JP2024038981A - コンプレッションリング - Google Patents

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信輔 大浦
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Osamu Yoneyama
清行 川合
Kiyoyuki Kawai
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Abstract

【課題】水素ガス燃料を使用する火花点火機関において、ガソリン燃料使用時とは異なる高温、水分過多という、コンプレッションリングの外周面摩耗に不利な環境下においても、その外周形状を保持しシール性能を維持することが可能なコンプレッションリングを提供する。【解決手段】水素ガス燃料を使用する火花点火機関に用いられ、シリンダに装着されるピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングの外周摺動面を評価するために往復動摩擦試験機を用いて所定の条件で行う耐摩耗性試験に於いて、軸受油を1mL/時と蒸留水を0.5mL/時とを滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTW1(μm)とし、前記軸受油のみを1mL/時の速度で滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTO1(μm)とし、T(μm)=TW1-TO1としたときに、T≦10を充足するコンプレッションリング。【選択図】図1

Description

本発明は、水素ガス燃料を使用する火花点火機関に用いられるコンプレッションリングに関する。
近年、CO排出量及び化石燃料の使用量削減が要求されており、環境負荷の観点から、燃料に水素ガス、又は、水素ガスと他の燃料とを混合した燃料(以下、両者を合わせて水素ガス燃料とも称する。)を使用する内燃機関に関する技術が検討されている。
これに関連して、例えば特許文献1には、水素エンジンに用いられる部材として、水素脆性破壊を抑制するために、ステンレス鋼を素材とした被覆層を設けた部材が開示されている。
特許文献2には、水素ガスの燃焼により発生する水蒸気による部材の錆びを防ぐために、物理的及び化学的処理を施した水素エンジン用部材が開示されている。
また、特許文献3には、通常の水素エンジンでは水蒸気の凝縮を踏まえてのシリンダの冷却は行われていないことが示されており、燃焼室を形成するシリンダ内での水蒸気凝縮を制御するための水素エンジンが開示されている。
実開昭51-137004号公報 特開昭51-081203号公報 特開2003-013765号公報
水素ガス燃料を使用する火花点火機関においては、ガソリン燃料を使用する場合と異なり、気化潜熱が発生しない、又は気化潜熱の発生量が小さいため、ピストンリング、シリンダボア、ピストン等の各部品の温度が上昇する。その結果、部品表面の温度も高くなるため、摺動部に介在する潤滑油の温度も高くなり、油膜が切れやすくなることでピストンリングの摩耗量が増加し、特に燃焼室に近い側に位置するコンプレッションリングの外周面の摩耗に影響があること、また、水素ガス燃料を使用することにより、燃焼時に多くの水が発生し、水と潤滑油とが混ざることによっても、ピストンリング及びシリンダボアの摺動環境が悪化する場合があることを本発明者らは見出した。
そして、コンプレッションリングの外周面が摩耗することにより、バレル、テーパなどの外周面の形状が早期に失われ、コンプレッションリングの主な役割の一つであるシリンダボアと外周面のシール性能が大幅に低下する場合があること、また、コンプレッションリングの張力低下もシール性能を低下させることを、本発明者らは見出した。
本発明は、このような状況下でなされたものであり、水素ガス燃料を使用する火花点火機関において、ガソリン燃料使用時とは異なる高温、水分過多という、コンプレッションリングの外周面摩耗に不利な環境下においても、その外周形状を保持しシール性能を維持することが可能なコンプレッションリングを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を進め、ピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングであって、耐摩耗性試験に於ける摩耗量が所定の条件を満たすコンプレッションリングによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を
完成させた。
本発明は、水素ガス燃料を使用する火花点火機関、特に自動車用エンジンに好適に用いられ、シリンダに装着されるピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングであって、
前記コンプレッションリングの外周摺動面を評価するために往復動摩擦試験機を用いて所定の条件で行う耐摩耗性試験に於いて、
軸受油を1mL/時と蒸留水を0.5mL/時とを滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTW1(μm)とし、
前記軸受油のみを1mL/時で滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTO1(μm)とし、
T(μm)=TW1-TO1 としたときに、
T≦10
を充足するコンプレッションリングである。
また、前記コンプレッションリングの張力をFt、前記コンプレッションリングの外周
摺動面の軸方向長さをS13とし、
前記ピストンを、前記コンプレッションリング外周とシリンダボアとが当接するように設置した場合における、前記シリンダボア内径をD(mm)、前記コンプレッションリングの上接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa11(mm)、前記コンプレッションリングの下接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa12(mm)とし、
Fd=Ft/D、
落差h=(a11+a12)/2、
外周傾斜度OSt=h/(S13/2)、
摩耗指数M=T×Fd×OSt
としたとき、
M≦0.09
を充足することが好ましい。
また、前記外周摺動面の表面のビッカース硬さをA(HV0.1)としたときに、
A/T≧100
を充足することが好ましい。
本発明によれば、水素ガス燃料を使用する火花点火機関において、高温、水分過多の環境下においてもシール性能を維持することが可能なコンプレッションリングを提供することができる。
本実施形態のコンプレッションリングが装着されたピストンの断面模式図である。 本実施形態のコンプレッションリングの周長方向に直交する断面図である。 往復動摩擦試験機の構成を示す模式図である。 触針式表面粗さ測定機で得られるコンプレッションリング外周面の輪郭線と、上接続点及び下接続点の説明図である。
本発明の一実施形態は、水素ガス燃料を使用する火花点火機関に用いられ、シリンダに装着されるピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングである。以下、その構成について図1を用いて説明する。ただし、以下の実施形態に記載されて
いる構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
図1は、本実施形態に係るコンプレッションリングが装着された火花点火機関100Yのピストン構造110Yの断面図の一例である。なお、図1において、図中上側が燃焼室側であり、下側がクランク室側である。図1に示すように、火花点火機関100Yは、シリンダ10と、シリンダ10に装着(挿入)されたピストン20と、ピストン20に組み付けられた2本のコンプレッションリングCRと1本のオイルリングORからなるピストンリングの組み合わせ120Yと、を備える。
ピストン20にはピストンリング溝が形成され、燃焼室側から第1の溝201、第2の溝202、及び第3の溝203が形成されている。ピストン外周面20aとシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の距離が確保されることにより、ピストン隙間PC1が形成されている。リング溝は、ピストン20の軸回りに環状に延びる溝としてピストン外周面20aの全周に形成されている。各リング溝は、上下に対向配置された一対の溝壁(内壁)を含んで形成されている。一対の溝壁のうち、上側の溝壁を上壁W1と称し、下側の溝壁を下壁W2と称する。また、各リング溝における、上壁W1の内周縁と下壁W2の内周縁とを接続する溝壁を底壁W3と称する。
第1の溝201には、燃焼室に最も近い位置に組み付けられるコンプレッションリングであるトップリングR1が装着され、第2の溝202には、トップリングの次に燃焼室に近い位置に組み付けられるコンプレッションリングであるセカンドリングR2が装着され、第3の溝203には、燃焼室から最も遠い位置に組み付けられるオイルリングORが装着される。
図1に示す例では、コンプレッションリングとしてセカンドリングR2を設けており、セカンドリングR2はなくてもよいが、セカンドリングR2があることが好ましい。また、コンプレッションリングを3本設ける形態であってもよく、コンプレッションリングを4本設ける形態であってもよい。
オイルリングORは、シリンダ10の内壁面10aを摺動する一対のセグメントSG1と、これらを径方向外側(内壁面10a側)に付勢するスペーサエキスパンダEX1と、を備える。図1に示すオイルリングORはいわゆる3ピース構成のオイルリングであるが、これに限られず、2ピース構成のオイルリングであってよく、オイルリングORを設けない形態であってもよい。
ピストンは、本実施形態に係るコンプレッションリングを装着するのに適したものであれば特に限定されず、ピストンリングの組み合わせに応じて、第2の溝202を有していなくてもよく、第3の溝203を有していなくてもよく、また、さらに溝を有していてもよい。
次に、本実施形態に係るコンプレッションリングの形状について、図2を例に用いて説明する。図2は、本実施形態に係るコンプレッションリングの周長方向に直交する断面図である。図2に示すコンプレッションリングは、上側に設けられた上面11と、下側に設けられた下面12と、上面外周縁E101と下面外周縁E102とを接続する外周面13と、上面内周縁E103と下面内周縁E104とを接続する内周面14と、を有する。コンプレッションリングが図1に示すピストンのリング溝に装着された状態、即ち、使用状態にあるとき、上面11が上側に位置してリング溝の上壁W1に対向し、下面12が下側に位置して下壁W2に対向し、外周面13がシリンダの内壁面10aを摺動する。上面11と下面12とによって、コンプレッションリングの軸方向における幅が規定される。
図2に示すコンプレッションリングの外周面13は、コンプレッションリングの外周端
部に設けられる外周摺動面S13と、外周摺動面S13と上面11とを接続する上接続面S11と、外周摺動面S13と下面12とを接続する下接続面S12と、を含む。上接続面S11は、外周摺動面S13の上側(燃焼室側)の周縁(上接続点)E11と上面外周縁E101とを接続する。下接続面S12は、外周摺動面S13の下側(クランク室側)の周縁(下接続点)E12と下面外周縁E102とを接続する。
図2の符号CL1は、コンプレッションリングの中心軸A1に直交すると共に頂部P1を通る直線を示す。頂部P1はコンプレッションリングにおいて最大径となる点であり、シリンダ10の内壁面10aと当接している。a11は、コンプレッションリングにおける燃焼室側の落差、即ち、頂部P1と外周摺動面S13の上接続点E11との径方向における距離を示す。a11は、使用状態におけるシリンダ10の内壁面10aから外周摺動面S13の上接続点E11までの距離と等しい。同様に、a12は、コンプレッションリングにおけるクランク室側の落差、即ち、コンプレッションリングの頂部P1と外周摺動面S13の下接続点E12との径方向における距離を示す。a12は、使用状態におけるシリンダ10の内壁面10aから外周摺動面S13の下接続点E12までの距離と等しい。図2の符号b11は、外周摺動面S13の頂部P1と外周摺動面S13の上接続点E11との軸方向における距離を示す。また、b12は、外周摺動面S13の頂部P1と外周摺動面S13の下接続点E12との軸方向における距離を示す。
なお、図2に示した例では、外周面が対称バレル形状に形成されているが、本実施形態に係るコンプレッションリングの外周形状は特に限定されず、種々の形状のコンプレッションリングを採用できる。例えば、その外周面がバレル形状、偏心バレル形状、テーパ形状であってもよく、また外周面の最外周摺動面が平坦部を含んでも良い。また、上接続面S11と下接続面S12のコンプレッションリング軸方向の長さは互いに異なっていてもよい。また、上接続面S11及び下接続面S12の一方、又は両方を有さない形状であってもよい。
また、その周長方向に対する断面形状はレクタンギュラ形状、インターナルベベル形状、キーストン形状、ハーフキーストン形状であってもよく、アンダーカット面などを含んでもよいがこれらに限らない。
本明細書において水素ガス燃料とは、水素ガスのみ(不純物を除く)からなる燃料、又は水素ガスと他の燃料とを混合した燃料をいう。全燃料中の水素ガスの割合は、50%以上であり、60%以上であってよく、70%以上であってよい。
本実施形態に係る、水素ガス燃料を使用する火花点火機関に用いられ、シリンダに装着されるピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングは、外周摺動面を評価するために往復動摩擦試験機を用いて所定の条件で行う耐摩耗性試験に於いて、軸受油を1mL/時と蒸留水を0.5mL/時とを滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTW1(μm)とし、前記軸受油のみを1mL/時で滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTO1(μm)とし、T(μm)=TW1-TO1としたときに、T≦10を充足する。
TO1は通常の使用環境を想定した(例えばガソリン燃料使用時を想定した)コンプレッションリングの摩耗量、TW1は高温、水分過多となる使用環境(水素ガス燃料使用時)を想定したコンプレッションリングの摩耗量を表しており、Tはその差である。即ち、Tの値が小さいとき、具体的には、T≦10であることで、水素ガス燃料を使用する火花点火機関において、高温、水分過多の環境下においても通常の使用環境下(たとえばガソリン燃料使用時)と同等の形状維持機能を有し、十分な耐摩耗性能が得られ、シール性能を維持することができる。Tが上記条件を充足するには、コンプレッションリングの材質及び外周面の表面処理や被膜を適切に選択することで実現することができる。
耐摩耗性試験は、以下の通りである。
図3に概要を示す往復動摩擦試験機を用いて行う。耐摩耗性試験に際しては上試験片31として、コンプレッションリング実体を用いる。
また、下試験片32は鋳鉄製シリンダボアを見立てたプレート(FC250相当材:HRB100、#400エメリーペーパーによる研磨仕上げにより表面粗さは最大高さRz1.0~1.5μm(1.2μm狙い))とする。
耐摩耗性試験に際しては、上試験片31と下試験片32との摺動界面にエアディスペンサー33を用いて軸受油及び蒸留水を滴下して供給し、以下に示す試験条件で行う。
<試験条件>
・ストローク:50mm
・荷重:100N
・速度:600cycle/分
・上試験片の温度管理:室温
・下試験片の温度管理:室温
・軸受油:シェル ルブリカンツ ジャパン社 シェル テトラオイル2SP
・軸受油の滴下条件:1分毎に1回滴下し、総滴下量が1mL/時となるように管理
・蒸留水の滴下条件:1分毎に1回滴下し、総滴下量が0.5mL/時となるように管理・試験時間:60分
なお、下記条件で慣らし運転を実施した後試験する。
・荷重:20N
・速度:100cycle/分
・試験前上試験片の温度:室温
・試験前下試験片の温度:室温
・軸受油:シェル ルブリカンツ ジャパン社 シェル テトラオイル2SP
・軸受油の滴下条件:1分毎に1回滴下し、総滴下量が0.08mL/5分となるように管理
・試験時間:5分
上記条件で試験を行い、軸受油と蒸留水を滴下した際のコンプレッションリング外周摺動面の被膜の摩耗量をTW1(μm)、軸受油のみを滴下した際のトップリング外周摺動面の被膜の摩耗量をTO(μm)とし、T=TW1-TOとする。
また、前記コンプレッションリングの張力をFt、前記コンプレッションリングの外周
摺動面の軸方向長さをS13とし、前記ピストンを、前記コンプレッションリング外周とシリンダボアとが当接するように設置した場合における、前記シリンダボア内径をD(mm)、前記コンプレッションリングの上接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa11(mm)、前記コンプレッションリングの下接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa12(mm)とし、Fd=Ft/D、落差h=(a11+a12)/2、外
周傾斜度OSt=h/(S13/2)、摩耗指数M=T×Fd×OStとしたとき、M≦0.09を充足することが好ましい。
S13、a11、a12の値については、コンプレッションリングの外周面を触針式表面粗さ測定機を用いて測定することで得られる上接続点E11、下接続点E12から求める。触針は円錐であり、円錐のテーパ角度は60°とする。また先端Rは、2μmとする。
測定倍率は縦軸(y軸:コンプレッションリングの径方向と一致)5000倍、横軸(
x軸:コンプレッションリングの軸方向と一致)100倍とする。
外周面バレル形状を例に取り、上接続点E11、下接続点E12について図4を用いて説明する。
触針式表面粗さ測定機を用いて測定した結果得られた外周面の輪郭線上で、縦軸(y軸
)に平行な上側仮想線41及び下側仮想線42を作図し、上側仮想線41と下側仮想線42からそれぞれ左右にθ(=10°)傾けた直線と外周面の輪郭線との接点を求める。コンプレッションリングの上側(燃焼室側)に位置する接点を上接続点E11、下側(クランク室側)に位置する接点を下接続点E12とする。
上記測定によって得られる値と、張力Ft(N)及びシリンダボア内径D(mm)から、下記式を用いてFd、OSt、Mを求める。
Fd=Ft/D
h=(a11+a12)/2
OSt=h/(S13/2)
M=T×Fd×OSt
Fdはシリンダボア内径あたりのコンプレッションリングの張力の値を表し、Fdの値が大きくなると、コンプレッションリングのシリンダボアへの面圧が高くなり、外周摩耗が増える傾向がある。一方、Fdの値が小さくなると、シリンダボアとのシール性能低下を招く虞がある。
外周傾斜度OStは、コンプレッションリングの落差と外周摺動面の軸方向長さの関係である。外周バレル形状を例にとれば、OStが大きければリング径方向に高い凸状バレル(高バレル)、小さければ低い凸状バレル(低バレル)となる。
OStの値が大きいと、シール性能は向上するが、コンプレッションリングのシリンダボアへの面圧が高い場合に、シリンダボアスカッフ、摺動抵抗増加等に加え、外周摩耗により早期に落差が小さくなり、シール性能が急激に低下する虞がある。一方、OStの値が小さいと、コンプレッションリングの張力が低い場合にシール性能低下を招いたり、オイル消費量が増加する虞がある。
摩耗指数Mはこれらのバランスを考慮したもので、M≦0.09を充足することで、水分過多の環境となる水素ガス燃料を使用する火花点火機関において、コンプレッションリングのシール性能を維持することができる。
Mが0.09を超えると、外周摩耗量Tが大きいか、もしくはFd、OStなどの値が大きいため、外周摩耗によるシール性能の急激な低下が懸念される。
M≦0.09を充足させるためには、T、Fd、OStの値に応じて、コンプレッションリングの形状、材質及び外周被膜を適切に選択すればよい。
本実施形態に係るコンプレッションリングの合口隙間の大きさは特に限定されず、一例としては0.1~0.8mmの範囲内である。
本実施形態に係るコンプレッションリングの軸方向幅は特に限定されないが、通常0.8mm以上であり、通常4mm以下である。また、外径は通常、50mm以上、220mm以下である。
また、本実施形態に係るコンプレッションリングの外周摺動面の表面のビッカース硬さをA(HV0.1)としたときに、A/T≧100を充足することが好ましい。
A/Tが上記条件を充足するには、コンプレッションリングの材質及び外周摺動面の表面処理や被膜を適切に選択すればよい。
本実施形態に係るコンプレッションリングは、外周面に被膜を有していてもよく、被膜としては特に限定されないが、PVD処理被膜、DLC被膜、硬質クロムめっき被膜及び窒化処理被膜からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
なお、PVD(physical vapor deposition)とは、ターゲットから出射された粒子を
基材に付着させることで物質の表面に膜を形成する蒸着法の一種であり、物理気相成長とも呼ぶことができる。PVD法には、イオンプレーティング法、真空蒸着法、イオンビー
ム蒸着法、スパッタリング法、FCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等を含むことができる。
本実施形態に係るコンプレッションリングが外周面に被膜を有する場合、被膜の厚さは特に限定されないが、通常0.001mm以上、好ましくは0.005mm以上であり、また通常0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下である。
なお、被膜がDLC被膜を含む場合、DLC被膜は水素を含有するDLC被膜であってよく、いわゆる水素フリーDLCであってもよい。例えば、水素元素の割合が5.0at%以下であってよい。水素を含まないDLC被膜を用いることで固体摺動時の摩擦係数が低くなり好ましい。
水素を含まないDLC被膜をピストンリング外周面に形成する方法は、既知の方法を用いることができ、イオンプレーティング法やスパッタリング法などがあげられる。
DLC被膜は、その他の元素を含んでもよく、例えばSi、Ti、W、Cr、Mo、Nb、Vなどを含んでもよいが、これらに限らない。これらの元素を含む場合、合計量が40at%以下であることが好ましい。
また、被膜がCrN系PVD処理被膜又はDLC被膜を含む場合、PVD処理被膜又はDLC被膜の厚さが0.05mm以下であることが好ましい。PVD処理被膜又はDLC被膜の被膜厚さを上記範囲内にすることで、部材間の熱伝達が阻害されにくいため冷却効率が向上し、摩耗を抑制することができる。
本実施形態に係るコンプレッションリングが外周面に被膜を有する場合、PVD処理被膜、DLC被膜、硬質クロムめっき被膜、窒化処理被膜、四三酸化鉄被膜、リン酸塩被膜などのいずれか単独の被膜でもよく、いずれか2種以上の積層被膜であってもよい。
本実施形態に係るコンプレッションリングが外周面に被膜を有する場合、外周摺動面に被膜を有することが好ましい。また、上面及び下面の少なくとも一面に被膜を有していてもよく、各面の一部のみを覆っていてもよく、各面でそれぞれ異なる被膜であってもよい。
コンプレッションリング基材の材質は、特に限定されない。例えば、高合金鋼としてはマルテンサイト系ステンレス鋼が挙げられる。また、低合金鋼としては、弁バネ鋼、バネ鋼等などが例示される。具体的には、シリコンクロム鋼などが好適に用いられる。
以下、本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
実施例1~19、比較例1~4
表1に示すように、コンプレッションリングの外周被膜、材質、張力及び外周バレル量(径方向の凸形状高さ)を変えて、実施例1~19、比較例1~4に係るコンプレッションリングを作製した。なお、同じ種類の被膜であっても、温度や時間等の処理条件を変えて、外周硬さの異なる試料を作製した。
表1中、外周の表面処理は、AはDLCであり、BはPVD処理であり、Cは窒化処理であり、DはCrめっきであり、Eは四三酸化鉄であり、Fはリン酸塩被膜である。この
うち、EとFは主に防錆を目的としたものである。また、材質はAが高合金鋼であり、Bは低合金鋼であり、Cは鋳鉄である。
各実施例及び比較例のコンプレッションリングについて、ビッカース硬さの測定、耐摩
耗性試験、及び触針式表面粗さ測定機による測定を行った。結果を表1に示す。
以上より、水素ガス燃料を使用する火花点火機関においては、本願発明で規定するコンプレッションリングを用いた場合、水素ガス燃料の燃焼によって発生した凝縮水が存在する環境下においても、コンプレッションリングの外周面の耐摩耗性をガソリン燃料使用時並みに維持し、かつコンプレッションリングの外周シール性能を維持することができる。
1 コンプレッションリング
100Y 火花点火機関
110Y ピストン構造
120Y ピストンリング
10 シリンダ
10a シリンダ10の内壁面
20 ピストン
20a ピストン20の外周面
PC1 ピストン隙間
R1 トップリング
R2 セカンドリング
OR オイルリング
SG1 セグメント
EX1 スペーサエキスパンダ
201 第1の溝
202 第2の溝
203 第3の溝
h1(1)トップリングの軸方向幅
h1(2)セカンドリングの軸方向幅
h1(4)オイルリングの軸方向幅
31 上試験片
32 下試験片
33 エアディスペンサー

Claims (3)

  1. 水素ガス燃料を使用する火花点火機関に用いられ、シリンダに装着されるピストンのピストンリング溝に組み付けられるコンプレッションリングであって、
    前記コンプレッションリングの外周摺動面を評価するために往復動摩擦試験機を用いて所定の条件で行う耐摩耗性試験に於いて、
    軸受油を1mL/時と蒸留水を0.5mL/時とを滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTW1(μm)とし、
    前記軸受油のみを1mL/時で滴下し試験したときの前記外周摺動面の摩耗量をTO1(μm)とし、
    T(μm)=TW1-TO1 としたときに、
    T≦10
    を充足するコンプレッションリング。
  2. 前記コンプレッションリングの張力をFt(N)、前記コンプレッションリングの外周
    摺動面の軸方向長さをS13(mm)とし、
    前記ピストンを、前記コンプレッションリング外周とシリンダボアとが当接するように設置した場合における、前記シリンダボア内径をD(mm)、前記コンプレッションリングの上接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa11(mm)、前記コンプレッションリングの下接続点と前記シリンダボア内壁との径方向距離をa12(mm)とし、
    Fd=Ft/D、
    落差h=(a11+a12)/2、
    外周傾斜度OSt=h/(S13/2)、
    摩耗指数M=T×Fd×OSt
    としたとき、
    M≦0.09
    を充足する、請求項1に記載のコンプレッションリング。
  3. 前記外周摺動面の表面のビッカース硬さをA(HV0.1)としたときに、
    A/T≧100
    を充足する、請求項1又は2に記載のコンプレッションリング。
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