JP2024072125A - 清澄化されたバイオ医薬培養液を製造する方法、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用、及びバイオ医薬培養液を回収する方法 - Google Patents

清澄化されたバイオ医薬培養液を製造する方法、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用、及びバイオ医薬培養液を回収する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制し、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び生細胞生存度の低下を抑制する。【解決手段】ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含み、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造する方法。【選択図】なし

Description

本発明は、有用物質を産生する細胞の連続培養において、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用、及びバイオ医薬培養液を回収する方法に関する。
細胞培養技術は、抗体、成長ホルモン、及びインスリンなどの各種バイオ医薬品において必須の技術であり、近年の医療の進歩に大きく貢献している。バイオ医薬品の中でも特に抗体医薬品が注目を集めている。抗体産生細胞を培養することによって、モノクローナル抗体を高効率かつ安定的に産生することは、工業的に重要なテーマの一つである。
抗体等の有用物質の産生を目的とした工業的な細胞の培養法は、大きく分けて、付着培養法と、懸濁培養法(浮遊培養法)の2つの方式に分類される。付着培養法においては、細胞は、培養槽の内表面に付着する。懸濁培養法においては、細胞は、培養液中に浮遊させられる。これらのうち、スケールアップの容易さ、及び大スケールでの制御の容易さなどから、懸濁培養法が主流となっている。
懸濁培養によって細胞を培養する方法においては、例えば、スピナーフラスコなどの培養槽中に撹拌機構を設けて細胞を浮遊させること、撹拌機構として、マグネティックスターラー又は機械的に駆動されるシャフト状の羽根車などを用いることが提案されている。しかし、従来の懸濁培養方法においては、栄養分を補充されることなく細胞が培養され、かつ乳酸等の育成阻害物質が蓄積する場合がある。そのため、細胞の密度が低い状態で、細胞の成長速度が停止する場合がある。これに対し、懸濁培養方法において、細胞を大量かつ高密度で培養し、有用物質を高効率で生産するために、新鮮な培地を培養槽中へ供給しつつ、育成阻害物質等の不純物を含んだ古い培養液を培養槽外へ排出しながら細胞を培養する方式が提案されている。この方式の培養は、一般に連続培養と呼ばれている(例えば、特許文献1参照。)。
連続培養において重要なことは、培養液中の細胞と、古い培養液及び産生された有用タンパク質と、を長期にわたって効率よく分離して、古い培養液及び有用タンパク質を培養槽外へ取り出し、培養槽内の細胞生育環境を長期間最適条件下に維持し続けることである。
中空糸膜を使用し、長期に渡り分離を行う、すなわち膜汚染を防ぐ方法として、培養液の流動方法を、新鮮培地の供給時と培養液の排出時とで逆転させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、近年では、交互タンジェンシャルフローろ過(ATF:AlternatingTangentialFlow)法と呼称されるろ過法を用いることで、膜汚染を抑えつつ、長期間、高密度の細胞培養を行うことが可能となり、有用物質の生産性を高める有用な方法となりつつある(例えば、特許文献3参照。)。有用物質の生産性の向上は、バイオ医薬品製剤のコストダウン、製剤使用の拡大、及び医療費の削減につながり、医療の進歩に大きく貢献するものと期待されている。
特許文献4には、膜全体としてスポンジ構造を呈し、その膜内表面から膜外表面に向かって孔径が小さくなる傾斜構造有し、ポリスルホンとポリビニルピロリドンからなる中空糸膜が記載されている。この中空糸膜を得るために比較的分子量の低いポリビニルピロリドンが使用されている。さらに製膜後の中空糸膜から意図的に膜中のポリビニルピロリドンを取り除くことが記載されている。特許文献4には、中空糸膜をバイオ医薬品に適用することが記載されているが、特許文献4において、バイオ医薬培養液を産生する細胞の連続培養での中空糸膜の利用及びバイオ医薬培養液を清澄化することは明確に記載されていない。
特許文献5には、膜全体としてスポンジ構造を呈し、その内表面側及び外表面側の少なくとも一方に0.05~0.3μmの厚さの緻密層を有する中空糸膜が記載されている。特許文献5には、この中空糸膜を形成するポリビニルピロリドンの分子量並びに膜中のポリビニルピロリドン含有量に関する記載がなく、中空糸膜をバイオ医薬培養液用途に使用することに関しても記載がない。
特許文献6~10には、特定の粒径分布からなるポリビニルピロリドンを有する中空糸膜が開示されているが、これらの中空糸膜をバイオ医薬培養液用途に使用することに関しての記載が一切ない。
特許文献11~14には、ポリビニルピロリドンを有する中空糸膜をバイオ医薬培養液用途に使用することを記載しているが、中空糸膜中のポリビニルピロリドンが特定の粒径分布を有することに関しての記載が一切ない。
特開昭61-257181号 特開平2-200176号 米国特許第6544424号 国際公開第2002/58828号 国際公開第1996/35504号 特開2010-253470号 特開2010-233980号 特開2010-233991号 特開2011-212233号 特開2010-233999号 特開2018-076291号 特開2016-054686号 国際公開第2010/035793号 特開2014-024824号
本発明は、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制し、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び生細胞生存度の低下を抑制することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、バイオ医薬培養液を効率的に製造するにはバイオ医薬培養液中の生細胞密度を制御することが必須であり、この生細胞生存度の制御がろ過工程に用いる中空糸膜中のポリビニルピロリドンの粒径分布に大きく依存することを見出した。そして、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの粒径分布を調整することにより、バイオ医薬培養液を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含み、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造する方法。
[2]ポリビニルピロリドンのK値が75以上である、[1]に記載の方法。
[3]中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、架橋度調整剤を含む溶液を中空糸膜内に注入し、その後、中空糸膜に放射線照射することによって、架橋度を80%以上100%未満にされている、[3]に記載の方法。
[5]中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液をろ過する工程と、ろ過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程によって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]ポリビニルピロリドンを含む溶液を孔径3μm以下の焼結フィルターで超音波振動を加えながらろ過することによって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、[5]に記載の方法。
[7]中空糸膜が、膜の外表面から内表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]中空糸膜が、精密ろ過膜である、[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
[9]中空糸膜の最小細孔径層の平均孔径が0.05μm以上1μm以下の阻止孔径を有している、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10]中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面の平均孔径が1μm以上60μm以下である、[1]から[9]のいずれかに記載の方法。
[11]中空糸膜の膜厚が40μm以上1000μm以下である、[1]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12]中空糸膜中のポリビニルピロリドンの含有量が1.0質量%以上3質量%以下である、[1]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
[13]中空糸膜の最小細孔径層中のポリビニルピロリドン含有割合が、中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面のポリビニルピロリドン含有割合の1.7倍以上である、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]ろ過は、中空糸膜の一端からバイオ医薬培養液を送液するとともに、ろ過して清澄化されたバイオ医薬培養液を流出させ、ろ過されずに残り、懸濁物質が濃縮されたバイオ医薬培養液を中空糸膜の他端から抜き出す、クロスフローろ過により行われ、バイオ医薬培養液の送液速度は、線速度で0.2m/sec以上1.0m/sec以下である、[1]~[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15]ろ過工程で得られるろ液を用いて、中空糸膜を逆流洗浄する工程をさらに含む、[1]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16]中空糸膜が複数本であり、当該複数の中空糸膜が、
両端に開口部を有するハウジングと、
ハウジング中に収容され、ろ過対象液であるバイオ医薬培養液がハウジングの開口部から入出可能なように、一端が一方の開口部側に固定され、他端が他方の開口部側に固定された、当該複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、
ハウジングの一端付近の側面に設置され、中空糸膜でろ過対象液がろ過されたろ過液が入出可能な第1のノズルと、
ハウジングの他端付近の側面に設置され、ろ過液が入出可能な第2のノズルと、
を備える中空糸膜モジュールに含まれ、
第1のノズル及び第2のノズルの一方が他方より高い位置になるように、中空糸膜モジュールを配置した状態で、中空糸膜の管内部にろ過対象液を流通させることによりろ過を行うろ過工程と、
中空糸膜とハウジングの間の間隙に逆洗液を充満させ、高い位置にあるノズルからハウジング内部に気体を導入することにより、逆洗液の液面を徐々に降下させつつ、中空糸膜を逆洗液で洗浄し、逆洗廃液を上部側の開口部から排出させる逆洗工程と、
を交互に実施する、[1]~[15]のいずれか1項に記載の方法。
[17]バイオ医薬培養液を産生する細胞の連続培養において、培養液からバイオ医薬培養液を回収する方法であって、
細胞の培養槽から培養液を排出し、排出した培養液と同量の新鮮培地を培養槽に加えるブリーディング工程と、
培養槽から抽出した培養液を、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である中空糸膜を用いてろ過するろ過工程と、
を含み、
ろ過工程におけるろ過がタンジェンシャルフローろ過である、バイオ医薬培養液を回収する方法。
[18]ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含む方法により清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用。
[19]ポリビニルピロリドンのK値が75以上である、[18]に記載の使用。
[20]中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、[18]又は[19]に記載の使用。
[21]中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、架橋度調整剤を含む溶液を中空糸膜内に注入し、その後、中空糸膜に放射線照射することによって、架橋度を80%以上100%未満にされている、[20]に記載の使用。
[22]中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液をろ過する工程と、ろ過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程によって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、[18]~[21]のいずれかに記載の使用。
[23]ポリビニルピロリドンを含む溶液を孔径3μm以下の焼結フィルターで超音波振動を加えながらろ過することによって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、[22]に記載の使用。
[24]中空糸膜が、膜の外表面から内表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造である、[18]~[23]のいずれかに記載の使用。
[25]中空糸膜が、精密ろ過膜である、[18]~[24]のいずれかに記載の使用。
[26]中空糸膜の最小細孔径層の平均孔径が0.05μm以上1μm以下の阻止孔径を有している、[18]~[25]のいずれかに記載の使用。
[27]中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面の平均孔径が1μm以上60μm以下である、[18]~[26]のいずれかに記載の使用。
[28]中空糸膜の膜厚が40μm以上1000μm以下である、[18]~[27]のいずれかに記載の使用。
[29]中空糸膜中のポリビニルピロリドンの含有量が1.0質量%以上3質量%以下である、[18]~[28]のいずれか1項に記載の使用。
[30]中空糸膜の最小細孔径層中のポリビニルピロリドン含有割合が、中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面のポリビニルピロリドン含有割合の1.7倍以上である、[18]~[29]のいずれかに記載の使用。
[31]ろ過は、中空糸膜の一端からバイオ医薬培養液を送液するとともに、ろ過して清澄化されたバイオ医薬培養液を流出させ、ろ過されずに残り、懸濁物質が濃縮されたバイオ医薬培養液を中空糸膜の他端から抜き出す、クロスフローろ過により行われ、バイオ医薬培養液の送液速度は、線速度で0.2m/sec以上1.0m/sec以下である、[18]~[30]のいずれか1項に記載の使用。
[32]中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含む方法が、ろ過工程で得られるろ液を用いて、中空糸膜を逆流洗浄する工程をさらに含む、[18]~[31]のいずれか1項に記載の使用。
[33]中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含む方法が、
両端に開口部を有するハウジングと、
ハウジング中に収容され、ろ過対象液であるバイオ医薬培養液がハウジングの開口部から入出可能なように、一端が一方の開口部側に固定され、他端が他方の開口部側に固定された、複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、
ハウジングの一端付近の側面に設置され、中空糸膜でろ過対象液がろ過されたろ過液が入出可能な第1のノズルと、
ハウジングの他端付近の側面に設置され、ろ過液が入出可能な第2のノズルと、
を備える中空糸膜モジュールによる、バイオ医薬培養液を清澄化する方法であって、
第1のノズル及び第2のノズルの一方が他方より高い位置になるように、中空糸膜モジュールを配置した状態で、中空糸膜の管内部にろ過対象液を流通させることによりろ過を行うろ過工程と、
中空糸膜とハウジングの間の間隙に逆洗液を充満させ、高い位置にあるノズルからハウジング内部に気体を導入することにより、逆洗液の液面を徐々に降下させつつ、中空糸膜を逆洗液で洗浄し、逆洗廃液を上部側の開口部から排出させる逆洗工程と、
を交互に実施する方法である、[18]~[32]のいずれか1項に記載の使用。
[34]バイオ医薬培養液を産生する細胞の連続培養において、培養液からバイオ医薬培養液を回収する方法であって、
細胞の培養槽から培養液を排出し、排出した培養液と同量の新鮮培地を培養槽に加えるブリーディング工程と、
培養槽から抽出した培養液を、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である中空糸膜を用いてろ過するろ過工程と、
を含み、
ろ過工程におけるろ過がタンジェンシャルフローろ過である、バイオ医薬培養液を回収する方法。
本発明に係る清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用及びバイオ医薬培養液を回収する方法は、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制し、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することができる。
ポリビニルピロリドンを含む溶液を動的光散乱法にて測定した粒径分布の例である。 中空糸膜モジュールを模式的に示す断面図である。 図2の中空糸膜モジュールを用いたろ過を模式的に示す断面図である。 図2の中空糸膜モジュールを用いた清澄化方法を模式的に示す断面図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
[中空糸膜]
本実施形態に係る中空糸膜(以下、単に「膜」ともいう。)は、ポリビニルピロリドン(以下、単に「PVP」ともいう。)を含む。好ましい態様においては、中空糸膜は、ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物を主成分とする。ここで、「ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物を主成分とする」とは、ポリビニルピロリドンと疎水性高分子化合物の合計が中空糸膜を構成する材料の80質量%以上を占めることをいい、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
疎水性高分子化合物としては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらの中でも芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましい。本実施形態で用いられる芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、下記の一般式(1)、又は一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。なお、式中のArは、パラ位での2置換のフェニル基を示す。また、疎水性高分子化合物の重合度や分子量は特に限定されない。
-O-Ar-C(CH32-Ar-O-Ar-SO2-Ar- (1)
-O-Ar-SO2-Ar- (2)
[ポリビニルピロリドン]
本実施形態の中空糸膜に用いられるポリビニルピロリドンは、中空糸膜から抽出した可溶性ポリビニルピロリドンを動的光散乱法にて測定される粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径(以下、単に「粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径」ともいう)が300nm(ナノメーター)以下であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは60nm以下である。
本実施形態の中空糸膜は、動的光散乱装置にて測定した時の粒径分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下であるポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。このポリビニルピロリドンを用いることにより、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制し、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが可能である。
ポリビニルピロリドンは、ポリスルホン系ポリマー等の中空糸膜の骨格を構成する疎水性高分子化合物を親水化にすることに寄与する。しかしながら、本発明者の研究により、ポリビニルピロリドンは必ずしも疎水性高分子化合物の骨格の周りを均一に被っているわけではなく、塊状で存在しているものもあることが分かった。そして、この塊状のポリビニルピロリドンが、膜のろ過抵抗を上げ、膜の透過性能を低下させていると推測される。塊状のポリビニルピロリドンは、ポリビニルピロリドンが有する複数の効果・効能を膜全体に寄与していないと推定できる。例えば、同一のポリビニルピロリドン含有量を有する膜であれば、塊状のポリビニルピロリドンのみからなる膜は、塊状のポリビニルピロリドンを全く有さない膜と比べて、ポリビニルピロリドンが本来有する複数の効果・効能を発揮できないのは至極当然のことである。動的光散乱装置にて測定した時の粒径分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下のポリビニルピロリドンを用いることにより、膜中の塊状のポリビニルピロリドンを減少させることができる。さらに、動的光散乱装置にて測定した時の粒径分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下のポリビニルピロリドンを用いることにより、疎水性高分子化合物の骨格の周りをポリビニルピロリドンが均一に被っている中空糸膜を得られる傾向にある。
ポリビニルピロリドンの複数の効果・効能の一例として、人体の人工血漿及び人工腎臓にも用いられているポリビニルピロリドンは、バイオ医薬培養液中の生細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが可能である。動的光散乱装置にて測定した時の粒径分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下であるポリビニルピロリドンを用いることにより、これらの抑制効果を向上することが可能である。
一般に、ポリビニルピロリドン溶液中に存在するポリビニルピロリドンの粒度分布を動的光散乱装置にて測定すると、図1に例示するように、粒径値が1~5,000nmの範囲では2つのピークが観察される。ここで、粒度分布において大粒径側から順に、二次ピーク(B)、一次ピーク(A)とする。すなわち、図1において、粒度分布において最も大粒径側のピークが二次ピーク(B)である。
一次ピークは、協同拡散モードであり、通常の高分子濃厚溶液で観察されるピークである(例えば、「ドジャン 高分子の物理学」、久保亮五監修、高野宏、中西秀共訳、吉岡書店出版、1997、p208-p210参照。)。ポリビニルピロリドン溶液をフィルターろ過しても、ろ過の前後で出現する協同拡散モードのピーク位置は変化しない。
これに対して、二次ピークは、ポリビニルピロリドン溶液で見られる特有のピークである。本発明者の研究によれば、二次ピーク(図1において、粒度分布において最も大粒径側のピークに相当する。)の粒径分布の最大値が小さいほどピンホール又は膜破れ等を少なくすることが可能となり、ピンホールや膜破れ等を発生させないためには、二次ピークのモード径を300nm以下とすればよく、二次ピークが存在しないポリビニルピロリドンを使用することが好ましい。故に、理想的なポリビニルピロリドンの粒径分布は60nm以下である。二次ピークが存在しないポリビニルピロリドンを使用することより、膜中の塊状ポリビニルピロリドンを皆無にすることが可能であり、疎水性高分子化合物の骨格の周りをポリビニルピロリドンが均一に被っている中空糸膜を得られることができる。
なお、図1では、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つである場合(典型的な例)を例にとって説明したが、本実施形態において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンは、動的光散乱法により測定される粒径分布においてピークの数が2つ以上であるものには限定されず、最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であるという条件を満たしている限り、3つ以上のピークが存在していてもよい。
ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径は、ポリビニルピロリドンが5.0質量%の濃度になるように調整したジメチルアセトアミド溶液(ポリビニルピロリドン溶液)を動的光散乱装置(大塚電子(株)社製 FPAR-1000又は同等機)を用いて、25℃の温度で測定することにより求められる。解析条件は、NNLS(非負拘束最少自乗法)を用い、ヒストグラム範囲の設定は自動設定で行なう。但し、粒径値が1~5,000nmの範囲で得られたピークのみを解析する。また、ポリビニルピロリドン溶液の粘度、屈折率の値としては、25℃のジメチルアセトアミドの物性値を用いる。
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径とは、中空糸膜からエタノールを用いて抽出したエタノール可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径をいう。
エタノールを用いて中空糸膜からエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを抽出する方法は、以下のようにして行うことができる。
ハウジング中に収容され中空糸膜(中空糸膜モジュール)を純水で洗浄し、水分量が中空糸膜に対して0.3質量%以下になるまで乾燥させる。なお、純水での洗浄は、中空糸膜から架橋度調整剤等の不純物が抽出されなくなるまで行う。具体的には、中空糸膜モジュールの開口端から純水を注入して中空糸膜モジュールの内部を純水で充填し、純水を排出する、という操作を10回繰り返す。次に、50℃のエタノールを例えば中空糸膜束の外表面側から内表面側に該エタノールをろ過させるように、中空糸膜モジュールの入口から出口へと該エタノールを3時間ろ過循環させる。エタノールの循環には、循環回路にコンタミネーションの無いチューブとジョイント並びにエアポンプを使用する。ろ過循環量は30mL/分とする。この時、ハウジング内の中空糸膜束全体がエタノールに浸漬していることを確認する。3時間後、中空糸膜を循環したエタノールを5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)でろ過した後、エバポレーター等を用いてエタノールのみを蒸発させてエタノール可溶性ポリビニルピロリドンを得る。エバポレーターでの加熱は50℃以下で行う。動的光散乱装置にて測定できる量の可溶性ポリビニルピロリドンが得られるまで、同じ種類(製造ロット)の中空糸膜を有する異なるハウジング内の中空糸膜束を用いて上記の操作を繰り返す。
[ポリビニルピロリドンの架橋度]
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、好ましくは80%以上100%未満であり、より好ましくは80%以上99%以下であり、さらに好ましくは85%以上95%以下である。
中空糸膜中のPVPの架橋度が80%未満であると、中空糸膜の内表面に存在して実質的に親水化に寄与しているポリビニルピロリドンが膜から溶出する可能性がある。一方、本実施形態において架橋度を100%にすることも可能であるが、架橋度を100%にすると、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下であることを検証でき難い傾向にある。
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、下記の式(3)で定義される。
PVPの架橋度(%)=水に不溶であるPVP量(質量)/膜中の全PVP量(質量)×100・・・(3)
ここで、水に不溶であるPVP量とは、全ポリビニルピロリドンの量(膜中の全PVP量)から水に可溶であるPVP量を差し引いて得られる。
そして、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度は、単位質量の中空糸膜に含まれる全PVP量と、そのうちの水に不溶であるPVP量から求めることができる。単位質量の中空糸膜中の全PVP量を定量する際には、乾燥した中空糸膜0.2~0.5mgを横型反応炉(800~950℃)で気化又は酸化させ生産した一酸化窒素の濃度を化学発光法で測定する(装置は三菱化学製、TN-10を用いることができる。)。得られた一酸化窒素の濃度を単位質量の中空糸膜中に含まれるPVP量に換算する。定量に際しては、予め、含窒素ポリマーの標準物で作成した検量線を用意し、これを用いて濃度を決定する。
水に可溶であるPVP量は、以下の方法により求めることができる。すなわち、単位質量の中空糸膜を水分量が0.3質量%以下になるように乾燥し、これをN-メチル-2-ピロリドンに、2.5質量%の濃度になるように溶解し、溶液を作成する。その溶液に、その体積の1.7倍の量の水を添加して10分間攪拌することにより、中空糸膜中のポリスルホン系ポリマーを十分に析出させる。水に可溶であるPVPは、析出したポリスルホン微粒子とともに溶液中に含まれる。次いで、溶液中のポリスルホン微粒子をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)用の非水系フィルター(東ソー製、孔径:2.5μm)でろ過して除去し、ろ液中に含まれるポリビニルピロリドンをHPLCにて定量する(装置:Waters、GPC-244、カラム:TSKgelGMPWXL2本、溶媒:0.1M塩化アンモニウム(0.1Nアンモニア)、pH9.5の塩化アンモニウム水溶液、流速:1.0mL/分、温度:23℃)。以上のようにして定量したろ液中に含まれるポリビニルピロリドンの量が、中空糸膜の単位質量当たりに含まれる水に可溶であるPVP量である。なお、PVPの架橋度を算出する際の水に可溶であるPVP量としては、上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いる。
本実施形態の中空糸膜に用いられるポリビニルピロリドンは、K値が75以上であることが好ましい。PVPは製膜時(相分離時)並びに後処理である洗浄時に、その大半が膜の外に流れ出てしまう傾向にあるが、K値が75以上であるとPVPの膜への残存量が多いので好ましい。本実施形態では、下記式(I)で定義されるK値が75以上100以下のPVPであることがより好ましい。K値が100を超えると、ポリビニルピロリドンは溶剤に溶解し難い傾向があることがある。
ここで、CはPVP濃度(PVP重量/水溶液容量)%で、Zは濃度Cの溶液の相対粘度である。Cはポリビニルピロリドンの水溶液における当該ポリビニルピロリドン濃度(g/L)であり、Cは10(g/L)である。Zは濃度Cにおける前記ポリビニルピロリドンの水溶液の相対粘度である(23℃にて毛細管粘度計にて測定)。
[中空糸膜の構造]
中空糸膜の構造は、膜の外表面から内表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造である。傾斜構造には、例えば、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)、及び膜の外表面から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
中空糸膜の断面構造における孔径が連続的に変化する傾斜構造であることにより、細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であり、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能である。
中空糸膜は、精密ろ過膜であることが、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための方法、清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用、及びバイオ医薬培養液を回収する方法に適している。細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であり、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能である。
中空糸膜の最小細孔径層の平均孔径は、0.05μm以上1μm以下の阻止孔径を有することが好ましく、0.1μm以上1μm以下の阻止孔径を有することがさらに好ましい。阻止孔径が0.05μm未満であると、透過抵抗が大きくなり、ろ過に要する圧力が高くなり、微生物粒子の破壊、変形による膜面閉塞、ろ過効率の低下等が起こる場合がある。また、1μmを超えると、十分な分画性が得られない傾向にある。
例えば、膜内表面又は膜内表面近傍が最小細孔径層である場合には、膜内表面の平均孔径を上記範囲とするためには、以下に述べる製造法において内部液の良溶剤濃度を0重量%以上60重量%以下とすればよい。
例えば、膜外表面又は膜外表面近傍が最小細孔径層である場合には、膜内表面の平均孔径を上記範囲とするためには、以下に述べる製造法において外部凝固液の温度を50℃以上99℃以下とすればよい。
最も孔径が大きな膜表面の平均孔径は、1μm以上60μm以下であると好ましく、5μm以上50μm以下であるとより好ましく、10μm以上40μm以下であるとさらに好ましい。内側面の平均孔径が1μm未満である場合、除去物を膜内部に保持するデプスろ過の効果を十分に得ることができず、膜面への除去物の堆積による膜孔の閉塞が起こり易くなる場合がある。最も孔径が大きな膜表面の平均孔径が60μmより大きい場合、膜面における孔が占める割合が大きくなるため、多孔質中空糸膜の強度が低下する傾向にある。
例えば、膜内表面が最も孔径が大きな膜表面である場合には、膜内表面の平均孔径を上記範囲とするためには、以下に述べる製造法において内部液の良溶剤濃度を85重量%以上とすればよい。
例えば、膜外表面が最も孔径が大きな膜表面である場合には、膜外表面の平均孔径を上記範囲とするためには、以下に述べる製造法において外部凝固液の温度を50℃から99℃とすればよい。
中空糸膜は、膜厚が40μm以上1000μm以下であることが好ましく、130μm以上800μm以下であることがより好ましい。膜厚が40μm未満の正傾斜構造の中空糸膜又は膜厚が130μm未満の逆傾斜構造の中空糸膜では、膜内部の除去物を保持可能な範囲が制限されるため、デプスろ過の効果を十分に得られない場合があり、かつ、ろ過速度の低下が起こり易くなる傾向にある。膜厚が1000μmより大きい逆傾斜構造の中空糸膜では、膜内部に堆積した除去物を洗浄することが困難となり、洗浄後にろ過性能が十分に回復しない場合がある。なお、膜厚を上記範囲にするためには、以下に述べる製造法において、例えば、2重環状ノズルの外側流路の80μm~1200μm(好ましくは、100μm~1000μm)とすればよい。
中空糸膜は、ポリビニルピロリドンの含有量が、中空糸膜の総質量を基準として、1.0質量%以上3質量%以下、あるいは1.2質量%以上3質量%以下であることが好ましい。ポリビニルピロリドンの含有量が1.0質量%未満である多孔質中空糸膜では、除去物が膜面及び膜内部に吸着しやすくなり、膜孔の閉塞が起こり易くなるとともに、洗浄が困難となる傾向がある。ポリビニルピロリドンの含有量が3質量%より多い多孔質中空糸膜では、ポリビニルピロリドンの膨潤により膜孔が閉塞し、透過抵抗が大きくなる場合がある。また、ポリビニルピロリドンの含有量が上記範囲であることで、洗浄性に優れ、ろ過と洗浄とを繰り返した場合でも高いろ過性能を維持することができる。なお、ポリビニルピロリドンの含有量を上記範囲にするためには、以下に述べる製造法において、例えば、疎水性高分子とポリビニルピロリドンのブレンド物における、疎水性高分子とポリビニルピロリドンの比を、疎水性高分子:ポリビニルピロリドン=(1):(0.5~1.5)(好ましくは、疎水性高分子:ポリビニルピロリドン=(1):(0.8~1.3))とすればよい。
中空糸膜の最小細孔径層中のポリビニルピロリドン濃度が中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面のポリビニルピロリドン濃度の1.7倍以上、あるいは2.0倍以上であるであることが好ましい。ポリビニルピロリドンがこのような分布を示す中空糸膜は、内周領域における、デプスろ過の効果と、外周領域における、除去物の吸着による膜孔の閉塞防止効果とに一層優れる。また、洗浄性に優れ、ろ過と洗浄とを繰り返した場合でも高いろ過性能を維持することができる。なお、膜厚が下記式(II)を満たすようにするためには、以下に述べる製造法において、例えば、疎水性高分子とポリビニルピロリドンのブレンド物における、疎水性高分子とポリビニルピロリドンの比を、疎水性高分子:ポリビニルピロリドン=(1):(0.1~1.5)(好ましくは、疎水性高分子:ポリビニルピロリドン=(1):(0.3~1.2))とすればよい。
[中空糸膜の製造方法]
以下、本実施形態の中空糸膜の製造方法の代表例について述べる。本実施形態の中空糸膜の製造方法は、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液をろ過する工程と、ろ過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程と、を少なくとも含む。本実施形態の中空糸膜の製造方法によって、中空糸膜から抽出した可溶性ポリビニルピロリドンを動的光散乱法にて測定される粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径が300nm以下である中空糸膜を製造できる。また、本実施形態の中空糸膜の製造方法は、さらに、ポリビニルピロリドンを実質的に含まない溶液により中空糸膜の膜内表面をコーティングする工程と、中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンを架橋する工程と、を含んでいてもよい。
本実施形態において、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径を300nm以下にする方法としては、中空糸膜を製造する際に原料として用いるポリビニルピロリドンを含む溶液(以下、単に「ポリビニルピロリドン溶解液」ともいう。)を、予めフィルターを用いてろ過しておくことが挙げられる。その際、ポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を加えながらろ過することも可能である。より具体的には、ポリスルホン系ポリマー、ポリビニルピロリドン及び溶剤を混合・溶解して得られた製膜原液を所定の形状に形成する製膜方法において、予めポリビニルピロリドンと溶剤を溶解したポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を加えながら孔径3μm以下のフィルターでろ過した後、該溶解液にその他の材料(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又は溶剤とポリスルホン系ポリマー)等の疎水性高分子化合物)を添加して溶解した製膜原液を用いることにより製造することができる。
予めポリビニルピロリドンと溶剤を溶解した溶解液(ポリビニルピロリドン溶解液)に超音波振動を加えながら孔径3μm以下のフィルター、好ましくは焼結フィルターを用いて所定の濃度、温度、及びろ過流量の範囲でろ過することにより、図1に示した二次ピーク成分等を除去することができる。
ポリビニルピロリドン溶解液中のポリビニルピロリドン濃度は、用いるポリビニルピロリドンの分子量により異なるが、重量平均分子量1,200,000のポリビニルピロリドンであれば0.1~15質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では実用的でなく、15質量%を超えるとフィルターろ過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えるため好ましくない。
ポリビニルピロリドン溶解液の温度は、用いる溶剤及びフィルターの材質により異なるが、35~120℃が好ましい。35℃未満では、フィルターろ過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超え、120℃以上で長時間保温するとポリビニルピロリドンが架橋又は変性する恐れがあり好ましくない。
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過流量は、0.01~3mL(ミリリットル)/(分(単位時間)・cm2(フィルター単位有効ろ過面積あたり))であることが好ましい。0.01mL/(分・cm2)未満ではろ過流量が遅いため実用的でなく、3mL/(分・cm2)を超えるとフィルターろ過後のポリビニルピロリドンの粒径が300nmを超えるため好ましくない。
本実施形態で用いることができるフィルターは、その最小孔径(以下、単に「孔径」という)が0.01~3μm、好ましくは0.1~2μmである。フィルターの孔径が3μmより大きくなると、動的光散乱法により測定される粒径分布において最も題粒径側にあるピークのモード径を300nm以下とすることが難しく、孔径が0.01μm未満ではろ過速度が低くて実用的でない。
フィルターろ過時にポリビニルピロリドン溶解液に加える超音波振動は、フィルターろ過後のポリビニルピロリドンの粒径を300nm以下にするのに好適である。超音波振動の周波数は20kHz以上1000kHz以下であることが好ましく、より好ましくは40kHz以上100kHz以下である。20kHz未満では効果が低い傾向にあるので好ましくない。1000kHzを超えると繰返し長時間超音波振動を与えたときにフィルター並びにフィルターハウジングが破損する怖れがあるので好ましくない。
製膜原液は、温調可能な容器に超音波振動を加えながらフィルターろ過後のポリビニルピロリドン溶解液と疎水性高分子化合物(例えば、ポリスルホン系ポリマー(又はポリスルホン系ポリマーと溶剤))を入れ、攪拌機又はヘンシルミキサー等の混合機を用いて溶解することにより製造される。
ポリスルホン系ポリマー等にも不純物等が混入している可能性があることから、上記の方法で製膜原液を調製後、不純物又は未溶解物等を取り除くために再度孔径40μm以下程度のフィルターでろ過することが好ましい。
本実施形態で用いることのできるポリスルホン系ポリマーとしては、下記の式(4)、又は式(5)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。なお、式中のArはパラ位での2置換のフェニル基を示し、重合度や分子量については特に限定しない。
-O-Ar-C(CH32-Ar-O-Ar-SO2-Ar- (4)
-O-Ar-SO2-Ar- (5)
ポリビニルピロリドン溶解液や製膜原液の溶剤としては、ポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンの両方を溶解するものであればよく、例えば、ポリスルホン系ポリマーがポリスルホン系ポリマーであれば、溶剤はN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド等が用いられる。
本実施形態で用いられるポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、1,000~2,000,000の範囲であることが好ましく、10,000~1,300,000の範囲であることがより好ましい。本実施形態は、特に重量平均分子量800,000を超える高分子量のポリビニルピロリドンを用いた中空糸膜とする場合に有効であり、重量平均分子量800,000を超える高分子量のポリビニルピロリドンを用いてもピンホールや膜破れ等の欠陥部がない中空糸膜を得ることができる。
製膜原液中の疎水性高分子化合物(例えば、ポリスルホン系ポリマー等)の濃度は、該原液からの製膜が可能で、かつ得られた膜が膜としての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されず、1~50質量%、好ましくは10~35質量%、より好ましくは10~30質量%である。高い透水性能又は大きな分画分子量を達成するためには、ポリマー濃度は低い方がよく、10~25質量%が好ましい。また、製膜原液には、原液粘度、溶解状態を制御する目的で、水、塩類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類等の非溶剤を複数添加することも可能であり、その種類、添加量は組み合わせにより随時決定すればよい。
製膜原液中のポリビニルピロリドンの量は、1~30質量%、好ましくは1~20質量%であるが、用いるポリビニルピロリドンの分子量により最適濃度が決定される。
さらに、ポリビニルピロリドン溶解液に酸化防止剤が含まれていることが好ましい。K値が75以上のPVPは空気中の酸素により常に酸化分解が起こる。したがって、K値は経時的に低下する傾向にある。酸化防止剤を有することにより同一ロットのPVPを長期に用いることができるので、性能が安定した製品(膜)を長期間供給できるメリットがある。酸化防止剤としては、例えば、サリチル酸ナトリウム、メチルベンゾトリアゾールカリウム塩、2-メルカプトベンズイミダゾール、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸プロピルエステル、ヒドロキノン、カテコールなどのフェノール系酸化防止剤;2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4'-(2,3-ジメチルテトラメチレン)ジピロカテコールなどのビスフェノール系酸化防止剤;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3'-ビス(4'-ヒドロキシ-3'-t-ブチルフェニル)酪酸]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3',5'-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール類などの高分子型フェノール系酸化防止剤;ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3'-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3'-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンズイミダゾール、テトラキスメチレン-3-(ラウリルチオ)プロピオネートメタン、ステアリルチオプロピルアミドなどの硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及び/又はジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニレンホスファイトなどのリン系酸化防止剤;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピルなどのアルコール系酸化防止剤;メチル化ジフェニルアミン、エチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、ラウリル化ジフェニルアミン、N,N'-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤;4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン及びその縮合物、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオンなどのヒンダードアミン系酸化防止剤;などが挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの酸化防止剤のうち、フェノール系酸化防止剤が好適であり、サリチル酸ナトリウムが特に好適である。
酸化防止剤の使用量は、PVPに対して、好ましくは0.0001質量%以上、10質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上、5質量%以下である。酸化防止剤の量が0.0001質量%未満であると、PVPのK値を安定化させることが困難になることがある。逆に、酸化防止剤の使用量が10質量%を超えると、性状や外観などのPVP本来の特性が損なわれることがある。
さらに、ポリビニルピロリドン溶解液に第2級アミン又はその塩が含有されていることが好ましい。第2級アミン又はその塩を含有するポリビニルピロリドン溶解液は溶剤への溶解性が早いので、膜を効率良く製造することが可能である。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、N-メチルエチルアミン、N-メチルプロピルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチルブチルアミン、N-メチルイソブチルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン、N-エチルプロピルアミン、N-エチルイソプロピルアミン、N-エチルブチルアミン、N-エチルイソブチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、N-メチルビニルアミン、N-メチルアリルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N'-ジメチルエチレンジアミン、N,N'-ジエチルエチレンジアミン、N-メチルトリメチレンジアミン、N-エチルトリメチレンジアミン、N,N'-ジメチルトリメチレンジアミン、N,N'-ジエチルトリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族ジアミン及びトリアミン;N-メチルベンジルアミン、N-エチルベンジルアミン、N-メチルフェニチルアミン、N-エチルフェネチルアミンなどの芳香族アミン;N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン、N-イソプロピルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-イソブチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、モルホリン、チオモルホリンなどの環状アミン;などが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミン及びジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体水溶液のpHが好ましくは7以上、10以下、より好ましくは7以上、9以下になるようにすればよい。具体的には、第2級アミンの使用量は、単量体の使用量に対して、好ましくは10ppm以上、10,000ppm以下、より好ましくは50ppm以上、5,000ppm以下である。
PVPはγ―ブチロラクトンとモノエタノールアミンから合成してN-(2-ヒドロキシエル)ピロリドンを気相脱水反応させて製造したN-ビニル-2-ピロリドンを重合したPVPであることが好ましい。本方法により製造されたPVPは、副生成物等の不純物が少ないことが特徴であることから、好ましい。本方法を用いて得られたN-ビニル-2-ピロリドンの純度は、99.98%以上100%未満、有機不純物量は1ppm以上80ppm以下である。不純物の少ない原材料(N-ビニル-2-ピロリドン)から重合されたPVPであることから、分子量分布がシャープである。さらに、得られる膜の孔径分布をシャープにすることが可能である。本分子量分布のPVPを用いることによりアルブミンの透過率を0.15%以下にすることが可能である。
N-ビニル-2-ピロリドンの純度並びに有機不純物量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:SPELCO製;DB-1,キャリアガス:He,流量:17.2mL/min、温度:60-250℃)を用いて、測定する。
中空糸膜は、例えば、上記の製膜原液を、内部液とともに2重環状ノズルから凝固浴中に同時に吐出させ、凝固させることにより製造することができる。
中空糸膜の製造に用いられる内部液は、中空糸膜の中空部を形成させるために用いられる。外表面に緻密層を形成させる場合は、内部液としてジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等からなる郡より選ばれる溶剤の高濃度水溶液を用いることができる。内表面に緻密層を形成させる場合は、内部液には後述する凝固浴に記載した溶液を採用することができる。また、内部液の粘性を制御する目的でテトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類及びグリセリン等の非溶剤を加えることも可能である。
中空糸膜は、公知のチューブインオリフィス型の2重環状ノズルを用いて製膜することができる。より具体的には、前述の製膜原液と内部液とをこの2重環状ノズルから同時に吐出させ、エアギャップを通過させた後、凝固浴で凝固させることにより本実施形態の中空糸膜を得ることができる。
ここで、「エアギャップ」とは、ノズルと凝固浴との間の距離(隙間)を意味する。例えば、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)を有する膜を得るためには、紡速(m/分)に対するエアギャップ(m)の比率が極めて重要である。何故ならば膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造は、内部液中の非溶剤が製膜原液と接触することによって該製膜原液の内表面部位から外表面部位側へと経時的に相分離が誘発され、さらに該製膜原液が凝固浴に入るまでに膜内表面部位から外表面部位までの相分離が完了しなければ、得られないからである。
紡速(Vs)に対するエアギャップ(Ga)の比率(Ga/Vs)は、中空糸膜の膜厚が34μm以上である場合には、0.01~0.1m/(m/分)であることが好ましく、さらに好ましくは0.01~0.05m/(m/分)である。紡速に対するエアギャップの比率が0.01m/(m/分)未満では、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造の膜を得ることが難しく、0.1m/(m/分)を超える比率では、膜へのテンションが高いことからエアギャップ部で膜切れを多発し製造しにくい傾向にあり好ましくない。
一方、中空糸膜の膜厚が34μm未満である場合には、製膜原液中の良溶剤量が少ないのでGa/Vsが低くても膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造を得ることが可能である。膜厚が34μm未満ではGa/Vsが0.001~0.01m/(m/分)であることが好ましい。
ここで、紡速(Vs、単位:m/分)とはノズルから内部液とともに吐出した製膜原液がエアギャップを通過して凝固浴にて凝固した膜が巻き取られる中空糸膜の一連の製造工程における膜の移動速度をいい、延伸操作がある場合には延伸操作をする前までの中空糸膜の移動速度を意味する。また、エアギャップを円筒状の筒などで囲み、一定の温度と湿度を有する気体を一定の流量でこのエアギャップに流すと、より安定した状態で中空糸膜を製造することができる。なお、延伸を加える場合は、延伸操作を行う前までの中空糸膜の移動速度を意味する。
凝固浴としては、例えば、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;エーテル類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類など重合体を溶解しない、製膜原液に対して相分離を誘発させる液体(非溶剤)が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、凝固浴に前記重合体の良溶剤を添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。
凝固浴の温度は、-30~100℃、好ましくは0~98℃、さらに好ましくは10~95℃である。凝固浴の温度が100℃を超えたり、又は、-30℃未満であると、凝固浴中の膜の表面の状態が安定しにくい。
中空糸膜に電子線及びガンマー線等の放射線を照射することにより、膜中のPVPを架橋することが可能である。放射線の照射は、中空糸膜を中空糸膜モジュール化前又は中空糸膜モジュール化後のどちらでもよい。
[ポリビニルピロリドンの架橋度の調整方法]
中空糸膜に架橋度調整剤を付着した状態で放射線照射することにより、中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度を適宜調整することが好ましい。
中空糸膜に架橋度調整剤を付着した状態で放射線照射する方法としては、例えば、中空糸膜を、架橋度調整剤を含む溶液に浸漬させ、架橋度調整剤を含む溶液中で中空糸膜に放射線を照射する方法が挙げられる。
架橋度調整剤としては、放射線照射に対してポリビニルピロリドンの架橋反応を阻害するものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、血液浄化用途に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、生理的水溶液で洗浄しやすく、且つ毒性の低いものが好適に用いられる。なかでも水溶性ビタミン、グリセリン、マンニトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テロラエチレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリグリコール類、エタノール等のアルコール類、ポリエチレンイミン、ポリフェノール、トレハロース、グルコースなどの糖類、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩、二酸化炭素などが挙げられ、好適に使用される。これらの架橋度調整剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。上記架橋度調整剤を溶解さえる溶媒としては、血液浄化用途に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、例えば、水溶液であることが好ましい。
ポリビニルピロリドンに対して架橋処理を行う前に、上記架橋度調整剤を含む溶液で中空糸膜の膜内表面をコーティングすることで、ポリビニルピロリドンを必要以上に架橋されることを抑制できる。架橋度調整剤の溶液におけるポリビニルピロリドンの含有量が少ないことが好ましく、実質的にポリビニルピロリドンを含まないことがより好ましい。通常、ポリスルホン系ポリマー等の親水性樹脂からなる中空糸膜に対してポリビニルピロリドンを用いてコーティングすることが行われているが、意外にも、ポリビニルピロリドンを含まない溶液を用いてコーティングすることで、中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンの架橋度を効果的に制御することができる。
中空糸膜に付与させる架橋度調整剤の量や種類並びに中空糸膜の周りに存在させる架橋度調整剤の溶液中の濃度については、放射線照射線量並びに照射時間、目的とする架橋度により適宜調整することが可能である。
水溶液などの溶液中で中空糸膜中のポリビニルピロリドンを架橋させるには、架橋度調整剤を含む上記溶液中の酸素を除くことが目的の架橋度を再現良く制御するのに有効である。溶液の脱酸素は窒素、アルゴン等の不活性気体をバブリングすることにより可能である。また、市販のデガッサーを用いることにより又は加熱、減圧にすることにより脱酸素することも可能である。溶液中の酸素濃度は1気圧下において0.1mg/L以上1mg/L以下であることが好ましい。酸素濃度が0.1mg/L未満では90%未満の架橋度を得るのが難しい傾向にある。一方、1mg/Lを超えると90%以上の架橋度を再現良く得るのが難しい傾向にある。
気体中でセミドライタイプの中空糸膜中のポリビニルピロリドンを架橋させるには、中空糸膜モジュール内の酸素濃度を0.01体積%以上10体積%以下にすることが好ましい。より好ましくは0.1体積%以下5体積%以下である。血液浄化器内の酸素濃度が0.01体積%未満になると、容器やヘッダーの着色が付き、製品外観が悪くなるので好ましくない。一方、血液浄化器内の酸素濃度が10体積%を超えると、空気中の酸素からラジカルが発生し、中空糸膜中のポリビニルピロリドンが分解してしまうと考えられ、溶出物が増加する傾向にある。
ここで、「放射線照射」とは、電子線、ガンマー線等を用いた放射線照射をいい、その線量は5kGy以上50kGy以下であることが好ましく、15kGy以上30kGy以下であることがより好ましく、25kGy付近であることがさらに好ましい。
[中空糸膜モジュール]
中空糸膜は、両端に開口部を有するハウジングに収容された形態(中空糸膜モジュール)で用いられる。図2は、実施形態に係る清澄化方法及びバイオ医薬培養液を回収する方法に使用する中空糸膜モジュールを模式的に示す断面図である。図2に示す中空糸膜モジュール100は、両端に開口部1を有するハウジング2と、ハウジング2中に収容された複数本の中空糸膜4からなる中空糸膜束6と、ハウジング2の一端付近の側面に設置された第1のノズル12と、ハウジング2の他端付近の側面に設置された第2のノズル14とを備えている。中空糸膜4として、上述の実施形態に係る多孔質中空糸膜が好適に用いられる。
中空糸膜モジュール100において、中空糸膜束6は、ろ過対象液がハウジング2の開口部1から入出可能なように、一端が一方の開口部1側に、他端が他方の開口部1側に、それぞれ固定部材8により液密的に固定されている。
実施形態に係る清澄化方法は、上記中空糸膜の管内部にろ過対象液を流通させることによりろ過を行うろ過工程と、中空糸膜とハウジングの間の間隙に逆洗液を充満させ、高い位置にあるノズルからハウジング内部に気体を導入することにより、逆洗液の液面を徐々に降下させつつ、中空糸膜を逆洗液で洗浄し、逆洗廃液を上部側の開口部から排出させる逆洗工程とを、交互に実施するものである。
図3を参照してろ過工程を説明する。図3は、図2の中空糸膜モジュール100を用いたろ過を模式的に示す断面図である。懸濁物質22を含む、ろ過対象液(例えば、バイオ医薬培養液)20が下部側の開口部1から導入されると、ろ過対象液20は中空糸膜4の流路を上部(矢印の方向)に向かって移動するともに、中空糸膜4の管壁に形成された孔で懸濁物質22が漉し取られ、中空糸膜4の外部に清浄なろ過液24が流出し、流出したろ過液24は第1のノズル12、第2のノズル14により外部に取り出すことができるようになる。すなわち、中空糸膜4でろ過対象液20がろ過されたろ過液24が、第1のノズル12、第2のノズル14を通して、入出可能となる。なお、中空糸膜4を上部に通過するにつれ、ろ過されずに残ったろ過対象液20中の懸濁物質22の濃度は増加し、上部側の開口部1付近では、ろ過対象液は濃縮されたもの(濃縮液)となり、この濃縮液は上部側の開口部1から排出される。
なお、上部側の開口部1を閉じて、上部側の開口部1から濃縮されたろ過対象液(濃縮液)を取り出すことなく、ろ過工程を行ってもよい。
次に、図4を参照して逆洗工程を説明する。図4は、図2の中空糸膜モジュール100を用いた清澄化方法を模式的に示す断面図である。清澄化方法を実施するには先ず、第1のノズル12及び第2のノズル14の一方が他方より高い位置になるように、中空糸膜モジュールを配置させる(図4においては、第1のノズル12が高い位置にある。)。そして、中空糸膜4とハウジング2の間の間隙(図3において、ろ液24が存在する領域)に、第1のノズル12又は第2のノズル14を通して、逆洗液30を充満させる。
このような状態にした後に、第1のノズル12からハウジング2内部に気体40を導入することにより、逆洗液30の液面31を徐々に降下させつつ、中空糸膜4を逆洗液30で洗浄し、中空糸膜4の管壁中に存在する懸濁物質22を管壁から除去し、懸濁物質22を含む逆洗廃液32を上部側の開口部1から排出させる。
上記の逆洗工程を実施するに当たり、ハウジング2内に逆洗液30を充満させた後、第2のノズル14と下部側の開口部1を閉鎖させて、第1のノズル12から気体40を導入してもよく(第1の方法)、下部側の開口部1を閉鎖させた状態で、第1のノズル12から気体40を、第2のノズル14から逆洗液30を導入してもよい(第2の方法)。さらに、下部側の開口部1を閉鎖させないで、懸濁物質22を含むろ過対象液20を中空糸膜4に導入しつつ、上記第1の方法又は第2の方法を実施してもよい。
容器(ハウジング)の素材は、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、及びスチレン・ブタジエンブロックコポリマーの様な混合樹脂が用いられる。素材のコストの観点からポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマーが好ましく用いられる。ポリウレタン系の接着剤と相性と容器の強度から特にポリプロピレン系ポリマーが好ましい。ポリプロピレン系ポリマーを容器の素材に用いる場合、ポリウレタン系の接着剤との接着性を向上させるために本実施形態では容器をコロナ放電処理することが好ましい。さらに接着性を向上させるには、容器のみならず糸束にもコロナ放電処理することがより好ましい。糸束へのコロナ放電は、接着部位のみに行う。
ろ過工程は、中空糸膜4の一端からその管内部にろ過対象液20を導入して管壁に沿って送液するとともに、管壁でろ過して孔から清澄化されたろ過対象液24を流出させ、ろ過により濃縮されたろ過対象液を中空糸膜4の他端から抜き出す、クロスフローろ過工程とすることが好ましい。
清澄化方法においては、ろ過工程と逆洗工程とを交互に実施する。例えば、ろ過工程により一部閉塞した中空糸膜を、逆洗工程で清浄化し、その後再びろ過工程を実施し、必要によりこれを繰り返す。
上記清澄化方法は、換言すれば、中空糸膜モジュールを立てた状態で用い、懸濁液(ろ過対象液)をモジュール下部から導入し、所定時間又は所定量の内圧でろ過を行う工程と、モジュールの2次側(ろ液側)が液体(逆洗液)で満たされた状態から、気体を導入して液面(気液界面)を調整しながら、外圧で逆洗し、その逆洗排液モジュール上部から抜き出す工程を含む清澄化方法である。
ここで、立てた状態とは、中空糸膜モジュールの一方の端部が、他方より高くなっている状態のことで、地表面に対して垂直である場合も、斜めになっている場合も含まれる。また、内圧でろ過を行うとは、中空糸膜の内表面側から加圧状態の液を導入してろ過を行うことであり、外圧で逆洗を行うとは、中空糸膜の外表面側から加圧した液を導入し、それを中空糸膜内表面側へ透過させることで内表面に堆積した物質を物理的に取り除くことである。
本実施形態で用いる気体としては、膜や液に影響を与えるものでなければどのようなものでもよいが、コストや安全性の観点からは空気や窒素を用いることが好ましい。
内圧ろ過を行う時間や量は対象とする懸濁液の性状にあわせて適宜決定することができる。逆洗を行う工程では、中空糸膜モジュールを立てた状態であることが必須であり、このことで気体を導入し液面を調節しながらの逆洗が可能となる。
内圧ろ過は、クロスフローろ過であることが好ましい。クロスフローろ過とは、多孔質中空糸膜の一端からその管内部にバイオ医薬培養液を導入して管壁に沿って送液するとともに、管壁でろ過して孔から清澄化又は除濁されたバイオ医薬培養液を流出させ、ろ過により濃縮されたバイオ医薬培養液を多孔質中空糸膜の他端から抜き出すろ過方法をいう。クロスフローろ過において、送液速度は、線速度で0.2m/sec以上1.0m/sec以下であることが好ましい。送液速度が0.2m/sec未満では、ろ過速度が低下する場合があり、1.0m/secより早いと、バイオ医療培養液中に含まれる細胞が破砕してしまい、破砕物がろ液に混入する場合がある。ここでいう線速度は、膜内径部分を通過する際の線速度であり、送液の流速(mL/sec)と膜内径とからも算出できる。
清澄化方法(除濁方法)は、内圧ろ過を行う工程で得られるろ液を用いて、多孔質中空糸膜を逆流洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。逆流洗浄により、多孔質中空糸膜の膜面や膜内部の堆積物を定期的に除去することで、多孔質中空糸膜のろ過性能を長時間維持することが可能となる。低圧及び低送液速度で十分なろ過速度を長時間維持できるため、バイオ医薬培養液中に含まれる細胞の破砕を一層防止することができる。
液面を調節せずに逆洗を行う場合は、中空糸膜の液が最も流れやすい部位を優先的に逆洗液が流れてしまい、中空糸膜全体をむら無く洗浄することが困難である。これに対して、液面を調節して徐々に下げながら、かつモジュールの上部から逆洗排液を抜き出す場合(本実施形態の方法の場合)、中空糸膜モジュール内が液で満たされている時には、中空糸膜モジュール最上部が最も逆洗液が流れやすくその部分が優先的に逆洗される。そこに気体を導入して液面を下げると、気体に接触している中空糸膜の部位には逆洗液が流れず、液面下部付近の中空糸膜が優先して逆洗される。このように液面を下げながら逆洗を行うことで、中空糸膜モジュール内の中空糸膜上部から下部へと洗浄部位を変えながら順次逆洗を行うことができる。これによって高効率で逆洗が可能になるため、処理時間短縮、また回収率が向上するなど清澄化又は除濁の効率を上げることができる。
上述したように、中空糸膜モジュール上部から懸濁物質の濃縮液(中空糸膜の内表面側からろ過を行った際に透過せずに留まっている液のことであり、元の液に比べ高い濃度の懸濁物が含まれる。)を抜きながらろ過を行うことが好ましい。このように濃縮液を抜きながらろ過を行うことで、懸濁物質が膜内部や表面に押し付けられる量を減らすことで膜の目詰まりが少なくなり、逆洗での洗浄性を向上させることが出来る。
本実施形態に係る中空糸膜モジュールを用いた清澄化方法は、懸濁液の濁質成分が生物由来物質である場合の清澄化に用いるのに適している。生物由来の濁質成分としては、動物由来、植物由来のどちらでもよく、例えば、細胞培養液、酵母発酵液などが上げられる。このような生物由来の濁質成分を膜ろ過で清澄化する場合、通常用いられるようなろ過方法では、ろ過を継続するに従ってろ過圧が高くなり、懸濁物質の変形、破壊などが起こり、それらが膜を透過してろ過液に混入したり、膜へ付着したりしてしまう。本実施形態に係る中空糸膜モジュールを用いた清澄化方法では、逆洗効果が高く、ろ過圧を長時間低く保つことが出来るため、懸濁物質の変形、破壊が起こらず、高い質のろ過液が得られると共に、ろ過の効率を向上させることが可能となる。
以下、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。中空糸膜の物性等の測定は、以下のように実施した。本発明の範囲は以下の実施例等のみに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
下記実施例及び比較例の中空糸膜について、内/外表面平均孔径及び最小孔径層の位置の測定、最小孔径層の孔径の測定、内径、外径及び膜厚の測定、ポリビニルピロリドンの含有割合の測定、ポリビニルピロリドンの分布の測定、製膜原液の溶液粘度測定、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量測定を、以下の方法で行った。
[中空糸膜の内/外表面孔径及び最小孔径層の位置の測定]
凍結乾燥した中空糸膜の内/外表面を、電子顕微鏡を用いて1視野において10個以上の孔が観測可能な倍率で観察した。得られた顕微鏡写真における細孔を円形近似処理し、その面積平均値から求めた直径を内/外表面平均孔径(内/外面孔径)とした。凍結乾燥した中空糸膜の断面を内表面側から外表面側へ向かって連続して観察し、断面孔径が最小になる層の位置を確認した。
[最小孔径層の孔径決定法]
ポリスチレンラテックス粒子を、0.5wt%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液に、粒子濃度が0.01wt%になるように分散させ、ラテックス粒子分散液を調整した。中空糸膜を用いてラテックス粒子分散液のろ過を行い、ろ過前後のラテックス粒子の濃度変化を測定した。この測定を、0.02μmから0.1μmまでは約0.01μm又は約0.02μm刻みでラテックス粒子径を変えながら行い、0.1μmから1μmまでは約0.05μm又は約0.1μm刻みでラテックス粒子径を変えながら行い、ラテックス粒子の阻止曲線を作成した。この阻止曲線から、90%透過阻止可能な粒子径を読み取り、その径を最小孔径層の孔径(阻止孔径)とした。
[最小細孔径層の平均孔径]
上記の「最小孔径層の位置の測定」により、例えば、膜外表面近傍に最小孔径層があることが確認できたとき、上記「最小孔径層の孔径決定法」により決定される最小孔径層の孔径(阻止孔径)は、最小細孔径層の平均孔径である。
[中空糸膜の内径、外径及び膜厚の測定]
中空糸膜を円管状に薄くきりそれを測定顕微鏡で観察し、中空糸膜の内径(μm)、外径(μm)を測定した。得られた内径、外径から下記の式(II)を用いて膜厚を算出した。
膜厚(μm)=(外径-内径)/2 (II)
[ポリビニルピロリドンの含有割合の測定(ポリスルホン膜の場合)]
中空糸膜の1H-NMR測定を下記の条件で実施し、得られたスペクトルにおいて1.85~2.5ppm付近に現れるポリビニルピロリドン(4H分)由来のシグナルの積分値(IPVP)と7.3ppm付近に現れるポリスルホン(4H分)由来のシグナルの積分値(IPSf)から、下記式(III)によって算出した。
[測定条件]
装置:JNM-LA400(日本電子株式会社)
共鳴周波数:400.05MHz
溶媒:重水素化DMF
試料濃度:5重量%
積算回数:256回
ポリビニルピロリドン含有割合(質量%)=111(IPVP/4)/{442(IPSf/4)+111(IPVP/4)}×100 (III)
上記のようにして算出される「ポリビニルピロリドン含有割合」は、中空糸膜の総質量を基準としたポリビニルピロリドンの含有量である。なお、疎水性高分子がポリスルホン以外のポリマーである場合も、ポリスルホンの場合と同様に、その疎水性高分子及びポリビニルピロリドンにそれぞれ由来するシグナルの積分値と、疎水性高分子を構成するモノマー単位の分子量からポリビニルピロリドンの含有量を求めることができる。
[中空糸膜の最小細孔径層中/中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面のポリビニルピロリドン含有割合]
中空糸膜の最小細孔径層の部位と、中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面の部位とをサンプリングし、各部位中に含まれるポリビニルピロリドンの含有割合を上記測定と同様にしてNMR測定より求めた。
[ポリビニルピロリドンの重量平均分子量測定]
ポリビニルピロリドンを1.0mg/mlの濃度でDMFに溶かした試料液を作製し、以下の条件でGPC測定を行いその重量平均分子量(PMMA換算)を求めた。
装置:HLC-8220GPC(東ソー株式会社)
カラム:Shodex KF-606M、KF-601
オーブン:40℃
移動相:0.6ml/min DMF
検出器:示差屈折率検出器
以下の重量平均分子量を有するGPC標準物質であるPMMAを用いて検量線(3次式)を作成し、その検量線に基づいてポリビニルピロリドンの流出時間からPMMA換算の重量平均分子量を求めた。
1944000、790000、281700、144000、79250、28900、13300、5720、1960
[破断強度の測定]
膜強度は、(株)島津製作所製のオートグラフAGS-5Dを使用し、サンプル長さ20mm、引張りスピード300mm/分で測定した。
[実施例1]
[ポリビニルピロリドン溶解液の作製及び該溶解液のろ過]
100℃以下の温度での乾燥により含水率を0.3質量%以下としたポリビニルピロリドン(BASF社製、K値90、重量平均分子量1,200,000)440gをN-メチル-2-ピロリドン7560gに溶解して均一な溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)とした。
この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS-02S2、有効ろ過面積20cm2)を用いてろ過流量2mL/(分・cm2)にてろ過した。ろ過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。フィルターろ過後のポリビニルピロリドン溶解液を5.0質量%の濃度になるように調整して、動的光散乱装置にて測定したときのポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、13nmであった。動的光散乱装置によるポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、10回測定した平均値を用いた。なお、平均値の算出時には、最大値と最小値を除いた8点の値を用いた。
[製膜及び残溶剤の除去]
上記のフィルターろ過後の溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)800gに芳香族ポリスルホン(Amoco Engineering Polymers社製 P-1700)200gを添加して溶解することにより均一な溶液(製膜原液)を作製した。ポリスルホンの未溶解物等を除去するために、この製膜原液を孔径5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)を用いてろ過した。ここで、製膜原液中のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの混和比率は22.0重量%であった。この製膜原液を60℃に保ち、N-メチル-2-ピロリドン54重量%と水46重量%の混合溶液からなる内部液(水の含有量が46重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル 0.1mm-0.2mm-0.3mm、ノズル温度60℃、ノズル部での製膜原液の温度60℃)から吐出させ、0.96mのエアギャップを通過させて95±1℃の水からなる凝固浴へ浸漬した。
この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、外気が入らないように密閉した。紡速は、80m/分に固定した。ここで、紡速に対するエアギャップの比率は、0.012m/(m/分)であった。
巻き取った糸束を切断後、糸束の切断面上方から80℃の熱水シャワーを2時間かけて洗浄することにより膜中の残溶剤を除去した。
得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)であり、最も孔径が大きな膜表面が膜外表面であり、膜内表面及び膜内表面近傍に最小細孔径層が存在することが明らかとなった。その他の膜構造及び膜性能等を表1に示す。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった。さらに、平均粒径0.062μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定したろ液量を維持した。
[中空糸膜モジュールの製造]
巻き取った中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積(膜内表面換算)が1.0m2となるように設計したポリプロピレン製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。さらに、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。
グリセリン(和光純薬社製、特級)15gとグルコース(和光純薬社製、特級)5gを0.1質量%のチオ硫酸ナトリウム(和光純薬社製、特級)水溶液80gに溶解した溶液を作成した(これを濃度20質量%の(グリセリン+グルコース)溶液と呼ぶ)。この溶液を0.1質量%のチオ硫酸ナトリウム水溶液で40倍に希釈した溶液((グリセリン+グルコース)濃度0.5質量%)を該血液浄化器内に注入して中空糸膜の内/外に該溶液が十分に浸かるようにした。このとき、該溶液中の酸素濃度を0.3~0.8mg/Lの範囲内になるように調整した。その後、該中空糸膜モジュールに電子線を20kGy照射した。
放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、13nmであった。中空糸膜モジュールのピンホール検査を行ったが欠損糸は見つからなかった。
[バイオ医薬培養液の清澄化試験]
細胞の連続培養で産生したバイオ医薬培養液を上記中空糸膜モジュールに線速度0.5m/secで送液し、一定時間内での透過流量を測定した。なお、測定中、5分に1回の割合で逆流洗浄を行った。逆流洗浄は、循環ポンプを止めて、中空糸膜モジュールろ液側より2~3Lの空気を押し込み、モジュールろ液側に滞留しているろ液を中空糸内側へ向けて通液することにより行った。バイオ医薬培養液として、無血清培地(Irvine Scientific社 IS CHO-CD培地)にて培養したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養液(細胞密度約1.7×107/mL、生細胞率約56%)を用いた。この操作を24時間連続で行った。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。
24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約1.7×107/mL、生細胞率約56%と操作前と変化が無かった。バイオ医薬培養液を中空糸膜モジュールに送液前に中空糸膜モジュールからグリセリン、グルコース、及びチオ硫酸ナトリウムの溶出が無い状態になるまで中空糸膜モジュールを洗浄した。
上記においてバイオ医薬培養液を産生する細胞の連続培養であり、細胞の培養槽から培養液を排出し、中空糸膜モジュールろ液で排出した培養液と同量の新鮮培地を培養槽に加えるブリーディングを行った。中空糸膜モジュールへのバイオ医薬培養液の送液はタンジェンシャルフローろ過であった。
細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であることが明らかとなった。また、ろ液中の細胞並びに細胞破砕物等の混入はなかった。さらに、24時間の累積ろ過量が200kg以上であることから、製造効率が優れることが明らかとなった。
以上から、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制することが明らかとなった。
さらに、後述する比較例1の結果との比較から、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが明らかとなった。
[比較例1]
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例1と同様な操作を行った。ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。
中空糸膜のピンホール検査を行った結果、多数のピンホールが見つかったため、ピンホールが無い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュール作成して実施例1と同様な操作を行った。放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約0.8×107/mL、生細胞率約46%と操作前より低下した。
[実施例2]
「製膜及び残溶剤の除去」で説明した方法において、N-メチル-2-ピロリドン63重量%と水37重量%の混合溶液からなる内部液(水の含有量が37重量%)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から内表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)であることが明らかとなった。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった 。さらに、阻止径測定に使用した平均粒径0.102μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定したろ液量を維持した。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約1.7×107/mL、生細胞率約56%と操作前と変化が無かった。
細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であることが明らかとなった。また、ろ液中の細胞並びに細胞破砕物等の混入はなかった。さらに、24時間の累積ろ過量が200kg以上であることから、製造効率が優れることが明らかとなった。
以上から、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制することが明らかとなった。
さらに、後述する比較例2の結果との比較から、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが明らかとなった。
[比較例2]
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例2と同様な操作を行った。ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。
中空糸膜のピンホール検査を行った結果、多数のピンホールが見つかったため、ピンホールが無い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュール作成して実施例1と同様な操作を行った。
放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約0.7×107/mL、生細胞率約43%と操作前より低下した。
[実施例3]
[ポリビニルピロリドン溶解液の作製及び該溶解液のろ過]
100℃以下の温度での乾燥により含水率を0.3質量%以下としたポリビニルピロリドン(BASF社製、K値90、重量平均分子量1,200,000)600gをN-メチル-2-ピロリドン7400gに溶解して均一な溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)とした。
この溶液を70℃に保温して孔径2μmのステンレス製の焼結フィルター(日本精線(株)社製、NS-02S2、有効ろ過面積20cm2)を用いてろ過流量2mL/(分・cm2)にてろ過した。ろ過中は焼結フィルターを超音波洗浄機中に浸漬して、ポリビニルピロリドン溶解液に常時59kHz(出力3kW)の超音波振動を付与した。フィルターろ過後のポリビニルピロリドン溶解液を5.0質量%の濃度になるように調整して、動的光散乱装置にて測定したときのポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、13nmであった。動的光散乱装置によるポリビニルピロリドンの粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、10回測定した平均値を用いた。なお、平均値の算出時には、最大値と最小値を除いた8点の値を用いた。
[製膜及び残溶剤の除去]
上記のフィルターろ過後の溶液(ポリビニルピロリドン溶解液)800gに芳香族ポリスルホン(Amoco Engineering Polymers社製 P-1700)200gを添加して溶解することにより均一な溶液(製膜原液)を作製した。ポリスルホンの未溶解物等を除去するために、この製膜原液を孔径5μmのフィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)を用いてろ過した。ここで、製膜原液中のポリスルホンに対するポリビニルピロリドンの混和比率は27.2重量%であった。この製膜原液を60℃に保ち、N-メチル-2-ピロリドン95重量%と水5重量%の混合溶液からなる内部液(水の含有量が95重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル 0.5mm-0.7mm-1.3mm、ノズル温度60℃、ノズル部での製膜原液の温度60℃)から吐出させ、60mmのエアギャップを通過させて70±1℃の水からなる凝固浴へ浸漬した。
この時、紡口から凝固浴までを円筒状の筒で囲み、外気が入らないように密閉した。紡速は、20m/分に固定した。巻き取った糸束を切断後、糸束の切断面上方から80℃の熱水シャワーを2時間かけて洗浄することにより膜中の残溶剤を除去した。
得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)であり、最も孔径が大きな膜表面が膜内表面であり、膜外表面近傍に最小細孔径層が存在することが明らかとなった。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった。さらに、平均粒径0.273μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定したろ液量を維持した。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約1.7×107/mL、生細胞率約56%と操作前と変化が無かった。
細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であることが明らかとなった。また、ろ液中の細胞並びに細胞破砕物等の混入はなかった。さらに、24時間の累積ろ過量が200kg以上であることから、製造効率が優れることが明らかとなった。
以上から、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制することが明らかとなった。
さらに、後述する比較例3の結果との比較から、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが明らかとなった。
[比較例3]
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例2と同様な操作を行った。ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。
中空糸膜のピンホール検査を行った結果、多数のピンホールが見つかったため、ピンホールが無い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュール作成して実施例3と同様な操作を行った。
放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約0.6×107/mL、生細胞率約42%と操作前より低下した。
[実施例4]
製膜及び残溶剤の除去において芳香族ポリスルホンの代わりにポリエーテルイミド(GE NERAL ELECTRIC社製、Ultem1010)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、中空糸膜を得た。
得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)であり、最も孔径が大きな膜表面が膜内表面であり、膜外表面近傍に最小細孔径層が存在することが明らかとなった。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった。さらに、平均粒径0.304μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定したろ液量を維持した。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約1.7×107/mL、生細胞率約56%と操作前と変化が無かった。
細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であることが明らかとなった。また、ろ液中の細胞並びに細胞破砕物等の混入はなかった。さらに、24時間の累積ろ過量が200kg以上であることから、製造効率が優れることが明らかとなった。
以上から、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制することが明らかとなった。
さらに、後述する比較例4の結果との比較から、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが明らかとなった。
[比較例4]
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例4と同様な操作を行った。ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。
中空糸膜のピンホール検査を行った結果、多数のピンホールが見つかったため、ピンホールが無い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュール作成して実施例2と同様な操作を行った。
放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。
24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約0.5×107/mL、生細胞率約41%と操作前より低下した。
[実施例5]
「製膜及び残溶剤の除去」で説明した方法において、製膜原液を95±1℃に保ち、紡口(2重環状ノズル温度95±1℃、ノズル部での製膜原液の温度95±1℃)から吐出させ、95±1℃の水からなる凝固浴へ浸漬した以外は、実施例3と同様の操作を行い、中空糸膜を得た。
得られた膜を電子顕微鏡にて観察したところ、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から内表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)であり、最も孔径が大きな膜表面が膜内表面であり、膜外表面近傍に最小細孔径層が存在することが明らかとなった。膜の破断強度は50kgf/cm2以上と高い強度を示し、さらに1,000mL/(m2・hr・mmHg)以上の優れた透水性能を有する精密ろ過膜であることが明らかとなった。さらに、平均粒径1.000μmのラテックス粒子の内圧ろ過においても急激な目詰まりがなく長時間安定したろ液量を維持した。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約1.7×107/mL、生細胞率約56%と操作前と変化が無かった。
細胞培養液の精製工程(清澄化)を膜ろ過のみの一段で行うことが可能であることが明らかとなった。また、ろ液中の細胞並びに細胞破砕物等の混入はなかった。さらに、24時間の累積ろ過量が200kg以上であることから、製造効率が優れることが明らかとなった。
以上から、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制することが明らかとなった。
さらに、後述する比較例5の結果との比較から、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することが明らかとなった。
[比較例5]
ポリビニルピロリドン溶解液のろ過に用いるフィルターを孔径5μmのステンレス製の焼結フィルター(富士フィルター(株)社製、FD-5、有効ろ過面積40cm2)にしてポリビニルピロリドン溶解液に超音波振動を与えない以外は実施例4と同様な操作を行った。ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。
中空糸膜のピンホール検査を行った結果、多数のピンホールが見つかったため、ピンホールが無い中空糸膜を用いた中空糸膜モジュール作成して実施例2と同様な操作を行った。
放射線照射後の中空糸膜モジュールから抽出した可溶性ポリビニルピロリドンの動的光散乱装置にて測定した時の粒度分布において最も大粒径側のピークのモード径は、550nmであった。この膜の性能及びこの膜を用いた測定結果を表1に示す。
24時間連続操作後の細胞の培養槽における細胞密度は約0.4×107/mL、生細胞率約39%と操作前より低下した。
本発明に係る清澄化されたバイオ医薬培養液を製造するための中空糸膜の使用、及びバイオ医薬培養液を回収する方法は、有用物質を産生する細胞の連続培養において、細胞等の破砕物の混入が少なく十分に清澄化されたバイオ医薬培養液を効率的に製造することが可能であり、中空糸膜における有用物質の透過率の低下を抑制し、有用物質を高い効率で回収し、バイオ医薬培養液中の細胞密度及び細胞生存度の低下を抑制することに好適に利用可能である。
1・・・開口部、2・・・ハウジング、4・・・中空糸膜、6・・・中空糸膜束、8・・・固定部材、12・・・第1のノズル、14・・・第2のノズル、20・・・ろ過対象液、22・・・懸濁物質、24・・・ろ過液、30・・・逆洗液、31・・・液面、32・・・逆洗廃液、40・・・気体、100・・・中空糸膜モジュール

Claims (17)

  1. ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜にバイオ医薬培養液を流通させるろ過工程を含み、
    前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である、
    清澄化されたバイオ医薬培養液を製造する方法。
  2. 前記ポリビニルピロリドンのK値が75以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋度が80%以上100%未満である、請求項1に記載の方法。
  4. 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、架橋度調整剤を含む溶液を前記中空糸膜内に注入し、その後、前記中空糸膜に放射線照射することによって、架橋度を80%以上100%未満にされている、請求項3に記載の方法。
  5. 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンが、原料としてのポリビニルピロリドンを含む溶液をろ過する工程と、前記ろ過した溶液を吐出することによって、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜を得る工程によって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、請求項1に記載の方法。
  6. 前記ポリビニルピロリドンを含む溶液を孔径3μm以下の焼結フィルターで超音波振動を加えながらろ過することによって、ポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下にされている、請求項5に記載の方法。
  7. 前記中空糸膜が、膜の外表面から内表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造を有する、請求項1に記載の方法。
  8. 前記中空糸膜が、精密ろ過膜である、請求項1又は7に記載の方法。
  9. 前記中空糸膜の最小細孔径層の平均孔径が0.05μm以上1μm以下の阻止孔径を有している、請求項1又は7に記載の方法。
  10. 前記中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面の平均孔径が1μm以上60μm以下である、請求項1又は7に記載の方法。
  11. 前記中空糸膜の膜厚が40μm以上1000μm以下である、請求項1又は7に記載の方法。
  12. 前記中空糸膜中のポリビニルピロリドンの含有量が1.0質量%以上3質量%以下である、請求項1に記載の方法。
  13. 前記中空糸膜の最小細孔径層中のポリビニルピロリドン含有割合が、前記中空糸膜の最も孔径が大きな膜表面のポリビニルピロリドン含有割合の1.7倍以上である、請求項1又は12に記載の方法。
  14. 前記ろ過は、前記中空糸膜の一端から前記バイオ医薬培養液を送液するとともに、ろ過して清澄化されたバイオ医薬培養液を流出させ、ろ過されずに残り、懸濁物質が濃縮されたバイオ医薬培養液を前記中空糸膜の他端から抜き出す、クロスフローろ過により行われ、前記バイオ医薬培養液の送液速度は、線速度で0.2m/sec以上1.0m/sec以下である、請求項1に記載の方法。
  15. 前記ろ過工程で得られるろ液を用いて、前記中空糸膜を逆流洗浄する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  16. 前記中空糸膜が複数本であり、
    当該複数の中空糸膜が、
    両端に開口部を有するハウジングと、
    前記ハウジング中に収容され、ろ過対象液である前記バイオ医薬培養液が前記ハウジングの開口部から入出可能なように、一端が一方の前記開口部側に固定され、他端が他方の前記開口部側に固定された、当該複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、
    前記ハウジングの一端付近の側面に設置され、前記中空糸膜で前記ろ過対象液がろ過されたろ過液が入出可能な第1のノズルと、
    前記ハウジングの他端付近の側面に設置され、前記ろ過液が入出可能な第2のノズルと、
    を備える中空糸膜モジュールに含まれ、
    前記第1のノズル及び前記第2のノズルの一方が他方より高い位置になるように、前記中空糸膜モジュールを配置した状態で、前記中空糸膜の管内部に前記ろ過対象液を流通させることによりろ過を行うろ過工程と、
    前記中空糸膜と前記ハウジングの間の間隙に逆洗液を充満させ、高い位置にあるノズルからハウジング内部に気体を導入することにより、前記逆洗液の液面を徐々に降下させつつ、前記中空糸膜を前記逆洗液で洗浄し、前記逆洗廃液を上部側の前記開口部から排出させる逆洗工程と、
    を交互に実施する、請求項1に記載の方法。
  17. バイオ医薬培養液を産生する細胞の連続培養において、培養液からバイオ医薬培養液を回収する方法であって、
    細胞の培養槽から培養液を排出し、排出した培養液と同量の新鮮培地を培養槽に加えるブリーディング工程と、
    培養槽から抽出した培養液を、ポリビニルピロリドンを含む中空糸膜中のポリビニルピロリドンの動的光散乱法により測定される粒径分布において最も大粒径側にあるピークのモード径が300nm以下である前記中空糸膜を用いてろ過するろ過工程と、
    を含み、
    ろ過工程におけるろ過がタンジェンシャルフローろ過である、バイオ医薬培養液を回収する方法。
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