JP2526777B2 - ゴルフクラブヘッドの製造方法 - Google Patents

ゴルフクラブヘッドの製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ステンレス製のゴルフ
クラブヘッドの製造方法に関し、素材として深冷処理硬
化型ステンレス鋼を使用することにより、製造時におけ
る成形加工性が容易であり、使用時における強度が高い
ゴルフクラブヘッドを得るものである。
【0002】
【従来の技術】従来、メタルウッド等のゴルフクラブヘ
ッドは、精密鋳造法及びプレス成形法等により製造され
ている。
【0003】精密鋳造法においては、先ず、ろう又は樹
脂等で所望の形状のゴルフクラブヘッドの模型を形成
し、この模型を複数個に分割して、これらの分割材を基
に複数組の鋳型を形成する。そして、これらの鋳型を用
いて析出硬化型ステンレス(SUS630)等を鋳造し
て各ヘッド構成部材を形成し、その後これらの部材を溶
接して、ゴルフクラブヘッドを形成する。
【0004】プレス成形法は、軟鋼からなる金属圧延板
をプレス成形機により成形加工して所望の形状のヘッド
構成部材を形成し、これらの構成部材を組み立ててゴル
フクラブヘッドを形成する方法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た従来のゴルフクラブヘッドの製造方法には以下に示す
問題点がある。即ち、精密鋳造法により製造されたゴル
フクラブヘッドは、鋳造品であるため、成分の偏析及び
鋳造欠陥が存在し、材料の特性を活かしきれず、耐力及
び引張強さ等の機械的特性が低いという難点がある。こ
のため、ヘッドの薄肉化(例えば、厚さ1.0mm以
下)が困難であり、重量の増大を回避しつつ、ヘッドを
大型化することができない。従って、精密鋳造法により
製造されたゴルフクラブヘッドには、スイートエリアが
狭く、打球の方向安定性が悪いという欠点がある。
【0006】プレス成形法においては、軟鋼板を素材と
しているため、錆を防止するための処理が必要であると
いう問題点がある。また、プレス成形法にはスプリング
バックが伴うため、形状凍結性が低く、ゴルフクラブヘ
ッドを所定形状に精密に成形することが困難であるとい
う欠点もある。
【0007】ステンレス鋼を塑性加工してゴルフクラブ
ヘッドを製造することも考えられるが、例えばSUS4
10、420、201、301等のステンレス鋼ではゴ
ルフクラブヘッドとしての強度が不足する。また、SU
S630では強度が高すぎるため、塑性加工が極めて困
難である。
【0008】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
のであって、製造が容易であり、所望の形状に精密に加
工することができて、且つ、強度が高いゴルフクラブヘ
ッドを得ることができるゴルフクラブヘッドの製造方法
を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係るゴルフクラ
ブヘッドの製造方法は、深冷処理硬化型ステンレス鋼か
らなる素材を950乃至1180℃の温度で溶体化処理
する工程と、この溶体化処理した素材を所望の形状に塑
性加工してヘッド構成部材を得る工程と、前記ヘッド構
成部材を溶接して所定のヘッド形状の接合部材を得る工
程と、この接合部材を冷却することにより深冷処理を施
す工程と、深冷処理後の接合部材を300乃至500℃
の温度に保持して時効硬化処理を施す工程とを有するこ
と特徴とする。
【0010】
【作用】本発明においては、深冷処理硬化型ステンレス
鋼を素材としてゴルフクラブヘッドを製造する。深冷処
理硬化型ステンレス鋼は、例えば所定量のC,N,M
n,Ni,Cr,Mo,Cu,Siを含有し残部がFe
及び不可避的不純物からなる合金であり、深冷処理(例
えば、−40℃以下の温度で1時間以上保持)すること
により、硬度が向上する(特公平4-56108 号)。
【0011】本発明においては、このような特性を有す
る深冷処理硬化型ステンレス鋼を素材とし、先ず、この
素材を950乃至1180℃の温度で溶体化処理する。
これにより、前記ステンレス鋼の組織がオーステナイト
組織となり、成形加工性及び溶接性が向上する。そし
て、このようにして溶体化処理した前記ステンレス鋼素
材を塑性加工してヘッド構成部材を形成し、このヘッド
構成部材を溶接して所定のヘッド形状の接合部材を得
る。この場合に、深冷処理硬化型ステンレス鋼は、深冷
処理前はその硬度が低く、伸びが大きいので、比較的容
易に塑性加工することができ、また、降伏強度が低いの
でスプリングバックも少ない。従って、前記ヘッド構成
部材を所定の形状に容易に且つ精密に成形加工すること
ができる。また、溶接時の溶接性も良好である。
【0012】次に、前記接合部材に対し、例えば−40
℃以下の温度で1時間以上保持する深冷処理を実施す
る。この深冷処理により、前記接合部材の硬度が上昇
し、その後時効処理を施すことにより、更に硬度が上昇
して、ゴルフクラブヘッドとして必要な強度(例えば、
降伏強度が100kgf/mm2 以上)を得ることがで
きる。
【0013】なお、塑性加工時における温度を40乃至
150℃とするか、又は成形速度を100mm/秒以上
とすることにより、塑性加工時にトリップ(TRIP)
現象が発生し、塑性加工時に強度が上昇すると共に延性
が向上する。このため、塑性加工時における温度を40
乃至150℃とするか、又は成形速度を100mm/秒
以上とすることが好ましい。
【0014】
【実施例】次に、本発明の実施例について添付の図面を
参照して説明する。
【0015】図1(a)乃至(c)は、本発明の実施例
に係るゴルフクラブヘッドの製造方法に関し、バック側
部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0016】先ず、図1(a)に示すように、深冷処理
硬化型ステンレス鋼板材1を用意する。そして、この板
材1に対し、950乃至1180℃の温度で溶体化処理
を施す。この場合に、適正な溶体化処理時間は板厚によ
り異なり、板厚をt(mm)とすると、処理時間は(2
×t)分間以上とすることが好ましい。なお、昇温時の
条件(温度上昇速度等)は特に制限されるものではな
い。また、溶体化処理後は、板材を急冷(例えば、水
冷)する。この溶体化処理により、ステンレス鋼板材1
の組織はオーステナイト組織となり、塑性加工性が向上
する。
【0017】次に、図1(b)に示すように、板材1を
プレス等により塑性加工して所望の形状の成形加工材2
を得る。この場合に、深冷処理前の板材は比較的軟質で
あるため、スプリングバックの発生量が少なく、所望の
形状に精密に成形することができる。また、このときの
塑性加工は、温度が40乃至150℃、成形速度が10
0mm/秒以上という2つの条件のうちの少なくとも一
方を満足するものであることが好ましい。これにより、
ステンレス鋼のトリップ(TRIP)現象が発生し、強
度が上昇すると共に、延性が向上する。
【0018】次に、図1(c)に示すように、成形加工
材2をトリミングしてバック側部材3を得る。
【0019】図2(a)乃至(c)は、トリップ現象に
よるステンレス鋼の強度及び延性の向上のメカニズムを
示す模式図である。但し、図中白丸はオーステナイト、
黒丸はマルテンサイトを示す。
【0020】図2(a)に示すようにステンレス鋼板材
11に急激な歪みを加えると、図2(b)に示すように
局部的に変形した部分のオーステナイトが硬質なマルテ
ンサイトに変態し、局部的に強度が向上する。その結
果、図2(c)に示すように、変形部分が低強度のオー
ステナイトの部分に移動する。このようにして歪みが次
々に未変形部分に分散され、変形が均一になり、強度が
増加すると共に延性が向上する。
【0021】下記表1に、成形速度を2mm/秒とし、
ステンレス鋼の塑性加工時における成形温度と成形性と
の関係を調べた結果を示す。また、下記表2に、成形温
度を20℃とし、ステンレス鋼の塑性加工時における成
形速度と成形性との関係を調べた結果を示す。但し、下
記表1,2において、成形性が極めて良好である場合を
◎、成形性が良好である場合を○、成形性が劣る場合を
△、成形性が著しく劣る場合を×で示した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】この表1,2から明らかなように、塑性加
工時の温度を40乃至150℃とするか、又は成形速度
を100mm/秒以上とすることにより、良好な成形加
工性を得ることができる。
【0025】図3(a)乃至(b)は、フェース側部材
の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0026】先ず、図3(a)に示すように、バック側
部材と同一の材質のステンレス鋼板材6を用意する。次
に、図3(b)に示すように、この板材6を鍛造加工等
により成形加工し、トリミングを行って、所定の形状の
フェース側部材7を形成する。
【0027】このようにしてバック側部材3及びフェー
ス側部材7を製造した後、図4に示すように、バック側
部材3とフェース側部材7とを溶接し、所望のヘッド形
状の接合部材10を得る。
【0028】次に、この接合部材10を−40℃の温度
に1時間以上保持することにより、深冷処理を施す。な
お、深冷処理後に溶接を行うと、溶接熱で軟化される部
分ができるので、上述の如く、溶接は深冷処理前に実施
する必要がある。
【0029】次いで、この深冷処理後の接合部材10を
300乃至500℃の温度に1時間程度保持することに
より、時効処理を施す。その後、接合部材10の溶接部
分等を研磨する。これにより、ゴルフクラブヘッドが完
成する。
【0030】本実施例においては、深冷処理前に塑性加
工及び溶接を行うので、塑性加工が容易であると共に、
ヘッド構成部材を所望の形状に精密に成形することがで
きる。また、前記ヘッド構成部材を溶接して接合部材を
形成し、この接合部材に深冷処理を施すので、ゴルフク
ラブヘッドとして必要な強度を得ることができる。
【0031】次に、本実施例方法により、ゴルフクラブ
ヘッドの製造を想定して深冷処理硬化型ステンレス鋼の
成形加工時における機械的強度及び深冷処理後の機械的
強度を調べた結果について説明する。
【0032】先ず、試験材として、Mn含有量が0.5
%(重量%;以下、同じ)、Ni含有量が5.0%、C
r含有量が15.0%、Mo含有量が1.0%、Cu含
有量が2.0%、Si含有量が0.5%、C含有量が
0.12%及びNi含有量が0.029%であり、残部
がFe及び不可避的不純物からなる深冷処理硬化型ステ
ンレス鋼板材を用意した。なお、板材の厚さは、フェー
ス用板材が2.7mm、ソール及びクラウン用板材が
0.8mmである。
【0033】次に、この試験材を1050℃の温度で5
分30秒間保持して溶体化処理した。溶体化処理時間
は、最大板厚をt(mm)とすると、(t×2)分間程
度とする。また、溶体化処理後は、試験材を水冷により
急冷した。
【0034】次に、この試験材に対し、成形加工を行っ
た。そして、この成形加工時における試験材の機械的特
性を調べた。なお、この成形加工は、100℃の温度に
おいて行い、トリップ効果を利用して成形した。
【0035】次に、この試験材に−73℃の温度で4時
間保持することにより深冷処理を施した後、空気中で4
80℃の温度で1時間保持することにより時効処理を行
った。そして、この時効処理時における試験材の機械的
強度を調べた。その結果を下記表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】この表3から明らかなように、深冷処理前
の試験材は軟らかく、伸びも良好であり、成形加工性が
優れている。また、深冷処理後においては、機械的強度
が向上し、ゴルフクラブヘッドとして必要な強度(10
0kgf/mm2 )を得ることができる。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係るゴルフ
クラブヘッドの製造方法においては、深冷処理硬化型ス
テンレス鋼を素材とし、深冷処理前に塑性加工して所望
の形状のヘッド構成部材を製造するから、成形加工時の
加工性が容易である。また、本発明方法においては、前
記ヘッド構成部材を溶接して所定のヘッド形状の接合部
材を得た後、この接合部材に対し深冷処理を施してゴル
フクラブヘッドを製造するから、強度が高いゴルフクラ
ブヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)乃至(c)は、本発明の実施例に係る
ゴルフクラブヘッドの製造方法に関し、バック側部材の
製造方法を工程順に示す斜視図である。
【図2】 (a)乃至(c)は、トリップ現象によるス
テンレス鋼の強度及び延性の向上のメカニズムを示す模
式図である。
【図3】 (a)乃至(b)は、フェース側部材の製造
方法を工程順に示す斜視図である。
【図4】 バック側部材及びフェース側部材を溶接して
得た接合部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
1,6,11…板材、2…成形加工材、3…バック側部
材、7…フェース側部材、10…接合部材

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 深冷処理硬化型ステンレス鋼からなる素
    材を950乃至1180℃の温度で溶体化処理する工程
    と、この溶体化処理した素材を所望の形状に塑性加工し
    てヘッド構成部材を得る工程と、前記ヘッド構成部材を
    溶接して所定のヘッド形状の接合部材を得る工程と、こ
    の接合部材を冷却することにより深冷処理を施す工程
    と、深冷処理後の接合部材を300乃至500℃の温度
    に保持して時効硬化処理を施す工程とを有すること特徴
    とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
  2. 【請求項2】 前記塑性加工は、40乃至150℃の温
    度で行うことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラ
    ブヘッドの製造方法。
  3. 【請求項3】 前記塑性加工は、100mm/秒以上の
    成形速度で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載
    のゴルフクラブヘッドの製造方法。
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