JP2527858B2 - 固体電解質型燃料電池及びその製造方法 - Google Patents

固体電解質型燃料電池及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、固体電解質型燃料電池
及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近、燃料電池が発電装置として注目さ
れている。これは、燃料が有する化学エネルギーを直接
電気エネルギーに変換できる装置で、カルノーサイクル
の制約を受けないため、本質的に高いエネルギー変換効
率を有し、燃料の多様化が可能で(ナフサ、天然ガス、
メタノール、石炭改質ガス、重油等)、低公害で、しか
も発電効率が設備規模によって影響されず、極めて有望
な技術である。
【0003】特に、固体電解質型燃料電池(SOFC)
は、1000℃の高温で作動するため電極反応が極めて活発
で、高価な白金などの貴金属触媒を全く必要とせず、分
極が小さく、出力電圧も比較的高いため、エネルギー変
換効率が他の燃料電池にくらべ著しく高い。更に、構造
材は全て固体から構成されるため、安定且つ長寿命であ
る。
【0004】こうしたSOFCにおいては、薄く、気密
質の固体電解質膜を、できる限り高速で、かつ低コスト
で形成する製造技術が必要である。現在、SOFCの固
体電解質膜の構成材料としては安定化ジルコニアが、空
気電極の構成材料としてはランタン系ペロブスカイト型
複合酸化物が、それぞれ最も有望かつ一般的である(エ
ネルギー総合工学13−2,1990年)
【0005】一般に固体電解質膜及び空気電極の形成法
は、乾式法と湿式法とに分けられる。乾式法としてはE
VD法、溶射法が代表的であり、湿式法としてはテープ
キャスティング法、スリップキャスティング法、押し出
し成形法等がある(エネルギー総合工学13−2,1990
年)。
【0006】化学蒸着法(CVD)や電気化学的蒸着法
(EVD)等のいわゆる気相法によると、装置が大型化
し、処理面積、処理速度が小さすぎる。また、塩化ジル
コニウム等をヘリウムガスと混合して使用したり、水蒸
気を酸素と混合して使用したりするので、ランニングコ
ストが嵩む。
【0007】プラズマ溶射によって固体電解質膜を形成
すれば、成膜速度を大きくでき、装置等の取り扱いも簡
単であり、かつ薄膜を比較的緻密に成膜できる。このた
め、プラズマ溶射法は従来から使用されている(サンシ
ャイン1981, Vol.2, No.1 :エネルキー総合工学13
2, 1990) 。
【0008】また、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウ
ムとアルカリ土類金属または希土類元素等の金属酸化物
とを固溶した溶射原料を、粒度調整後にプラズマ溶射
し、固体電解質膜を形成することが公知である(特開昭
61−198569号公報、同61−198570号公報) 。
【0009】一方、プラズマ溶射により形成した固体電
解質膜の気孔率は一般に5%を越え、10%にも及びSOFC
用の固体電解質膜としては緻密性が不充分であり、プラ
ズマ溶射の段階でこの膜内にクラックや層状をなした欠
陥が発生する。このため、SOFCの動作時に、固体電解質
膜を水素、一酸化炭素等が透過する燃料漏れが発生し、
SOFC単セル当りの起電力が通常よりも小さくなり、出力
が低下し、燃料の電力への変換率が悪くなった。
【0010】また、例えば、空気電極の表面に固体電解
質材料からなる被膜を湿式法によって成膜し、焼結させ
て、固体電解質膜を空気電極に接合する方法がある。し
かし、この目的で、1250℃程度の温度で熱処理を行う
と、固体電解質と空気電極との界面に、電気絶縁物であ
るランタンジルコネート(La2 Zr2 7 )からなる
高抵抗層が生成する。こうなると、電池の内部抵抗が増
加し、電池出力が低下する原因となる。
【0011】最近、固体電解質膜の材料として安定化ジ
ルコニアを用いる一方、空気電極膜の材料として、Aサ
イトが化学量論的に一部欠損したペロブスカイト系複合
酸化物(La1-y Sr y 1-x MO3 (0≦y≦0.2 ,
0<x≦0.2 , MはMn 又はCoを用いることが提案さ
れている(特開平 3-59953号公報) 。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、こうした
欠損ペロブスカイト系複合酸化物を、自立構造型の有底
円筒状の空気電極管の材料として用いることも新たに検
討した。しかし、こうした化合物は、Aサイトが欠損し
ていないペロブスカイト構造体にくらべて、マンガンま
たはコバルトが豊富であるため、焼結性が著しく高まっ
ていることが解った。このため、こうした空気電極管に
各種の熱処理を施していく段階で、空気電極管の焼結が
進行し、固体電界質膜との界面へと酸化剤を運搬する能
力が低下するという新たな欠点があることが判った。
【0013】本発明の課題は、ジルコニア固体電解質膜
と空気電極基体の材料との反応を抑制し、SOFCの内
部抵抗を低減し、空気電極基体の焼結の進行を抑え、S
OFCの出力、燃料ガス利用率を向上させることであ
る。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は、下記の組成を
有するペロブスカイト系複合酸化物からなる空気電極基
体と、少なくとも空気電極基体との界面付近にマンガン
又はコバルトが固溶したジルコニア固体電解質膜と、こ
の固体電解質膜の前記空気電極基体と反対側の表面に形
成された燃料電極膜とを有する固体電解質型燃料電池で
あって、前記空気電極基体と前記固体電解質膜との界面
に、ランタンおよびジルコニウムを含む化合物からなる
高抵抗層が実質的に形成されていない固体電解質型燃料
電池に係るものである。
【0015】また、本発明は、下記の組成を有するペロ
ブスカイト系複合酸化物からなる空気電極材料の表面
に、マンガン化合物又はコバルト化合物からなる中間層
を形成し、この中間層の表面に、固体電解質原料からな
る膜を設け、こうして得た積層体を熱処理して前記中間
層を消滅させ、前記空気電極材料を空気電極基体とする
と共に固体電解質原料からなる膜を気密質の固体電解質
膜に変化させることを特徴とする、固体電解質型燃料電
池の製造方法 (La1-y y ) MO3 〔Aは、アルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素
を表し、Mは、マンガン又はコバルトを表す。0≦y≦
0.4 〕に係るものである。
【0016】まず。本発明の製造方法について、順を追
って説明する。まず、図1(a) に示すように、所定形
状、例えば平板状の空気電極材料24を準備する。これ
は、上記の組成を有するペロブスカイト系複合酸化物か
らなる。ここで、Aはアルカリ土類金属から選ぶが、ス
トロンチウム、カルシウムが特に好ましい。上記組成に
おいて、La及びAは、ペロブスカイト構造のいわゆる
Aサイトを占めるものであり、MはBサイトを占めるも
のである。
【0017】次いで、図1(b) に示すように、空気電極
材料24の表面にマンガン化合物又はコバルト化合物から
なる中間層25を形成する。この形成法は、プラズマ溶射
法が好ましい。次いで、図1(c) に示すように、中間層
25の表面に、ジルコニアを含む固体電解質原料からなる
膜26を形成する。この形成法も、プラズマ溶射法が好ま
しい。また、固体電解質原料としては、アルカリ土類金
属または希土類元素の化合物(特に酸化物)とジルコニ
アとの混合物または固溶物とする。
【0018】こうして得た積層体を熱処理すると、後述
する機構によって中間層25が消滅する。これと共に、空
気電極材料24の表面から中間層25が消えて、図1(d)
に示すように、空気電極基体27の表面に、気密質の固体
電解質膜26Aが形成される。この後、固体電解質膜26A
の表面に燃料電極膜28を設ける。
【0019】また、図2 (a)〜(c) に示すような手順に
よることもできる。即ち、まず図2(a) に示すように、
上記のペロブスカイト系複合酸化物からなる空気電極材
料24を準備する。次いで、図2(b)に示すように空気電
極材料24の表面に、マンガン化合物又はコバルト化合物
を含む被膜25Aを湿式法によって形成する。具体的に
は、ディッピング法、スリップキャスティング法、押し
出し法等がある。次いで、この被膜25Aを熱処理して溶
媒等を飛散させ、マンガン化合物又はコバルト化合物か
らなる中間層25を形成する(図2(c) の状態)。後は、
上記と同様にして、図1(c),(d),(e) に示した手順に従
ってSOFC素子を作製する。
【0020】
【作用】本発明の製造方法においては、例えば図1(c)
に示すように、空気電極材料24と固体電解質原料からな
る膜26との間に、中間層25が設けられている。この状態
で積層体に熱処理を施すと、中間層25の方から膜26の方
へとマンガン又はコバルトが移動、拡散する。この結
果、ジルコニア固体電解質膜のうち、少なくとも空気電
極基体との界面付近にマンガン、コバルトが固溶する。
そして、本発明者の研究によれば、この拡散したマンガ
ン元素又はコバルト元素が膜26の緻密化を促進する働き
があった。従って、この作用を利用することで、熱処理
温度を少し下げてもジルコニア固体電解質膜26Aに充分
な気密性を付与することができた。
【0021】しかも、中間層25を設けることにより、上
記のように膜26の焼結を促進させることができるだけで
なく、膜26中のジルコニアと空気電極材料24中のランタ
ンとの反応も抑制されることが解った。即ち、膜26を気
密化させるのに充分な熱処理を積層体に対して施して
も、空気電極基体27と気密質の固体電解質膜26Aとの界
面に、La2 Zr2 7 等の化合物からなる高抵抗層は
形成されなかったのである。
【0022】ただし、本発明においても、空気電極基体
27と固体電解質膜26Aとの界面にLa2 Zr2 7 等の
高抵抗化合物が微視的にみて若干生成していることはあ
りうるが、こうした高抵抗化合物が、捜査型電子顕微鏡
断面写真で見て層状に連続して生成していることはな
い。このように、ランタン及びジルコニウムを含む化合
物からなる高抵抗層を排除できることから、この高抵抗
層によるSOFC素子(単電池)の高抵抗化、出力低下
を防止できる。
【0023】更に、本発明では、空気電極材料24に、上
記した、Aサイトの欠損していないペロブスカイト系複
合酸化物を使用している。この化合物は、1550℃程度ま
での高温に対して安定であり、焼結が進行しない。この
ため、膜26を気密化するのに充分な熱処理を、空気電極
材料24を含む積層体全体に対して加えても、空気電極基
体27の気孔率はあまり変化しない。従って、SOFC素
子の発電効率は低下しない。
【0024】固体電解質原料からなる膜26は、プラズマ
溶射法によって形成することが好ましい。即ち、プラズ
マ溶射法は、従来の緻密薄膜固体電解質の製造法である
EVDと比較して技術的に簡単であり、装置も通常の溶
射装置と熱処理用の電気炉等が有れば成膜可能であり、
低コストである。
【0025】またEVDでは、現在の比較的小型の円筒
状固体電解質型燃料電池の製造は可能であるが、平板型
の固体電解質型燃料電池の場合、製造が困難である。そ
の点溶射固体電解質膜は平板型にも円筒型にも適用可能
である。また大型化を考えたときの円筒長尺化や、平板
の大面積化にも製造上の対応が容易である。
【0026】しかも、この場合は、溶射固体電解質膜を
熱処理して気密質にする。即ち、この熱処理を行わない
従来の溶射固体電解質膜の微構造は、プラズマ溶射膜特
有の微小クラックや欠陥を有しており、また層状欠陥を
何層にも有している。これらが、電気伝導度の低下や気
体漏れの原因であった。これに対し、上記の熱処理を施
した後は、従来のプラズマ溶射膜特有の微小クラック、
欠陥がなく、層状の欠陥が少なく、クラックの裂け目の
鋭角的な面や角へと原料が移動して閉気孔が比較的球形
又は球形に近い形状となり、粉末を加圧成形して焼結し
た固体電解質の微構造に近いものとなり、組成的にも均
質となる。この結果、電気伝導度は焼結体のそれと比較
して同等となり、気体の漏れも防止できる。
【0027】ここで言うプラズマ溶射法としては、低圧
プラズマ溶射の方が効果が大きい。しかし、常圧プラズ
マ溶射によって膜26を形成した場合であっても、この後
の熱処理によって充分気密な固体電解質膜26Aを形成で
きる。この熱処理の温度は1300〜1500℃とするのが好ま
しい。これは、熱処理温度が1300℃未満であると、固体
電解質膜の気密性に及ぼす効果が顕著ではなく、充分な
効果を得るには長時間の熱処理が必要とされるためであ
り、またこれが1500℃を超えると、固体電解質膜が過焼
成となり、気孔が増大する。
【0028】上記のマンガン化合物としては、Mn,M
nO,MnO2 , Mn3 4 , Aサイトが一部欠損した
ペロブスカイト系複合酸化物およびこれらの混合物が好
ましい。上記のコバルト化合物としては、Co,Co
O,Co3 4 , Aサイトが一部欠損したペロブスカイ
ト系複合酸化物およびこれらの混合物が好ましい。中間
層は、コバルト化合物で形成するよりもマンガン化合物
で形成する方が、固体電解質膜を気密化する効果が顕著
であるため好ましい。中間層の形成量は、空気電極材料
の単位面積当り0.2 〜8.0 mgとするのが好ましい。これ
が0.2 mg未満であると、固体電解質を気密化する効果お
よび高抵抗層の生成を抑制する効果が顕著ではなく、8.
0 mgを越えると、熱処理後に中間層が残留し、電池の特
性を低下させる傾向がある。
【0029】
【実施例】次に、本発明を適用できるSOFCについて
例示する。図3は、こうしたSOFCの一例を示す概略
断面図である。酸化ガス室20と排ガス室7とが上部プレ
ート5によって区分され、排ガス室7と電池反応室8と
がプレート6によって区分され、電池反応室8と燃料ガ
ス室10とが底部プレート9によって区分されている。酸
化ガス供給管4が上部プレートによって保持、固定され
ている。プレート6には円形貫通孔6aが形成され、この
円形貫通孔6aがSOFC素子19の上端部を緩く押えている。
【0030】底部プレート9には、所定の大きさ、個数
の燃料ガス供給口9aが形成されている。SOFC素子19の内
側部分は、有底円筒状の空気電極管1である。この空気
電極管1は、電池反応室8内を上下方向に延びる円筒状
部1cと、略半球状の有底部1bとからなる。空気電極管
1の内側空間1aに、酸化ガス供給管4が挿入され、そ
の先端にある酸化ガス供給口4aが有底部1bと対向し
ている。
【0031】空気電極管1の外周面にジルコニア固体電
解質膜2が形成され、その外周面に燃料電極膜3が形成
されている。このSOFC素子19の発電部分は電池発電
室8内にあり、上端部が排ガス室7へと向って開口す
る。
【0032】この状態で、矢印Aのように、空気等の酸
化ガスを酸化ガス室20より酸化ガス供給管4へと供給す
ると、酸化ガス供給口4aより排出された酸化ガスが有
底部で矢印Bのように反転し、筒内空間1a内を流れ、
矢印Cのように排ガス室7内に流出する。一方、底部プ
レート9の燃料流入孔9aを通してH2やCH4 等の燃料
ガスを矢印Dのように供給し、SOFC素子19の外周面
に沿って流す。これにより、固体電解質膜2を通して酸
素イオンの流れが生じ、酸素イオンが燃料電極膜3で燃
料と反応する。この結果、空気電極管1と燃料電極膜3
との間に電流が流れる。こうしたSOFCは1000℃程度
の高温下で使用されるため、シール部なしで構成できる
図3に示す形態が好ましい態様といえる。
【0033】むろん、ここで本発明に従い、基本である
空気電極管1、固体電解質膜2を構成する。また、他に
両端が開口した(即ち、有底部が存在しない)円筒状S
OFC素子や、平板状SOFC素子に対しても、本例と同様
に本発明を適用することができる。
【0034】次に、具体的な実験結果について述べる。 実施例1のサンプル:ペロブスカイト系複合酸化物から
なる空気電極材料を作製した。即ち、まず出発原料とし
てLa2 3 , SrCO3 , Mn3 4 を準備した。
【0035】このうちLa2 3 粉末については、予め
大気中で900 ℃にて3時間培焼した。そして、各原料を
La:Sr:Mn=4:1:5のモル比になるように秤
量した。次いで、これらの粉末をポットミルにて湿式混
合し、金型プレス法にて1tf/cm2 の圧力で成形し、成
形品を大気中1450℃にて15時間熱処理した。こうして、
ペロブスカイト型複合酸化物を合成した。この合成物を
粉砕して原料粉末とした。こうして得た原料粉末を、発
光分光法及びX線回折法を用いて分析した結果、この原
料粉末がLa0.8 Sr0.2 MnO3 の組成を有するペロ
ブスカイト系複合酸化物であることが解った。
【0036】次に、各原料粉末に対し、バインダーとし
てポリビニルアルコール、増孔剤としてセルロースを加
え、金型プレス法にて500kgf/cm2 で成形し、大気中15
70℃にて8時間焼成した。こうして得た焼結体の開気孔
率を、アルキメデス法にて測定したところ、開気孔率は
29%であり、固体電解質型燃料電池の空気極として十分
であると判断される。
【0037】この焼結体から、直径20mm、厚さ2mmの円
板を切出し、空気電極材料24とした(図1(a) 参照) 。
次いで、二酸化マンガン(MnO2 )を用意し、空気電
極材料24の表面にこれをプラズマ溶射し、厚さ約10μm
の中間層25を形成した。更に、8モルイットリア安定化
ジルコニア(8YSZ)を用意し、これを中間層25の表
面にプラズマ溶射し、厚さ約 100μm のジルコニア膜26
を形成した。
【0038】次いで、この積層体につき、大気中にて10
00℃、1200℃、1300℃、1400℃の各温度で3時間の熱処
理を行い、図1(d) に示す積層体を作製した。この積層
体の電気特性を評価するため、その電気抵抗を測定し、
気密性を評価するため、そのN2 ガス透過係数を測定し
た。
【0039】ここで、積層体の電気抵抗は、図4に概略
的に示すようにして行った。即ち、空気電極基体27の表
面と固体電解質膜26Aの表面とに、それぞれ直径6mmの
白金ペースト13をスクリーン印刷法にて成膜し、大気中
1000℃にて1時間ペーストの焼き付けを行い、測定用サ
ンプルとした。そして各測定用サンプルの白金ペースト
13の表面に白金網14をセットし、各白金網14を導線15を
介してインピーダンスアナライザ16の端子に接続した。
そして、大気中1000℃にて、交流インピーダンス法を用
いて積層体のオーミック抵抗を測定した。
【0040】N2 ガス透過係数については、図5に模式
的に示す装置を使用して測定した。即ち、所定の試料23
を治具21にセットし、試料23と治具21との間を接着剤22
で封着した。試料23の片方の面は加圧された2気圧の窒
素雰囲気にさらし、他方は常圧の窒素雰囲気にさらす
(室温にて測定) 。この時2気圧側から1気圧側へ流れ
でる流量をマスフローコントーラで測定し、以下の式に
てN2 ガス透過係数 K(cm4-1-1) を求めた。 K=t・Q/ΔP・A t:試料厚さ(cm) Q:N2ガス透過流量(cm3/s) ΔP:差圧(g/cm2) A:開口面積(cm2)
【0041】この際、試料23として空気電極基体27を単
独でセットしてそのN2 ガス透過係数K1 を測定すると
共に、空気電極基体27と固体電解質膜26Aとの積層体を
セットしてそのN2 ガス透過係数K3 を測定した。そし
て、下式から、固体電解質膜26Aの単独でのN2 ガス透
過係数26Aを算出した。 K2 =t2 ・K1 ・K3 /(K1 ・t3 −t1 3 ) t2 :固体電解質膜26Aの膜厚 t3 :積層体の厚さ t1 :空気電極基体27の厚さ こうして得た、実施例1のサンプルについての各測定結
果を、図6,図7に示す。
【0042】実施例2のサンプル:まず、実施例1と同
様の空気電極材料24を準備した(図2(a) 参照) 。そし
て、4酸化3マンガン(Mn3 4 )を、水 100重量部
に対して30重量部の割合で加え、スターラーを用いてか
くはんし、Mn3 4スラリーを用意した。このスラリ
ーを、実施例1における空気電極材料24の表面に真空デ
ィッピング法によって塗布し、厚さ約10μm の被膜25A
を形成した(図2(b) 参照) 。このとき、Mn3
4 は、空気電極材料24の単位表面積当り 1.8mg積層して
いた。
【0043】こうして得た積層体を大気中、1300℃にて
3時間熱処理し、被膜25Aを空気電極材料24の表面に焼
き付け、中間層25を形成した(図2(c) 参照)。更に、
8モルイットリア安定化ジルコニア(8YSZ)を用意
し、これを中間層25の表面にプラズマ溶射し、厚さ約 1
00μm のジルコニア膜26を形成した。
【0044】次いで、この積層体につき、大気中にて10
00℃、1200℃、1300℃、1400℃の各温度で3時間の熱処
理を行い、図1(d) に示す積層体を作製した。この積層
体の電気特性を評価するため、その電気抵抗を測定し、
気密性を評価するため、そのN2 ガス透過係数を測定し
た。この測定結果は、実施例1のサンプルの測定結果と
ほぼ同じであり、両者の差は測定誤差の範囲内であっ
た。従って、実施例1、実施例2の各サンプルについて
の測定値は、図6、図7にまとめて示す。
【0045】対照例1のサンプル:実施例1で作製した
空気電極材料24の表面に、8モルイットリア安定化ジル
コニアをプラズマ溶射し、厚さ約 100μm のジルコニア
膜26を形成した。次いで、この積層体につき、大気中に
て1000℃、1200℃、1300℃、1400℃、1550℃の各温度で
3時間の熱処理を行い、溶射膜を緻密化させた。この熱
処理の効果を評価するため、実施例1のサンプルと同様
の測定を行った。測定結果を図6、図7に示す。
【0046】対照例2のサンプル:Aサイトが一部欠損
したペロブスカイト系複合酸化物からなる空気電極材料
を作製した。即ち、まず出発原料としてLa2 3 , S
rCO3 , Mn3 4 を準備した。このうちLa2 3
粉末については、予め大気中で 900℃にて3時間培焼し
た。そして、各原料をLa:Sr:Mn=76:19:10の
モル比になるように秤量した。次いで、これらの粉末を
ポットミルにて湿式混合し、金型プレス法にて1tf/cm
2 の圧力で成形し、成形品を大気中1450℃にて15時間熱
処理した。こうして、ペロブスカイト型複合酸化物を合
成した。この合成物を粉砕して原料粉末とした。こうし
て得た原料粉末を、発光分光法及びX線回折法を用いて
分析した結果、この原料粉末が(La0.8 Sr0.2
0.95MnO3 の組成を有するペロブスカイト系複合酸化
物であることが解った。
【0047】次に、原料粉末に対し、バインダーとして
ポリビニルアルコール、増孔剤としてセルロースを加
え、金型プレス法にて500kgf/cm2 で成形し、大気中14
20℃にて8時間焼成した。こうして得た焼結体の開気孔
率を、アルキメデス法にて測定したところ、開気孔率は
27%であり、固体電解質型燃料電池の空気極として充分
であると判断された。
【0048】この焼結体から、直径20mm、厚さ2mmの円
板を切り出し、空気電極材料とした。そして、8モルイ
ットリア安定化ジルコニア(8YSZ)を用意し、これ
を空気電極材料の表面にプラズマ溶射し、厚さ約 100μ
m のジルコニア膜を形成した。次いで、この積層体につ
き、大気中にて1000℃、1200℃、1300℃、1400℃の各温
度で3時間の熱処理を行い、ジルコニア膜を緻密化させ
た。この積層体の電気特性を評価するため、その電気抵
抗を測定し、気密性を評価するため、そのN2 ガス透過
係数を測定した。この測定結果を図6、図7に示す。
【0049】実施例1,2のサンプルと対照例1のサン
プルとを比較すると、10-9台のN2 ガス透過係数を達成
するために必要な熱処理温度が、実施例1,2における
方が150 ℃程度も低下した。即ち、中間層により膜26の
焼結が促進されているものと考えられる。また、同じ熱
処理条件で電気抵抗を比較してみると、実施例1,2に
おける方が、対照例1におけるよりも低い。なお、実施
例1,2と対照例2とは、特性上あまり差がない。
【0050】次に、実施例1,2のサンプルで用いた各
空気電極基体を、大気中1000℃、1200℃、1300℃、1400
℃、1550℃でそれぞれ3時間熱処理し、アルキメデス法
にて開気孔率を測定し、耐熱性を評価した。また対照例
2のサンプルで用いた空気電極基体について、これと同
じ測定を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【0051】
【0052】表1に示す測定結果からみて、本発明で
は、空気電極基体が熱処理プロセスにおいて焼結し、開
気孔率が小さくなることがない。従って、空気電極基体
における酸化剤の拡散が阻害されるおそれがない。
【0053】実施例1,2におけるサンプルについて、
以下の分析を行った。ただし、熱処理条件は大気中1400
℃にて3時間の試料を選んだ。このサンプルにつき断面
を研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてこの研
磨面を観察した。このSEM写真を図8、図10に示す。
図10は、界面近傍の微構造を明確にするため、一層高い
倍率で撮影したものである。
【0054】また、図8に示した断面について、EPM
Aを用いて、Zr,La,Mn各元素の分布について線
分析を行った。この結果を図9に示す。これらから、固
体電解質膜の微構造は、空気電極基板との界面付近で特
に緻密化している。線分析からみても、固体電解質膜の
界面付近にはマンガンが拡散している。また、ランタン
ジルコネートの層は、SEM写真からも線分析からも確
認されない。
【0055】また、対照例1のサンプルについて、上記
の分析を行った。ただし、気密性等を合わせるため、熱
処理条件は、大気中1550℃にて3時間の試料を選んだ。
このサンプルについてのSEM写真を図11,図13に示
し、EPMAによる線分析を図12に示す。図13は、界面
近傍の微構造を明確にするため、一層高い倍率にて撮影
したものである。
【0056】上記した本発明のサンプルより150 ℃高い
温度で熱処理したことにより、本発明のサンプルと同等
に緻密化しているが、空気電極との界面に化合物層が生
成している。これは、線分析の結果から、ランタンジル
コネート(La2 Zr2 7)と判断された。このラン
タンジルコネートは電気絶縁層であり、この化合物の生
成が電気抵抗低下の原因と考えられる。
【0057】これらの実験結果から、本発明の構成を採
用すれば、SOFCの内部抵抗を減少させ、固体電解質
膜の気密性を向上させ、SOFCの出力と燃料利用効率
を向上させうることが解る。
【0058】更にこれを実証するため、実施例1のサン
プル(大気中1400℃で3時間熱処理したもの)の固体電
解質膜の表面に、ニッケル−ジルコニアサーメット(N
i:8モルイットリア安定化ジルコニア=6:4,容積
比)のペーストを直径6mmの円形にスクリーン印刷し、
大気中1350℃にて2時間焼き付けた。
【0059】こうして作製した平板状SOFCのテスト
ピースを治具に固定し、室温にて加湿した水素を燃料電
極膜側へと導入し、酸素ガスを空気電極基板側へと導入
し、1000℃にて発電させた。その電流−電圧曲線を測定
し、図14に示す。
【0060】また、対照例1のサンプルに対し、上記と
同様にして燃料電極膜を設け、平板状SOFCのテスト
ピースを作製した。そして、上記と同様にして電流−電
圧曲線を測定し、その結果を図15に示した。
【0061】この結果、本発明のサンプルでは開放端電
圧が1070mVであり、対照例の試料でも1070 mV である。
本発明の試料では、溶射固体電解質膜の熱処理温度を15
0 ℃下げたにもかかわらず、開放端電圧は同等である。
しかも、短絡電流は遙かに大きくなっており、セルの出
力が著しく向上したものと判断される。
【0062】
【発明の効果】以上明らかにしてきたように、本発明に
よれば、SOFCの内部抵抗を減少させてその出力を高
め、かつ固体電解質膜の気密性を同時に向上させて燃料
利用効率を高めることができる。なおかつ、空気電極基
体の開気孔率も高く保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a),(b),(c),(d) 及び(e) は、空気電極基体2
7、固体電解質膜26A及び燃料電極膜28の形成過程を説
明するための断面図である。
【図2】(a),(b) 及び(c) は、中間層25の形成過程を説
明するための断面図である。
【図3】本発明を適用できるSOFCの一例を示す概略
断面図である。
【図4】電気抵抗の測定法を説明するための模式図であ
る。
【図5】N2 透過係数の測定法を説明するための模式図
である。
【図6】溶射固体電解質膜の熱処理条件とN2 透過係数
との関係を示すグラフである。
【図7】溶射固体電解質膜の熱処理条件と電気抵抗との
関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例に係るサンプルの研磨面を示す
走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例に係るサンプルの断面について
のEPMAによる線分析の結果を示すグラフである。
【図10】空気電極基体と固体電解質膜との界面近傍を
示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】対照例に係るサンプルの研磨面を示す走査型
電子顕微鏡写真である。
【図12】対照例に係るサンプルの断面についてのEPMA
による線分析の結果を示すグラフである。
【図13】対照例に係るサンプルの空気電極基体と固体
電解質膜との界面近傍を示す走査型電子顕微鏡写真であ
る。
【図14】本発明の実施例に係るSOFCテストピース
の電流密度と電圧の関係を示すグラフである。
【図15】比較例に係るSOFCテストピースの電流密
度と電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 有底円筒状の空気電極管 1b 有底部 1c 円筒状部 2,26A 固体電解質膜 3,28 燃料電極膜 19 SOFC素子 24 空気電極材料 25 中間層 25A 被膜 26 固体電解質原料からなる膜 27 空気電極基体
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭64−45059(JP,A) 特開 平1−144570(JP,A) 特開 平2−227961(JP,A)

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の組成を有するペロブスカイト系複
    合酸化物からなる空気電極基体と、少なくとも空気電極
    基体との界面付近にマンガン又はコバルトが固溶したジ
    ルコニア固体電解質膜と、この固体電解質膜の前記空気
    電極基体と反対側の表面に形成された燃料電極膜とを有
    する固体電解質型燃料電池であって、前記空気電極基体
    と前記固体電解質膜との界面に、ランタンおよびジルコ
    ニウムを含む化合物からなる高抵抗層が実質的に形成さ
    れていない固体電解質型燃料電池。 (La1-y y ) MO3 〔Aは、アルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素
    を表し、Mは、マンガン又はコバルトを表す。0≦y≦
    0.4 〕
  2. 【請求項2】 前記空気電極基体が、厚さ0.5mm 以上の
    構造体であることを特徴とする、請求項1記載の固体電
    解質型燃料電池。
  3. 【請求項3】 前記空気電極基体が、気孔率25%以上の
    多孔体であることを特徴とする、請求項1記載の固体電
    解質型燃料電池。
  4. 【請求項4】 下記の組成を有するペロブスカイト系複
    合酸化物からなる空気電極材料の表面に、マンガン化合
    物又はコバルト化合物からなる中間層を形成し、 この中間層の表面に、固体電解質原料からなる膜を設
    け、 こうして得た積層体を熱処理して前記中間層を消滅さ
    せ、前記空気電極材料を空気電極基体とすると共に固体
    電解質原料からなる膜を気密質の固体電解質膜に変化さ
    せることを特徴とする、固体電解質型燃料電池の製造方
    法。 (La1-y y ) MO3 〔Aは、アルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素
    を表し、Mは、マンガン又はコバルトを表す。0≦y≦
    0.4 〕
  5. 【請求項5】 前記空気電極材料の表面に前記中間層を
    プラズマ溶射によって形成する、請求項4記載の固体電
    解質型燃料電池の製造方法。
  6. 【請求項6】 マンガン化合物又はコバルト化合物を含
    む被膜を前記空気電極材料の表面に湿式法で形成し、次
    いでこの被膜を熱処理して前記中間層を形成する、請求
    項4記載の固体電解質型燃料電池の製造方法。
  7. 【請求項7】 固体電解質原料からなる膜を、プラズマ
    溶射によって形成する、請求項4記載の固体電解質型燃
    料電池の製造方法。
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