JP2721858B2 - 高強度鋼線材の製造方法 - Google Patents

高強度鋼線材の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 「発明の目的」 (産業上の利用分野) この発明は、ワイヤーロープもしくはバネ材等に最適
な高強度鋼線材の製造方法に関するもので、高強度線材
を従来のピアノ線パテンティングと同一温度領域で適切
に製造し得る方法を提供しようとするものである。
(従来の技術) 従来からワイヤーロープもしくはバネ材に供給される
ピアノ線材は、強度のバラツキを極力少なくし微細なパ
ーライト組織となし、高強度、高延性の線材とするため
に、オフラインで950℃程度に加熱して組織をオーステ
ナイト化した後、溶融鉛槽を用いてパテインティング処
理を行なっている。然し、近年、これ等ワイヤーロープ
もしくはバネ材に供給されるピアノ線材の軽量化もしく
は小型化の要望が強く出されることから、従来鋼種の基
準としつつも、Si、Crの含有量を多くして高強度化を図
る研究がなされ、例えば0.82%C−0.25%Si−0.80%Mn
を主成分とするSWRS 82Bに対しては、SiやCrの添加量を
多くした0.82%C−1.00%Si−0.80%Mnや、0.82%C−
0.90%Si−0.50%Mn−0.50%Cr系等で開発されている。
これ等で鋼は、高強度、高延性であって、伸線後の線の
強度は、従来のものより30kgf/mm2程度高いものが得ら
れている。
(発明が解決しようとする課題) 然し乍ら、前述の高Si系もしくは高Si−Cr系の線材を
従来のピアノ線材と同一の温度でパテンティング処理を
行う場合には、ベイナイト組織が表れて強度、延性とも
著しく低下することが知られているから、パテンティン
グ処理槽の温度を50〜80℃程上昇せしめる必要がある。
そこで従来のピアノ線材の処理槽を使用するとすれば、
事前に昇温せしめておく必要があり、逆にその後、通常
のピアノ線材のパテンティングを行なう場合には、温度
を再び元に戻す必要がある。これ等の昇温、冷却に合計
2日間の時間とエネルギーを無駄にしているのが現状で
ある。
本発明は、このような現状に鑑み創案されたものであ
り、高強度を有する線材でありながら、パテンティング
処理を行なう浴の温度領域は、従来のピアノ線のパテン
ティングと同一温度領域で、充分その処理目的を達成で
きる化学組成の高強度鋼線材を提供することを目的とす
るものである。
「発明の構成」 (課題を解決するための手段) 前述の目的を達成するために本発明者等は、 (1) 重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、 を含有し、残部が実質的に鉄および不可避的不純物にな
る鋼であって、下式により計算されるパテンティング限
界温度指数TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶
融低浴を用いる場合は550未満とすることを特徴とする
高強度鋼線材の製造方法。
溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn 但し、各元素は%で計算する。
(2) 重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、Al:0.00〜0.050%、 含有し、残部が実質的に鉄および不可避的不純物よりな
る鋼であって、下式により計算されるパテンティング限
界温度御指数TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、
溶融鉛浴を用いる場合は550未満とすることを特徴とす
る高強度鋼線材の製造方法。
溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn 但し、各元素は%で計算する。
(3) 重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、 を含有し、更にNi:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.30%、V:
0.03〜0.15%、の内の1種もしくは2種以上を浮み、残
部が実質的に鉄および不可避的不純物からなる鋼であっ
て、下式により計算されるパテンティング限界温度指数
TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶融鉛浴を用
いる場合は550未満とすることを特徴とする高強度鋼線
材の製造方法。
溶融塩浴: TP=350+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 溶融鉛浴: TP=400+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 但し、各元素は%で計算する。
(4) 重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、Al:0.007〜0.050%、 を含有し、更にNi:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.30%、V:
0.03〜0.15%、の内の1種もしくは2種以上を含み、残
部が実質的に鉄および不可避的不純物からなる鋼であっ
て、下式により計算されるパテンティング限界温度指数
TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶融鉛浴を用
いる場合は550未満とすることを特徴とする高強度鋼線
材の製造方法。
溶融塩浴: TP=350+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 溶融鉛浴: TP=400+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 但し、各元素は%で計算する、発明を茲に提案する。
本発明において規定する化学的組成を有し、パテンティ
ング限界温度指数が所定以下の条件を充たす鋼線材の場
合には、通常のピアノ線よりも20〜30kgf/mm2高い強度
を有する線材であるにも拘らず、パテンティング温度領
域は通常のピアノ線と同じ領域と処理することができる
ので、熱経済的にも、パテンィング処理時間の点から
も、極めて有意義である。
(作用) 発明者等はパテンティング可能な限界温度を引き下げ
るべく、添加元素がこの限界温度にどのように影響を与
えているか研究を重ねた結果、次のことが明確になっ
た。
MnおよびCrは、Siよりも限界温度を大きく上げるとい
うことである。そこでMn、Crを実行上差し支えない範囲
まで低減せしめ、影響の少ないNi等の元素を添加し限界
温度の引き下げに成功し、更に鋼を夫々の限界温度でパ
テンティングしたときの引張強さTSは概ね成分と次の比
例関係にあることを見出した。
TS∝C+Si/14+Mn/20+Cr/8+Ni/9+V (各元素は含有量%で計算する) このことから、通常鋼を強化すると考えられているMn
は、パテンティング限界温度における鋼の強度に殆ど影
響を与えないことが判る。これは、Mnが鋼の連続冷却変
態を受ける時は、焼入れ性を高めて組織を微細化して鋼
を強化するが、恒温変態に近い限界温度で処理したパテ
ンティング材の強度には、焼入れ性は関係がないと言う
ことである。即ち、Mnは強度増加への効果が小さく限界
温度を高めるのみであり、Crは強度も増すが限界温度も
上昇せしめるので、このことからもこの2つの元素は可
能な限り低くした方が良いことが判る。
実操業において、高Si系もしくは高Si−Cr系の線材の
パテンティングを行う場合、溶融塩浴では500〜580℃
(通常のピアノ線:460〜500℃未満)、溶融鉛浴では550
〜630℃(通常のピアノ線:510〜550℃未満)の範囲が用
いられている。そこで溶融塩欲の下限500℃をそのまま
無名数にして、限界温度指数TP(以下TPという)=500
とすると、各元素の影響力を応じた係数を用いた数式に
より、 TP=350+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V (但し、各元素は%で計算する) として表現することができる。溶融鋼浴を用いる場合の
下限は550℃であるから、同様にTP=550となるが、上記
の式中350を400として計算すれば他の系数はそのまま使
用できる。従って本発明において成分設計を行うに当っ
てはTPの値を塩浴を使用する場合は500未満、鋼浴を使
用する場合には550未満となるようにする必要がある。
但し、TPの値を極端に低く設計した場合には、当然強度
もでないことになるから、温度に換言すれば塩浴の場合
には450〜500℃未満、鉛浴の場合で500〜550℃未満の範
囲でパテンティング可能な組成とする必要がある。尚、
前述の式はSi、Mnを基本成分とする場合、選択元素の添
加の種類を減少せしめた場合でも、実操業にそのまま適
用することができる。
次に本発明における化学組成の数値限定の理由を説明
する。
C:0.7〜1.0% Cは、鋼中にパーライトを析出して、強度を確保する
のに重要な元素である。然し0.7%未満では所望の強度
が得られず、1.0%を超えて添加する場合には、延性の
低下が大きくなり、伸線中に断線を生ずる原因となるの
で、0.7〜1.0%の範囲とした。
Si:1.0〜1.7% Siは、フェライト中に固溶して鋼を強化する重要な元
素である。然し、1.0%未満では所望の強度を得のが困
難であり、一方、1.7%を超えて添加するとTPの上昇が
大きくなり、延性の低下も大きくなり脱炭される度合も
大きくなるので、1.0〜1.7%の範囲とした。
Mn:0.30%以下 Mnは、組織を微細化し、鋼を強化する性能はあるが、
パテンティング材の強度を増大せしめる効果は小さく、
TPを大幅に増加させるので上昇を0.30%とした。
Al:0.007〜0.005% 比較的太径線用に供する場合には、パテンティング材
に粗大粒が発生すると、絞り性が著しく低下することに
なるので、細粒化のためにAlの添加を必要とする。然し
0.007%未満では細粒化の効果が小さく、一方、0.50%
を超えて添加すると鋼の洗浄性が低下するので、0.007
〜0.050%の範囲とした。
但し、極細線(約0.2mmφ以下)用に供する鋼には、
酸化物系介在物の存在は断線の原因となるので、積極的
な添加は好ましくない。0.003%を超える断線の危険性
が増大するので、0.003%を超えて存在せしめてはなら
ない。
選択元素:Ni0.05〜0.50%、Cr0.05〜0.30%、V0.03〜0.
15%、の内1種もしくは2種以上 これらの元素は、鋼を強化するのに有効な元素であ
る。Ni:0.05%未満、Cr:0.05%未満、V:0.03%未満で
は、何れも鋼を強化する程度が小さい。NiはTPを上昇さ
せる程度が小さく好ましい元素であるが、効果であり、
0.50%までの添加でその目的を達成させるので、上限を
0.50%とした。Cr、Vは何れも著しくTPを上昇せしめる
ので、Cr0.30%、V0.15%を上限とした。
特許請求の範囲中、第2発明、第4発明は1μm程度
の酸化物があっても差し支えない比較的太線用に、第1
発明、第3発明は、0.2mmφ程度もしくはそれ以下の極
細線用に利用することになる。
(実施例) 第1表に従来鋼、比較鋼、並びに本発明鋼の化学組
成、TPを示す。鋼AはSWRH 82B相当の従来のピアノ線材
用鋼である。鋼Bは高Si−Mn型の従来の高強度鋼線材用
鋼であってTPは512、鋼Cも高Si−Cr型の従来の高強度
鋼線材用鋼でありTPは544とかなり高い。鋼D、Eは本
発明鋼であってTPは夫453、476と低くなっている。鋼F
はSiを1.92%含む比較鋼であるが、TPは519となってい
る。鋼GはNiの少量を含み、鋼HはCr、Vの添加量を少
なくした何れも本発明鋼であるが、TPは低い。以上鋼A
〜Hは何れもAlを含有するものであるが、鋼IはAlを殆
んど含有しない高Si−低Mn鋼、鋼JもAlを殆んど含有し
ない高Si−低Mn鋼で少量のNiを含む鋼の例であり本発明
鋼である。
第2表は、第1表の各供試鋼のパテンティング処理条
件並びにこの製品の機械的特性並びに顕著鏡組織を示す
ものである。試験No.1〜10は9mmφ線材を、No.11〜12は
5.5mmφ線材を用いパテンティング浴としては溶融塩を
使用しNo.13〜14は溶融鉛を使用した例である。従来の
ピアノ線材を480℃でパテンティングしたNo.1は微細な
パーライト組織が得られているが、強度は132kgf/mm2
限界となっている。鋼B、鋼Cを480℃でパテンティン
グしたNo.2、No.4ではベイナイトが発生して強度と絞り
の双方共低い結果となっている。No.3もしくはNo.5のよ
うに従来の高強度鋼線材の場合には、520℃もしくは550
℃まで昇温せしめることにより始めて微細なパーライト
の高強度鋼線材が得られているが、No.6、7およびNo.9
〜12の本発明鋼の場合は、480℃でパテンティングして
も微細なライト組織を有し、140kgf/mm2を超える強度の
線材が得られている。Siの添加量が本発明の規定より高
いNo.8はベイナイトが発生して強度、絞り共に低い結果
となっている。尚、No.13は鋼Dを、No.14は鋼Iを使用
し、溶融鉛浴によりパテンティングした例であるが、何
れも140kgf/mm2を超える強度を有し、微細なパーライト
組織が得られている本発明の例である。
「発明の効果」 以上詳述したように、本発明の組成を有する高強度鋼
線材は通常のピアノ線よりも20〜30kgf/mm2高い強度を
有するものであり、而も従来の高Si−高Mn型の高強度鋼
線材のように、パテンティング浴の温度を昇温せしめる
必要は全くなく、従来のピアノ線と同一浴温が使用でき
るので、経済的であることは勿論、全体的な処理工程の
時間を短縮できる効果がある。業界に益するところの頗
る大きな発明であると言うことができる。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、 を含有し、残部が実質的に鉄および不可避的不純物にな
    る鋼であって、下式により計算されるパテンティング限
    界温度指数TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶
    融低浴を用いる場合は550未満とすることを特徴とする
    高強度鋼線材の製造方法。 溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn 但し、各元素は%で計算する。
  2. 【請求項2】重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、Al:0.007〜0.050%、 を含有し、残部が実質的に鉄および不可避的不純物にな
    る鋼であって、下式により計算されるパテンティング限
    界温度御指数TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、
    溶融鉛浴を用いる場合は550未満とすることを特徴とす
    る高強度鋼線材の製造方法。 溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn 但し、各元素は%で計算する。
  3. 【請求項3】重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、 を含有し、更にNi:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.30%、V:
    0.03〜0.15%、の内の1種もしくは2種以上を含み、残
    部が実質的に鉄および不可避的不純物からなる鋼であっ
    て、下式により計算されるパテンティング限界温度指数
    TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶融鉛浴を用
    いる場合は550未満とすることを特徴とする高強度鋼線
    材の製造方法。 溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 但し、各元素は%で計算する。
  4. 【請求項4】重量%で、 C:0.7〜1.0%、Si:1.0〜1.7%、 Mn:0.30%以下、Al:0.007〜0.050%、 を含有し、更にNi:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.30%、V:
    0.03〜0.15%、の内の1種もしくは2種以上を含み、残
    部が実質的に鉄および不可避的不純物からなる鋼であっ
    て、下式により計算されるパテンティング限界温度指数
    TPを、溶融塩浴を用いる場合は500未満、溶融鉛浴を用
    いる場合は550未満とすることを特徴とする高強度鋼線
    材の製造方法。 溶融塩浴:TP=350+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 溶融鉛浴:TP=400+80Si+100Mn+50Ni+135Cr+100V 但し、各元素は%で計算する。
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