JP2775107B2 - 固定化植物培養細胞による有用物質の生産法 - Google Patents

固定化植物培養細胞による有用物質の生産法

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は植物培養細胞を合成又は天然のフォーム状構
造物(以下、単にフォーム状構造物と云うことがある)
に固定化した固定化培養細胞を使用し、植物有用成分を
生産する方法に関する。
[従来の方法および課題] アルカロイド、テルペノイド、油脂、色素など植物が
生産する天然有機化合物は、医薬品、食料品、フレーバ
ー、香料として使用されている。これらの有用な植物成
分の原料となる植物は栽培品が多いので、天候、病虫害
などの自然条件や政治・経済の影響などにより供給が左
右されるおそれがある。また耕地面積の拡大は、生態系
を乱し自然環境の破壊につながるという問題がある。或
る種の植物は比較的多く自生しているが、無制限に採集
すると天然資源が枯渇してしまう。
そこで植物細胞や組織を培養して有用な植物成分を計
画的に大量生産しようとする試みが、最近進められてい
る。有用な植物成分の多くば二次代謝産物であり、培養
細胞では原植物よりこの生産量が少ない例が多い。また
植物培養細胞の成長は微生物ほど速くない。このような
理由から、植物細胞を培養して工業的に有用成分を生産
している例は少い。
このような現状において、細胞の選抜、形質転換およ
び培地成分の調節による生産性の向上の試みに加えて、
細胞固定化によるバイオリアクターの開発及びその最適
化など、培養技術上の工夫が行われている。植物細胞を
高密度に固定化して連続生産に用いることは、細胞の成
長が遅いという問題の解決に有効であり、また微生物と
異なり形が大きく剪断力などの物理的衝撃に弱い植物細
胞を固定化により保護することが出来る。固定化後に細
胞の成長が抑制されることがあるが、反応に十分な量の
細胞があれば、培地中の成分が成長に使用されず物質生
産に使用され、かつ二次代謝と成長に負の相関があるた
めむしろ有利である。固定化植物細胞においては担体内
に細胞が高密度に存在したり、大きな細胞塊となるため
細胞間の相互作用が密になることや、化学的および物理
的な勾配が生じる結果、二次代謝産物が増量することが
期待出来る。植物細胞を固定化すれば作業性の向上だけ
でなく、ストレス化合物の増量や細胞外への放出を起こ
す場合もあるので、細胞レベルで生産性向上の可能性が
ある。
植物細胞の固定化には細胞を高分子ゲルの微細な格子
に包み込む包括法が従来用いられてきた。高分子ゲル担
体としては、寒天、アガロース、アルギン酸、カラギー
ナンなどの天然高分子ゲル、ポリアクリルアミド、ポリ
フェニレンオキサイド、ポリウレタン、光架橋性樹脂な
どの合成高分子ゲルなどがある。これらの内、アルギン
酸はカルシウムイオンによりゲル化し、均一なビーズを
速やかに作ることが可能で、加熱や架橋剤の必要がない
温和な包括法として多用されてきた。またこれは天然多
糖であるため、エリシターとしてストレス化合物などの
生産を促すと言う特徴がある。しかしながらイオンによ
るゲル化は全てのpH域にたいしては安定ではなく、また
二次代謝の活性化にイオン類の制限が必要である場合に
は不利である。含水ゲルによる包括では一般にゲルの占
める容積が大きく、植物細胞の密度が相対的に低くなる
欠点がある。
また包括法においては固定化された細胞が培地の組成
の変化や成長によって容積が変化すると、ゲル全体な物
理的安定性が保てなくなることがあり固定化細胞が崩壊
する等の欠点があった。
[課題を解決するための手段] 本発明は上記の包括法の欠点を、解決することを目的
とする。
本発明は、植物培養細胞を合成樹脂製又は天然の、切
込みを入れたフォーム状構造物に固定化して培養を行い
有用物質を生産する培養方法である。
本発明において植物培養細胞とは、植物培養組織をも
包含する。
本発明の方法の好ましい実施態様において液体培地中
で培養出来る植物培養細胞を培養しながらフォーム状構
造物の孔隙中に収納固定化し、固定化した培養細胞を更
に増殖させて細胞量を増やし、有用物質生産用のバイオ
リアクターを形成する段階、及びバイオリアクターを物
質生産用培地で作用させて目的物質を生産する工程から
なる。より詳しくは予め目的とする培養細胞を回転培養
にて所定量まで増殖した段階で、適度の形、大きさに調
製したフォームを投入し、培養細胞の固定化、フォーム
内での増殖を行い、所定量の培養細胞がフォーム内に保
持されるまで継代培養を繰返し、これを有用物質生産用
バイオリアクターの生体触媒として使用する。
固定化担体として使用するフォーム状構造物としては
合成樹脂製のフォーム(発泡体)たとえばポリウレタン
などの合成のフォーム状構造体、あるいは海綿、ヘチマ
などの天然のフォーム状構造体が挙げられる。担体の形
状、泡の形状などを任意に設定できる点でポリウレタン
などの合成フォームが好ましい。実際の担体の種類、形
状などは、培養する植物培養細胞の形状により適宜選択
しうる。
使用する植物は培養細胞が誘導可能であり、液体培地
で生長するものであればよく、コーヒー、オタネニンジ
ン、オウレン、キナ、ニチニチソウ等があるが特にこれ
等に限定されない。
本発明の方法では、植物培養細胞をフォーム状構造物
に直接付着させるので、従来のアルギン酸包括法の様に
イオンの影響を受けることなく、全てのpH域で(植物培
養細胞が影響されない限り)安定して使用出来る。前述
のようにアルギン酸包括法ではカルシウムイオンの影響
により植物培養細胞の二次代謝が活性化されない場合が
あり好ましくなく、またアルカリ性下ではアルギン酸塩
ゲルが溶解する。担体単位当りの植物培養細胞の固定化
量は本発明に従うフォーム状構造物の方が大きく、かつ
細胞の増殖による物理的な内圧に強いので高密度に固定
化することが出来、バイオリアクターとして好適であ
る。また、アルギン酸塩等による包括法では固定化培養
細胞と培地との接触はゲルを通して行われることが期待
出来るのに対し、本発明法では細胞と培地が直接接触す
るので、通気、培地成分の細胞への取込み及び物質生産
段階での生産物の培地中への放出が効率的に行われる。
本発明においてフォームへ固定化される培養細胞量は
フォーム状構造物の大きさ、総量に影響される。フォー
ム状構造物の総量を一定にしてフォーム状構造物一個一
個を大きくすると担体表面積が小さくなり固定化細胞量
は少なくなる。また逆に一個一個を小さくして全体の数
を多くすると継代などの培養操作が繁雑となる上、培養
中にフォームと細胞との接触により細胞塊の摩砕が生
じ、固定化培養細胞の塊が小さなものとなり好ましくな
い。本発明者は上記状況に鑑み、フォーム状構造物に切
込みを入れることにより、担体の総量を増加することな
く担体の表面積を拡大させて細胞の固定化量を増加させ
うること、及び細胞の増殖に伴いフォーム状構造物が拡
大するので細胞保持容量を効果的に増加させうることを
見出した。この場合、フォーム状構造物の総量は変らな
いので作業性を増すことなく物質生産効率の良いバイオ
リアクターを得ることができる。
[実 施 例] 以下に実施例により発明を詳細に説明する。
参考例 カルス材料の誘導及びフォームの孔径の検討 フォーム状構造物として、ポリウレタンフォームを用
いた。
(1) 材料 カルス: ハワイ産アラビカ種コーヒー(Coffea arabica
L.)の種子から常法よりカルスを誘導し、これを寒天0.
9%、スクロース3%、2,4−D 1ppm、カイネチン(Ki
netin)0.1ppmを含むMS基本培地(DK培地)にて暗所
下、25℃で3週間毎に継代培養して得たカルスを培養細
胞として使用した。
フォーム: 直径約2.7cmの球状のポリウレタンフォームを固定化
担体として使用した。ポリウレタンフォームは各々5,3,
2又は1mmの孔径を有するもの4種類を用いた。
(2) 操作 培養法: 選んだ一種類のポリウレタンフォーム3個を含む500m
lのDK培地に10〜15gのカルスを入れ、暗所下25℃で145r
pmにて回転培養を行った。培養期間3週間を似て1代と
した。
固定化法: ポリウレタンフォーム内に保持された細胞を3週間毎
にポリウレタンフォームと共に新たに調製したDK培地を
入れたフラスコに移植し、継代することによって固定化
を行い3代目まで培養した。操作は全て無菌的に行っ
た。
細胞新鮮重測定法: 或る代がらの固定化細胞を次の継代培養開始時のフラ
スコに無菌的に移植し、フラスコ総重量の移植前後の差
をその代の新鮮重(次の代の移植量)とした。固定化さ
れてなかった遊離の細胞の新鮮重は、継代後に遊離細胞
を濾取し、新鮮重を測定して求めた。
(3) 結果 各種孔径のポリウレタンフォームに固定化された細胞
の新鮮重を各継代ごとに測定した。第1図の縦軸は各代
の全細胞量に対する固定化細胞の割合である。
孔径3mm以下のポリウレタンフォームを用いた場合固
定化細胞は培養3代目に高密度に固定化され、遊離の細
胞は殆ど見られなかった。しかし孔径5mmのポリウレタ
ンフォームでは細胞を十分に固定化しきれず、遊離の細
胞が多く見られた。直径2.7cmのポリウレタンフォーム
中に5mmの孔は大きすぎるために、細胞塊がポリウレタ
ンフォームを素通りし易く、一旦保持された細胞塊も脱
落し易いことが、固定化能が低かった原因と考えられ
る。従って、本発明においてフォームの孔径は、培養細
胞の塊が孔に入りやすいように十分大きく、かつこれが
孔中に保持されやすいように大きすぎないことが望まし
い。
本実験で使用した孔径3,2,1mmの各ポリウレタンフォ
ームの重量は1g程度であり、これが50g程度と細胞を保
持しても崩壊は見られなかった。
比較例 1 上記ポリウレタンフォームを固定化担体としたものと
比較の為に、従来のアルギン酸カルシウムゲルによる包
括固定化法を以下の通り実施した。
(1) 材料: カルス: 実施例1と同じ。
アルギン酸ナトリウム水溶液: アルギン酸ナトリウム4%w/v、スクロース3%w/v、
MS培地用ビタミン液1%v/vを含む溶液を調整し、アル
ギン酸ナトリウムを均一に溶解させた。
(2) 方法: 培養法: 下記のようにしてアルギン酸塩により固定化した培養
細胞をDK培地にて3週間継代培養した。
固定化: アルギン酸ナトリウム水溶液に5%(v/v)相当の培
養細胞を均一に分散させた後、0.1N塩化カルシウム溶液
に滴下した。生成したアルギン酸カルシウムゲルのビー
ズ中に培養細胞が固定化された。上記操作は全て無菌下
で行った。
(3) 結果 アルギン酸カルシウムゲルのビーズによる固定化細胞
では、継代が進むに従い、条件により、細胞の増殖によ
って生ずる内圧によりビーズの崩壊が起ることがあっ
た。
包括に使用するアルギン酸ナトリウムが2g程度であっ
た場合、固定化細胞量が50gとなった際に崩壊が見られ
た。
実施例 1 切込みを入れたポリウレタンフォームを用いて固定化
実験を行った。
(1) 材料 カルス: 参考例で使用したものと同一のカルスを使用した。
ポリウレタンフォーム: 孔径1mm、一辺1cmの立方体のポリウレタンフォームに
第2−1図、−2図及び−3図に示す3種類の切込み処
理を施したもの及び施さなかったものを使用した。
(o) 切込みなし。
(a) 中央に深さ約7mmの切込みを1本入れたもの。
第2−1図 (b) 3.3mm間隔で深さ約7mmの切込みを2本平行に入
れたもの。第2−2図 (c) 深さ約7mmの切込み2本を中央で直交させ入れ
たもの。第2−3図 (2) 操作 培養法: 500ml容フラスコ内で250mlのDK液体培地に接種量15〜
20gのカルスを入れ暗所下25℃で145rpmにて回転培養を
行った。同じ実験を3系統(I,II,III)の培養細胞で行
った。
固定化法: 切込みを入れなかったものを含め4種のポリウレタン
フォームの各9個づつ計36個を培養開始1週間後に投入
し、さらに2週間培養を継続してカルスをポリウレタン
フォーム孔径内に固定化し、以後固定化細胞を3週間を
1代として4代まで継代培養を行った。なお操作は全て
無菌的に行われた。
(3) 結果 4代まで培養した後に各ポリウレタンフォームに固定
化された細胞の新鮮重、乾燥重を各系統I,II,IIIごとに
測定し、以下の表1の結果を得た。重量はg数で示し、
カッコ内の数字は、切込みのないケース(o)を100と
したときの比である。
細胞の増殖の程度が各実験系統でかなり異る。最も増
殖が速かったIIIにおいて、切込みを有するフォームを
用いた(a),(b)及び(c)の細胞固定量が、切込
みのないフォームを用いた(o)のそれよりかなり多
い。しかし、細胞の増殖の遅いI及びIIでは切込みによ
る効果は少ないか、または現われていない。
つまり、細胞の増殖の程度が大きい場合に、細胞の量
が増えるにつれてフォーム状構造物が切込みの個所で拡
大できるので、より多量の細胞を固定化する余地が生れ
る。
実施例 2 異る孔径を有する直方体のポリウレタンフォームを用
いて固定化実験を行った。
ポリウレタンフォームとして下記のものを用いた他
は、実施例1を繰返した。
1mm、2mm又は3mmの孔径を有する1×1×9cmの直方体
の3種類のウレタンフォームに、図3に示すように切込
みを入れたもの又は入れなかったものを用い、別々のフ
ラスコで比較した。その他は実施例2を繰返した。
(o) 孔径1mm、切込みなし。
(a) 孔径1mm、深さ8cmの切込みを1×1cmの面の中
央で直交させて2本入れたもの。
(b) 孔径2mm、切れ込みを(a)と同様に入れたも
の。
(c) 孔径3mm、切れ込みを(a)と同様に入れたも
の。
結果を表2に示す。
本実施例で用いた直方体のポリウレタンフォームは、
固定化細胞の成長の結果、回転培養中に次第に動き難い
状態となり、担体どうしの摩擦がなくなり細胞の固定化
の能力は良好である。しかし、孔径が大きすぎると
(c)、固定化された細胞の量が少くなる。適当な孔径
を有し、切込みを切れたフォーム(a及びb)は、極め
て多くの細胞を固定化できることが判った。なお、適当
な孔の大きさは、植物細胞の種類に依存するであろう。
実施例 3 次にコーヒー培養細胞を用いたプリンアルカロイドの
生産について実施例を示す。
実施例2で使用したポリウレタンフォーム(o)及び
(a)の各4個を用い、コーヒー培養細胞を固定化し、
プリンアルカロイドのカフェイン、およびテオブロミン
の生産を行った。培養法は実施例3にならい行った。
4第目の継代培養終了時にポリウレタンフォーム
(a)は200gの培養細胞を固定化していた。ポリウレタ
ンフォーム(o)の固定化量は平均105gであった。プリ
ンアルカロイドの生産については、ポリウレタンフォー
ム(a)ではフラスコ当り培地のカフェイン生成量は9m
g、テオブロミン0.8mg、細胞内蓄積量は夫々4mg,0.2mg
であり、ポリウレタンフォーム(o)では培地中のカフ
ェイン生成量は4mg、テオブロミン0.7mg、細胞内蓄積量
は夫々2mg,0.2mgであった。すなわち固定化細胞量の多
い切込みを有するポリウレタンフォーム(a)は、切込
みのない(o)に比べ約2倍のプリンアルカロイドの生
産量を示した。
[発明の効果] 本発明に従いフォーム状構造物に支持体に切込みを入
れることにより、より多くの培養細胞を固定化出来、物
質生産を行う際に効率的なバイオリアクターとして使用
出来る。
【図面の簡単な説明】
第1図は固定化細胞の全細胞量に対する割合を示す。縦
軸は固定化細胞率、横軸は培養継代数を示す。 第2−1、2−2及び2−3図は実施例1において一辺
1cmの立方体のポリウレタンフォームに入れた深さ7mmの
切込みを透視的に示す。 第3図は実施例2で用いたポリウレタンフォームに入れ
た切込みを透視的に示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−59818(JP,A) 特開 昭63−198971(JP,A) 特開 昭62−215386(JP,A) 特開 昭63−304984(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C12M 3/00 C12M 1/40 C12N 11/08 C12P 1/00

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】植物培養細胞を、合成樹脂製又は天然の、
    切込みを入れたフォーム状構造物に固定化して培養を行
    い有用物質を生産する培養方法。
JP1029640A 1989-02-10 1989-02-10 固定化植物培養細胞による有用物質の生産法 Expired - Lifetime JP2775107B2 (ja)

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