JP2740753B2 - 歯付ベルト及びその製造方法 - Google Patents

歯付ベルト及びその製造方法

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JP2740753B2
JP2740753B2 JP7185197A JP18519795A JP2740753B2 JP 2740753 B2 JP2740753 B2 JP 2740753B2 JP 7185197 A JP7185197 A JP 7185197A JP 18519795 A JP18519795 A JP 18519795A JP 2740753 B2 JP2740753 B2 JP 2740753B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば自動車用
エンジンに用いられる歯付ベルト及びその製造方法に関
し、特にベルト本体の歯部表面を被覆する歯布の改良に
関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車用エンジンに用いられる歯
付ベルトでは、エンジンの高性能化に伴い、エンジンル
ーム内の温度上昇による熱負荷の増大等によって寿命が
短くなる傾向にあることから、厳しい温度条件下での寿
命アップが望まれている。そのため、ベルト本体の背ゴ
ム層には、従来のクロロプレンゴム(CR)に代えて水
素化ニトリルゴム(H−NBR)が採用されるようにな
り、また、上記背ゴム層に埋設される心線についても改
良が進んで耐熱老化性及び耐屈曲疲労性の向上が図られ
ている。
【0003】一方、上記ベルト本体の歯部表面にレゾル
シン−ホルマリン−ゴムラテックス(RFL)や糊ゴム
等のゴム系接着剤を用いて貼着される歯布では、ベルト
幅方向に延びるように配置される糸としてはナイロン6
やナイロン66等のフィラメント糸が用いられる一方、
ベルト長さ方向に延びるように配置される糸としては伸
長性に優れたナイロン6やナイロン66等のウーリー加
工糸を用いて構成されていて、歯部表面の凹凸形状に沿
って隙間なく確実に接着できるようになされており、こ
のことで歯付ベルトにおけるベルト長さ方向の強力やそ
の表面の耐摩耗性を共に向上させるようになされてい
る。
【0004】さらに、上記歯布の表面には、該歯布をベ
ルト本体に貼着する際に用いられる接着剤の一部を滲み
出させ、その接着剤が該表面の繊維に含浸するようにな
されており、このことでも歯付ベルト表面における耐摩
耗性の一層の向上が図られている。尚、その際に、上記
接着剤の含浸量(ソーキング量)が多いほど耐摩耗性は
向上するが、その接着剤が含浸されずに浮いてきて膜を
形成するようになると、ベルト走行中の騒音レベルが高
くなる。
【0005】上記のように、種々の対策が講じられてい
るにも拘らず、実際のエンジンルームの高温下において
は、歯付ベルトの歯元における耐屈曲疲労性や歯底から
歯元にかけての部分の耐摩耗性が不十分であることか
ら、歯欠けが生じ易いという傾向は依然として存在す
る。
【0006】そこで、従来では、上記歯布を構成する糸
に、耐熱性に優れたアラミド繊維を用いること(特開平
4−8948号公報参照)や、耐熱性に優れた繊維をカ
バーリング糸として用いること(特開平1−83952
号公報参照)等が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来のようにアラミド繊維やカバーリング糸を用いたもの
では、何れの場合でも、接着剤が含浸し難いためにベル
ト本体との接着性が不十分で剥離し易く、したがって、
歯付ベルトに十分な耐摩耗性を付与することは困難であ
る。かといって、接着性を改善しようとすると、その加
工方法が複雑な多工程となって加工コストがかなり高額
になる。
【0008】さらに、アラミド繊維やカバーリング糸を
用いたものでは、材料自体のコストも高い(例えば、ア
ラミド繊維ではナイロン繊維の5〜10倍)ことから、
上記の加工費も含めてベルト製造に占める歯布関係のコ
ストがかなり高くなり、ベルトのコストアップを招く結
果となっている。これに対するユーザーの反応として
は、性能のアップは認めているものの、やはりコスト面
に難色を示しており、なかなか市場に出せないのが現状
である。
【0009】この発明は斯かる諸点に鑑みてなされたも
のであり、その主な目的は、ベルト本体の歯部表面を被
覆する歯布について、そのベルト長さ方向に延びるよう
に配置される糸の糸使いを工夫することで、アラミド繊
維等のコストの高くつく材料を用いることなく、歯付ベ
ルトの歯元における耐屈曲疲労性及び歯底から歯元にか
けての部分における耐摩耗性を共に向上させることがで
きるようにし、厳しい熱条件下における歯付ベルトの寿
命アップが低コストで図れるようにすることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、請求項1の発明では、複数本のウーリー加工糸を
引き揃えてZ方向に強撚してなる強撚糸を緯糸として使
用すると、歯布の表面(ベルト本体に対する貼着面とは
反対側の面)に上記ウーリー加工糸からなるふくらみ部
が形成されるという知見に基づき、ベルト長さ方向に延
びるように配置される糸自体の耐屈曲疲労性及び耐摩耗
性を上記強撚された分だけ高めるようにすることで、歯
付ベルトの歯元における耐屈曲疲労性及び歯底から歯元
にかけての部分における耐摩耗性を共に向上させ、その
上、上記ふくらみ部に沢山のゴム系接着剤を含浸させる
ことで、歯付ベルトの歯部表面における耐摩耗性をさら
に向上させることができるようにした。
【0011】具体的には、この発明では、ベルト本体の
歯部表面に歯布がゴム系接着剤により貼着されてなる歯
付ベルトが前提である。
【0012】そして、上記歯布のベルト長さ方向に延び
るように配置される糸は、引き揃えられた複数本のウー
リー加工糸がZ方向に強撚されてなる強撚糸で構成され
ているものとする。その際に、上記歯布は、ベルト本体
に対する貼着面と反対側の表面に上記ウーリー加工糸か
らなるふくらみ部を有していて、それら各ふくらみ部に
上記ゴム系接着剤の一部が含浸されているものとする。
【0013】また、請求項5の発明では、上記請求項1
の発明に係る歯付ベルトの製造方法として、複数本のウ
ーリー加工糸を引き揃えてZ方向に強撚して強撚糸を得
た後、この強撚糸をベルト本体に対しベルト長さ方向に
延びるように配置される糸とし、該糸にベルト本体に対
しベルト幅方向に延びるように配置される糸を組み合わ
せて上記ウーリー加工糸からなるふくらみ部を一方の表
面に有する歯布とする。次いで、上記歯布を、上記ふく
らみ部がベルト本体に対する貼着面と反対側の表面に位
置するように配置してゴム系接着剤でベルト本体に貼着
し、上記歯布の表面に滲み出た一部の上記ゴム系接着剤
を各ふくらみ部に含浸させるようにする。
【0014】上記の構成により、請求項1及び5の発明
では、歯布のベルト長さ方向に延びるように配置される
糸として、強撚糸が用いられているので、強撚されてい
る分だけ上記糸自体の耐屈曲疲労性及び耐摩耗性は高ま
る。よって、歯付ベルトの歯元における耐屈曲疲労性及
び歯底から歯元にかけての部分における耐摩耗性は共に
向上し、その分だけ歯欠けは生じ難くなる。
【0015】その際に、複数本のウーリー加工糸を引き
揃えてZ方向に強撚してなる強撚糸を用いると、その歯
布の一方の表面に上記ウーリー加工糸からなるふくらみ
部が生じる。そして、上記ふくらみ部をベルト本体に対
する貼着面と反対側の表面に位置させるように配置され
た歯布がゴム系接着剤でベルト本体に貼着されると、上
記歯布の表面には一部のゴム系接着剤が滲み出してく
る。
【0016】このとき、上記ふくらみ部に沢山のゴム系
接着剤が含浸するようになるので、その分だけ歯付ベル
トの耐摩耗性はさらに向上する。よって、アラミド繊維
等のコストの高くつく材料を用いなくても、厳しい温度
条件下における歯付ベルトの歯欠けは抑えられる。尚、
上記歯布表面に滲み出たゴム系接着剤は、ふくらみ部に
含浸されることでその成膜化が回避されるので、上記ゴ
ム系接着剤が膜を形成することに起因するベルト走行時
の騒音レベルは低く抑えられる。
【0017】請求項2の発明では、上記請求項1の発明
において、歯布の織り組織は、2/2綾織りになされて
いるものとする。この構成では、上記歯布のふくらみ部
は、ベルト長さ方向においてはベルト幅方向の糸2本分
の間隔をあけて該ベルト長さ方向の糸2本分に亘り形成
され、またベルト幅方向に対しては斜めに配置された状
態となり、よって、上記請求項1の発明での作用が具体
的に営まれる。
【0018】請求項3の発明では、上記請求項1の発明
において、ウーリー加工糸は、ナイロン繊維で構成され
ているものとする。この構成では、上記ウーリー加工糸
は、例えばアラミド繊維のものに比べて廉価でありかつ
ベルト本体との接着性の良好なナイロン繊維で構成され
ているので、歯付ベルトのコストダウン及び品質向上が
図れる。
【0019】請求項4の発明では、上記請求項3の発明
において、強撚糸が、各々、太さが210デニールであ
るナイロン66の3本のウーリー加工糸からなるもので
ある場合に、上記強撚糸の1m当たりの撚り数は260
〜320の範囲に設定されているものとする。この構成
では、上記強撚糸の撚り数が260〜320回/mであ
るので、ベルト長さ方向の強力を必要な程度に維持しか
つスネールによる外観状の問題等の発生を抑えつつ耐屈
曲疲労性及び耐摩耗性の向上が図れる。すなわち、撚り
数が260よりも少ないと、強撚による耐屈曲疲労性及
び耐摩耗性の確実な向上は得られない。一方、320よ
りも多いと、強力が低下し過ぎて歯部の強度に悪影響を
及ぼすとともに、糸がスネールして織物の表面に凹凸が
できるようになり、また織り難くなることからロスが多
く発生するようになる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施形態を図面
に基づいて説明する。図2は、この発明の実施例に係る
歯付ベルトを示している。この歯付ベルトは、例えば水
素化アクリロニトリルブタジエンゴム(H−NBR)等
のゴム状弾性材からなるベルト本体1と、このベルト本
体1の同図上面側にゴム系接着剤としての糊ゴムを介し
て貼着された歯布2とを備えている。
【0021】上記ベルト本体1は、ベルト長さ方向に延
びる断面矩形状の背ゴム層3と、この背ゴム層3の図2
上面側にベルト長さ方向に所定ピッチ間隔をおいて配設
された多数の歯部4,4,…とからなっており、上記背
ゴム層3内にはベルト幅方向に所定ピッチ間隔をあける
ようにスパイラル状に巻かれた心線5が埋設されてい
る。そして、上記歯布2は、歯部表面の全面にゴム系接
着剤としての糊ゴムにより貼着されている。
【0022】上記歯布2は、ベルト幅方向に延びるよう
に配置される糸としての経糸2aと、ベルト長さ方向に
延びるように配置される糸としての緯糸2bとが互いに
組み合わされてなっており、その経糸2aがベルト幅方
向に延びかつ緯糸2bがベルト長さ方向に延びるように
配置されている。この歯布2にはRFL液に浸漬された
後に上記糊ゴムが塗布されていて、ベルト成形時に糊ゴ
ムをベルト本体1に一体に加硫成形することで貼着され
るようになされている。
【0023】そして、この発明の特徴として、上記歯布
2の緯糸2bは、図3に拡大して示すように、引き揃え
られた複数本のウーリー加工糸7,7,…がZ方向に強
撚されてなる強撚糸で構成されており、上記歯布2は、
その断面を図1に拡大して模式的に示すように、ベルト
本体1に対する貼着面とは反対側(同図の上側)の表面
に、上記ウーリー加工糸7,7,…からなるふくらみ部
8,8,…を有していて、該歯布2の表面に滲み出た一
部の上記糊ゴムが各ふくらみ部8に含浸されている。
【0024】具体的には、上記各ウーリー加工糸7はナ
イロン繊維等で構成されており、例えばナイロン66の
場合では、上記強撚糸は、各々、太さが210デニール
であるナイロン66の3本のウーリー加工糸7,7,…
からなっていて、該強撚糸の1m当たりの撚り数は16
0〜480の範囲、好ましくは260〜320の範囲に
設定されている。
【0025】また、上記歯布2の織り組織は、図4に模
式的に示すように、2/2綾織りになされている。すな
わち、上記各ふくらみ部8は、緯糸方向においては経糸
2aの2本分の間隔をあけて経糸2aの2本分に亘り形
成され、また経糸方向に対しては斜めに配置された状態
となっている。そして、上記歯布2は、ベルト本体1の
歯部表面に対し経糸2a及び緯糸2bを所定の方向に延
びるように配置して重ねられた状態で、綾目の方向が心
線5のスパイラル方向と交差するようになっていれば、
そのときのベルト本体1側の面が貼着面である裏面とな
り、その反対側の面が表面となる。
【0026】ここで、上記歯付ベルトの製造方法につい
て説明する。先ず、複数本のウーリー加工糸7,7,…
を引き揃えてZ方向に強撚し、強撚糸を得る。その後、
この強撚糸を緯糸2bとし、該緯糸2bに経糸2aを組
み合わせて一方の表面に上記ウーリー加工糸7,7,…
からなるふくらみ部8,8,…を有する歯布2とする。
【0027】次いで、上記歯布2を、各ふくらみ部8が
ベルト本体1に対する貼着面と反対側の表面に位置する
ように配置して糊ゴムでベルト本体1に貼着する。する
と、上記歯布2の表面に滲み出た一部の糊ゴムが上記各
ふくらみ部8に沢山含浸するようになる。
【0028】したがって、この実施例によれば、ベルト
本体1の歯部表面に貼着される歯布2において、そのベ
ルト長さ方向の緯糸2bに強撚糸を用いているので、強
撚されている分だけ緯糸2b自体の耐屈曲疲労性及び耐
摩耗性を高めることができる。よって、歯付ベルトの歯
元における耐屈曲疲労性及び歯底から歯元にかけての部
分における耐摩耗性を共に向上させることができる。
【0029】また、上記歯布2の表面にふくらみ部8,
8,…が生じるようにしていて、ベルト製造時に歯布2
の表面に一部の糊ゴムが滲み出でた際に、上記各ふくら
み部8に多くの糊ゴムを含浸させることができるので、
その分だけ歯付ベルトの耐摩耗性をさらに向上させるこ
とができる。
【0030】これらにより、厳しい温度条件下における
歯付ベルトの歯欠けを、アラミド繊維等のコストの高く
つく材料を用いずに低コストで抑えることができるよう
になる。
【0031】−実験例1− ここで、上記実施例に係る歯付ベルトの走行寿命を負荷
トルクとの関係で調べた実験について説明する。
【0032】上記の実験を行うために、互いに緯糸の仕
様の異なる2種類の歯布を作製し、それを各々のベルト
本体に糊ゴムで貼着して得た歯付ベルトを比較例及び発
明例とした。各緯糸の仕様を、次の表1に併せて示す。
【0033】
【表1】
【0034】すなわち、比較例では、太さが420デニ
ールである1本のウレタン弾性糸と、太さが200デニ
ールである1本のアラミド繊維(「テクノーラ(登録商
標)」帝人社製)のフィラメント糸と、太さが140デ
ニールである1本のナイロン66のウーリー加工糸とを
引き揃えて1m当たり200回の割合で加撚したものを
緯糸として用いた。一方、発明例では、各々、太さが2
10デニールである3本のナイロン66のウーリー加工
糸を引き揃えてZ方向に強撚したものを緯糸として用い
た。その際に、1m当たりの撚り数につては320とし
た。
【0035】また、経糸については、何れの場合も、太
さが210デニールである1本のナイロン66のフィラ
メント糸を用いた。そして、上記各緯糸と組み合わせて
2/2綾織りとした。その際に、緯糸の密度〔単位:本
数/5cm〕については、比較例では115、また発明
例では100とした。尚、上記経糸の密度については何
れの場合も105とした。さらに、歯付ベルトの形状及
び大きさについては、ベルト幅を10mm、ベルト長さ
を1280mm、歯部間のピッチを8mmとした。ま
た、両者間でのベルト本体及び糊ゴムの各構成は互いに
同じとした。
【0036】上記実験には、図5に示す装置を用いた。
すなわち、歯数が42である駆動プーリ11と、歯数が
21である従動プーリ12と、プーリ径が52mmであ
るアイドルプーリ13とを用い、上記従動プーリ12に
駆動プーリ11から離間する方向への張り荷重SW(4
4kgf)を与えつつ、上記駆動プーリ11を6000
rpmの速度で回転させるようにした。そして、負荷ト
ルクが2.5kgf・m及び3.0kgf・mであると
きの各歯付ベルトの走行寿命〔単位:hrs〕をそれぞ
れ測定した。その結果を、図6に併せて示す。
【0037】上記の図6から判るように、発明例及び比
較例共に負荷トルクが大きくなるのに応じて寿命は短く
なるが、発明例では、比較例の場合に比べて約100h
rsほど寿命が長くなっている。そして、負荷トルクの
大きいときほど、比較例の場合に対する寿命長さの比の
大きくなっていることが判る。
【0038】−実験例2− 次に、上記実施例に係る歯付ベルトについて、強撚糸の
撚り数の変化に対する歯布の緯糸方向の強力、歯布表面
における耐摩耗性、及びベルト走行寿命の違いを調べる
ために行った実験について説明する。
【0039】上記の実験を行うために、各々、撚り数の
互いに異なる強撚糸を緯糸に用いてなる4種類の歯布を
作製し、それを各ベルト本体に糊ゴムで貼着して得た4
種類の歯付ベルトを発明例1〜4とした。それら各緯糸
の仕様を、次の表2に併せて示す。
【0040】
【表2】
【0041】すなわち、撚り数については、発明例1で
は160、発明例2では260、発明例3では320
(つまり、上記実験例1の場合の発明例と同じもの)及
び発明例4では480とした。また、緯糸の材質、糸構
成及び密度については、何れの場合も上記実験例1の発
明例と同じにした。尚、経糸の仕様やベルト本体及び糊
ゴムの構成についても、上記実験例1の場合と同じであ
る。
【0042】そして、上記発明例1〜4について、歯布
の緯糸方向の強力〔単位:kg/3cm〕をそれぞれ測
定した。また、各歯付ベルトの歯布表面における耐摩耗
性については、具体的には25℃の雰囲気温度下で研磨
材との間で863kPaの面圧をかけて0.1m/sの
速度で歯布面を擦り、一定時間が経過した時点での摩耗
減量〔単位:10-2g〕を測定するようにした。さら
に、上記実験例1の場合と同じ装置(図5の装置)を用
い、3.0kg・mの3軸負荷をかけながら走行させた
際の走行寿命〔単位:hrs〕をそれぞれ調べた。以上
の結果を、図7に併せて示す。尚、同図において、○印
は摩耗減量を、●印は緯糸方向の強力を、□印は3軸負
荷寿命をそれぞれ示している。
【0043】上記の図7から判るように、撚り数が多い
と、寿命は長くかつ耐摩耗性は高くなる反面、強力は低
下する。尚、撚り数が480に達すると、寿命にも低下
傾向がみられる。一方、撚り数が少ないと、強力は高く
なる反面、寿命は短くかつ耐摩耗性は低下(摩耗減量が
増加)する。そして、撚り数が略260〜320の範囲
に設定されているときに、耐摩耗性、強力及び寿命につ
いてバランスのとれた高い性能の得られることが判る。
尚、上記の仕様(210デニール/3本)の場合には、
撚り数が160であるときに強力の面では最も有利であ
る。一方、撚りが多過ぎると、強力が低下し過ぎて歯部
の強度に悪影響を及ぼすようになる他、スネールという
現象が生じ易くなり、歯布の表面に凹凸ができてしまう
ようになることを考慮するのも必要である。
【0044】−実験例3− 最後に、強撚糸の撚り方向による残存強度〔単位:kg
/cm〕の違いを調べるために行った実験について説明
する。
【0045】先ず、上記実験例2における発明例2及び
3の場合と同じ歯布及びゴム材を用いて、それぞれベル
ト本体の一方の表面に歯布が貼着されてなる有端の平ベ
ルトを作製した。そして、比較のために、強撚糸の撚り
方向がS方向である他は上記発明例2の場合と同じ歯布
を用いて同様の平ベルトを作製し、これを比較例とし
た。尚、何れの場合においても、緯糸がベルトの長さ方
向に延びるように歯布を配置した。各場合における歯布
の織物の仕様を、次の表3に併せて示しておく。
【0046】
【表3】
【0047】上記の実験に用いた装置は、図8に示すよ
うに、プーリ径が60mmでありかつ同図に矢印で示す
方向に80rpmの速度で回転する平プーリ21と、上
記平ベルト22に張り荷重を付与するための錘23とを
備えている。そして、一端が固定体24に固定された各
平ベルト22の両端中間部を歯布面が平プーリ21と接
触する向きで該プーリ21に巻き掛けて他端(下端)に
錘23を取り付け、その状態で上記平プーリ21を回転
させて各歯布面を所定時間ずつ強制摩耗させるようにし
た。その際の強制摩耗時間としては、0hrs(未摩
耗)、100hrs、200hrs及び300hrsの
4種類とした。その後、各歯布の部分を取り出してその
緯糸方向の残存強度〔単位:kg/cm〕をそれぞれ測
定した。以上の結果を、図9に併せて示す。
【0048】上記の図9から判るように、0hrsから
100hrsまでの間では、何れの場合においても摩耗
時間に応じて残存強度は略同じ割合で低下しており、若
干ではあるがむしろ比較例の方が発明例2及び3を上回
っている。しかしながら、比較例では、100hrsを
経過すると低下の度合いが大きくなっていて、300h
rsのときには発明例2及び3よりも約10kg/cm
ほど下回るようになっている。これは、強撚糸の撚り方
向がS方向であると、Z方向である場合と同じ撚り数で
あっても長時間に亘る残存強度が維持されないことによ
るものと考えられる。
【0049】一方、発明例2では300hrsまでの摩
耗時間に対する低下の度合いが略一定である。さらに、
発明例3では、0hrsから200hrsまでの間では
発明例2の場合よりも僅かに小さいが、200hrsを
経過した後の低下の度合いが緩やかになっていて、30
0hrsのときには発明例2の場合を上回るようになっ
ている。これにより、強撚糸の撚り方向がZ方向である
と、撚り数に応じた長時間に亘る残存強度が維持される
ようになることが判る。
【0050】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1及び5の
発明によれば、ベルト本体の歯部表面に歯布がゴム系接
着剤により貼着されてなる歯付ベルトにおいて、上記歯
布のベルト長さ方向の糸に、複数本のウーリー加工糸を
Z方向に強撚してなる強撚糸を用い、強撚した分だけ糸
自体の耐摩耗性及び耐屈曲疲労性を高めて歯付ベルトの
歯元における耐屈曲疲労性及び歯底から歯元にかけての
部分における耐摩耗性を共に向上させる一方、上記歯布
表面のウーリー加工糸からなるふくらみ部に沢山の接着
剤を含浸させて歯付ベルト表面の耐摩耗性をさらに向上
させることができるようにしたので、厳しい熱条件下で
あっても寿命の長い歯付ベルトを低コストで得ることが
できる。
【0051】請求項2の発明によれば、上記歯布の織り
組織を2/2綾織りとしたので、各ウーリー加工糸のふ
くらみ部を効果的に設けることができ、上記請求項1の
発明による効果を適正に得ることができる。
【0052】請求項3の発明によれば、上記ウーリー加
工糸を比較低コストのナイロン繊維で構成するようにし
たので、例えばアラミド繊維のものに比べて廉価であり
かつベルト本体との接着性を良好にすることができ、上
記歯付ベルトの低コスト化を具体的に図ることができ
る。
【0053】請求項4の発明によれば、上記強撚糸が、
各々、太さが210デニールであるナイロン66の3本
のウーリー加工糸からなるものである場合に、上記強撚
糸の1m当たりの撚り数を260〜320の範囲で設定
するようにしたので、ベルト長さ方向の強力を確保しか
つスネールによる外観状の問題の発生を抑えつつ耐屈曲
疲労性及び耐摩耗性の向上を共に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例に係る歯付ベルトの歯布を拡
大して模式的に示す断面図である。
【図2】歯付ベルトの一部を示す斜視図である。
【図3】歯布の緯糸を拡大して示す側面図である。
【図4】2/2綾織りを模式的に示す組織図である。
【図5】実験例1で用いたベルト走行装置を示す模式図
である。
【図6】実験例1での負荷トルクに対するベルト寿命時
間を示す特性図である。
【図7】実験例2での撚り数による摩耗減量、強力及び
寿命を併せて示す特性図である。
【図8】実験例3で用いた強制摩耗装置を示す模式図で
ある。
【図9】実験例3での摩耗時間に対する残存強度を示す
特性図である。
【符号の説明】
1 ベルト本体 2 歯布 2a 経糸(ベルト幅方向の糸) 2b 緯糸(ベルト長さ方向の糸) 7 ウーリー加工糸 8 ふくらみ部

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ベルト本体の歯部表面に歯布がゴム系接
    着剤により貼着されてなる歯付ベルトであって、 上記歯布のベルト長さ方向に延びるように配置される糸
    は、引き揃えられた複数本のウーリー加工糸がZ方向に
    強撚されてなる強撚糸で構成され、 上記歯布は、ベルト本体に対する貼着面と反対側の表面
    に上記ウーリー加工糸からなるふくらみ部を有し、 上記各ふくらみ部に上記ゴム系接着剤の一部が含浸され
    ていることを特徴とする歯付ベルト。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の歯付ベルトにおいて、 歯布の織り組織は、2/2綾織りになされていることを
    特徴とする歯付ベルト。
  3. 【請求項3】 請求項1記載の歯付ベルトにおいて、 ウーリー加工糸はナイロン繊維で構成されていることを
    特徴とする歯付ベルト。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の歯付ベルトにおいて、 強撚糸は、各々、太さが210デニールであるナイロン
    66の3本のウーリー加工糸からなり、 上記強撚糸の1m当たりの撚り数は260〜320の範
    囲に設定されていることを特徴とする歯付ベルト。
  5. 【請求項5】 請求項1記載の歯付ベルトの製造方法で
    あって、 複数本のウーリー加工糸を引き揃えてZ方向に強撚して
    強撚糸を得た後、 上記強撚糸をベルト本体に対しベルト長さ方向に延びる
    ように配置される糸とし、該糸にベルト本体に対しベル
    ト幅方向に延びるように配置される糸を組み合わせて上
    記ウーリー加工糸からなるふくらみ部を一方の表面に有
    する歯布とし、 次いで、上記歯布を、ベルト本体に対する貼着面と反対
    側の表面に上記ふくらみ部が位置するように配置してゴ
    ム系接着剤でベルト本体に貼着し、 上記歯布の表面に滲み出た一部の上記ゴム系接着剤を各
    ふくらみ部に含浸させることを特徴とする歯付ベルトの
    製造方法。
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