JP2545739B2 - 酵母が産生する抗菌性物質を含む食品保存料の製造方法 - Google Patents

酵母が産生する抗菌性物質を含む食品保存料の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は酵母の増殖に必要な栄養
素、無機塩類と炭素源としてグルコースを含む同一培地
で酵母を2回以上増殖させることによって、その増殖過
程で産生する抗菌性物質を含む食品保存料の製造方法に
関するものであり、食品に対して有害な細菌の増殖を阻
害する食品保存料として有用な抗菌性物質を酵母から産
生させる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】食品の腐敗、変質には多くの微生物が関
与しており、その防止には、これらの微生物を殺菌する
か、あるいは増殖を抑制する方法が用いられている。殺
菌は加熱、放射線・電子線照射、殺菌作用を持つ化学合
成物質の添加等によって行われるが、食料品に対するこ
れらの方法は変質あるいは人体に対する有害性から必ず
しも適しているとはいえない。微生物の増殖を抑制する
抗菌性物質は化学合成物質,植物から抽出される物質・
成分、微生物が産生する物質・成分等多くのものが知ら
れている。植物から抽出される抗菌性物質・成分は、最
近の報告ではグラム陽性菌に対する抗菌作用を有するブ
ナ科植物のクヌギ葉抽出物(細野ら、日本農芸化学会
誌、64巻、3号、540ページ、1990年)、大腸
菌と枯草菌に対して抗菌作用を有する大根から抽出した
芥子油(宇田ら、日本農芸化学誌、64巻、3号、54
0ページ、1990年)、孟宋竹から単離した 2,6-ジ
メトキシ-p-ベンゾキノン(仁科ら、日本農芸化学会
誌、64巻、3号、540ページ、1990年)があ
る。
【0003】微生物が産生する抗菌性物質として、よく
知られているものに、チーズから分離された特殊な乳酸
菌が産生するナイシン(nisin)がある(例えば、J.Del
ves-Broutghton,Journal of the Society of Dairy Tec
hnology, Vol.43,No.3,P.73-76(1990))。このナイシン
はペプチドであり、グラム陽性菌に対して抗菌性を示す
といわれ、欧州では実際に食品保存料として使用されて
いる。さらに、ぬか床や下水道から分離した乳酸菌はナ
イシンと類似の構造を持つペプチドを産生し、このペプ
チドもまた抗菌性を示すことが知られている(例えば、
石崎ら、日本農芸化学会誌、63巻、3号、535ペー
ジ、1989年、熊井ら、日本農芸化学会誌、66巻、
3号、384ページ、1992年)。
【0004】一方、酵母による食品保存法が開発されて
いる。この方法は酵母と栄養素をゼリー状とし、食品と
共に密閉状態で保存するもので、抗菌作用の発現は酵母
の発酵に伴って生成するエタノールと炭酸ガスによるも
のである(例えば、末永、福岡県工業技術センター研究
成果発表会要旨集、25ページ、1993年)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】抗菌作用を示す化学合
成物質は多量に、かつ、安価に製造することが可能であ
り、しかも多くの微生物に対して有効に作用する利点が
あるが、人体に対する安全性の観点からは必ずしも適し
ているとはいえない。この点、植物や微生物から得られ
る物質・成分は特殊なものを除いて安全なものが多く、
しかも時間の経過と共に、自然環境下で分解され、生態
系に与える影響も少ないことが知られている。ナイシン
およびその類似物質であるペプチドを産生する乳酸菌は
特殊な菌であり、かつ、これはグラム陽性菌に対しての
み抗菌作用を示すものである。食品の腐敗、変質に関与
する微生物は必ずしもグラム陽性菌だけではないことは
よく知られていることであり、ナイシンおよびその類似
物質は十分な食品保存料とはいえない。しかしながら、
乳酸菌から産生する物質であるから、化学合成物質と比
較して、人体に対して無害であると考えられ、安全性の
高い食品保存料であるといえる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らも上記のナイ
シンのような人体に対して無害な抗菌性物質を微生物か
ら産生させ、これを食品保存料として使用することは極
めて重要であるとの認識を持つに至った。このような認
識に基づいて、抗菌性物質を産生する微生物を探索した
結果、酵母が抗菌性物質を産生することを見いだした。
すなわち、酵母の培養に用いられる培地を繰り返し使用
して酵母を培養すると、繰り返し回数の増加と共に酵母
の増殖量が低下し、ついには全く増殖しなくなる現象が
認められた。さらに、酵母が全く増殖しない培地を活性
炭で処理すると、酵母が再び増殖する現象も認められた
(第19回炭素材料学会年会要旨集、2C12、202
ページ、1992年)。これらの現象は酵母がその増殖
過程で抗菌性物質を産生すること、および産生した抗菌
性物質は活性炭によって培地中から吸着、除去されたた
めではないかと考え、鋭意研究した結果、本発明をなす
に至った。
【0007】したがって、本発明の目的は酵母という古
くから発酵食品、製パン等に広く用いられ、かつ、培養
が比較的容易な微生物を用い、多くの細菌類に対して抗
菌効果を持つ抗菌性物質を産生させ、しかも酵母が人体
に対して有害物質を産生しないことに着目した安全な食
品保存料を製造することにある。
【0008】以下、本発明の方法を具体的に述べる。本
発明は酵母の増殖に必要な栄養素、無機塩類と炭素源と
してグルコースを含む培地で酵母を定常期に達するまで
増殖させた後、酵母を除き、必要ならば増殖によって消
費された炭素源のグルコースを補給し、再び酵母を定常
期に達するまで増殖させる繰り返し培養を少なくとも2
回以上行うことによって、抗菌性物質を含有する食品保
存料を製造するものである。
【0009】抗菌性物質を産生する酵母としてはいずれ
の酵母も用いることが出来る。具体的にはサッカロミセ
ス、シゾサッカロミセスおよびキャンディダに属する酵
母であり、さらに具体的にはサッカロミセス セレビジ
(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス ポ
ンベ(Shizosaccharomyces pombe)およびキャンディダシ
ェハーテ(Candida shehatae)である。
【0010】酵母の培養に用いられる培地は通常の組成
のもので十分である。具体的にはポリペプトンや酵母エ
キスのアミノ酸、ビタミン類の栄養素と硫酸マグネシウ
ムやリン酸カリウム等の無機塩類を含む水溶液に炭素源
としてグルコースを2〜10重量%添加したものであ
る。
【0011】この培地を滅菌処理した後、酵母を少量接
種し、20〜35℃で好気的条件下で培養し、増殖させ
る。培養温度は上記の範囲であって、この温度より高く
ても低くても酵母の増殖速度は低下し、増殖に要する時
間が長くなる。好気的条件は無菌の酸素雰囲気あるいは
酸素を積極的に培地中に吹き込むことによって達成でき
る。培養は対数増殖期を過ぎ、定常期に達した段階まで
行う。もし、対数増殖期の途中で培養を停止した場合、
抗菌性物質の産生量が少なく、酵母の繰り返し培養回数
を多くしないと抗菌性を示す濃度にまで達せず、結果的
に長時間を要することになる。また,定常期に達した
後、長時間培養を行っても、酵母は増殖せず、抗菌性物
質の産生量も増加しない。そのため、最適条件としては
対数増殖期を過ぎた直後で培養を停止することである。
この条件は酵母の種類、培地組成、温度および好気的条
件で変わるので、実験によって決める必要がある。
【0012】このようにして、酵母を増殖させた培地か
ら酵母を除去する。酵母の除去はろ過あるいは遠心分離
で容易に行うことが出来る。酵母を除去した培地に必要
ならば増殖によって消費されたグルコース量を加えると
共に滅菌処理した後、少量の酵母を接種し、再び定常期
に達するまで培養する。これをろ過あるいは遠心分離に
よって酵母を除去して培地を得る。
【0013】以上のようにして、同一培地で酵母を2回
以上培養し、酵母を除去することによって抗菌性物質が
蓄積した水溶液が得られる。この水溶液中の抗菌性物質
が抗菌効果を発現するために十分な量を産生していない
場合にはさらに酵母を培養することが必要があり、その
操作は上記と同様である。
【0014】水溶液中の抗菌性物質が抗菌効果を発現す
る量に達している場合は酵母そのものの増殖が阻害され
るので、その増殖量を調べることによって容易に知るこ
とが出来る。例えば、新鮮な培地中でサッカロミセス
セルビジを用いて、30℃で24時間、振とう培養を行
うと、約3×108個/mlまで増殖する。増殖した酵
母を除去した培地で、再び同じ条件で培養すると、約5
×107個/mlと増殖量は10分の1に低下し、さら
に、酵母を除去した培地で同じ条件で培養すると、この
培地では酵母は全く増殖しないのである。この培地中に
は酵母の増殖を阻害する物質、すなわち、抗菌性物質が
酵母によって産生され、蓄積されているためであって、
酵母のみならず他の微生物の増殖も阻害するに十分な抗
菌性物質を産生していることを示しているのである。
【0015】以上のようにして、酵母の増殖に必要な栄
養素と無機塩類を含む新鮮培地で酵母を繰り返し培養
し、酵母が全く増殖しなくなるまで培養することによっ
て得られた水溶液は微生物の増殖を抑制する作用、すな
わち、抗菌作用を有する。しかし、殺菌作用はない。し
かし、大腸菌に代表されるグラム陰性菌および枯草菌に
代表されるグラム陽性菌の両方に対して抗菌作用を示
し、しかもそのときの水素イオン濃度(pH)の範囲も
約3〜7と微生物の増殖に至適なpH領域をカバーして
いるのである。
【0016】この水溶液に含有する抗菌性物質は特定す
る段階にまで至っていない。酵母の増殖に必要な栄養素
と無機塩類を含む新鮮培地で酵母を培養した場合、新鮮
培地では認められなかった紫外吸収スペクトルの極大吸
収波長280nmに吸収が認められるようになり、この
吸収強度は繰り返し培養回数が増すにしたがって強くな
る。そして、活性炭を加え、吸着処理を行った水溶液を
培地として微生物を培養すると、再び増殖するようにな
ると共に、280nmの吸収強度は低下する。280n
mに極大吸収強度を持つ成分はタンパク質を構成するチ
ロシンおよびトリプトファン残基の側鎖に由来するもの
であることが知られており、さらに、電気泳動法で分析
すると、新鮮培地では認められない分子量が約80キロ
ダルトン(KDa)のタンパク質に相当する成分が検出
される。これらのことから、現在のところ、このタンパ
ク質が抗菌性物質ではないかと推定している。なお、こ
の水溶液はpHを3〜7と変化させて長時間放置しても
白濁、すなわち、タンパク質が沈澱することはない。
【0017】以上、述べたように、酵母の増殖過程で抗
菌性物質を産生し、それがグラム陰性菌およびグラム陽
性菌の両方に対して抗菌性を示すことは従来、全く知ら
れていなかったことであり、しかも、この抗菌性物質は
人体に対して有害物質を産生することが報告されていな
い酵母から産生するので、人体に対して無害であると考
えられ、したがって、食品保存料としては最適といえ
る。この水溶液を食品保存料として使用するためには食
品に塗付するか、または添加して用いる。また、煮沸程
度の加熱処理では抗菌効果が失われることはない。
【0018】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく
説明する。なお、以下の実施例において、すべての菌は
保存中の菌をスラントから採取し、培養した直後のもの
を用いた。
【0019】実施例1 日本酒を製造したときの酒粕から分離、培養したもの
で、種々の試験からサッカロミセス セレビジと考えら
れる酵母を用いた。培地としてはグルコース10重量
%,ポリペプトン0.5重量%,酵母エキス0.2重量
%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシ
ウム0.05重量%の水溶液を用いた。以下、これを1
回目培地とする。500mlの培養瓶に培地100ml
を入れ、オートクレーヴで滅菌処理(121℃、20分
間)した後、酵母を3.7×104(個/ml)となる
ように接種し、30℃の恒温下で24時間振とう培養を
行った。培養後の酵母数は3.0×108(個/ml)
であった。ついで、メンブランフィルター(孔径0.2
0μm)で減圧ろ過して酵母を除いた培地を得た。以
下、これを2回目培地とする。
【0020】2回目培地中のグルコース量を測定する
と、6.2重量%であったので、グルコースを10重量
%になるように添加し、滅菌後、酵母を3.7×104
(個/ml)となるように接種し、30℃の恒温下で2
4時間振とう培養を行った。培養後の酵母数は8.0×
107(個/ml)であった。この液をメンブランフィ
ルター(孔径0.20μm)で減圧ろ過して酵母を除い
た培地を得た。以下、これを3回目培地とする。
【0021】3回目培地中のグルコース量は8.8重量
%、エタノール量は0.8容量%であった。そこで、再
びグルコースを10重量%になるように添加し、滅菌
後、酵母を3.7×104(個/ml)となるように接
種し、30℃の恒温下で24時間振とう培養を行った。
培養後の酵母数は4.0×104(個/ml)であり、
酵母は増殖しなかった。このように、酵母を2回繰り返
し培養した3回目培地では酵母が増殖しないことが分っ
た。
【0022】上記のように、同一培地で酵母の繰り返し
培養を行う際、各回数毎に消費されたグルコースを補給
した場合、最終的に得られる培地中の残存グルコース量
が多くなり、酵母以外の細菌類の増殖を阻害する恐れが
あると考えられた。そこで、1回目の新鮮培地中のグル
コース量を5重量%とし、上記と同様にして酵母を培養
し、酵母を除去した。この2回目培地中のグルコース量
は0.1重量%であったので、3.5重量%になるよう
に調製し、再び酵母を培養し、3回目培地を調製した。
この3回目培地中のグルコース量は2.8重量%であ
り、エタノール量は0.8容量%であった。この3回目
培地を用いて次の抗菌性試験を行った。
【0023】抗菌性試験 抗菌性試験はグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia
coli,IFO3301)およびグラム陽性菌である枯草菌(Baci
llus subtilis,JCM1465)の増殖の程度から行った。3
回目培地に1モル/l水酸化ナトリウム水溶液を加えて
pHを3.4、5.0および6.2に調整した。この培
地5mlを試験管に採取し、これに適量の大腸菌および
枯草菌を接種した後、30℃の恒温下で72時間培養し
た。増殖の程度は分光光度計による610nmの吸光度
から調べた。培養時間に対する吸光度の変化を図1に示
す。図1(a)は大腸菌の場合で、図1(b)は枯草菌
の場合である。この図から知られるように、大腸菌、枯
草菌のいずれの場合も培地のpHによらず72時間培養
してもわずかに吸光度の増加、すなわち、実用上からは
無視し得る程度の菌の増殖が認められるに過ぎない。一
方、比較のため、グルコース量を3.5重量%とした1
回目培地で同様にして培養した。その結果、図2に示し
たように、培養時間と共に菌は急激に増殖した。
【0024】
【図1】
【0025】
【図2】
【0026】このように、3回目培地では酵母が増殖し
ないだけでなく、大腸菌、枯草菌共に増殖せず、この培
地は増殖を抑制する十分な抗菌効果あるいは殺菌効果を
持っていることが明らかである。
【0027】殺菌効果 上述の3回目培地による菌が増殖しないことは抗菌効果
あるいは殺菌効果のいずれかを確かめるために、3回目
培地で72時間培養後の少量の培養液をグルコース量が
2重量%の1回目の新鮮培地に接種し、30℃で培養し
た。その結果、大腸菌、枯草菌のいずれも培養時間と共
に吸光度は増加し、菌は増殖した。これから、3回目培
地は殺菌効果を持たないことが分った。つまり、菌の増
殖を抑制する抗菌効果であることが知られた。
【0028】グルコース、エタノール量の影響 酵母はかなり高いグルコース量の培地中でも増殖する
が、大腸菌、枯草菌はグルコース量が高いと抑制される
こと、エタノールは殺菌作用を持ち、3回目培地中には
少量ではあるが、エタノールが存在するので、これらの
量の影響について調べた。1回目の培地にグルコースを
3.5重量%、エタノールを1.0容量%添加した。こ
の培地に大腸菌、枯草菌を少量接種し、30℃で振とう
培養を行った。その結果、培養時間と共に、いずれの菌
の場合も培地は白濁し、菌が増殖した。このことから、
3回目培地中のグルコース、エタノール量では大腸菌、
枯草菌のいずれも増殖を抑制する効果は持たないとい
え、3回目培地による抗菌効果は他の要因によることが
示された。
【0029】抗菌性物質の検討 上述のように、3回目培地による抗菌効果はpH、グル
コースおよびエタノール量によるものではなく、他の要
因、すなわち、酵母の増殖過程で産生される物質による
と考えた。そこで、1回目〜3回目培地の成分分析を行
った。紫外分光光度計による190〜400nmの範囲
で紫外吸収スペクトルを測定すると、1回目培地では約
200nmに最大吸収波長を持つ1つのピークである
が、2回目および3回目培地では280nmに極大吸収
を持つピークが新たに出現し、吸収強度は2回目培地よ
りも3回目培地の方が強くなった。このピークはタンパ
ク質を構成するチロシンおよびトリプトファン残基の側
鎖に由来するといわれている。さらに、電気泳動法によ
って2.5〜200KDaの範囲の分子量分布を調べる
と、1回目培地ではバンドは認められなかったが、2回
目および3回目培地では分子量が66.3〜97.4K
Daの間に1つのバンドが認められた。このように、2
回目および3回目培地には1回目培地では存在しない成
分を含有しており、この成分はタンパク質と推定され、
この成分が3回目培地で認められた菌の抗菌効果に関与
する可能性が大きいと考えられた。
【0030】活性炭処理 3回目培地中から、菌の抗菌効果に関与する可能性の大
きいタンパク質を除去することにより、再び菌の増殖が
予想された。そこで、3回目培地を活性炭で処理した。
3回目培地100mlに市販の石炭系粒状活性炭(平均
粒子径3mm、比表面積760m2/g)を10g添加
し、30分間振とう後、ろ過して活性炭を除いた。この
培地の紫外吸収スペクトルを測定すると、280nmの
吸収強度は非常に弱くなった。
【0031】活性炭処理した培地に適量の酵母、大腸菌
および枯草菌を接種し、30℃で振とう培養した。酵母
では24時間培養後、1×108(個/ml)まで増殖
し、大腸菌、枯草菌では72時間培養後の610nmの
吸光度は0.7と2.2となり、1回目培地の場合と比
較していずれの菌でも増殖量は少ないが、明確に増殖し
た。これから、抗菌性物質は活性炭によって吸着される
ものであることおよび増殖に必要な栄養素、無機塩類は
繰り返し培養によって変質していないことが明らかとな
った。
【0032】実施例2 本実施例は、抗菌性物質が酵母の増殖過程で産生される
ことを調べたものである。実施例1と同様の1回目培地
に同じ酵母を少量接種し、30℃で72時間振とう培養
した。培養後の酵母数は3×108(個/ml)であっ
た。これをろ過して酵母を除去し、2回目培地を得た。
この2回目培地中のグルコース量は4.3重量%,エタ
ノール量は0.8容量%であった。そこで、グルコース
を10重量%になるように添加し、滅菌後、酵母を少量
接種し、30℃で24時間振とう培養した。培養後の酵
母数は4×107(個/ml)であった。これをろ過し
て酵母を除去し、3回目培地を得た。この3回目培地中
のグルコース量は7.6重量%、エタノール量は1.2
容量%、pHは3.5であった。この3回目培地をその
まま滅菌後、少量の酵母を接種し、30℃で24時間培
養したところ、酵母は全く増殖しなかった。このよう
に、1回目培地で長時間培養した2回目培地においても
酵母は増殖することが認められ、酵母が全く増殖しなく
なる培地は実施例1と同様に3回目培地であることが分
った。このことは酵母の増殖過程で抗菌性物質が産生さ
れることを示している。
【0033】実施例3 本実施例は酵母の種類を変えて得た培地の抗菌性を調べ
たものである。グルコース量が5.5重量%以外、実施
例1と同様の組成である1回目培地に酵母としてシゾサ
ッカロミセス ポンベ(Shizosaccharomyces pombe,IFO
0340、以下、ポンベと略記する。)およびキャンディダ
シェハーテ(Candida shehatae,IFO1983、以下、シェ
ハーテと略記する。)を少量接種し、30℃の恒温下で
振とう培養した。培養時間はポンベでは42時間、シェ
ハーテでは27時間である。なお、これらの培養時間は
あらかじめ求めた増殖曲線から定常期に達した時間であ
る。培養後の酵母濃度を分光光度計による610nmの
吸光度から求めると、ポンベで6.0、シェハーテで
6.5であった。これらの培地から遠心沈降法で酵母を
除去し、2回目培地を得た。
【0034】2回目培地中のグルコース量とエタノール
量はポンベでそれぞれ4.9重量%と0.03容量%で
あり、シェハーテではそれぞれ2.6重量%と0.7容
量%であった。この2回目培地に少量の酵母を接種し、
上記と同様にして培養した。酵母濃度を吸光度から求め
ると、ポンベ、シェハーテ共に0.4であり、いずれも
増殖量は少かった。この培地から酵母を除いて、3回目
培地を得た。この培地中のグルコース量とエタノール量
はポンベではそれぞれ2.5重量%と0.8容量%であ
り、シェハーテではそれぞれ4.4重量%と0.03容
量%であった。
【0035】3回目培地を用いて大腸菌および枯草菌の
培養を行い、増殖の程度から抗菌性についての評価を行
った。この培地のpHはポンベからのものではpH3.
9、シェハーテからのものでpH4.7であったので、
1モル/l水酸化ナトリウム水溶液でpH5.2とpH
6.2に調整した後、適量の大腸菌または枯草菌を接種
し、30℃で72時間培養し、分光光度計による610
nmの吸光度から増殖の程度を調べた。図3にポンベか
らの培地の場合を、図4にシェハーテからの培地の場合
を示す。
【0036】
【図3】
【0037】
【図4】
【0038】大腸菌ではポンベからのpH5.2の培地
の場合、48時間までは増殖しないが、それ以上の時間
では増殖した。その他の培地ではいずれも短時間で増殖
し、抗菌効果は認められなかった。これに対して、枯草
菌ではいずれの培地でも72時間までほとんど増殖しな
かった。これから、ポンベ、シェハーテ共にその増殖過
程で産生する抗菌物質はグラム陽性菌に対しては抗菌効
果があるが、グラム陰性菌に対してはポンベからのpH
5.2の培地を除いて、その効果はほとんどないといえ
る。
【0039】
【発明の効果】酵母という一般的で、かつ、培養が容易
な微生物を用い、増殖に必要な栄養素と無機塩類を含む
培地で2回以上繰り返し培養を行う簡単な操作で抗菌効
果に優れた食品保存料を容易に製造することが出来る。
この食品保存料は酵母の種類によってグラム陽性菌とグ
ラム陰性菌のいずれの菌に対して抗菌効果を発現するも
のとグラム陽性菌に対してのみ抗菌効果を発現するもの
があるが、いずれもその効果は顕著である。さらに、酵
母から産生するので安全な食品保存料といえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた抗菌性物質を含む3回目培
地の抗菌効果を示したもので、(a)は大腸菌、(b)
は枯草菌の場合である。
【図2】1回目の培地による大腸菌および枯草菌の増殖
曲線を示したもので、(a)は大腸菌、(b)は枯草菌
の場合である。
【図3】実施例3の酵母(シゾサッカロミセス ポン
ベ)から得られた培地の抗菌効果を示したもので、
(a)は大腸菌、(b)は枯草菌の場合である。
【図4】実施例3の酵母(キャンディダ シェハーテ)
から得られた培地の抗菌効果を示したもので、(a)は
大腸菌、(b)は枯草菌の場合である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C12R 1:72) (C12P 1/02 C12R 1:645)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 酵母の増殖に必要な栄養素、無機塩類と
    炭素源としてグルコースを含む培地で酵母を定常期に達
    するまで増殖させた後、酵母を除去した培地に必要なら
    ば炭素源を加え、再び定常期に達するまで増殖させる繰
    り返し培養を2回以上行って得られた水溶液であること
    を特徴とする酵母が産生する抗菌性物質を含む食品保存
    料の製造方法。
  2. 【請求項2】 酵母がサッカロミセス(Saccharomyce
    s)、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)およびキ
    ャンディダ(Candida)属の酵母であることを特徴とする
    請求項1の酵母が産生する抗菌性物質を含む食品保存料
    の製造方法。
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