JP2882305B2 - D−メチオニンの製法 - Google Patents

D−メチオニンの製法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、微生物を利用したD−
メチオニンの製法に関する。
【0002】
【従来の技術】D−メチオニンは、抗生物質など様々な
医薬品の原料もしくは合成中間体、光学分割剤として有
用な化合物である。従来、D−メチオニンの製法として
は、ラセミ体の分別晶析法およびクロマトグラフィーに
よる光学分割法、有機化学的な不斉合成法等の物理化学
的な方法が知られている。また、生化学的方法として
は、微生物酵素を用いて、N−アセチル−DL−メチオ
ニンを不斉加水分解する方法〔アプライド・アンド・エ
ンヴァイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Applied
and Environmental Microbiology)、第54巻、第984〜9
89頁、1988年〕、5−メチルチオエチルヒダントインを
不斉加水分解する方法〔ジャーナル・オブ・ファーメン
テーション・テクノロジー(Journal of Fermentation T
echnology)、第56巻、第492〜498頁、1978年〕、D−N
−カルバモイル−α−アミノ酸を加水分解する方法〔特
再平04−810579(WO92/10579)〕等
が知られている。
【0003】しかしながら、上記物理化学的方法は操作
が煩雑であったり、生成物の収率、光学純度が低い等の
難点を有しており、また生化学的方法は、基質の5−メ
チルエチルヒダントイン、D−N−カルバモイル −α
−アミノ酸が高価である、生成物の分離が難しいなどの
難点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、D−メチオ
ニンを工業的有利に製造する方法を提供しようとするも
のである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究
を重ねた結果、ラセミ型メチオニン中のL−体のみを選
択的に分解する能力を有する微生物を見いだし、本発明
を完成するに到った。
【0006】即ち、本発明は、ラセミ型メチオニンに、
L−メチオニンを不斉分解する能力を有する微生物の培
養物またはその処理物を作用させた後、残存するD−メ
チオニンを分離、採取することを特徴とするD−メチオ
ニンの製法である。
【0007】本発明において原料化合物であるラセミ型
メチオニンとしては、D体及びL体を等量含むものだけ
でなくこれら光学活性体を共に含むものであればいずれ
も用いることができる。
【0008】本発明に使用される微生物は、L−メチオ
ニンを不斉分解する能力、即ち、ラセミ型メチオニンの
中のL体を選択的に分解する能力を有するものであれば
よい。かかる微生物としては、例えば、プロテウス属、
プロビデンシア属、マイクロコッカス属及びモルガネラ
属に属する微生物が挙げられる。
【0009】これら微生物の具体的例としては、プロテ
ウス ブルガリス(Proteusvulgaris)
IFO 3045、同RIMD KS(IAM 120
03)、同OUT 8144(IFO 3851)、プ
ロテウス ミラビリス(Proteus mirabi
lis)IFO 3849、プロビデンシア リッテゲ
リ(Providencia rettgeri)AT
CC 29944、同IFO 13501、同ATCC
21118、同ATCC 25932、同ATCC
9919、プロビデンシア アルカリファシエンス(P
rovidencia alcalifaciens)
JCM 1673、マイクロコッカスエスピー(Mic
rococcus sp.)IAM 1012、モルガ
ネラモルガニイ(Morganella morgan
ii)IFO 3848等がある。
【0010】これらのうち、プロテウス属又はプロビデ
ンシア属に属する微生物(例えばプロテウス ブルガリ
ス、プロテウス ミラビリス、プロビデンシア リッテ
ゲリ及びプロビデンシア アルカリファシエンス)が好
ましく、とりわけ、プロテウス属に属する微生物が好ま
しい。
【0011】本発明に使用する微生物は、新たに土壌、
食品、動物などから分離した菌株であってもよく、ま
た、紫外線照射や変異剤処理による人為的処理により得
られる変異株であってもよいし、これら微生物から組換
えDNA、細胞融合などの遺伝子工学、生物工学的手法
により誘導されるものであってもよい。
【0012】本発明に使用する微生物の培養物またはそ
の処理物としては、L−メチオニンを不斉分解する能力
を有するものであればいかなるものであってもよく、例
えば、培養物としては培養液、生菌体などが挙げられ、
その処理物としては、例えば、洗浄菌体、乾燥菌体、培
養上清、菌体破砕物、菌体自己消化物、菌体抽出物、或
はこれらから常法により得られる部分精製又は精製酵素
などが挙げられる。
【0013】本発明において、微生物の培養は、例え
ば、当該微生物を通常この分野において用いる培地、例
えば、慣用の炭素源、窒素源および無機塩類含有培地
中、pH約5〜8で、常温ないし加温下(好ましくは約
20〜40℃)かつ好気的条件下で実施すればよい。ま
た、培養に際しては培地にラセミ型メチオニンを約0.
001%以上、とりわけ0.1〜1%程度添加すること
により酵素活性を高めることもできる。
【0014】生菌体及び培養上清は、上記のように微生
物を培養して得た培養液などから遠心分離、ろ過などの
操作により得られる。洗浄菌体は、生菌体を生理食塩水
などで洗浄して得られ、乾燥菌体は、生菌体や洗浄菌体
などを凍結乾燥、アセトン乾燥処理することなどにより
得られる。また、菌体破砕物は、生菌体や洗浄菌体など
を種々の物理化学的方法、例えば、超音波、フレンチプ
レス、浸透圧、凍結融解、アルミナ破壊、溶菌酵素、界
面活性剤または有機溶媒などで処理して得られる。菌体
抽出物は、例えば菌体破砕物から濾過又は遠心分離等に
より固形物を除去して得られる。部分精製または精製酵
素は、例えば、菌体破砕物、培養上清などの画分から、
硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過ク
ロマトグラフィー等の常法により分画し、L−メチオニ
ンを選択的に分解する能力を指標として精製することに
よって、これら酵素の部分精製又は精製物を取得でき
る。
【0015】これら微生物もしくはその処理物は、その
まま使用してもよいが、さらにポリアクリルアミド法、
含硫多糖ゲル法(カラギーナンゲル法等)、アルギン酸
ゲル法、寒天ゲル法等により固定化した後使用すること
もできる。
【0016】本発明にかかる不斉分解反応は、原料化合
物であるラセミ型メチオニンに、L−メチオニンを不斉
分解する能力を有する微生物もしくはその処理物を、溶
液中で接触させインキュベーションすることにより実施
できる。また、所望により、反応は、微生物の培養と並
行して実施してもよい。
【0017】反応は水溶液中で好適に実施できる。ま
た、反応は常温ないし加温下、好ましくは10〜50
℃、とりわけ好ましくは25〜40℃で好適に進行す
る。反応液のpHは、5〜11、とりわけ6〜9になる
ように調整するのが好ましい。
【0018】反応基質となる原料化合物であるラセミ型
メチオニンの仕込濃度(w/v)は、通常0.05〜3
0%、とりわけ1〜20%とすることが好ましい。原料
化合物は最初に一括して添加してもよく、あるいは反応
中数回に分割して添加してもよい。
【0019】本発明において生菌体を用いる場合、反応
液中に界面活性剤を添加しておけば反応時間の短縮をは
かることができるので好ましい。この目的に用いられる
界面活性剤の例としては、臭化セチルピリジニウム、臭
化セチルトリメチルアンモニウム、p−イソオクチルフ
ェニルエーテル(米国、ロームアンドハース社製、商品
名トリトンX−100)等があげられ、反応液に対して
0.0001〜0.1%程度使用するのが好ましい。
【0020】また反応を、微生物の培養と並行して実施
する場合は、予めラセミ型メチオニンを添加した培地を
用いて、培養と同様の条件下で反応を行なえばよい。
【0021】反応終了後、反応液からのD−メチオニン
の採取 単離は、常法にしたがって容易に実施すること
ができる。例えば、反応液から遠心分離によって菌体等
の不溶性物質を除去、活性炭を用いて色素等を吸着除去
した後、反応液を減圧濃縮し、冷却晶析することによ
り、D−メチオニンの結晶を得ることができる。
【0022】なお、微生物またはその処理物が、L−メ
チオニンを不斉分解する能力を有するか否かの検定は、
上記の反応方法に準じて、例えば以下のように容易に実
施できる。すなわち、ラセミ型メチオニンを含む培地も
しくは水溶液中に、検定すべき微生物またはその処理物
を添加し、30℃にて120時間振とうさせる。反応終
了液を、光学活性カラム(例えば、ダイセル化学工業
製、CROWNPAKCR(+))を用いる高速液体ク
ロマトグラフィーで分析・定量し、D−メチオニン、L
−メチオニンの各々の含量を測定して実施できる。測定
により、例えばラセミ型メチオニン中のL−体が減少
し、D−体が残存している場合、L−メチオニンを不斉
分解する能力を有するものと判定される。
【0023】以下、本発明を実施例により詳細に説明す
る。
【0024】なお、本明細書中「%」はいずれも「重量
/容量(g/dl)」を意味するものとする。また、本
実施例において、メチオニンの光学活性体の定量は、C
ROWNPAK CR(+)(ダイセル化学製)を用い
る高速液体クロマトグラフィーにより行った。
【0025】
【実施例】
実施例1 DL−メチオニン2%、硫酸アンモニウム0.2%、リ
ン酸二水素カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.0
5%、酵母エキス0.02%からなる培地100ml
(pH 7.0)を500ml容振盪フラスコにいれ、
120℃で10分間滅菌した。この培地にプロテウス
ブルガリス(Proteus vulgaris)IF
O 3045を一白金耳接種し、30℃で168時間振
盪培養した。上記培養液1000mlを遠心分離して菌
体を除去し、上清を得た。該上清中の蛋白等を除くため
限外ろ過を行い、ろ液を得た。該ろ液に活性炭を加えて
脱色を行った後、減圧濃縮し、濃縮液を冷却晶析してD
−メチオニンの結晶4.8gを得た。
【0026】 旋光度 :[α]D 20=−23.1゜(C=2,6N HCl) 光学純度:100% 実施例2 実施例1に示した培地100mlに下記第1表に示す微
生物を接種し、30℃で120時間振盪培養後、培養液
に残存するD−メチオニンを定量した。D−メチオニン
の含量は下記第1表の通りであった。また、対掌体であ
るL−メチオニンは培養液中から殆ど検出されなかっ
た。
【0027】
【表1】
【0028】実施例3 DL−メチオニン0.5%、ポリペプトン1.0%、酵
母エキス1.0%、塩化ナトリウム0.5%からなる培
地100ml(pH7.0)を500ml容振盪フラス
コに入れ、120℃で10分間滅菌した。この培地にプ
ロテウス ブルガリス(Proteus vulgar
is)RIMD KS(IAM 12003)を一白金
耳接種し、30℃で20時間培養した。上記培養液10
00mlより遠心分離によって集めた菌体を生理食塩水
に懸濁後、さらに遠心分離により集菌した。該菌体にD
L−メチオニン50gを含む50mMリン酸緩衝液50
0ml(pH7.0)を加え、30℃で72時間反応さ
せることによりL−メチオニンが完全に分解した。反応
後、遠心分離により除菌し、実施例1と同様に処理する
ことによりD−メチオニン13.3gを得た。
【0029】 旋光度 :[α]D 20=−23.2゜(C=2,6N HCl) 光学純度:100% 実施例4 実施例3に示した培地に下記第2表に示す細菌を1白金
耳接種し、30℃で20時間培養した。上記培養液10
0mlより遠心分離によって集めた菌体を生理食塩水に
懸濁後さらに遠心分離により集菌した。該菌体にDL−
メチオニン2gを含む50mMリン酸緩衝液50ml
(pH7.0)を加え、30℃で120時間反応させ
た。この反応液中のD−メチオニン含量は下記第2表の
通りであった。また、対掌体であるL−メチオニンは反
応液中から殆ど検出されなかった。
【0030】
【表2】
【0031】
【発明の効果】以上のとおり、本願発明方法は、工業的
に安価なラセミ型メチオニンから光学純度の高いD−メ
チオニンを極めて効率よく製することに成功したもので
あり、工業的に有利な製法となるものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI (C12P 41/00 C12R 1:01) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12P 41/00 BIOSIS(DIALOG) WPI(DIALOG)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ラセミ型メチオニンに、L−メチオニン
    を不斉分解する能力を有し、プロテウス属、プロビデン
    シア属、マイクロコッカス属又はモルガネラ属に属する
    微生物の培養物又はその処理物を作用させた後、残存す
    るD−メチオニンを分離、採取することを特徴とするD
    −メチオニンの製法。
  2. 【請求項2】 L−メチオニンを不斉分解する能力を有
    する微生物が、プロテウス属又はプロビデンシア属に属
    する微生物である請求項1記載の製法。
  3. 【請求項3】 L−メチオニンを不斉分解する能力を有
    する微生物が、プロテウス ブルガリス、プロテウス
    ミラビリス、プロビデンシア リッテゲリ又はプロビデ
    ンシア アルカリファシエンスである請求項1記載の製
    法。
  4. 【請求項4】 ラセミ型メチオニンに、L−メチオニン
    を不斉分解する能力を有する微生物の培養物又はその処
    理物を作用させる工程を、L−メチオニンを不斉分解す
    る能力を有する微生物の培養と並行して培地中で実施す
    る請求項1記載の製法。
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