JP2545208Z - - Google Patents
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Description
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、動力伝動用歯付ベルト、特に、自動車用エンジンのカム軸駆動用歯
付ベルトに関する。 【0002】 【従来の技術】 歯付ベルトは、抗張体を埋設し、歯ゴム面に歯布が被着されたものである。歯
布は、緯方向の繊維(以下、緯糸という。)と経方向の繊維(以下、経糸という
。)からなり、エラストマーによって固化され、ベルト幅方向に経糸を、ベルト
長手方向にウーリー加工した緯糸を、用いて織成されている。歯付ベルトに利用
される繊維は、衣料用及び産業資材用のポリアミド(ナイロン)繊維である。代
表的な歯付ベルトでは、緯糸及び経糸に衣料用ポリアミド繊維を使用したもの、
緯糸に産業資材用ポリアミド繊維を、経糸に衣料用ポリアミド繊維を使用したも
のがある。 【0003】 このような歯布は、まず、歯付きプーリの歯型に適合する金型の間を通される
。 金型を通過する歯布はその凹凸に倣って緯方向に伸びなければならない。そのた
め、緯糸には、通常、ウーリー加工が施されている。 【0004】 【考案が解決しようとする課題】 歯付ベルトは、例えば、自動車エンジンのカム軸駆動用に使用される。自動車
エンジンの高性能化が進むにつれ、歯付ベルトにも環境温度の上昇への対応や高
負荷化への対応が迫られている。特に、歯欠けに対する耐久性が重要である。こ
の歯欠けについては、歯布の浮き上がりと歯布の切断が関与していると考えられ
る。 【0005】 歯布の浮き上がりとは図2に示される現象で、その要因としては、過大負荷、
歯ゴム剛性不足、歯布接着不良及び歯布の伸び残不足が考えられる。22は抗張
体、24は歯ゴム、26は歯布である。また、歯布の切断とは図3に示される現
象で、その要因としては、負荷の一点集中及び歯布26のフィラメントの強さ不
足が考えられる。 【0006】 本考案の目的は、歯布の構成を改良することによって、歯付ベルトの歯欠け寿
命を長くすることである。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本考案は、抗張体を埋設し、ベルト幅方向に経糸を、ベルト長手方向に、硫酸
相対粘度が3以上のポリアミド繊維で、その単繊維の繊度が5〜10d/fであ
る、マルチフィラメント糸をウーリー加工した糸からなる緯糸を、用いて織成し
た歯布を歯ゴム面に被着した歯付ベルトにおいて、 被着成形前の前記歯布がベルト長手方向の1kgf/cmの引張力に対して70%以
上の伸び率を有するとともに、該伸び率と切断強度kgf/3cmとの積が16,00
0以上の値を有し、且つ該歯布にイソシアネート含有ゴム糊および/またはレゾ
ルシン・ホルマリン・ラテックスの混合液を含浸させた歯付ベルトにより、前記
課題を解決した。 【0008】 【作用】 現在一般に使用されている歯付きプーリの歯形状によると、歯布は被着成形時
に約50〜60%伸びることになる。これによって、歯布は緯方向の伸びの能力
を一部失うことになる。もし、伸びの能力を全て奪われた歯布があると仮定する
と、歯付ベルトに負荷が作用して歯が変形したとき、歯布は歯底において歯ゴム
から浮き上がり現象を生じる。従って、歯付ベルトの被着成形後においても、歯
布に伸びの能力を残しておく必要があり、伸び率は、歯布の被着成形前を基準に
して少なくとも10%以上残すことが必要である。 【0009】 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の歯布の伸び率を70%以上としたの
は、歯布を歯付ベルトに被着成形した後に少なくとも10%の伸び率残を確保す
るためである。こうすることにより、歯変形時においても歯布は伸びることがで
き、歯布の伸び残不足による歯布の浮き上がりが防止できるとともに、歯布の緯
糸方向の引っ張り応力をも低減することができるのである。 【0010】 なお、伸びの値は、1kgf/cmで引っ張られたときの値であり、歯布の切断時の
値ではない。これは、歯布が僅かな力で伸びることができれば、それだけで歯布
の浮き上がりを防止できるからである。 【0011】 また、歯欠には、切断時における緯糸方向の歯布の引っ張り強さも大きく関与
している。伸びの能力を残すことにより、歯布に作用する引っ張り応力が低くな
ることは前述の通りであるが、歯布の切断については、歯布の引っ張り強さも関
係してくる。本考案では、伸びの能力が残っており、しかも切断時の歯布の引っ
張り強さが大きければ、歯付ベルトに良好な耐久性を与えることができることを
見出し、従って、緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布の切断時の強さ(kgf
/3cm)との積を16,000以上の値としたのである。すなわち、伸びを確保し
て歯布に作用する引っ張り応力を低減し、且つ、切断時の歯布の引っ張り強さを
向上させることによって、歯付ベルトの耐久性を高めることができるのである。 【0012】 【実施例】 以下、具体的に本考案による歯付ベルトを説明する。歯付ベルト10は、図1
に示されるように、抗張体12を埋設し、歯ゴム14に歯布16が被着成形され
たものである。歯付ベルトには、歯がベルトの表裏両面に形成され、表裏の歯に
歯布が夫々被着されたものもある。本考案による歯付ベルト10は、歯布16の
材質及びその構成に特徴があり、これにより、衝撃耐久性及び摩擦耐久性を向上
させたものである。 【0013】 歯布の緯糸及び経糸は、ポリアミド(ナイロン66)であり、次の構成を有す
るものである。この実施例の以下の記載中、「単繊維の繊度(d):5〜10」
との記載は、「単繊維(すなわち、モノフィラメント)の繊度(d)は5〜10
(d/f)」ということを意味するものであり、「単繊維の繊度(d):6」と
の記載は、「単繊維(すなわち、モノフィラメント)の繊度(d)は6(d/f
)」ということを意味するものであり、また、「原糸デニール×本数:210×
3」との記載は、「原糸のマルチフィラメント糸のデニールが210d(=6d
/f×35f)であり、このマルチフィラメント糸を3本合わせる」ということ
を意味するものである。 【0014】 (1) 硫酸相対粘度 : 3以上 (2) 単繊維の繊度(d) : 5 〜10 (3) 単繊維の強さ(g/d) : 8 〜12 【0015】 好ましくは、緯糸及び経糸は以下の構成を有するものである。 緯糸の構成 (1) 硫酸相対粘度 : 3以上 (2) 単繊維の繊度(d) : 6 (3) 単繊維の強さ(g/d) : 9.5 (4) 原糸デニール×本数 : 210×3 (5) 密度(本/5cm) : 116〜127 経糸の構成 (1) 硫酸相対粘度 : 3 (2) 単繊維の繊度(d) : 6 (3) 単繊維の強さ(g/) : 9.5 (4) 原糸デニール×本数 : 210×2 (5) 密度(本/5cm) : 105〜122 【0016】 歯布は、上記緯糸及び経糸を使用して、イソシアネートを含有したゴム糊およ
び/またはRFL(レゾルシノールとホルマリンを反応させて得られるRF樹脂
の水溶液にラテックスを混合した溶液)等を含浸させて得られる。また、RFL
を含浸させた後、ゴム糊を被覆する場合もある。 【0017】 そして、歯布は、被着成形前に、以下の数値を有するものである。 (6) 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の伸び(率):70%以上 (7) 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の伸び率(%) と緯糸方向の切断強度(kgf/3cm)の積: 16000以上 (8) 経糸と緯糸の総デニール比: 1:1.4以上 【0018】 歯付ベルトは、上記構成の歯布をベルト歯の形状を有する金型に巻付け、その
上に抗張体を巻付け、さらにその上に歯ゴム及び背ゴムとなる未加硫ゴム配合シ
ートを巻付け、加圧下で成形加硫した後、一定の幅に裁断して環状の歯付ベルト
に成形される。 【0019】 抗張体は、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維等を撚糸し、RFLを必要に
応じて含浸させた心線の表面にゴム糊等をオーバーコーティングしたものである
。また、歯ゴム及び背ゴムには、CR、NBR、HSN、BR、EPDM、EP
R、CSM、エピクロルヒドリンゴム、ウレタン等の単一又は混合物からなるゴ
ムが利用できる。 【0020】 本考案の歯付ベルトは以上の構成であるが、歯布における各数値は以下の意味
を有する。 【0021】 糸の硫酸相対粘度が3未満になると、ポリアミドの重合度が低くなり、歯布の
耐摩耗性と強度とが低下するので、歯欠け寿命が短くなる。 【0022】 単繊維の繊度は、フィラメントの強度、伸びと応力の関係の双方に関与する。
すなわち、繊度が低い場合、フィラメント切れが発生しやすく、歯布の切断につ
ながる。一方、繊度が高いと伸びの増加に対する応力の増加が著しく、歯の変形
時において歯布の伸びが劣る。 【0023】 単繊維の強さが8g/d未満であると、歯付ベルトに衝撃的な剪断力が作用した
ときに歯布の切断が生じやすくなる。単繊維の強さが12g/dを越えると、曲げ剛
性が高くなり、従って歯布が引っ張られたときの応力上昇が著しくなり、1kgf/
cmの力で引っ張られたときの伸びの能力を損わせる。 【0024】 原糸デニール×本数と密度は、現在使用されている歯付ベルトのP.L.D.
(Pitch Line Deferential)を考慮して定められている。 【0025】 被着成形前の歯布を1kgf/cmで引っ張ったときの伸び率を70%以上としたの
は、歯布が成形後において歯付ベルトに被着成形された後においても、少なくと
も10%の伸びの能力を残すためである。これは、現在使用されている歯付プー
リの歯形状を考慮したとき、歯布は被着成形時に50〜60%の伸びを失うこと
に基づく。1kgf/cmの比較的小さい力は、初期伸びを考慮したためであり、歯布
は僅かな力で伸びが生じることを意味する。 【0026】 歯布は、伸びの能力が残っていると、歯ゴムが変形したときに歯ゴムに沿って
伸び、これにより歯布は歯ゴムからの浮き上がりが防止される。また、歯が変形 したときにも、歯布は応力の増加を抑えられ、歯ゴムの変形によって直ちに引っ
張り強さの上限に達することがない。 【0027】 1kgf/cmの力で引っ張られたときの緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布
の切断強度(kgf/3cm)の積を16,000以上の値としたのは、歯付ベルトの
歯欠には、切断時における緯糸の引っ張り強さも大きく関与していることに基づ
く。歯布に伸びの能力を残すだけでは不十分であり、伸びの能力が失われた後に
おいて歯布がある程度の強度を有するものでなければならない。積にしたのは、
歯布の強度だけでは歯欠けを有効に防止できず、歯布の伸びの能力があって且つ
強度を有するものでなければならないからである。 【0028】 経糸と緯糸の総デニール比を1:1.4以上にしたのは、歯付ベルトの曲げ剛
性及び摩耗の観点から、経糸の量を最小限に抑えたいためである。 【0029】 次に、実験を行い本考案による歯付ベルトの歯欠け寿命を測定した。実験条件
は以下のとおりである。 ベルト幅 :15mm ベルト歯数 :124歯(8mmピッチ) ベルト初期張力:12kgf 負荷 :伝動負荷100kgf 回転数 :3000r.p.m. 試験温度 :30〜40℃ そして、表1の結果を得た。 【0030】 【表1】 【0031】 表1中の比較例1及び比較例2は、本考案による実施例の歯付ベルトの効果を
確かめるために製作された。比較例1及び比較例2は従来品と比較して充分な値
を示しているが、本考案による実施例の歯付ベルトには及ばない。 【0032】 まず、従来品と比較例1とを比較すると、比較例1の歯付ベルトは、従来品に
比べ、糸の硫酸相対粘度が3.0、単繊維の強さが9.5g/d、緯糸方向の歯布の引っ
張り切断強度が235kgf/3cmと強度面で改善されているために、歯付ベルトの寿命
が延びていることがわかる。また、従来品と比較例2とを比較すると、緯糸方向
の歯布の引っ張り切断強度が同じで、1kgf/cmのときの緯方向の伸び率が80%と
改善されているために、歯付ベルトの寿命が延びていることがわかる。 【0033】 本考案による実施例1は、単に、歯布の強さを強くすること、歯布の伸びを大
きくすること、又は、単繊維の強さを強くすることだけでなく、個々の特性を総
合して初めて成立し得るものであり、歯付ベルトの歯欠け寿命が著しく向上され
たものとなっている。重要なことは、1kgf/cmのときの緯糸方向の歯布の伸び率
(%)と緯糸方向の歯布の引っ張り切断強度(kgf/3cm)の積を16,000以
上の値にすることであり、この値以上にすることにより、歯付ベルトの寿命を飛
躍的に伸ばすことができるのである。 【0034】 【考案の効果】 本考案では、被着成形前の歯布が1kgf/cmで緯糸方向に引っ張られたときの歯
布の伸び率を70%以上とし、歯付ベルトの被着成形後においても少なくとも1
0%の伸び率残を確保するようにしたことから、歯布の伸び残不足によって歯ゴ
ムから歯布が浮き上がることを防止できるとともに、歯布の緯糸方向の引っ張り
応力をも低減することができる。 【0035】 また、歯欠には、歯布を構成する緯糸の強さも大きく関与していることから、
1kgf/cm緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布の切断強度(kgf/3cm)との
積を16,000以上の値とし、伸びを確保して歯布に作用する引っ張り応力を
低減し、且つ、切断時の引っ張り強さを向上させることによって、歯付ベルトの
耐久性を高め、歯欠け寿命を向上させている。 【0036】 さらに、歯布にイソシアネート含有ゴム糊および/または、レゾルシン・ホル
マリン・ラテックスの混合溶液を含浸させたことにより、歯ゴムとの接着性を増
大させるばかりでなく、ウーリー加工糸による歯布表面の毛羽立ちを抑えて歯布
の耐摩耗性を改善し、緯糸と経糸の結合性を高め、糸のほつれを防止することが
できる。
付ベルトに関する。 【0002】 【従来の技術】 歯付ベルトは、抗張体を埋設し、歯ゴム面に歯布が被着されたものである。歯
布は、緯方向の繊維(以下、緯糸という。)と経方向の繊維(以下、経糸という
。)からなり、エラストマーによって固化され、ベルト幅方向に経糸を、ベルト
長手方向にウーリー加工した緯糸を、用いて織成されている。歯付ベルトに利用
される繊維は、衣料用及び産業資材用のポリアミド(ナイロン)繊維である。代
表的な歯付ベルトでは、緯糸及び経糸に衣料用ポリアミド繊維を使用したもの、
緯糸に産業資材用ポリアミド繊維を、経糸に衣料用ポリアミド繊維を使用したも
のがある。 【0003】 このような歯布は、まず、歯付きプーリの歯型に適合する金型の間を通される
。 金型を通過する歯布はその凹凸に倣って緯方向に伸びなければならない。そのた
め、緯糸には、通常、ウーリー加工が施されている。 【0004】 【考案が解決しようとする課題】 歯付ベルトは、例えば、自動車エンジンのカム軸駆動用に使用される。自動車
エンジンの高性能化が進むにつれ、歯付ベルトにも環境温度の上昇への対応や高
負荷化への対応が迫られている。特に、歯欠けに対する耐久性が重要である。こ
の歯欠けについては、歯布の浮き上がりと歯布の切断が関与していると考えられ
る。 【0005】 歯布の浮き上がりとは図2に示される現象で、その要因としては、過大負荷、
歯ゴム剛性不足、歯布接着不良及び歯布の伸び残不足が考えられる。22は抗張
体、24は歯ゴム、26は歯布である。また、歯布の切断とは図3に示される現
象で、その要因としては、負荷の一点集中及び歯布26のフィラメントの強さ不
足が考えられる。 【0006】 本考案の目的は、歯布の構成を改良することによって、歯付ベルトの歯欠け寿
命を長くすることである。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本考案は、抗張体を埋設し、ベルト幅方向に経糸を、ベルト長手方向に、硫酸
相対粘度が3以上のポリアミド繊維で、その単繊維の繊度が5〜10d/fであ
る、マルチフィラメント糸をウーリー加工した糸からなる緯糸を、用いて織成し
た歯布を歯ゴム面に被着した歯付ベルトにおいて、 被着成形前の前記歯布がベルト長手方向の1kgf/cmの引張力に対して70%以
上の伸び率を有するとともに、該伸び率と切断強度kgf/3cmとの積が16,00
0以上の値を有し、且つ該歯布にイソシアネート含有ゴム糊および/またはレゾ
ルシン・ホルマリン・ラテックスの混合液を含浸させた歯付ベルトにより、前記
課題を解決した。 【0008】 【作用】 現在一般に使用されている歯付きプーリの歯形状によると、歯布は被着成形時
に約50〜60%伸びることになる。これによって、歯布は緯方向の伸びの能力
を一部失うことになる。もし、伸びの能力を全て奪われた歯布があると仮定する
と、歯付ベルトに負荷が作用して歯が変形したとき、歯布は歯底において歯ゴム
から浮き上がり現象を生じる。従って、歯付ベルトの被着成形後においても、歯
布に伸びの能力を残しておく必要があり、伸び率は、歯布の被着成形前を基準に
して少なくとも10%以上残すことが必要である。 【0009】 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の歯布の伸び率を70%以上としたの
は、歯布を歯付ベルトに被着成形した後に少なくとも10%の伸び率残を確保す
るためである。こうすることにより、歯変形時においても歯布は伸びることがで
き、歯布の伸び残不足による歯布の浮き上がりが防止できるとともに、歯布の緯
糸方向の引っ張り応力をも低減することができるのである。 【0010】 なお、伸びの値は、1kgf/cmで引っ張られたときの値であり、歯布の切断時の
値ではない。これは、歯布が僅かな力で伸びることができれば、それだけで歯布
の浮き上がりを防止できるからである。 【0011】 また、歯欠には、切断時における緯糸方向の歯布の引っ張り強さも大きく関与
している。伸びの能力を残すことにより、歯布に作用する引っ張り応力が低くな
ることは前述の通りであるが、歯布の切断については、歯布の引っ張り強さも関
係してくる。本考案では、伸びの能力が残っており、しかも切断時の歯布の引っ
張り強さが大きければ、歯付ベルトに良好な耐久性を与えることができることを
見出し、従って、緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布の切断時の強さ(kgf
/3cm)との積を16,000以上の値としたのである。すなわち、伸びを確保し
て歯布に作用する引っ張り応力を低減し、且つ、切断時の歯布の引っ張り強さを
向上させることによって、歯付ベルトの耐久性を高めることができるのである。 【0012】 【実施例】 以下、具体的に本考案による歯付ベルトを説明する。歯付ベルト10は、図1
に示されるように、抗張体12を埋設し、歯ゴム14に歯布16が被着成形され
たものである。歯付ベルトには、歯がベルトの表裏両面に形成され、表裏の歯に
歯布が夫々被着されたものもある。本考案による歯付ベルト10は、歯布16の
材質及びその構成に特徴があり、これにより、衝撃耐久性及び摩擦耐久性を向上
させたものである。 【0013】 歯布の緯糸及び経糸は、ポリアミド(ナイロン66)であり、次の構成を有す
るものである。この実施例の以下の記載中、「単繊維の繊度(d):5〜10」
との記載は、「単繊維(すなわち、モノフィラメント)の繊度(d)は5〜10
(d/f)」ということを意味するものであり、「単繊維の繊度(d):6」と
の記載は、「単繊維(すなわち、モノフィラメント)の繊度(d)は6(d/f
)」ということを意味するものであり、また、「原糸デニール×本数:210×
3」との記載は、「原糸のマルチフィラメント糸のデニールが210d(=6d
/f×35f)であり、このマルチフィラメント糸を3本合わせる」ということ
を意味するものである。 【0014】 (1) 硫酸相対粘度 : 3以上 (2) 単繊維の繊度(d) : 5 〜10 (3) 単繊維の強さ(g/d) : 8 〜12 【0015】 好ましくは、緯糸及び経糸は以下の構成を有するものである。 緯糸の構成 (1) 硫酸相対粘度 : 3以上 (2) 単繊維の繊度(d) : 6 (3) 単繊維の強さ(g/d) : 9.5 (4) 原糸デニール×本数 : 210×3 (5) 密度(本/5cm) : 116〜127 経糸の構成 (1) 硫酸相対粘度 : 3 (2) 単繊維の繊度(d) : 6 (3) 単繊維の強さ(g/) : 9.5 (4) 原糸デニール×本数 : 210×2 (5) 密度(本/5cm) : 105〜122 【0016】 歯布は、上記緯糸及び経糸を使用して、イソシアネートを含有したゴム糊およ
び/またはRFL(レゾルシノールとホルマリンを反応させて得られるRF樹脂
の水溶液にラテックスを混合した溶液)等を含浸させて得られる。また、RFL
を含浸させた後、ゴム糊を被覆する場合もある。 【0017】 そして、歯布は、被着成形前に、以下の数値を有するものである。 (6) 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の伸び(率):70%以上 (7) 1kgf/cmで引っ張られたときの緯糸方向の伸び率(%) と緯糸方向の切断強度(kgf/3cm)の積: 16000以上 (8) 経糸と緯糸の総デニール比: 1:1.4以上 【0018】 歯付ベルトは、上記構成の歯布をベルト歯の形状を有する金型に巻付け、その
上に抗張体を巻付け、さらにその上に歯ゴム及び背ゴムとなる未加硫ゴム配合シ
ートを巻付け、加圧下で成形加硫した後、一定の幅に裁断して環状の歯付ベルト
に成形される。 【0019】 抗張体は、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維等を撚糸し、RFLを必要に
応じて含浸させた心線の表面にゴム糊等をオーバーコーティングしたものである
。また、歯ゴム及び背ゴムには、CR、NBR、HSN、BR、EPDM、EP
R、CSM、エピクロルヒドリンゴム、ウレタン等の単一又は混合物からなるゴ
ムが利用できる。 【0020】 本考案の歯付ベルトは以上の構成であるが、歯布における各数値は以下の意味
を有する。 【0021】 糸の硫酸相対粘度が3未満になると、ポリアミドの重合度が低くなり、歯布の
耐摩耗性と強度とが低下するので、歯欠け寿命が短くなる。 【0022】 単繊維の繊度は、フィラメントの強度、伸びと応力の関係の双方に関与する。
すなわち、繊度が低い場合、フィラメント切れが発生しやすく、歯布の切断につ
ながる。一方、繊度が高いと伸びの増加に対する応力の増加が著しく、歯の変形
時において歯布の伸びが劣る。 【0023】 単繊維の強さが8g/d未満であると、歯付ベルトに衝撃的な剪断力が作用した
ときに歯布の切断が生じやすくなる。単繊維の強さが12g/dを越えると、曲げ剛
性が高くなり、従って歯布が引っ張られたときの応力上昇が著しくなり、1kgf/
cmの力で引っ張られたときの伸びの能力を損わせる。 【0024】 原糸デニール×本数と密度は、現在使用されている歯付ベルトのP.L.D.
(Pitch Line Deferential)を考慮して定められている。 【0025】 被着成形前の歯布を1kgf/cmで引っ張ったときの伸び率を70%以上としたの
は、歯布が成形後において歯付ベルトに被着成形された後においても、少なくと
も10%の伸びの能力を残すためである。これは、現在使用されている歯付プー
リの歯形状を考慮したとき、歯布は被着成形時に50〜60%の伸びを失うこと
に基づく。1kgf/cmの比較的小さい力は、初期伸びを考慮したためであり、歯布
は僅かな力で伸びが生じることを意味する。 【0026】 歯布は、伸びの能力が残っていると、歯ゴムが変形したときに歯ゴムに沿って
伸び、これにより歯布は歯ゴムからの浮き上がりが防止される。また、歯が変形 したときにも、歯布は応力の増加を抑えられ、歯ゴムの変形によって直ちに引っ
張り強さの上限に達することがない。 【0027】 1kgf/cmの力で引っ張られたときの緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布
の切断強度(kgf/3cm)の積を16,000以上の値としたのは、歯付ベルトの
歯欠には、切断時における緯糸の引っ張り強さも大きく関与していることに基づ
く。歯布に伸びの能力を残すだけでは不十分であり、伸びの能力が失われた後に
おいて歯布がある程度の強度を有するものでなければならない。積にしたのは、
歯布の強度だけでは歯欠けを有効に防止できず、歯布の伸びの能力があって且つ
強度を有するものでなければならないからである。 【0028】 経糸と緯糸の総デニール比を1:1.4以上にしたのは、歯付ベルトの曲げ剛
性及び摩耗の観点から、経糸の量を最小限に抑えたいためである。 【0029】 次に、実験を行い本考案による歯付ベルトの歯欠け寿命を測定した。実験条件
は以下のとおりである。 ベルト幅 :15mm ベルト歯数 :124歯(8mmピッチ) ベルト初期張力:12kgf 負荷 :伝動負荷100kgf 回転数 :3000r.p.m. 試験温度 :30〜40℃ そして、表1の結果を得た。 【0030】 【表1】 【0031】 表1中の比較例1及び比較例2は、本考案による実施例の歯付ベルトの効果を
確かめるために製作された。比較例1及び比較例2は従来品と比較して充分な値
を示しているが、本考案による実施例の歯付ベルトには及ばない。 【0032】 まず、従来品と比較例1とを比較すると、比較例1の歯付ベルトは、従来品に
比べ、糸の硫酸相対粘度が3.0、単繊維の強さが9.5g/d、緯糸方向の歯布の引っ
張り切断強度が235kgf/3cmと強度面で改善されているために、歯付ベルトの寿命
が延びていることがわかる。また、従来品と比較例2とを比較すると、緯糸方向
の歯布の引っ張り切断強度が同じで、1kgf/cmのときの緯方向の伸び率が80%と
改善されているために、歯付ベルトの寿命が延びていることがわかる。 【0033】 本考案による実施例1は、単に、歯布の強さを強くすること、歯布の伸びを大
きくすること、又は、単繊維の強さを強くすることだけでなく、個々の特性を総
合して初めて成立し得るものであり、歯付ベルトの歯欠け寿命が著しく向上され
たものとなっている。重要なことは、1kgf/cmのときの緯糸方向の歯布の伸び率
(%)と緯糸方向の歯布の引っ張り切断強度(kgf/3cm)の積を16,000以
上の値にすることであり、この値以上にすることにより、歯付ベルトの寿命を飛
躍的に伸ばすことができるのである。 【0034】 【考案の効果】 本考案では、被着成形前の歯布が1kgf/cmで緯糸方向に引っ張られたときの歯
布の伸び率を70%以上とし、歯付ベルトの被着成形後においても少なくとも1
0%の伸び率残を確保するようにしたことから、歯布の伸び残不足によって歯ゴ
ムから歯布が浮き上がることを防止できるとともに、歯布の緯糸方向の引っ張り
応力をも低減することができる。 【0035】 また、歯欠には、歯布を構成する緯糸の強さも大きく関与していることから、
1kgf/cm緯糸方向の歯布の伸び率と緯糸方向の歯布の切断強度(kgf/3cm)との
積を16,000以上の値とし、伸びを確保して歯布に作用する引っ張り応力を
低減し、且つ、切断時の引っ張り強さを向上させることによって、歯付ベルトの
耐久性を高め、歯欠け寿命を向上させている。 【0036】 さらに、歯布にイソシアネート含有ゴム糊および/または、レゾルシン・ホル
マリン・ラテックスの混合溶液を含浸させたことにより、歯ゴムとの接着性を増
大させるばかりでなく、ウーリー加工糸による歯布表面の毛羽立ちを抑えて歯布
の耐摩耗性を改善し、緯糸と経糸の結合性を高め、糸のほつれを防止することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 歯付ベルトの断面図である。
【図2】 歯布の浮き上がり現象を説明する断面図である。
【図3】 歯布のフィラメント切れ現象を説明する断面図である。
【符号の説明】
10 歯付ベルト
12 抗張体
14 歯ゴム
16 歯布
Claims (1)
- 【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 抗張体を埋設し、ベルト幅方向に経糸を、ベルト長手方向に、
硫酸相対粘度が3以上のポリアミド繊維で、その単繊維の繊度が5〜10d/f
である、マルチフィラメント糸をウーリー加工した糸からなる緯糸を、用いて織
成した歯布を歯ゴム面に被着した歯付ベルトにおいて、 被着成形前の前記歯布がベルト長手方向の1kgf/cmの引張力に対して70%以
上の伸び率を有するとともに、該伸び率と切断強度kgf/3cmとの積が16,00
0以上の値を有し、且つ該歯布にイソシアネート含有ゴム糊および/またはレゾ
ルシン・ホルマリン・ラテックスの混合液を含浸させたことを特徴とする、歯付
ベルト。
Family
ID=
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