JP2024038073A - 油脂中のワックスエステルの定量方法 - Google Patents

油脂中のワックスエステルの定量方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、油脂中に含まれる広範囲のワックスエステルを正確に定量することができる、ワックスエステルの定量方法を提供することである。【解決手段】油脂中に含まれるワックスエステルを析出する工程、及び、前記ワックスエステル析出物をガスクロマトグラフあるいは液体クロマトグラフで定量する工程を含む、油脂中に含まれるワックスエステルの定量方法とする。前記析出する工程が、油脂中に溶剤を加えて冷蔵することにより、ワックスエステルを析出させる工程であり、前記定量する工程において、ガスクロマトグラフあるいは液体クロマトグラフに供するサンプルを調製する際に、析出したワックスエステルをフィルターで分離することにより、ワックスエステルの濃縮物を得て、さらに前記濃縮物に含まれるトリグリセリドを取り除くことを特徴する。【選択図】図5

Description

本発明は、油脂中のワックスエステルの定量方法に関する。
油脂(特に食用油)の精製工程の1つとして脱ロウ工程が挙げられる。この脱ロウ工程では油脂を冷蔵することにより、ワックスエステルを析出させる。このとき、冷蔵温度などの諸条件によって、析出するワックスエステル量が変わることが知られている。
例えば、日本農林規格によると、サラダ油としては、0℃の温度で5.5時間静置しても清澄であることが条件となる。したがって、サラダ油では、このような冷蔵条件でワックスエステルが析出しないように脱ロウ工程が行われている。また、オリーブ油では、圧搾油とポマス油とを区別するために、ガスクロマトグラフを用いて、油脂中に含まれる様々なワックスエステルの量を定量することも行われている(AOCS Official Method Ch8-02、IOC COI/T.20/Doc. No 28/Rev.2 2017)。
また、油脂中のワックスエステルを定量する方法としては、例えば、非特許文献1には、油脂を80℃に加熱して、炭素数32の標準物質を加え、水和シリカゲルカラムを用いて分画し、トリグリセリドよりも極性が低い最初の溶出画分を回収して、溶媒を揮発させ濃縮した後、n-ヘプタンに溶かし、ガスクロマトグラフを用いて、ワックスエステルを定量することが知られている。しかし、油脂と析出溶剤を混合してから冷蔵し、まずワックスエステルを析出させてから、トリグリセリドのみをけん化分解し、ワックスエステルを定量することはこれまで行われていなかった。
一方、最近では、油脂をそのまま食品にかけて喫食する機会が増えている。このような傾向に従い、消費者の中には、油脂を生鮮食品のように冷蔵庫で保管することが多くみられるようになってきた。油脂は冷蔵庫で長時間保管すると、油脂中のワックスエステルが析出してくる可能性がある。もし、ワックスエステルが析出すると、見た目が悪いだけでなく、油脂が喫食に適さないような誤解を消費者に与える可能性がある。したがって、冷蔵庫で保管されるような油脂については、油脂中に含まれるワックスエステルの量をより厳密にコントロールしなければならないという課題が生じている。しかし、従来技術では、ガスクロマトグラフにおける、ワックスエステルとトリグリセリドのピークが重なり合うことが多く、油脂中に含まれる広範囲のワックスエステルを正確に定量することが難しかった。そこで、新たなワックスエステルの定量方法を開発することが求められていた。
Amalia A. Carelli, et al., Wax Composition of Sunflower Seed Oils, JAOCS, Vol.79, No.8, 2002, pp.763-768
そこで、本発明の課題は、油脂中に含まれる広範囲のワックスエステルを正確に定量することができる、ワックスエステルの定量方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、まず油脂中からワックスエステルを析出させる前処理を行うとともに、前記析出物をガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフによって定量することにより、広範囲のワックスエステルを正確に定量できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は下記に関するものである。
〔1〕油脂中に含まれるワックスエステルを析出する工程、及び、前記ワックスエステル析出物をガスクロマトグラフあるいは液体クロマトグラフで定量する工程を含む、油脂中に含まれるワックスエステルの定量方法。
〔2〕前記析出する工程に供される油脂の原料が、大豆、パーム、オリーブ、ナタネ、コーン、綿実、紅花、ヒマワリ、落花生、アマニ、米ぬか、グレープシード及びエゴマからなる群から選ばれる1または2以上の原料であることを特徴とする、〔1〕に記載の定量方法。
〔3〕前記析出する工程が、油脂中に溶剤を加えて冷蔵することにより、ワックスエステルを析出させることを特徴する、〔1〕または〔2〕に記載の定量方法。
〔4〕前記溶剤として、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールからなる群から選択される1または2以上の溶剤が用いられることを特徴する、〔3〕に記載の定量方法。
〔5〕前記定量する工程において、カラムに供するサンプルを調製する際、析出したワックスエステルをフィルターで分離することにより、ワックスエステルの濃縮物を得て、さらに前記濃縮物に含まれるトリグリセリドを取り除くことを特徴する、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の定量方法。
〔6〕前記トリグリセリドを取り除く際に、加水分解及び/又はアルコリシスによる分解を行うことを特徴とする、〔5〕に記載の定量方法。
〔7〕前記定量する工程において、ガスクロマトグラフに用いるカラムとして、65%ジフェニル/35%ジメチルポリシロキサンを充填したカラムが用いられることを特徴とする、〔5〕または〔6〕に記載の定量方法。
〔8〕前記定量する工程において、ガスクロマトグラフあるいは液体クロマトグラフの結果のうち、炭素数40~60のワックスエステルを定量の対象とすることを特徴とする、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の定量方法。
〔9〕さらに、炭素数に応じた各ワックスエステルの量をそれぞれ定量することを特徴とする、〔8〕に記載の定量方法。
〔10〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法の定量方法を用いて、油脂中に含まれるワックスエステルの量を測定し、その結果に基づいて、脱ロウ工程におけるワックスエステルの析出条件を決定する方法。
〔11〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の方法の定量方法を用いて、油脂中に含まれるワックスエステルの量を測定し、前記ワックスエステルの量が一定量以下であることを確認する、ワックスエステルの量が一定量以下に調整された油脂の製造方法。
〔12〕炭素数40~60のワックスエステルの量が一定量以下に調整された、油脂。
本発明の方法によると、短時間で、油脂中の広範囲にわたるワックスエステルを正確に定量することができる。特に、トリグリセリドのピークが重なり合うような、炭素数の大きい(炭素数40~60の)ワックスエステルを正確に測定することができる。また、ワックスエステルを正確に定量できる結果、脱ロウ工程の条件を正確に定めることができ、脱ロウ工程によって油脂中に含まれるワックスエステルを十分に取り除くことが可能になる。その結果、出荷後の油脂が消費者の下で冷蔵庫に長期間保管されても、ワックスエステルを析出することのない、優れた油脂製品を提供することができる。
本発明の実施例1(ハイオレイックナタネ油)を実施した際のガスクロマトグラフのチャートを示す図である。上の図はワックスエステルを示し、下の図はトリグリセリドを示す。前者は、本発明を適用した後のワックスエステルの量を測定した結果を示す(トリグリセリドを除く処理を行っている)。後者は、本発明を適用する前の試料であるハイオレイックナタネ油をそのまま対照として測定した結果を示す。 本発明の実施例1(ハイオレイックナタネ油)のワックスエステルの定量結果を示す図である。 本発明の実施例2(コーン油)のワックスエステルの定量結果を示す図である。 本発明の実施例3(ハイオレイックサフラワー油)のワックスエステルの定量結果を示す図である。 本発明の実施例1~3の脱色工程を経た油(脱色油)に含まれていたワックスエステルの定量結果を示す図である。
本発明に用いられる「油脂」は特に限定されないが、食用油脂であることが好ましく、例えば、植物性油脂や動物性油脂が挙げられる。特に、植物性油脂が好ましい。
また、前記植物性油脂としては、ナタネ油、大豆油、オリーブ油、コーン油、パーム油、やし油、米油、ごま油、綿実油、ひまわり油、紅花油、アマニ油、シソ油、オリーブ油、落花生油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米糠油、小麦胚芽油、及び中鎖脂肪酸油(MCT)、並びにそれら単独の油又は複数混合油のエステル交換油、及びそれら単独の油又は複数混合油の分別油等の加工油等が挙げられる。さらに、本発明に使用する油脂は、上記の油脂を1種または2種以上使用してもよい。このような油脂の原料としては、大豆、パーム、オリーブ、ナタネ、コーン、綿実、紅花、ヒマワリ、落花生、アマニ、米ぬか、グレープシード及びエゴマからなる群から選ばれる1または2以上の原料を用いることが特に好ましい。なお、後述する実施例において、脱色油、脱ロウ油を用いて実施しているが、原油、脱臭油、精製油のいずれにおいても、脱色油、脱ロウ油と同様に、本発明が実施できることを確認している。
<油脂中のワックスエステルの定量方法>
本発明の油脂中のワックスエステルの定量方法は、油脂中に含まれるワックスエステルを析出する工程と、前記ワックスエステル析出物をガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフで定量する工程とを含む。
本発明の前半の工程である「油脂中に含まれるワックスエステルを析出する工程」とは、油脂中のワックスエステルを析出させることができる条件を含む工程であれば特に制限されないが、例えば、溶剤分別法、ウィンタリング(冷蔵)法などが挙げられる。
油脂中に含まれるワックスエステルを十分に析出させるためには、油脂と析出溶剤を混合してから冷蔵することが好ましい。このような析出溶剤としては、油脂の種類により適するものは異なるが、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる1または2以上を用いることができる。特に、アセトン、ヘキサンまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。析出溶剤を用いる量は、油脂100質量部に対して、110~200質量部が好ましく、120~180質量部がより好ましく、120~150質量部がさらに好ましい。
また、油脂の種類により、冷蔵条件は異なるが、ワックスエステルを十分に析出させるためには、例えば、-20℃で10時間以上、保管することが好ましい。-20℃で20時間以上、保管することがより好ましい。
次に、本発明の後半の工程である、「前記ワックスエステル析出物をガスクロマトグラフあるいは液体クロマトグラフで定量する工程」について説明する。
上記工程においては、まず油脂中に析出したワックスエステルをろ過し、ワックスエステルの濃縮物を得るため、フィルターによる分離を行う。前記フィルターとしては、例えば、ガラスフィルター、メンブレンフィルター、ナイロンメッシュなど様々な種類のものを用いることができる。その中でも特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターが好ましい。
また、このようなろ過作業は短時間で行うことが好ましく、例えば、5分以内で行うことが好ましく、4分以内で行うことがより好ましく、3分以内で行うことがさらに好ましい。
なお、ろ過の際、湿度や気温によって、結露が生じるため、ろ過がうまく行われないことがある。そのような場合は、冷却しながらろ過を行うことが好ましい。ここで、「冷却しながら」とは、0℃以下で行うことをいい、特に、-10℃以下で行うことが好ましい。なお、ろ過時に冷却しない場合は、前述のように短時間で行うことが好ましい。
その後、ワックスエステルの濃縮物を前記フィルターから回収することが好ましい。このような回収方法としては、通常行われている方法を採用することができ、特に制限されないが、例えば、有機溶媒を用いて溶解・濃縮すること等が挙げられる。前記回収方法としては、例えば、前記フィルターに有機溶媒を入れて超音波処理し、前記フィルターに付着しているワックスエステルをいったん有機溶媒に溶かし、その後、エバポレーター等を用いて、前記有機溶媒を蒸留して取り除き、有機溶媒に溶けていたワックスエステルを濃縮すること等が挙げられる。
また、上述したワックスエステルの濃縮物に含まれるトリグリセリドを除く処理を行うと、ワックスエステルの定量性を高めることができるので好ましい。
そこで、トリグリセリドを取り除く処理として、加水分解及び/又はアルコリシスによるトリグリセリドの分解操作を行う。前記分解操作としては、アルカリ性の水溶液、あるいはアルカリ性のアルコール溶液を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルコール溶液を用いることが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることができ、適宜、少量の水を含むこともできる。分解温度は、30~120℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。ワックスエステルの定量性を高めるには、この加水分解及び又はアルコリシスによって、トリグリセリドのみが分解され、ワックスエステルは分解されないような分解条件を設定することが好ましい。このような分解条件としては、例えば、ワックスエステルの融点以下の温度で処理することが挙げられる。
油脂中に析出したワックスエステルに含まれているトリグリセリドは、例えば、上記の加水分解及び/又はアルコリシスによって分解され、加水分解により遊離脂肪酸、脂肪酸石鹸、グリセリンが生成し、アルコリシスにより脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸石鹸、グリセリンが生成する。また、分解後は、グリセリン、アルカリ、脂肪酸石鹸等を水洗等で除去することが好ましい。分解後は、ワックスエステルと、遊離脂肪酸及び/又は脂肪酸アルキルエステルの混合物となる。前記ワックスエステルの濃縮物又は混合物は、ガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフにかけられ、定量されることになる。
ガスクロマトグラフは、従前公知のものを用いればよく、特に制限なく使用することができる。また、測定用キャピラリーカラムの充填剤の種類は特に制限されないが、ジメチルポリシロキサンやジフェニルジメチルポリシロキサンなどが好ましい。測定用キャピラリーカラムの充填剤の種類は特に制限されないが、ジメチルポリシロキサンやジフェニルジメチルポリシロキサンなどが好ましく、65%ジフェニル/35%ジメチルポリシロキサンがより好ましい。ここで、65%ジフェニル/35%ジメチルポリシロキサンが充填されたカラムが好ましい理由は、独特な極性を有しており、極めて近い炭素数のワックスエステルやトリグリセリドの分離が良いからである。具体的には、Rtx(登録商標)-65TGカラムなどを用いることができる。ガスクロマトグラフは、ワックスエステルの全炭素数の順番にしたがって、ワックスエステルを分離する(図1参照)。例えば、炭素数40、42、44、46、48、50、52のところにピークが見られた場合、この区間の該当ピークのすべて(面積)をカウントし、標準物質のピークと比較することで、油脂中に含まれるワックスエステルの量を算出することができる。但し、同じ炭素数の炭素原子を含んでいるワックスエステルは種類が異なっても分離することができない可能性には留意すべきである。
また、液体クロマトグラフも、従前公知のものを用いればよく、特に制限なく使用することができる。そして、測定用カラムの固定相の種類は特に制限されないが、シリカゲルなどの順相カラムやC18などの逆相カラムが好ましい。液体クロマトグラフ条件は、油脂の分析に用いられているものを特に制限なく採用することができる。
本発明の特徴は、油脂中に含まれる広範囲のワックスエステルを定量することができることである。好ましくは、広範囲に含まれる多種のワックスエステルをそれぞれ分離して、別々に定量することができることである。
前記「ワックスエステル」としては、例えば、炭素数12以上の長鎖脂肪酸と、同じく炭素数8以上の脂肪族アルコールがエステル結合した、長い鎖状の分子構造を持つものとして定義することができる。従来の方法では、炭素数36~48までのワックスエステルしか定量できなかったが、本発明では、それよりも大きい、炭素数40~60までの広範囲のワックスエステルを定量することが可能になった。これは、本発明によって、トリグリセリドのピークとワックスエステルのピークとを分離することができるようになったからである。このように、従来では定量が困難なワックスエステルまで定量できるようになったので、これまでの定量方法よりも、油脂中のワックスエステルの量を正確に定量できるようになったといえる。また、これまで測定対象とすることができなかった範囲まで測定対象を拡大できることができるようになったことにより、それぞれの油脂にどのような種類のワックスエステルが含まれているかも正確に特定できるようになった。
また、ワックスエステルはピークごとに測定することができるので、炭素数に応じた各ワックスエステルの量を、これまでよりも幅広く別々に分けて定量できるようになった。
なお、ガスクロマトグラフに用いる標準物質としては、例えば、ドコサン酸ドコシル(炭素数44)が用いられる。この標準物質により、測定ピークの位置が特定され、どのピークがどの炭素数のピークに対応しているのかが読み取れる。
<脱ロウ工程におけるワックスエステルの析出条件を決定する方法>
油脂の製造工程のうち、精製工程では、原油中に含まれている、ガム質、遊離脂肪酸、色素、臭気成分等が除去される。また、通常の精製工程は、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程の順に行われる。そして、ワックスエステルが多いと予想される油脂の場合には、脱色工程と脱臭工程の間に、脱ロウ工程を設けることがある。
本発明のワックスエステル量が一定量以下に調整された油脂を製造する方法においては、いったん、油脂中のワックスエステル量を前記<油脂中のワックスエステルの定量方法>に従って定量し、その定量結果に基づいて、脱ロウ工程の条件を決めることができる。例えば、定量結果、原油中または脱ロウ工程前後の油脂中に通常よりも多くのワックスエステルが含まれている場合は、より厳しい冷蔵条件(例えば、より低温及び/又はより長時間処理)でワックスエステルの除去が必要であると判断することができる。
したがって、前記<油脂中のワックスエステルの定量方法>に記載の方法に従い、ワックスエステルの量を定量する工程を含み、脱ロウ工程の冷蔵条件を、定量されたワックスエステル量に基づいて決定する、ワックスエステル量が一定量以下に調整された油脂を製造する方法も本発明の範囲に含まれる。
例えば、<油脂中のワックスエステルの定量方法>を用いて測定した、原油中のワックスエステル量が多い場合は、新しい油脂に適用する脱ロウ工程の冷蔵条件をさらに厳しく(例えば、より低温及び/又はより長時間処理)することによって、析出するワックスエステル量を増加させ、油脂中からより多くのワックスエステルを取り除くことができる。他方、前記油脂中のワックスエステル量が少ない(あるいは存在しない)場合は、コスト抑制の観点から、例えば、脱ロウ工程の冷蔵温度を上げる可能性も検討できる。このように、油脂中に含まれるワックスエステルの量を正確に把握することで、脱ロウ工程における冷蔵温度等の条件を適正に調整し、より品質の高い油脂を製造することができるようになる。
<ワックスエステル量が一定量以下に調整された油脂を製造する方法>
上記のように、脱ロウ工程における冷蔵条件を調整すれば、ワックスエステル量が一定量以下に調整された油脂を継続的に製造することも可能になる。また、複数の油脂をブレンドする場合、予めワックスエステルの量を定量しておけば、油脂中のワックスエステル量が多いロットと少ないロットとを組み合わせて、一定のワックスエステル量以下に抑えることも可能である。同様に、ワックスエステル量が異なる油脂の製品タンクを複数有している場合、予めワックスエステルの量を定量しておけば、ブレンド油のワックスエステル量を予測することができ、ブレンド油製品に含まれるワックスエステル量を一定量以下に抑えることができる。したがって、上記<油脂中のワックスエステルの定量方法>を用いて、ワックスエステル量が一定量以下に調整された油脂を製造する方法も本発明の範囲に含まれる。例えば、本発明により、これまで測定することができなかった、炭素数40~60のワックスエステルの量が一定量以下に正確に調整された油脂を提供することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1~3]:ワックスエステルの定量方法
試料1~3(実施例1~3)とワックスエステル析出用の溶剤(アセトンを15質量%含有するn-ヘキサン)とを1:1.3の割合で混合し、ビンの中に入れた。次に、この混合試料を冷蔵庫(-20℃)に入れて、16時間以上保管した。そして、同混合試料を冷蔵庫から取り出し、PTFEメンブレンフィルターで吸引ろ過した。また、冷ヘキサンでビンの内部やファンネルの内部を洗浄し、これも併せて吸引ろ過し、ワックスエステルを集めた。なお、常温(25℃)でろ過を行ったため、前記ろ過作業は2~3分以内に完了するようにした。次に、前記ワックスエステルが付着しているPTFEメンブレンフィルターをヘキサンに入れて超音波処理し、ヘキサン溶液を得た。次に、フィルターを取り出して、ヘキサン溶液をエバポレーターで蒸留して、ワックスエステルを濃縮した。前記ワックスエステル濃縮物を試験管に移し、窒素を吹き付け、ヘキサンを完全に除去した。これに、1質量%ナトリウムメチラート溶液を2ml添加し、40℃で30分間加熱し、トリグリセリドをメチルエステル化した。次いで、これにクロロホルム1ml、蒸留水4ml加えて、上下層に分けて、下層部分をバイアルに移して、ガスクロマトグラフ(Agilent社製)に供した。標準物質にドコサン酸ドコシルを用いて、外部標準法でワックスエステルの量を定量した。なお、上記ガスクロマトグラフに用いたカラムは、Rtx(登録商標)-65TG(φ0.25×0.1μm×15m)であり、昇温条件は320℃~355℃(3℃/min)である。
上記試料1(実施例1)としては、脱色工程を経たハイオレイックナタネ油、又は脱色工程及び脱ロウ工程を経たハイオレイックナタネ油(いずれも日清オイリオグループ株式会社製)を用いた(実施例1)。なお、図中では、「HOLLキャノーラ」と表示する。
上記試料2(実施例2)としては、脱色工程を経たコーン油、又は脱色工程および/脱ロウ工程を経たコーン油(いずれも日清オイリオグループ株式会社製)を用いた(実施例2)。なお、図中では、「コーン」と表示する。
上記試料3(実施例3)としては、脱色工程を経たハイオレイックサフラワー油、又は脱色工程及び脱ロウ工程を経たハイオレイックサフラワー油(いずれも日清オイリオグループ株式会社製)を用いた(実施例3)。なお、図中では、「ハイオレサフ」と表示する。
以上、実施例1~3のワックスエステルの定量方法を実施した結果を、図1~5に示した。図中、「CN」は炭素数を示し、「pA」はピコアンペアを示す。また、含量の単位は、「μg/g」である。
図1から明らかであるように、ワックスエステル(図中、単にワックスともいう)に由来するピークとトリグリセリド(TAG)に由来するピークが分離できているので、炭素数の大きいワックスエステルの量を、これまでよりも正確に定量できるようになった。
また、図2~4から明らかであるように、実施例1~3のワックスエステルの定量方法によって、炭素数40~60までのワックスエステルが正確に定量できた。従来は、炭素数48までしか定量できなかったので、炭素数60まで定量できるようになったことによって、より幅広く、ワックスエステルの種類と量を正確に定量できるようになった。
詳細には、実施例1のハイオレイックナタネ油では、通常用いている脱ロウ工程の条件では、一部のワックスエステルが十分に析出せず、脱ロウ工程後の脱ロウ油においても、10分の1程度、ワックスエステルが残留していることがわかった。他方、実施例2のコーン油、実施例3のハイオレイックサフラワー油では、ぞれぞれの脱ロウ工程の条件で、十分にワックスエステルが析出されており、脱ロウ工程後の脱ロウ油において、ワックスエステルが全く残留していないことがわかった。このように、ワックスエステルの量が正確に測定できるようになったので、脱ロウ工程におけるワックスエステルの析出条件(例:冷蔵条件)を正確に決定することができるようになった。
さらに、図5から明らかであるように、実施例1~3の油脂にどのような種類のワックスエステルがどのくらい多く含まれているのかも正確に把握することができるようになった(図中「CN」は炭素数を示す)。例えば、実施例1のハイオレイックナタネ油では、炭素数46付近のワックスエステルが多く含まれていることがわかった。また、実施例2のコーン油では、炭素数56付近のワックスエステルが多く含まれていることがわかった。実施例3のハイオレイックサフラワー油では、炭素数48付近のワックスエステルが多く含まれていることがわかった。特に、従来の定量方法では、炭素数48以上のワックスエステルは正確に測定することができなかったので、実施例2のコーン油において、図5に示したような、炭素数56付近にピークがあることは本発明によって初めて明らかにされたことである。このように、ワックスエステルの量が正確に測定できるようになったので、ワックスエステルの量が一定量以下に調整された油脂を製造することができるようになった。

Claims (1)

  1. 炭素数40~60のワックスエステルの量が一定量以下に調整された、油脂。
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