JP2024057808A - 加速器及び粒子線治療装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】効率的で良好なビームの取り出しが可能な加速器を提供する。【解決手段】主電磁石A101は、互いに対向して配置される複数の主磁極M202に挟まれた空間に主磁場を印加する。RFキッカM204は、主磁場が印加されている主磁場領域を周回するビームを主磁場領域の外側に変位させる。ビームを取り出すための出射チャネル磁場を生成する。キャンセル磁場発生装置M214は、出射チャネルM207よりも内周側に設けられ、出射チャネルがつくる擾乱磁場と逆極性を有するキャンセル磁場を生成する。【選択図】図3
Description
本開示は、加速器及び粒子線治療装置に関する。
陽子又は炭素イオンなどの荷電粒子を加速したイオンビームを腫瘍に照射する粒子線治療装置が知られている。荷電粒子を加速する加速器は、イオン源又は電子銃から引き出されたイオンビームを、電場及び磁場を用いて軌道制御しつつ、治療に必要なエネルギーになるまで加速する。粒子線治療装置向けの代表的な加速器としては、数100MeVオーダのエネルギーを有するビームを得ることが可能なサイクロトロン、シンクロサイクロトロン及びシンクロトロンなどがある。
サイクロトロン及びシンクロサイクロトロンは、静磁場によって円形に周回運動させたビームに対して、ビームの周回周期と同期させた高周波電場を印加することで、ビームを加速する。高周波電場によってビームがエネルギーを得るほど、ビームの周回軌道半径が大きくなる。そして、ビームは、最高エネルギーに到達した後に最外周の周回軌道から出射される。このため、取り出すことが可能なビームのエネルギーは単一であるという問題がある。
一方、シンクロトロンは、ビームを偏向する磁場の強度及び加速電場の周期を時間的に変化させることにより、ビームの周回軌道半径を一定に保ちながら加速する加速器である。シンクロトロンでは、周回軌道半径が一定、つまり、異なるエネルギーを有するビームが同じ周回軌道上で加速されるため、出射するビームのエネルギーを可変とする可変エネルギー出射が可能となる。
また、特許文献1には、静磁場を用いつつ、可変エネルギー出射を可能とする軌道偏芯加速器が開示されている。
特許文献2では、共鳴磁場を用いてビームを出射する共鳴出射において課題となる、出射チャネル磁場による共鳴磁場への擾乱を低減する技術が開示されている。
非特許文献1では、特許文献2と異なる擾乱の低減方法として、サイクロトロン型加速器のリジェネレータ磁場による主磁場領域の第1高調波成分の擾乱磁場を補正する方法が記載されている。
非特許文献2には、特許文献1に記載されている軌道偏芯加速器において、偏芯したビーム軌道配置を実現する際に要求される磁場分布を生成する目的で、主磁極の形状を最適化する技術が記載されている。
"Fast Computation of magnetic shimming ina high field environment", W.Kleeven, European Cyclotron Progress Meeting (2012).
"軌道偏芯加速器における磁極形状設計手法の開発", 西田賢人、堀知新、青木孝道、羽江隆光, Proceedings of the 17-th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (2020).
本開示の目的は、効率的で良好なビームの取り出しが可能な加速器及び粒子線治療装置を提供することにある。
本開示の一態様に従う加速器は、主磁場及び加速用高周波電場によって、イオンビームを周回させながら加速する加速器であって、互いに対向して配置される複数の主磁極に挟まれた空間に前記主磁場を印加させる主磁場発生装置と、前記主磁場が印加されている主磁場領域を周回するイオンビームを前記主磁場領域の外側に変位させるビーム変位装置と、前記外側に移動されたイオンビームを取り出すための出射チャネル磁場を生成する出射チャネル磁場発生装置と、前記出射チャネル磁場発生装置よりも内周側に設けられ、前記出射チャネル磁場と逆極性を有するキャンセル磁場を生成するキャンセル磁場発生装置と、を有する。
本発明によれば、効率的で良好なビームの取り出しが可能となる。
以下、本開示の実施例について図面を参照して説明する。
図1は、本開示の実施例1に係る粒子線治療システムを示す図である。図1に示す粒子線治療システムは、治療対象となる患者に対して粒子線であるイオンビーム(以下、単にビームと称することもある)を照射する粒子線治療を行うための粒子線治療装置である。粒子線治療システムは、ビームを加速して出射する加速器A100と、加速器A100から出射されたビームを輸送するビーム輸送系A110と、ビーム輸送系A110にて輸送されたビームを患者A131に照射するための治療室A130と、加速器A100及びビーム輸送系A110を制御するための制御装置A140とを有する。
加速器A100は、粒子線治療に使用するエネルギー帯のビームを生成して出射する装置である。加速器A100は、ビームとなるイオンを注入するイオン源システムA102と、イオン源システムA102からのイオンをビームとして内部で加速する主電磁石A101と、主電磁石A101にて加速されたビームを外部に取り出して出射する出口である出射口A103とを備える。
イオン源システムA102は、例えば、冷陰極を用いた内部イオン源、又は、高周波源を用いた外部イオン源などである。本実施例では、イオン源システムA102は、外部イオン源であり、図1に示すように主電磁石A101に取り付けられる。なお、イオン源システムA102が内部イオン源の場合、イオン源システムA102の本体となる冷陰極電極が主電磁石A101の内部に取り付けられ、さらにガス導入経路及び電源と接続される。また、イオンの種類は特に限定されず、例えば、陽子又は炭素イオンなどである。
主電磁石A101は、ビームを周回させるための主磁場を生成する。主磁場は、所定の平衡軌道でビームを周回させるために印加する磁場分布である。主電磁石A101は、具体的には、略上下対称に形成され、内部にビームを周回させながら加速するための加速空間を備える。主電磁石A101は、加速空間に対してイオン源システムA102から注入されたイオンに主磁場を作用させることでローレンツ力を与えて、イオンを円形軌道で周回させることでビームとして形成する。ビームは、主電磁石A101内に生成される高周波電場によって所望のエネルギーまで加速され、出射口A103を介して、加速器A100の外部に取り出される。イオンの入射(注入)、ビームの加速及び出射に関する一連の機器動作は、制御装置A140にて制御される。
ビーム輸送系A110は、加速器A100から出射されたビームを治療室A130まで輸送する。ビーム輸送系A110は、エネルギーごとに異なる特性のビームを包括的に取り扱い、各ビームのビームエミッタンス及びエネルギーの変動を補正しながら、ビームを輸送する。ビーム輸送系A110は、ビームが通過するビームパイプA111、A117、A119及びA122と、ビームの進行方向を調整するための偏向電磁石A112、A115、A118及びA120と、ビーム形状を制御するための収束電磁石A113、A114、A116及びA123とを含む。
ビームパイプA111、A117、A119及びA122の内部は、ビームが中性ガスと衝突して損失しないように、イオンポンプ又はターボ分子ポンプなどのような真空ポンプA124を用いて真空排気される。偏向電磁石A112、A115、A118及びA120は、ビームがビームパイプA111、A117、A119及びA122に沿って進行するように配置される。収束電磁石A113、A114、A116及びA123は、収束又は発散作用によって、ビームのエミッタンス及びエネルギーが調整できるように構成される。偏向電磁石A112、A115、A118及びA120と収束電磁石A113、A114、A116及びA123とは、制御装置A140にて制御される。なお、図1では、ビーム輸送系A110は、一つの加速器A100から一つの治療室A130にビームを輸送しているが、一つの加速器A100から複数の治療室A130にビームを輸送してもよい。
治療室A130は、患者A131を固定するための寝台A132と、ビーム輸送系A110にて輸送されたビームを患者A131に照射する照射装置A133及びA134を備える。
照射装置A133及びA134は、ビーム輸送系A110にて輸送されたビームの形状及びエネルギー分布を治療に適するように変更する機能を有する。照射装置A133及びA134は、例えば、ビームの不要な部分を削ぎ落とすためのコリメータ、ビームのエネルギー分布を拡げることにより腫瘍に対して深さ方向に照射範囲を広げるリッジフィルタ、ビームが到達する位置を微調整するレンジシフタ、及び、ビームの照射線量及びビームプロファイルを監視するための各種モニタなどを配置する構成としてもよい。また、照射装置A133及びA134は、ビームを所望の位置に照射するための照射機構を有する。照射機構は、例えば、回転可能なガントリーを用いて治療対象に対して任意の角度からビームを照射可能にする構成、及び、ビームを偏向する走査電磁石を設ける構成としてもよい。
図2は、加速器A100の構成例を示す構成図であり、加速器A100の上下方向の幾何中心面である中央平面に沿った横断面図である。なお、本実施例では、加速器A100は、共鳴磁場を用いてビーム出射する加速器であり、以下では、軌道偏芯型の円形加速器を例とに説明する。
加速器A100は、ビームが加速の際に通過する主磁場は、周方向に対称性を有しておらず、互いに異なるエネルギーを有する各ビームのビーム軌道が互いに偏芯した円軌道の集合を成すように設計された加速器である。軌道偏芯型の加速器A100では、互いに異なるエネルギーを有する各ビームのビーム軌道が互いに近接した軌道集約部を形成し、出射対象となるエネルギーを有する全てのビームが軌道集約部近傍の狭小な空間を通過することとなる。このため、その狭小な空間に対してビーム出射用の電場及び磁場を作用させることで、可変エネルギー出射が可能となる。なお、加速器A100は静磁場を用いるため、磁場強度の時間的変化が不要であり、主電磁石に超伝導コイルを用いて強磁場化することにより、小型化が可能である。
加速器A100は、可変エネルギー出射を可能とする可変エネルギー出射機構として、変位部、共鳴磁場領域及びセプタム電磁石を備える。変位部及び共鳴磁場領域は、ビーム変位装置を構成する。なお、セプタム電磁石は、コイルを用いずに強磁性体のみで構成される場合、出射チャネルと呼ばれることが多い。
変位部は、偏芯した軌道上を周回しているビームに対して、水平方向(電磁石の径方向)の摂動を与え、共鳴させることにより、ビーム軌道を主磁場領域の外側へと引き出す役割をもつ。水平方向の摂動は、RFキッカによって与えられ、摂動を受けたビームは、平衡軌道からみて径方向外周側を走行し、共鳴磁場の影響を受ける。共鳴磁場は、少なくとも4極磁場成分を含む高次磁場であり、径方向外周側に向かって主磁場を弱める方向の磁場勾配を有するピーラ磁場と、径方向外周側に向かって主磁場を強める方向の磁場勾配を有するリジェネレータ磁場とを含む。これらの磁場は、最大出射エネルギー軌道の外周側に、所定の方位角領域にわたって形成される。また、ビーム進行方向に対して、上流側にピーラ磁場領域が配置され、下流側にリジェネレータ磁場領域が配置される。これら2つをまとめて共鳴磁場領域と呼ぶ。ビームは、ピーラ磁場領域を通過することで外周側にキックされ、リジェネレータ磁場領域を通過することで内周側にキックされる。ピーラ磁場領域及びリジェネレータ磁場は、チューンが略1となるように調整されており、さらに径方向外周側に向かって強度が強くなるような磁場勾配を有する。このため、ビームは、1周毎に徐々に径方向外周側へ移動していき、ピーラ・リジェネレータ磁場領域の影響をより強く受け、キック量が徐々に増加する共鳴状態となる。そして、1周毎にビームが通過する径方向位置の差であるターンセパレーションが一定値以上となると、ビームは次段の出射用磁場を生成するセプタム電磁石の影響を受けるようになる。セプタム電磁石は、ビームを周回させる主磁場と逆極性の出射チャネル磁場を発生させて、ビームを主磁場の影響下から離れた出射軌道へ偏向するために用いられる。セプタム電磁石が影響する軌道領域へ侵入したビームは、出射チャネル磁場によって出射軌道へ偏向され、出射軌道を通って加速器の外部へ出射される。
加速器A100は、上述したように、ビームを内部に閉じ込めるための主磁場を発生させる主電磁石A101を備える。主電磁石A101は、継鉄M201と、主磁極M202と、コイルM203と、取出し高周波印加装置であるRF(Radio Frequency)キッカM204と、共鳴磁場領域であるピーラ磁場領域M205及びリジェネレータ磁場領域M206と、出射チャネルM207とを含む。継鉄M201、主磁極M202及びコイルM203は、主磁場を発生させる主磁場発生装置の主な構成である。
継鉄M201及び主磁極M202は、それぞれ互いに対向するように上下一対設けられる。主磁極M202は継鉄M201の内周部に設けられ、継鉄M201及び主磁極M202は、主電磁石A101の外殻を構成する。継鉄M201及び主磁極M202は、コイルM203及び出射チャネルM207などを支持する支持部材としても用いられる。主電磁石A101の内部(より具体的には、上下一対の主磁極M202の間)には、ビームが周回するための空間である加速空間が形成され、主磁極M202は、加速空間にビームを周回させるための主磁場を印加する。主磁場は、周方向に対称性を有しておらず、互いに異なるエネルギーを有する各ビームのビーム軌道が互いに偏芯した円軌道の集合を成すように設計される。加速空間は、ビームと中性粒子との衝突による損失を抑制するために、真空排気される。なお、継鉄M201及び主磁極M202は、中央面に対して略上下対称に形成されており、この場合、ビームが走行する走行面は、加速器A100の中央面と略一致する。
継鉄M201には、ビームを外部に取り出すための出射口A103が挿入される出射口用貫通孔M208が形成されている。また、主電磁石A101の内部には、ビームを加速するための加速用高周波電場を生成する加速電極M210が配置され、加速電極M210は、主電磁石A101の外部に設けられた周波数変調用の回転コンデンサM211と接続される。加速用高周波電場は、ビームの周回周期と同期した高周波電場を印加することで、ビームにエネルギーを与える電場である。回転コンデンサM211は、対抗する電極の実効的な面積を回転によって変化させることが可能な対抗電極を有し、回転コンデンサ駆動用動力機M212を用いて当該面積が変化されることで静電容量が変化する。回転コンデンサM211の静電容量が変化すると、加速電極M210の共振周波数が変更され、それにより、ビームエネルギーに応じて加速用高周波電場の周波数変調が可能となる。加速電極M210と回転コンデンサM211は継鉄M201に形成された加速電極用貫通孔M209を介して接続される。なお、継鉄M201には、出射口用貫通孔M208及び加速電極用貫通孔M209とは別に、必要に応じて貫通孔が形成されてもよい。例えば、継鉄M201には、ビームをモニタするための貫通孔が設けられてもよい。
コイルM203は、一対の超電導コイルであり、各超電導コイルは、上下方向の幾何中心断面である中央平面M233(図3参照)に対して略面対称に配置され、継鉄M201の内周に沿って設けられる。
また、図2では、主電磁石A101の幾何中心位置M231と、イオンの入射位置M232とが示されている。幾何中心位置M231は、例えば、継鉄M201及びコイルM203が略周方向対称の場合、それらの中心位置となる。入射位置M232は、幾何中心位置M231からずれた位置であり、ビームが周回する周回軌道の中心に対応する。また、図2では、加速器A100の出射対象となる最低エネルギーのビームが周回するビーム周回軌道M221と、加速器A100の出射対象となる最高エネルギーのビームが周回するビーム周回軌道M222とが示されている。最低エネルギーは、例えば、70MeV、最高エネルギーは、例えば、230MeVなどである。
RFキッカM204は、出射対象の全てのエネルギーのビームに対して、ビームを出射するための出射用高周波電場を印加することで、主磁場が印加された主磁場領域を周回するビームを外側に変位させる変位部である。主磁場領域は、高周波電場によりビームを所定のエネルギーへと加速する際に、ビームが通過する領域であり、各エネルギーの平衡軌道の集合である。
ピーラ磁場領域M205及びリジェネレータ磁場領域M206は、RFキッカM204にて主磁場領域の外側に変位されたビームに共鳴を与える共鳴磁場が形成される共鳴磁場領域を構成する。共鳴磁場領域は、主磁場領域の外周部(具体的には、最高エネルギーのビーム周回軌道M222よりも外周側)に、所定の方位角領域に配置される。ピーラ磁場領域M205は、ビーム進行方向に対して、リジェネレータ磁場領域M206よりも上流側に配置される。ピーラ磁場領域M205には、径方向外周側に向かって主磁場を弱める方向の磁場勾配を有するピーラ磁場が形成され、リジェネレータ磁場領域M206には、径方向外周側に向かって主磁場を強める方向の磁場勾配を有するリジェネレータ磁場が形成される。ピーラ磁場は、ビームに対して径方向外側に移動させるように作用し、リジェネレータ磁場は、ビームに対して径方向内側に移動させるように作用する。
出射チャネルM207は、ビームを径方向の外部に取り出すための出射チャネル磁場を生成する装置である。出射チャネル磁場は、具体的には、所定のエネルギーまで加速されたビームを、主磁場の影響を受けない領域まで、分離する際に用いる磁場である。加速されたビームが、安定に出射口まで輸送されるように適度な二極磁場成分と四極磁場成分をもつように設定される。出射チャネル磁場発生装置は、前記出射チャネル磁場を発生させる装置である。取出しビームの進行方向に対して、共鳴磁場領域の下流側に配置し、二極磁場成分により、取出しビームの出射軌道を調整しつつ、四極磁場成分により、取出しビームに適度な収束・発散を与えて、安定にビームを取り出す。本実施例の出射チャネルM207は、径方向位置がピーラ磁場領域M205及びリジェネレータ磁場領域M206よりもさらに外周側となるように配置される。また、出射チャネルM207は、ビームの進行方向に対してピーラ磁場領域M205よりも下流側に配置される。
図3は、主電磁石A101の垂直平面に沿った縦断面図であり、より具体的には、図2における中央平面M233から紙面下方向(方位角が-90°の方向)に延びる垂直平面に沿った縦断面図である。
図3では、継鉄M201、主磁極M202、コイルM203及び出射チャネルM207と、後述するキャンセル磁場発生装置M214とが模式的に示されている。また、主電磁石A101の、上下方向の幾何中心面である中央平面M233と、中央平面M233に対して垂直な方向を向いた主電磁石A101の軸方向M234とが示されている。図3では、ビームが加速される加速領域は径方向の内周側、ビームが加速領域から外れて出射されるまでの出射軌道領域は径方向外周側に存在している。
出射チャネルM207は、上下一対の1つ以上の磁性材料を有して形成され、略軸方向M234に発生している主磁場を弱める機能を有する。図3の例では、出射チャネルM207は、出射チャネル隔壁部M207aと、出射チャネル調整部M207bとを有する。
出射チャネル隔壁部M207aは、中央平面M233から上下対称に略上下方向に延びた磁性材料にて形成され、径方向の内外に関して隔壁となるように配置される隔壁部である。出射チャネル隔壁部M207aは磁性材料にて形成されているため、透磁率が周囲より十分高い。このため、付近の磁束が出射チャネル隔壁部M207aに吸い寄せられ、磁束を吸い寄せられた径方向内外に隣接する領域の磁束密度が低下する。これにより、出射チャネル隔壁部M207aの近傍で主磁場を急激に低下させることが可能となり、ビームを主磁場から引き離すことができる。
出射チャネル調整部M207bは、中央平面M233を挟んで上下対称に配置された1対の磁性材料にて形成され、ビームを、収束及び発散を制御しつつ出射口A103まで導く機能を有する。
出射チャネル隔壁部M207a及び出射チャネル調整部M207bの位置及び形状が調整されることで、ビームの所望の到達位置及び形状などが実現される出射チャネル磁場が生成される。
図4は、出射チャネルM207の一例を示す概観図である。
図4に示すように、ビームが進行するビーム進行方向における出射チャネルM207の形状は、略垂直方向の断面形状を出射軌道のビーム進行方向に沿って引きのばした形状である。ビームの出射軌道は、ビームが周回軌道から外れてから出射されるまでの軌道であり、出射軌道のビーム進行方向は、周回軌道M235に対して、主電磁石A101の中心から見て外周側へ広がるように設定される。出射チャネルM207の上記形状により、ビームが進行するほど、主磁場の中心から徐々に引き離される。出射チャネルM207にてビームが外周側へ移動するほど、主磁場の磁場強度が下がるため、強い磁場勾配によってビームは水平方向の発散を受ける。水平方向の発散が過大である場合、上下一対の出射チャネル調整部M207bが出射軌道内に作る磁場を用いてビームを補正する。このため、ビーム進行方向の各位置で、出射チャネルM207は異なる断面形状を有することとなり、出射軌道におけるビームの進行に応じた磁場分布が生成される。
図5は、共鳴磁場領域に形成される共鳴磁場を用いたビームの共鳴出射を説明するための図である。
図5に示すように共鳴磁場領域であるピーラ磁場領域M205及びリジェネレータ磁場領域M206は、ビーム周回軌道M221及びM222よりも径方向外側に存在する。このため、RFキッカM204が動作しない状態では、ビームは、共鳴磁場の影響を受けない。RFキッカM204が動作し、RFキッカM204にて生成される取出し用高周波電場がビームに印加すると、ビームの軌道が水平方向に変位して、ビームが共鳴磁場領域を通過するようになる。これにより、ビームは、ビーム軌道M221a及びM222aで示すように、ビーム周回軌道M221及びM222よりも外側に到達する。そして、ビームは、出射チャネルM207の出射チャネル隔壁部M207a(図3参照)よりも外周側に到達すると、主磁場から切り離され、出射軌道M223に沿って出射口A103まで導かれる。
このとき、ビームのエネルギーが低いほど、ビームは内側の周回軌道を通るため、ビームが出射チャネルM207の入り口に到達するためには、より多くの軌道変位が必要となる。一方、低エネルギービームは高エネルギービームよりも運動量が小さいため、同じ磁場強度におけるキック量は小さくなる。このため、低エネルギービームは高エネルギービームよりもビームの出射条件を満たすことが難しく、低エネルギービームの出射効率が低下する。低エネルギービームの出射効率を向上させるためには、出射チャネルM207を最低エネルギーのビーム周回軌道M221に近づけることで、必要な軌道変位の量が小さくされればよい。
しかしながら、出射チャネルM207を最低エネルギーのビーム周回軌道M221に近づけると、出射チャネルM207によって中央平面M233上の径方向内周側に形成される擾乱磁場が大きくなる。特に、出射チャネルM207が図3に示した出射チャネル隔壁部M207aを有する場合、出射チャネルM207を形成する磁性材料からピーラ磁場領域M205までの距離が近くなるため、出射チャネルM207によって、ピーラ磁場領域M205には高強度の擾乱磁場が生成される。この擾乱磁場は、ピーラ磁場を乱し、共鳴中のビーム挙動はピーラ磁場の影響を非常に受けやすい。このため、ピーラ磁場領域M205に高強度の擾乱磁場が生成されると、ピーラ磁場が所望の磁場分布からずれてしまい、良好なビームの取り出しが困難になる。
これに対して本実施例では、出射チャネルM207がピーラ磁場領域M205に生成する高強度の擾乱磁場を打ち消すために、加速器A100は、図3に示したようにキャンセル磁場発生装置M214を備える。
キャンセル磁場発生装置M214は、出射チャネルM207がピーラ部共鳴磁場領域に生成する擾乱磁場を打ち消すためのキャンセル磁場を生成する装置である。キャンセル磁場は、出射チャネルがピーラ部共鳴磁場両機に生成する擾乱磁場とは、逆極性となる。
キャンセル磁場発生装置M214は、キャンセル磁場を生成するための磁場を発生させる装置であり、強磁性体、コイル、永久磁石のいずれか、又はこれらの組み合わせで構成することができる。本実施例では、キャンセル磁場発生装置M214が、鉄などの強磁性材料で構成される例を用いて説明する。また、キャンセル磁場発生装置M214は、中央平面M233に対して面対称に複数配置される。また、キャンセル磁場発生装置M214は、上下方向から見てピーラ磁場領域M205と重なるように配置される。この配置により、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場を精度よく打ち消すことができる。
図6は、出射チャネルによる擾乱磁場(実線)及びキャンセル磁場(点線)の一例を示す図である。なお、図6では、縦軸は磁場強度、横軸は中央平面M233上の径方向の位置を示す。横軸は、より具体的には、図2に示す主電磁石A101の幾何中心位置M231から紙面下方向(方位角が-90°の方向)に沿った径方向の位置を示す。図6において、左方向が主電磁石A101の外周側、右方向が主電磁石A101の内周側であり、ビームは内周側から、加速領域、共鳴磁場領域、出射軌道領域の順に移動して加速器A100の外部に取り出される。
共鳴領域と出射軌道領域との境界には、出射チャネル隔壁部M207aが設けられている。出射軌道領域の磁場分布は、図6に示すように、出射チャネル隔壁部M207aの近傍で強い主磁場と逆極性の出射チャネル磁場が形成されており、これによりビームは主磁場から切り離される。しかしながら、出射チャネル隔壁部M207aの内周側の共鳴領域にも、同様の強い逆極性の出射チャネル磁場が生成され、これがビームの共鳴状態を乱す擾乱磁場となる。図6に示すような、共鳴領域の出射チャネル磁場を打消すようなキャンセル磁場が生成されれば、ビームの良好な共鳴状態を得ることができる。
キャンセル磁場発生装置M214は、図3の例では、不図示の非磁性体により主電磁石A101などに支持され、上下一対の主磁極M202間の空隙に配置されている。これにより、キャンセル磁場発生装置M214をビームが走行する領域の近傍に設置することができる。ただし、キャンセル磁場発生装置M214は、この構成に限らず、主磁極M202と接するように配置されてもよい。ただし、主磁極M202とキャンセル磁場発生装置M214とを一体形成する場合、キャンセル磁場発生装置M214と中央平面M233とが離れるため、中央平面M233におけるキャンセル磁場の単位体積当たりの磁場強度が小さくなる。これを補うため、キャンセル磁場発生装置M214を形成する磁性体(強磁性材料)が増加されると、主磁極M202の表面の凹凸が激しくなり、主磁極M202の加工が難しくなる恐れがある。また、キャンセル磁場発生装置M214間が離れると、キャンセル磁場発生装置M214がピーラ磁場を生成する生成範囲が広くなるため、キャンセル磁場発生装置M214が主磁場領域など別領域に対する擾乱磁場の要因となる恐れもある。特にビーム軌道の軌道集約部の近傍には、通常、ビーム出射用の機器及びビームモニタ用の機器などが設けられるために、キャンセル磁場発生装置M214からの磁気的な干渉が大きくなる恐れもある。したがって、キャンセル磁場発生装置M214は、少ない量の磁性体で十分な効果が得られるように、中央平面M233の近傍に配置されることが望ましい。
図7は、キャンセル磁場発生装置M214の構造例を示す図である。図7では、中央平面M233を挟んで上下一対に配置されるキャンセル磁場発生装置M214のうちの片側のみが示されている。また、図7(a)は、中央平面M233とは逆側から見た平面図であり、図7(b)は、図3の右側から見た平面図であり、図7(c)は、図3に対して垂直な方向からみた平面図であり、図7(d)は、中央平面M233側から見た斜視図である。
キャンセル磁場発生装置M214は、図4に示したピーラ磁場領域M205に沿って湾曲した形状を有し、擾乱磁場を打ち消す対象となる領域(ピーラ磁場領域M205の少なくとも一部)を挟むように配置される。キャンセル磁場発生装置M214の形状(各位置の厚みなど)は、出射チャネルM207がピーラ磁場領域M205に形成する擾乱磁場の強度分布に応じて定められる。例えば、キャンセル磁場発生装置M214の厚みは、周方向及び径方向の両方向に沿って変化し、所望のピーラ磁場が得られるように設計される。
キャンセル磁場発生装置M214の形状を決定するための方法としては、例えば、数値計算と形状変更とを繰り返す反復的な手法が挙げられる。この手法では、各位置での出射チャネルがつくる磁場及びキャンセル磁場が数値計算にて計算され、出射チャネルによる擾乱磁場が打ち消されるようにキャンセル磁場発生装置M214の形状が調整される。出射チャネルがつくる磁場及びキャンセル磁場の数値計算には、有限要素解析又は非特許文献1に記載の技術が用いられてもよい。有限要素解析を用いる場合、計算時間の長大化を抑制するために、主電磁石A101、出射チャネルM207及びキャンセル磁場発生装置M214がそれぞれ略軸対称であると仮定されてもよい。この場合、本仮定を用いてキャンセル磁場発生装置M214の形状を決定した後に、非軸対称であることを考慮してキャンセル磁場発生装置M214の形状が補正されてもよい。
なお、非特許文献2には、主電磁石A101における主磁極M202の形状を変形することで、所望の磁場分布を生成する方法が記載されている。この方法では、先ず、測定又は計算にて得られた軌道偏芯加速器の主電磁石が生成している磁場分布と、目標とする磁場分布との差分が計算され、次に、主電磁石の主磁極表面に磁性材料を付加又は除去することにより、上記の差分が取り除かれる。具体的には、主磁極表面に付加又は除去する磁性材料の最適な配置を最小二乗法による逆解析により算出し、その配置を数値計算モデルなどに反映することで、軌道偏芯加速器のような非一様な磁場分布を生成する主電磁石形状が算出される。本実施例のキャンセル磁場発生装置M214の形状の決定時には、この方法が併用されてもよい。例えば、有限要素解析などを用いてキャンセル磁場発生装置形状の概形を擾乱磁場が概ね打ち消されるように決定された後で、非特許文献2に記載の方法を用いて主磁極M202の形状の最適化を実施することで、擾乱磁場をより低減することができる。また、非特許文献2に示されている方法が、本実施例のキャンセル磁場発生装置M214の形状の決定に直接適用されてもよい。
なお、キャンセル磁場発生装置M214の形状が変更されると、出射チャネルM207及び主電磁石A101にて形成される磁場の磁場分布も変更され、さらに出射チャネルM207の形状が変更されると、キャンセル磁場発生装置M214にて形成される磁場の磁場分布が変更される。したがって、キャンセル磁場発生装置M214の形状の決定には反復的な処理が必要となることが多い。
図3の例では、キャンセル磁場発生装置M214は、ビームが走行する領域の近傍に設置されているため、キャンセル磁場発生装置M214の影響は、配置位置に対して高い感度を有している。このため、加速器A100は、キャンセル磁場発生装置M214を設計された位置に正確に配置するための治具、又は、キャンセル磁場発生装置M214の位置の微調整が可能な位置調整機構を有してもよい。また、キャンセル磁場発生装置M214は、RFキッカM204又は出射チャネルM207などと一体でもよい。特に、キャンセル磁場発生装置M214が出射チャネルM207と一体の場合、主電磁石A101の外部で出射チャネルM207との相対位置が調整された後で、キャンセル磁場発生装置M214を出射チャネルM207と共に主電磁石A101に取り付けることができる。また、キャンセル磁場発生装置M214は、主電磁石A101の主磁極M202に固定されてもよい。また、いずれにしても、キャンセル磁場発生装置M214には、主電磁石A101からの大きな吸引力が発生するため、キャンセル磁場発生装置M214は、非磁性体であり、かつ高強度の材料を用いて固定される。上記の治具又は位置調整機構には、例えば、ステンレス又は炭素繊維強化プラスチックなどの材料が用いられてもよい。
軌道偏芯型の円形加速器では、低エネルギーのビームは、高エネルギーのビームよりも内側を周回している。また、ピーラ磁場によるビームの周回軌道からの変位量は、ビームのエネルギーが低いほど小さい。このため、ビームのエネルギーが低いほど、ビーム取出しが難しくなる。低エネルギービームの効率的な取出しのためには、出射チャネルM207をビーム軌道の軌道集約部に近接して配置する必要がある。しかしながら、出射チャネルM207を軌道集約部に近接させると、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場により、ピーラ磁場が乱されてしまい、良好なビームの取り出しができなくなる。
本実施例にて説明した構成をとれば、出射チャネルM207の内周側に設けたキャンセル磁場発生装置M214により、出射チャネルM207がピーラ部に生成した擾乱磁場を、それとは逆極性を有するキャンセル磁場にて打ち消すことが可能である。これにより、出射チャネルM207をピーラ部に近づけた際の、ピーラ磁場への擾乱を軽減することができる。したがって、効率的で良好なビームの取り出しが可能になる。
また、本実施例では、キャンセル磁場発生装置M214は、ピーラ磁場領域M205と重なるように設けられる。このため、ビームの挙動に影響を与えやすいピーラ磁場領域205に生成された出射チャネルがつくる擾乱磁場をより適切に打ち消すことが可能となる。
また、本実施例では、ピーラ磁場領域205への影響が大きい出射チャネル隔壁部M207aが存在する場合でも、出射チャネル磁場を打ち消すことが可能になるため、効率的で良好なビームの取り出しが可能になる。
また、本実施例では、キャンセル磁場発生装置M214は主磁極M202から離れた位置に配置されるため、キャンセル磁場発生装置M214を中央平面M233に近い位置に配置することが可能となる。このため、キャンセル磁場発生装置M214による周辺の影響を軽減させることが可能となる。
また、本実施例では、キャンセル磁場発生装置M214は、鉄などの強磁性体にて形成されているため、高強度の擾乱磁場を比較的小体積で打ち消すことが可能である。
また、本実施例では、キャンセル磁場発生装置M214は、共鳴磁場領域に生じる擾乱磁場の磁場分布に応じて定められるため、擾乱磁場を適切に打ち消すことが可能になる。
また、本実施例では、ビーム変位装置は、外側に変位されたビームに擾乱を与えて、ビームを径方向外側に移動させるピーラ磁場を生成する。このため、より良好なビームの取り出しが可能になる。
また、本実施例では、ビーム変位装置は、外側に変位されたビームに擾乱を与えて、ビームを内側に移動させるリジェネレータ磁場を生成し、ビーム進行方向に対して、上流側にピーラ磁場を生成し、下流側にリジェネレータ磁場を生成する。このため、より良好なビームの取り引き出しが可能になる。
本実施例は、加速器A100が強磁性材料にて形成されたキャンセル磁場発生装置M214の代わりに、永久磁石にて形成されたキャンセル磁場発生装置を有する点で実施例1とは異なる。以下では、主に実施例1とは異なる構成について説明する。
図8は、本実施例に係るキャンセル磁場発生装置の一例を示す図であり、中央平面M233付近における主電磁石A101の垂直平面に沿った縦断面を模式的に示している。
図8に示すように永久磁石で形成されたキャンセル磁場発生装置M241は、ビームの走行領域を挟むように中央平面M233に対して面対称に複数(図では、一対)配置される。また、キャンセル磁場発生装置M241は、主電磁石A101にて生成される磁場と同極性、つまり、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場とは逆極性を有するように配置される。これにより、本実施例でも、実施例1と同様に出射チャネルM207が生成する擾乱磁場を、キャンセル磁場発生装置M241によるキャンセル磁場にて軽減することが可能となる。
なお、現状、永久磁石の残留磁化は最大でも1テスラ程度であり、強磁性材料の飽和磁化(鉄の場合、2テスラ程度)と比べて弱い。このため、主電磁石A101が高い磁場強度(例えば、2テスラ以上)を有する場合、擾乱磁場を適切に打ち消すためには、キャンセル磁場発生装置M214の体積が大きくなる恐れがある。また、ネオジム磁石又はフェライト磁石などの永久磁石は、温度によって磁性が変化するため、調整時及び運用時に、磁場の安定性に対する配慮が必要となる。また、永久磁石の中には、破損しやすく加工性が低い材料があるため、形状を緻密に加工する必要があるキャンセル磁場発生装置M214には使用しにくいものもある。このため、実施例1のようにキャンセル磁場発生装置M214を強磁性材料で形成する方が簡便ではある。
図9は、永久磁石にて形成されたキャンセル磁場発生装置の別の例を示す図である。
図9に示すキャンセル磁場発生装置M242は、図8に示したキャンセル磁場発生装置M241のような中央平面M233を挟んで分離した1対の永久磁石にて形成されるものとは異なり、一体形成されて出射チャネル隔壁部M207aに取り付けられる。キャンセル磁場発生装置M242は、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場とは逆極性を有するように配置される。具体的には、キャンセル磁場発生装置M242は、出射チャネル隔壁部M207aが有する磁気モーメントと逆の磁気モーメントを備えるように配置される。この場合でも、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場を、キャンセル磁場発生装置M241によるキャンセル磁場にて軽減することが可能となる
なお、図9の例では、キャンセル磁場発生装置M242が出射チャネル隔壁部M207aに近いため、キャンセル磁場発生装置M242により径方向外周側の出射チャネル磁場も低減され、ビームを出射軌道まで偏向することが難しくなる恐れがある。このため、十分なビームの偏向が得られるように出射チャネルM207及びキャンセル磁場発生装置M214を設計することが必要である。また、出射チャネル隔壁部M207aにキャンセル磁場発生装置M242分の厚みが加わるため、より大きなターンセパレーションが必要となる。これにより、実質的には、キャンセル磁場発生装置M242分の厚み分だけ、出射チャネルM207の入口を遠ざける必要があるため、ビームの出射効率の低減を招く恐れがある。したがって、実施例1のように、強磁性材料で形成したキャンセル磁場発生装置M214を用いる方が簡便である。
以上説明したように本実施例のように永久磁石にて形成されたキャンセル磁場発生装置M241及びM242を用いても、キャンセル磁場発生装置M241によるキャンセル磁場にて軽減することが可能となるため、出射対象となる全てのエネルギーに対して、効率的で良好なビームの取り出しが可能となる。
本実施例は、加速器A100が強磁性材料にて形成されたキャンセル磁場発生装置M214の代わりに、コイルにて形成されたキャンセル磁場発生装置を有する点で実施例1とは異なる。
図10は、本実施例に係るキャンセル磁場発生装置の一例を示す図であり、中央平面M233付近における主電磁石A101の垂直平面に沿った縦断面を模式的に示している。
図10に示すキャンセル磁場発生装置M250は、芯部M251とピーラ磁場生成用コイルM252とを含む。芯部M251は、鉄のような強磁性体で形成されてたものでもよいし、電気絶縁性を有する樹脂などで形成されたコイルボビンなどでもよい。ピーラ磁場生成用コイルM252は、芯部M251の周りに巻かれるコイルである。
また、キャンセル磁場発生装置M250は、ビームの走行領域を挟むように中央平面M233に対して面対称に複数(図では、一対)配置される。また、キャンセル磁場発生装置M250は、主電磁石A101にて生成される磁場と同極性、つまり、出射チャネルM207が生成する擾乱磁場とは逆極性を有するように配置及び制御される。なお、ピーラ磁場生成用コイルM252の制御(例えば、供給する電流の調整)は、例えば、制御装置A140にて行われる。これにより、本実施例でも、実施例1と同様に出射チャネルM207が生成する擾乱磁場を、キャンセル磁場発生装置M250によるキャンセル磁場にて軽減することが可能となる。
出射チャネルM207がピーラ磁場領域に生成する磁場強度は、2テスラ程度の主電磁石の場合、数100ミリテスラ程度である。数100ミリテスラの磁場をコイルのみで生成するためには、大容量電源、ホローコンダクタ及びフィードスルーなどが必要となるため、キャンセル磁場を生成する装置の大型化を招く恐れがある。このため、本実施例では、芯部M251にピーラ磁場生成用コイルM252を巻くことで、キャンセル磁場が調整される。この場合、ピーラ磁場生成用コイルM252に供給する電流を変化させることで、キャンセル磁場を調整することが可能になる。つまり、キャンセル磁場発生装置M250を用いることで、例えば、加速器A100の運転中にビームの出射能力を調整することが可能になる。このため、ビームの調整に必要な期間を短縮化したり、メンテナンス時に主電磁石を分解した後の擾乱磁場の混入によるビーム出射効率の低下を吸収したりすることが可能となる。
図11は、キャンセル磁場発生装置M250の一例を示す図である。図11では、中央平面M233を挟んで上下一対に配置されるキャンセル磁場発生装置M250のうちの片側のみが示されている。また、図11(a)は、中央平面M233とは逆側から見た平面図であり、図11(b)は、図10の右側から見た平面図であり、図11(c)は、図3に対して垂直な方向からみた平面図であり、図11(d)は、中央平面M233側から見た斜視図である。
図11に示したようにキャンセル磁場発生装置M250の芯部M251はピーラ磁場領域M205に沿って湾曲した形状を有する。また、ピーラ磁場生成用コイルM252は、中央平面M233に略垂直な方向を軸として時計回り又は反時計回りに芯部M251対して巻かれている。
以上説明したように本実施例では、キャンセル磁場発生装置M250がコイルで形成されているため、加速器A100の運転中にビームの出射能力を調整することが可能になるため、効率的で良好なビームを取り出すための調整を容易にすることが可能になる。
上述した本開示の各実施例は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施例にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。
A100:加速器 A101:主電磁石 A102:イオン源システム A103:出射口 A110:ビーム輸送系 A133:照射装置 A140:制御装置 M201:継鉄 M202:主磁極 M203:コイル M204:RFキッカ M205:ピーラ磁場領域 M206:リジェネレータ磁場領域 M207:出射チャネル M207a:出射チャネル隔壁部 M207b:出射チャネル調整部 M208:出射口用貫通孔 M209:加速電極用貫通孔 M210:加速電極 M211:回転コンデンサ M212:回転コンデンサ駆動用動力機 M214、M241、M242、M250:キャンセル磁場発生装置M251:芯部 M252:ピーラ磁場生成用コイル
Claims (14)
- 主磁場及び加速用高周波電場によって、イオンビームを周回させながら加速する加速器であって、
互いに対向して配置される複数の主磁極に挟まれた空間に前記主磁場を印加する主磁場発生装置と、
前記主磁場が印加されている主磁場領域を周回するイオンビームを前記主磁場領域の外側に変位させるビーム変位装置と、
前記外側に移動されたイオンビームを取り出すための出射チャネル磁場を生成する出射チャネル磁場発生装置と、
前記出射チャネル磁場発生装置よりも内周側に設けられ、前記出射チャネル磁場と逆極性を有するキャンセル磁場を生成するキャンセル磁場発生装置と、を備える加速器。 - 前記出射チャネル磁場発生装置は、
前記主磁場領域の外周部であって、前記主磁場領域の外側に変位されたイオンビームに擾乱を与えて、前記イオンビームを外側に移動させるピーラ磁場が生成されるピーラ磁場領域の外周部に設ける、請求項1に記載の加速器。 - 前記キャンセル磁場発生装置は、前記ピーラ磁場領域上に設けられる、請求項2に記載の加速器。
- 前記出射チャネル磁場発生装置は、前記イオンビームが走行する走行面を通り、当該走行面とは略直交する方向に延びる隔壁部を有する、請求項1に記載の加速器。
- 前記キャンセル磁場発生装置は、前記イオンビームが走行する走行面に対して面対称に複数配置される、請求項1に記載の加速器。
- 前記キャンセル磁場発生装置は、前記空間において、前記イオンビームが走行する走行面に対して直交する軸方向に前記主磁極から離れた位置に配置される、請求項1に記載の加速器。
- 前記キャンセル磁場発生装置は、強磁性体、永久磁石又はコイルである、請求項1に記載の加速器。
- 前記キャンセル磁場発生装置は、強磁性体であり、
前記強磁性体は、鉄である、請求項7に記載の加速器。 - 前記キャンセル磁場発生装置は、コイルであり、
前記コイルに供給する電流を調整する制御装置をさらに有する、請求項7に記載の加速器。 - 前記キャンセル磁場発生装置は、永久磁石であり、
前記永久磁石は、前記隔壁部に取り付けられる、請求項4に記載の加速器。 - 前記キャンセル磁場発生装置の形状は、前記ピーラ磁場領域に生じる前記出射チャネル磁場の磁場分布に応じて定められる、請求項2に記載の加速器。
- 前記ビーム変位装置は、
前記主磁場領域の外周部であって、前記主磁場領域の外側に変位されたイオンビームに擾乱を与えて、前記イオンビームを外側に移動させるピーラ磁場を生成することを特徴とする、請求項1に記載の加速器。 - 前記ビーム変位装置は、
前記主磁場領域の外周部であって、前記主磁場領域の外側に変位されたイオンビームに擾乱を与えて、前記イオンビームを内側に移動させるリジェネレータ磁場を生成し、
ビーム進行方向に対して、上流側に前記ピーラ磁場を生成し、下流側に前記リジェネレータ磁場を生成する、請求項12に記載の加速器。 - 主磁場及び加速用高周波電場によって、イオンビームを周回させながら加速する加速器と、
前記加速器から取り出されたイオンビームを照射する照射装置とを備え、
前記加速器は、
互いに対向して配置される複数の主磁極に挟まれた空間に前記主磁場を印加する主磁場発生装置と、
前記主磁場が印加されている主磁場領域を周回するイオンビームを前記主磁場領域の外側に変位させるビーム変位装置と、
前記外側に移動されたイオンビームを取り出すための出射チャネル磁場を生成する出射チャネル磁場発生装置と、
前記出射チャネル磁場発生装置よりも内周側に設けられ、前記出射チャネル磁場と逆極性を有するキャンセル磁場を生成するキャンセル磁場発生装置と、を備える粒子線治療装置。
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