JP2024124755A - Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤 - Google Patents

Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤 Download PDF

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まどか 辻本
泰資 林
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Abstract

【課題】Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤を提供すること。【解決手段】オルニチン又はその塩を含有する、Foxp3遺伝子発現増強剤、及びオルニチン又はその塩を含有する、制御性T細胞の活性促進剤。【選択図】図1

Description

本発明は、Foxp3遺伝子発現増強剤、及び制御性T細胞の活性促進剤に関する。
Foxp3(forkhead box P3)は制御性T細胞(以下、Treg細胞ともいう)のマスター転写因子として知られている(非特許文献1)。Foxp3はTreg細胞の分化から機能発現のすべてにおいて重要な役割を果たす転写因子であり、Treg細胞に高発現することからTreg細胞を同定する際のマーカーでもある。
Treg細胞は免疫応答を抑制することで免疫の恒常性の維持に寄与し、特に、自己免疫疾患、アレルギー疾患並びにクローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)を含む炎症性疾患などを惹起する過剰な免疫応答の抑制に重要な役割を果たしている。
実際に、近年、大腸炎モデルマウスにTreg細胞を移植することで、当該疾患が治癒することが示された(非特許文献3)。また、アリール炭化水素受容体(AhR)のリガンドとして知られるトリプトファン代謝物のキヌレニンは、Treg細胞への分化を促進し、AhRの活性化を介してTreg細胞におけるIL-10産生を誘導することで炎症抑制作用を有することが示された(非特許文献4)。
したがって、Treg細胞数の増加及びTreg細胞の活性化は、これらの疾患への抑制や治療に重要である。
Erika L Pearce, "Metabolismas a driver of immunity", Nature Reviews Immunology 21.10 (2021): 618-619. Robert S Wildin and AntonioFreita, "IPEX and FOXP3: Clinical and research perspectives", Journalof autoimmunity 25 (2005): 56-62. Christian Mottet, et al., "CuttingEdge: Cure of Colitis by CD4+CD25+ Regulatory T Cells", The Journal ofImmunology 170.8 (2003): 3939-3943. Kohei Sugihara, et al., "TheRole of Dietary Nutrients in Inflammatory Bowel Disease", Frontiers inImmunology 9 (2019): 3183.
本発明は、Foxp3遺伝子発現増強剤及びTreg細胞の活性促進剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、オルニチンが、Foxp3遺伝子発現増強及び制御性T細胞の活性促進に有効であることを新たに見出し、本発明の完成に至った。
本発明は以下の[1]~[13]に関する。
[1]オルニチン又はその塩を含有する、Foxp3遺伝子発現増強剤。
[2]オルニチン又はその塩を含有する、制御性T細胞の活性促進剤。
[3]オルニチン又はその塩を含有する、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御用医薬組成物。
[4]オルニチン又はその塩を含有する、自己免疫疾患、炎症性疾患、腫瘍免疫疾患、及び感染性疾患からなる群から選択される疾患の予防及び/又は治療用食品組成物。
[5]オルニチン又はその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、Foxp3遺伝子発現を増強する方法。
[6]オルニチン又はその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、制御性T細胞の活性を促進する方法。
[7]オルニチン又はその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患を予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御方法。
[8]Foxp3遺伝子の発現を増強する方法に使用するための、オルニチン又はその塩。
[9]制御性T細胞の活性を促進する方法に使用するための、オルニチン又はその塩。
[10]自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患を予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御方法に使用するための、オルニチン又はその塩。
[11]Foxp3遺伝子発現増強剤を製造するための、オルニチン又はその塩の使用。
[12]制御性T細胞の活性促進剤を製造するための、オルニチン又はその塩の使用。
[13]自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患の予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御用医薬組成物を製造するための、オルニチン又はその塩の使用。
本発明によれば、Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤を提供できる。本発明によれば、また、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患の予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御が可能な食品組成物又は医薬組成物を提供できる可能性がある。
図1は、マウスの脾臓のFoxp3 mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す。
制御性T細胞(Treg細胞)は、自己に対する免疫応答を抑制(免疫寛容)する役割を持つ、免疫抑制細胞の一つである。Treg細胞には、Treg細胞の特異的なマーカーであるFoxp3が発現している。このFoxp3は、Treg細胞への分化に重要な役割を果たすことが知られており、Foxp3遺伝子が欠損すると、自己免疫応答が惹起され、自己免疫疾患の発症に至ることが知られている。
本明細書において、Treg細胞とは、Foxp3を発現しているFoxp3制御性T細胞を意味する。
Treg細胞の活性化により、過剰な免疫応答を抑制することができ、自己免疫疾患、及び/又は炎症性疾患の予防及び/又は治療、並びに腫瘍免疫、及び/又は感染免疫の制御をすることができる。
オルニチンは、遊離アミノ酸の一種であり、魚介類、特にシジミ貝に多く含まれる成分である。本発明においてオルニチンは、L-オルニチン、D-オルニチンのどちらでもよい。また、オルニチンは、公知の科学的合成方法や発酵方法により製造されたもの、又は一般的に市販されているものを用いてもよい。
オルニチンの塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩;酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;L-アスパラギン酸等のアミノ酸との塩等を挙げることができる。一態様において、オルニチンの塩は、オルニチン塩酸塩又はオルニチン・アスパラギン酸塩であり、L-オルニチン塩酸塩又はL-オルニチン・L-アスパラギン酸塩である。
後述する実施例に示すように、オルニチン又はその塩は、Foxp3遺伝子の発現を増強する効果を有する。本明細書において、「Foxp3遺伝子の発現を増強する効果」とは、対照群と比べてFoxp3遺伝子の発現量(Foxp3 mRNA量及び/又はFoxp3 タンパク質量)を増加させる効果を意味する。「Treg細胞の活性を促進する効果」は、Treg細胞の細胞数を増加させる効果、又はTreg細胞を機能的に活性化させる効果を意味する。
上記のように、Foxp3遺伝子の発現を増強する、及び/又はTreg細胞の活性を促進することにより、過剰な免疫応答を抑制することができ、自己免疫疾患の予防及び/又は治療のみならず、炎症性疾患の予防及び/又は治療、腫瘍免疫、及び/又は感染免疫における過剰反応を制御できる可能性がある。
本明細書において「予防」とは、対象における疾患又は症状の発症の防止又は遅延、あるいは対象の疾患又は症状の発症の危険性を低下させることをいう。また、本明細書において、「治療」とは、対象の疾病又は病状のうち少なくとも1つを緩和するとの意味で使用される。「対象」とは、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、及びラットなどの哺乳類が挙げられ、さらに「対象」はヒトであることが好ましい。
自己免疫疾患の例としては、1型糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、および重症筋無力症、バセドウ病、橋本甲状腺炎、血管炎が挙げられる。
炎症性疾患の例としては、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患が挙げられる。
本発明の一側面におけるFoxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤は、オルニチンを有効成分として含有する。Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤は、有効量のオルニチンを含有する限り、他の成分を含んでいてもよい。
一実施形態において、Foxp3遺伝子発現増強剤及び制御性T細胞の活性促進剤は、オルニチンから本質的に構成され得る。また、Foxp3遺伝子の発現を増強する効果、及び/又はTreg細胞の活性を促進する効果を奏する範囲であれば、オルニチンを含有する組成物とすることができる。当該組成物の例としては、後述する食品組成物及び医薬組成物が挙げられる。
食品組成物には、健康補助食品及び栄養補助食品を含む一般食品、機能性表示食品、並びに特定保健用食品等が含まれる。食品組成物の形態は、例えば、固形状、液状、顆粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状又はペースト状の食用に適した形態とすることができる。
食品組成物は、Foxp3遺伝子の発現を増強する効果及び/又は制御性T細胞活性の促進する効果を発揮できる限り、食品として許容される成分を含んでいてもよい。食品として許容される成分としては、例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等が挙げられる。
食品組成物の摂取量は、年齢、及び食品組成物の形態等に応じて、異なるが、通常の場合には成人に対し、有効成分であるオルニチンとして、1日当たり100~5000mg、好ましくは150~4000mg、最も好ましくは200~3000mg摂取すればよく、100~5000mgを1日当たり1回又は数回に分けて、連日摂取するのが好ましい。
医薬組成物は、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤若しくはシロップ剤として経口的に投与することができ、注射剤、輸液、若しくは坐剤として非経口的に投与することもできる。簡便に投与できることから、経口投与が好ましい。これらの剤型には、公知の製剤技術によって製剤化することができる。固形剤の場合には、製剤化に際して薬理学的に認容し得る賦形剤、例えば澱粉、乳糖、精製白糖、グルコース、結晶セルロース、カルボキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、燐酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、アラビアゴム等を配合することができ、必要であれば滑沢剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、着色剤等を配合することができる。また、液剤の場合には、安定剤、溶解助剤、懸濁化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤等を配合することができる。
医薬組成物の投与量は、症状、年齢、投与法、剤型等により異なるが、通常の場合には、成人に対し、有効成分であるオルニチンとして、1日当たり100~5000mg、好ましくは150~4000mg、最も好ましくは200~3000mg投与することができ、100~5000mgを1日当たり1回又は数回に分けて、連日投与するのが好ましい。
以下、実施例を用いて、本発明をより具体的に説明する。しかし、本願発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
BALB/cマウス(雌、5週齢、体重約20g)(日本クレア株式会社)を試験に使用した。マウスは5匹ずつに分けて飼育され、1週間の順化後に実験に使用した。照明条件は、12時間明期と12時間暗期の明暗周期とした。飼育室の室温は24±2℃にし、自由飲水・自由摂食の条件下で飼育した。
マウスの搬入日から1週間後をDay0とした。Ovalbmin(OVA)(Grade V,Sigma-Aldrich)及び水酸化アルミニウムゲル(ALUM,LSL)を生理食塩水に溶解して全身感作用溶液を調製した。調製した全身感作用溶液(5μg/mLのOVA及び500μg/mLの水酸化アルミニウムゲルの溶解液)200μLをDay0及びDay5にマウスの腹腔内に投与して全身感作を行った。続いて、Day14からDay35までの期間は、毎日、OVA溶液(100mg/mL生理食塩水)を両鼻腔に2μLずつ、マイクロピペットを用いて投与し、局所感作を行った。
実験群を以下のとおりに設定した。
(1)ビークル群(OVA免疫なし、水投与)、n=12
(2)コントロール群(OVA免疫あり、水投与)、n=12
(3)オルニチン投与群(OVA免疫あり、オルニチン水溶液(1mg/mL)投与)、n=12
投与した水、及びL-オルニチン一塩酸塩(ナカライテスク株式会社)を溶解した水は水道水であり、水及びオルニチン水溶液は給水瓶により自由摂取させ、2~3日ごとに新しい溶液に交換した。なお、本実験において、マウスの飲水量は1日あたり約4~5mLであった。つまり、一日あたり約4~5mgのオルニチンを摂取したこととなる。この投与量をヒトに換算する場合は、ヒト等価用量(HED)を利用して推定できる。
Day36に、マウスをイソフルラン(富士フイルム和光純薬株式会社)で吸入麻酔し、脾臓を摘出した。脾臓をRNAiso Plus(コスモ・バイオ株式会社)中でホモジナイズした後に遠心分離した(16,000g,5分,4℃)。上清を1.5mLチューブに移し、クロロホルム(ナカライテスク株式会社)を0.2mL加えて強く撹拌した。室温で5分間静置した後に遠心分離(16,000g,15分,4℃)を行い、上清を新しい1.5mLチューブへ移した。その後、イソプロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社)を0.6mL加えて撹拌し、室温で5分間静置した後に遠心分離した(16,000g,5分,4℃)。上清を除去した後に75%エタノールで沈殿物を洗浄して、total RNAを得た。
得られたtotal RNAからPrimeScriptTM RT Master Mix(タカラバイオ株式会社)を用いてcDNAを合成した。cDNAを鋳型にLuna Universal qPCR Master Mix(ニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社)を用いて、Thermal Cycler Dice, Real Time SystemII, TP870(タカラバイオ株式会社)を用いてリアルタイムPCRを行いFoxp3遺伝子及びβ-アクチン遺伝子の発現レベルを評価した。なお、β-アクチン遺伝子は、内部標準として用いた。使用したプライマーは次の通りであった。
Foxp3遺伝子用プライマー
5’-GCCCATCCAATAAACTGTGG-3’(配列番号1)
5’-GTATCCGCTTTCTCCTGCTG-3’(配列番号2)
β-アクチン遺伝子用プライマー
5’-GAGACCTTCAACACCCCAGC-3’(配列番号3)
5’-ATGTCACGCACGATTTCCC-3’(配列番号4)
Foxp3 mRNAレベルを図1に示す。図1において、結果は平均値±標準誤差で示し、統計処理にはTukey-Kramer法による多重比較試験を行い、有意差の基準をp<0.05とした。
オルニチン投与群はビークル群に比べて、Foxp3 mRNAレベルが有意に増加した。Foxp3遺伝子はTreg細胞のマーカー遺伝子であることから、オルニチンにはTreg細胞数を増加させる効果があると考えられる。

Claims (2)

  1. オルニチン又はその塩を含有する、Foxp3遺伝子発現増強剤。
  2. オルニチン又はその塩を含有する、制御性T細胞の活性促進剤。

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