JP2844900B2 - ヘキサブロモシクロドデカンの製造法 - Google Patents

ヘキサブロモシクロドデカンの製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、耐熱性に優れた1,2,5,6,9,10−ヘキサブロ
モシクロドデカンの製造法に関する。1,2,5,6,9,10−ヘ
キサブロモシクロドデカンは、高分子化合物の難燃剤と
して有用な化合物である。
(従来の技術) 1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカン(以下HB
CDと略記する)は通常よく知られた難燃剤であり、ポリ
スチレン樹脂等に使用されている。この難燃剤は、1,5,
9−シス,トランス,トランス−シクロドデカトリエン
(以下CDTと略記する)に臭素を付加させる反応によっ
て合成される。
ドイツ特許第1147574号明細書には、エチルアルコー
ルを反応溶媒としてCDTのエチルアルコール溶液へ臭素
を滴下して、臭素付加反応を行うことが記載されてい
る。
また同様の反応方法でいくつかの混合溶媒系が提案さ
れている。例えば特公昭49−24474号ではアルコールと
ベンゼンの混合溶媒系、特公昭49−24475号ではアルコ
ールとエステルの混合溶媒系、USP3833675ではt−ブチ
ルアルコールとベンゼンの混合溶媒系、特公昭50−5187
号ではアルコールとハロゲン系炭化水素の混合溶媒系、
EP181414号ではアルコールとジオキサンの混合溶媒系が
それぞれ提案されている。
この他に、特公昭53−12510号には、反応器に溶媒を
仕込んでおき、CDTと臭素を同時に滴下して反応する方
法が示されている。
(発明が解決しようとする課題) CDTの臭素付加反応によって生成するHBCDには、物理
的性質の違う三種類の異性体が存在することが知られて
いる(E.R.Larsen and E.L.Ecker,J.Fire Sci.,4,26
1(1986))。すなわち高速液体クロマトグラフィーでO
DS逆相カラムを用いて分析すると、カラムから溶出する
順番にα−HBCD,β−HBCD,γ−HBCDと命名された異性体
が存在することが述べられている。
本発明者らが、各異性体を単離し、物性値を測定した
結果では、α−,β−,γ−体のそれぞれの融点は184
〜186℃,168〜171℃,196〜198℃である。また熱重量分
析(空気中、昇温速度10℃/min)では、5%加熱重量減
温度はそれぞれ242℃,217℃,245℃で、50%加熱重量減
温度はそれぞれ255℃,232℃,258℃である。従ってγ−H
BCD,α−HBCD,β−HBCDの順に熱安定性は高い。
難燃剤として用いられるHBCDはγ−体が主体のもので
あるが、これらの異性体の存在比の違いにより、HBCDの
品質が大きく左右される。例えば、融点が低く、熱安定
性が低いβ−HBCDの存在比が高くなると、HBCDの融点は
低くなり、高分子の成型加工時にはHBCDの熱分解が低温
で起こり始めるために、成型加工機の腐蝕が起こった
り、樹脂が着色を起こす等の問題があった。
また、ドイツ特許1147574号明細書に記載されている
方法では、反応途中で溶媒に不溶の樹脂状物が析出する
ため、撹拌が困難になり、スケールアップが困難であっ
た。さらにこのとき生成するHBCDは融点が低いため、耐
熱性が劣るといった欠点があった。
これらの欠点を解決するために提案された前述の混合
溶媒系で反応を行うと、混合溶媒の溶解性の影響で反応
途中の樹脂状物の析出はなくなる。しかし生成するHBCD
の融点が低いため、やはり耐熱性の点で問題が残ってい
た。
また、特公昭53−12510号に記載の方法でも、生成す
るHBCDの融点が低いため、耐熱性の点で問題が残ってい
た。
更に、上述した従来の反応方法では、CDTの臭素化反
応の際、CDTの二重結合への臭素付加反応以外に、アリ
ル位の臭素化、脱臭化水素、または溶媒の臭素化等のよ
うな副反応が起こり易く、収率が低下したり、不純物が
HBCDの結晶中に混入するなどの問題があった。これらの
不純物も、成型加工機の腐蝕や、樹脂の着色の原因にな
っている。
そこで、熱安定性の高いγ−HBCDの選択的な製造法が
求められていた。
(課題を解決するための手段) 本発明者らは、上記事情に鑑み、熱安定性が高いγ−
HBCDの高選択的な製造法について鋭意検討した結果、炭
素数1〜4のアルコールまたはそれを含有する有機溶媒
の存在下、臭素とCDTを反応させる際の溶媒に対するCDT
の基質濃度を0.1〜20wt/vol%とすることで、前述の先
行技術で実施されている様な、22〜58%といった比較的
高い基質濃度領域で反応を行った場合と比較して、γ−
HBCDの選択率が著しく向上し、さらには臭素付加反応以
外の副反応で生じると考えられる同定出来ない不明物が
極めて減少することを見出だし、本発明に到達したもの
である。
すなわち本発明は、炭素数1〜4のアルコールまたは
それを含有する有機溶媒の存在下、臭素とCDTを反応さ
せ、HBCDを製造する方法において、溶媒に対するCDTの
基質濃度を0.1〜20wt/vol%とすることを特徴とする、H
BCDの製造法に関する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法で用いられる溶媒は、炭素数1〜4のア
ルコールまたはそれを含有する有機溶媒である。炭素数
1〜4のアルコールとしては、メタノール,エタノー
ル,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノー
ル,sec−ブタノール,イソブタノール,tert−ブタノー
ル,エチレングリコール,ジエチレングリコール,プロ
ピレングリコール等があげられる。これらの溶媒の中
で、エタノール,n−プロパノール,tert−ブタノールな
どが特に好ましい。アルコールと混合する溶媒として
は、エーテル系の溶媒、ハロゲン系炭化水素溶媒、エス
テル系の溶媒があげられる。エーテル系の溶媒としては
ジプロピルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラ
ヒドロフタン(THF),ジオキサン,ジエチレングリコ
ールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジエチル
エーテル等が、ハロゲン系炭化水素溶媒としては、四塩
化炭素,クロロホルム,塩化メチレン,エチレンジクロ
ライド(EDC)等が、エステル系の溶媒としては酢酸エ
チル,酢酸メチル,2−メトキシエチルアセタート等がそ
れぞれ例示できる。混合溶媒としてはエタノール−酢酸
エチル,エタノール−THF,エタノール−ジオキサン,エ
タノール−EDC,エタノール−塩化メチレン等が反応成績
の面から特に好ましいものである。
本発明の方法を実施するにあたって、CDTの基質濃度
は、有機溶媒に対して0.1〜20wt/vol%、好ましくは0.5
〜10wt/vol%が選ばれる。0.1%より低い濃度で反応を
行っても、0.1wt/vol%の時のγ−HBCDの選択率に比較
して、期待されるほどγ−HBCDの選択率は向上せず、ま
た経済的な見地から有用ではない。また20wt/vol%を越
えて反応を行うと、γ−HBCDの選択率が著しく低下する
ため好ましくない。
本発明の方法を実施するにあたっての反応温度は格別
の限定はないが、高温で反応をおこなうと、臭素付加反
応以外の置換反応が起こりやすくなるため不純物が増加
したり、反応溶媒と臭素の反応が起こりやすくなる為あ
まり好ましくない。また極端な低温で反応を行った場合
には、溶媒の変性はおさえられるが、反応速度がおそく
なるため反応が完結せず、反応中間体で止まるため好ま
しくない。反応温度は通常約−20℃〜約50℃の範囲であ
る。
本発明を実施するにあたっての反応時間は反応温度や
仕込み量等により変わりうるが、CDTの滴下時間は通常
約10分ないし10時間程度、さらにCDTの滴下が終了して
から約3時間程度反応させることでなしとげられる。
CDTに対する臭素の使用量は、Br2/CDT(モル比)で3.
0以上、好ましくは3.0〜10.0である。3.0未満では、CDT
に対して臭素が不足しているため、反応が完結しない。
10.0を越える場合では、過剰臭素による副反応が起こり
やすくなるため、好ましくない。
本発明を実施するにあたっての反応方法は、CDT溶解
した溶液中に臭素を滴下して反応させる方法や、臭素を
溶媒に溶解した中にCDTを滴下して反応させる方法など
が考えられるが、何れの方法でもかまわない。
反応終了後、生成したHBCDは公知の手段で粉体として
単離できる。例えば、析出した結晶を濾過することで、
HBCDの結晶を得ることができる。さらに濾液として回収
された溶媒は、これに新しい溶媒を補充することで繰返
し反応溶媒として使用することができる。または、反応
終了時の反応液を貧溶媒に投入することで結晶を取り上
げてもよい。
(発明の効果) 本発明の方法を実施することにより、HBCDのγ−体を
高選択率で製造出来る様になった。また、基質濃度が高
い反応方法に比べて、CDT由来の不純物の生成が著しく
減少する様になった。従って、色相,熱安定性に優れた
HBCDを選択的に製造できるようになった。
(実施例) 以下実施例に従って本発明を更に詳しく説明するが、
本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例 1〜15 還流冷却器、撹拌羽根を装備した丸底フラスコに、表
1,2及び3に示す組成の反応溶媒と臭素を仕込んだ。そ
の中に、表1,2及び3に示す量のCDTを30℃で2時間かけ
て滴下することで反応させた。CDTの仕込み終了後、さ
らに30℃で2時間熟成した。
反応終了後の反応スラリー液を高速液体クロマトグラ
フィー(カラム TSKゲル−ODS−80T、溶離後 アセト
ニトリル/水=80/20vol%、検出器 UV215nm)で解析
し、その結果をまとめて表1,2及び3に示した。なお同
定出来ない成分については、不明分とした。表中のDBCD
(ジブロモシクロドデカジエン)およびTBCD(テトラブ
ロモシクロデドカエン)は、HBCD製造時の反応中間体で
ある。なおTBCDについては、異性体が存在するので、高
速液体クロマトグラフィーでCDS逆相カラムを用いて分
析し、カラムから溶出する順番にα−TBCD、β−TBCDと
命名した。
γ−HBCDの選択率は、γ−HBCDの生成量をHBCD異性体
の合計量で割った値で示した(γ−HBCD/(α−HBCD+
β−HBCD+γ−HBCD))。
反応終了時の反応液を濾過し、得られた結晶を乾燥さ
せ融点を測定し、その結果をまとめて表1,2及び3に示
した。
実施例 16〜23 還流冷却器、撹拌羽根を装備した丸底フラスコに、表
4及び5に示す組成の反応溶媒とCDTを仕込んだ。その
中に、表4及び5に示す量の臭素を30℃で2時間かけて
滴下することで反応させた。臭素の仕込み終了後、さら
に30℃で2時間熟成した。反応終了後、実施例1〜15と
同様な方法で後処理と分析を行い、その結果をまとめて
表4及び5に示した。
比較例 1〜4 還流冷却器、撹拌羽根を装備した丸底フラスコに、表
6に示す組成の反応溶媒と臭素を仕込んだ。その中に、
表6に示す量のCDTを30℃で2時間かけて滴下すること
で反応させた。CDTの仕込み終了後、さらに30℃で2時
間熟成した。反応終了後、実施例1〜15と同様な方法で
後処理と分析を行い、その結果をまとめて表6に示し
た。
比較例 5〜8 還流冷却器、撹拌羽根を装備した丸底フラスコに、表
7に示す組成の反応溶媒とCDTを仕込んだ。その中に、
表7に示す量の臭素を30℃で2時間かけて滴下すること
で反応させた。臭素の仕込みの終了後、さらに30℃で2
時間熟成した。反応終了後、実施例1〜15と同様な方法
で後処理と分析を行い、その結果をまとめて表7に示し
た。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】炭素数1〜4のアルコールまたはそれを含
    有する有機溶媒の存在下、臭素と1,5,9−シス,トラン
    ス,トランス−シクロドデカトリエンを反応させ、1,2,
    5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカンを製造する方法
    において、溶媒に対する1,5,9−シス,トランス,トラ
    ンス−シクロドデカトリエンの基質濃度が0.1〜10wt/vo
    l%であることを特徴とする、1,2,5,6,9,10−ヘキサブ
    ロモシクロドデカンを製造する方法。
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