JP2024110681A - ポリオレフィン微多孔膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】小サイズの物質を捕集する性能と、捕集された物質を回収する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜を提供する。【解決手段】ポリオレフィンを含み、ガーレ値が1秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが5μm以上25μm以下であり、空孔率が65%以上85%以下であり、平均孔径が0.05μm以上0.30μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜である。【選択図】なし

Description

本開示は、ポリオレフィン微多孔膜に関する。
気体や液体中の異物を捕集する手段として、不織布が広く使用されている。例えば、特許文献1には不織布からなり浸漬型濾過カートリッジに用いられる液体フィルターが記載されている。
特開2019-198833号公報
捕集対象となる物質のサイズが0.1μmから1.0μm程度に小さくなると、不織布製のフィルターでは充分に捕集できない場合がある。不織布製のフィルターの場合、構成繊維に物質を絡めて捕集するので、小さな物質の捕集性能を高めるためには、不織布の膜厚を大きくするなどの必要がある。しかしながら、不織布の膜厚を大きくするとフィルターが大型化してしまうなどの問題もある。したがって、小サイズの物質を効率良く捕集できるフィルターが求められている。
また、フィルターを継続的に使用する、捕集された物質を何らかの目的で利用するなどの場合には、フィルターから回収できる捕集された物質の割合が大きいほど好ましい。すなわち、捕集された物質を回収する性能に優れるフィルターが求められているが、不織布製のフィルターでは十分な回収率を得られない。
さらに、フィルターの処理効率の観点からは、捕集を意図しない物質の単位時間あたりのフィルター透過量は多いほど好ましい。すなわち、捕集対象以外の物質を選択的に透過する性能に優れるフィルターが求められている。
このような要求特性を不織布で解決することには限界があるが、一方で、ポリオレフィン微多孔膜はフィブリル状のポリオレフィンを三次元網目状に形成したものであるため、上記要求特性を両立し得る可能性がある。
上記事情に鑑み、本開示の実施形態は、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集された物質を回収する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜を提供することを課題とする。
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>ポリオレフィンを含み、ガーレ値が1秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが5μm以上25μm以下であり、空孔率が65%以上85%以下であり、平均孔径が0.05μm以上0.30μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜。
<2>前記ポリオレフィンがポリエチレンを含む、<1>に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<3>前記ポリエチレンが超高分子量ポリエチレンを含み、前記超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が65質量%以下である、<2>に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<4>ガーレ値が5秒/100mL以上15秒/100mL以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
<5>空孔率が70%以上80%以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
<6>平均孔径が0.10μm以上0.25μm以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
<7>MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向)が0.75以上1.25以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
本開示の実施形態によれば、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集された物質を回収する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れるポリオレフィン微多孔膜が提供される。
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。本開示において述べる作用機序は推定を含んでおり、その正否は発明の範囲を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示においてポリオレフィン微多孔膜の「MD方向(機械方向)」とは、長尺状に製造されるポリオレフィン微多孔膜における長尺方向を意味し、「TD方向(幅方向)」とは「機械方向」に直交する方向を意味する。
<ポリオレフィン微多孔膜>
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンを含み、ガーレ値が1秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが5μm以上25μm以下であり、空孔率が65%以上85%以下であり、平均孔径が0.05μm以上0.30μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、小サイズの物質を捕集する性能と、捕集された物質を回収する性能と、捕集対象以外の物質を透過する性能とに優れる。具体的には、捕集対象の物質の大きさが0.1μm以上1.0μm以下である場合の捕集性能に特に優れる。捕集対象の物質は流体中に存在していてもよく、流体は液体でも気体でもよい。
平均孔径が0.05μm以上0.30μm未満の範囲のポリオレフィン微多孔膜は一般的にガーレ値が増大する傾向にある。しかし、本開示では厚みを5μm以上25μm以下として空孔率を65%以上85%以下にしたことで、ガーレ値が1秒/100mL以上20秒/100mL以下であるという物性を実現している。それにより、小サイズの物質を捕集する性能と流体の透過性能をバランスよく実現しており、しかも捕集後の物質の回収性能も高い水準を実現している。物質の回収性能が良好であると、例えばポリオレフィン微多孔膜を液体または気体フィルターとして利用する際に、フィルターの繰り返し使用が可能になり環境負荷が少ない。また、例えば、捕集した物質の利用を目的とする場合は、回収性が良くなり生産性が高い。
本開示においてポリオレフィン微多孔膜とは、ポリオレフィンを含む微多孔膜を意味する。微多孔膜とは、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体又は液体が通過可能な状態である膜を意味する。
従来のポリオレフィン微多孔膜は、小サイズの物質を捕集する性能(以下、捕集性能ともいう)と、捕集された物質を回収する性能(以下、回収性能ともいう)と、捕集対象以外の物質を透過する性能(以下、透過性能ともいう)の少なくともいずれかにおいて改善の余地がある。
特定のガーレ値、厚み、空孔率及び平均孔径の条件を満たす本開示のポリオレフィン微多孔膜は、これらの性能をバランスよく充足している。
本開示において、捕集対象となる物質のサイズは特に制限されない。
例えば、捕集対象となる物質が粒子状である場合、捕集対象となる物質の平均粒子径は0.05μm以上10μm以下の範囲内であってもよく、0.1μm以上5μm以下の範囲内であってもよい。
本開示において捕集対象となる物質の平均粒子径は、画像解析法により求める。具体的には、電子顕微鏡等を用いて100個の粒子を観察し、観察された粒子の粒子径の算術平均値を捕集対象の平均粒子径とする。
捕集対象は、液体又は気体に含まれた状態であってもよい。
[ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンのみからなっていても、ポリオレフィンとポリオレフィン以外の材料とからなっていてもよい。ポリオレフィン微多孔膜がポリオレフィンとポリオレフィン以外の材料とからなる場合、ポリオレフィン微多孔膜全体に占めるポリオレフィンの割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは1種のみでもよく、分子構造、分子量等が異なる2種以上であってもよい。
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンとしてポリエチレンを含んでもよい。この場合、ポリオレフィン微多孔膜はポリオレフィンとしてポリエチレンのみを含んでも、ポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)とを含んでもよい。ポリオレフィン微多孔膜がポリオレフィンとしてポリエチレンとポリエチレン以外のポリオレフィンとを含む場合、ポリオレフィン全体に占めるポリエチレンの割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンに含まれるポリエチレンとして超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含んでもよい。ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含んでいると、ポリオレフィン微多孔膜の孔径が大きすぎず捕集性能に優れる傾向にある。
ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含む場合、超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が65質量%以下であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が65質量%以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の孔径が小さすぎず透過性能に優れる傾向にある。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合は63質量%以下であることが好ましく、61質量%以下であることがより好ましい。
また、ポリオレフィン微多孔膜が超高分子量ポリエチレンを含む場合、超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が1質量%以上であることが好ましい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が1質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度を高めやすい。超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜が、ポリオレフィンとして超高分子量ポリエチレンと超高分子量ポリエチレン以外のポリオレフィン(以下、その他のポリオレフィンともいう)とを含む場合、その他のポリオレフィンの種類は特に制限されない。その他のポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。本開示において高密度ポリエチレンとは、密度が942kg/m以上のポリエチレンを意味する。
本開示において、超高分子量ポリエチレンとは重量平均分子量が100万以上600万以下であるポリエチレンを意味する。
超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、300万以上が好ましく、400万以上がより好ましい。また超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量は、500万以下であることが好ましく、480万以下であることがより好ましい。
本開示においてポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される。
具体的には、測定対象のポリオレフィンをo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6-HT及びGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行うことで得られる。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いる。
[ガーレ値]
本開示のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、1秒/100mL以上20秒/100mL以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ガーレ値が1秒/100mL以上であることで充分な捕集性能が確保され、ガーレ値が20秒/100mL以下であることで充分な透過性能が確保される。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、5秒/100mL以上であることが好ましく、7秒/100mL以上であることがより好ましい。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、15秒/100mL以下であることが好ましく、13秒/100mL以下であることがより好ましい。
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値はJIS P8117:2009に準拠し、東洋精機製ガーレー式デンソメーターを用いて測定する。測定は28.6mmφのサンプルに対して200mlの空気が通過する時間を計測し、その時間を半分にして100mlあたりに換算した値を採用する。
[厚み]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の厚みは、5μm以上25μm以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、厚みが5μm以上であることで充分な捕集性能が確保され、厚みが25μm以下であることで充分な透過性能が確保される。
捕集性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、7μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、22μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製、ABSデジマチックインジケータ、型番Model ID:ID-S112X)を用いて測定する。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを20点で測定し、その算術平均値をポリオレフィン微多孔膜の厚みとする。接触端子としては底面が直径6.5mmの円柱状の端子を用いる。また、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを測定する他の方法としては、接触式の厚み計(ミツトヨ社製、LITEMATIC)を用い、測定端子は直径5mmの円柱状のものを用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整し、これにて20点測定し、これらを算術平均することで求める方法が挙げられる。
[空孔率]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、65%以上85%以下である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が65%以上であることで充分な透過性能が確保され、空孔率が85%以下であることで充分な回収性能が確保される。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、67%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
回収性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、83%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、下記の算出方法に従って求める。即ち、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm)であり、ポリオレフィン微多孔膜の厚みをt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求める。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
[平均孔径]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、0.05μm以上0.30μm未満である。
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、平均孔径が0.05μm以上であることで充分な透過性能が確保され、平均孔径が0.30μm未満であることで充分な回収性能が確保される。
透過性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、0.10μm以上であることが好ましく、0.11μm以上であることがより好ましい。
回収性能の観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、0.25μm以下であることが好ましく、0.22μm以下であることがより好ましい。
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、PMI社のパームポロメータ(型式:CFP-1200-AEXL)を用い、浸液にPMI社製のガルウィック(表面張力15.9dyn/cm)を用いて、ASTM E1294-89に規定するハーフドライ法により求める。測定温度は25℃とし、測定圧力は0kPaから2500kPaの範囲で変化させる。
[M/T比]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向、M/T比ともいう)が0.75以上1.25以下であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のM/T比が上記範囲内であると、ポリオレフィン微多孔膜の物理的な強度が充分に確保され、またMD/TD方向の均一性が担保されて捕集率が向上する。
本開示のポリオレフィン微多孔膜のM/T比は0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。また、本開示のポリオレフィン微多孔膜のM/T比は1.10以下であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましい。
本開示において、ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度は、JIS K7176:2014に準拠し、オリエンテック社製 テンシロン試験機RTG-1225型を用いて測定する。サンプル幅は15mm、試験機のチャック間距離(標線距離)は500mmとし、200mm/分の速度で引張り、サンプルが破断した時点の荷重をサンプルの幅で除した値(kg/cm)を求める。3個のサンプルを用いて同一の測定操作を3回行い、得られた値を平均して引張破断強度の値とする。
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば、下記の工程(I)~(IV)を含む製造方法で製造することができる。
工程(I):ポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を調製する工程。
工程(II):前記溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程。
工程(III):前記第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し且つ溶剤の乾燥を行い第二のゲル状成形物を得る工程。
工程(IV):前記第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程。
工程(I)は、ポリオレフィンと溶剤とを含む溶液を調製する工程である。
溶剤としては、大気圧における沸点が210℃以上の不揮発性の溶剤、もしくは、大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を使用できる。
溶液の調製に用いる溶剤としては、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油などの不揮発性溶剤や、テトラリン、エチレングリコール、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチレンジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等の揮発性溶剤が挙げられ、特に流動パラフィン、デカリン、又はキシレンが好ましい。揮発性溶剤は、一種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、揮発性溶剤は、デカリン、キシレンが好ましい。
工程(I)に使用するポリオレフィンは1種のみでも2種以上であってもよく、ポリオレフィン微多孔膜の所望の物性等に応じて選択できる。
工程(I)において調製する溶液は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、ポリオレフィン濃度が10質量%~35質量%であることが好ましく、15質量%~30質量%であることがより好ましく、25~32質量%であることが更により好ましい。溶液中のポリオレフィン濃度が10質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔膜の製膜工程において切断の発生を抑制することができ、また、ポリオレフィン微多孔膜の力学強度が高まりハンドリング性が向上する。溶液中のポリオレフィン濃度が35質量%以下であると、本開示のポリオレフィン微多孔膜が得られやすい。
工程(II)は、工程(I)で調製した溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程である。工程(II)では、例えば、ポリオレフィンの融点から融点+65℃の温度範囲においてダイより押し出して押出物を得、次いで前記押出物を冷却して第一のゲル状成形物を得る。第一のゲル状成形物はシート状に賦形することが好ましい。冷却の方法は特に制限されない。例えば、水又は有機溶媒への浸漬、冷却された金属ロールへの接触などによって冷却を行ってもよい。
工程(III)は、第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し、且つ溶剤の乾燥を行って、第二のゲル状成形物を得る工程である。工程(III)の延伸工程は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれでもよい。二軸延伸は、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸でもよく、縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸でもよい。一次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、1.1倍~3倍が好ましく、1.1倍~2倍がより好ましい。一次延伸の延伸時の温度は、75℃以下が好ましい。
工程(III)における溶剤の乾燥(乾燥工程)は、第二のゲル状成形物が変形しない温度で行うことが好ましく、60℃以下で行うことがより好ましい。
工程(III)の延伸工程と乾燥工程とは、同時に行ってもよく、段階的に行ってもよい。例えば、予備乾燥しながら一次延伸し、次いで本乾燥を行ってもよいし、予備乾燥と本乾燥との間に一次延伸を行ってもよい。一次延伸は、乾燥を制御し、溶剤を好適な状態に残存させた状態でも行うことができる。
工程(IV)は、第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程である。工程(IV)の延伸工程は、二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸;縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸;縦方向に複数回延伸した後に横方向に延伸する工程;縦方向に延伸し横方向に複数回延伸する工程;逐次二軸延伸した後にさらに縦方向及び/又は横方向に1回又は複数回延伸する工程;のいずれでもよい。
二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、好ましくは5倍~90倍であり、より好ましくは10倍~60倍である。二次延伸の延伸温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、70℃~135℃が好ましく、80℃~130℃がより好ましい。
必要に応じ、工程(IV)の後に熱固定処理を行ってもよい。熱固定処理の温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造を制御する観点から、110℃~150℃が好ましく、120℃~140℃がより好ましい。
必要に応じ、熱固定処理の後にポリオレフィン微多孔膜に残存している溶媒の抽出処理とアニール処理とを行ってもよい。残存溶媒の抽出処理は、例えば、熱固定処理後のシートを塩化メチレン浴に浸漬させて、塩化メチレンに残存溶媒を溶出させることにより行う。塩化メチレン浴に浸漬したポリオレフィン微多孔膜は、塩化メチレン浴から引き揚げた後、塩化メチレンを乾燥によって除去することが好ましい。アニール処理は、残存溶媒の抽出処理の後に、ポリオレフィン微多孔膜を例えば70℃~140℃に加熱したローラー上を搬送することで行うか、又はポリオレフィン微多孔膜を70℃~140℃の加熱雰囲気下、幅方向の寸法が一定になるように保持した状態で搬送することで行うことができる。
<ポリオレフィン微多孔膜の用途>
ポリオレフィン微多孔膜の用途は特に制限されない。具体的な用途としては、エアフィルター、液体フィルター、透湿防水膜、袋(バッグ)、集塵シート基材等が挙げられる。
ポリオレフィン微多孔膜を物質の捕集に使用する場合、捕集対象となる物質の平均粒径は0.1μm以上10μm以下の範囲内であってもよく、0.2μm以上5μm以下の範囲内であってもよく、0.5μm以上1μm以下の範囲内であってもよい。
捕集対象の物質は、液体又は気体のいずれかに含まれた状態であってもよい。
以下に実施例を挙げて、本開示のポリオレフィン微多孔膜をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のポリオレフィン微多孔膜の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
重量平均分子量(Mw)が460万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)60質量部と、重量平均分子量(Mw)が56万であり密度が950kg/mである高密度ポリエチレン(HDPE)40質量部とを混合したポリエチレン組成物を用意した。次いで、ポリエチレン組成物の濃度が17質量%となるようにポリエチレン組成物と溶剤としてのパラフィンとを混合して、ポリエチレン溶液を調製した。
上記のポリエチレン溶液を温度178℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
第一のゲル状シートを30℃、6分の条件で予備乾燥し、次いで、MD方向に1.2倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を30℃、4分の条件で行って、第二のゲル状シートを得た。第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は、1質量%未満とした。
次いで、二次延伸として、第二のゲル状シートをMD方向に温度75℃にて倍率2.5倍で延伸し、続いてTD方向に温度105℃にて倍率6.0倍で延伸した。二次延伸の後、直ちに136℃の熱処理(熱固定)を行った。
熱固定後のシートを、3槽に分かれた塩化メチレン浴に合計で2.5分間連続して浸漬させながら、シート中の溶剤を抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、39℃の加熱ロール上にてシートを乾燥して塩化メチレンを除去した。その後、シートのアニール処理を120℃の加熱雰囲気下で実施した。
以上の工程を経て、実施例1のポリオレフィン微多孔膜を得た。実施例1のポリオレフィン微多孔膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっていることが観察された。
[実施例2~5及び比較例1~6]
ポリエチレン溶液の組成又はポリオレフィン微多孔膜の製造工程の条件を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~5及び比較例1~6のポリエチレン微多孔膜を作製した。実施例2~5及び比較例1~6のポリオレフィン微多孔膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、フィブリル状のポリオレフィンが連結された三次元網目状構造を含み、内部に多数の微細孔を有し、これらの微細孔が連結された構造となっていることが観察された。
[ガーレ値の測定]
ポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、JIS P8117:2009に準拠し、東洋精機製ガーレー式デンソメーターを用いて測定を行った。測定は28.6mmφのサンプルに対して200mlの空気が通過する時間を計測し、その時間を半分にして100mlあたりに換算した値を採用した。結果を表2に示す。
[厚みの測定]
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製、ABSデジマチックインジケータ、型番Model ID:ID-S112X)を用いて測定した。具体的には、ポリオレフィン微多孔膜の厚みを20点で測定し、その算術平均値を厚みとした。接触端子としては底面が直径6.5mmの円柱状の端子を用いた。結果を表2に示す。
[空孔率の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、下記の算出方法に従って求めた。即ち、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm)であり、ポリオレフィン微多孔膜の厚みをt(cm)としたとき、空孔率ε(%)を下記の式により求めた。結果を表2に示す。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
[平均孔径の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、PMI社のパームポロメータ(型式:CFP-1200-AEXL)を用い、浸液にPMI社製のガルウィック(表面張力15.9dyn/cm)を用いて、ASTM E1294-89に規定するハーフドライ法により求めた。測定温度は25℃とし、測定圧力は0kPaから2500kPaの範囲で変化させた。結果を表2に示す。
[引張破断強度の測定]
ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度はJIS K7176:2014に準拠し、オリエンテック社製 テンシロン試験機RTG-1225型を用いて測定を行った。サンプル幅は15mm、試験機のチャック間距離(標線距離)は500mmとし、200mm/分の速度で引張り、サンプルが破断した時点の荷重をサンプルの幅で除した値を求めた。3個のサンプルを用いて同一の測定操作を3回行い、得られた値を平均して引張破断強度の値(kg/cm)とした。ポリオレフィン微多孔膜のMD方向及びTD方向について測定した引張破断強度の値からM/T比を算出した。結果を表2に示す。
[捕集性能の評価]
ポリオレフィン微多孔膜から10cm×10cmのサイズのサンプルを作製した。このサンプルを粒子発生器を備えた試験装置にセットした状態で、平均粒径が0.5μmのNaCl粒子を含む窒素ガスをろ過速度が5.3cm/秒となるように装置内に供給してサンプルを通過させる試験を行った。
試験開始から1分後に、サンプルの位置より上流側(窒素ガスが流入する側)の空間におけるNaCl粒子の濃度D1と、サンプルの位置より下流側の空間におけるNaCl粒子の濃度D2とを測定し、下記式によりNaCl粒子の捕集率を計算した。捕集率の値が大きいほど、より多くのNaCl粒子がサンプルに捕集されたことを意味する。結果を表2に示す。
捕集率(%)=(1-D2/D1)×100
[回収性能の評価]
捕集性能の評価と同じ試験を実施する前に、サンプルの質量Waを測定した。試験の開始から1分後にサンプルを取り出し、サンプルの質量Wbを測定した。次いで、サンプルに付着したNaCl粒子を手でたたき落とし、サンプルのWcを測定した。下記式によりNaCl粒子の回収率を計算した。回収率の値が大きいほど、捕集されたNaCl粒子に占める回収されたNaCl粒子の割合が大きいことを意味する。結果を表2に示す。
回収率(%)={(Wb-Wc)/(Wb-Wa)}×100
[透過性能の評価]
捕集性能の評価と同じ試験を実施し、試験開始から1分後に、サンプルの位置より上流側の空間における圧力P1と、サンプルの位置より下流側の空間における圧力P2とを測定し、差圧(P1-P2)を圧力損失として計算した。圧力損失の値が小さいほど、装置内に供給された窒素ガスがサンプルを透過しやすいことを意味する。結果を表2に示す。
[ポリオレフィンの重量平均分子量]
ポリオレフィン微多孔膜の作製に使用するポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
具体的には、測定対象のポリオレフィンをo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6-HT及びGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行った。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いた。
[判定]
捕集率が99.99%以上の場合は捕集性能の評価を「優秀」とし、捕集率が99.95%以上99.99%未満の場合は捕集性能の評価を「合格」とし、捕集率が99.95%未満の場合は捕集性能の評価を「不合格」とした。
回収率が90%以上の場合は回収性能の評価を「合格」とし、回収率が90%未満の場合は回収性能の評価を「不合格」とした。
圧力損失が5kPa以下である場合は透過性能の評価を「優秀」と、圧力損失が5kPaを超え10kPa未満の場合は透過性能の評価を「合格」とし、圧力損失が10kPa以上の場合は透過性能の評価を「不合格」とした。
捕集性能、回収性能及び透過性能のうち2つの評価が優秀であり、1つの評価が合格である場合をAと、1つの評価が優秀であり、2つの評価が合格である場合をBと、1つの評価が不合格である場合をCと、2つ以上の評価が不合格である場合をDと判定した。結果を表2に示す。
表2に示すように、ガーレ値、厚み、空孔率及び平均孔径がそれぞれ本開示の条件を満たす実施例のポリオレフィン微多孔膜は、捕集性能、回収性能及び透過性能の評価に基づく判定の結果がA又はBであった。

Claims (7)

  1. ポリオレフィンを含み、ガーレ値が1秒/100mL以上20秒/100mL以下であり、厚みが5μm以上25μm以下であり、空孔率が65%以上85%以下であり、平均孔径が0.05μm以上0.30μm未満である、ポリオレフィン微多孔膜。
  2. 前記ポリオレフィンがポリエチレンを含む、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
  3. 前記ポリエチレンが超高分子量ポリエチレンを含み、前記超高分子量ポリエチレンのポリオレフィン全体に占める割合が65質量%以下である、請求項2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
  4. ガーレ値が5秒/100mL以上15秒/100mL以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
  5. 空孔率が70%以上80%以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
  6. 平均孔径が0.10μm以上0.25μm以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
  7. MD方向の引張破断強度とTD方向の引張破断強度の比率(MD方向/TD方向)が0.75以上1.25以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。

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