JP2686505B2 - タンパク質あるいはペプチドのカルボキシ末端からのアミノ酸配列を決定する方法 - Google Patents

タンパク質あるいはペプチドのカルボキシ末端からのアミノ酸配列を決定する方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、タンパク質あるいはペ
プチドの1次構造解析法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、タンパク質あるいはペプチドのカ
ルボキシ末端(C末端)からのアミノ酸配列を決定する
ためには、図2に示すようにタンパク質あるいはペプチ
ドにカルボキシペプチダーゼを反応させ、反応液を経時
的に1部ずつ採取し、その反応液をアミノ酸分析装置で
分析して遊離されたアミノ酸を定量する方法が用いられ
てきた。(日本生化学会編、生化学実験講座第1巻、タ
ンパク質の化学II203−211ページ、1976年発
行)また、その反応液を質量分析装置にかけてC末端側
のアミノ酸を失ったタンパク質あるいはペプチドの質量
を測定する方法も報告されている。(A. Tsugita,R. va
n den Broek, M. Pyzybylski, FEBS. Lett. 137, 19(19
82))さらに、図3に示すようにC末端を無水酢酸で活
性化し、トリメチルシリルイソチオシアネート(TMS
−ITC)を結合させた後に、塩酸で切断するという一
連の操作を繰り返すことを利用した配列分析法も報告さ
れている。(D. H.Hawke, H-. W. Lahm,J. E. Shively,
C. W. Todd, Anal. Biochem. 166, 298(1987))
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来のカルボキシペプ
チダーゼを用いる方法は、酵素の基質特異性や活性がC
末端アミノ酸あるいはそれに隣接するアミノ酸によって
さまざまであること、そして他の酵素の混在があること
から正確な分析が困難になることがあり、また酵素の自
己消化性によってアミノ酸が遊離されるため高感度分析
には適していなかった。
【0004】また、TMS−ITCを用いる方法は3種
類の試薬を繰り返し作用させる必要があり操作が煩雑で
ある。そこで本発明は、酵素を用いることなく、簡便な
操作でタンパク質あるいはペプチドのC末端からのアミ
ノ酸配列を決定する方法を提供しようとするものであ
る。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明においては、上記
の欠点を克服しC末端からのアミノ酸の配列分析を実行
するために、タンパク質あるいはペプチドに一般式、C
3 −(CF2 )n−COOH(nは0以上の整数)で
表される有機酸、例えばトリフルオロ酢酸(n=0)、
ペンタフルオロプロピオン酸(n=1)あるいはヘプタ
フルオロ酪酸(n=2)を作用させた。
【0006】
【作用】上記手段により、酵素を用いることなく、簡便
な操作でタンパク質あるいはペプチドのC末端からのア
ミノ酸配列を決定することが可能になった。
【0007】
【実施例】以下実施例に基づいて本発明を詳細に説明す
る。 (実施例1) ここでは実験方法の詳細を述べる。図1は本発明の分析
方法を示す工程図である。タンパク質あるいはペプチド
トリフルオロ酢酸(TFA)、ペンタフルオロプロピ
オン酸(PFPA)あるいはヘプタフルオロ酪酸(HF
BA)を作用させC末端からのペプチド鎖の逐次切断反
応を生じさせる。この反応混合物をファーストアトムボ
ンバードメント質量分析装置(FAB−MS)あるい
は、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI
−MS)にかけて質量スペクトルを得るか、またはアミ
ノ酸分析装置にかける。
【0008】本発明の分析手順は以下のとおりである。
まずタンパク質あるいはペプチドを含む試料溶液1を小
試験管2に入れた後乾燥させる。この試験管を、あらか
じめTFA,PFPAあるいはHFBAの水溶液3を入
れておいた試験管4に入れる。この際、その水溶液には
還元剤5を加えておく(図4(A))。還元剤を有機酸
の水溶液に添加しておく代わりに、別の小試験管に入
れ、タンパク質あるいはペプチド1の入った小試験管2
と一緒に有機酸の水溶液3を入れた試験管4に入れてお
くこともできる(図4(B))。
【0009】次いで、この外側の試験管を減圧下で封管
する。そしてこの2重になった試験管を加熱する。この
後、封管をあけて内側の試験管を取り出して乾燥させ
る。乾燥された試料を酢酸の水溶液で溶解し、更にグリ
セロールとチオグリセロールとの混合物と混合した後、
FAB−MSによって分析する。ESI−MSによって
分析する場合には、試料を酢酸を含むメタノール溶液に
溶解して装置に導入する。
【0010】各々の質量分析の条件は以下のとおりであ
る。 FAB−MS 装置本体:日本電子製 HX100型 データ処理システム:日本電子製 DA1000型 加速電圧:10kV イオン化ガス:キセノン ESI−MS 装置本体:日本電子製 SX−101 加速電圧:10kV イオン化ガス:窒素 アミノ酸分析装置によって分析する場合には、試料をpH
2.2のクエン酸緩衝溶液に溶解して装置に導入する。ニ
ンヒドリン法を用いたイオン交換クロマトグラフによる
アミノ酸分析には、医理化機器製A−5500を用い
た。
【0011】(実施例2)本発明を説明するために、こ
こでは配列番号1のヘキサペプチド、Leu-Trp-Met-Arg-
Phe-Ala を試料ペプチドとして選び実験を行った。以下
の説明においては、例えばLeu-Trp-Met はペプチド1-3
のように呼ぶこととする。
【0012】図5は、TFA(図5(B))、PFPA
(図5(C),(E))、そしてHFBA(図5
(D),(F))を含む蒸気をそれぞれ作用させた反応
混合物をFAB−MSによって分析した結果を示したも
のである。この際の加熱温度は90℃、各有機酸溶液の
濃度は90%である。図5(A)は有機酸を作用させて
いないペプチドを分析した結果を示したものである。T
FAを含む蒸気を4時間作用させた場合、ペプチド1-6
と、それぞれC末端からのアミノ酸を順次失ったペプチ
ド1-5 、1-4 、1-3 が検出された。但しこの場合には、
C末端からの逐次的な分解以外の非特異的なペプチド鎖
内部の分解反応の結果生じたペプチド4-6 、3-5 、3-6
も検出されている。
【0013】一方、PFPA(図5(C))およびHF
BA(図5(D))を4時間作用させた場合には、ペプ
チド1-6 とC末端からの逐次的なペプチド鎖の分解の結
果生成したペプチド1-5 、1-4 、1-3 が主に検出されて
おり、この結果からC末端からのアミノ酸配列が決定さ
れることがわかる。次に、PFPA(図5(E))、そ
してHFBA(図5(F))を24時間作用させた場合
に得られた結果を示した。この場合も4時間作用させた
際と同様に、C末端からの逐次的なペプチド鎖の分解の
結果生成したペプチドが検出されている。但し、4時間
作用させた場合に見られなかったペプチド1-2 も検出さ
れており、有機酸を長時間作用させることによって、よ
り長い配列分析が可能となることがわかる。
【0014】(実施例3)更にこの結果を配列番号2の
ノナペプチドArg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu を
用いて確かめた。図6(A)は、有機酸を作用させてい
ないペプチドを分析した結果を示したものである。90
%のHFBAを90℃で4時間作用させた場合(図6
(B))、ペプチド1-9 、1-8 、1-7 が検出されてお
り、C末端から2残基の配列がわかる。24時間作用さ
せた場合(図6(C))には、ペプチド1-9 、1-8 、1-
7 、1-6 、1-5 、1-4 、1-3 が検出されており、C末端
から6残基の配列がわかる。
【0015】(実施例4)ここでは作用させる有機酸の
濃度を変化させた場合の結果を示す。図7は、PFPA
の濃度を50%から98%まで変化させ90℃で4時間
作用させた場合に得られた反応混合物をFAB−MSに
よって分析した結果を示したものである。試料には配列
番号1のヘキサペプチド、Leu-Trp-Met-Arg-Phe-Alaを
用いた。図7(A)は有機酸を作用させていないペプチ
ドを分析した結果を示したものである。図7(B)はP
FPAの濃度を50%とした場合の結果を示したもので
あり、以下同様に図7(C)は70%、図7(D)は9
0%、図7(E)は98%とした場合の結果を示したも
のである。PFPAの濃度を50%とした場合には、C
末端からの逐次的な分解以外の非特異的なペプチド鎖内
部の分解反応の結果生じたペプチド4-6 、3-5 、3-6 、
も検出されている。有機酸の濃度を90%とした場合
に、最もC末端からの逐次的なペプチド鎖の切断が特異
的に起きていることがわかる。
【0016】図8は、HFBAの濃度を50%から98
%まで変化させ90℃で4時間作用させた場合に得られ
た結果を示したものである。試料には配列番号3のオク
タペプチド、His-Pro-Phe-His-Leu-Leu-Val-Tyr を用い
た。図8(A)は有機酸を作用させていないペプチドを
分析した結果を示したものである。図8(B)はHFB
Aの濃度を50%とした場合の結果を示したものであ
り、以下同様に図8(C)は70%、図8(D)は90
%、図8(E)は98%とした場合の結果を示したもの
である。HFBAの濃度を50%とした場合には、PF
PAを用いた場合と同様にC末端からの逐次的な分解以
外の非特異的なペプチド鎖内部の分解反応の結果生じた
ペプチド4-8 、3-6 も検出されている。
【0017】(実施例5)ここではESI−MSを用い
て反応混合物を分析した例を示す。図9,図10は、試
料として配列番号4のトリコサペプチド、Gly-Ile-Gly-
Lys-Phe-Leu-His-Ser-Ala-Gly-Lys-Phe-Gly-Lys-Ala-Ph
e-Val-Gly-Glu-Ile-Met-Lys-Ser を用いPFPAの濃度
を90%として90℃で2時間処理した場合の反応混合
物をESI−MSを用いて分析した結果を示したもので
ある。図9はマススペクトログラムであり、図10はそ
こで得られたデータをまとめたものである。図9中の番
号は図10中のそれに対応している。図10中におい
て、例えば(8-23) 2+ は2価に荷電されたペプチド8-23
を示している。ESI−MSの特徴として様々な電荷を
帯びたイオンが検出されている。ここでは、特に3価に
荷電されたイオンを検出したことによって((1-23) 3+
から(1-15) 3+ )C末端から8残基のアミノ酸配列が分
析されている。
【0018】(実施例6)ここではアミノ酸分析装置を
用いて反応混合物を分析した例を示す。図11は、実施
例2と同様に配列番号1のヘキサペプチド、Leu-Trp-Me
t-Arg-Phe-Ala を試料ペプチドとして選び、PFPAを
含む蒸気をそれぞれ4時間(図11(B))、および2
4時間(図11(C))作用させた反応混合物をアミノ
酸分析装置によって分析した結果を示したものである。
他の反応条件も実施例2と同様であり、加熱温度は90
℃、各有機酸溶液の濃度は90%である。図11(A)
は有機酸を作用させていないペプチドを分析した結果を
示したものである。図11(B)において得られた各ア
ミノ酸のピークの強度の順から、C末端側のアミノ酸配
列は-Arg-Phe-Alaであることがわかる。さらに、図11
(C)において得られた各アミノ酸のピークの強度の順
から、C末端側のアミノ酸配列は-Met-Arg-Phe-Alaであ
ることがわかる。
【0019】以上述べてきた結果をまとめると次のよう
になる。乾燥されたペプチドに還元剤を含む50−98
%の一般式、CF3 −(CF2 )n−COOH(nは0
以上の整数)で表される有機酸を含む水溶液を気化させ
た結果生じた蒸気を作用させ、その反応混合物をFAB
−MSあるいはESI−MSにかけることにより、試料
としたペプチド及びそのペプチドのC末端のアミノ酸が
逐次分解反応によって切断されたペプチドを示す質量ス
ペクトルを得ることができる。これを解析することによ
って、試料としたペプチドのC末端からのアミノ酸配列
を決定することができる。また反応混合物をアミノ酸分
析装置にかけて得られたデータを解析することによって
も、試料としたペプチドのC末端からのアミノ酸配列を
決定することができる。
【0020】
【発明の効果】本発明の重要な点は、タンパク質あるい
はペプチドに一般式、CF3 −(CF2 )n−COOH
(nは0以上の整数)で表される有機酸、例えばトリフ
ルオロ酢酸(n=0)、ペンタフルオロプロピオン酸
(n=1)あるいはヘプタフルオロ酪酸(n=2)を作
用させることにより、酵素を用いることなく簡便な操作
でタンパク質あるいはペプチドのC末端からのアミノ酸
配列を決定することが可能になったことである。
【0021】よって、本発明によるタンパク質あるいは
ペプチドのカルボキシ末端からのアミノ酸配列を決定す
る方法はその工業的価値が大である。 (配列表) 配列番号:1 配列の長さ:6 配列の形:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 配列番号:2 配列の長さ:9 配列の形:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 配列番号:3 配列の長さ:8 配列の形:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 配列番号:4 配列の長さ:23 配列の形:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Gly Ile Gly Lys Phe Leu His Ser Ala Gly Lys Phe Gly Lys Ala Phe 1 5 10 15 Val Gly Glu Ile Met Lys Ser 20
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分析方法を示す工程図である。
【図2】カルボキシペプチダーゼを用いた場合の従来の
分析方法の工程図である。
【図3】トリメチルシリルイソチオシアナートを用いた
場合の従来の分析方法の工程図である。
【図4】還元剤を、有機酸の水溶液に加えた場合(図4
(A))と、タンパク質あるいはペプチドのはいった小
試験管とは別の小試験管に入れた場合(図4(B))の
実験方法を示したものである。
【図5】配列番号1のヘキサペプチドにTFA(図5
(B))、PFPA(図5(C))、そしてHFBA
(図5(D))を含む蒸気をそれぞれ4時間、更にPF
PA(図5(E))、そしてHFBA(図5(F))を
24時間作用させた反応混合物をFAB−MSによって
分析した結果を示したものである。図5(A)は有機酸
を作用させていないペプチドを分析した結果を示したも
のである。
【図6】配列番号2のノナペプチドにHFBAを含む蒸
気をそれぞれ4時間(図6(B))、そして24時間
(図6(C))を作用させた反応混合物をFAB−MS
によって分析した結果を示したものである。図6(A)
は有機酸を作用させていないペプチドを分析した結果を
示したものである。
【図7】PFPAの濃度を50%から98%まで変化さ
せ90℃で4時間作用させた場合に得られた結果を示し
たものである。図7(A)は有機酸を作用させていない
ペプチドを分析した結果を示したものである。図7
(B)はPFPAの濃度を50%とした場合の結果を示
したものであり、以下同様に図7(C)は70%、図7
(D)は90%、図7(E)は98%とした場合の結果
を示したものである。試料として配列番号1のヘキサペ
プチドを用いた。
【図8】HFBAの濃度を50%から98%まで変化さ
せ90℃で4時間作用させた場合に得られた結果を示し
たものである。図8(A)は有機酸を作用させていない
ペプチドを分析した結果を示したものである。図8
(B)はHFBAの濃度を50%とした場合の結果を示
したものであり、以下同様に図8(C)は70%、図8
(D)は90%、図8(E)は98%とした場合の結果
を示したものである。試料として配列番号3のオクタペ
プチドを用いた。
【図9】配列番号4のトリコサペプチドにPFPAを2
時間作用させた場合の反応混合物をESI−MSを用い
て分析した結果を示すマススペクトログラムである。
【図10】分析で得られたデータをまとめたものであ
る。
【図11】配列番号1のヘキサペプチドにPFPAを含
む蒸気をそれぞれ4時間(図11(B))、および24
時間(図11(C))作用させた反応混合物をアミノ酸
分析装置によって分析した結果を示したものである。図
11(A)は有機酸を作用させていないペプチドを分析
した結果を示したものである。
【符号の説明】
1 タンパク質またはペプチド 3 有機酸の水溶液 5 還元剤
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−77854(JP,A) 特開 平3−160370(JP,A) 特開 平1−235600(JP,A) 特開 昭63−91564(JP,A) 特開 昭56−125669(JP,A)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 タンパク質あるいはペプチドに、一般式
    CF3−(CF2n−COOHでnが0以上の整数で表
    わされる有機酸と水を含む蒸気を作用させることを特徴
    とするタンパク質あるいはペプチドのカルボキシ末端か
    らのアミノ酸配列を決定する方法。
  2. 【請求項2】 前記タンパク質あるいはペプチドに作用
    させる前記有機酸と水を含む蒸気は、前記有機酸の50
    −98%水溶液を気化させたものであることを特徴とす
    る請求項1記載のタンパク質あるいはペプチドのカルボ
    キシ末端からのアミノ酸配列を決定する方法。
  3. 【請求項3】 前記タンパク質あるいはペプチドに前記
    有機酸を作用させた反応混合物を質量分析装置にかける
    ことにより質量スペクトルを得て、反応混合物に含まれ
    る各化学種の質量を測定することを特徴とする請求項1
    記載のタンパク質あるいはペプチドのカルボキシ末端か
    らのアミノ酸配列を決定する方法。
  4. 【請求項4】 前記タンパク質あるいはペプチドに前記
    有機酸を作用させた反応混合物をアミノ酸分析装置にか
    けることにより、反応混合物に含まれる各化学種を測定
    することを特徴とする請求項1記載のタンパク質あるい
    はペプチドのカルボキシ末端からのアミノ酸配列を決定
    する方法。
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