JP2779191B2 - 高温菌によるエタノール生成 - Google Patents

高温菌によるエタノール生成

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Description

【発明の詳細な説明】 発明の分野 本発明は発酵によるアルコール、特にエタノールの生
成に関するものである。
全般考察 糖あるいは他の炭水化物の転化によって生じた、廃棄
物としてのあるいは副産物としての糖からアルコールが
生成されることは古くから知られていたが、現在それは
ますます重要になりつつある。現今では原油は安く、特
定の地域では深刻な食料不足が起こっているが、それで
さえ、適切に管理すれば農業によって世界中に食料やエ
ネルギーを供給できるにも関わらず、再生不能なエネル
ギー資源に頼っているという基本的な不健全さから注意
をそらすことはできないのである。
我々は主に酵母による既知のアルコール生成過程を研
究した結果、もし実施可能ならばアルコールを発酵培地
から蒸気として直接都合よく取り出すことができる温度
を利用することが、経済効率を高める上での鍵であると
結論した。酵母はもちろんそのような温度では増殖する
ことができないので、我々は高温菌に目をむけてきた。
酵母はブトウ糖やマルトース及びショ糖しか発酵させ
られないが、ある種の微生物はセルロースの酵素的加水
分解によって得られたセロビオースや、ヘミセルロース
の加水分解によって得られたキシロースやアラビノース
もまた利用することができる。後者の糖(五炭糖)は、
製紙や、蒸気開繊や希酸加水分解などのワラの前処理に
よって生じる廃棄汚水の主成分である。サトウキビから
得られるエタノール生成の経済効率は、例えば液汁と同
様に搾りカスも利用できたら大きく改善されるであろ
う。
クロストリジウム サーモサッカロリチウム(Clostr
idium thermosaccharolyticum),クロストリジウム
サーモヒドロサルファリカム(Cl.thermohydrosulfuric
um)やサーモアナエロバクター エタノリカス(The-rm
oanaerobacteror ethanokicus)といったいくつかの高
温菌が、これら全ての糖を利用してエタノールを高率に
生成することが記載されている。しかしながらそれらは
偏性嫌気菌で、その報告されている性質は下記のバチル
ス ステアローサモフィラス(Bacillus stearothermop
hilus)菌株と比較して好ましくないものである。さら
に我々は、通性嫌気菌が、触媒性バイオマスを再生する
ために嫌気相の副産物を好気的に利用できるようにする
新しい好気−嫌気複合過程を可能にするという利点を見
出している。
通性嫌気菌は通常エタノールを多くは生成しない。以
前の出願において、我々は、Bacillus stearothermophi
lus NCA 1503と思われる突然変異体が、エタノールを高
度に生成するように操作できるような「代謝操縦」方略
について記述した1、2。その方略には、L−乳酸脱水素
酵素における突然変異を識別することによって、L−乳
酸生成を抑えることが含まれていた。得られた突然変異
体は、ショ糖1モル当たり酢酸塩、エタノール及び蟻酸
塩を2:2:4の割合で嫌気的に生成することが期待され
た。驚くべきことに、ある種の条件下、特に低pHで高温
においては、エタノール生成量がこの理論的最大値より
も高く、このことはバッチ培養における最終の不増殖期
の間ー、ショ糖からエタノールと二酸化炭素への触媒的
な転化が生じたためと考えられた。
我々は今回、以前に報告した結果は、記載した菌は我
々が想定した(PaytonおよびHartley3B.stearothermo
philusのNCA 1503(NCIB 8924)の誘導菌ではなく、ま
た既知の高温菌の何れでもなかった点で誤っていたこと
を見出した。その代わりに、それは上述した目的にとつ
て、既知の菌株よりも格段に優れた性質を有するBacill
us stearothermophilus種の新しい菌株に由来すること
が明らかになってきた。特にそれは、60℃以上の温度に
おいて好気的かつ嫌気的にもNCA 1503菌株より格段に高
い増殖率を示し、NCA 1503菌株では増殖が停止するよう
な70℃以上の温度において嫌気的に増殖する。さらに、
それはセロビオースやRaggおよびFields4によって記述
されたICI過程によって製造される小麦ワラの粗希酸加
水分解物に見出されるような五炭糖類をも利用するので
ある。
従って、本発明は特定の菌だけに制限されないが、セ
ロビオースや五炭糖類を含む広範囲の糖を、70℃以上の
温度において好気的かつ嫌気的に光束に発酵させる、B.
stearothermophilusのLLD-R菌株(NCIB寄託、詳細は下
述)のような通性嫌気菌に関する。このような菌は通常
嫌気的に乳酸を生成するが、この系路はNADに連結した
乳酸脱水素酵素の突然変異体を選別することによつて消
去することができる。さらに酢酸塩の生成は、酸性pH、
高温あるいは菌外部に高濃度の酢酸塩を加えるなどの生
理学的な制御によって、さらには酢酸塩合成系路の酵素
に遺伝的損傷を加えることによって抑えることができる
であろう。このころによって、糖をエタノールと二酸化
炭素に転化するピルビン酸脱水素酵素を介して嫌気的代
謝系路を開放することになる。得られた菌は嫌気的には
増殖しないが、増殖せずに糖からエタノールへの転化を
触媒することができる。
従って本発明の要点は、そのような菌に最小限の増殖
で糖を与えて触媒的嫌気的生成させるために用いられる
過程である。エタノールの多くは70℃以上の蒸気相の中
に自動的に取り出されるので、生成相には菌のエタノー
ル耐性濃度(およそ4%m/v)を越えることなしに高濃
度の糖を与えることができる。我々はこれらの性質が、
遠心分離や過によって液相の生成物を取り除いた後
で、連続的に菌を再循環することによって至適発酵生成
が得られる新しい連続過程に役に立つことを見出した。
触媒生存能を維持するために必要な最低増殖率は、再循
環中に菌の一部を放出することによって達成できる。こ
のことによって流入する糖の同等量が新鮮なバイオマス
に転化される。一方、菌や未加水分解糖、残存微量エタ
ノールや酢酸塩や蟻酸塩といった副産物を嫌気的「バイ
オマス」相へ戻される前に、残存している液相のエタノ
ールは取り除かれる。嫌気的はそれから、もし必要なら
間の嫌気「順応」相を介して、触媒的生成相へ戻され
る。この反応形態のおもしろい特徴は、好気的二酸化炭
素を最小に嫌気的二酸化炭素を最大にすることによっ
て、エタノール生成が最大になる自動制御が維持される
ことにある。
菌株と由来と性質 Bacillus stearothermophilus菌株LLD-15(NCIB寄
託、詳細は下述)は、L−乳酸脱水酵素活性が欠落した
Bacillus stearothermophilus菌株NCA 1503の突然変異
体を自殺基質抵抗性(PaytonおよびHartley3)を選択す
ることによって得ようとした際に生じた。普通は後者の
菌株の突然変異体と想定されるが、実際は新しい超高温
菌、Bacillus stearothermophilus菌株LLD-R由来と考え
られた。LLD-R菌株はLLD-15菌株から自発的にまた再現
性をもってに生じ、プレート法、あるいは例えば糖、酢
酸塩や蟻酸塩を含む低pHの培地といったより速く増殖す
る培地で連続培養することによって選択できる。その菌
は嫌気的にL−乳酸塩を生成し、L−乳酸脱水素酵素を
高濃度に含んでおり、従って明らかにLLD-15が有する遺
伝子欠損の復帰突然変異「野生型」である。
突然変異菌株B.stearothermophilus菌株LLD-15と野生
型LLD-Rは共に、広範種Bacillus stearothermophilusに
形態と増殖温度域の点で類似した、グラム陽性の胞子形
成桿菌である。しかしながら一連の生化学的試験及び増
殖試験(表1)では、それらはB.stearothermophilusNC
A 1503やSharp他、ジャーナル オブ ジェネラル マ
イクロバイオロジー(J.Gen.Microbiol.)117201(198
0)の広範な集団中の他の全ての関連菌株とは異なって
いた。これらの性質はDonk,L.(1920)ジャーナル オ
ブ バクテリオール(J.Bact-eriol),373以降のBaci
llus stearothermophilusとしての一般分類には整合す
るが、その増殖温度域は明らかにその変異体の由来と思
われるNCA 1503菌株のそれよりも高い。従って、両菌は
新種の菌株、Bacillus stearothermophilusLLD-R(NCIB
12403)とBacillus stearothermophilusLLD-15(NCIB
12428)として、スコットランドの工業および水産菌の
国立寄託機関(National Collection of Industrial an
d Marine Bacteria,Torry Research Station,P.O.Box 3
1,Aberdeen,AB98DG)に寄託された。それぞれの寄託日
は、1987年2月10日と、1987年4月9日である。
LLD-RとLLD-15菌株は、富裕なBST培地(Tryptone(Ox
oid)20.0;酵母抽出物(Oxoid)10.0;K2SO4,1.3;MgSO4
・7H2O,0.27;MnCl2・4H2O,0.015;FeCl3・6H2O,0.007;ク
エン酸、0.32;(g/lで表示))適当な炭素源を追加し、
KOHやH2SO4で要求されるpHに調整する)内で良好に増殖
する。しかし我々はまた、完全培地BST-MM(炭素源:K2
SO4,0.3;Na2HPO4,1.0;MgSO4,0.4;MnCl2・4H2O,0.003;Ca
Cl2,0.005;NH4Cl,1.0;クエン酸、0.16;メチオニン、0.2
(g/lで表示);ニコチン酸、10;ビオチン、10;チアミ
ン、10;ZnSO4・7H2O,0.4;硼酸、0.01;CoCl2・6H2O、0.0
5;CuSO4・5H2O,0.2;NiCl3・6H2O,0.01;EDTA,0.25(mg/l
で表示))を開発した。
図の説明 図1から6の説明は以下の通り。
図1 Bacillus stearothermophilusの菌株LLD-15にお
ける嫌気的系路と論理的生成。
図2 pH7、D=0.2hr-1におけるショ糖10g/l(嫌気)
あるいは5g/l(好気、点線)、0.5%トリプトン、0.25
%酵母抽出物による連続培養における定常値。
a)バイオマス:NCA 1503菌株(●)、LLD-R菌株
(■)、LLD-15菌株(○) b)LLD-15菌株による生成物 図3 70℃、D=0.2hr-1、pH7における、小麦ワラ加水
分解物の様々な濃度における菌株LLD-15の連続培養(Ra
ggおよびFields,1986)。
図4 エタノール生成における連続2段反応槽 図5 部分的菌再循環による連続発酵の機械装置。
図6 部分的菌再循環による連続発酵の関係。
新しい菌株(系統)における嫌気的系路 我々の実験は主に、2.35%(w/v)ショ糖/BST培地で
のバッチ培養を、変異菌株LLD-15の原種と考えられるNC
A 1503菌株の至適温度である60℃で行なった。NCA 1503
菌株あるいはLLD-15菌株の嫌気的バッチ培養では、最終
生成物は主にL−乳酸塩であったのに対し、LLD-15菌株
はpH7.9においてショ糖1モル当たりエタノール1.8モ
ル、酢酸塩1.8モル及び蟻酸塩3.2モルを生成した。これ
は突然変異によってL−乳酸脱水素酵素活性が消し去ら
れたので、ピルビン酸−蟻酸塩脱炭酸酵素(PFL)系路
(図1)を介した代謝と合致する。しかしより酸性度の
強い、pH6.2ではエタノールの酢酸塩に対する比は増加
して、エタノール2.9、酢酸塩0.2、蟻酸塩1.3となる。
これは残余ショ糖から2エタノール+2二酸化炭素を導
く新しい系路もまた開放されたことを示しており、我々
はこれは、通常嫌気条件下では不活性と考えられている
ピルビン酸脱水素酵素(PDH)を介したものであると考
えらている。図1における生成物を要約すると下記表と
なる。
PFLからPDH系路への切り換えはLLD-15菌株の嫌気的バ
ッチ発酵の後の段階において生じ、増殖速度の低下と培
地中への微量のピルビン酸の出現と一致する。効果は例
えば、5%(w/v)のショ糖濃度といった高い糖濃度で
のバッチ発酵中において最も明らかで、そこでは菌の増
殖は全ての糖が利用されるよりかなり前に停止したにも
関わらず、不増殖菌がショ糖をエタノールと二酸化炭素
に転化し続けている。従ってそのようなバッチ発酵にお
いては、エタノール生成はショ糖1モル当たり3.64モル
(理論値の91%)にも達する。より温度が高い(70℃)
と、さらにPDH系路への切り換えに有利となる。
バッチ発酵の早期にエタノール、酢酸塩や蟻酸塩とい
つた生成物を培地に加えると分かるように、PFL系路か
らPDH系路への切り換えは培地中の酢酸塩と蟻酸塩の蓄
積によるもので、エタノールの蓄積によるものではな
い。PDH系路がかなり作動している時はいつでもピルビ
ン酸の分泌が観察される。このような条件下で増殖した
菌は、野生型は非常に低い嫌気的PDH量を示すにも関わ
らず、菌除去抽出液において完全好気菌よりも高いピル
ビン酸脱水素酵素活性を示す。エタノールと二酸化炭素
を生成するもう一方の系となる可能性のある、ピルビン
酸脱炭酸酵素や蟻酸塩脱水素酵素の活性は検出できな
い。バイオマスが減少してバッチ発酵の終わりに近づく
と胞子が観察できるので、系路間の切り換えは前胞子形
成現象かもしれない。
系路間の切り換えが起こることの考え得る理由は以下
の通りである。野生型の菌は好気的にも嫌気的にも速く
増殖するように適応しているので、糖取り込みと解糖系
路を速く活性化させる。嫌気条件下では通常L−乳酸を
分泌しているが、その系路が阻害されるとピルビン酸代
謝はPFL系路に切り換えられる。しかし、特に菌外部の
酢酸塩や蟻酸塩の存在下、あるいは陰イオンや陽イオン
勾配に対する分泌が流出量を減少させるような酸性pH下
において、酢酸塩と蟻酸塩の分泌量はエネルギー代謝に
とって量制限段階となる。従って菌内にピルビン酸が蓄
積し、完全好気菌よりも高いピルビン酸脱水素酵素の活
性化が引き起こされる。ピルビン酸脱水素酵素を介した
流れは、酢酸塩と蟻酸塩不在下におけるアルカリpHある
いは低ショ糖濃度において観察される高速増殖率を維持
するためには未だ不適当であるが、菌は増殖なしに糖を
エタノールと二酸化炭素に転化する静止段階に達する。
単一相連続培養 野生型(LLD-R菌株)とLLD-15菌株とを比較する予備
実験を、60℃においてBT培地中2−3%ショ糖の条件で
行なった(希釈率0.25hr-1)。期待されたように野生型
は、pH8において消費ショ糖1モル当たり3.13モルからp
H6.35において3.50モルの幅で主にL−乳酸を生成し、
Y値(g・菌/g・ショ糖)はおよそ0.07であった。突然
変異菌株ではpH7においてエタノールが主な生成物で
(2.3モル/モルショ糖)、Y値はより高かった(0.1
0)。LLD-15菌株は酸性pHあるいは高ショ糖濃度におけ
る連続培養条件に不安定であったが、復帰突然変異体
(LLD-15)によるL−乳酸生成への転換は普通であっ
た。このことはこのような連続培養によって引き起こさ
れたエネルギー効率の増加のための淘汰圧が強力であ
り、連続過程に潜在的欠点のあることを示している。し
かし、70℃における低ショ糖濃度での連続培養において
はこの復帰は頻度が低く、非復帰突然変異体のLLD-R菌
株から再選別(PaytonおよびHartley3の方法)によって
消去することができる。
図2aは、pH7.0、希釈率0.2hr-1で様々な温度におけ
る、1%(w/v)で嫌気的に、あるいは0.5%ショ糖、0.
5%トリプトン、0.25%酵母抽出物で好気的に増殖するN
CA 1503、LLD-R及びLLD-15菌株の連続培養における定常
状態のバイオマスを示している。新しい菌株もNCA 1503
菌株も共に効率的な好気的、嫌気的代謝を示すが、野生
型(LLD-R)と突然変異該(LLD-15)は共に75℃まで活
発は嫌気的代謝を行なうのにも関わらず、NCA 1503菌株
は嫌気条件70℃以上で死んでしまう。この温度は液相エ
タノールの沸点に近く、従ってここで記述した過程にお
いて重要である。
LLD-15菌株の嫌気的連続培養から得られた生成物は図
2bに示す。エタノールの生成(mmol/A600)は温度が上
昇するにつれて高まり、ピルビン酸の分泌と一致してい
ることが明らかである。
NCA 1503菌株は好気的にも嫌気的にもキシロースでは
増殖しないが、LLD-RとLLD-15は増殖する。ショ糖で得
られた結果は、70℃における同様の条件での1%キシロ
ースによる連続培養と比較できる(表2)。定常状態が
維持され、アルコール生成もまた酸性pHにおいて高くな
る。
表2 70℃、D=0.2hr-1における、キシロース10g/l、
トリプトン5g/l、酵母抽出物2.5g/l及びBST塩によるLLD
-15菌株の連続嫌気的培養 pH7における定常状態のバイオマスはショ糖濃度の半
分以下であり、従ってキシロースの代謝はエネルギー効
率がより低い。ショ糖は、一つのATPを要する適当な燐
酸化酵素+ホスホリラーゼを介して2つの燐酸六炭糖に
代謝されると考えられている。対照的に、2つの燐酸五
炭糖分子を生成するためには2つのATPを要すると考え
られている。従って、ショ糖は本来、よりエネルギーの
高い基質である。
連続キシロース発酵の生成物は、トリプトン−酵母抽
出物のかなりの部分がエネルギー生成のために代謝され
ることを示している。それにも関わらずpH8における生
成比は、代謝が五炭糖燐酸系路、解糖及びPFL系路を経
由して進行することを示している。エタノール収率はシ
ョ糖による場合よりも低く、このことはPDH系路を経由
する流れはほとんどないことを示唆している。しかし、
高温低pHにおける高ショ糖濃度での発酵は、ショ糖と同
様に後者の系路を経由して流れと、キシロースをエタノ
ールと二酸化炭素に転化する不増殖菌株を生成するよう
な酢酸塩燐酸化酵素やフォスフォトランスアセチラーゼ
の突然変異体を増加させることが期待できる。
従って、その新しい菌株とその誘導菌は、リグノセル
ロース廃棄物の加水分解物からエタノール生成を行なう
ために選別される菌である。連結培養は、RaggおよびFi
elds4に記載されているICI加水分解過程によって生成さ
れた小麦ワラの粗加水分解物を用いて行なわれてきた。
これは、ヘミセルロースを取り除き、それによって引き
続く脱水化を促進するように設計された短い希酸加水分
解過程とによって生成されたキシロースとリグニンに富
んだ、実質的な廃棄物の流れである。原料はpH7に調整
し、70℃、D=0.2hr-1で図3に示すような様々な希釈
率において、新しい菌株による連続培養で試験する。廃
棄物の流れは菌の連続培養にとって必要な全ての養分を
供給し、全ての糖がある程度まで利用される。エタノー
ルの生成は低pHにおいて増加し、生成比は五炭糖燐酸系
路解糖及びPFL+PDH系路を経由した代謝に一致する(図
1参照)。
2段好気/嫌気発酵 増殖することになしに糖からエタノールへ転化する性
質は、新しい菌株の重要な利点である。上述したよう
に、さらに生理学的拘束を操作したり新しい突然変異を
選別することによって、最大限に高めることができる。
図1は酢酸塩リン酸化酵素あるいはアセチルCoA−フォ
スフォトランスアセチラーゼを欠く菌は、酢酸塩を生成
できないことを示している。酢酸塩の分泌はPFLを介し
た嫌気的流動を維持するために必要であるので、PDH経
路だけがエタノールと二酸化炭素をもたらすピルビン酸
代謝に開放されている。そのような菌は嫌気的には増殖
しないが、好気的に繁殖し嫌気的に糖をエタノールに触
媒反応で転化する。
さらに我々は、PDHAがエネルギーの流動を制限するよ
うに思われるので、菌内ピルビン酸脱水素酵素活性を増
加させる突然変異がエタノールの生産性を高めることを
見出している。そのような突然変異は、連続培養による
増殖、あるいは菌内の酢酸塩や蟻酸塩の蓄積が起こっ
た、すなわち低pHで酢酸塩と蟻酸塩を加えた条件下のプ
レートによって自発的にあるいは突然変異後に選別され
る。一方、PDH遺伝子の複製を遺伝子工学の技術によつ
て導入することもできる。
最大エタノール生成能は増殖の停止と関連しているの
で、従来の嫌気的バッチ培養はこの菌株によるエタノー
ル生成には不適当である。バッチ生成は、嫌気的反応槽
の中で嫌気的に増殖した菌の大きな接種物を用いるか、
全バイオマスが供給される酵素の量に依存しているよう
な部分的嫌気生活の条件下でバッチ発酵を行なうことに
よって達成できるかもしれない。
さらに増殖しない菌によって触媒する不定連続過程も
明らかに不可能である。なぜなら菌の生存力を維持する
ためには、最小限の糖の取り込み(維持係数、m3)が要
求されるからである。我々はこれが図5に示したよう
な、再循環や放出を行なわずに部分的菌再循環をしなが
ら一般嫌気反応槽の中で達成されることを見出した。そ
の装置は量制御装置を介して従来の一般連続培養機のよ
うに稼働する。これが阻害され再循環が始まると、バイ
オマス量は維持係数によって指定される最大値まで上昇
する。それから全ての基質は生成物に転化される。これ
は生産のためには明らかに有利であるが、実際には確実
に反応生産性が減少(m)するであろう。しかし、もし
反応槽から少量(Fx)を放出させれば、安定な増殖がμ
=Fx/V(V=反応槽容積)の率で起こる。これは反応生
産性の減少に釣り合うように最小にすることができる。
図中、糖と養分が率F1で注入される。一定の放出量Fx
(Fx<<Fi)によって、菌増殖速度(μ=Fx/V、V=発
酵器容量)が決定される。残りのスープは、最大容量で
稼働される中空の繊維の限外膜を通して再循環され
る。その液Ffは量制御装置によって制御され、過量の
液は発酵槽に戻される。
図6はLLD-15菌株の1%ショ糖/BST AM70℃、pH7にお
けるモデル系の結果を示している。図はエタノールの生
産容量、菌濃度及び全希釈率D=F1/Vとの関係を示して
いる。Soは1%、温度70℃、400回転/分、pH7.0、使用
菌はBacillus stearothermophilusである。菌増殖率μ
=Fx/V=0.1h-1である。成長率は、流出率Fxを固定する
ことによって一定(0.1h-1)に保った。全体にわたる希
釈率Dは、糖と養分の流入率Fiを増加させることによっ
て増加させた。ショ糖消費量(図示せず)は常に系の安
定性の高さを示す97%以上であった。エタノール生産容
量は従来の単相連続発酵(例えば0.6エタノール1/h)よ
りも有意に高かった。このことは第一に、高い希釈率に
おいて生じた菌濃度の比例した増加によるものである。
このような反応槽はこれらの菌株によるエタノール生
成に適したものであるが、我々は通性嫌気菌の特殊な性
質によって、図4に示した形態の新しい反応槽において
エタノール生成が最大となることを見出した。要約する
と、糖は嫌気反応槽Aに流速V/2で注入される。蒸気相
のエタノールが水の吸収作用によって二酸化炭素から分
離される。使用した菌の一部が遠心分離(C)によって
取り除かれ、流出流からエタノールの蒸留される。残り
の糖とエタノールには養分(N)を混合率VNで追加し好
気的に触媒性バイオマスを作るのに用いられる(B)。
得られた菌は遠心分離後反応槽Aに戻す。より詳細に説
明すると、サトウキビ液汁、糖蜜、ワラ加水分解物等の
糖を、率VRで菌を供給した嫌気反応槽に率VSで加える。
図を説明すると、反応槽Aはエタノールの生産性が最大
になるように温度やpHを制御できる簡単な撹拌槽(容積
VA)である。蒸気相のエタノールは連続蒸留を行なう前
に、水によって二酸化炭素から分離する。しかし高温菌
による発酵の主な利点一つは、水性エタノールの沸点が
近づいてくると、水相からエタノールが連続的かつ安価
に取り出せ、エタノールによる増殖や生産性の阻害が取
り除かれることである(LLD-15の場合には60℃において
エタノール濃度が4%以上(w/v)で成長が停止す
る)。このことによって高い濃度の糖、例えば糖蜜の供
給原料としての使用が可能になる。従って嫌気的反応槽
は、再循環二酸化炭素を散布したり、真空気化蒸発装置
を介して連続再循環させる真空発酵のように、蒸気相へ
のエタノールの取り出し率を最大にできる利点がある。
反応槽Aから流出する菌の多くは、連続遠心分離によ
つて濃縮され再循環される。それから連続蒸留によっ
て、エタノールが上清から取り除かれる。好気的反応槽
Bに入る流れは菌(や胞子)、残余エタノール、未分解
糖及び酢酸塩や蟻酸塩のような副産物を含む。これらの
多くはLLD-R菌株には好気的基質として与えることがで
きる。従って流れはこれらの廃棄炭素源をバイオマスに
最大限に転化するために必要な養分が補充される。
そのバイオマスは遠心分離によって濃縮され、嫌気反
応系に戻される(容積VB)。好気菌が嫌気的代謝に順応
するまでに遅延期間が認められるという問題がある。従
って酸素制限下で反応槽Bを稼働するか、菌が触媒相に
戻る前に最適pH下で低濃度の糖を与える中間「嫌気的順
応」反応槽に暴露させるのが好ましいと思われる。
このような反応槽の形態での過程の変数は複雑である
が、系は自動修復できる特徴を有している。任意の原料
組成と率(VS)における最適エタノール生成は、嫌気的
二酸化炭素の生成(=エタノール)が最大で好気的二酸
化炭素生成(糖が完全に酸化されたと仮定)が最小の時
に生じる。最適生産性はVSを最大にすることによって得
られる。従って、二酸化炭素感知装置を用いて各容器の
注入率、pH及び温度を制御することにより、系は自動的
に最適状態になっていく。このことはある特定の基質を
用いる装置を試験的に開発する際の労力を最小限にとど
める上でかなり有利であり、さらに可変の組成の原料を
扱うような装置にはより有利である。
要約 ここで、本発明の好ましい形態について請求項から外
れることなく要約すると、本発明は、リグノセルロース
の加水分解物から得られた五炭糖やセロビオースを含む
広範囲の糖を用いて好気的かつ嫌気的に高速に増殖で
き、かつ/または70℃以上の温度で代謝することのでき
る、新しいBacillus stearothermophilusのLLD-R菌株
(NCIB 12428)のような非常に好熱性の通気嫌気菌の突
然変異体を用いる。Bacillus stearothermophilusのLLD
-R菌株(NCIB 12428)のような突然変異体を、主にエタ
ノールを生成する嫌気的系路に切り換えるように選別す
る。これらは本文中に参照されている寄託菌株である。
LLD-R菌株は75℃以上の温度で広範囲の糖を利用して
高速に増殖するが、主な嫌気的生成物はL−乳酸であ
る。突然変異菌株LLD-15は二つの主な系路、すなわちブ
ドウ糖残渣1モル当たり1モルのエタノール、1モルの
酢酸塩及び2モルの蟻酸塩を生成するピルビン酸−蟻酸
脱炭酸酵素(PFL)系路と、ブドウ糖1モル当たり2モ
ルのエタノールと2モルの二酸化炭素を生成する、従来
は確認されていなかったピルビン酸脱水素酵素(PDH)
を経由して同様に高速に増殖する。
LLD-15菌株における代謝の流れは、生理学的条件、特
に酸性pHでの増殖によって引き起こされるピルビン酸の
蓄積、あるいは培地中の酢酸塩と蟻酸塩の濃度を操作す
ることによってPDH系を経由して振り向けることができ
る。より高温にすることもPDH系路には好都合である。
菌はこのような条件では増殖しないかもしれないが、糖
をエタノールに転化し続ける。一方、PDHの流れはさら
に、突然変異、例えば酢酸塩の生成を抑制するような突
然変異を起こさせることによって増加させることができ
る。他に好ましい突然変異としては、嫌気的ピルビン酸
脱水素酵素の活性がエタノール生成の律速条件であるの
で、その全活性を高めるような突然変異が挙げられる。
そのような菌株は、触媒性のバイオマスを最初に好気
的に種まき段階で増殖させ、次に増殖させずに嫌気的に
エタノール生成をさせる、2段発酵には最適である。こ
れは、濃縮された糖原料を利用させるために蒸気相のエ
タノールを取り除き続ける。単相バッチあるいは原料供
給バッチ反応槽において達成できる。ブドウ糖、ショ糖
あるいはマルトースのような従来の原料も用いることが
できるが、五炭糖やセロビオースを含むリグノセルロー
ス廃棄物の加水分解物から得られる糖も用いることがで
きる。
本菌株は従来の単相連続培養にはあまり適当ではない
が、部分的に菌を再循環させる単相系や、蒸気中のエタ
ノールを取り除きながら糖を嫌気的触媒反応槽に加える
2相連続系では有利になると思われる。残ったエタノー
ルはこの反応槽から出る流出液から除去し、残った炭素
源は好気的バイオマス段階における新しい触媒性バイオ
マスを作るために使用する。それによって原料中に存在
する全ての基質が、嫌気的にも、好気的にも効率的に利
用される。さらにこの系は嫌気的に生成される二酸化炭
素(バイオマス生成と同等量)を最大にすることによっ
て、自動的にエタノール生成のための最適状態に復帰す
ることができる。これは様々な原料を用いたり混合する
時に特に有利である。
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───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12R 1:07) (56)参考文献 Biotech 83,(4〜6 Ma y 1983),London,GB,On line Publications Ltd.P.895〜905 Phil.Trans.R.Soc. Lond,A,Vol.321,(30 A pril 1987),P.555〜568

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】好気的かつ嫌気的に糖を発酵させ、70℃以
    上の温度において嫌気的発酵の活動性があるような特徴
    を有するバチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus
    stearothermophilus)菌株や他の高温通性嫌気菌の選別
    を含む工程によるエタノールの生成法で、さらに (i)嫌気的発酵は、70℃以上の温度においてエタノー
    ルを連続的に取り除きながら行ない、 (ii)菌の発酵活性は、連続的に嫌気的発酵培地の一部
    をできればエタノールも共に取り除き、菌を嫌気的発酵
    に戻す前に、培地中に存在する残余糖や代謝産物を用い
    て菌を好気的に分裂させることによって推持される、 エタノールの生成法。
  2. 【請求項2】好気的あるいは嫌気的増殖期の後、分裂は
    しないが基本的にエタノールのみを生成する代謝の活発
    な嫌気相に入れるような特徴を有する菌を選別し、実質
    的にこの相において嫌気的発酵が行われる、請求の範囲
    第1項記載のエタノールの生成法。
  3. 【請求項3】工程の条件は、二酸化炭素が好気的に生成
    された量に対して嫌気的に生成された量が最大となるよ
    うに調節してエタノール生成が最大となるようにする、
    請求の範囲第1項または第2項記載のエタノール生成
    法。
  4. 【請求項4】特に、NAD連関乳酸脱水素酵素活性を欠く
    菌が選別される、請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3
    項のいずれかに記載のエタノールの生成法。
  5. 【請求項5】特に、基本的にピルビン酸脱水素酵素系路
    の働きによってエタノールを生成する菌が選別される、
    請求の範囲第1項乃至第4項乃のいずれかに記載のエタ
    ノールの生成法。
  6. 【請求項6】特に、発酵中にピルビン酸一蟻酸脱炭酸酵
    素系路が突然変異あるいは代謝産物の菌内蓄積を引き起
    こすような条件によって抑制される菌が選択される、請
    求の範囲第5項記載のエタノールの生成法。
  7. 【請求項7】糖には五炭糖あるいはセロビオースが含ま
    れることを特徴とする、請求の範囲第1項乃至第6項の
    いずれかに記載のエタノールの生成法。
  8. 【請求項8】特にBacillus stearothermophilusによ
    る、請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載のエ
    タノールの生成法。
  9. 【請求項9】特に、好気的かつ嫌気的に糖を発酵させ、
    70℃以上の温度において嫌気的発酵の活動性があるよう
    な特徴を有するB.stearothermophilus LLD-R(NCIB 124
    03)あるいは好気的かつ嫌気的に糖を発酵させ、70℃以
    上の温度において嫌気的発酵の活動性があるような特徴
    を有するB.stearothermophilus LLD-15(NCIB 1242
    8)、又はそれらの変異菌や誘導菌が使用される請求の
    範囲第8項記載のエタノールの生成法。
  10. 【請求項10】好気的かつ嫌気的に糖を発酵させ、70℃
    以上の温度において嫌気的発酵の活動性があるような特
    徴を有するBacillus stearothermophilus LLD-R(NCIB
    12403)、あるいは好気的かつ嫌気的に糖を発酵させ、7
    0℃以上の温度において嫌気的発酵の活動性があるよう
    な特徴を有するBacillus stearothermophilus LLD-15
    (NCIB 12428)、及びそれらのエタノール生成変異菌や
    誘導菌。
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