JP2816802B2 - 配送問題における最適な配車と配送順序の探索装置および探索方法 - Google Patents

配送問題における最適な配車と配送順序の探索装置および探索方法

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JP2816802B2
JP2816802B2 JP31974393A JP31974393A JP2816802B2 JP 2816802 B2 JP2816802 B2 JP 2816802B2 JP 31974393 A JP31974393 A JP 31974393A JP 31974393 A JP31974393 A JP 31974393A JP 2816802 B2 JP2816802 B2 JP 2816802B2
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治一 五十嵐
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株式会社エイ・ティ・アール人間情報通信研究所
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、配送問題における最
適な配車と配送順序の探索装置および探索方法に関し、
特に、配送問題に対して与えられる各種の制約条件が満
たされ、かつコストを極力抑えることができるような最
適な配車と配送順序を探索する配送問題における最適な
配車と配送順序の探索装置および探索方法に関する。
【0002】
【従来の技術】複数の車両を用いて多数の荷物をそれぞ
れの配送先に配送するには、どの車両にどの荷物を積込
み(配車)、かつ、各車両が割り当てられた配送先をど
のような順序で回るか(配送順序)という2つの問題が
解かれなければならない。特に、配送先において、配送
時刻の指定や、乗り入れ可能な車両種に関する制限、車
両積載量の上限、車両の出発時刻や帰着点などの種々の
制約条件が課される場合があり、その場合には、それら
の制約条件をすべて満たし、かつ、与えられた目的関数
を最小化にする解が求められる必要がある。目的関数と
しては、各車両が費やした配送時間の総計や偏差、ある
いは、すべての配送が完了する時刻などが実用的には必
要とされている。
【0003】このような配送問題の具体的な例として
は、トラックによる食品、飲料品、衣類、雑貨、部品、
生産物などの荷物を飲食店、商店、工場、一般家庭など
に配送するものが挙げられる。このような配送問題で
は、最適な組合せを探索する必要があり、従来の数理計
画法は、一般的な分岐限定法を用いてきた。この分岐限
定法は、直接解くことが難しい問題をよりやさしい部分
問題に分割(分岐)し、その部分問題を評価して不必要
な部分問題を取り除き(限定)、可能性のある部分問題
をすべて解くという考え方が基本とされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、現実の
配送問題においては、制約条件が複雑であったり、目的
関数が単一でない多目的最適化問題である場合が多い。
したがって、分岐限定法では、制約条件や目的関数が変
わるたびにプログラムを書き直す必要があり、実際の配
送の現場で用いられることはほとんどなく、熟練した配
送係の直感と経験に頼っているのが現状である。
【0005】しかし、配送先や配送問題などの種類や、
車両走行速度などの道路事情や、配送時間などの制約条
件も日々変化し、人間がこれらの諸条件を満足する配送
計画案を立案するにはかなりの困難が伴う。実際、短時
間で処理する必要もあり、配送係の精神的負荷は少なく
ないものとなっている。しかも、人間が経験に基づいて
立案した配送計画案が、輸送コストなどの目的関数の最
小値を与えてくれるという保証は少ない。
【0006】ゆえに、この発明の目的は、配送時刻の指
定や、乗り入れ可能な車両種に関する制限、積載量の上
限、車両の出発時刻や帰着点などの種々の制約条件が課
された場合に、それらの制約条件をすべて満たし、か
つ、各車両が費やした配送時間の総計や偏差、あるい
は、すべての配送が完了する時刻などの多目的な目的関
数を最小化して、最適な配送と配送順序を探索すること
ができるような配送問題における最適な配車と配送順序
の探索装置および探索方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明の1つの局面に
従った配送問題における最適な配車と配送順序の探索装
置は、P(2以上の整数)台の車両でQ(2以上の整
数)箇所の配送先に荷物の配送を行なうにあたって、Q
箇所の配送先をP台の車両に割り振る配車と、車両の各
々に割り振られた配送先の配送順序とを最適化する配送
問題における最適な配車と配送順序の探索装置であっ
て、P個の行とQ個の列とを含み、各行のQ個の要素は
対応する車両に割り振られた配送先をその配送順序で表
わす行列を作成する作成手段と、配送に必要な時間およ
び制約条件を評価するためのコスト関数および制約関数
をそれぞれ決定する決定手段と、決定手段によって決定
されたコスト関数および制約関数の和をエネルギー関数
と定義する定義手段と、作成手段によって作成された行
列の要素の入替えによる行列の変形を繰返し、その変形
された行列に基づいて定義手段によって定義されたエネ
ルギー関数の値を算出し、それらの値のうち最小の値を
算出した行列を配送問題の最適解として出力する最小化
手段とを備える。
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】好ましくは、上記最小化手段はシミュレー
テッドアニーリング法を用いてエネルギー関数を最小化
する。
【0012】この発明のもう1つの局面に従った配送問
題における最適な配車と配送順序の探索方法は、P(2
以上の整数)台の車両でQ(2以上の整数)箇所の配送
先に荷物の配送を行なうにあたって、Q箇所の配送先を
P台の車両に割り振る配車と、車両の各々に割り振られ
た配送先の配送順序とを最適化する配送問題における最
適な配車と配送順序の探索方法であって、P個の行とQ
個の列とを含み、各行のQ個の要素は対応する車両に割
り振られた配送先をその配送順序で表わす行列を作成す
る作成ステップと、配送に必要な時間および制約条件を
評価するためのコスト関数および制約関数をそれぞれ決
定する決定ステップと、決定ステップによって決定され
たコスト関数および制約関数の和をエネルギー関数と定
義する定義ステップと、作成ステップによって作成され
た行列の要素の入替えによる行列の変形を繰返し、その
変形された行列に基づいて定義ステップによって定義さ
れたエネルギー関数の値を算出し、それらの値のうち最
小の値を算出した行列を配送問題の最適解として出力す
る最小化ステップとを含む。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】好ましくは、上記最小化ステップはシミュ
レーテッドアニーリング法を用いてエネルギー関数を最
小化する。
【0017】
【作用】上記探索装置においては、まず配車および配送
順序を行および列に表わした行列が作成されるととも
に、配送に必要な時間および制約条件を評価するための
コスト関数および制約関数がそれぞれ決定され、その決
定されたコスト関数および制約関数の和がエネルギー関
数と定義される。続いて、上記作成された行列のある要
素と他の要素とが入替えられることにより行列が変形さ
れ、その変形された行列に基づいてエネルギー関数の値
が算出される。上記行列の変形は繰返し行なわれ、それ
ぞれの行列に基づいてエネルギー関数の値が算出され
る。このようにして算出された複数の値のうち最小の値
を算出した行列が配送問題の最適解として出力される。
【0018】また、行列は配車および配送順序を行およ
び列に表わしているため、配車と配送順序という2種類
の問題を同時に解くことができる。また、エネルギー関
数が配送に必要な時間を評価するためのコスト関数と配
送に必要な制約条件を評価するための制約関数との和で
あるため、時間や制約条件の重要度に応じてエネルギー
関数を定義することができる。
【0019】
【0020】
【0021】また、シミュレーテッドアニーリング法を
用いてエネルギー関数を最小化するため、エネルギー関
数の値が小さい解に重点をおいて確率的に近似解を求め
ることができる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【実施例】図1は、この発明の一実施例による配送問題
における最適な配車と配送順序の探索装置の概略ブロッ
ク図であり、図2は、図1の最小化部9の構成を示した
概略ブロック図である。
【0028】図1および図2を参照して、探索装置は、
配送問題を解くために必要なデータを入力するデータ入
力部1と、配送計画案を決定する第1の決定部3と、コ
スト関数と制約条件を決定する第2の決定部5と、第1
の決定部3および第2の決定部5の情報を用いてエネル
ギー関数を演算して定義する演算部7と、演算部7で定
義されたエネルギー関数を最小化する最小化部9とを備
え、演算結果が演算結果出力部11から出力される。さ
らに、データ入力部1、第1の決定部3、第2の決定部
5、演算部7、最小化部9および演算結果出力部11を
制御するための制御部13が設けられている。また、特
に最小化部9においては、図2に示すように、エネルギ
ー関数を最小化するために必要な乱数発生部15と、パ
ラメータ格納部17と、試行変形の禁則条件格納部19
とが設けられている。
【0029】図3は、図1および図2に示した探索装置
で最適な配車と配送順序が探索される過程を示したフロ
ー図であり、図4は、図1の決定部で決定される配送計
画案を2次元配列で表現した状態を示した図であって、
その初期状態を示した図である。以下、図1および図2
の装置の動作について、図3および図4を参照して詳細
に説明する。
【0030】基本的には、配送計画案を店舗を表わす記
号等による2次元配列で表現し、2次元配列をシステム
とみなしてその状態におけるエネルギー関数を定義し、
エネルギー関数の最小状態をシミュレーテッドアニーリ
ング法(S.Kirkpatrick,C.D.Gelatt Jr.,M.P.Vecchi:
“Optimization by Simulated Annealing ”,Science,V
ol.220,No.4598,pp.671-680 (1983))により求めるこ
とが概略である。したがって、図3に示すフロー図で
は、次の3つのステップにまとめられる。
【0031】ステップ(図面では、Sで表わす)1にお
いて、2次元配列で表わされた配送計画案の初期状態を
設定する。そして、2次元配列をシステムとみなしたの
で、2次元配列はエネルギーを有する。
【0032】そこで、ステップ2において、温度一定の
条件下で、後で詳しく説明するメトロポリス法を用いて
システムを熱平衡状態に到達させる。制約条件がすべて
満たされた状態(実行可能解)の中で、エネルギーの値
が最小である状態が記録される。システムが温度Tによ
る所定の確率分布で熱平衡状態になるとすると、温度T
が低ければ低いエネルギー状態になる確率が高く、温度
Tが高ければエネルギー状態が高い状態になる確率は高
い。
【0033】そこで、ステップ3において、温度を下げ
ていく。温度を下げるということは、具体的には温度列
{Ti }(i=0,1,…,n)を設定しておき、i→
i+1として下げていけばよい。そして、i>nならば
終了し、そうでなければステップ2へ戻ってもう一度ス
テップ2の過程が行なわれていく。
【0034】さらにステップ1〜ステップ3について詳
細に説明すると、まずデータ入力部1から、配送先の店
舗間の最短移動時間とその経路の情報、温度スケジュー
ル、制約項とコスト項の重み、乱数のシードなどの必要
なパラメータの値、システム(2次元配列である行列
X)の初期値などが読出される。
【0035】次に、配送計画案を決定する第1の決定部
から現在の2次元配列を表わす行列Xが読出される。こ
こで、2次元配列の状態について詳しく説明する。図4
に示すようにM×Lの行列Xを考える。行列Xの要素
は、xi,j (i=1,…,M,j=1,…,L)で表わ
される。iは、車両を識別し、jは配送順序に対応して
いる。Mは、配送に利用する車両の台数で定数とする。
Lは、L=N+Nrot +1で定義される定数とする。た
だし、Nは、総店舗数に1を加えた整数であり、Nrot
は、第(1)式で定義される定数である。
【0036】xi,j は、{−1,0,1,…,N−1}
のどれかの値をとる。ここで、0は出発点の配送センタ
ーを表わし、1から(N−1)は、各店舗の番号を表わ
している。たとえば、46店舗の場合にはN=47とな
る。
【0037】図4において、第1行は、最初の値は0
(配送センター)に固定され、2番目からは、店舗を表
わす番号が1から(N−1)まで昇順に並べられる。次
に、番号1の車両に指定された最大回転数n(1) rot
ら1を引いた個数だけ0が並べられる。最後に、−1を
1個だけ並べる。2行目以降は、n(i) rot 個の0が並
べられたすぐ後には、すべて−1を並べる。ただし、探
索結果はこれらの初期状態にあまり依存しない。
【0038】1つの配送計画案は、このように2次元行
列で表現される。各行の番号の列は、各車両が行なうべ
き配送順序を左から順に表わしていることになってい
る。ただし、0は配送センターへ戻ること(回転)を表
わしており、−1はダミー記号で配送順序に関係なく読
み飛ばすものとする。−1というダミー記号は、2次元
配列のサイズを固定化し、コンピュータ計算において確
保するメモリ領域が固定化されるために導入されてい
る。また、ある店舗をある車両の配送順序に挿入すると
いう試行変形が、後で詳しく説明する2つの行列要素の
入れ替え(互換)操作により簡単に実現できるという利
点がある。
【0039】次に、コスト関数と制約条件を決定する第
2の決定部5は、たとえばある配送センターから荷物を
積込み、トラックで複数店舗に配送する場合には、以下
に示すコスト関数と制約条件を決定する。
【0040】3種類のコスト関数を例に挙げると、第1
は、配送にかかる人件費や燃料代などの配送コストであ
る各車両が配送にかかった所要時間(拘束時間)の総計
である。第2は、生鮮食料品などのように配送時刻が重
要な場合に要求される目的関数であって、すべての配送
や積下ろしが完了する時刻までの時間である。第3は、
労務管理上、ドライバー間での労働時間の均等な割当が
要求される場合に最小にすべき目的関数であって、指定
された車両が配送にかかった所要時間(拘束時間)の標
準偏差である。コスト関数は、重要度に応じて重みが与
えられ、複数のコスト関数が重ねられる場合もある。制
約条件としては、たとえば店舗(配送先)に関するもの
と、車両(トラック)に関するものとの2種類があり、
以下にそれらの例を示す。
【0041】店舗についての制約条件としては、たとえ
ば軒先条件と到着時間指定条件がある。軒先条件は、各
店舗ごとに設定された車両の停車時間および各店舗ごと
にトン数などで指定された停車可能な車両の上限などが
挙げられる。また、到着時刻指定条件としては、各店舗
ごとに上限時刻と下限時刻で指定される車両の到着時刻
が挙げられる。
【0042】車両についての制約条件は、積載量の上
限、出発地点、出発時刻、終了条件などが挙げられる。
積載量の上限は、各車両ごとに指定されればよい。出発
時点は、たとえば配送センターに固定されればよい。出
発時刻は、各車両ごとに指定されればよい。終了条件と
しては、各車両ごとに指定される配送終了後の帰着地点
などが挙げられる。
【0043】次に、エネルギー関数を定義する演算部7
は、第1の決定部3で読出された行列Xと第2の決定部
で決定されたコスト関数および制約条件に基づいて、シ
ステムのエネルギー関数Eを計算する。ここでエネルギ
ー関数Eについて説明する。エネルギー関数Eは、第
(2)式に示すように、最小にしたいコスト関数を表わ
したコスト項Ecostと、制約条件を表わした制約項E
cnstとの2種類の項による線形和で表わされる。ここ
で、係数{ak }(k=1,2,3),{bk }(k=
1,2,3)は、考慮したいコスト項間や制約項間の重
要度であり、コスト関数および制約条件間の重要度に応
じて予め決定しておくことにする。
【0044】コスト項EcostにおけるE(1) costは、各
車両に関して出発地点(配送センター)を出発した時刻
から、作業の完了時刻または帰着時刻のいずれかまでの
時間ti (拘束時間)を表わす。この拘束時間をすべて
のトラックについて合計して総拘束時間をエネルギーと
みなす。終了条件が自由の場合には、この拘束時間は出
発地点を出発した時刻から最後の配送先における積下ろ
し作業の完了時刻になる。また、終了条件が出発地点で
ある場合には、拘束時間は、出発地点を出発した時刻か
ら出発点への帰着時刻となる。さらに、終了条件がある
店舗である場合には、拘束時間は、出発地点を出発した
時刻から指定された帰着地点への帰着時刻までの時間と
なる。このような3つの場合があり得るが、使用条件に
応じてユーザが自由に選択すればよい。
【0045】第2のコスト項であるE(2) costは、積下
ろし完了時刻の最も遅い店舗での積下ろし完了時刻とす
る。たとえば、午前零時からの経過時間とすればその時
間の和がエネルギーとみなせる。第3のコスト項である
(3) costは、第(3)式に示すように、指定された車
両(n台)における拘束時間ti の標準偏差である。
【0046】一方、制約項Ecnstの1つであるE(1)
cnstは、第(4)式に示すように、配送センターにおけ
る各車両の積載量w(k) i の超過量の総和である。この
総和量としては、たとえばケース数が考えられる。ただ
し、kは回転の識別記号であり、w0 i は車両iの積載
量の上限を表わしている。
【0047】第2の制約項であるE(2) cnstは、各配送
先に設定された到着時刻に関する制約条件である。たと
えば配送先kの到着時刻をtk 、到着時刻の制約を下限
l k と上限tu k で表わせば、E(2) cnstは、第
(5)式のように定義される。このようにしておけば、
到着時刻の制約から外れると制約項E(2) cnstは大きく
なる。
【0048】第3の制約項であるE(3) cnstは、各配送
先に設定された受入れ車両の重量に関する制約条件であ
る。各車両の重量をgi 、各配送先kで受入れられる車
両の最大重量をGk 、各配送先kに乗り入れられるトラ
ックをi(k)で表わすと、制約項E(3) cnstは、第
(5)式のように定義される。このようにしておけば、
条件から外れると制約項E(3) cnstは、増大することに
なる。
【0049】結局、最小にしたい複数のコスト項と複数
の制約条件は、エネルギー関数の中で線形和の形で表現
されており、予め予定されたコスト項や制約項以外のも
のも新たに追加することが容易にできる。
【0050】次に、エネルギー関数を最小化する最小化
部9は、乱数発生部15、パラメータ格納部17、試行
変形の禁則条件格納部19により発生または格納されて
いる値を基に、シミュレーテッドアニーリング法により
ゆっくり温度を下げながらエネルギーの最小状態を探索
する。ここで、シミュレーテッドアニーリング法とは、
あるシステムのエネルギー最小状態を求める1つの手法
である。
【0051】今、xがシステムの状態を表わし、このと
きのシステムのエネルギーがエネルギー関数E(x)で
定義されたとする。さらに、システムの確率分布が温度
Tを有するGibbs分布(Boltzmann分布)
で与えられる熱平衡状態にあるとする。この熱平衡状態
のシステムの温度Tを温度スケジュール{Ti }(i=
0,1,…,n)に沿って、熱平衡状態を保ちながらゆ
っくりと下げていく。一般に、メトロポリス法を用いた
シミュレーテッドアニーリング法は、5つのステップで
まとめられている。
【0052】第1のステップは、システムの状態xと、
システムの温度Tの初期状態を選ぶ(T=T0 )。第2
のステップは、状態xを試行変形させて状態x′を選
ぶ。第3のステップは、仮にΔE=E(x′)−E
(x)<0のときは、状態x′に遷移させる。その他の
場合は、exp(−ΔE/T)の確率で、状態x′に遷
移させる。第4のステップは、第2のステップと第3の
ステップをシステムが熱平衡状態に達するまで十分繰返
す。第5のステップは、もし、i=nのときには処理を
終了する。その他の場合には、温度Tをたとえばi→i
+1,T=Ti のように1段階上げて、第2のステップ
へ戻る。
【0053】このようなアニーリング法による過程で出
現した状態の中で、特に制約条件があればその制約条件
がすべて満たされた状態の中で、最もエネルギー値の低
い状態が最適解と判定される。また、上述の第2のステ
ップの試行変形としては、現在の状態xの近傍の状態が
選ばれるのが一般的である。
【0054】次に、シミュレーテッドアニーリング法で
必要とされる試行変形について説明する。
【0055】配送計画案を決定する第1の決定部3で決
定された1つの行列Xの要素をランダムに2つ選び、そ
の値を交換することで試行変形が行なわれる。ただし、
すべての車両の出発点は配送センターであると仮定して
いるので、行列Xの第1列の値は0に固定する。さら
に、試行変形においては、処理を高速化するために、試
行変形における禁則条件がある。この禁則条件は、試行
変形の禁則条件格納部19に格納されている。まず、ラ
ンダムに選ばれた2つの行列要素xi,j ,xi',j ' に対
して、xi,j =xi,j =−1またはxi,j =xi',j'
0である場合、または、i≠i′でxi,j =0またはx
i',j' =0である場合には、試行変形をやり直す。なぜ
ならば、前者の場合は、配送順序が全く変化していない
ことが意味されており、後者の場合は、各車両に与えた
最大回転数の条件が変更されてしまうからである。この
ような試行変形が棄却されれば、より探索空間が制限さ
れ、最適な解が高速に得られることになる。
【0056】次に、以上のような試行変形の禁則条件が
与えられた試行変形で最もエネルギー値の低い状態が最
適解として判断され、演算結果出力部10はその結果を
出力する。
【0057】図5は、配送センター(No.0)から4
6店舗へ5台のトラックで品物を配送する問題を説明す
るための各配送センターと46店舗の状態を示した図で
ある。図6から図8は、配送問題を解くうえで必要な入
力データを示した図であり、特に、図6は、配送先の店
舗に関する入力データを示した図であり、図7は、車両
として用いられるトラックに関する入力データを示した
図であり、図8は、パラメータ等の入力データを示した
図である。図9は、最終的な処理結果を示した図であ
る。
【0058】図6において、各店舗での停車時間、乗り
入れ可能なトラックの種類(積載可能トン数)、荷物量
(ケース数)、到着指定時刻の上限および下限が示され
ている。
【0059】図7において、各トラックの種類(積載可
能トン数)、積載可能な荷物量(ケース数)、終了条件
(−1:特定の帰着地点なし,0:出発地点に帰着す
る、i:ある店舗iを帰着地点とする。この3つのうち
の1つを指定する)、許容される最大回転数、配送地点
を出発する時刻、拘束時間を均等化する場合に対象とな
るトラックを指定するための識別子(1:対象とする、
0:対象しない)が指定されている。この例では、トラ
ックナンバーNo.1,2,3のトラックだけがその拘
束時間を均等化され、No.4,5のトラックは拘束時
間の均等が行なわれない。
【0060】図8において、コスト項の重み係数
{ak }(k=1,2,3)の値、制約条件項の重み係
数{bk }(k=1,2,3)の値、温度スケジュール
{ti }、各温度での試行変形の回数が示されている。
各温度での試行変形の回数は、禁則条件に触れないで実
際にシステムの状態が試行変形された回数を表わしてお
り、この回数だけ試行変形が行なわれれば、各温度でシ
ステムは熱平衡状態に達したとみなされて状態の更新が
打ち切られ、温度は下げられる。この例では、各温度で
20000回の試行変形が行なわれ、また、温度は2
0.0から0.001までの13段階の温度ステップで
アニーリングが行なわれている。
【0061】図9において、図6から図8に示した入力
データの下で、得られた結果は、5台のトラックが配送
すべき店舗の割当てと、配送順序、所要時間(分)、各
トラックが積載する総荷物量(ケース数)、エネルギー
関数の各項ごとの値が示されている。E(k) cnstの値が
すべて0であることから、この解は与えられた制約条件
をすべて満たしていることがわかる。もし、制約条件が
満たされる解が得られなければ、E(k) cnstの値に応じ
て、{bk }の値を増加させて再実行させればよい。
【0062】このように、軒先条件、到着時刻指定、積
載荷物量の上限などの複雑な制約条件の下で、重み係数
の調整により種々のコスト関数の重要度が考慮されて、
望ましい最適解が探索される。したがって、このような
複雑な制約条件下での種々の目的に応じて、最適な配送
計画案の立案に大きな効果があり、また、これらの制約
条件やコスト関数の変更や追加も前述したとおり容易に
行なわれるので、配送問題に対してかなりの効果が得ら
れる。
【0063】以上のことを簡単に説明すると、まず、配
送問題に対して、着想することの困難な物理学のエネル
ギーという概念が適用されている。配送問題における制
約条件が外れるほどエネルギーが増大し、目的関数とし
て用いるコスト関数が増大するほどエネルギーも増大す
るエネルギー関数が決定されている。そして、制約条件
が満たされ、かつ、コスト関数が最小解として得られれ
ば、エネルギー関数は最適化されたと判断される。この
コスト関数の最小化、言い換えればエネルギー関数の最
小化として、たとえばシミュレーテッドアニーリング法
が用いられれば、目的関数の値が小さい解に重点をおい
て確率的に近似解が得られる。したがって、従来の分岐
限定法のように基本的に可能性のある組合せがすべて数
えられる必要がなく、高速に処理されて、かつ信頼性の
高い最適な配車と配送順序が得られる。
【0064】さらに、配車と配送順序を個別に扱うこと
なく、複数行と列の2次元配列で配車と配送順序を決定
する。2次元配列における各行を各車両に対応させ、各
列を各配送順序に対応させている。決定される配送計画
案は、この2次元配列により簡潔に表現されているの
で、配車と配送順序という2種類の問題を同時に取り扱
うことができ、エネルギーという概念を用いた方法とと
もに、高速に最適な配車と配送順序が得られる。
【0065】なお、図1に示した配送計画案を決定する
第1の決定部3で用いられる2次元配列は、実施例に示
したもの以外にも考えることができる。たとえば、列の
長さを可変長にして、配送先と回転を表わす記号間にダ
ミー記号が1つだけ挿入された状態を配送計画案を表現
する2次元配列として考えることもできる。ただし、こ
の場合には、配送先と回転を表わす記号間にダミー記号
が1つだけ挿入された状態になるように、毎回、試行変
形による状態更新の後で、ダミー記号を挿入または削除
する処理が必要である。
【0066】また、コスト関数と制約条件を決定する第
2の決定部5およびエネルギー関数を定義する演算部7
としては、実施例で示したコスト項や制約項として用い
た関数以外の関数で、コストや制約条件を表現すること
もできる。さらに、コスト項と制約項の線形和以外の関
数をエネルギー関数として用いることも可能である。
【0067】さらに、エネルギー関数を最小化する最小
化部9に対しても、シミュレーテッドアニーリング法の
他に、ランダムに状態を変形させてより低い状態を見つ
けて遷移していく、ランダム法(またはモンテカルロ
法)や、変形の範囲を現在の状態の近傍に限定させた反
復改善法なども考えられる。
【0068】さらに、実施例として用いる配送手段とし
てはトラックを用いているが、対象とする問題に応じ
て、トラック以外の自動車、船舶、航空機、鉄道、人間
などの各種の配送手段が用いられる場合においても、有
効な効果が得られる。また、配送先も、会社、公共施
設、一般家庭などのように店舗に限定されるものでな
い。
【0069】さらに、荷物の配送だけでなく、荷物を集
荷する問題や、セールスマンや修理サービスマンなどの
訪問スケジュールの計画問題、スクールバスなどの送迎
ルートの計画問題、ゴミ収集車の経路決定問題、道路清
掃車の計画問題など、本実施例で示した配車と配送順序
から構成される配送問題と同一の構造をもつ問題に対し
て本発明は適用される。
【0070】
【数1】
【0071】
【発明の効果】この発明によれば、配送問題をエネルギ
ー関数の最小化問題に帰着させ、最適な配車と配送順序
を探索するため、配送に必要な時間を抑え、かつ配送先
や車両等の制約条件を満たした配車と配送順序を正確か
つ迅速に求めることができる。
【0072】また、配車および配送順序を行および列に
表わした2次元配列を用いているため、配車と配送順序
という2種類の問題を同時に解くことができ、迅速に配
送先へ荷物等を配送することができる。また、配送に必
要な時間を評価するためのコスト関数と配送に必要な制
約条件を評価するための制約関数との和をエネルギー関
数と定義するため、時間や制約条件の重要度に応じてエ
ネルギー関数を適宜定義することができ、さらに新たな
時間や制約条件を追加することも容易である。そのた
め、たとえばコンピュータでエネルギー関数を演算する
場合は、そのプログラム等の書き換えを容易に行なうこ
とができ、応用範囲を広げることができる。
【0073】また、2次元配列の行列要素は出発地点を
表わす記号を含むため、積載上限量の小さい車両を2回
転以上利用する配送計画案を立案することができ、配送
時間を短くし、かつ配送先や車両等の制約条件を満たし
た最適な配車と配送順序の解を得ることができる。
【0074】
【0075】また、シミュレーテッドアニーリング法を
用いてエネルギー関数を最小化するため、エネルギー関
数の値が小さい解に重点を置いて確率的に近似解を求め
ることができ、高速に最適な配車と配送順序の解を得る
ことができる。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例による配送問題における最
適な配車と配送順序の探索装置の概略ブロック図であ
る。
【図2】図1の最小化部の内部構成を示した概略ブロッ
ク図である。
【図3】図1および図2に示した探索装置で最適な配車
と配送順序が探索される過程を示したフロー図である。
【図4】図1の第1の決定部で決定される配送計画案を
2次元配列で表現した状態を示した図であって、その初
期状態を示した図である。
【図5】配送センターと配送先の店舗の状態を示した図
である。
【図6】配送先の店舗に関する入力データの一例を示し
た図である。
【図7】トラックに関する入力データの一例を示した図
である。
【図8】パラメータ等の入力データの一例を示した図で
ある。
【図9】図6から図8の入力データに基づいて処理され
た処理結果の一例を示した図である。
【符号の説明】
3 第1の決定部 5 第2の決定部 7 演算部 9 最小化部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI G08G 1/123 G06F 15/21 Z (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G05B 13/02 G08G 1/00

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 P(2以上の整数)台の車両でQ(2以
    上の整数)箇所の配送先に荷物の配送を行なうにあたっ
    て、前記Q箇所の配送先を前記P台の車両に割り振る配
    車と、前記車両の各々に割り振られた配送先の配送順序
    とを最適化する配送問題における最適な配車と配送順序
    の探索装置であって、 P個の行とQ個の列とを含み、各行のQ個の要素は対応
    する車両に割り振られた配送先をその配送順序で表わす
    行列を作成する作成手段と、 前記配送に必要な時間および制約条件を評価するための
    コスト関数および制約関数をそれぞれ決定する決定手段
    と、 前記決定手段によって決定された前記コスト関数および
    前記制約関数の和をエネルギー関数と定義する定義手段
    と、 前記作成手段によって作成された前記行列の要素の入替
    えによる前記行列の変形を繰返し、その変形された行列
    に基づいて前記定義手段によって定義された前記エネル
    ギー関数の値を算出し、それらの値のうち最小の値を算
    出した行列を前記配送問題の最適解として出力する最小
    化手段とを備えた、配送問題における最適な配車と配送
    順序の探索装置。
  2. 【請求項2】 前記最小化手段はシミュレーテッドアニ
    ーリング法を用いて前記エネルギー関数を最小化する、
    請求項1記載の配送問題における最適な配車と配送順序
    の探索装置。
  3. 【請求項3】 P(2以上の整数)台の車両でQ(2以
    上の整数)箇所の配送先に荷物の配送を行なうにあたっ
    て、前記Q箇所の配送先を前記P台の車両に割り振る配
    車と、前記車両の各々に割り振られた配送先の配送順序
    とを最適化する配送問題における最適な配車と配送順序
    の探索方法であって、 P個の行とQ個の列とを含み、各行のQ個の要素は対応
    する車両に割り振られた配送先をその配送順序で表わす
    行列を作成する作成ステップと、 前記配送に必要な時間および制約条件を評価するための
    コスト関数および制約関数をそれぞれ決定する決定ステ
    ップと、 前記決定ステップによって決定された前記コスト関数お
    よび前記制約関数の和をエネルギー関数と定義する定義
    ステップと、 前記作成ステップによって作成された前記行列の要素の
    入替えによる前記行列の変形を繰返し、その変形された
    行列に基づいて前記定義ステップによって定義された前
    記エネルギー関数の値を算出し、それらの値のうち最小
    の値を算出した行列を前記配送問題の最適解として出力
    する最小化ステップとを含む、配送問題における最適な
    配車と配送順序の探索方法。
  4. 【請求項4】 前記最小化ステップはシミュレーテッド
    アニーリング法を用いて前記エネルギー関数を最小化す
    る、請求項3記載の配送問題における最適な配車と配送
    順序の探索方法。
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