JP2025041218A - Limch1を含むバイオマーカー - Google Patents

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Tomomi Kotani
貴文 牛田
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広明 梶山
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Abstract

【課題】新規バイオマーカー及びその用途の提供。
【解決手段】本発明は、LIMCH1又はLIMCH1をコードする遺伝子を含む、妊娠高血圧腎症のバイオマーカーに関する。
【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年8月17日 第31回日本胎盤学会学術集会演題採択結果にて発表 令和5年8月23日 第43回日本妊娠高血圧学会学術集会演題採択結果にて発表
本発明は広く、LIMCH1又はそれを標的とする物質、それらの用途、特にLIMCH1を含むバイオマーカー等に関する。
妊娠高血圧腎症(Preeclampsia)は妊婦の5~10%が発症する重篤な妊娠合併症であり、母体死亡の主要な原因となっている。世界では毎年5万近くの母体と約50万の児が妊娠高血圧腎症により命を落としている。
妊娠高血圧腎症の発症により子宮内胎児発育遅延が引き起こされ、また、治療的早期娩出が超低出生体重児・新生児死亡の要因となるため、妊娠高血圧腎症は臨床的に大きな問題となっている。
妊娠高血圧腎症に対しては、降圧剤による対症療法が行われるが、根本的治療は妊娠の終了、すなわち胎児胎盤の娩出に限られる。妊娠高血圧腎症については安全に妊娠が継続できる効果的な治療方法が存在しないことが問題である。
妊娠高血圧腎症の発症を予測する指標として、sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase 1)/PlGF(placental growth factor)が知られている。sFlt-1/PlGF比の意義は確立されており、同比が38以下の場合、1週間以内のPE発症の可能性は低いとされ、negative predictive valueが高い、と診断され、sFlt-1/PlGF比が高いほど、肺水腫等の重症な合併症を短期間で発症する可能性が高いと報告されている(Harald Zeislerら、“Predictive Value of the sFlt-1:PlGF Ratio in Women with Suspected Preeclampsia”、N Engl J Med. 2016 Jan 7;374(1):13-22.、Stefan Verlohrenら、“Clinical interpretation and implementation of the sFlt-1/PlGF ratio in the prediction, diagnosis and management of preeclampsia”、Pregnancy Hypertens. 2022 Mar;27:42-50.)
Harald Zeislerら、N Engl J Med, 2016 Stefan Verlohrenら、Pregnancy Hypertens, 2022
妊娠高血圧腎症は母児の双方に重篤な合併症を引き起こす妊娠合併症であるが、妊婦を安全な妊娠の継続が可能な状態にしつつ、これを治療する方法は未だ存在しない。
本発明は、妊娠高血圧腎症の診断のための新規指標や治療のための新規標的等を提供することを目的とする。
本発明者は、妊娠高血圧腎症患者に由来する血清中エクソソームの機能解析を通じてLIMCH1を同定し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]
LIMCH1(LIM and calponin homology domains 1)又はLIMCH1をコードする遺伝子を含む、妊娠高血圧腎症のバイオマーカー。
[2]
妊娠高血圧腎症が早発型又は遅発型である、[1]に記載のバイオマーカー。
[3]
妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象由来の検体を解析する方法であって、当該検体において、LIMCH1又はそれをコードする遺伝子の有無を決定する工程を含む、方法。
[4]
LIMCH1が存在している検体は、妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象に由来すると決定される、[3]に記載の方法。
[5]
検体がエクソソームを含む、[4]に記載の方法。
[6]
LIMCH1がエクソソーム上で発現している、[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
エクソソームを含む検体が、全血、血清、血漿、唾液、尿、喀痰、リンパ液、羊水、胎盤組織、及び細胞から成る群から選択される生物学的材料に由来する、[6]に記載の方法。
[8]
sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase-1)の有無を決定する工程を更に含む、[3]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
sFlt-1が胎盤増殖因子(PIGF)に対する比率として測定される、[8]に記載の方法。
[10]
妊娠高血圧腎症の治療又は予防のための医薬組成物であって、LIMCH1又はそれをコードする遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含む、医薬組成物。
本発明者らにより初めて、LIMCH1が妊娠高血圧腎症の発生機序に関与することが明らかとなった。したがって、本発明によれば、LIMCH1を指標とする妊娠高血圧腎症の新規診断手法や、LIMCH1を標的とする妊娠高血圧腎症の新規治療方法の提供が可能となる。
胎盤由来のLIMCH1搭載エクソソームが惹起する血管内皮細胞間接着の破綻は、血管透過性亢進を通して肺水腫や可逆性後頭葉白質脳症と関連している可能性があり、新たな標的となる可能が期待される。
プロテオミクス解析により妊娠高血圧腎症関連エクソソームタンパク質としてLIMCH1を同定する手順の一部(左側)と、EVプロテオミクスデータにおけるノーマライズ後のLIMCH1発現量(右側)とを示す。 LIMCH1の発現を胎盤免疫組織染色にて検証した結果を示す。 胎盤免疫組織染色の結果を更にHALO softwareで解析した結果を示す。青(1):陰性;黄色(2):弱陽性;オレンジ(3):中陽性;赤(4):強陽性。 染色強度を定量化した結果を示す。 20%酸素及び1%酸素(低酸素)下で培養したJAR細胞におけるLIMCH1発現を経時的に解析した結果を示す。 LIMCH1過剰発現JAR由来エクソソームを添加したHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の細胞増殖能を解析した結果を示す。 LIMCH1過剰発現JAR由来エクソソームを添加したHUVECを用いたFITCデキストラン透過性アッセイの結果を示す。 LIMCH1搭載エクソソームに暴露したHUVECにおけるRNA-Seq解析の結果を示す。 LIMCH1搭載エクソソームに暴露したHUVECのGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)解析の結果を示す。
以下、本発明の実施形態又は実施態様について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
バイオマーカー
第1の実施形態において、本発明は、LIMおよびカルポニン相同ドメイン含有タンパク質1(LIM and calponin homology domains 1;LIMCH1)を含む、妊娠高血圧腎症を診断するためのバイオマーカーを提供する。「バイオマーカー」とは、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され、評価される特性を意味し、本明細書では、かかる特性を有するタンパク質、遺伝子等の生体分子を意味する。
一実施態様において、バイオマーカーはLIMCH1から成る。
LIMCH1は、非筋ミオシンII(NM-II)活性を制御するアクチンストレスファイバー関連タンパク質として同定された(Yu-Hung Linら、“LIMCH1 regulates nonmuscle myosin-II activity and suppresses cell migration”, Mol Biol Cell. 2017 Apr 15; 28(8): 1054‐1065)。特に断らない限り、LIMCH1とはタンパク質を意味し、それをコードする遺伝子をLIMCH1遺伝子と称する。
ヒトLIMCH1の例として、配列番号1に示す1057アミノ酸から成るタンパク質がある。配列番号1に示すタンパク質をコードする塩基配列は配列番号2に記載のものである。本配列は、我々が過剰発現に使用したisoform bであり、他にもバリアントが21種類存在するが、そのすべてを本発明は網羅する。
LIMCH1は、妊娠高血圧腎症の診断の指標として、あるいはその標的として使用可能である限り、全長でなくても、その断片、あるいはそれらをコードする核酸、それらに相補的な核酸又はそれらの転写産物であってもよい。
LIMCH1は、妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象由来の任意の生物学的材料中で検出することができる。生物学的材料は特に限定されないが、その例として、全血、血清、血漿、唾液、尿、喀痰、リンパ液、羊水、胎盤組織、及び細胞等が挙げられる。LIMCH1の検出には公知の手段を用いることができる。具体的には、LIMCH1又はその断片、あるいは複合体を認識する抗体を用いてELISA法等の免疫学的手法で検出する方法、試料からLIMCH1又はその断片、あるいは複合体を単離し、直接又は必要に応じ、酵素等で切断し、シーケンサーを利用して検出する方法、質量分析によりLIMCH1又はその断片、あるいは複合体を検出する方法が挙げられる。LIMCH1断片の測定に関しては、LIMCH1断片をそれぞれ特異的に認識する抗体によるELISA法や、液体クロマトグラフィー質量分析法によって定量測定ができる。
LIMCH1をコードする核酸を検出する場合、mRNA、cDNAなどの転写産物を測定してもよい。これらの測定としては特に限定されないが、例えば、PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、分光光度法、蛍光光度法等が挙げられる。
妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に高血圧かつ尿蛋白、もしくは臓器障害により診断される。妊娠高血圧腎症は早発型又は遅発型に大別され、34週未満の発症が早発型(early onset(Eo))、34週以降が遅発型(late onset)とされる。両者の発症機序は互いに異なる可能性が示唆されている。Eoはより重症であり、Eo関連母体死亡率は正常妊娠の10倍にも及び、さらに近年、Eo-PEは増加傾向である。
本明細書で使用する場合、「転写産物」とは、遺伝子のDNAを鋳型として転写されるRNA鎖(RNAポリメラーゼにより合成されるRNA鎖)のみならず、転写後に細胞内で修飾を受けたRNA鎖を意味する。転写産物としてのRNA鎖は広く、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)に加え、タンパク質等に翻訳されないノンコーティングRNA、例えばリボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)を包含する。これらのRNA鎖は、転写後、細胞内でプロセッシングされたものであってもよい。
本発明においては、対象の疾患を高精度に診断するために、妊娠高血圧腎症を検出するための別の指標を用いることもできる。例えば、sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase-1)又はその断片、あるいはそれらをコードする核酸、それらに相補的な核酸又はそれらの転写産物をLIMCH1と併用して妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象由来の検体を解析することもできる。
sFlt-1は、胎盤形成に関わる血管新生因子PlGF(placental growth factor:胎盤増殖因子)の阻害因子であり、これらは妊娠高血圧腎症の病態形成に関与している。sFlt-1/PlGF比はPEの発症を予測する指標として公知である。
sFlt-1/PlGF比が38以下の場合、1週間以内のPE発症の可能性は低いとされ、negative predictive valueが高い、と診断され得る。sFlt-1/PlGF比が高いほど、肺水腫等の重症な合併症を短期間で発症する可能性があると診断され得る。
検出用キット
第2の実施形態において、本発明は、LIMCH1を含む、妊娠高血圧腎症を診断するためのバイオマーカーを検出するためのキットを提供する。
本発明のキットには、バイオマーカーの存在又はその発現量を測定するための試薬を含む。例えば、免疫測定法によりバイオマーカーの発現量を測定する場合には、各マーカーに対する抗体が試薬として使用される。また、必要に応じて、被検者に由来する体液の希釈液、抗体固定化固相、反応緩衝液、洗浄液、標識された二次抗体又はその抗体断片、標識体の検出用試薬、標準物質などもキットに含めることができる。希釈液としては、生理食塩水や、界面活性剤、緩衝液などに牛血清アルブミン(BSA)やカゼインなどのタンパク質を含む水溶液などが挙げられる。
一実施態様において、LIMCH1の存在又はその発現量を測定するための試薬は抗LIMCH1抗体である。
抗体固定化固相としては、各種高分子素材を用途に合うように成型した素材に、抗体又はそれらの抗体断片を固相化したものが用いられる。固相化相の形状としてはチューブ、カップ、ビーズ、プレート、スティック等が挙げられ、その素材としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックスや金属等が挙げられる。抗体を固相化する方法としては、物理的方法と化学的方法、あるいはこれらを併用する方法など、公知の方法が挙げられる。
反応緩衝液は、抗体固定化固相の抗体と被検動物に由来する体液中の抗原とが結合反応をする際の溶媒環境を提供するものであればいかなるものでもよいが、界面活性剤、緩衝液、BSAやカゼインなどのタンパク質、防腐剤、安定化剤、反応促進剤等を含む反応緩衝液が挙げられる。
標識された二次抗体又はその抗体断片としては、バイオマーカーがコードに対する抗体を認識する抗体又はその抗体断片に、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ等の標識用酵素をラベルしたもの、緩衝液、BSAやカゼインなどのタンパク質、防腐剤等を混合したものを用いることができる。
標識体の検出用試薬としては、前記の標識用酵素に応じて、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼを使用する場合には、テトラメチルベンジジンやオルトフェニレンジアミン等の吸光度測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸やヒドロキシフェニル酢酸等の蛍光基質、ルミノール等の発光基質が挙げられ、アルカリホスファターゼを使用する場合には、4-ニトロフェニルフォスフェート等の吸光度測定用基質、4-メチルウンベリフェリルフォスフェート等の蛍光基質等が挙げられる。
また、PCR法によりバイオマーカーの発現量を測定する場合、例えば、バイオマーカーの一部又は全体を特異的に増幅することが可能なプライマーをキットに含めることができる。また、必要に応じて、逆転写酵素、Taqポリメラーゼ、反応緩衝液等を含めてもよい。リアルタイムPCRの場合には、蛍光試薬等も含まれる。
本発明のキットには、使用方法等を示す添付文書を適宜含めることもできる。また、本発明のキットは広く、バイオマーカーの検出に使用される装置等を含んでもよい。
解析方法
第3の実施形態において、本発明は、妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象由来の検体を解析する方法を提供する。本発明の方法は、臨床検査技師がin vitroで疾患に関する検査情報を評価する際に使用され得る。したがって、本発明の方法は、直接的又は間接的に、医師が妊娠高血圧腎症を適切に診断又は治療するために使用することもできる。
本発明の検出方法は、対象由来の検体において、1又は複数のバイオマーカーを検出又は定量する工程を含む。
一実施態様において、バイオマーカーを検出又は定量する工程は、LIMCH1又はそれをコードする遺伝子の有無を決定する工程を含む。
本明細書で使用する場合、「対象」は、ヒトや非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、アカゲザル、チンパンジーなどのサル)、その他の哺乳動物、例えば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラットおよびマウス)を含む、任意の脊椎動物を意味する。実施形態によって、対象はヒト又はヒト以外の動物であってよい。実施形態によって、対象は、妊娠高血圧腎症を発病するリスクのある患者又は既にこのような疾患を発病している患者であってよい。
本明細書で使用する場合、「検体」は、広く、LIMCH1などの標的を含有すると考えられる生物学的材料を意味する。検体を得るために、任意の細胞、組織又は体液が利用され得る。そのような細胞、組織及び体液は、生検や剖検サンプルなどの組織の切片、組織学の目的のために採取された凍結切片、(全血などの)血液、血漿、血清、赤血球、血小板、痰、便、涙、粘液、唾液、婦人科学的な液体、羊水、尿、気管支肺胞洗浄(BAL)液、間質液、眼球水晶体液、脳脊髄液、汗、鼻汁、滑液、帯下液などを含み得る。細胞及び組織は、リンパ液、腹水、尿、腹腔液、脳脊髄液等を含んでもよい。検体は対象由来の生物学的材料を培養したものでもよい。目的に応じて試料から標的タンパク質等の単離や精製が行われることもある。
一実施態様において、検体は細胞外小胞、好ましくはエクソソームを含む。
細胞外小胞やエクソソームは、超遠心分離法、密度勾配超遠心法(DGUC)、共沈殿法、限外ろ過法、イムノアフィニティによる精製法、サイズ排除クロマトグラフィー精製法、マイクロ流体分離技術等の公知の方法により検体から単離される。細胞外小胞やエクソソームを含む検体は、例えば、全血、血清、血漿、唾液、尿、喀痰、リンパ液、羊水、胎盤組織、及び細胞から成る群から選択される。
一実施態様において、LIMCH1はエクソソーム上で発現している。
対象から採取された検体は、バイオマーカーの検出を行うに際し、適宜必要とされる前処理を行うことができる。例えば、検体は適宜希釈して用いることが好ましい。希釈に用いる溶液は、バイオマーカーの検出に影響を与えないものであれば特に限定されない。
試料において、バイオマーカーが検出されるか、あるいはその濃度が健常者との比較で高い場合に、対象が妊娠高血圧腎症に罹患し易い、当該疾患に罹患している、又は当該疾患が進行していると決定することができる。
スクリーニング方法
第4の実施形態において、本発明は妊娠高血圧腎症を治療又は予防するための医薬をスクリーニングするための方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、LIMCH1又はその断片、あるいはそれらをコードする核酸、それらに相補的な核酸又はそれらの転写産物の発現を阻害する物質を医薬の候補物質として選定する工程を含んでもよい。
本発明のスクリーニング方法により得られた医薬は、所望の効果、特にLIMCH1発現阻害効果、延いては妊娠高血圧腎症を治療又は予防する効果を発揮する限り、その投与経路、投与量、用法、剤形などは特に限定されない。
医薬組成物
第5の実施形態において、本発明は妊娠高血圧腎症の治療又は予防のための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、LIMCH1又はその断片、あるいはそれらをコードする核酸、それらに相補的な核酸又はそれらの転写産物の発現を抑制する物質を有効成分として含む。
医薬組成物は、妊娠高血圧腎症を治療又は予防する効果を発揮する限り、その投与経路、投与量、用法、剤形などは特に限定されない。
一実施態様において、有効成分は抗LIMCH1抗体である。
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<被検体とサンプル収集>
書面によるインフォームドコンセントを提供した女性のうち、2014年から2022年に当院で分娩した早発型妊娠高血圧腎症(PE)女性7人のPE発症後の血清と、のちにPEを発症しなかった女性9人の妊娠週数をそろえた血清を使用した。血清は3,000rpm(500g)、4℃、10分間遠心分離後に上清を回収し、使用するまで-80℃で保管した。
被検体の情報を表1に示す。
<細胞外小胞(EVs)の単離>
各サンプル1mlを10,000g、40分、4℃にて遠心分離した。上清にD-PBSを追加し0.45μmフィルター(Millex-HV 13mm, Millipore)でろ過し、MLS50ローター(Beckman Coulter Inc, USA)を用いて、110,000g、4℃、70分で超遠心分離を行った。
上清を破棄し、D-PBSを追加してProteoExtract Albumin/IgG Removal Kit(Merck&Co. Inc, USA)を用いてアルブミンやIgGを除去した。さらにD-PBSを追加し、110,000g、4℃、70分で超遠心分離を追加し、small EVsを単離した。
<LC-MS/MS>
Small EVsはEasyPep(登録商標)Mini MS Sample Prep Kit(Thermo Fisher Scientific Inc., USA)を用いてペプチド化し、LC-MS/MSに進んだ。
ペプチドの分析は、Orbitrap Fusion mass spectrometer(Thermo Fisher Scientific)とUltiMate3000 RSLCnano LCシステム(Dionex Co., The Netherlands)を組み合わせ、ナノ高性能LCキャピラリーカラム(内径150mm×75μm)(Nikkyo Technos Co., Japan)を使用してナノエレクトロスプレーイオン源を介してLC-MSで行った。
逆相クロマトグラフィーは、溶媒A(0.1%ギ酸含有2%アセトニトリル)と溶媒B(0.1%ギ酸含有95%アセトニトリル)のリニアグラジエント(0分、5%B;100分、40%B)で、推定流速300nl/minで行った。MS/MS分析の前に、質量電荷比(m/z)が400から1600のプリカーサーイオンスキャンを行った。MS/MSは、四重極を用いた1.6m/zの分離幅、規格化衝突エネルギー35%の高エネルギーCトラップ解離フラグメンテーション、イオントラップでのラピッドスキャンMS分析を用いて行った。MS2では電荷状態2~6の前駆体のみがサンプリングされた。動的排除時間は15秒に設定され、許容誤差は10ppm (parts per million)に設定した。装置は3秒サイクルのトップスピードモードで実行した。
<プロテオミクスデータ解析>
Proteome Discover(version 1.4, Thermo Fisher Scientific)単独、またはMASCOT search engine(version 2.7.0, Matrix Science Inc., Boston, MA, USA)を組み合わせてローデータを処理し、タンパク質を同定した。ペプチドとタンパク質は、UniProt(2021_02)データベースを参照し、前駆体質量の許容誤差を10ppm、フラグメントイオン質量の許容誤差を0.8Daとして同定した。固定修飾はシステインのカルバミドメチル化、可変修飾はメチオニンの酸化とした。トリプシンによる2回のミス切断を許容した。
早発型妊娠高血圧腎症(PE)女性7人と、PEを発症しなかった女性9人との合計16人のうち、8例以上で検出された356タンパク質を対象に解析し、得られた定量値を対数化しQuantile法で補正した。9例以上で検出されなかったタンパク質は除外された。
PE患者が2群に分かれたため、コントロールとの比較をcluster1とcluster2に分けて施行した。cluster1とcluster2の間で重複する76タンパク質をPE関連EVタンパク質として選択した。
PE関連EVタンパク質として選択されたPE患者血清EV中で発現が上昇していたタンパク質76個のうち、2つのGEOデータセット(GSE114691とGSE148241:胎盤のRNA-seq)においてもPE胎盤で発現が上昇していたLIMCH1を選択した(図1左)。EVプロテオミクスデータにおけるノーマライズ後のLIMCH1発現量をコントロールとの比較でグラフに示した(図1右)。
<免疫組織化学染色>
LIMCH1の発現を胎盤免疫組織染色にて検証した。血清プロテオミクス解析の対象となったPE7人の帝王切開時の胎盤と、PEのない人工早産となった5人の帝王切開時の胎盤を対象とした。パラフィン切片を脱パラフィンし、電子レンジを用いて10mMクエン酸緩衝液にて抗原の賦活化を行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を3%過酸化水素/メタノール30分でブロックした。10%ヤギ血清で30分処理することによりブロッキングし、抗LIMCH1抗体(ab96178; Abcam, Oxford, UK)を1/200希釈し添加して、4℃で1晩処理した。PBSで洗浄後、ヒストファインシンプルステインMAX-PO(R)キット(Nichirei Bioscience Inc., Tokyo, Japan)を用いて処理し、可視化はジアミノベンジジン(DAB: Nichirei Biosience)により行い、マイヤーヘマトキシリン溶液(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)で対比染色した。画像解析はHALO software(Indica Labs, Albuquerque, NM, USA)を用いて施行した。
免疫染色の結果を図2に示す。免疫組織染色の結果は、LIMCH1が主に細胞性栄養膜細胞(Syncytiotrophoblast)で発現することを示している。
HALO softwareによる解析を図3に示す。青(1)が陰性、黄色(2)が弱陽性、オレンジ(3)が中陽性、赤(4)が強陽性であり、H-scoreは1×弱陽性細胞の割合(%)+2×中陽性細胞の割合(%)+3×強陽性細胞の割合(%)で計算した。
染色強度を定量化した結果を図4に示す。PE胎盤では正常胎盤に比して有意にH-scoreが高かった(p<0.05)。
続いて、絨毛癌培養細胞株であるJAR細胞におけるLIMCH1発現を確認した。20%酸素及び1%酸素(低酸素)下に、8時間・24時間・48時間・72時間JAR細胞を培養した後、RNAを抽出し逆転写を行い定量PCRで内部標準にGAPDHをおいて20%酸素と1%酸素によるLIMCH1発現の変化を調べた。QIAzolとmiRNeasy Mini Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いてtotal RNAの抽出を行った。結果を図5に示す。JAR細胞におけるLIMCH1発現は低酸素により有意に増加していることが明らかとなった(p<0.05)。PE胎盤は低酸素にさらされていることが報告されているため、PE胎盤におけるLIMCH1発現上昇は、低酸素が関連している可能性が示唆された。
続いて、JARにおいてFLAG-LIMCH1もしくはFLAGタグのみをレトロウイルスを用いて導入し、LIMCH1恒常的過剰発現株と対照株を作成した。それぞれの細胞株から超遠心法を用いてエクソソームを抽出し、エクソソーム中においてもLIMCH1の過剰発現に成功したことを確認した。LIMCH1過剰発現JAR由来エクソソームを添加したHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の細胞増殖能を検討し、FITCデキストラン透過性アッセイを行った。細胞増殖能はIncucyte SX5(SARTORIUS,Gottingen,Germany)により評価した。FITCデキストラン透過性アッセイは、HUVECを0.4μm孔12well-transwellに播種しコンフルエントに達したところでEVを添加し、24時間後に40kDaのFITCデキストランを添加し、下層のFITCのOD値を経時的にプレートリーダーで測定した。
LIMCH1過剰発現JAR由来EVは対照EVに比してHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の細胞増殖能に変化は認めなかったが(図6)、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)デキストラン透過性アッセイでは、LIMCH1搭載EV添加にて有意に透過性亢進を認めた(p<0.01)(図7)。
LIMCH1搭載EVに暴露したHUVECにおけるRNA-Seq解析およびGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)を行った。total RNAは、HUVECをLIMCH1搭載EVもしくは対照EVに24時間暴露させ、QIAzolとmiRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて抽出した。RNA-SeqはNovaSeq(Illumina,CA,USA)により施行した。GSEA解析はWEBサイト(http://www.broadinstitute.org/gsea/index.jsp)を用いて行った。
その結果、LIMCH1搭載EVに暴露したHUVECと、対照EVに暴露したHUVECとでは細胞間接着や体液量調節に関連する遺伝子群が有意に変化していた(図8、9)。この結果から、LIMCH1搭載EVが惹起する血管内皮細胞間接着の破綻は、血管透過性亢進を通して肺水腫や可逆性後頭葉白質脳症などのPE合併症の発症機序となりうると考えられる。

Claims (10)

  1. LIMCH1(LIM and calponin homology domains 1)又はLIMCH1をコードする遺伝子を含む、妊娠高血圧腎症のバイオマーカー。
  2. 妊娠高血圧腎症が早発型又は遅発型である、請求項1に記載のバイオマーカー。
  3. 妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象由来の検体を解析する方法であって、当該検体において、LIMCH1又はそれをコードする遺伝子の有無を決定する工程を含む、方法。
  4. LIMCH1が存在している検体は、妊娠高血圧腎症に罹患しているか、又は罹患する可能性がある対象に由来すると決定される、請求項3に記載の方法。
  5. 検体がエクソソームを含む、請求項4に記載の方法。
  6. LIMCH1がエクソソーム上で発現している、請求項5に記載の方法。
  7. エクソソームを含む検体が、全血、血清、血漿、唾液、尿、喀痰、リンパ液、羊水、胎盤組織、及び細胞から成る群から選択される生物学的材料に由来する、請求項6に記載の方法。
  8. sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase-1)の有無を決定する工程を更に含む、請求項3又は4に記載の方法。
  9. sFlt-1が胎盤増殖因子(PIGF)に対する比率として測定される、請求項8に記載の方法。
  10. 妊娠高血圧腎症の治療又は予防のための医薬組成物であって、LIMCH1又はそれをコードする遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含む、医薬組成物。
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