JP2647807B2 - α−サイアロン質焼結体およびその製造方法 - Google Patents

α−サイアロン質焼結体およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、α−サイアロン質焼
結体とその製造方法に関するものである。さらに詳しく
は、この発明は、精密機械部品、メカニカルシール、切
削工具、エンジン部品等の分野に有用な、耐食・耐摩擦
性α−サイアロン質焼結体とその製造方法に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術とその課題】セラミックスは、常温に限ら
ず広い温度環境において、高強度、高硬度等が実現でき
るという、他の材料にはない優れた性質を持っている。
特にα−サイアロン質焼結体は、硬度や非鉄金属に対す
る耐食性が良好であることが知られている。また、α−
サイアロンは、α−窒化ケイ素の固溶体であり、一般式
x (Si,Al)12(O,N)16で示される。そし
て、窒化ケイ素は、高温でβ型構造が安定であるが、窒
化ケイ素−窒化アルミニウム−金属酸化物(金属:C
a、Mg、Y、ランタニド金属)系の特定範囲で、低温
安定のα型に安定化されたα−サイアロンとなる。つま
り、原料の一部が高温で反応して液相を生成し、それに
他の原料が溶解し、α−サイアロン粒子となって析出す
る。この過程で液相は粒内に溶解していくので、その量
は減少する。なお、上記の一般式では窒化アルミニウム
からのアルミニウムはSi位置に置換型固溶し、また金
属酸化物からの酸素はN位置に置換型固溶することを示
している。また、金属(M)は、α型窒化ケイ素構造の
格子間に侵入型固溶する。
【0003】従来、サイアロン焼結体については、大き
く分けて、1)α−サイアロン単相焼結体と、2)α−
サイアロンとβ−窒化ケイ素からなる複合焼結体と、
3)α−サイアロンとβ−サイアロンからなる複合焼結
体の、3種類のものが開発されている。このうちの1つ
α−サイアロン単相焼結体は焼結中に液相量が減少する
ため、通常の焼結によっては高密度に達するのが困難で
あり、ホットプレスや熱間静水圧プレス(HIP)等の
方法によって焼結される。
【0004】これに対して、2)α−サイアロンとβ−
窒化ケイ素からなる複合焼結体やα−サイアロンとβ−
サイアロンからなる複合焼結体は、焼結が容易である。
特に後者は中間における液相量が多く、常圧焼結で容易
に高密度とすることができる。そして、この複合焼結体
においては、α−サイアロン粒子は高硬度であり、β−
窒化ケイ素やβ−サイアロン粒子は柱状に成長し焼結体
の強度や破壊靱性を向上させる。これらのことから、こ
の複合焼結体では、α粒子とβ粒子の相対的な量比によ
って機械的性質の制御が可能であり、同じ系統の材料で
各種の応用に対応できるという利点もある。
【0005】しかしながら、このような特徴にもかかわ
らず、高硬度なα−サイアロン粒子を主成分とし、かつ
常圧焼結で容易に製造できる焼結体は実際には製造が難
しく、いまだ実現されていないのが実情であった。そこ
でこの発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたもの
であり、高硬度なα−サイアロン粒子を主成分とし、か
つ常圧焼結で容易に製造できるα−サイアロン質焼結体
およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題
を解決するために、一般式Yx (Si,Al)12(O,
N)16で表わされるα−サイアロンにおいて、式中のx
が0.35以上0.60以下の範囲内であるα−サイア
ロン粒子が60重量%以上97重量%未満と、Al2
3 −Y2 3 系からなり、Al2 3 /Y2 3 のモル
比が5/7以上5/3以下の範囲である粒界相が3重量
%以上40重量%未満からなることを特徴とするα−サ
イアロン質焼結体(請求項1)を提供する。そしてま
た、この発明は、上記の焼結体において、粒界相がガラ
スであり、その粒界相が連続し、α−サイアロン粒子が
孤立している微細組織を持つα−サイアロン質焼結体
(請求項2)や、粒界相が結晶質のイットリウム・アル
ミニウム・ガーネット(YAG)であり、α−サイアロ
ン粒子が連続し、YAG粒子が孤立した微細構造をもつ
α−サイアロン質焼結体(請求項3)も提供する。
【0007】また、この発明は、一般式Yx (Si,A
l)12(O,N)16においてxが0.35以上0.60
以下の範囲内に相当する窒化ケイ素−窒化アルミニウム
−イットリア系混合物60重量%以上97重量%未満
と、所定のモル比のAl2 3−Y2 3 系粉末3重量
%以上40重量%未満を混合、形成し、窒素中で165
0〜1900℃に加熱してα−サイアロン粒子とガラス
とからなるα−サイアロン質焼結体の製造方法、また
は、α−サイアロン粒子とガラスとからなる焼結体とす
ることを特徴とする上記のα−サイアロン質焼結体の製
造方法(請求項4)、さらには、この焼結体を、140
0〜1600℃にアニールし、ガラスをYAGに結晶化
することを特徴とするα−サイアロン質焼結体の製造方
法をも提供する。
【0008】
【作用】α−サイアロンはSi3 4 −AlN−Y2
3 の特定組成範囲で、低温安定のα型構造が安定化され
たものである。この発明の発明者は、このα−サイアロ
ンの組成の中のイットリウムに着目し、イットリウムで
安定化させるα−サイアロン質焼結体とその製造方法に
ついて検討した。
【0009】まず明らかなことは、イットリア(Y2
3 )で安定化する場合にはAlN/Y2 3 のモル比は
9/1である。そして、その固溶範囲は一般式のxで
0.3〜0.8の範囲である。原料組成からわかるよう
にα−サイアロンは窒素含有率の高く、酸素含有量の低
い固溶体である。従って、α−サイアロンに余分の酸化
物を加えてα−サイアロン粒子と酸化物粒界相からなる
焼結体を製造しようとすると、α−サイアロンと酸化物
が反応してβ−サイアロンとなる。これが従来α−サイ
アロンとβ−サイアロンからなる複合焼結体が容易に製
造される理由である。そこで、この発明者は、β−サイ
アロンを生成しない酸化物系を検討し、Al2 3 /Y
2 3 比の特定範囲であれば、α−サイアロンと酸化物
が安定に共存することを見出した。
【0010】詳しく説明すると、α−サイアロン粒子を
主成分とする焼結体を得るためには、一般式Yx (S
i,Al)12(O,N)16においてxが0.35以上
0.60以下の範囲内としなければならない。なぜなら
ば、上記の一般式において、xが0.35未満であれば
β−サイアロンが常に共存し、また、xが0.60をこ
えるとAlNポリタイプ(長周期固溶体)や他の酸窒化
物が共存してしまうためである。また、α−サイアロン
粒子は、60重量%以上97重量%未満、粒界相3重量
%以上40重量%未満とする。これは、前記の範囲内よ
り粒界相の量が少ないと、焼結性が低く容易に高密度焼
結体を製造することができない。前記の量以上に粒界相
の量が多いと焼結体の特性が損なわれるからである。こ
こで最も望ましい粒界相の量は、5重量%以上20重量
%以下である。粒界相のAl2 3 −Y2 3 系におい
て、Al2 3 /Y2 3 のモル比は5/7以上5/3
以下の範囲である。望ましくは、4/3以上5/3以下
である。もし、Al2 3 /Y2 3 の比が5/7未満
であれば、β−サイアロンが共存し、5/3を越えれば
イットリュウムケイ素酸化物が生成し焼結性が低下する
ことになる。
【0011】また、高温で製造した焼結体中の粒界相は
ガラスであり、その微細組織を観察すると粒界相が連続
し、α−サイアロン粒子が孤立している。これは、高温
における粒子とガラス(高温では液相状態である)の接
触角が低いため、液相が粒界に侵入しているためであ
る。この焼結体を1400〜1600℃の低温でアニー
ルすると、粒界のガラスがYAGとして結晶化する。そ
れと同時に微細組織が変わり、α−サイアロン粒子が連
続しYAG粒子が孤立する。これは、α−サイアロン粒
子とYAG粒子の接触角が増大し、α−サイアロン粒子
間からYAGが排除されるからである。
【0012】この発明の焼結体を製造するには、出発原
料として、一般式Yx (Si,Al)12(O,N)16
おいてxが0.35以上0.60以下の範囲内に相当す
る窒化ケイ素−窒化アルミニウム−イットリア系混合物
60重量%以上97重量%未満と所定のモル比のAl2
3 −Y2 3 系粉末3重量%以上40重量%未満を用
いる。具体的には、前記の範囲内で計算した窒化ケイ素
−窒化アルミニウム−イットリア−アルミナの混合粉末
を秤量する。その混合物を窒化物の酸化を防ぐ目的で有
機溶媒を分散媒とし、ボールミル等の一般的な方法で混
合する。混合後乾燥し、所定量の混合物を形成する。成
形は金型プレス、ラバープレス、射出成形、泥しょう鋳
込み等を用いる。成形体を窒素中で1650〜1900
℃に30分〜4時間加熱すると、相対密度95%以上の
高密度のα−サイアロン粒子とガラスからなるα−サイ
アロン質焼結体となる。一般には、低温ほど長時間焼結
するが、前記の温度または時間の範囲より低温または短
時間であれば高密度焼結体は得られない。また、前記の
温度または時間の範囲より高温または長時間であれば焼
結体の表面は熱分解し、強度が低下する。ここで、最も
望ましい条件は、温度が1750〜1850℃、時間が
1〜2時間である。1800℃以上の高温の場合は加圧
窒素中で焼結すると、表面の熱分解を抑制できるので良
好な結果が得られる。その焼結体を1400〜1600
℃にアニールすると、ガラスは完全にYAGとして結晶
化してα−サイアロン粒子とYAGからなるα−サイア
ロン質焼結体が製造できる。1400℃より低温であれ
ば結晶化に長時間を要し、1600℃より高温であれば
完全に結晶化しない。ここで、結晶化処理の望ましい時
間の範囲は、2〜10時間である。
【0013】以下、実施例を示しさらに詳しくこの発明
について説明する。
【0014】
【実施例】実施例1 窒化ケイ素粉末(宇部興産製、SN−E10タイプ)7
4.16重量%、窒化アルミニウム(トクヤマ製、Fタ
イプ)9.82重量%、イットリア(信越化学製、純度
99.9%)11.22重量%およびアルミナ(住友化
学製、AKP−20タイプ)4.79重量%の混合物約
20gを窒化ケイ素焼結体の遊星型ボールミルに入れ、
ヘキサンを分散媒として2時間混合した。混合物を乾燥
後、約2gを秤量し金型プレスで20MPaの圧力下で
直径15mmのペレットを作成した。これをさらに20
0MPaのラバープレスで静水圧をかけ、成形体とし
た。この成形体を黒鉛製のサセプター内に置いた窒化ホ
ウ素製のルツボに入れ、高周波加熱を行った。雰囲気は
1気圧の窒素とし、1750℃で2時間加熱した。
【0015】焼結体の密度は、重量と寸法から3.30
g/cm3 と決定した。相対密度は98.0%であっ
た。粉砕した試料のX線回折から結晶質組成は一般式で
x=0.35に相当するα−サイアロンであり、少量の
メリライト相(Si3 4 ・Y2 3 )を含んでいるこ
とがわかった。固溶量(一般式中のxの値)はα−サイ
アロンの格子定数を決定して行った。試料を透過型電子
顕微鏡で観察すると、ガラス相は連続的に存在し、α−
サイアロン粒子は非連続であった。このようにして、α
−サイアロン粒子とガラスからなる焼結体が得られた。
画像解析で測定したα−サイアロン粒子とガラスの相対
的な量(体積%)と比重から、ガラスの量は9.8重量
%と決定した。実施例2 実施例1と同じ粉末の原料を、窒化ケイ素62.17重
量%、窒化アルミニウム11.06重量%、イットリア
(信越化学製、純度99.9%)18.18重量%およ
びアルミナ(住友化学製、AKP−20タイプ)8.5
9重量%に約20g秤量し、実施例1と同様の方法で混
合、成形、焼結を行った。焼結は5気圧の窒素中で18
00℃で1時間加熱して行った。相対密度は99.5重
量%であり、結晶相はα−サイアロン(x=0.45)
と少量のメリライト相であった。諸量を研磨後、走査型
電子顕微鏡(SEM)で観察すると、図1に示すように
粒界のガラス相は白く連続していることがわかる。実施
例1と同様に決定した粒界の量は19.3重量%であっ
た。分析電子顕微鏡で測定したAl2 3 /Y2 3
モル比は4.9/3であった。実施例3 実施例2と同じ粉末の原料を、窒化ケイ素62.17重
量%、窒化アルミニウム11.06重量%、イットリア
(信越化学製、純度99.9%)18.18重量%およ
びアルミナ(住友化学製、AKP−20タイプ)8.5
9重量%に約20g秤量し、実施例2と同様の方法で混
合、成形、焼結を行った。焼結は5気圧の窒素中で18
00℃で1時間加熱して行った。相対密度は99.5重
量%であり、結晶相はα−サイアロン(x=0.45)
と少量のメリライト相であった。焼結後、1500℃に
温度を下げ、4時間それを保ってアニールを行った。相
対密度は99.9%に上昇し、X線回折によりα−サイ
アロン(x=0.43)とYAGおよびごく少量のK相
(Y2 3 ・Si2 2 O)が結晶相であることがわか
った。実施例2と同様に観察した微細組織は図2に示
す。YAG粒子が孤立し、α−サイアロン粒子は連続し
ている。実施例2のように決定したYAG相の量は1
7.6重量%となった。
【0016】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明によ
って、高硬度なα−サイアロン粒子を主成分とし、Al
2 3 −Y2 3 系の粒界相とからなる常圧焼結容易な
α−サイアロン質焼結体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例によるα−サイアロンとガラ
スからなる焼結体の組織を示した図面に代わる走査型電
子顕微鏡写真である。
【図2】この発明の実施例によるα−サイアロンとYA
Gからなる焼結体の組織を示した図面に代わる走査型電
子顕微鏡写真である。

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 一般式Yx (Si,Al)12(O,N)
    16で表てわされるα−サイアロンにおいて、式中のxが
    0.35以上0.60以下の範囲内であるα−サイアロ
    ン粒子が60重量%以上97重量%未満と、Al2 3
    −Y2 3 系からなり、Al2 3 /Y2 3 のモル比
    が5/7以上5/3以下の範囲である粒界相が3重量%
    以上40重量%未満からなることを特徴とするα−サイ
    アロン質焼結体。
  2. 【請求項2】 粒界相がガラスであり、その粒界相が連
    続してα−サイアロン粒子が孤立している微細組織を持
    つ請求項1記載のα−サイアロン質焼結体。
  3. 【請求項3】 粒界相が結晶質のイットリウム・アルミ
    ニウム・ガーネット(YAG)であり、α−サイアロン
    粒子が連続し、YAG粒子が孤立した微細組織をもつ請
    求項1記載のα−サイアロン質焼結体。
  4. 【請求項4】 一般式Yx (Si,Al)12(O,N)
    16においてxが0.35以上0.60以下の範囲内に相
    当する窒化ケイ素−窒化アルミニウム−イットリア系混
    合物60重量%以上97重量%未満と、所定のモル比の
    Al2 3 −Y2 3 系粉末3重量%以上40重量%未
    満を混合および形成し、窒素雰囲気中で1650〜19
    00℃に加熱してα−サイアロン粒子とガラスとからな
    る焼結体とすることを特徴とする請求項1または2記載
    のα−サイアロン質焼結体の製造方法。
  5. 【請求項5】 α−サイアロン粒子とガラスとからなる
    焼結体を1400〜1600℃にアニールし、ガラスを
    イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)に
    結晶化することを特徴とする請求項1または3記載のα
    −サイアロン質焼結体の製造方法。
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