから成るが、この組成中のCaOとSiO2との割合
は、重量比で1:2ないし1:3の範囲内である。この範囲を
逸脱すると製造の際の焼結温度を高くしなければならな
かったり、強度や生体親和性が低下する。また、このセ
ラミックス中のMgOの含有量は全重量に基づき35重量%
以下の範囲であり、このようなMgOを含有させることに
より、一般に焼成温度を低くしても骨との癒着性を向上
させることができる。
本発明で用いられるセラミックスは、リン含有水溶
液、例えば擬似体液又は体液と接触した場合、その接触
面においてリン酸カルシウム系化合物例えばヒドロキシ
アパタイトを生成するという点で特徴づけられる。この
ような特徴を有することにより、これを生体内に嵌植し
た場合、生体骨との接触面に、生体親和性の良好なアモ
ルファスなリン酸カルシウム系化合物が均一かつ迅速に
析出し、新生骨の生成を促進する。しかも、このように
して形成された生体骨との結合部は、組成中の成分が傾
斜構造を形成し、結晶的にもインプラントと生体骨の間
で連続したものとなっているので、非常に強固な結合を
生じる。これに対し、従来のヒドロキシアパタイトから
なるインプラントは、表面にリン酸カルシウム系化合物
を析出することがないので新生骨の生成は不均一で遅く
インプラントと初期に接する新生骨が少ないので、結合
部は弱いものとなる。
本発明で用いるセラミックスは、ジオプサイド組成を
もつものであることが必要である。このような組成を有
することにより、1200〜1350℃という比較的低温で焼成
することができ、しかも高い曲げ強度を有するものとな
る。
本発明で用いられるセラミックスは、常法に従い、酸
化カルシウム、酸化ケイ素及び場合により酸化マグネシ
ウムを、所要の割合で混合し、仮焼したのち、この仮焼
物を粉砕し、再度焼成することによって得られる。この
場合、これらの酸化物の代りに焼成条件下でこれらの酸
化物を生成しうる物質、例えばカルシウム、マグネシウ
ムの炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物やケイ酸などを用いて
もよい。これらの原料は、粉末状、か粒状のほか、スラ
リー又は溶液として用いることができる。これら個々の
成分に対応する原料を用いる代りに、あらかじめ形成さ
れたジオプサイドCaO・2SiO2・MgOを粉砕して用いるこ
ともできる。
本発明で用いるセラミックスには、前記した必須成分
の外に、必要に応じ所望の物性をそこなわない程度の
為、通常は5重量%以下の量の任意成分、例えばAl
2O3、TiO2、Na2O、K2O、ZnO、B2O3などを配合すること
ができる。
本発明のインプラント材料を製造するには、例えば上
記のようなセラミックス用原料を粉末とし、ボールミ
ル、振動ミル、自動乳鉢、ミキサー、ジュウサー、サン
ドミル、泡立て器などの混合機等によりよく混合したの
ち、50〜300℃で10分ないし100時間乾燥し、次いで500
〜1600℃、好ましくは800〜1600℃で10分ないし200時間
仮焼きする。このようにして得た仮焼物を粉砕し、必要
に応じポリビニルアルコールのようなバインダーを加え
てプレス法、スリップキャスティング法などで所望の形
状に成形したのち、乾燥し、これを800〜1600℃、好ま
しくは1100〜1550℃の範囲の温度で焼成する。この際の
原料粉末の粒度はBETで通常は0.5m2/g以上、好ましくは
1m2/g以上、より好ましくは3m2/g以上にする。また、成
形圧として1〜3000kg/cm2が用いられる。焼成時間は通
常10分ないし20時間である。また、焼成は常圧で行われ
るが、必要ならば加圧下で行うこともできる。この際の
圧力は通常10〜3000kg/cm2の範囲で選ばれる。
本発明のインプラント材料は、また独立気孔及び連続
気孔を有する多孔質体として形成することもできる。本
発明の生体活性インプラント材料を用いて多孔質体を形
成する場合は、従来のリン酸カルシウム系材料と比べ、
強度が高いために、気孔径、気孔率範囲を比較的自由に
選択でき、高い生体親和性を得ることができる。この多
孔質体は、通常、気孔径5〜2000μm、好ましくは10〜
1000μm、気孔率10〜80%、好ましくは20〜70%、さら
に好ましくは25〜60%を有するものとして形成される。
このものは多孔質セラミックスを製造する際の常法に従
い、原料中に熱分解性物質又は有機質繊維などを混入
し、焼成することによって製造される。このようにして
得られる多孔質インプラント材料は、通常10MPa以上、
多くの場合15MPa以上の圧縮強度を有する。
本発明のインプラント材料は、所要の形状のブロック
として用いてもよいし、また骨欠損部に充てんするため
の顆粒として用いてもよい。
この場合、顆粒径は、新生骨の生成と強度の観点から
通常0.05〜5mm、好ましくは0.1〜3mm、より好ましくは
0.1〜2mmの範囲で選ばれる。
発明の効果 本発明の生体活性インプラント材料は生体アルミナに
匹敵する強度ならびに耐酸性を有し、しかもβ−リン酸
三カルシウムやヒドロキシアパタイトなどのリン酸カル
シウム系インプラント材料に比べ新生骨との癒着がはる
かに迅速に進行し、かつ均一な結合を形成する。
また、生体骨との結合部は低結晶ないしはアモルファ
ス状であって、しかもその成分が連続した濃度勾配を有
しており、生体骨に近接するに従って、生体骨に類似し
た成分組成のものとなるので、結合性が強固であり、疲
労しにくいなど種々の利点がある。
4 従って、本発明のインプラント材料は人工骨、人工
歯根、人工関節等の生体硬組織代替材料などに好適に用
いられる。
実施例 次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
試料の曲げ強度及び耐酸性等の測定方法は以下のとお
りである。
(1)相対密度;試料の焼結密度をアルキメデス法によ
り測定し、また焼結体を粉砕して得た粉体(5m2/g)の
真密度を測定し、両者の比率として求めた。
(2)曲げ強度;試料を3×4×40mmに切り鏡面研磨
し、3点曲げ試験により、スパン距離36mm、クロスヘッ
ドスピード0.5mm/minの条件下で測定した(n=10)。
(3)圧縮強度;試料を10×10×10mmに切り、圧縮試験
によりクロスヘッドスピード0.5mm/minの条件下で測定
した(n=10)。
(4)破壊靭性値(Kic);ASTM E399−83に基づき測定
した。
(5)結晶粒径;走査型電子顕微鏡により測定した結晶
粒面積から、これを円と仮定してその平均直径を求め
た。
(6)ヒドロキシアパタイト生成;Na+142.0mmol、K+5.0
mmol、Mg2+1.5mmol、Ca2+2.5mmol、Cl-148.8mmol、HCO3
-4.2mmol、及びHPO4 2-1.0mmolを含有する水溶液から成
る疑似体液150mlを37℃に保ち、この中へ、試料(3mm×
4mm×2mm、6個)を浸漬し、7日後SEMで析出相を観察
し、次の評価基準で判定した。なお、析出相の成分は電
子線回析により測定した。
5…全体にわたって析出 4…ほぼ全体にわたって析出しているが部分的に析出し
ていない 3…半分程度析出 2…わずかに析出 1…ほとんど析出しない 0…全く析出しない (7)耐酸性;pH4の乳酸水溶液200cc中に表面積200mm2
の試料を投入し、恒温槽により溶液温度を37℃に保持
し、かつ溶液を若干揺動させながら、48時間放置した。
試験試料は直ちに水洗し、乾燥したのち、重量減少率の
測定により評価した。
実施例1〜4、比較例1 平均粒径5μmのCaO、MgO及びSiO2の粉末を所定の割
合で混合し、80℃で5時間乾燥したのち、950℃で5時
間仮焼きした。次にこの仮焼物を粉砕し、バインダーと
してポリビニルアルコール2重量%を加え、成形圧50kg
/cm2でプレス成形し、80℃で5時間乾燥後1350℃で2時
間焼成することにより、第1表に示す組成のインプラン
ト材料を得た。また、このものの曲げ強度及び耐酸性試
験の結果を、ヒドロキシアパタイトの試験結果と共に第
1表に示す。
これらの結果から、本発明品の方がヒドロキシアパタ
イトよりも破断しにくく、長期間にわたっての使用に耐
え、耐久性に優れることが分かる。
また、疑似体液中でのヒドロキシアパタイトの形成状
況を観察したところ、本発明品については、いずれも3
日後にその表面にヒドロキシアパタイトの形成が認めら
れた。
比較のために、同様に試験をアルミナ及びチタンにつ
いて行ったが、10日経過後においても全くヒドロキシア
パタイトの形成は認められなかった。
実施例5〜7、比較例2〜13 原料割合及び焼成温度を変えること以外は実施例1〜
4と同様にして、第2表に示す組成のインプラント材料
を製造した。このようにして得たセラミックスの物性を
第2表に示す。
この表から明らかなように、従来のインプラント材料
はヒドロキシアパタイト生成能を有しないにもかかわら
ず、本発明のインプラント材料はいずれも良好なヒドロ
キシアパタイト生成能を示す。
実施例8〜24、比較例14〜20 所定量のCaO、SiO2及びMgOから成る粉末混合物に、第
3表に示す量の結晶性セルロースを熱分解性物質として
加え、70℃で5時間乾燥したのち、第3表に示す温度で
仮焼き及び焼成して顆粒体とブロック体の多孔質インプ
ラント材料を製造した。得られたインプラント材料の物
性を第3表(顆粒体)及び第4表(ブロック体)に示
す。
なお、生体親和性の試験は、下記により行った。
体重2.5〜2.8kgの雄性成熟家兎の下顎骨に、3×4×
6mmの補填穴を形成し、これに多孔質インプラント材料
を補填した。
手術後、6週間経過した後、非脱灰研摩標本を作成
し、インプラント材料と新生骨の界面のSEM像を観察
し、次の評価基準で判定した。
a…新生骨がインプラント材料と完全に癒着し、かつイ
ンプラント孔内にも完全に入り込んでいた。
b…新生骨がインプラント材料と半分以上癒着し、イン
プラント孔内にも半分以上入り込んでいた。
c…新生骨がインプラント材料と半分以上癒着し、イン
プラント孔内には一部入り込んでいた。
d…新生骨がインプラント材料と一部癒着し、インプラ
ント孔内には一部入り込んでいた。
この表から明らかなように、本発明のインプラント材
料は、多孔質体とした場合でも、ヒドロキシアパタイト
やリン酸三カルシウムのようなリン酸カルシウム系イン
プラント材料よりも高い強度を示す上に、生体親和性が
高く、新生骨との癒着状態も強固である。
適用例 実施例5で得たジオプサイド(試料A)、ジオプサイ
ト組成20重量%を含むヒドロキシアパタイト(試料B)
及びヒドロキシアパタイト(試料C)をそれぞれ3×4
×6mmの寸法のブロックに成形し、これを体重2.5〜2.8k
gの雄性成熟家兎の下顎骨に嵌植し、経過を観察した。
施術2週後、いずれの試料においても新生骨の形成が
認められたが、試料Aでは全体的に試料ブロックと新生
骨との接触が緊密であるのに対し、試料B及び試料Cに
おいては一部が直接接触しているだけで、大部分は間隙
を有していた。
施術4週後、試料Aについては新生骨との接触部分の
層構造の厚さが増大しているのが認められたが、試料B
及び試料Cについては、接触部の層構造の厚さに変化は
認められなかった。
24週後、いずれの試料においても新生骨と母床骨とが
一体化し、その境界は判然としなくなったが、試料Bと
試料Cにおける骨細胞の配列は、試料ブロックに平行で
母床骨とは明らかに異なるのに対し、試料Aの場合は骨
細胞の配列が母床骨と全く均一になり、母床骨との接合
部もブロック外面の骨膜側も骨との接合状態には全く差
が認められなかった。
第1図は、試料Aについての12週後のジオプサイドと
新生骨との接合部分の組成変化を示すEPMAのスペクトル
図であるが、新生骨とジオプサイドとの中間層に成分の
濃度勾配が形成されていることが分かる。
また、第2図は、24週後における試料Aと母床骨との
接合部の透過電子顕微鏡による高分解能像を示したもの
であるが、これから明らかなように骨細胞の配列がジオ
プサイド側と母床骨側とで全く同一であり、境界はほと
んど識別されない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明のインプラント材料を動物体内に嵌植
したときの母床骨との接合部における成分の濃度勾配を
示すEPMAによる分析グラフ、第2図は同じ接合部の結晶
構造の配列を示す透過電子顕微鏡写真である。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】CaO、SiO2及びMgOを必須成分とするジオプ
    サイド組成を有するセラミックスから成る生体活性イン
    プラント材料。
  2. 【請求項2】セラミックスが多孔質体である請求項1記
    載の生体活性インプラント材料。
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