JP2769135B2 - 低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼材 - Google Patents

低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼材

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JP2769135B2
JP2769135B2 JP7289381A JP28938195A JP2769135B2 JP 2769135 B2 JP2769135 B2 JP 2769135B2 JP 7289381 A JP7289381 A JP 7289381A JP 28938195 A JP28938195 A JP 28938195A JP 2769135 B2 JP2769135 B2 JP 2769135B2
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豊明 江口
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば、自動
車、建設機械、産業機械等の歯車用鋼材として好適な、
浸炭焼入れ時の歪み量が極めて小さい、低歪み型浸炭焼
入れ歯車用鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】例えば、最近の自動車においては、運転
時における静粛性が著しく向上しているが、それにもか
かわらず運転時に騒音が生ずる。これは、主として歯車
から発生するギヤノイズによるものである。ギヤノイズ
は、歯車の噛み合いの不具合によって発生するものであ
り、このような歯車の噛み合いの不具合は、所定形状に
成形された歯車半製品に対し、その表面を硬化するため
に浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れ(以下、浸炭焼入れ
と総称する)処理を施した時に生ずる歪みの結果発生す
る。
【0003】即ち、歯車用鋼材に対する浸炭焼入れ時
に、マルテンサイトの生成による変態応力、即ち、オー
ステナイト組織からマルテンサイト組織に変態する時に
生ずる体積膨張に起因する応力が発生するため、鋼材に
歪みが生ずることを避けることができず、その結果、歯
車の寸法精度を高く維持することができないためにギア
ノイズが発生する。特に、自動車のトランスミッション
用ギヤにおいては、騒音に対して極めて厳しい制限があ
るにもかかわらず、その形状が小さく且つ肉厚が薄いた
め、ギヤ内部の組織はベイナイトを一部含むマルテンサ
イト主体の組織になっているために、浸炭焼入れ時に歪
みが生じやすく、これが歯車騒音の最大の発生原因にな
っている。
【0004】そこで、歯車の寸法精度の向上を図るため
に、浸炭焼入れされた歯車半成品を機械切削加工して、
浸炭層を部分的に除去し、焼入れ歪み量を低減させる歯
形修正処理を施す方法がある。しかしながら、このよう
な機械研削による歯形修正では、製造工程が増えること
により生産性が大幅に低下するのみならず、機械研削加
工により製造コストが大幅に高騰するうえ、表面硬さや
残留応力にむらが生ずるので、品質上からも問題があ
る。
【0005】上述した点から、歯車用鋼材は、浸炭焼入
れ後、歯形修正処理を施さずに使用されることが多く、
従って、浸炭焼入れされた歯車半成品の寸法精度向上の
ために、焼入れ歪みを低減することが必要とされてい
る。このような浸炭焼入れ歪み量は、鋼材の焼入れ性に
よって大きく影響される。更に、浸炭焼入れは、通常約
920 ℃の高温で行われるので、浸炭中にオーステナイト
結晶粒が粗大化することも、歪み発生原因の一つとされ
ている。更に、最近では、浸炭時間を短縮して生産性を
向上させるために、浸炭温度を高め、これに伴い焼入温
度もたかめる方法が試行されている。
【0006】歯車用鋼材の焼入れ歪み量を低減する方法
については、従来から種々の研究がなされており、例え
ば、焼入れ性がジョミニーバンドの下限になるように鋼
材の化学成分組成を特定の狭い範囲内にコントロールし
て焼入れ性を低く抑える方法が知られ、また、特開平4
−247848号公報および特開昭59−123743号公報等は、浸
炭および保温中の結晶粒粗大化を抑制するために、鋼中
に、Al、Ti、Nb等の結晶粒微細化元素を適正量添加する
ことにより結晶粒を微細に調整する方法( 以下、先行技
術1という)を開示している。
【0007】また、特開平5−70925 号公報は、Si、M
n、Cr、MoおよびV 等の化学成分組成を特定範囲に限定
した鋼からなる歯車半成品に対し浸炭窒化処理を施した
後、これを歯表面部即ち浸炭窒化部(以下、同じ)のA
r1変態点以下の温度域まで冷却する。次いで、歯表面部
のAr3変態点以上で且つ歯内部即ち非浸炭部(以下、同
じ)のAr1変態点以下である温度域に保持することによ
り、歯表面部をオ−ステナイト状態に保ちつつ歯内部を
微細なフェライト・パーライトにし、次いで、焼入れを
し、そして、焼戻しをすることにより、歯表面部の浸炭
窒化部をマルテンサイトにし、既に変態を終了している
歯内部を焼きの入っていないフェライトと微細パーライ
トに維持するという方法 (以下、先行技術2という)が
開示されている。図4に、歯車の歯内部、歯表面部およ
び歯車芯部を説明する概略斜視図を示す。
【0008】また、例えば特開平3−260048号公報は、
タフトライドやガス窒化、ガス軟窒化などの低温で行な
う窒化処理により熱処理歪みの低減を図る方法(以下、
先行技術3という)を開示している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た各先行技術には、下記問題がある。先行技術1は、結
晶粒を微細に調整することにより浸炭および保温中の結
晶粒粗大化を抑制することができるので、歯内部におけ
る焼入れ歪みのバラツキを小さくすることができ、且
つ、焼入れ歪みを均一化することができるという利点を
有する。しかしながら、先行技術1は、マルテンサイト
変態に伴う歪みの発生を抑制するのに限界があり、歪み
を十分に小さくすることができないという問題を有す
る。
【0010】先行技術2は、歯内部をフェライト・パー
ライト組織にすることによりマルテンサイト発生に伴う
体積膨張による焼入れ歪みを軽減することができるとい
う利点を有する。しかしながら、先行技術2は、歯内部
即ち非浸炭部がフェライト・パーライト組織であるため
に、十分な靱性を確保することが困難であり、且つ、熱
処理温度を厳格に管理しなければならないので、熱処理
操作が複雑となり、生産性を阻害するのみならず、コス
ト高になるという問題を有する。
【0011】先行技術3は、表面に硬い窒素化合物層を
形成させることができるので、良好な耐磨耗性を有する
表面硬化層を得ることができ、また、500〜700℃
の低温域で処理するので処理部品の変形が小さいという
利点を有する。しかしながら、先行技術3は、硬化層深
さが浅く、十分な硬化層を得るには50〜100時間に
も及ぶ長時間の窒化処理が必要であるため、生産性を阻
害するのみならず、コスト高になるという欠点を有す
る。
【0012】従って、この発明の目的は、上述した問題
を解決し、通常の効率的な浸炭処理をし、そして、焼入
れおよび焼戻し処理をした後の歪みの発生量が極めて小
さく、従って、寸法精度の高い歯車が得られ、その結
果、使用時にギヤノイズが発生しない、自動車、建設機
械、産業機械等の歯車を、容易に且つ効率的に熱処理を
行ない経済的に製造することができる、低歪み型浸炭焼
入れ歯車用鋼を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記知見を得
た。
【0014】歯車用鋼材の浸炭焼入れ歪み量に影響を及
ぼす主要因子は、オーステナイト組織がマルテンサイト
組織に変態するときに生ずる体積膨張に起因する歪みに
あることから、本発明者等は、浸炭処理後の焼入れ温度
に保持した時に、オーステナイト組織中にフェライトを
10〜70%混在させ、浸炭焼入れ後の組織をフェライ
ト・マルテンサイト二相組織とすることにより、焼入れ
歪み量が劇的に低減することを見出した。
【0015】この発明においては、容易で且つ経済的な
浸炭焼入れの熱処理条件で歯車を製造することができる
鋼材を提供することも重要な目標の一つである。しか
も、この発明の鋼材は、浸炭焼入れにより、マルテンサ
イト組織中にフェライトが混在する組織になることが必
須要件である。従って、この発明の鋼材のAc3 変態温度
は、通常の浸炭焼入れ温度領域よりも高くなっているこ
とが必要である。
【0016】そこで、鋼中Si、Mn、Cr、Mo、Al、V 等の
元素の、Ac3変態温度に及ぼす影響について詳細に検討
した結果、これらの元素の含有量を適正に限定すること
により、通常の浸炭条件でも容易にフェライト・マルテ
ンサイト二相組織が得られ、且つ、フェライト強化元素
を適正量添加することにより、歯内部即ち非浸炭部が強
化され、且つ、歯表面部の疲労強度が向上するので、歯
元の疲労強度を低下させることなく焼入れ歪み量を劇的
に低減し得ることを知見した。
【0017】この発明は、上記知見に基づいてなされた
ものであって、請求項1記載の発明の低歪み型浸炭焼入
れ歯車用鋼材は、C :0.10〜0.35wt.%、Si:0.50〜2.5
wt.%、Mn:0.20〜2.50wt.%、Cr:0.01〜2.50wt.%、Mo:
0.01〜0.70wt.%、および、Ni:0.01〜2.0 wt.%を含有
し、残部:鉄および不可避不純物からなる化学成分組成
を有し、しかも、下記(1) 式: Ac3 =920-203 √C+44.7Si+31.5Mo-30Mn-11Cr+40Al-15.2Ni+13.1W+104V+40Ti ------------ (1) によって算出されるAc3 点パラメーターが、850 〜960
℃の範囲内にあり、下記(2) 式: DI =7.95√C(1+0.70Si)(1+3.3Mn)(1+2.16Cr)(1+3.0Mo)(1+0.36Ni)(1+5.0V) ------------ (2) によって算出される理想臨界直径 (DI ) が30〜250mm
の範囲内にある化学成分組成を有する鋼材であって、前
記鋼材に対して、温度850〜1000℃の範囲内で浸
炭処理を施し、前記浸炭処理終了後、前記鋼材をそのま
ま炉冷し、800〜950℃の範囲内の温度であって且
つ前記鋼材のA 1 点超え〜A 3 点未満の範囲内の温度で
とめ、その温度に所定時間保持した後に急冷して焼入れ
処理を施し、そして、次いで、焼戻し処理を施し、この
ようにして得られた前記鋼材の非浸炭部の組織が、フェ
ライトを10〜70面積%含むマルテンサイトよりなる
二相組織になるよう調整されていることに特徴を有する
ものである。なお、この発明において、上記(1)式お
よび(2)式によりAc3 点パラメーターおよび理想臨界
直径 (DI ) を算出するとき、(1)式および(2)式
の右辺には所定の成分元素に係る項があるが、化学成分
組成については限定のない成分元素であるAl、W、V
およびTiの含有量は0(零)であるとして算定するも
のとする。以下、請求項2〜5記載の発明についてもこ
れと同様とする。また、後述する実施例での比較鋼およ
び従来鋼についてもこれと同様とする。
【0018】請求項2記載の発明の低歪み型浸炭焼入れ
歯車用鋼材は、請求項1記載の歯車用鋼材に、更に付加
的に、下記化学成分組成からなる群: タングステン(W) :0.01〜0.70wt.%、および、 バナジウム(V) :0.01〜1.0 wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を含有しているもので
ある。
【0019】請求項3記載の発明の低歪み型浸炭焼入れ
歯車用鋼材は、請求項1記載の発明の歯車用鋼材に、更
に付加的に、下記化学成分組成からなる群: アルミニウム(Al):0.005 〜2.0 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜1.0 wt.%、 ニオブ(Nb) :0.005 〜0.50wt.%、および、 ジルコニウム(Zr):0.005 〜0.50wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を含有しているもので
ある。
【0020】請求項4記載の発明の低歪み型浸炭焼入れ
歯車用鋼材は、請求項1記載の発明の歯車用鋼材に、更
に付加的に、下記化学成分組成からなる群: タングステン(W) :0.01〜0.70wt.%、および、 バナジウム(V) :0.01〜1.0 wt.% から選んだ少なくとも1つの元素、並びに、下記化学成
分組成からなる群: アルミニウム(Al):0.005 〜2.0 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜1.0 wt.%、 ニオブ(Nb) :0.005 〜0.50wt.%、および、 ジルコニウム(Zr):0.005 〜0.50wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を含有しているもので
ある。
【0021】請求項5記載の発明の低歪み型浸炭焼入れ
歯車用鋼材は、請求項1から4記載の発明の低歪み型浸
炭焼入れ歯車用鋼材のいずれか1つにおいて、前記理想
臨界直径 (DI ) が、30〜150 mmの範囲内にあることに
特徴を有するものである。
【0022】
【発明の実施の形態】この発明によれば、Ac3変態温度
を高め、且つ焼入れ性を向上させる元素であるSi、Moお
よびV 、並びに、Ac3変態温度を高めるAl、TiおよびW
の含有量を増加させることによって、浸炭焼入れ処理に
より容易にフェライト・マルテンサイト二相組織とする
ことができ、フェライトがマルテンサイトの膨張歪みを
吸収することによって、焼入れ歪み量が大幅に減少し、
更に、焼入れ時の歯車の芯部(以下、「歯車芯部」とい
う。図4参照)の硬さも十分に確保できるので、従来鋼
と遜色のない疲労強度が得られる。
【0023】また、自動車の歯車においては、歯元疲労
強度の向上を目的として、ショットピーニング処理が施
されることが多いが、本発明鋼材によれば、表面の粒界
酸化層の形成が抑制され、且つ、焼入れ不良組織が発生
しないので、ショットピーニング処理を施した場合、表
面粗さが劣化することなく歯元疲労強度が増加する。更
に、Si、Mo、W およびV によって焼戻し軟化抵抗が増大
して面疲労強度が向上する。
【0024】このように、この発明においては、鋼材中
の各元素は種々の作用効果を発揮すし、鋼材に含有され
るべき化学成分元素は必須成分と選択成分からなる。そ
して、選択成分を2グループに分けた。選択成分として
のWおよびVの作用効果の内、焼入れ性向上において共
通するので第1のグループにし、また、Al、Ti、N
bおよびZrを結晶粒微細化による焼入れ歪み抑制にお
いて共通するので第2のグループにした。
【0025】次に、この発明の浸炭焼入れ歯車用鋼材の
化学成分組成を、上述した範囲内に限定した理由につい
て、以下に述べる。 (1) 炭素(C) 炭素は、浸炭焼入れによる歯車芯部の強度を保証する上
で必要な基本的元素であり、その作用を発揮させるため
には、0.10 wt.%以上含有していることが必要であり、
0.10 wt.%未満では、有効な浸炭硬化層深さを得るため
には長時間を要するので工業的には不可である。しかし
ながら、炭素含有量が0.35 wt.%を超えると靱性の劣化
および被削性の低下を招く。従って、炭素含有量を、0.
10〜0.35%の範囲内に限定すべきである。
【0026】(2) シリコン(Si) シリコンは、この発明において下記の通り重要な役目を
果たす元素である。即ち、シリコンは、表面層の粒界酸
化の防止に有効であり、フェライト形成元素であり、A
c3変態点を高めるのに有効であり、且つ、比較的安価な
元素である。更に、焼戻し軟化抵抗を増大させて、面疲
労強度を向上させる。しかしながら、シリコン含有量が
0.50 wt.%未満では、浸炭処理時に浸炭ガス中に不可避
的に存在する微量酸素と結合する表層のシリコン濃度が
低過ぎるために、上記微量酸素が鋼材の深部まで侵入し
て、粒界酸化層が著しく深くなる結果、疲労強度の低下
を招く。一方、シリコン含有量が2.5 wt. %を超えて過
剰になると、フェライト量が多くなり過ぎて、強度およ
び靱性が低下するのみならず、Si02系の非金属介在物が
増加する結果、逆に疲労強度の低下を招く。従って、シ
リコン含有量を、0.50〜2.5 wt.%の範囲内に限定すべ
きである。
【0027】(3) マンガン(Mn) マンガンは、焼入れ性を向上させ、そして歯車芯部の強
度を確保するのに有効な元素であり、その作用を発揮さ
せるためには、0.20 wt.%以上含有させることが必要で
ある。しかしながら、マンガンにはAc3変態点を大きく
低下させる作用があるので、その含有量が2.50 wt.%を
超えて多量になると、マルテンサイトおよびフェライト
の二相組織が得られなくなるだけでなく、硬度が高くな
り過ぎ、被削性の劣化を招く。従って、マンガン含有量
を、0.20〜2.50 wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0028】(4) クロム(Cr) クロムは、マンガンと同様に焼入れ性を向上させるのに
有効な元素であり、その作用を発揮させるためには0.01
wt.%以上含有させることが必要である。しかしなが
ら、クロムにはマンガンと同様にAc3変態点を低下させ
る作用があるので、その含有量が2.50 wt.%を超えて多
量になると、マルテンサイトおよびフェライトの二相組
織が得られなくなるだけでなく、硬度が高くなり過ぎ、
被削性の劣化を招く。従って、クロム含有量を、0.01〜
2.50 wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0029】(5) モリブデン(Mo) モリブデンはAc3変態点を高めてフェライト生成に有効
であり、更に、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、靱性およ
び疲労強度を向上させるのに有効な元素であり、その作
用を発揮させるためには0.01 wt.%以上含有させること
が必要である。しかしながら、モリブデンは極めて高価
な元素であり、その含有量が0.70 wt.%を超えて添加し
ても上記効果は飽和して経済的な不利を招く。従って、
モリブデン含有量を、0.01〜0.70 wt.%の範囲内に限定
すべきである。
【0030】(6) ニッケル(Ni) ニッケルは、焼入れ性および靱性を高めるのに有効な元
素であり、その作用を発揮させるためには、0.01 wt.%
以上含有させることが必要である。しかしながら、ニッ
ケル含有量が2.0 wt.%を超えて多量になると硬度が高
くなり過ぎ、被削性が劣化する上、ニッケルは高価な元
素であるために経済的な不利を招く。従って、ニッケル
含有量を、0.01〜2.0 wt.%の範囲内に限定すべきであ
る。
【0031】(7) タングステン(W) タングステンは、モリブデンと同様にAc3変態点を高め
てフェライト生成に有効であり、また、焼戻し軟化抵抗
を増大させて、面疲労強度を向上させ、更に、靱性およ
び歯元疲労強度を向上させるのに有効な元素であり、そ
の作用を発揮させるためには、0.01 wt.%以上含有させ
ることが必要である。しかしながら、タングステンも高
価な元素であり、その含有量が0.70 wt.%を超えて添加
しても、効果の割りには経済的な不利を招く。従って、
タングステン含有量を、0.01〜0.70 wt.%の範囲内に限
定すべきである。なおタングステンとモリブデンを併用
して添加する場合にはその総量は0.70 wt.%以下とする
のが望ましい。0.70 wt.%を超える場合には浸炭焼入れ
歪みが大きくなって好ましくない。
【0032】(8) バナジウム(V) バナジウムは、Ac3変態点を高める作用が大きく、また
焼入れ性を高め歯元疲労強度を向上させ、焼戻し軟化抵
抗を増大させて、面疲労強度を向上させるのに有効な元
素であり、且つ、炭窒化物を生成し結晶粒を微細化さ
せ、焼入れ歪みを小さく抑える作用を有しており、その
作用を発揮させるためには0.01 wt.%以上含有させるこ
とが必要である。しかしながら、バナジウム含有量が1.
0 wt.%を超えると、その効果が飽和し経済的な不利を
招くばかりか、炭窒化物の量が多くなって靱性の低下を
招く。従って、バナジウム含有量を、0.01〜1.0 wt.%
の範囲内に限定すべきである。
【0033】(9) アルミニウム(Al) アルミニウムは窒素と結合してAlN を生成し、結晶粒を
微細化させることにより、焼入れ時の歪みを小さくする
上、靱性および疲労強度を向上させるのに有効な元素で
ある。このためには0.005wt.%以上含有していることが
必要である。またアルミニウムはシリコンと同様にフェ
ライト形成元素であり、経済的にAc3変態点を大きく高
めることができる。しかしながら、アルミニウム含有量
が2.0 wt.%を超えて多量になるとアルミナ系介在物が
増加して、靱性および疲労強度の低下を招く。従って、
アルミニウム含有量を、0.005 〜2.0wt.%の範囲内に限
定すべきである。また、シリコンとアルミニウムを併用
する場合には、鋼の清浄性、靱性を確保するため、その
総量は2.6wt.%以下に規制することが望ましい。
【0034】(10)チタン(Ti) チタンもフェライト形成元素であり、Ac3変態点を高め
る作用が大きく、またオーステナイト結晶粒を微細化す
るのに有効な元素であり、且つ、浸炭部および歯内部の
降伏強度を高めて、疲労強度の向上に寄与する作用を有
しており、その効果を発揮させるためには、0.005wt.%
以上含有させることが必要である。しかしながら、チタ
ン含有量が1.0wt.%を超えると、その効果が飽和し経済
的な不利を招くばかりか、炭窒化物の量が多くなり過ぎ
て靱性の低下を招く。従って、チタン含有量を、0.005
〜1.0wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0035】(11)ニオブ(Nb) ニオブもオーステナイト結晶粒を微細化するのに有効な
元素であり、その作用を発揮させるためには0.005wt.%
以上含有させることが必要である。しかしながら、ニオ
ブ含有量が 0.50wt. %を超えると、その効果が飽和し
経済的な不利を招くばかりか、炭窒化物の量が多くなっ
て靱性の低下を招く。従って、ニオブ含有量を、0.005
〜0.50wt. %の範囲内に限定すべきである。
【0036】(12)ジルコニウム(Zr) ジルコニウムもチタン、ニオブと同様にオーステナイト
結晶粒を微細化するのに有効な元素であり、その作用を
発揮させるためには0.005wt.%以上含有させることが必
要である。しかしながら、ジルコニウム含有量が0.50w
t. %を超えると、その効果が飽和し経済的な不利を招
くばかりか、炭窒化物の量が多くなって靱性の低下を招
く。従ってジルコニウム含有量を、0.005 〜0.50 wt.%
の範囲内に限定すべきである。
【0037】なお、本発明鋼中には、不可避不純物とし
てのP、CuおよびO含有量は、できるだけ低い方が望
ましい。また、Nは結晶粒を微細化させる目的で、必要
に応じて、0.20wt. %までは添加が許される。また被削
性を向上させるために、必要に応じて、S、Pb、Ca
およびSe等の快削元素を含有させてもよい。
【0038】(13)Ac3点パラメーター: 従来の常法によ
る浸炭処理における熱処理パターン例を、図5に示す。
歯車用鋼材を920℃で浸炭し、炭素を鋼の内部に拡散
させた後、歪みを低減するため浸炭温度より低温の85
0℃に保持し、次いで、オイル等で急冷して焼入れをす
る。従って、歯車用鋼材の下記(1) 式によって算出され
るAc3点パラメーターが850 ℃未満では、浸炭後に85
0℃に保持しても、オーステナイト中にフェライトを確
保することができない。一方、上記Ac3点パラメーター
が960 ℃を超えると、オ−ステナイト中のフェライト量
が過剰になり、歯車芯部の強度が不足する。従って、本
発明鋼の下記(1) 式: Ac3 =920-203 √C+44.7Si+31.5Mo-30Mn-11Cr+40Al-15.2Ni+13.1W+104V+40Ti ------------ (1) によって算出されるAc3点パラメーターを、850 〜960
℃の範囲内に限定すべきである。
【0039】(14)理想臨界直径 (DI ):理想臨界直径
(DI ) は鋼の焼入れ性を表わす値である。一般的に、
鋼材が鋼材製品として使用されるときに要求される鋼材
製品のオーステナイト粒度番号は、8番であり、浸炭焼
入れ歯車においても同じである。所望の疲労強度を確保
するためには、オーステナイト粒度番号が8番のときの
鋼材の理想臨界直径 (DI) の算出式である下記(2)
式: DI =7.95√C(1+0.70Si)(1+3.3Mn)(1+2.16Cr)(1+3.0Mo)(1+0.36Ni)(1+5.0V) ------------ (2) により算出される理想臨界直径 (DI ) 値が30mm以上で
あることを必要とする。一方、上記理想臨界直径
(DI ) 値が250mm を超えると、オーステナイト組織中
に混在しているフェライトによるマルテンサイトの変態
歪みの吸収効果が無くなり、焼入れ歪みが大きくなる。
従って、オーステナイト粒度番号を8番として、上記
(2) 式により算出される理想臨界直径 (DI ) 値が、30
〜250 mmの範囲内になるように歯車の化学成分組成を限
定すべきである。そして、焼入れ歪みを更に小さくする
ためには、その値を30〜150mm の範囲内に限定すること
が望ましい。なお、オーステナイト粒度番号が8番以外
のときには、その粒度番号に応じて上記(2)式の右辺
の係数が定まるので、オーステナイト粒度番号に応じた
Iの算出式を用いた算定値が、上述した範囲内になる
ように歯車の化学成分組成を限定すべきである。
【0040】浸炭焼入れ温度について 次に、鋼材に対する浸炭温度は、容易に、且つ、効率的
に浸炭処理を行なうことができる温度にすべきである。
浸炭温度が850℃未満では、Cの拡散速度が遅く、所
望の浸炭深さを得るのに長時間を要する。一方、浸炭温
度が1000℃を超えると、結晶粒が粗大化し易く、且
つ、鋼材表面の酸化が著しくなる結果、面疲労特性が低
下する。従って、浸炭温度を、850〜1000℃の範
囲内に限定すべきである。
【0041】浸炭処理後に行なう焼入れ温度が、800
℃未満では、上記浸炭炉の炉温をその温度まで低下させ
るのに長時間を要する。一方、焼入れ温度が950℃を
超えると、焼入れ後に得られるマルテンサイト組織中の
フェライト面積%を所望の値に確保することが困難とな
り、また、焼入れ歪み量も大きくなる。従って、焼入れ
温度は、800〜950℃の範囲内に限定すべきであ
る。なお、浸炭処理後に行なう焼入れ処理は、浸炭処理
後にそのまま炉温を所定の温度まで下げてとめ、その温
度に所定時間保持した後、急冷して焼入れをする。本発
明においても同じ手順で行ない、浸炭処理後に保持する
上記焼入れ温度を、当該鋼材のA 3 点以上にすると、焼
入れ後にフェライトが混在するマルテンサイト組織を得
ることができない。一方、上記焼入れ温度を、当該鋼材
のA 1 点以下にすると、焼入れ後にマルテンサイト組織
を得ることができない。以上より、焼入れ温度は、80
0〜950℃の範囲内であって、且つ当該鋼材のA 1
超え〜A 3 点未満の範囲内に限定しなければならない。
【0042】歯内部の組織 (非浸炭部の組織) のフェラ
イト量について 浸炭焼入れ・焼戻し後の非浸炭部である歯内部の組織の
フェライト量が、10%未満ではマルテンサイトの変態歪
みを十分に吸収することができず、焼入れ歪み量を小さ
く抑制することができない。一方、上記フェライト量が
70%を超えると、歯内部において所望の強度および靱性
を確保することが困難になる。従って、歯内部の組織の
フェライト量を、10〜70%の範囲内に限定すべきであ
る。なお、この時、マルテンサイトには残留オーステナ
イトおよび/またはベイナイトを一部含んでいてもよ
い。
【0043】
【実施例】次に、この発明を、実施例により比較例と対
比し、更に詳細に説明する。表1〜3に示す本発明の条
件(化学成分組成、Ac3点パラメーター、理想臨界直径
(DI )、浸炭温度、焼入れ温度、および、浸炭焼入れ
・焼戻し後の非浸炭部のフェライト面積%)の範囲内で
ある本発明鋼No.1〜31、並びに、表4および5に示
す本発明の条件の範囲外である比較鋼のNo.1〜21、
および、表6に示す従来鋼No.1〜4の供試鋼用インゴ
ットを調製した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】比較鋼No.1は、Mo含有量が本発明の範
囲を超えて多い鋼、比較鋼No.2は、Si含有量が本発
明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメーターが965℃
と高い鋼、比較鋼No.3は、Ti含有量が本発明の範囲
を超えて多く、理想臨界直径(DI )も本発明の範囲を
超えて大きい鋼、比較鋼No.4は、C、SiおよびMn
含有量が本発明の範囲を超えて低く、また理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲を超えて小さい鋼、比較鋼No.
5は、Wが本発明の範囲を超えて多く、理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲を超えて大きい鋼、比較鋼No.
6は、CおよびCr含有量が本発明の範囲を超えて多
く、このためAc3点パラメーターも本発明の範囲を超え
て低い鋼、比較鋼No.7は、Al、NiおよびV含有量
が本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメーターが99
7 ℃と本発明の範囲を超えて高い鋼、比較鋼No.8は、
Mn含有量が本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメ
ーターが843℃と本発明の範囲を超えて低い鋼であ
る。比較鋼No. 9はTiが本発明の範囲を超えて多く、
理想臨界直径(DI )も本発明の範囲を超えて高い鋼、
比較鋼No. 10はC、Si、Mnが本発明の範囲を超え
て低く、また理想臨界直径(DI )も本発明の範囲を超
えて低く、またNbも高い鋼、比較鋼No. 11はC、C
rが本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメーターが
本発明の範囲より低い鋼、比較鋼No. 12はAl、N
i、Vが本発明の範囲を本発明の範囲を超えて多く、A
c3点パラメーターが968 ℃と高く、また理想臨界直径
(DI )も本発明の囲を超えて高い鋼である。比較鋼N
o. 13はC、Crが本発明の範囲を超えて多く、Ac3
点パラメーターが本発明の範囲より低く、理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲より高い鋼、比較鋼No. 14は
Ni、Tiが本発明の範囲を超えて多い鋼である。比較
鋼No. 15はC、Crが本発明の範囲を超えて多く、A
c3点パラメーターが本発明の範囲より低く、理想臨界直
径(DI )も本発明の範囲を超えて高い鋼、比較鋼No.
16はTiが本発明の範囲を超えて多い鋼である。比較
鋼No. 17はMo、Al、Nbが本発明の範囲を超えて
多く理想臨界直径(DI )も本発明より大きい鋼、比較
鋼No. 18はV、Zrが本発明の範囲を超えて多い鋼で
ある。比較鋼No. 19はCが本発明の範囲を超えて高い
鋼、比較鋼No. 20はAlが本発明の範囲を超えて多い
鋼、比較鋼No. 21はW、Nbが本発明の範囲を本発明
の範囲を超えて多い鋼である。
【0051】従来鋼No.1〜4は、従来のJISで規定
された鋼であって、従来鋼No.1はJIS SMnC420 であ
り、従来鋼No.2はJIS SCM420であり、従来鋼No.3は
JIS SNCM420 であり、そして、従来鋼No.4はJIS SCM4
35であって、いずれもSi含有量およびAc3点パラメー
ターが本発明の範囲を外れて少ない鋼である。
【0052】上記本発明鋼、比較鋼および従来鋼のイン
ゴットを熱間圧延して、直径20〜90mmの丸棒鋼を調製
し、得られた丸棒鋼に対し焼準処理を施した。焼準処理
後の丸棒鋼から、焼入れ歪み試験片および疲労試験片を
採取した。各試験片に対し浸炭焼入れ・焼戻し処理を施
した後、浸炭焼入れ歪み量、回転曲げ疲労特性および歯
車疲労特性を試験した。更に、焼準後の20mmの丸棒鋼に
ついて、浸炭焼入れ・焼戻しを行なった後、引張試験片
および衝撃試験片を採取し、強度および靱性を試験し
た。各試験方法は下記の通りである。なお、上記浸炭焼
入れはすべて、図5に示したように浸炭後、そのまま炉
冷して所定の温度でとめ、その温度に所定時間保持した
後に急冷して焼入れ処理を施すパターンで行なった。そ
して、焼入れ温度での保持時間はすべて0.5Hrで油
焼入れをし、また、焼戻しはすべて160℃×2Hrで
行なった。
【0053】(1) 浸炭焼入れ歪み量:直径65mmの丸棒鋼
から、ネイビーC試験片を調製した。図1に、ネイビー
C試験片の正面図を、図2に、その側面図を示す。ネイ
ビーC試験片1は、両図に示したように、円盤状体に開
口部2および円形状空間3を有し、試験片各部の寸法
は、次のとおりである。 試験片直径(a):60mm、厚さ(b):12mm、円形状空間の直径
(c):34.8mm、開口部間隔(d):6 mm、試験片中心と開口部
円中心との距離(p):10.2mm。
【0054】浸炭焼入れ・焼戻し後の歪み量の測定は、
ネイビーC試験片の開口部間隔の、浸炭焼入れ前後の変
化率を測定して行なった。ネイビーC試験片による浸炭
焼入れ・焼戻し後の歪み量が、1.0 %を超えるような大
きな歪みを示す歯車用鋼材を用いて、歯車に加工し、こ
れを浸炭焼入れ・焼戻しをした場合には、大きな変形が
生じて、機械研削により歯形修正処理をしなければなら
ず、機械研削を省略することができない。歯形修正研削
を行なわず、浸炭焼入れ・焼戻しのまま歯車として使用
を可能とするためには、ネイビーC試験片における浸炭
焼入れ・焼戻し後の歪み量が、1.0 %以下であることが
必要であり、更に、歯車の形状・寸法等にかかわらず歯
形修正研削を行なわずに使用することができるために
は、0.5 %以下であることが一層望ましい。
【0055】上記形状のネイビーC試験片1を各供試鋼
当たり10個作製し、この試験片1に対し、浸炭・焼入れ
し、次いで、焼戻した後に、この試験片の開口部間隔
(d)の、浸炭焼入れ・焼戻し前後の変化率を測定し、
この値を浸炭焼入れ歪み量と定義した。表7〜12に、
浸炭焼入れ歪み量の試験結果、即ち、n=10の平均値
およびバラツキを示す。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
【表10】
【0060】
【表11】
【0061】
【表12】
【0062】(2) 非浸炭部のフェライト面積%:次に、
浸炭焼入れ歪み量測定済みの試験片を用いて、各供試鋼
の浸炭焼入れ・焼戻し後における非浸炭部のフェライト
−マルテンサイト二相組織のフェライト面積%を検鏡試
験で測定し、歯内部のフェライト面積%と定義し、この
フェライト面積%を表1〜6に示した。
【0063】(3) 回転曲げ疲労特性:直径20mmの丸棒鋼
から、平行部直径10mmの試験片を採取し、平行部にこ
れと直角方向の深さ1mmの切り欠き( 応力集中係数α=
1.8)を全円周にわたってつけた、回転曲げ疲労試験片を
調製し、この試験片に対し、ネイビーC試験片に対して
施したと同じ条件で、浸炭焼入れ・焼戻し処理を施した
後、ショットピーニング処理 (アークハイト:0.6mmA 、
カバレージ:300%) をし、このような処理の施された試
験片に対し、小野式回転曲げ疲労試験機を使用して107
回の回転曲げ疲労試験を行い、その回転曲げ疲労強度を
測定した。表7〜9に、回転曲げ疲労強度の測定結果を
併記した。
【0064】(4) 歯車疲労特性、並びに、粒界酸化層深
さ、焼入れ不良層深さおよび有効硬化層深さ:直径90mm
の丸棒鋼から、切削加工によって外径75mm、歯幅10mm、
モジュール2.5 、歯数28枚の試験用歯車を調製し、上記
回転曲げ疲労特性と同じ条件で、浸炭焼入れ・焼戻しお
よびショットピーニング処理を施した後、得られた試験
片に対し、動力循環式歯車疲労試験機を使用し、回転
数:3000rpm で歯車疲労試験を行い、繰り返し数107
で破損しなかったトルク値を歯車の歯元強度として求め
た。表7〜9に、歯車疲労耐久トルクの試験結果、およ
び、チッピングの有無を併記した。更に、歯車疲労試験
に供した歯車から歯部を切り出して所定の試験片を調製
し、浸炭焼入れにともなう粒界酸化層深さ、焼入れ不良
層深さ、および、有効硬化層深さを測定し、これらを表
7〜9に併記した。
【0065】(5) 強度および衝撃値:浸炭焼入れ・焼戻
し後の25mmφ丸棒からJIS4号引張試験片(平行部
径:14mmφ)、および、JIS3号シャルピー試験片
を調製し、引張試験および衝撃試験を行ない、それぞれ
により歯車芯部の強度、および、歯車芯部の靱性を評価
した。表7〜9に、強度および靱性の試験結果を併記し
た。
【0066】表1〜6および表7〜12から下記事項が
明らかである。比較鋼No.1は、Mo含有量が本発明の
範囲を超えて多く、このため焼入れ歪みが1.0%を超
えて大きくなってしまった。比較鋼No.2は、Si含有
量が本発明の範囲を超えて多く、このため十分な強度を
確保することができず、回転曲げ疲労強度、歯車疲労耐
久トルクが低いものである。比較鋼No.3は、Ti含有
量が本発明の範囲を超えて多く、このため歯車芯部の衝
撃値が低い。また理想臨界直径(DI )も本発明の範囲
を外れて大きく、焼入れ歪みが大きくなってしまった。
比較鋼No.4は、C、SiおよびMn含有量が本発明の
範囲を外れて少なく、また理想臨界直径(DI )も本発
明の範囲を外れて小さく、このため十分な強度を確保す
ることができず、回転曲げ疲労強度、歯車疲労耐久トル
クが低いものである。またZr含有量も本発明の範囲を
外れて高く、このため歯車芯部の衝撃値も低い。
【0067】比較鋼No.5は、W含有量が本発明の範囲
を超えて多く、また理想臨界直径(DI )も本発明の範
囲を外れて大きく、このため焼入れ歪みが1.0%を超
えて大きくなってしまった。またNb含有量も本発明の
範囲を外れて高く、このため歯車芯部の衝撃値も低い。
比較鋼No.6は、CおよびCr含有量が本発明の範囲を
超えて多く、このためAc3点パラメーターが本発明の範
囲を外れて低く、焼入れ歪みが大きくなってしまった。
比較鋼No.7は、Al含有量が本発明の範囲を超えて多
く、このため歯車芯部の衝撃値が低い。またNiおよび
V含有量も本発明の範囲を超えて多く、理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲を外れて大きく、このため焼入
れ歪みが大きくなってしまった。比較鋼No.8は、Mn
含有量が本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメータ
ーが本発明の範囲を外れて低く、このためフェライト面
積率も10%未満で、焼入れ歪みが大きくなってしまっ
た。比較鋼No. 9はTiが本発明の範囲を超えて多く、
このため芯部の衝撃値が低い。また理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲を外れて大きく、焼入れ歪みが
大きくなってしまった。比較鋼No. 10はC、Si、M
nが本発明の範囲を外れて少なく、また理想臨界直径
(DI )も本発明の範囲を外れて小さく、このため十分
な強度を確保することができず、回転曲げ疲労強度、歯
車疲労耐久トルクが低いものである。またNbも本発明
の本発明の範囲を外れて高く、このため衝撃値も低い。
比較鋼No. 11はC、Crが本発明の範囲を超えて多
く、このためAc3点パラメーターが低く、十分なフェラ
イトを確保することができず、また、理想臨界直径(D
I )も本発明の範囲を外れて大きく、焼入れ歪みが大き
くなってしまった。比較鋼No. 12はAlが本発明の範
囲を超えて多く、このためAc3点パラメーターが本発明
の範囲を外れて高く、このため十分な疲労強度を確保す
ることができなかった。また、Niも本発明の範囲を超
えて多く、理想臨界直径(DI )が大きすぎて、焼入れ
歪みが大きくなってしまった。比較鋼No. 13はC、C
rが本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメーターが
本発明の範囲より低く、理想臨界直径(DI )も本発明
の範囲より高いため、焼入れ歪みが1%を超えて大き
い。比較鋼No. 14はNi、Tiが本発明の範囲を超え
て多く、芯部の靱性に劣る。比較鋼No. 15はC、Cr
が本発明の範囲を超えて多く、Ac3点パラメーターが本
発明の範囲より低く、理想臨界直径(DI )も本発明の
範囲を超えて高い鋼で、このため芯部の靱性が低く、ま
た焼入れ歪みが1%を超えて大きくなってしまった。比
較鋼No. 16はTiが本発明の範囲を超えて多く、この
ため芯部の靱性が低く、回転曲げ疲労強度、歯車疲労耐
久トルクが低いものである。比較鋼No. 17はMo、A
l、Nbが本発明の範囲を超えて多く、理想臨界直径
(DI )も本発明より大きく、このため芯部の靱性が低
く、回転曲げ疲労強度、歯車疲労耐久トルクが低いもの
である。比較鋼No. 18はV、Zrが本発明の範囲を超
えて多く、このため芯部の靱性が低く、回転曲げ疲労強
度、歯車疲労耐久トルクが低いものである。比較鋼No.
19は、C含有量が本発明の範囲を外れて多いので、こ
のため靱性が低い。比較鋼No. 20は、Al含有量が本
発明の範囲を超えて多く、このため靱性が低い。比較鋼
No. 21は、WおよびNb含有量が本発明の範囲を超え
て多いので、靱性、疲労強度が低い。
【0068】また、従来鋼No.1〜4は、フェライト面
積率が 4〜7 %であって本発明の範囲を外れて少なく、
粒界酸化層深さおよび焼入れ不良層深さが大で且つ焼入
れ歪み量が大きかった。
【0069】これに対して、本発明鋼No.1〜30は、
従来鋼に比べ粒界酸化層が大幅に低減し、焼入れ不良層
が全く認められず、且つ、浸炭焼入れ特性である、浸炭
の有効硬化層深さ並びに歯車芯部の強度および歯車芯部
の衝撃値は、従来鋼と同等ないし同等以上であり、更
に、フェライトの面積率が本発明の範囲内の10〜70
%のフェライト・マルテンサイト二相組織となっている
ので、焼入れ歪み量は0〜1%の範囲内と小さく、ロッ
ト内のバラツキも少なかった。図3に、本発明鋼および
従来鋼の理想臨界直径(DI )と浸炭焼入れ歪み量との
関係を示す。同図より明らかなように、本発明により歯
車の熱処理歪みは著しく低減され、歪みは0から従来鋼
の40%程度にまで小さくなっているのが判る。
【0070】更に、明らかなように、比較鋼No.2〜7
および9〜21、並びに、従来鋼No.1〜4は、低トル
ク領域で歯面にチッピングが発生した。これに対して本
発明鋼No.1〜30は、従来鋼よりも優れた疲労強度お
よび歯元強度を有しており、且つ、焼入れ不良層がな
く、Si含有量の増加によって、焼戻し軟化抵抗が高く
なり、チッピングが発生せず、面圧強度も強化された。
【0071】
【発明の効果】この発明は、以上のように構成したの
で、浸炭焼入れ処理による歪み量を、従来鋼の2.4 〜3.
6 程度に比べて、0〜1.0という小さい値に抑制する
ことが可能であり、且つ、歯元強度に優れた歯車用鋼材
を、通常の浸炭焼入れ処理によって得ることができ、歯
形修正を施さない自動車用歯車として好適である上、浸
炭焼入れ後に歯形修正を必要とする建設機械、産業機械
等の歯車においても、浸炭焼入れ歪み量を減少し得るの
で、歯形修正を施す必要がなく、従って、加工コストの
低減および生産性の向上を図ることができる低歪み型浸
炭焼入れ歯車用鋼材を提供することができ、工業上多く
の優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】浸炭焼入れ歪み量を測定するための試験片の一
例(ネイビーC試験片)を示す正面図である。
【図2】図2の側面図である。
【図3】本発明鋼および従来鋼の理想臨界直径(DI
と浸炭焼入れ歪み量との関係を示すグラフである。
【図4】歯車の歯内部およびは表面部を説明する概略斜
視図である。
【図5】従来の常法による浸炭処理および焼入れの熱処
理パターンの例を示 すグラフである。
【符号の説明】
1 ネイビーC試験片 2 開口部 3 円形状空間 4 歯内部(非浸炭部) 5 歯表面部(浸炭部) 6 歯車芯部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C22C 38/50 C22C 38/50 38/58 38/58 C23C 8/22 C23C 8/22 // F16H 55/06 F16H 55/06 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/60 C21D 6/00 C21D 9/32 C23C 8/22

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素(C) :0.10〜0.35wt.%、 シリコン(Si) :0.50〜2.5 wt.%、 マンガン(Mn) :0.20〜2.50wt.%、 クロム(Cr) :0.01〜2.50wt.%、 モリブデン(Mo):0.01〜0.70wt.%、および、 ニッケル(Ni) :0.01〜2.0 wt.% を含有し、 残部 :鉄および不可避不純物 からなる化学成分組成を有し、 しかも、下記(1) 式: Ac3 =920-203 √C+44.7Si+31.5Mo-30Mn-11Cr+40Al-15.2Ni+13.1W+104V+40Ti ------------ (1) によって算出されるAc3 点パラメーターが、850 〜960
    ℃の範囲内にあり、 下記(2) 式: DI =7.95√C(1+0.70Si)(1+3.3Mn)(1+2.16Cr)(1+3.0Mo)(1+0.36Ni)(1+5.0V) ------------ (2) によって算出される理想臨界直径 (DI ) が30〜250mm
    の範囲内にある化学成分組成を有する鋼材であって、 前記鋼材に対して、温度850〜1000℃の範囲内で
    浸炭処理を施し、前記浸炭処理終了後、前記鋼材をその
    まま炉冷し、800〜950℃の範囲内の温度であって
    且つ前記鋼材のA 1 点超え〜A 3 点未満の範囲内の温度
    でとめ、その温度に所定時間保持した後に急冷して焼入
    れ処理を施し、そして、次いで、焼戻し処理を施し、こ
    のようにして得られた前記鋼材の非浸炭部の組織が、フ
    ェライトを10〜70面積%含むマルテンサイトよりな
    る二相組織になるよう調整されていることを特徴とす
    る、低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼材。
  2. 【請求項2】下記化学成分組成からなる群: タングステン(W) :0.01〜0.70wt.%、および、 バナジウム(V) :0.01〜1.0 wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を、更に付加して含有
    している、請求項1記載の低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼
    材。
  3. 【請求項3】下記化学成分組成からなる群: アルミニウム(Al):0.005 〜2.0 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜1.0 wt.%、 ニオブ(Nb) :0.005 〜0.50wt.%、および、 ジルコニウム(Zr):0.005 〜0.50wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を、更に付加して含有
    している、請求項1記載の低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼
    材。
  4. 【請求項4】下記化学成分組成からなる群: タングステン(W) :0.01〜0.70wt.%、および、 バナジウム(V) :0.01〜1.0 wt.% から選んだ少なくとも1つの元素、並びに、下記化学成
    分組成からなる群: アルミニウム(Al):0.005 〜2.0 wt.%、 チタン(Ti) :0.005 〜1.0 wt.%、 ニオブ(Nb) :0.005 〜0.50wt.%、および、 ジルコニウム(Zr):0.005 〜0.50wt.% から選んだ少なくとも1つの元素を、更に付加して含有
    している、請求項1記載の低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼
    材。
  5. 【請求項5】前記理想臨界直径 (DI ) は、30〜150 mm
    の範囲内にある、請求項1〜請求項4の内のいずれか1
    つに記載の低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼材。
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JPS556456A (en) * 1978-06-29 1980-01-17 Daido Steel Co Ltd Blank for surface hardened material having less heat treatment strain
JPH073391A (ja) * 1993-06-17 1995-01-06 Kobe Steel Ltd 熱処理歪の少ない表面硬化高強度部品

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